説明

ケミカルヒートポンプ

【課題】蓄熱材として複数の化合物を混合しなくても内燃機関や燃料電池の冷却水のように100℃付近の比較的低温の熱源の熱を蓄熱することができるケミカルヒートポンプを提供する。
【解決手段】ケミカルヒートポンプは、水酸化リチウム1水和物が充填され、水酸化リチウム1水和物を水酸化リチウム及び水蒸気に分解する脱水和吸熱反応と、脱水和吸熱反応により発生した水酸化リチウムの水和発熱反応とが行われる反応容器11と、反応容器11における脱水和吸熱反応で発生した水蒸気及び液体の水を貯蔵する貯蔵タンク13とを備えている。また、ケミカルヒートポンプは、反応容器11及び貯蔵タンク13を連通させる配管12,Aに設けられた電磁開閉弁14,Vと、反応容器11における脱水和吸熱反応を進行させるために反応容器11に熱を供給する加熱用熱交換器16とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルヒートポンプに係り、詳しくは100℃付近の排熱を利用して蓄熱が可能なケミカルヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の使用削減(二酸化炭素排出規制)が求められており、各プロセスの省エネルギー化に加え、排熱の利用を進める必要がある。例えば、自動車ガソリンエンジンの場合、燃料がもつエネルギーのうち走行に利用されるのは約20%で、残る約80%は最終的に大気中へ放出されている。このような排熱を貯蔵(蓄熱)し、必要に応じて利用できる技術があれば、エネルギー回収、エネルギー再利用の点で非常に有効である。
【0003】
従来、排熱利用の手段としては、水を利用した100℃以下の温水蓄熱が知られている。しかし、温水蓄熱に比べてより効率の高い蓄熱技術として化学蓄熱法が挙げられる。化学蓄熱法は、物質の吸着、水和等の化学変化を伴うため、材料自体(水、溶融塩等)の潜熱や顕熱による蓄熱法に比べて単位質量当たりの蓄熱量が大きくなる。環境への負荷や装置の簡便性を考慮すると、水蒸気収脱着法が最も有利であり、水蒸気収脱着法に用いられる化学蓄熱材として、酸化マグネシウムが知られている。
【0004】
しかし、酸化マグネシウムは、100〜300℃の比較的低温域では単独で実用的な蓄熱材として用いることができない。この問題を解消するため、マグネシウム又はカルシウムの酸化物に少なくとも1種の吸湿性金属塩を添加してなる組成物による水和発熱反応と、該酸化物に対応する水酸化物の脱水吸熱反応とを組み合わせたことを特徴とするケミカルヒートポンプが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−186119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案されたケミカルヒートポンプでは、蓄熱材として使用されている水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムの脱水吸熱反応は300℃以下でも進行するが、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムに少なくとも1種の吸湿性金属塩を添加する必要がある。また、脱水吸熱反応はいずれも200℃より高い。
【0007】
本発明は、前記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、蓄熱材として複数の化合物を混合しなくても内燃機関や燃料電池の冷却水のように100℃付近の比較的低温の熱源の熱を蓄熱することができるケミカルヒートポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応と、水酸化リチウムの水和発熱反応とを利用したケミカルヒートポンプである。ここで、「水酸化リチウム1水和物(LiOH・HO)の脱水和反応」とは水酸化リチウム1水和物から水和水が離脱して水酸化リチウム(LiOH)と水(HO)になる反応を意味する。
【0009】
