説明

ケモカイン発現のEGFR依存調節ならびに腫瘍とその副作用の治療及び診断に与えるケモカイン発現調節の影響

本発明は、表皮成長因子(EGFR)を利用した腫瘍の、化学阻害剤又はモノクローナル抗体を用いた診断及び治療に関する。また、本発明は、EGF受容体を利用した腫瘍細胞の制癌剤による治療と併行及び付随しておきる皮膚の炎症、なかでも皮膚発疹に関する。また、本発明は、EGFR阻害剤、とりわけ抗EGFR抗体による治療を基礎とした患者において、腫瘍治療/腫瘍反応の効率を予測する方法に関するものである。さらに、本発明は、EGFRに関連した腫瘍治療における制癌剤の最適な投与量を決める方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、上皮成長因子(EGFR)を利用した腫瘍の化学抑制剤又はモノクローナル抗体による診断及び治療に関する。また、本発明は、EGF受容体を利用した腫瘍の制癌剤による治療に併行及び付随しておきる皮膚炎症、なかでも皮膚発疹に関するものである。さらに、本発明はEGFR阻害剤、特に抗EGFR抗体による治療を基本とした患者における腫瘍治療/腫瘍反応の効率の予測方法に関する。さらに、本発明は、EGFRに関連した腫瘍の治療における制癌剤の最適用量の決定方法に関する。また、本発明は、EGFR関連の癌のEGFR阻害剤による治療の効率と、該治療に併行した副作用症状としての皮膚発疹が発生する可能性との、初期段階モニター方法に関する。最後に、本発明は、診断マーカーとして、又は、腫瘍療法の新規な(noval)標的を同定するための手がかりとして、制癌剤による癌治療の期間中にアップレギュレーション又はダウンレギュレーションするケモカインの使用に関する。
EGFRはerbB1遺伝子によりコード化されているが、ヒトの悪性腫瘍の原因としてかかわってきた。とりわけ、乳癌、膀胱癌、肺癌、頭部癌、頸癌及び胃癌ならびに膠芽腫においてEGFRの発現の増加が観察されている。EGFR受容体の発現の増加は、EGFRリガンドである形質転換成長因子α(TGF-a)の産生の増加と関連することが多く、これは、同じ腫瘍細胞が自己分泌刺激経路によって受容体を活性化したことによる(Baselga and Mendelsohn, Pharmac. Ther. 64:127 (1994))。
【0002】
EGF受容体は分子量170,000の膜貫通型糖タンパクで、多くの種類の上皮細胞上に見られる。現段階で7種のEGFRリガンドが公知であり、このリガンドは受容体と結合すると腫瘍細胞をアポトーシスから守り、細胞増殖及び腫瘍細胞の侵襲性を活性化する。これらの成長因子は、EGFRファミリーの他の3種であり、異種二量体の形成においてEGFRと結合することができるHER2、HER3及びHER4とは結合しない(Riese and Stern,Bioassays 20: 41-48 (1998); Kochupurakkal J Biol. Chem. 280:8503-8512 (2005))。
HER受容体ネットワークは、自身のインプット信号だけでなく、ホルモン、リンフォカイン、神経伝達物質及びストレス誘導物質をはじめとする異種信号も取り込むことがある。
EGF受容体に抗する多数のマウスモノクローナル抗体やラットモノクローナル抗体が開発され、腫瘍細胞の増殖に対する抑制能についてin-vitro及びin-vivoテストが行われてきた(Modjtahedi and Dean, 1994, J. Oncology 4, 277)。
ヒト化モノクローナル抗体425(hMAb 425、米国特許第5,558,864号、欧州特許第0531472号)及びキメラモノクローナル抗体225(cMAb 225)は、いずれもEGF受容体に照準をあわせたもので、その有効性は臨床試験で実証されている。C225抗体(セツキシマブ)は、EGFを介した腫瘍細胞の増殖を抑制することがin-vitroの実験で実証され、ヌードマウスによるin-vivoの実験でヒト腫瘍の形成を抑えることが実証された。一般に、抗体ならびにすべての抗EGFR抗体は、特定の化学療法薬(即ち、ドキソルビシン、アドリアマイシン、タキソール及びシスプラチン)との相乗作用で働くことが多く、マウス異種移植モデルのin-vivo実験ではヒト腫瘍が根絶している(例えばEP0667165参照)。Ye等(1999, Oncogene 18, 731)は、キメラMAb 225と、HER2受容体に照準を合わせたヒト化MAb 4D5の両方を組み合わせることで、ヒト卵巣癌細胞を首尾よく治療できることを報告している。
【0003】
抗-ErbB抗体のほかに、ErbB受容体分子の有力な阻害剤であって、該受容体のATP結合サイトをほぼ遮断する阻害剤であることが知られている小さな化学分子が多数存在する。本発明では、「チロシンキナーゼ拮抗薬/阻害剤」という用語は、チロシンキナーゼ(受容体型チロシンキナーゼが含まれる)を阻害又は遮断することが可能となった天然又は合成の薬剤を指す。そのため、この用語には上記で定義されたErbB受容体拮抗薬/阻害剤自体が含まれる。前述及び後述の抗-ErbB受容体抗体を除いて、この定義に入るより好ましいチロシンキナーゼ拮抗薬は、例えば乳癌や前立腺癌の単剤治療において効力を発揮している化学化合物である。好適なインドロカルバゾール型チロシンキナーゼ阻害剤は、米国特許第5,516,771号、第5,654,427号、第5,461,146号、第5,650,407号等の文献に示される情報を用いて得ることができる。米国特許第5,475,110号、第5,591,855号、第5,594,009号及びWO96/11933には、ピロロカルバゾール型チロシンキナーゼ阻害剤及び前立腺癌が開示されている。この開示によると、最も早い段階での制癌剤はゲフィチニブ(Iressa(登録商標)、アストラゼネカ社)で、この制癌剤は非小細胞肺癌(NSCLC)ならびに進行頭頚部癌の患者において治療効果を有することが報告されている。
