説明

ゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含むチャンネル病治療剤

【課題】新しいチャンネル病の治療剤および治療方法の提供。
【解決手段】ゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含むチャンネル病治療剤およびゲラニルゲラニルアセトンを患者に投与することを特徴とするチャンネル病の治療方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含むチャンネル病治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
チャンネルは、細胞膜表面に存在し、各種のイオンや水を細胞内外に輸送するタンパク質であり、興奮収縮連関、分泌およびシグナルの伝達に重要な役割を担っている。このうち、イオンチャンネルは、イオンを細胞内外に輸送する機能を有しており、正常な生理機能の維持に不可欠なタンパク質である。
【0003】
チャンネル病は、このイオンチャンネルの機能障害により神経、骨格筋、膵臓、心臓等に重篤な機能不全を生じる疾患の総称である(非特許文献1)。チャンネルの機能障害が、心臓のイオンチャンネルに起きると突然死の原因の一つである先天性QT延長症候群となり、腎臓に起きると遺伝性腎疾患となって高血圧や尿崩症を引き起こすことが知られている。また、チャンネルの機能障害が、膵臓に起きると低血糖、筋肉に起きると周期性四肢麻痺や悪性高熱症、神経に起きると反復性失調症、肺に起きると嚢胞性線維症を引き起こすことも知られている。このように、イオンチャンネルの機能障害をともなうチャンネル病は、重篤な疾患である。
【0004】
チャンネル病のうち、特に遺伝性(先天性)QT延長症候群は、働き盛りの年代に突然死を起こすことから、社会的に問題視されている(非特許文献2)。また心房細動や心不全においても後天性チャンネル病が生じる事が報告されている(非特許文献3,4,5)。
したがって、チャンネル病治療剤の開発が求められている。
【0005】
一方、ゲラニルゲラニルアセトン(以下「GGA」とも称する)は、胃炎や胃潰瘍の治療剤として知られている。
GGAは、ヒートショックタンパク質(HSP)を誘導することが知られており、心筋においてもGGAがHSPを誘導して心筋保護作用を有することが知られている(非特許文献6、特許文献1)。
【非特許文献1】倉智嘉久著、心筋細胞イオンチャンネル(文光堂)
【非特許文献2】Chiang C. et al., J Am Coll Cardiol, 36:1-12, 2000
【非特許文献3】Bianca J. et al., Cardiovascular Reserch,2002;54:380〜389
【非特許文献4】Van Wagoner DR. et al., Circ Res,1997;80:772〜781
【非特許文献5】Circ Res 2005; 96: 54-63
【非特許文献6】Ooie T., et al., Circulation, 2001;104:1837〜1843
【特許文献1】特開平10−230361号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の状況において、チャンネル病の治療剤の開発が求められている。したがって、本発明は、チャンネル病治療剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
最近、チャンネル病は、イオンチャンネルの合成過程において、小胞体にタンパク質が貯留した後に分解され細胞膜に輸送発現出来ないという、トラフィックの異常が原因で起こる事が報告された(Gong Q et al., J Biol Chem. 2005; 13;280:19419-25、Saffitz JE et al., Circ Res. 2000; 86: 723-728)。そして、本発明者らは、GGAによりHSPを誘導すれば、チャンネルタンパク質が安定化し、チャンネルタンパク質が細胞膜に輸送されてチャンネル病を治療できるのではないかと考えた。
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、上記仮定に基づいて鋭意研究を行った結果、熱ショックタンパク質(HSP)が、チャンネルタンパク質を安定化していることを明らかにした。そして、チャンネル発現細胞および単離心筋において、ゲラニルゲラニルアセトン(GGA)がHSPとチャンネルタンパク質の発現量を増加することを明らかにした。さらに、GGAによりチャンネルタンパク質を介するイオン電流が増加することも明らかにした。本発明者は、これらの知見から、GGAが、チャンネルタンパク質の発現量を増加させ、チャンネルタンパク質の機能を制御可能であることを初めて見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)ゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含むチャンネル病治療剤。
(2)ゲラニルゲラニルアセトンを患者に投与することを特徴とするチャンネル病の治療方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含む、チャンネル病治療剤が提供される。
また、本発明により、ゲラニルゲラニルアセトンを患者に投与することを特徴とするチャンネル病の治療方法が提供される。
【0011】
本発明において、GGAによりチャンネルタンパク質の発現量が増加し、チャンネル病の治療が可能であることが示された。したがって、本発明により、GGAはチャンネル病治療剤の有効成分として、またはチャンネル病の治療において有用であることが明らかとなった。
本発明により、チャンネル病の治療のための有効な治療剤および治療方法が提供されるため、本発明は臨床上非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
【0013】
1.ゲラニルゲラニルアセトン