この発明では、水酸化リチウム1水和物(LiOH・HO)が水酸化リチウムと水(水蒸気)とに脱水和される脱水和吸熱反応の熱を蓄熱し、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応で発生した水酸化リチウムと水(水蒸気)との水和反応により発生するエネルギーを利用することができる。水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応は100℃付近の比較的低温でも進行する。したがって、蓄熱材として複数の化合物を混合しなくても内燃機関や燃料電池の冷却水のように100℃付近の比較的低温の熱源の熱を蓄熱することができるケミカルヒートポンプを提供することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、水酸化リチウム1水和物が充填され、前記水酸化リチウム1水和物を水酸化リチウム及び水蒸気に分解する脱水和吸熱反応と、前記脱水和吸熱反応により発生した水酸化リチウムの水和発熱反応とが行われる反応容器と、前記反応容器における前記脱水和吸熱反応で発生した水蒸気及び液体の水を貯蔵する貯蔵タンクと、前記反応容器及び前記貯蔵タンクを連通させる配管と、前記配管に設けられたバルブと、前記反応容器における前記脱水和吸熱反応を進行させるために前記反応容器に熱を供給する熱供給手段とを備えている。
【0011】
この発明では、水酸化リチウム1水和物が充填された反応容器と、水蒸気及び液体の水を貯蔵する貯蔵タンクとがバルブが設けられた配管で連通されているため、バルブが開放された状態で熱供給手段により反応容器に熱が供給されると、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応が進行する。そして、脱水和吸熱反応で発生した水蒸気が貯蔵タンク内に水蒸気及び液体の水として貯蔵されることにより、熱供給手段により供給された熱が効率良く蓄熱される。水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応は100℃付近の比較的低温でも進行し、したがって、蓄熱材として複数の化合物を混合しなくても内燃機関や燃料電池の冷却水のように100℃付近の比較的低温の熱源の熱を蓄熱し、必要に応じて利用することができるケミカルヒートポンプを提供することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は請求項2に記載の発明において、前記反応容器で前記脱水和吸熱反応を行うときは、前記バルブを開状態にするとともに前記熱供給手段を前記反応容器の加熱状態に制御し、前記脱水和吸熱反応を停止するときは、前記バルブを閉状態にするとともに前記熱供給手段による前記反応容器の加熱を停止する状態に制御し、前記反応容器で前記水和発熱反応を行うときは、前記貯蔵タンクから液体の水又は水蒸気を前記反応容器に移送するとともに前記熱供給手段による前記反応容器の加熱を停止する状態に制御する制御手段を備えている。
【0013】
この発明では、水酸化リチウム1水和物が充填された反応容器と、水蒸気及び液体の水を貯蔵する貯蔵タンクとを連通する配管に設けられたバルブの開閉制御や反応容器に熱を供給する熱供給手段とが制御手段により制御されるため、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応の進行、停止を効率良く行うことができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は請求項2又は請求項3に記載の発明において、前記熱供給手段は熱源として車両の排熱を利用し、前記反応容器で前記水和発熱反応を行うときに前記水和発熱反応で発生する熱を車両の熱要求部に移送する熱移送手段及び前記貯蔵タンクの水の蒸発潜熱により車両の冷却要求部を冷却する冷却手段の少なくとも一方を備えている。
【0015】
この発明では、ケミカルヒートポンプは車両に利用される。車両には車内の冷暖房、暖機等の温度調整を必要とする箇所がある。車両の排熱を熱源に利用して蓄熱されたエネルギーは、水酸化リチウムの水和発熱反応を行う際に発生する熱が、車両の熱要求部に熱移送手段により移送されて暖房や暖機に利用される。また、貯蔵タンクの水の蒸発潜熱によって発生する冷熱を利用して車両の冷却要求部が冷却手段により冷却されて冷房に利用される。
【0016】
請求項5に記載の発明は請求項4に載の発明において、前記車両は走行用駆動源として内燃機関を備え、前記熱源に前記内燃機関の排熱を使用する。ここで、「内燃機関の排熱」とは、内燃機関の排気熱や冷却水の廃熱を意味する。この発明では、内燃機関の排熱が有効に利用される。