EGF受容体に関する「利用(utilization)」又は「利用する(utilize)」という用語には、2つの言外の意味がある。
(i)受容体が信号伝達に関与しているという事実を反映している。EGFRの発現は必要であるが、信号伝達が起きるための十分な前提条件ではない。利用できるリガンドの有用性や質が重要である。したがって、受容体の発現程度は、受容体の利用と直接的な相関関係がないことが多い。
(ii)腫瘍がEGFRの利用に極めて依存しているという事実を反映している。
【0004】
この受容体を標的とする多数の薬剤が使用中又は開発中であり、モノクローナル抗体(セツキシマブ等)や、チロシンキナーゼ阻害剤(エルロチニブ、ゲフィチニブ等)が挙げられる。EGFR阻害剤に共通の最も一般的な副作用は座瘡状の発疹で、通常、顔面及び胴上部に出る。皮膚発疹は患者の45〜100%に現れ、大多数の患者で急激に発症し、治療から約7〜10日経過後に発見され、最大2〜3週間まで続く(Robert等、Lancet Oncol. 491, 2005)。発疹の強さ及び治療反応及び/又は生存についての肯定的関連(positive association)が、いくつかの薬剤(セツキシマブ及びエルロチニブを含む)に関しては示され、発疹を抗腫瘍作用の潜在的な代理マーカーとしている(Perez-Soler and Saltz, J. Clin. Oncol., 23:5235, 2005)。
皮膚発疹の根底にある機序ははっきりしていない。成人の場合、表皮の基底層や毛嚢の外毛根鞘(outer root sheet)の未分化ケラチノサイトの増殖時にEGFRは主に発現する(Nanney等、J. Invest. Dermatol. 83:385, 1984)。EGFRの発現や活性の変化は、上皮の異常な成長と分化に関連している(Murillas R等、EMBO J 1995; Sibilia M等、Cell 2000; King LE等、J Invest Dermatol. 1990)。
ケラチノサイトは皮膚と粘膜とを含む層状の扁平上皮細胞で、口腔、食道、角膜、結膜及び生殖器上皮細胞が挙げられる。ケラチノサイトは宿主と周囲環境との間のバリアとなる。ケラチノサイトによって、毒性物質が周囲環境から進入することや、重要成分が宿主から逸することを防ぐ。ケラチノサイトは基底層から皮膚表面に移動しながら分化する。ケラチノサイトの通常のターンオーバーは約30日であるが、表皮のターンオーバーは乾癬等の皮膚疾患の場合ははやくなることがある。
【0005】
患者の皮膚生検を病理学的に分析したところ、EGFRを遮断することにより解質層が薄くなり、炎症細胞(好中球及びリンパ球をはじめとする)の真皮組織への浸潤、とりわけ毛嚢への浸潤が促されることがわかった(Robert等、Lancet Oncol. 6:491, 2005; Van Doorn 等、Br. J. Dermatol. 147:598, 2002)。さらに、EGFRに関連するシグナル形質導入経路が皮膚のなかで阻止された。これは、抗EGFR治療が表皮生理機能に直接影響していることを示唆している。例えば、ゲフィチニブという小さな化学化合物(Iressa(登録商標))は、表皮基底層における成長停止マーカー及び成熟マーカーのアップレギュレーションを生じさせる。そのため、ケラチノサイトの細胞サイクルの停止や成熟が原因となって皮膚発疹が起きる可能性が考えられる。なぜならば、ケラチノサイトの分化が変化したことで、患者に見られるように濾胞閉塞になることがあるからである(Albanell等、J. Clin. Oncol. 20:110, 2002)。あるいは、皮膚発疹の発現は、皮膚におけるケモカインの発現パターンの変更が直接的な結果となっている可能性も示唆されており、同様に、長期的に炎症をおこしている皮膚の場合、過度な炎症を防ごうとする負のフィードバックレギュレータとしてEGFRが生体内で機能していることが示唆される(Mascia F等、Am J Pathol. 2003)。
【0006】
ケモカインは、白血球活性及び/又は走化性作用が有効な糖タンパクに関連した構造のファミリーである。ケモカインは70〜90のアミノ酸を含み、分子量はおよそ8〜10kDaである。ほとんどのケモカインは4個のシステイン残基を有する2種のサブファミリーに属する。このサブファミリーは、2個のアミノ末端システイン残基が直接隣接しているか、又は、1個のアミノ酸により分離されているかで分類される。CXCケモカインとしても知られているケモカインは第1システイン残基と第2システイン残基との間に1個のアミノ酸が含まれる。あるいは、β又はCCケモカインはシステイン残基が隣り合う。ほとんどのCXCケモカインは好中球にとっての化学誘引物質である一方、CCケモカインは、通常、単球、リンパ球、好塩基球及び好酸球を誘引する。さらに2つの小さなサブグループがある。Cケモカインは構成メンバーが1個である(リンホタクチンlymphotactin)。これは、4種のシステイン配列において1個のシステインを欠失しているが、カルボキシル末端においてC−Cケモカインと相同性がある。Cケモカインはリンパ球に固有であるように思われる。第4のサブグループはC-X3-Cサブグループである。C-X3-Cケモカイン(fractalkine/neurotactin)は3つのアミノ酸残基を第1の2個のシステインの間に有する。これは長いムチン軸部を介して細胞膜に直接結合し、白血球の接着と遊走の両方を誘導する。
本発明は、EGFR関連の腫瘍を制癌剤で、好ましくはEGFR阻害剤で治療する場合、患者の皮膚組織ならびに個々の腫瘍組織又は血漿中のケモカインパターンに特定の調節をもたらすという基本的な発見を基にするものである。これらの組織又は血漿中のケモカインは、治療で使用される制癌剤の性状や量に応じてダウンレギュレーション又はアップレギュレーションする。
【0007】