本発明はゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含有するチャンネル病の治療剤、およびゲラニルゲラニルアセトンを患者に投与することを特徴とするチャンネル病の治療方法である。
【0014】
本発明において、ゲラニルゲラニルアセトン(GGA)は、式(I)で表され、化合物名は、6,10,14,18−テトラメチル−5,9,13,17−ノナデカテトラエン−2−オン(一般名:テプレノン、以下GGAと称する)の化合物である。
【化1】

【0015】
GGAはその構造から明らかなように、種々の異性体が考えられるが、本発明はそれらのいずれをも含むものである。例えば、GGAは、5,9および13位はE体、Z体のいずれでもよい。
また、本発明において、チャンネル病の治療に使用される場合、GGAは1種類の化合物もしくは2種類以上の化合物の混合物でもよい。チャンネル病の治療において使用されるGGAは、好ましくは、9位および13位がE体である5E体((5E,9E,13E)体)もしくは9位および13位がZ体である5Z体((5Z,9Z,13Z)体)または任意の混合比のそれらの混合物であり、より好ましくは、(5E,9E,13E)体と(5Z,9Z,13Z)体とが3:2の混合物である。
【0016】
GGAの製造方法は公知の方法、例えば、特開平10−230361に記載されている方法に準じて製造することができる。
【0017】
2.チャンネル病治療剤およびチャンネル病の治療方法
本発明は、GGAを有効成分として含む医薬組成物およびGGAを患者に投与することを特徴とするチャンネル病の治療方法に関するものである。本発明の医薬組成物は、チャンネル病の治療に有用である。
【0018】
本発明において、「チャンネル病」は、イオンチャンネルの機能障害により、神経、骨格筋、膵臓、心臓などの臓器に機能不全を生じる疾患の総称である。イオンチャンネルの機能障害は、先天性のものであっても、後天性のものであってもよい。
本発明において、チャンネル病は、限定されるわけではないが、例えば、先天性QT延長症候群、遺伝性腎疾患、高血圧、尿崩症、低血糖、周期性四肢麻痺、悪性高熱症、反復性失調症、嚢胞性線維症等が、また後天性のチャンネル病としては慢性心房細動、慢性心不全が挙げられる。
【0019】
また、チャンネル病は、機能障害の生じるチャンネルの種類により分類することもでき、例えば、Naチャンネル病、Caチャンネル病、クロライド(Cl)チャンネル病、Kチャンネル病等がある。これらの分類によるチャンネル病も本発明に含まれる。
本発明において、例えば、(1) Naチャンネル病としては、ブルガダ症候群、先天性パラミオトニア、周期性四肢麻痺等が挙げられ、(2) Caチャンネル病としては、周期性四肢麻痺等が挙げられ、(3) クロライドチャンネル病としては、先天性ミオトニア等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0020】
本発明において、治療は、疾患の症状を軽減すること、疾患の症状の進行を抑制すること、疾患の症状を除去すること、疾患の予防をすること、および疾患の予後を改善することを含む。
【0021】
本発明において、チャンネル病を治療するために、GGAは単独で用いてもよいし、製剤化した医薬組成物として用いてもよい。
【0022】
本発明のチャンネル病治療剤を使用する際の、患者へのGGAの投与量は、症状の程度、患者の年齢、体重および性別、投与方法などの条件により適宜定められるが、例えば、成人(体重60kg)一日あたり20〜2000mg、好ましくは50〜1000mg、さらに好ましくは100〜500mgである。これを通常一日1〜3回に分けて投与することができる。
【0023】
本発明において、GGAの投与形態は特に制限されず、経口的または非経口的に投与することができる。特に経口投与は、注腸などに比べて患者の負担が少ないので好ましい。
【0024】
本発明のチャンネル病治療剤は、種々の剤形にすることができる。
経口投与のための剤形は、固体または液体の剤形、具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが好ましい。非経口投与のための剤型は、注射用製剤、点滴剤、外用剤、坐剤等が好ましい。
【0025】
本発明において、GGAは、慣用される方法により製剤化することが可能で、通常用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、緩衝剤、懸濁化剤等、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、保存剤等を使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して定法により製剤化される。
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、でんぷん、マンニトール等が用いられる。
結合剤としては、例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が用いられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が用いられる。
【0026】
なお、本発明には、チャンネル病治療剤の製造のためのGGAの使用も含まれる。
【0027】
以下に、実験例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるべきものではない。
【実施例1】
【0028】
1.Kv1.5タンパク質の安定化を促進するHSPの同定
本実施例は、HSF-1, HSP27, HSP 40または HSP 70と、チャンネルタンパク質であるKv1.5タンパク質とを共発現させ、Kv1.5タンパク質を安定化するHSPを同定することを目的とした。