【0017】
請求項6に記載の発明は請求項4に載の発明において、前記車両は走行用駆動源として燃料電池を電源とした走行用モータを備え、前記熱源に前記燃料電池の冷却水を使用する。この発明では、燃料電池の冷却水の廃熱が水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応に利用されるため、燃料電池を冷却して加熱された冷却水を冷却するラジエータで使用されるエネルギーの使用量を低下させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、蓄熱材として複数の化合物を混合しなくても内燃機関や燃料電池の冷却水のように100℃付近の比較的低温の熱源の熱を蓄熱することができるケミカルヒートポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の実施形態の車両用空調システムの概略図。
【図2】第2の実施形態の車両用空調システムの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のケミカルヒートポンプを、内燃機関を走行用駆動源とした車両の空調システムに適用した一実施形態を図1にしたがって説明する。
図1に示すように、車両用空調システムは、反応容器11と、反応容器11と配管12で連通された貯蔵タンク13とを備えている。配管12の途中にはバルブとしての電磁開閉弁14が設けられている。反応容器11には水酸化リチウム1水和物(LiOH・HO)が充填されており、車両の走行用駆動源で発生する熱を利用して水酸化リチウム1水和物を水酸化リチウム及び水蒸気に分解する脱水和吸熱反応、あるいは、脱水和吸熱反応により発生した水酸化リチウムと液体の水との水和発熱反応が行われる。
【0021】
貯蔵タンク13には、反応容器11における脱水和吸熱反応で発生し、配管12を介して貯蔵タンク13に導かれた水蒸気が液体の水の状態で貯蔵される。
反応容器11には、走行用駆動源としての内燃機関(エンジン)15で発生する熱を反応容器11に供給する熱供給手段としての加熱用熱交換器16が設けられている。加熱用熱交換器16は、内燃機関15の冷却水を循環させる循環路17に、電磁三方切換弁18,19を介して接続された分岐配管20を介して接続されている。循環路17には冷却水を循環させる電動ポンプ21及びラジエータ22が設けられており、モータ23で駆動されるファン23aにより外気がラジエータ22に送風されて冷却水が外気により冷却される。電磁三方切換弁18,19は、循環路17においてラジエータ22より内燃機関15の出口に近い位置に設けられている。
【0022】
反応容器11には反応容器11で水和発熱反応を行うときにその水和発熱反応で発生する熱を利用するための、熱交換器24が設けられている。熱交換器24は反応容器11で発生した熱を車両の熱要求部25に移送する移送手段を構成する配管26に接続されている。熱要求部25は空調装置27の空気−熱媒熱交換部(暖房部)を構成する。配管26の途中には熱媒体を循環させる電動ポンプ28が設けられている。
【0023】
貯蔵タンク13には、貯蔵タンク13に貯蔵された液状の水を反応容器11に移送する配管Aが接続され、配管Aの途中には液体の水を反応容器11に移送するための電動ポンプP及び電磁開閉弁Vが設けられている。
【0024】
反応容器11における水酸化リチウム1水和物を水酸化リチウム及び水蒸気に分解する脱水和吸熱反応と、脱水和吸熱反応により発生した水酸化リチウムの水和発熱反応とを制御する制御手段としての制御装置34は、電磁開閉弁14,V及び電磁三方切換弁18,19を制御する。また、制御装置34は、電動ポンプ21,28,P及びモータ23,33の制御も行う。制御装置34には、ラジエータ22を通過した冷却水の温度を検出する温度センサ35の検出信号が入力されるようになっている。
【0025】