EGFR阻害剤を疾病の早期に高用量で及び/又は長期間にわたり使用する場合は特に最適な管理が重要であるにもかかわらず、EGFR関連の腫瘍の治療中において発疹を効果的に管理するための明確な推奨方法は現在に至るまで何もない。本結果に基づくと、皮膚中のケモカイン発現パターンの調節が、制癌剤による治療において患者の皮膚発疹を早い時点で予測する有用なマーカーとなることが第一に示唆される。これにより、臨床医は発疹が発見される前に抑制することができる。
第二に、皮膚中のケモカイン発現パターンの調節は、標的を効果的に阻止しているかどうか(また、それによる臨床結果)の代理マーカーとして、皮膚の発疹よりもさらに信頼性の高い代理マーカーであることが示唆される。ケモカインの調節だけでなく皮膚発疹が患者個人の免疫系に依存しているからである。そこで、治療第1週以内の患者を分析して、抗EGFR治療の恩恵を得る見込みがある患者がどうかを正確に見極めることができ、結果によって臨床医は別の治療法に変更することができる。
さらに、EGFRを遮断することによりケモカインが仲介する化学誘引を妨害するケモカインレセプター遮断剤のような特定の薬剤が、EGFR関連の腫瘍治療での皮膚疾患という副作用を制御する新規な治療薬になることが示唆される。こうした薬剤は、薬剤の皮膚への効果が腫瘍に反映されるように選択的に局所使用すればよい。
要約すると、本発明は下記に関する。
【0008】
癌治療と関連又は相関する患者の皮膚炎症、特には皮膚発疹の発症及び程度を予測する方法に関するもので、該方法は、
(i)第1の皮膚組織検査において、標準方法でケモカインの発現パターンを求める工程で、表皮成長因子受容体(EGFR)を利用した腫瘍細胞に対抗する制癌剤による治療を開始する前にプローブを患者から取り出し、
(ii)前記患者からの第2の皮膚組織検査(好ましくは同じ皮膚領域から)において、ケモカインの発現パターンを求める工程で、前記制癌剤による治療の開始後、ある時点(好ましくは1〜10日、より好ましくは1〜7日、さらに好ましくは5〜7日)でプローブを取り出し、
(iii)任意であるが、第3より多くの皮膚組織検査によりケモカインの発現パターンを求めてもよく、前記工程(ii)の先行する検査の後に前記患者からプローブを取り出してもよく、
(iv)前記工程(ii)及び任意の工程(iii)の皮膚組織検査によるそれぞれのケモカイン発現パターンを、前記工程(i)の皮膚組織検査による発現パターンと比較し、前記工程(i)の基準となる検査又はそれぞれの先行検査でのケモカインパターンに対して、前記工程(ii)及び(iii)の検査において質及び/又は量が変化したケモカインを求め、
(v)前記ケモカインパターンの変化から、前記制癌剤治療により誘発される皮膚疾患の程度及び発症の時期を予測する工程を含む。
5〜10日、好ましくは7日以内にケモカインパターンの変化が何も起こらなかった場合、又は、有意な変化が起こらなかった場合は、制癌剤治療により起こる皮膚疾患、特に皮膚発疹の可能性は、本発明の知見によると非常に低い。
【0009】
癌患者の制癌剤治療に対する腫瘍反応を予測する、対応の方法であり、該方法は、
(i)第1の組織検査において、標準方法でケモカインの発現パターンを求める工程で、表皮成長因子受容体(EGFR)を利用/過剰発現する腫瘍細胞に対抗する制癌剤による治療を開始する前にプローブを患者から取り出し、
(ii)前記患者からの第2の組織検査において、ケモカインの発現パターンを求める工程で、前記制癌剤による治療の開始後、ある時点でプローブを取り出し、
(iii)任意であるが、第3より多くの組織検査によりケモカインの発現パターンを求めてもよく、前記工程(ii)の先行する検査の後に前記患者からプローブを取り出してもよく、
(iv)前記工程(ii)及び任意の工程(iii)の組織検査によるそれぞれのケモカイン発現パターンを、前記工程(i)の組織検査による発現パターンと比較し、前記工程(i)の基準となる検査又はそれぞれの先行検査でのケモカインパターンに対して、前記工程(ii)及び(iii)の検査において質及び/又は量が変化したケモカインを求め、
(v)前記組織検査による前記ケモカインパターンの変化から、前記制癌剤治療に対する患者の腫瘍反応の見込みと反応の強さを予測する工程を含む。
本発明によると、驚くべきことに、患者の腫瘍組織だけでなく皮膚組織においてもケモカインのパターンとその相対的な変化が、それぞれ腫瘍反応に相関していることがわかった。
【0010】
患者にとっての癌の治療用制癌剤の最適投与量を決める方法であって、該方法は、
(i)第1の皮膚又は腫瘍の組織検査において、標準方法でケモカインの発現パターンを求める工程で、表皮成長因子受容体(EGFR)を利用/過剰発現する腫瘍細胞に対抗する制癌剤による治療を開始する前にプローブを患者から取り出し、
(ii)前記患者からの第2の組織検査において、ケモカインの発現パターンを求める工程で、前記制癌剤による治療の開始後、ある時点でプローブを取り出し、
(iii)任意であるが、第3より多くの組織検査でケモカインの発現パターンを求めてもよく、前記工程(ii)の先行する検査の後に前記患者からプローブを取り出してもよく、
(iv)前記工程(ii)及び任意の工程(iii)の組織検査によるそれぞれのケモカイン発現パターンを、前記工程(i)の組織検査による発現パターンと比較し、前記工程(i)の基準となる検査又はそれぞれの先行検査でのケモカインパターンに対して、前記工程(ii)及び(iii)の検査において質及び/又は量が変化したケモカインを求め、
(v)前記組織検査による前記ケモカインパターンの変化に応じて前記患者に投与すべき前記制癌剤の投与量を求め、さらに任意であるが、
(vi)前記患者に投与すべき前記制癌剤の投与量を最適化するために前記工程(i)〜(v)を繰り返すことを含む。
治療開始前と、1〜10日、好ましくは7日経過後で、検査によるケモカインパターンにおいてなんら調節又は変化がない場合、或いは、有意な調節又は変化がない場合は、該制癌剤によるさらなる治療は合わないか、あるいは、ケモカインパターンに何らかの影響が検出されるまで投与量を増やせばよい。
【0011】
