説明

ケーキドーナツの製造方法

【課題】製造する際および冷凍・解凍する際に、割れてしまったり、外観が悪くなることがなく、かつ冷凍・解凍後も食感および形状の良好なケーキドーナツが得られるケーキドーナツの製造方法を提供すること。
【解決手段】α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s以上、10Pa・s以下である湿熱処理小麦粉を含有するミックスを用いて生地を作成し、該生地でフィリングを包み込み、これを油ちょうして、ケーキドーナツを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造する際および冷凍・解凍する際に、割れてしまったり、外観が悪くなることがなく、かつ冷凍・解凍後も食感および形状の良好なケーキドーナツが得られるケーキドーナツの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキドーナツは、ベーキングパウダーなどの膨張剤を用いて生地を膨化させて製造されるものであり、生地中にイーストを添加し発酵させて製造されるイーストドーナツとは区別されている。
ケーキドーナツは、例えば生地内に包み込むフィリングとの組み合わせなどによりバラエティに富んだ製品とすることができ、様々な食感、形状のものが市販されている。例えば、食感としては、ソフトでサクミのあるもの、シュー皮タイプで軽い食感のもの、口溶けの良いもの、モッチリ感のものなどであり、形状としては、一般的なリング状のものを始め、球状のもの、スティック状のもの、ツイスト状のもの、包餡物など、様々である。
【0003】
ケーキドーナツは、一般にケーキに近い配合、例えば小麦粉、砂糖、塩、粉乳、卵、バター、ベーキングパウダーなどの膨張剤を用いて生地を調製し、該生地を成形してそのまま油ちょうするか、または生地にフィリングを包み込んで油ちょうすることによって、膨張剤で生地を膨化させて製造されている。
このように、ケーキドーナツは、ベーキングパウダーなどの膨張剤を用いるものであるが、膨張剤は製品ににがみを与えるなど、ケーキドーナツの食感、食味に悪影響を与えることがあり、膨張剤はあまり多く使用しないことが好ましい。
しかし、ベーキングパウダーなどの膨張剤の使用量を少なくすると、ケーキドーナツの外観が悪くなってしまうことがある。また、ケーキドーナツは、製造する際や冷凍保存後に解凍・加熱調理する際に、割れてしまうことがあり問題となっている。
【0004】
特許文献1には、好ましい食感および外観を有するケーキドーナツの製造方法として、水/糖の質量比が0.30〜0.70である糖の水分散液をケーキドーナツの表面に塗布することを特徴とするケーキドーナツの製造方法が提案されている。しかし、この方法では、ケーキドーナツを製造する際の割れの問題を解決することはできないし、糖の水分散液の塗布工程が加わるので煩雑である。
また、特許文献2には、冷凍状態のまま揚げても割れることのないケーキドーナツの製造方法が記載されているが、この方法は、膨張剤として、特殊な膨張剤(膨張剤の表面を油脂や乳化剤でコーティングして水との反応を遅らせるようにした遅効性の膨張剤)を使用するものである。また、この特許文献2の方法では、遅効性の膨張剤使用しているため、形状の良好なケーキドーナツが得難いとの問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−102581号公報
【特許文献2】特開2002−335849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、製造する際および冷凍・解凍する際に、割れてしまったり、外観が悪くなることがなく、かつ冷凍・解凍後も食感および形状の良好なケーキドーナツが得られるケーキドーナツの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、ケーキドーナツの製造に使用する小麦粉として、特定の湿熱処理小麦粉を使用することにより、上記課題を解決できることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s以上、10Pa・s以下である湿熱処理小麦粉を含有するミックスを用いて生地を作成し、該生地でフィリングを包み込み、これを油ちょうすることを特徴とするケーキドーナツの製造方法を提供するものである。