制御装置34は、反応容器11で脱水和吸熱反応を行うときは、電磁開閉弁14を開状態にするとともに、電磁三方切換弁18,19を、内燃機関15を冷却した冷却水が加熱用熱交換器16を通過する反応容器11の加熱状態に制御する。制御装置34は、脱水和吸熱反応を停止するときは、電磁開閉弁14を閉状態にするとともに、電磁三方切換弁18,19を、内燃機関15を冷却した冷却水が加熱用熱交換器16を通過せず、加熱用熱交換器16による反応容器11の加熱を停止する状態に制御する。制御装置34は、反応容器11で水和発熱反応を行うときは、電磁開閉弁14を閉状態にするとともに、電磁三方切換弁18,19を、内燃機関15を冷却した冷却水が加熱用熱交換器16を通過せず、加熱用熱交換器16による反応容器11の加熱を停止する状態に制御する。さらに、電磁開閉弁Vを開状態にし、電動ポンプPにより貯蔵タンク13に貯蔵された液体の水を反応容器11に移送する。
【0026】
即ち、この車両用空調システムでは、水酸化リチウム1水和物が充填された反応容器11と、水蒸気及び液体の水を貯蔵する貯蔵タンク13と、反応容器11及び貯蔵タンク13を連通させる配管12,Aと、配管12,Aに設けられた電磁開閉弁14,Vと、反応容器11に熱を供給する加熱用熱交換器16によりケミカルヒートポンプが構成されている。ケミカルヒートポンプは、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応と、水酸化リチウムの水和発熱反応とを利用している。
【0027】
次に前記のように構成された車両用空調システムの作用を説明する。
ケミカルヒートポンプに利用されている水酸化リチウム1水和物の脱水和反応と水酸化リチウムの水和反応は、次の反応式で示される。
【0028】
LiOH・HO(s)=LiOH(s)+HO(g)+1370kJ/kg
なお、反応熱の1370kJ/kg(=57540J/モル)は実験により求めた値である。
【0029】
ケミカルヒートポンプは、固体である水酸化リチウム1水和物及び水酸化リチウムと液体である水との2相系で起こる可逆反応を利用している。そして、水酸化リチウム1水和物の脱水和反応は吸熱反応であり、水酸化リチウムの水和反応は発熱反応である。したがって、ケミカルヒートポンプは、水酸化リチウム1水和物の脱水和反応によって熱エネルギーを貯蔵(蓄熱)することができ、貯蔵された熱エネルギーを水酸化リチウムの水和反応によって放出、供給することができる。水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応は、内燃機関15を冷却後の冷却水の温度である100℃付近でも効率良く進むため、従来のケミカルヒートポンプでは利用が難しかった冷却水の熱エネルギーを有効に利用することができる。
【0030】
詳述すると、蓄熱モードでは、電動ポンプ21及びモータ23が駆動される。また、電磁開閉弁14が開放されるとともに、電磁三方切換弁18,19は内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過する状態に切り換えられる。この状態では、加熱用熱交換器16により反応容器11に熱が供給され、反応容器11に充填されている水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応が進み、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応で発生した水蒸気が配管12を通って貯蔵タンク13へ移動し、貯蔵タンク13内で凝縮液化する。即ち、加熱用熱交換器16を介して反応容器11に供給された内燃機関15の排熱が蓄熱される。蓄熱モードを終了する場合は、電磁開閉弁14が閉じられ、電磁三方切換弁18,19は内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過しない状態に切り換えられる。
【0031】
蓄熱された熱エネルギーを暖房に利用する熱出力モードでは、電磁三方切換弁18,19は内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過しない状態に保持され、電磁開閉弁14が閉鎖される。電磁開閉弁Vを開くとともに電動ポンプPを駆動することにより、貯蔵タンク13内の水が配管Aを通って反応容器11内へ移動し、反応容器11内で水酸化リチウムの水和発熱反応が進む。
【0032】
この実施形態では、空調装置27を暖房用に使用する場合は、制御装置34により電磁三方切換弁18,19は内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過しない状態に保持される。また、反応容器11の熱交換器24に熱媒体を循環させる電動ポンプ28が駆動され、反応容器11で発生した熱により熱交換器24で加熱された熱媒体が空調装置27の熱要求部25に供給される。そして、ファン33aにより送風される空気が熱要求部25で温められて、車室内に供給される。