前記工程(ii)のプローブを前記制癌剤治療の開始後1〜10日以内に取り出す、対応の方法。
前記工程(ii)のプローブを前記制癌剤治療の開始後2〜7日以内に取り出す、対応の方法。
前記制癌剤がEGFR阻害剤である、対応の方法。
前記EGFR阻害剤が抗EGFR抗体である、対応の方法。
前記抗EGFR抗体がMab c225(セツキシマブ)又はMab h425(EMD72000、マツズマブ)である、対応の方法。
前記制癌剤の治療により、治療を受けていない患者と比べてRANTESのようなケモカインでは発現が増加している、対応の方法。
前記制癌剤の治療により、治療を受けていない患者と比べてIL-8のようなケモカインでは発現が減少している、対応の方法。
下記ケモカイン、IL-8、MCP-1、RANTES及びIP-10のうち少なくとも1種がかかわっている、対応の方法。
EGFRを利用/過剰発現する癌患者の治療効率の初期段階in-vitroモニター方法であって、制癌剤による治療の開始前及び治療の最初の1〜10日間に、プローブによる検査で腫瘍患者の皮膚組織及び/又は腫瘍組織及び/又は血漿のケモカインパターンを求めることによる、モニター方法。
【0012】
EGFRを利用/過剰発現する癌患者の治療に伴う皮膚炎症、好ましくは皮膚発疹の発生の初期段階in-vitroモニター方法であって、制癌剤、好ましくはEGFR阻害剤、さらに好ましくはMab c225(セツキシマブ)又はMab h425(EMD72000、マツズマブ)のような抗EGFR抗体による治療の開始前及び治療の最初の1〜7日間に、プローブによる検査で腫瘍患者の皮膚組織のケモカインパターンを求めることによるモニター方法で、好ましくは、下記ケモカイン、IL-8、MCP-1、RANTES及びIP-10のうち少なくとも1種がかかわっている方法。
制癌剤による癌治療の効率、及び/又は、該治療に伴う皮膚の炎症、好ましくは皮膚発疹の発症の可能性を求めるための診断マーカーとしての、制癌剤による癌治療の最中に生体内でアップレギュレーション又はダウンレギュレーションするケモカインの使用であって、前記癌がEGFRを利用/過剰発現するもので、前記制癌剤がEGFR阻害剤、好ましくはMab c225(セツキシマブ)又はMab h425(EMD72000、マツズマブ)のような抗EGFR抗体である、ケモカインの使用。
ケモカイン発現の上流のターゲットを同定するための、制癌剤による癌治療の最中に生体内でアップレギュレーション又はダウンレギュレーションするケモカインの使用であって、EGFRを利用/過剰発現する癌患者の治療のために、前記ターゲットを単独で又は前記制癌剤と併用して標的とする医薬品の開発及び製造に好適である、ケモカインの使用であって、前記制癌剤がEGFR阻害剤、好ましくはMab c225(セツキシマブ)又はMab h425(EMD72000、マツズマブ)のような抗EGFR抗体である、ケモカインの使用。
【0013】
本発明は、例えば、セツキシマブ(mAb c225)又はmAb h425(マツズマブ)等のモノクローナル抗体或いはチロシンキナーゼ阻害剤(ゲフィチニブ、Iressa(登録商標))を用いてEGF受容体を遮断すると、初代(primary)ケラチノサイトにおけるEGFR依存シグナル伝達系が妨害されることが実験により示された。これらの実験において、ケラチノサイトは濃度の異なる抗EGFR阻害剤で処理した後、TGFα又はTNFαを使用又は使用しないでおよそ24時間処理した。抗EGFR阻害剤の効果をウェスタンブロティングで評価した。
図1に示すように、処理済ケラチノサイトのウェスタンブロティング分析による測定では、抗EGFR剤による処理でEGFR及びERK1/2の燐酸化が妨げられる。図2に示すように、抗EGFR剤による処理により、COX-2タンパクの誘発が妨害される。さらに、STAT3の燐酸化が抗EGFR剤による処理に続いて誘発された。
初代ケラチノサイトの処理によりケモカインの発現が調節されることがin-vivo実験でわかった。抗EGFR剤で24時間処理したケラチノサイトの馴化培養液中で分泌されるケモカインを評価した。評価はluminexビーズ方法を用いて行った。この実験において、ケラチノサイトは抗EGFR阻害剤で処理した後、TGFα又はTNFαを使用又は使用しない処理をした。
数種類のケモカインのなかでも、IL-8はEGFR遮断に応答し終始ダウンレギュレーションを示した(図3)。一方、RANTES及びIP-10はアップレギュレーションを示した(図4〜図5)。
【0014】
IL-8は血管造成性因子であるので、IL-8のダウンレギュレーションは皮膚中での血管形成を妨害することを示唆している。それに対して、RANTES及びIP-10は白血球の化学誘引因子と考えられており、発現の増加(及び他のケモカインも同様)は白血球を皮膚へ浸潤させ炎症を引き起こし、その結果、皮膚発疹を起こすことが示唆される。
本発明によると、ケラチノサイト及び腫瘍組織(EGFRシグナル伝達が有効)においてEGFR遮断すると、それに応答してケモカイン発現パターンが調節される。その結果、白血球の遊走/化学誘引は、上記ケモカインを妨害する薬剤/医薬品により阻止することができる。実験には化学走性アッセイが含まれており、ケラチノサイトの馴化培養液をEGFR阻害剤で処理し、TGFα又はTNFαを使用又は使用しないで活性化させて24時間後に回収する。馴化培養液をBoyden Chamberの下層に入れ、分離したばかりの末梢血単核球細胞(PBMC)又は顆粒白血球を上層に入れる。その後、一定時間の経過後に下層のPBMC又は顆粒白血球の量を測定することにより血液細胞の化学走性をモニターする。実験によっては、PBMC又は顆粒白血球を前もってin-vitroで活性化させておき細胞の遊走作用を向上させておく。
本発明によると、馴化培養液中のケモカインによってPBMCや顆粒白血球の化学走性が起こり、このことが皮膚発疹に見られる生物学的反応の一部を示していることがわかる。