また、本発明は、上記のケーキドーナツの製造方法により製造したケーキドーナツを冷凍することを特徴とする冷凍ケーキドーナツの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造する際および冷凍・解凍する際に、割れてしまったり、外観が悪くなることがなく、かつ冷凍・解凍後も食感および形状の良好なケーキドーナツを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のケーキドーナツの製造方法をその好ましい実施形態について詳しく説明する。
まず、本発明で用いられる湿熱処理小麦粉について説明する。該湿熱処理小麦粉は、小麦粉に水や水蒸気を加え加熱処理する湿熱処理を行い、その後乾燥・粉砕してなるものである。この湿熱処理小麦粉は、α化度が12.5%以上、30%以下、好ましくはα化度が15.0%以上、25.0%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s以上、10Pa・s以下、好ましくは該粘度が2.0Pa・s以上、5.0Pa・s以下である。
【0010】
α化度が12.5%未満で、対粉300質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s未満である湿熱処理小麦粉は、吸水性および膨潤性が低いため、ボリューム感や食感において通常の小麦粉を用いて製造されたケーキドーナツに比べ、品質の優位性が少ない。
一方、α化度が30%を超え、対粉300質量%に加水した場合の粘度が10Pa・sを超える湿熱処理小麦粉は、ボリューム感は出るもののネチャツキが生じ好ましくない。
【0011】
また、本発明で用いられる湿熱処理小麦粉は、粒径が1.0mm以下であり、かつ粒径0.40mm以下の小麦粉の割合が90質量%以上であることが好ましい。
このような粒径の湿熱処理小麦粉を用いることにより、生地調製時に該小麦粉が水に速やかに溶解するため、生地粘度が安定し、ザラツキがなく、滑らかで口溶けの良い食感のケーキドーナツが得られる。
【0012】
本発明で用いられる湿熱処理小麦粉の原料となる小麦粉としては、薄力粉、中力粉、強力粉などが挙げられ、適宜選択して用いることができる。この湿熱処理小麦粉の具体的な製造方法は限定されないが、例えば以下のような方法が採用される。
【0013】
小麦粉の湿熱処理に関しては、小麦粉に水や水蒸気を加え加熱処理する湿熱処理によって、小麦粉に含まれる澱粉を糊化させる方法であれば良く、例えば、密閉型容器内に加水した小麦粉を充填した後、飽和水蒸気を用いて加圧状態で加熱処理する方法、一軸または二軸型エクストルーダーを用いて小麦粉を加水・加熱混練する方法などが採用できる。
例えば、薄力粉を、適宜加水調整した後、アルミパウチに封入密閉し、飽和水蒸気を用いて加圧(1気圧)状態で加熱処理(例えば、110〜130℃で、10〜20分間)することにより、本発明で用いられる湿熱処理小麦粉を得ることができる。
【0014】
また、上記湿熱処理後の乾燥処理の方法としては、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥などの方法が挙げられ、湿熱処理の方法に応じて適宜採用できる。該乾燥処理後の粉砕処理については、ロール粉砕、ピンミル粉砕などの各種粉砕手段が採用できる。
【0015】
本発明で用いられる湿熱処理小麦粉において、上記のα化度および粘度は下記の方法により測定した値である。
<α化度の測定方法>
α化度(糊化度ともいう)の測定にあたっては、従来法であるβ−アミラーゼ・プルラナーゼ法により測定を行う。以下に、その内容について説明する。
【0016】
(A)試薬
使用する試薬は、以下の通りである。
1.0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液
2.10N水酸化ナトリウム溶液
3.2N酢酸溶液
4.酵素溶液:β−アミラーゼ(ナガセ生化学工業(株)#1500)0.017gおよびプルラナーゼ(林原生物化学研究所、No. 31001)0.17gを上記0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液に溶かして100mlとしたもの。