【0033】
内燃機関15は所定温度以上で運転を行うことが好ましいため、始動後、内燃機関15が所定温度以上になるまでは、ラジエータ22による冷却水の冷却を行わずに暖機運転が行われる。制御装置34は温度センサ35の検出信号により、冷却水の温度が予め設定された所定温度以上になるまで、ファン23aを駆動せずに電動ポンプ21を駆動した状態で暖機運転を行う。このとき、電磁三方切換弁18,19を内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過する状態に保持して、蓄熱された熱エネルギーを利用する熱出力モードを実行し、反応容器11で発生した熱を内燃機関15の冷却水の加熱に使用すれば、暖機運転を短時間で終了することができる。
【0034】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)ケミカルヒートポンプは、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応と、水酸化リチウムの水和発熱反応とを利用したケミカルヒートポンプである。そして、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応は100℃付近の比較的低温でも進行する。したがって、蓄熱材として複数の化合物を混合しなくても内燃機関や燃料電池の冷却水のように100℃付近の比較的低温の熱源の熱を蓄熱することができるケミカルヒートポンプを提供することができる。
【0035】
(2)ケミカルヒートポンプは、水酸化リチウム1水和物が充填され、水酸化リチウム1水和物を水酸化リチウム及び水蒸気に分解する脱水和吸熱反応と、脱水和吸熱反応により発生した水酸化リチウムの水和発熱反応とが行われる反応容器11と、反応容器11における脱水和吸熱反応で発生した水蒸気及び液体の水を貯蔵する貯蔵タンク13とを備えている。また、ケミカルヒートポンプは、反応容器11及び貯蔵タンク13を連通させる配管12,Aと、配管12,Aに設けられたバルブ(電磁開閉弁14,V)と、反応容器11における脱水和吸熱反応を進行させるために反応容器11に熱を供給する熱供給手段(加熱用熱交換器16)とを備えている。そして、脱水和吸熱反応で発生した水蒸気が貯蔵タンク13内に水蒸気及び液体の水として貯蔵されることにより、熱供給手段により供給された熱が効率良く蓄熱される。したがって、蓄熱材として複数の化合物を混合しなくても内燃機関15の冷却水のように100℃付近の比較的低温の熱源の熱を蓄熱し、必要に応じて利用することができるケミカルヒートポンプを提供することができる。
【0036】
(3)ケミカルヒートポンプは制御装置34を備えており、制御装置34は、反応容器11で脱水和吸熱反応を行うときは、電磁開閉弁14を開状態にするとともに熱供給手段(加熱用熱交換器16)を反応容器11の加熱状態に制御する。制御装置34は、脱水和吸熱反応を停止するときは、電磁開閉弁14を閉状態にするとともに熱供給手段(加熱用熱交換器16)による反応容器11の加熱を停止する状態に制御し、反応容器11で水和発熱反応を行うときは、電磁開閉弁14を閉状態にするとともに熱供給手段による反応容器11の加熱を停止する状態に制御する。さらに、電磁開閉弁Vを開くとともに電動ポンプPを駆動して、貯蔵タンク13内の水を反応容器11内へ移送する。したがって、水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応の進行、停止を手動操作で行う場合に比べて効率良く行うことができる。
【0037】
(4)車両は走行用駆動源として内燃機関15を備え、熱源に内燃機関15の排熱である内燃機関15の冷却水の廃熱を使用するため、内燃機関の排熱が有効に利用される。
