説明

ケルセチンスルホン酸含有染料および染色方法

【課題】ケルセチンの染料としての用途を提供すること。ケルセチンによる染色方法を提供すること。
【解決手段】ケルセチンスルホン酸またはその塩と金属(アルミニウム、鉄、銅等)を併用することによって、例えば絹などのタンパク品などを染色する。また、ケルセチンスルホン酸またはその金属塩と大豆タンパク等のタンパクと金属または金属化合物とを併用することで、染色が難しいとされる綿などのセルロース品でさえ染色される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ポリフェノールの一種であるケルセチンスルホン酸またはその塩を含有する染料および該染料を使用することによる染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケルセチンは、ビタミンPとも称され、ポリフェノールの一種であるフラボノールに属する化合物である。
【0003】
ケルセチンは、たまねぎ、林檎、ほうれん草、松葉、ケール、パセリ、緑茶、赤ワインなどに含まれ、特にたまねぎの皮に多く含まれることが知られている。また、抗炎症作用、抗アレルギー作用、抗酸化作用、抗癌作用等の種々の作用効果を有することから、従来健康食品素材・医薬などに使用されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
また、ケルセチンは繊維などの染料としての応用も期待されているが、水に溶解しないため、一般的な染色媒体である水を使用することができない。さらに、ケルセチンが属するポリフェノール類は繊維などの被染色物、特にセルロース製品、タンパク製品に対してはほとんど染着しないという欠点を有している。このように、ケルセチンの染料への応用は困難を極めるが、天然物であるケルセチンを用いた環境調和型の染料およびこれによる染色方法が望まれている。
【特許文献1】特開2002−171934号公報
【特許文献2】特開2005−289850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題はケルセチンの染料としての用途を提供することである。また、本発明は該染料を用いた被染色品の染色方法を提供することを課題とする。
従来、ケルセチンを用いて直接、綿や絹等の繊維などを染色しようとしても着色しないため、これを染料として用いた例はこれまでに報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決するために、本発明者は種々研究を重ねてきたところ、ケルセチンにスルホン酸基を導入したケルセチンスルホン酸およびその塩が、染料として使用できることを見出した。
特に、本件発明者はケルセチンスルホン酸またはその塩と、金属または金属化合物を併用することによって、タンパク品、例えば絹等のタンパク繊維がより一層効果的に染色されることを見出した。さらに、大豆タンパク等のタンパクを併用することによって、さらには金属または金属化合物を併用することによって、一般にケルセチンによる染色が難しいとされるセルロース品、例えば綿などを含むセルロース系繊維をもケルセチンスルホン酸またはその塩で、より効果的に染色できることを知見し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の通りである。
【0007】
(1)ケルセチンスルホン酸またはその塩を含有する染料。
(2)セルロース品用またはタンパク品用の染料である(1)記載の染料。
(3)金属または金属化合物と併用される(1)または(2)記載の染料。
(4)金属または金属化合物が、鉄、アルミニウム、銅、およびこれらの金属化合物からなる群より選ばれるものである(3)記載の染料。
(5)タンパクと併用される(1)〜(4)の何れかに記載の染料。
(6)タンパクが大豆タンパクである(5)記載の染料。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の染料を使用することを特徴とする被染色品の染色方法。
(8)ケルセチンスルホン酸またはその塩とタンパク品とを接触させる工程、及びタンパク品を金属または金属化合物と接触させる工程を有することを特徴とするタンパク品の染色方法。
(9)セルロース品とタンパクとを接触させる工程、セルロース品をケルセチンスルホン酸またはその塩と接触させる工程、セルロース品を金属または金属化合物と接触させる工程を有することを特徴とするセルロース品の染色方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、ケルセチンスルホン酸は下式で表される化合物である。
【0009】
【化1】



【0010】