特定のケモカインが化学走化性事象の原因となっていることを示すために、Boyden chamberの下層に入れられた馴化培養液にケモカイン受容体に対する特定の阻害剤を添加し、添加していない馴化培養液と比較して化学走性を評価する。
さらに、化学走性がケモカイン/ケモカイン受容体の相互作用により誘発すること、及び、ケモカイン受容体拮抗薬(anatagonists)により前記相互作用を遮断すると、血液細胞の化学走性が妨害されることがわかった。
【0015】
EGFR遮断に応答したケモカイン発現の調節は、マウスの場合、皮膚への白血球の遊走/化学誘引がおきる。さらに、白血球の浸潤を分析しケモカインの発現と関連付けることができる。また、本発明によると、マウスの皮膚中のケモカインレベルは抗EGFR阻害剤による処理で調節し、この調節には白血球の浸潤が伴うことがわかった。
ケモカイン受容体拮抗薬が全身投与されると、抗EGFR療法で治療した動物の皮膚に白血球が浸潤するのを妨害することがわかった。これは皮膚発疹の発現を抑制、完全に止めることになる。
本発明によると、皮膚毒性の最初の徴候が見られるまで個体を抗EGFR剤で治療することができ、疾病に侵された皮膚は、白血球の浸潤を妨ぎ皮膚毒性を抑えることができる抗ケモカイン受容体薬剤で局所的に治療することができる。
ケモカイン受容体拮抗薬を局所的に皮膚に投与することにより、白血球の浸潤と皮膚毒性を抑える。これらの薬剤を臨床現場で使用して、抗EGFR治療を受けている患者の皮膚発疹を治療できることが示唆される。
皮膚発疹は、抗EGFR治療に対する患者の反応に相関していることがわかった。そのため、ケモカインの発現パターンは皮膚の毒性自体よりも好適な反応インジケータであり、抗EGFR治療に対する患者の反応性を評価する診断基準として使用することができる。これにより、治療第1週以内で、抗EGFR治療からの恩恵を得る見込みのある患者を正確に見つけ出すのに役立つ。
抗EGFR拮抗薬による治療に続く最初の1週間又は10日間、患者の皮膚におけるケモカインレベルの分子変化を分析することができ、EGFR遮断に応答してケモカイン発現が調節しているかどうかを明らかにする。これは治療前及び治療にあたり皮膚生検の分析で行うことができる。抗EGFR治療に反応してケモカインレベルが調節するので、調節の程度を診断基準として採用し、その後患者が該治療に感受性を示すかどうかを予測することができる。ケモカイン調節が何もないか、調節がほとんどない患者は、最適ではない用量の抗EGFR阻害剤で治療されており、このような用量は調節が見られるまで増やすべきであることが示唆される。あるいは、選択の自由があるものではないが、ケモカイン調節のない患者は別の治療に移行することもできる。
【0016】
本発明の発明者らが発見した調節は、本件においては皮膚発疹の発現において重要な役目を果たすため、この調節を、
- 早期時点において腫瘍患者の皮膚発疹を予測する診断マーカーとして、
- 腫瘍の標的を効果的に阻止する代理マーカーとして(また、それにより臨床結果の代理マーカーとして)、特に、治療開始直後に、抗EGFR治療の恩恵の見込みがない患者を正確に見つけ出すための、代理マーカーとして、
- EGFR遮断によりケモカインの化学誘引を妨害する局所用薬剤を使った、皮膚発疹を対処するための新規な治療方法の開発に、
使用することができる。
腫瘍、腫瘍の炎症、及びEGFR阻害剤(セツキシマブ=c225、マツズマブ=EMD72000=h425)による腫瘍成長阻止についてのケモカイン環境の調節
セツキシマブによる治療に対する腫瘍患者の反応性を予測するバイオマーカーは存在しない。しかしながら、結腸直腸癌、膵癌及び頭部扁平上皮癌の3つの徴候では、セツキシマブ治療により誘発された瘡状の皮膚発疹の程度と腫瘍反応との間には有意な相関が見られた。標準的な治療投与量で患者に発疹が出ていなかったり、また、発疹の重篤度が異なる(グレードI〜III)のは、セツキシマブに誘導された皮膚の炎症過程の程度が患者個人の免疫性によることを示すものであり、したがって、セツキシマブの免疫調節作用が観察中の腫瘍反応に寄与する基本的な要素であることを示している。免疫細胞のトラフィッキング及び細胞表現型は、細胞の型特有の作用を示す特定のケモカインのセットを有するケモカインによって制御されている。
本発明は、癌腫におけるEGFRシグナル伝達を阻止することによって、癌腫のケモカイン環境に変化をもたらし、最終的には腫瘍増殖の阻止によって腫瘍の炎症状態に影響を及ぼすことを示唆している。
【0017】
本発明によると、ケモカインは腫瘍細胞及び初代ケラチノサイトにおけるのと同じようにin-vitroでは反応が調整される。ケラチノサイトに関しては、実験により、セツキシマブもしくはEMD72000のようなモノクローナル抗体又はチロシンキナーゼ阻害剤(ゲフィチニブ、Iressa(登録商標))でEGF受容体を遮断することにより、多様な腫瘍症状を表すA431のような様々な腫瘍細胞系でEGFR依存性シグナル伝達系が妨げられることがわかった。
腫瘍細胞系(A431等)の処理によりケモカイン発現が調節されることがin-vitroの実験によりわかった。腫瘍細胞を抗EGFR剤で処理した後、TGFα又はTNFαを使用又は使用しない処理を行った。24時間後に得られた腫瘍細胞の馴化培養液中で分泌されたケモカインを評価した。評価はluminexビーズ方法を用いて行った。
初代ケラチノサイトで得たデータと同様に、いくつかのケモカインは、腫瘍細胞中、EGFR遮断に応答して調節された。EGFR阻害剤で処理した腫瘍細胞において、IL-8は一貫してダウンレギュレーションを示した(図6)。一方、RANTES及びIP-10はアップレギュレーションを示した(図7〜図8)。
全体として、これらのデータにより、ケラチノサイト及び腫瘍細胞では同様なシグナル伝達経路が抗EGFR阻害剤により調節されていることが示唆される。このことにより、皮膚、ケラチノサイト、さらに正確にいうならば、ケモカインレベルを代用して癌患者の効果的な抗EGFR治療の予測ができることが立証される。