5.失活酵素溶液:上記酵素溶液を10分間煮沸させて調製。
6.ソモギー試薬およびネルソン試薬(還元糖量の測定用試薬)
【0017】
(B)測定手順
1.湿熱処理小麦粉をホモジナイザーで粉砕し、100メッシュ以下とする。この粉砕した湿熱処理小麦粉0.08〜0.10gをガラスホモジナイザーにとる。
2.これに脱塩水8.0mlを加え、ガラスホモジナイザーを10〜20回上下させて分散を行う。
3.2本の25ml容目盛り付き試験管に上記2.の分散液を2mlずつとり、1本は0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液で定容し、試験区とする。
4.他の1本には、10N水酸化ナトリウム溶液0.2mlを添加し、50℃で3〜5分間反応させ、完全に糊化させる。その後、2N酢酸溶液1.0mlを添加し、pHを6.0付近に調整した後、0.8M酢酸−酢酸Na緩衝液で定容し、糊化区とする。
5.上記3.および4.で調製した試験区および糊化区の試験液をそれぞれ0.4mlとり、それぞれに酵素溶液0.1mlを加えて、40℃で30分間酵素反応させる。同時に、ブランクとして、酵素溶液の代わりに失活酵素溶液0.1mlを加えたものも調製する。酵素反応は途中で反応液を時々攪拌させながら行う。
6.上記反応済液0.5mlにソモギー試薬0.5mlを添加し、沸騰浴中で15分間煮沸する。煮沸後、流水中で5分間冷却した後、ネルソン試薬1.0mlを添加・攪拌し、15分間放置する。
7.その後、脱塩水8.00mlを加えた後、攪拌し、500nmの吸光度を測定する。
【0018】
(C)α化度の算出
下式によりα化度を算出する。
【0019】
【数1】

【0020】
<粘度の測定方法>
粘度を測定するにあたっては、対粉300質量%に加水したバッターを調製し、ミキサーによるミキシングを行った後の該バッターの粘度をBM型粘度計にて測定する。以下に、その手順について説明する。
【0021】
(A)バッターの調製
ボール(ホバート社製)に、冷水を900ml注ぎ、その上に湿熱処理小麦粉を300g入れる。ワイヤーホイップ(ホバート社製)にて適当に攪拌し、粉と水を馴染ませた後、ミキサー(ホバート社製)にて1st=30秒、2nd=240秒攪拌する。
(B)測定手順
BM型粘度計を使用し、ミキサー攪拌後10分経過後の粘度を測定する。
【0022】
本発明で生地の作成に用いられるミックスは、上記湿熱処理小麦粉を含有するものである。上記湿熱処理小麦粉の含有量は、好ましくは5〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%である。上記湿熱処理小麦粉の含有量が少な過ぎると、ケーキドーナツにおける喫食時の口溶けが悪く、また上記湿熱処理小麦粉の含有量が多過ぎると、ケーキドーナツにおける喫食時の食感が悪くなる場合がある。
【0023】
上記ミックスには、上記湿熱処理小麦粉の他に、粉原料として、通常の小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉など)などを配合することができ、例えば、薄力粉と強力粉の組合せが好ましい。
【0024】
また、上記ミックスには、ケーキドーナツの製造に従来より用いられている添加物、例えば、卵粉末、脱脂粉乳などの蛋白素材;動植物油脂、粉末油脂などの油脂類;食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料などを必要に応じて適宜配合することができる。
本発明においては、膨張剤の使用量を従来の一般的な使用量よりも減少させることができる。例えば、ベーキングパウダーの場合、従来は一般にミックス中に3質量%程度使用しているが、本発明においては1〜2質量%程度の使用量で十分にその効果が発揮される。
【0025】
上記ミックスを用いての生地の作成は、上記ミックスを用いる以外は従来のケーキドーナツの生地の作成方法と同様にして行うことができる。即ち、常法に従って、上記ミックスに、水の他、必要に応じて卵、バターなどを適宜加えて混練すればよい。上記ミックスへの加水量は、従来のミックスに比べて少なめとするのが好ましく、具体的には、上記ミックス100質量部に対し、水35〜60質量部が好ましく、水40〜50質量部がより好ましい。
【0026】