本発明において、ケルセチンスルホン酸の塩としては、ナトリウム塩・カリウム塩・マグネシウム塩・カルシウム塩などがあげられる。以下の説明においては、特に言及しない限り、ケルセチンスルホン酸およびその塩を総称して、単にケルセチンスルホン酸ともいう。
【0011】
本発明の染料における被染色品は、ケルセチンスルホン酸で染色できるものであれば何であってもよく、例えば、タンパク品、セルロース品、プラスチィック品(ポリエステル品、アクリル品等)などがあげられるが、好ましくは、タンパク品、セルロース品があげられる。
本発明において、タンパク品、セルロース品、プラスチィック品における、「品」とは、例えば、タンパク、セルロース、その他の単独の素材より成るもの、および該単独の素材以外の他の素材を1種以上含むものをいう。ここに他の素材とは、例えばあるタンパクに対して、他のタンパクも他の素材である。また、「品」とは、素材自体、その成型品、加工品などのすべてを包含する概念であり、特に繊維が染色対象として汎用性の高いものである。
【0012】
本発明において、タンパク品は単一のタンパクより成るもの、2種以上の異なるタンパクを含むものであり、さらにはタンパクとタンパク以外の素材(例えば、糖類や脂質)を含むものがあげられるが、タンパクを主構成成分とするものが好ましい。タンパク品としては、例えば獣毛(例:羊毛)など、絹、毛皮などがあげられる。特に、タンパク繊維、タンパク混紡繊維などの繊維が好適に用いられる。
【0013】
また、本発明において、セルロース品についてもセルロースのみを含むもののみではなく、セルロース以外の成分、例えばリグニンや脂質・タンパクなどを含むものであってもよい。セルロース製品としては、セルロース自体またはセルロースを主構成成分とする製品、特に繊維であることが好ましく、例えば、綿、麻、レーヨンなどがあげられる。
【0014】
本発明において、ケルセチンスルホン酸と併用される金属および金属化合物としては、
水中でイオン化して媒染剤として機能するものであれば特に制限なく使用することができる。具体的には、金属としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、スズ等があげられ、環境への負荷を考慮して、銅、アルミニウム、鉄などを用いるのが好ましい。また、本発明における金属化合物としては、金属水酸化物、金属酸化物、金属の無機酸塩、金属の有機酸塩等があげられる。
【0015】
金属水酸化物としては、水酸化銅・水酸化アルミニウム・水酸化鉄などがあげられる。
酸化物としては、酸化銅・酸化アルミニウム・酸化鉄などがあげられる。
金属の無機酸塩としては、塩化第一銅・硫酸銅・塩化アルミニウム・ミョウバン・塩化第一鉄・硫酸第二鉄・硫酸第二鉄アンモニウム(鉄ミョウバン)などがあげられる。
金属の有機酸塩としては、酢酸銅・酢酸アルミニウム・酢酸鉄などがあげられる。
【0016】
ケルセチンスルホン酸による本発明の染色方法を、染色困難ないしは色調の調整の困難なタンパク品、セルロース品、特に繊維を取り上げて説明する。
【0017】
ケルセチンスルホン酸を用いてタンパク品(例えば、絹)を染色するには、まず、ケルセチンスルホン酸をアルカリ水溶液に溶解させる。ここで使用されるアルカリ水溶液としては、ケルセチンスルホン酸を水に溶解できるものであれば特に制限はないが、無機物であるものが好ましい。アルカリ水溶液の具体例としては、炭酸ナトリウム・炭酸カリウム・炭酸水素ナトリウム・炭酸水素カリウム・水酸化ナトリウム・水酸化カリウムなどがあげられる。アルカリ水溶液におけるアルカリ成分の濃度は、通常0.1〜50gL−1、好ましくは1〜10gL−1である。アルカリ水溶液に溶解後、酸で中和する。ここで使用される酸としては、中和で不溶性の塩が析出しない酸であれば特に制限はないが、生成する塩が人体や環境に悪影響のないものが好ましく、具体的には酢酸・塩酸・硫酸が例示される。
【0018】
かくして調製した中和液にタンパク品を浸漬する。その際、当該溶液とタンパク品との割合は、重量比で10:1〜100:1、好ましくは40:1である。
浸漬時間は、通常5〜60分間、好ましくは10〜30分間であり、その際の温度は通常20〜100℃、好ましくは80〜100℃である。
その後、水洗し、乾燥させることが好ましい。
【0019】
その後、タンパク品を金属または金属化合物と接触させる。接触はタンパク品を金属または金属化合物水溶液に浸漬することによって行われる。浸漬時間は、通常5〜60分間、好ましくは10〜30分間であり、その際の温度は通常20〜80℃、好ましくは40〜60℃である。
【0020】
次いで、水で洗浄し、乾燥させることで染色物を得る。用いる金属の種類によって種々の色相を呈する染色物を得ることができる。例えば、金属として、銅、アルミニウム、鉄を用いると、それぞれ、茶色に近い黄色、鮮やかな黄色、こげ茶色を呈する染色物を得ることができる。
【0021】