異なる腫瘍細胞系のパネルでIL-8の調節を評価し、EGFR遮断に応答して一貫してダウンレギュレーションすることがわかった(図9)。これは、IL-8のレベルが効果的な抗EGFR治療のバイオマーカーであることを示唆する。抗EGFR治療をうけている患者の血液中のIL-8のレベルを測定し、レベルの低下を診断基準として使用して抗EGFR剤の薬力学的効果を監視することが期待できる。
前述のとおり、腫瘍組織(EGFRシグナル伝達が有効)では、EGFR遮断に応答して調節したケモカイン発現パターンは、結果として白血球の遊走/化学誘引を起こす。
【0018】
実験には化学走性アッセイが含まれており、腫瘍細胞の馴化培養液をEGFR阻害剤で処理し、TGFα又はTNFαを使用又は使用しないで活性化させ24時間後に回収する。馴化培養液をBoyden Chamberの下層に入れ、分離したばかりの末梢血単核球細胞(PBMC)又は顆粒白血球を上層に入れる。その後、所定の時間の経過後に下層のPBMC又は顆粒白血球の量を測定することにより血液細胞の化学走性をモニターする。実験によっては、PBMC又は顆粒白血球を前もってin-vitroで活性化させておき細胞の遊走作用を向上させておく。
これらの実験によると、馴化培養液中のケモカインによってPBMCや顆粒白血球の化学走性が起こる。
本発明の成果の1つである特定のケモカインは、化学走化性事象に寄与していることから、Boyden chamberの下層に入れられた馴化培養液にケモカイン受容体に対する特定の阻害剤を添加し、添加していない馴化培養液のみの場合と比較して化学走性を評価する。
化学走性がケモカイン/ケモカイン受容体の相互作用により誘発され、さらにケモカイン受容体拮抗薬(anatagonists)により前記相互作用を遮断すると、血液細胞の化学走性が妨害される。
実験には、腫瘍を有するマウスを抗EGFR剤で処理する生体実験が含まれる。腫瘍内のケモカインレベルの調節を、抗EGFR剤での処理を行った最初の1週間分析する。ケモカインレベルはin-vitroで観察されたのと同じように調節する。さらに、腫瘍における白血球の浸潤を分析したところ、抗EGFR剤により白血球の腫瘍への浸潤ならびに白血球活性化/分化状態が引き起こされる。後者は、細胞活性化/分化マーカーのIHCによりモニターすることができる。皮膚発疹と治療反応性との相関性により、ケモカインの調節が皮膚でも癌でも起こり、抗EGFR剤の作用機序に寄与していることが示唆される。
本発明によると、EGFR阻害の有無(+/−)による腫瘍中のケモカイン発現状況の変化を広範にモニターし、検出された変化と免疫系におけるケモカインの既知の細胞特異性とを照合させることにより、腫瘍増殖の免疫制御に寄与していると思われる腫瘍内ケモカインと白血球がどれであるかについて最初の手がかりを与えてくれる。この情報をもとに、ケモカイン発現を制御している経路の上流にある、EGFRとは別の治療ターゲットであって、EGFR阻害とは無関係に免疫に仲介された抗腫瘍効果を引き出す治療ターゲットを、あるいは、抗EGFR治療薬の抗腫瘍効果を向上させる目標を有するターゲットを同定することができる。
こうして、EGFRシグナル伝達の阻止に続く、腫瘍内ケモカイン発現パターンの変化を明らかにすることができる。抗EGFR治療のもとで観察されるケモカインパターンの変化は、ある程度は腫瘍固有である。
【0019】
(図面の簡単な説明)
図1
ケラチノサイトにおけるEGFR依存性シグナル伝達経路の阻止
ケラチノサイトをEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞を溶解させてウェスタンブロティングで分析した。分析により、EGFR阻害剤で処理を行うと、その投与量に依存しながらEGFR主導のシグナル伝達系が阻止されることが明かになった。EGFR阻害剤による処理でEGFR(Tyr 1068)及びERK1/2(Thr 202/204)の燐酸化が妨げられた。
図2
ケラチノサイトにおけるEGFR依存性シグナル伝達経路の阻止
ケラチノサイトをEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞を溶解させてウェスタンブロティングで分析した。分析により、EGFR阻害剤で処理を行うと、その投与量に依存しながらEGFR主導のシグナル伝達系が阻止されることが明らかになった。EGFR阻害剤による処理でCOX-2の発現が誘発され、STAT3の燐酸化が妨げられた。
【0020】
図3
ケラチノサイトにおけるIL-8分泌量の調節
ケラチノサイトをEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞懸濁液を回収し、IL-8の量をluminex方法で求めた。分析により、EGFR阻害剤による処理で、その投与量に依存したIL-8のダウンレギュレーションが明らかになった。
図4
ケラチノサイトにおけるRANTES分泌量の調節
ケラチノサイトをEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞懸濁液を回収し、RANTESの量をluminex方法で求めた。分析により、EGFR阻害剤による処理で、その投与量に依存したRANTESのアップレギュレーションが明らかになった。
図5
ケラチノサイトにおけるIP-10分泌量の調節
ケラチノサイトをEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞懸濁液を回収し、IP-10の量をluminex方法で求めた。分析により、EGFR阻害剤による処理で、その投与量に依存したIP-10のアップレギュレーションが明らかになった。
図6
A431におけるIL-8の分泌量の調節
A431をEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞懸濁液を回収し、IL-8の量をluminex方法で求めた。分析により、EGFR阻害剤による処理で、その投与量に依存したIL-8のダウンレギュレーションが明らかになった。