(5)熱供給手段(加熱用熱交換器16)は、内燃機関15の冷却水を循環させる循環路17に、電磁三方切換弁18,19を介して接続された分岐配管20を介して接続されている。循環路17には冷却水を循環させる電動ポンプ21及びラジエータ22が設けられており、モータ23で駆動されるファン23aにより外気がラジエータ22に送風されて冷却水が外気により冷却される。電磁三方切換弁18,19は、循環路17においてラジエータ22より内燃機関15の出口に近い位置に設けられている。したがって、蓄熱モードでは、内燃機関15の冷却により加熱された冷却水の熱が加熱用熱交換器16を介して反応容器11で奪われるため、状況によりラジエータ22用のモータ23の駆動を停止して、エネルギー消費を抑制することが可能になる。
【0038】
(6)暖機運転時に内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過する状態に保持して、蓄熱された熱エネルギーを利用する熱出力モードを実行し、反応容器11で発生した熱を内燃機関15の冷却水の加熱に使用すれば、暖機運転を短時間で終了することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
次に、内燃機関を走行用駆動源とした車両の空調システムに適用した別の実施形態を図2にしたがって説明する。なお、第1の実施形態と同一部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0040】
図2に示すように、貯蔵タンク13には、貯蔵タンク13に貯蔵された液状の水が蒸発する際の蒸発潜熱を冷却用に利用するための熱交換器29が設けられている。熱交換器29は車両の冷却要求部30に冷却媒体を移送する移送手段を構成する配管31に接続されている。冷却要求部30は空調装置27の空気−冷却媒体熱交換部(冷房部)を構成する。配管31の途中には冷却媒体を循環させる電動ポンプ32が設けられている。
【0041】
空調装置27は、モータ33で駆動されるファン33aにより送風される空気を熱要求部25又は冷却要求部30で熱交換した後、図示しない吹出口及び空調ダクトを介して車室内に送風する。
【0042】
蓄熱された熱エネルギーを冷房に利用する熱出力モードでは、電磁三方切換弁18,19は内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過しない状態に保持され、電磁開閉弁14が開放される。蓄熱モード終了後には、反応容器11内の圧力が貯蔵タンク13内の圧力より低くなっているため、貯蔵タンク13内の水蒸気が配管12を通って反応容器11内へ移動し、反応容器11内で水酸化リチウムの水和発熱反応が進む。また、貯蔵タンク13内の水が蒸発するため、蒸発潜熱により貯蔵タンク13内の温度が低下、即ち冷熱が発生する。そのため、反応容器11内で発生する熱は車両の熱要求部25で利用され、貯蔵タンク13で発生する冷熱は車両の冷却要求部30で利用される。
【0043】
空調装置27を冷房用に使用する場合は、制御装置34により電磁三方切換弁18,19は内燃機関15の冷却水が加熱用熱交換器16を通過しない状態に保持される。また、貯蔵タンク13の熱交換器29に冷却媒体を循環させる電動ポンプ32が駆動され、貯蔵タンク13で発生した冷熱により熱交換器29で冷却された冷却媒体が空調装置27の冷却要求部30に供給される。そして、ファン33aにより送風される空気が冷却要求部30で冷却されて、車室内に供給される。
【0044】
この第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(1)〜(6)と同様な効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(7)熱供給手段(加熱用熱交換器16)は熱源として車両の排熱を利用し、反応容器11で水和発熱反応を行うときに水和発熱反応で発生する熱を車両の熱要求部25に移送する熱移送手段及び貯蔵タンク13の水の蒸発潜熱により車両の冷却要求部30を冷却する冷却手段を備えている。したがって、車内の冷暖房、暖機装置等の温度調整を必要とする箇所を有する車両において、車両の排熱を熱源に利用して蓄熱されたエネルギーは、水酸化リチウムの水和発熱反応を行う際に発生する熱が、車両の熱要求部25に熱移送手段により移送されて暖房や暖機運転に利用される。また、貯蔵タンク13の水の蒸発潜熱によって発生する冷熱を利用して車両の冷却要求部30が冷却手段により冷却されて冷房に利用される。また、蓄熱反応の熱量が大きいため、蓄熱に必要な熱量が同じ場合、必要な蓄熱材の使用量を少なくでき、装置の小型化を図ることができ、ケミカルヒートポンプを車両に搭載する場合に搭載スペースの確保が容易となり、搭載位置の自由度が高くなる。