FLAGを付加したFLAG-Kv1.5タンパク質を発現する細胞は、Kato et al.,(Biochem Biophys Res Commun. 2005 Nov 11;337(1):343-8)及びTanaka et al.,(Biochem Biophys Res Commun. 2005 Jun 17;331(4):1001-6)に記載の方法と同様に作製した。また、HSF-1, HSP27, HSP 40および HSP 70の発現ベクターはFujimoto M. et al., (J Biol Chem. 2005 Oct 14;280(41):34908-16)に記載の方法に従って作製した。
【0029】
FLAG-Kv1.5タンパク質発現細胞に、HSF-1, HSP27, HSP 40および HSP 70の発現ベクターをそれぞれtransfectionした。培養48時間後に細胞を回収して溶解し、溶解液をSDS-PAGEにて分離した。分離したタンパク質をメンブランに転写し、FLAGに対する抗体を用いたウエスタンブロット法にて、FLAG-Kv1.5タンパク質を検出した。
その結果、図1に示すようにHSF-1, HSP40または HSP 70との共発現でFLAG-Kv1.5タンパク質の増加が認められた。このことから、これらHSP(HSF-1, HSP40または HSP 70)がKV1.5タンパク質を安定化していることが明らかとなった。
【実施例2】
【0030】
2.GGAのHSP70発現量、及びKv1.5タンパク質発現量に対する効果
本実施例では、FLAG-Kv1.5タンパク質発現細胞に、GGAを作用させたときの、HSP70の発現量、及びFLAG-Kv1.5タンパク質の発現量に対するGGAの効果を検討した。
培養したFLAG-Kv1.5タンパク質発現細胞に、GGAを0, 0.4, 4, 40μMとなるように加えた。48時間後に細胞を回収して溶解し、溶解液をSDS-PAGEにて分離し、抗HSP70抗体(アラモネラボ社製)を用いたウエスタンブロット法にてHSP70を検出した。その結果、図2(A)に示す通り、HSP70の発現量はGGAの濃度依存的に増加した。
【0031】
またGGAの濃度を0.2μMに固定し、GGAを作用させてから0, 2, 4, 6, 15時間後に細胞を回収し、前記と同様の方法でウエスタンブロットにてHSP70を検出した。その結果、図2(B)に示す通り、HSP70はGGA処理後2時間で増加し始め、4時間後に最大の増加を示し、その作用は15時間に亘り持続した。
【0032】
一方、GGAを作用させた細胞のFLAG-Kv1.5タンパク質を、前記と同様の方法でFLAGに対する抗体を用いたウエスタンブロットにて検出した。その結果、GGA0.1μMから0.4μMの範囲は、FLAG-Kv1.5の発現を増加させた(図3(A)及び(B))。
【0033】
またGGAの量を0.2μMに固定し、前記と同様の方法でウエスタンブロットにてKv1.5タンパク質を検出した。GGAは、作用開始2時間後からKv1.5タンパク質の発現を増加させ、その効果は15時間後まで持続していた(図3(C))。図3(C)中、「G」はGGAを示し、「E」はエタノールを示す。エタノールはGGAを溶解させるのに用いる溶媒であり、本実施例ではGGAに対するコントロールとして用いた。
【実施例3】
【0034】
3.GGAのKv1.5タンパク質を介するイオン電流に対する効果
本実施例では、GGAによるKv1.5タンパク質の増加効果が、Kv1.5タンパク質を介するイオン電流にも及ぶかについて検討を行った。
FLAG-Kv1.5タンパク質発現細胞のIKur(Kv1.5タンパク質が形成するイオン電流)をGGAの存在下、パッチクランプ法により測定した。その結果、IKurはGGAの濃度依存的に増加した。また、0.2μM GGAについて前記と同様のパッチクランプ法を行ったところ、IKurは60 mV及び80 mVの電圧で、有意差を持って増加していた(図4(A),(B))。
【実施例4】
【0035】
4.in vivoで投与したGGAのKv1.5タンパク質発現量に対する効果
本実施例では、GGAのKv1.5タンパク質増加効果が、in vivoでも発揮されるかを検討した。
Wisterラットに、GGA 200 mg/kgを投与した。このラットから心筋を採取して、心筋中のHSP70及びKv1.5タンパク質の量をウエスタンブロットにて測定した。抗Kv1.5タンパク質抗体はアラモネラボから入手した。
【0036】
その結果、GGAの投与により、投与12時間後のHSP70及びKv1.5タンパク質の量が増加した(図5)。このことから、in vivoにおいても、GGAのKv1.5タンパク質増加効果が見られることが明らかとなった。
【0037】
以上より、GGAは、in vitroおよびin vivoにおいて、チャンネルタンパク質の量を増加させ、チャンネルタンパク質を介するイオン電流を制御可能であることが示された。
したがって、GGAはチャンネル病の治療に有効であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】HSF-1, HSP27, HSP 40またはHSP 70の発現による、FLAG-Kv1.5タンパク質の発現量に対する効果を示す図である。
【図2】HSP70発現量に対するGGAの効果を示す図である。
【図3】Kv1.5発現量に対するGGAの効果を示す図である。
【図4】Kv1.5タンパク質を介するイオン電流に対するGGAの効果を示す図である。
【図5】in vivoで投与したGGAのKv1.5タンパク質発現量に対する効果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲラニルゲラニルアセトンを有効成分として含むチャンネル病治療剤。
【請求項2】
ゲラニルゲラニルアセトンを患者に投与することを特徴とするチャンネル病の治療方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−217365(P2007−217365A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−41105(P2006−41105)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】