【0021】
図7
A431におけるRANTES分泌量の調節
A431をEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞懸濁液を回収し、RANTESの量をluminex方法で求めた。分析により、EGFR阻害剤による処理で、その投与量に依存したRANTESのアップレギュレーションが明らかになった。
図8
A431におけるIP-10分泌量の調節
A431をEGFR阻害剤(セツキシマブ、マツズマブ又はIressa)で処理し、異なる成長因子(TGFα又はTNFα)を使用又は使用せずに活性化させた。24時間後、細胞懸濁液を回収し、IP-10の量をluminex方法で求めた。分析により、EGFR阻害剤による処理で、その投与量に依存したIP-10のアップレギュレーションが明らかになった。
図9
異なる腫瘍細胞系におけるIL-8分泌量の調節
異なる腫瘍細胞系(DiFi、HT29、A431、MCF-7、PC-3及びU87MG)をEGFR阻害剤(セツキシマブ又はマツズマブ)で処理し、TGFαで活性化させた。24時間後、細胞懸濁液を回収し、IL-8の量をluminex方法で求めた。分析により、調べたすべての腫瘍細胞系において、EGFR阻害剤による処理で、その投与量に依存したIL-8のダウンレギュレーションが明らかになった。
【0022】
【表1】

セツキシマブ(Cmab)又はマツズマブ(Mmab)に反応したIL-8量
【0023】
細胞を100ng/mlのCmab又はMmabで処理して、100ng/mlのTGFαで活性化させた。実験回数=1
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ケラチノサイトにおけるEGFR依存性シグナル伝達経路の阻止
【図2】ケラチノサイトにおけるEGFR依存性シグナル伝達経路の阻止
【図3】ケラチノサイトにおけるIL-8分泌量の調節
【図4】ケラチノサイトにおけるRANTES分泌量の調節
【図5】ケラチノサイトにおけるIP-10分泌量の調節
【図6】A431におけるIL-8の分泌量の調節
【図7】A431におけるRANTES分泌量の調節
【図8】A431におけるIP-10分泌量の調節
【図9】異なる腫瘍細胞系におけるIL-8分泌量の調節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌治療に関連又は相関する患者の皮膚炎症の発症及び程度を予測する方法であって、前記方法は、
(i)第1の皮膚組織検査において、標準方法でケモカインの発現パターンを求める工程で、表皮成長因子受容体(EGFR)を利用した腫瘍細胞に対抗する制癌剤による治療を開始する前にプローブを患者から取り出し、
(ii)前記患者からの第2の皮膚組織検査において、ケモカインの発現パターンを求める工程で、前記制癌剤による治療の開始後、ある時点でプローブを取り出し、
(iii)任意であるが、第3より多くの皮膚組織検査によりケモカインの発現パターンを求めてもよく、前記工程(ii)の先行するそれぞれの検査の後に前記患者からプローブを取り出してもよく、
(iv)前記工程(ii)及び任意の工程(iii)の皮膚組織検査によるそれぞれのケモカイン発現パターンを、前記工程(i)の皮膚組織検査による発現パターンと比較し、前記工程(i)の基準となる検査又はそれぞれの先行検査でのケモカインパターンに対して、前記工程(ii)及び(iii)の検査において質及び/又は量が変化したケモカインを求め、
(v)前記ケモカインパターンの変化から、前記制癌剤治療により誘発される皮膚疾患の程度及び発症の時期を予測する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記皮膚炎症が皮膚発疹である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌患者の制癌剤治療に対する腫瘍反応を予測する方法であって、前記方法は、
(i)第1の組織検査において、標準方法でケモカインの発現パターンを求める工程で、表皮成長因子受容体(EGFR)を利用する腫瘍細胞に対抗する制癌剤による治療を開始する前にプローブを患者から取り出し、
(ii)前記患者からの第2の組織検査において、ケモカインの発現パターンを求める工程で、前記制癌剤による治療の開始後、ある時点でプローブを取り出し、
(iii)任意であるが、第3より多くの組織検査によりケモカインの発現パターンを求めてもよく、前記工程(ii)の先行するそれぞれの検査の後に前記患者からプローブを取り出してもよく、
(iv)前記工程(ii)及び任意の工程(iii)の組織検査によるそれぞれのケモカイン発現パターンを、前記工程(i)の組織検査による発現パターンと比較し、前記工程(i)の基準となる検査又はそれぞれの先行検査でのケモカインパターンに対して、前記工程(ii)及び(iii)の検査において質及び/又は量が変化したケモカインを求め、
(v)前記組織検査による前記ケモカインパターンの変化から、前記制癌剤治療に対する患者の腫瘍反応の見込みと反応の強さを予測する工程を含む、方法。
【請求項4】
患者にとっての癌の治療用制癌剤の最適投与量を決める方法であって、前記方法は、
(i)第1の組織検査において、標準方法でケモカインの発現パターンを求める工程で、表皮成長因子受容体(EGFR)を利用する腫瘍細胞に対抗する制癌剤による治療を開始する前にプローブを患者から取り出し、
(ii)前記患者からの第2の組織検査において、ケモカインの発現パターンを求める工程で、前記制癌剤による治療の開始後、ある時点でプローブを取り出し、
(iii)任意であるが、第3より多くの組織検査でケモカインの発現パターンを求めてもよく、前記工程(ii)の先行するそれぞれの検査の後に前記患者からプローブを取り出してもよく、