【0045】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ ケミカルヒートポンプを、走行用駆動源として内燃機関(エンジン)の他にバッテリで駆動される走行用電動モータを備えたハイブリッド車両に適用してもよい。この場合、ケミカルヒートポンプの熱源として内燃機関の冷却水の他に、バッテリ及びインバータ冷却用の冷却水も使用することができる。
【0046】
○ ケミカルヒートポンプを、走行用駆動源として燃料電池を電源とした走行用モータを備えた車両に適用しても良い。この場合、燃料電池の冷却水の廃熱が水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応に利用されるため、蓄熱モードでは、燃料電池を冷却して加熱された冷却水を冷却するラジエータ用のモータの駆動を停止して、エネルギー消費を抑制することが可能になる。さらに、燃料電池の暖機運転時に燃料電池の冷却水が加熱用熱交換器を通過する状態に保持して、蓄熱された熱エネルギーを利用する熱出力モードを実行し、反応容器で発生した熱を燃料電池の冷却水の加熱に使用すれば、暖機運転を短時間で終了することができる。
【0047】
○ 第1の実施形態では、貯蔵タンク13に貯蔵された液体の水を移送するのに電動ポンプPを用いたが、貯蔵タンク13を反応容器11より高い位置に配置し、貯蔵タンク13から反応容器11へ水を自重により移送するようにしてもよい。
【0048】
○ 内燃機関を搭載した車両の場合、ケミカルヒートポンプの熱源として内燃機関の排気(排ガス)を利用してもよい。その場合、内燃機関の排気のみを熱源としても、内燃機関の排気及び内燃機関の冷却水の両方を熱源としてもよい。内燃機関の排気の温度は運転状態により変化し、水酸化リチウム1水和物の融点462℃以上の高温になる場合や水酸化リチウム1水和物の脱水和反応で発生した水酸化リチウムが脱水分解する温度に達する場合もある。そのため、排気を熱源に使用する場合は、少なくとも水酸化リチウムが脱水分解する温度に達しない状態で使用する必要があり、できれば水酸化リチウム1水和物の融点462℃より低い温度で使用するのが好ましい。内燃機関の排気及び内燃機関の冷却水の両方をケミカルヒートポンプの熱源とした場合は、エネルギーの利用効率がより向上する。
【0049】
○ ケミカルヒートポンプを、走行用駆動源としてバッテリで駆動される走行用電動モータを備えた電気自動車に適用してもよい。その場合、熱源としてはバッテリ及びインバータ冷却用の冷却水が使用される。この場合、内燃機関の排気や内燃機関の冷却水あるいは燃料電池の冷却水を熱源とした場合に比べて、ケミカルヒートポンプに蓄熱されるエネルギーの量が少ないため、蓄熱されたエネルギーのみで車両の空調を賄うことは難しい。また、バッテリとして化学反応による放電を行なう二次電池を使用した場合、冬季等の低温環境下においては、バッテリの化学反応特性の低下により、バッテリの放電性能が低下する。そのため、特に起動時にバッテリを暖める必要がある。バッテリが放電を開始すると放電に伴う熱によりバッテリが暖められるため、起動時にバッテリを暖めるために必要な熱量は空調を長時間行う場合に比べて少ない。そのため、蓄熱されたエネルギーは主として走行用電動モータの始動時におけるバッテリの温度調整(加熱)に使用し、空調に使用する場合は補助として使用するのが好ましい。
【0050】
○ 空調装置27は冷房及び暖房が可能な構成に限らず、冷房及び暖房の少なくとも一方を行う構成であってもよい。
○ 内燃機関の排気や内燃機関の冷却水あるいは燃料電池の冷却水をケミカルヒートポンプの熱源とした場合においても、蓄熱されたエネルギーを空調に使用する場合は、従来構成の空調装置の補助として使用するようにしてもよい。
【0051】
○ ケミカルヒートポンプは、車両の排熱を利用するために限らず、例えば、船舶やディーゼルカーあるいは工場排熱の利用に適用してもよい。