ケルセチンスルホン酸を用いてセルロース品、例えば繊維を染色するには、まず、セルロース品をタンパクで処理、即ちセルロース繊維とタンパクとを接触させる。その際、使用されるタンパクとしては水溶性タンパクであれば特に制限はなく、例えば、大豆タンパク、乳製カゼイン、小麦製グルテン、卵製アルブミン等があげられ、好ましくは大豆タンパクが用いられる。当該タンパクはその水溶液として用いられる。例えば、大豆タンパクはこれを水とともに粉砕後、ろ過してタンパク水溶液とする。
該水溶液にセルロース品を浸漬して、乾燥する。浸漬時間は通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜2時間である。
【0022】
次いで、ケルセチンスルホン酸のアルカリ溶液に浸漬して、金属処理を行う。これらの工程の順序は任意に決定してよく、例えば、金属処理、タンパク処理、ケルセチンスルホン酸処理の順に行うこともできる。好適には、さらに、水で洗浄し、乾燥させることで染色物を得る。ここで、ケルセチンスルホン酸と金属の溶液での処理を1回以上、好ましくは3回以上行うと、非常に良好に染色ができる。タンパクは、ケルセチンスルホン酸とセルロース品との間に介在してケルセチンスルホン酸をセルロース繊維などのセルロース品へ染着させるものであれば何でもよく、また、用いる金属の種類によって種々の色相を呈する染色物を得ることができる。例えば、金属として銅やアルミニウムを用いると、鮮やかな黄色を呈する染色物を得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
ケルセチンスルホン酸0.3gを3gL−1濃度の炭酸ナトリウム水溶液700mLに溶解させ、1gL−1の濃度の酢酸で中和した。その溶液と絹の重量比が40:1となるように調節して、絹を90℃、15分、浸漬した。これを水洗した後、乾燥させた。さらに、0.5%濃度の酢酸銅溶液に、50℃、15分、浸漬して、水洗し、乾燥させると、絹を茶色に近い黄色に染色することができた。
【0025】
[実施例2]
絹に対して、実施例1と同様にケルセチンスルホン酸水溶液で処理した後、1%濃度のミョウバン(アルミニウム)水溶液に、50℃、15分、浸漬した。これを水洗した後、乾燥させると、絹を鮮やかな黄色に染色することができた。
【0026】
[実施例3]
絹に対して、実施例1と同様にケルセチンスルホン酸水溶液で処理した後、0.75%濃度の硫酸第二鉄溶液に、55℃、15分、浸漬した。これを水洗した後、乾燥させると、絹をこげ茶色に染色することができた。
【0027】
[実施例4]
綿を染色するために、大豆タンパクを使って前処理を行った。まず、大豆をミキサーに入れて水を加え、布で濾した大豆タンパクの水溶液に綿を1時間浸漬して、2日間乾燥させた。ケルセチンスルホン酸0.8gを5gL−1濃度の炭酸ナトリウム水溶液700mLに溶解させた。その溶液と前処理した綿の重量比が40:1となるように調節して、綿を80℃、15分、浸漬した後、水洗した。次いで、0.5%濃度の酢酸銅溶液に、50℃、15分、浸漬して、水洗した。このケルセチンスルホン酸と酢酸銅の溶液での処理を3回繰り返したところ、綿を鮮やかな黄色に染色することができた。酢酸銅溶液を1%ミョウバン(アルミニウム)水溶液に変えても、銅と同様に綿を鮮やかな黄色に染色することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチンスルホン酸またはその塩を含有する染料。
【請求項2】
セルロース品用またはタンパク品用の染料である請求項1記載の染料。
【請求項3】
金属または金属化合物と併用される請求項1または2記載の染料。
【請求項4】
金属または金属化合物が、鉄、アルミニウム、銅、およびこれらの金属化合物からなる群より選ばれるものである請求項3記載の染料。
【請求項5】
タンパクと併用される請求項1〜4の何れかに記載の染料。
【請求項6】
タンパクが大豆タンパクである請求項5記載の染料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の染料を使用することを特徴とする被染色品の染色方法。
【請求項8】
ケルセチンスルホン酸またはその塩とタンパク品とを接触させる工程、およびタンパク品を金属または金属化合物と接触させる工程を有することを特徴とするタンパク品の染色方法。
【請求項9】
セルロース品とタンパクとを接触させる工程、セルロース品をケルセチンスルホン酸またはその塩と接触させる工程、セルロース品を金属または金属化合物と接触させる工程を有することを特徴とするセルロース品の染色方法。

【公開番号】特開2009−7414(P2009−7414A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168017(P2007−168017)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】