(iv)前記工程(ii)及び任意の工程(iii)の組織検査によるそれぞれのケモカイン発現パターンを、前記工程(i)の組織検査による発現パターンと比較し、前記工程(i)の基準となる検査又はそれぞれの先行検査でのケモカインパターンに対して、前記工程(ii)及び(iii)の検査において質及び/又は量が変化したケモカインを求め、
(v)前記組織検査による前記ケモカインパターンの変化に応じて、前記患者に投与すべき前記制癌剤の投与量を求め、さらに任意であるが、
(vi)前記患者に投与すべき前記制癌剤の投与量を最適化するために前記工程(i)〜(v)を繰り返すことを含む、方法。
【請求項5】
前記プローブの検査が腫瘍組織によるものである、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記プローブの検査が皮膚組織によるものである、請求項3又は4記載の方法。
【請求項7】
前記工程(ii)のプローブを、前記制癌剤による治療開始後1〜10日以内に取り出す、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記工程(ii)のプローブを、前記制癌剤による治療開始後5〜7日以内に取り出す、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記制癌剤がEGFR阻害剤である、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記EGFR阻害剤が抗EGFR抗体である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記抗EGFR抗体がMab c225(セツキシマブ)又はMab h425(EMD72000、マツズマブ)である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記制癌剤の治療により、治療を受けていない患者と比べてケモカインの発現が増加することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記制癌剤の治療により、治療を受けていない患者と比べてケモカインの発現が減少することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
IL-8、MCP-1、RANTES及びIP-10のうち少なくとも1種のケモカインが関わっていることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
EGFRを利用する癌患者における治療効率の初期段階でのin-vitroモニター方法であって、制癌剤による治療の開始前及び治療の最初の1〜10日間に、プローブによる検査で前記腫瘍患者の皮膚組織及び/又は腫瘍組織及び/又は血漿のケモカインパターンを求めることによる、モニター方法。
【請求項16】
EGFRを利用する癌患者の治療に伴う皮膚炎症の発症についての初期段階でのin-vitroモニター方法であって、制癌剤による治療の開始前及び治療の最初の1〜7日間に、プローブによる検査で前記腫瘍患者の皮膚組織のケモカインパターンを求めることによる、モニター方法。
【請求項17】
前記制癌剤がEGFR阻害剤である、請求項15又は16記載の方法。
【請求項18】
前記EGFR阻害剤が抗EGFR抗体である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記抗EGFR抗体がMab c225(セツキシマブ)又はMab h425(EMD72000、マツズマブ)である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記制癌剤の治療により、治療を受けていない患者と比べてケモカインの発現が増加することを特徴とする、請求項15〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記制癌剤の治療により、治療を受けていない患者と比べてケモカインの発現が減少することを特徴とする、請求項15〜19のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
IL-8、MCP-1、RANTES及びIP-10のうち少なくとも1種のケモカインが関わっていることを特徴とする、請求項15〜21のいずれか1項記載の方法。
【請求項23】
制癌剤による癌治療の効率、及び/又は、前記治療に伴う皮膚炎症の発症の可能性を求めるための診断マーカーとしての、前記制癌剤による癌治療の最中に生体内でアップレギュレーション又はダウンレギュレーションするケモカインの使用であって、前記癌がEGFRを利用するものであり、前記制癌剤がEGFR阻害剤である、ケモカインの使用。
【請求項24】
ケモカイン発現の上流のターゲットを同定するための、制癌剤による癌治療の最中に生体内でアップレギュレーション又はダウンレギュレーションするケモカインの使用であって、EGFRを利用する癌患者の治療のために、前記ターゲットを単独で又は前記制癌剤と併用して標的とする医薬品の開発及び製造に好適である、ケモカインの使用。
【請求項25】
前記制癌剤がMab c225(セツキシマブ)又はMab h425(EMD72000、マツズマブ)である、請求項23又は24記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−511524(P2009−511524A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534930(P2008−534930)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2006/009837
【国際公開番号】WO2007/042286
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】