○ ケミカルヒートポンプを燃料電池を用いた家庭用コジェネシステム(コージェネレーションシステム)に摘要してもよい。燃料電池を用いた家庭用コジェネシステムでは、燃料電池の冷却水を貯湯タンクに貯蔵して浴室や台所で湯として使用する。その場合、コジェネシステムを運転する一方で、貯湯タンクの湯が使われないと、貯湯タンク内の水が全て高温水に置き換わり、冷却水として機能しなくなり、システムを停止する必要がある。また、燃料電池の冷却水からの回収可能熱量は、貯湯可能熱量で規制されるため、回収熱量を多くするには貯湯タンクが大型化する。しかし、ケミカルヒートポンプで蓄熱して、蓄熱された熱エネルギーを必要に応じて利用するようにすれば、蓄熱に必要な装置の小型化を図ることができる。貯湯タンク及びケミカルヒートポンプの両方を使用する構成としてもよい。
【0052】
○ 車両以外の排熱をケミカルヒートポンプの熱源に使用する場合、例えば、工場排熱や燃料電池を用いた家庭用のコジェネシステムで燃料電池の冷却水を熱源に使用する場合、バルブとして電磁開閉弁14に代えて手動操作の開閉弁を設けてもよい。
【0053】
○ ケミカルヒートポンプは、反応容器11と貯蔵タンク13とを連結する配管12にバルブを設けなくてもよい。例えば、蓄熱材に予め設定された量の熱が蓄熱されると、その熱エネルギーをすぐに利用するシステムの場合、蓄熱材に所定量の熱が蓄熱されると、熱供給手段(加熱用熱交換器16)による加熱を停止する。そして、反応容器11で水和発熱反応が進行する状態にして、水和発熱反応で発生する熱を熱要求部で使用するか、貯蔵タンク13の水の蒸発潜熱を利用して冷却要求部を冷却するようにしてもよい。
【0054】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の発明において、前記熱要求部は、空調装置の暖房部又は暖機装置である。
【0055】
(2)請求項4〜請求項6及び前記技術的思想(1)のいずれか1項に記載の発明において、前記冷却要求部は、空調装置の冷房部である。
【符号の説明】
【0056】
11…反応容器、12,A…配管、13…貯蔵タンク、14,V…バルブとしての電磁開閉弁、15…内燃機関、16…熱供給手段としての加熱用熱交換器、25…熱要求部、30…冷却要求部、34…制御手段としての制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化リチウム1水和物の脱水和吸熱反応と、水酸化リチウムの水和発熱反応とを利用したケミカルヒートポンプ。
【請求項2】
水酸化リチウム1水和物が充填され、前記水酸化リチウム1水和物を水酸化リチウム及び水蒸気に分解する脱水和吸熱反応と、前記脱水和吸熱反応により発生した水酸化リチウムの水和発熱反応とが行われる反応容器と、
前記反応容器における前記脱水和吸熱反応で発生した水蒸気及び液体の水を貯蔵する貯蔵タンクと、
前記反応容器及び前記貯蔵タンクを連通させる配管と、
前記配管に設けられたバルブと、
前記反応容器における前記脱水和吸熱反応を進行させるために前記反応容器に熱を供給する熱供給手段と
を備えているケミカルヒートポンプ。
【請求項3】
前記反応容器で前記脱水和吸熱反応を行うときは、前記バルブを開状態にするとともに前記熱供給手段を前記反応容器の加熱状態に制御し、前記脱水和吸熱反応を停止するときは、前記バルブを閉状態にするとともに前記熱供給手段による前記反応容器の加熱を停止する状態に制御し、前記反応容器で前記水和発熱反応を行うときは、前記貯蔵タンクから液体の水又は水蒸気を前記反応容器に移送するとともに前記熱供給手段による前記反応容器の加熱を停止する状態に制御する制御手段を備えている請求項2に記載のケミカルヒートポンプ。
【請求項4】
前記熱供給手段は熱源として車両の排熱を利用し、前記反応容器で前記水和発熱反応を行うときに前記水和発熱反応で発生する熱を車両の熱要求部に移送する熱移送手段及び前記貯蔵タンクの水の蒸発潜熱により車両の冷却要求部を冷却する冷却手段の少なくとも一方を備えている請求項2又は請求項3に記載のケミカルヒートポンプ。
【請求項5】
前記車両は走行用駆動源として内燃機関を備え、前記熱源に前記内燃機関の排熱を使用する請求項4に記載のケミカルヒートポンプ。
【請求項6】
前記車両は走行用駆動源として燃料電池を電源とした走行用モータを備え、前記熱源に前記燃料電池の冷却水を使用する請求項4に記載のケミカルヒートポンプ。

【図1】
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【図2】
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