上記生地に包み込むフィリングとしては、特に制限されるものではなく、例えば、クリーム、カレー、ソーセージ、チーズ、シチュー、ジャム、肉種、あん(餡)などが挙げられる。また、フィリングの包み込み方法やフィリングの包み込み量も、特に制限されるものではなく、従来と同様にして行うことができる。
【0027】
フィリングを包み込んだ生地の油ちょうも、従来と同様にして行うことができ、例えばフィリングの種類によっても異なるが、通常、170〜190℃で2〜5分間程度油ちょうすると良い。
【0028】
上述のようにして製造された本発明に係るケーキドーナツは、油ちょう後、油きりし、冷凍保存することができる。この冷凍は、常法により行うことができ、急速冷凍でも緩慢冷凍でもよいが、好ましくは急速冷凍である。
冷凍された本発明に係るケーキドーナツの解凍、調理の方法としては、特に制限されるものではなく、例えば、電子レンジ、油ちょう、自然解凍による方法などが挙げられ、何れの方法でも良い。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例などによって何ら限定されるものではない。
【0030】
製造例1(湿熱処理小麦粉の製造)
薄力粉を加水率90%にて加水を行った後、アルミパウチに封入密閉し、飽和水蒸気を用いて加圧(1気圧)状態で加熱処理(130℃で15分間)することにより、湿熱処理を行った。湿熱処理後、湿熱処理された小麦粉を棚乾燥にて乾燥処理し、粉砕機にて粉砕処理を行い、粒径1.0mm以下の小麦粉の割合が100%で、粒径0.40mm以下の小麦粉の割合が90%である湿熱処理小麦粉を得た。
得られた湿熱処理小麦粉のα化度は21%、対粉300質量%に加水した場合の粘度は3Pa・sであった。なお、α化度および粘度については、上記した手順で測定した。また、粒径については、マイクロトラックFRA9220(乾式)(日機装株式会社製)を用いて測定を行った。
【0031】
実施例1および2
製造例1で製造した湿熱処理小麦粉を用い、表1に示す配合によりミックスをそれぞれ調製した。これらのミックスを用い、下記の生地配合により、常法に従って生地を作成した。これらの生地と下記のフィリングを用いて下記の製法によりケーキドーナツをそれぞれ製造した。
〔生地配合〕
ミックス 100質量部
水 40質量部
ショートニング 5質量部
〔ケーキドーナツの製法〕
上記の生地配合で、生地を作成した。その後、常法で製造したカレーをフィリングとして、この生地で包み込んだ。カレーを包み込んだ生地をサラダ油で180℃、3分間の条件で油ちょうし、ケーキドーナツを得た。
【0032】
比較例1および2
湿熱処理小麦粉を用いずに、表1に示す配合により調製したミックスを用いた以外は、実施例1と同様にしてそれぞれケーキドーナツを製造した。
【0033】
【表1】

【0034】
評価試験例1
実施例1〜2および比較例1〜2で製造したケーキドーナツについて、油ちょう直後および冷凍状態で7日間保存後に電子レンジで解凍・加熱調理した直後の食感および形状を、10名のパネラーに下記評価基準により評価させた。その評価結果(10名のパネラーの平均点)を表2に示す。
【0035】
(食感の評価基準)
5点:口溶けが非常に良い。
4点:口溶けが良い。
3点:口溶け感が感じられる。
2点:少しねちゃつきがある。
1点:ねちゃつきがある。
【0036】
(形状の評価基準)
5点:丸い形状である。
4点:少しひび割れがある。
3点:ひび割れがある。
2点:ひび割れがあり、かつ少しフィリングがとび出している。
1点:ひび割れがあり、かつかなりフィリングがとび出している。
【0037】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
α化度が12.5%以上、30%以下であり、かつ対粉300質量%に加水した場合の粘度が1Pa・s以上、10Pa・s以下である湿熱処理小麦粉を含有するミックスを用いて生地を作成し、該生地でフィリングを包み込み、これを油ちょうすることを特徴とするケーキドーナツの製造方法。
【請求項2】
ミックス中の湿熱処理小麦粉の含有量が、5〜30質量%である請求項1記載のケーキドーナツの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法により製造されたケーキドーナツを冷凍することを特徴とする冷凍ケーキドーナツの製造方法。