説明

ゲルの接着方法

【課題】 接着と言う観点からは困難であったゲル、特にヒドロゲルの接着に関し、非常に簡便にかつ効果的にこれを可能にするという、全く新たなゲルを接着する手段を提供することにある。
【解決手段】 分子中にカチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルに対しては、アニオン性の微粒子を介在させ、また、分子中にアニオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルに対しては、カチオン性の微粒子を介在させることを特徴とするゲルの接着方法。同法において、有機ゲルが水を含有したヒドロゲルである場合や、アニオン性の微粒子およびカチオン性の微粒子の平均粒経が1nm以上1000nm以下である場合に効果が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的または物理的に架橋され、溶媒を含有している主に有機成分よりなる架橋ネットワーク体、すなわちゲルを強固に接着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルとは、「あらゆる溶媒に不溶の3次元網目構造を持つ高分子およびその膨潤対」と定義される(新版高分子辞典(1988))。その中でも多量の溶媒を吸収したゲルは液体と固体の中間の性質を有するもので、有機高分子などの三次元網目(ネットワーク)の中に溶媒を安定的に取り込んでいる。特に溶媒として水を用いたゲル(以下、ヒドロゲルもしくは水性ゲルと呼ぶ)は生体においても重要な構成素材であり、これまで衛生用品、生活・日用品、食品・包装、医療医薬、農業・園芸、土木・建築、化学工業、電子・電気工業、スポーツレジャー産業など多数の工業分野において広く利用されている(長田義仁、梶原莞爾編”ゲルハンドブック” 第3篇応用編 株式会社エヌ・ティー・エス、1997年)。コンタクトレンズやオムツの吸収剤はその一例である。
【0003】
ヒドロゲルは主に2種類の構成成分からなっている。ひとつは種々の方式で橋架けされた三次元網目であり他の一つは水である。三次元網目の構成成分としては、有機化合物又は無機化合物のいずれを用いることも可能である。有機化合物のヒドロゲルでは、有機高分子又は有機分子が共有結合、水素結合、イオン結合、配位結合、疎水結合などにより架橋するか、又は物理的絡み合いや微結晶などを架橋点として三次元網目を形成している。
【0004】
具体的に三次元網目を形成する有機分子としては、疎水結合により架橋が形成される卵白アルブミンや血清アルブミン、ヘリックス形成によるゼラチンやアガロース、アルカリ土類金属イオンとの配位結合により架橋を形成するポリアクリル酸やポリスチレンスルホン酸、イオン結合により架橋する2種の高分子(ポリカチオンとポリアニオン)複合系、水素結合で架橋される完全けん化ポリビニルアルコール等のほか、熱、放射線、光、プラズマの照射、有機架橋剤添加により、有機高分子間に共有結合による架橋を形成させたものが知られている。
【0005】
一方、無機物で三次元網目を形成するものとしては、金属アルコキシドの加水分解重縮合(いわゆるゾル-ゲル反応)により調製される金属酸化物や層間にカチオンを有する層状粘土鉱物が知られている。
【0006】
無機物のヒドロゲルは強度や伸びが小さく脆い性質を有しているため、単独のヒドロゲル材料として用いられることは少ない。これに対し有機化合物、そのなかでも共有結合などによる有機高分子の三次元網目と水からなるヒドロゲルは力学物性が良好であることや、生体適合性、環境適合性が高いことが期待されることから、ソフトマテリアルや機能性ゲル材料として幅広い産業分野で用途開拓が進められている。
【0007】
このような有機架橋ヒドロゲルの有用性をさらに拡大させる為に、ゲルの成型加工性を向上させることは、重要である。もしゲルが自由に接着できれば、自由な形状を得ること、あるいは2種の異なった特性を持つゲルを複合化すること、さらに、多層のゲルを複合化してゲルの傾斜材料を得ることなどが可能になり、ゲルの有用性はまた一段と向上することが考えられる。
【0008】
しかし、ゲルの接着、特に多量の水を含むヒドロゲルの接着は簡単ではない。北海道大学の斉藤らは、いったん切断したゲルをいわゆる接着剤等で接着することが困難であることから、二つのゲル切片に反応性のモノマーを含浸させ、それを重合することで、二つのゲル切片間に別のネットワークを形成することにより、ゲルの接着を達成した。(非特許文献1)しかし、この方法は煩雑であり、また時間がかかるものである。カチオン基やアニオン基を含むヒドロゲル、すなわち、ポリ電解質ではポリカチオンとポリアニオン間のイオン対効果を利用した接着が、制限された条件では可能であることを岐阜大学の玉川ら(非特許文献2)、およびオーストラリアWollongong大学のG.M.Spinksらが報告(非特許文献3)している。しかし、これらはポリカチオン、ポリアニオン間である制限下に可能な現象であり、例えば同一ゲルを切断して接着するというようなことはできない。
【非特許文献1】斉藤潤二ら 第17回高分子ゲル研究討論会講演予稿集 2006年11月8日
【非特許文献2】玉川浩久ら Bull. Chem.Soc.Jpn., 2002, 75, 383
【非特許文献3】G.M. Spinks, ACS Polymer Preprints 2007, 48(1), 645
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、接着と言う観点からは困難であったゲル、特にヒドロゲルの接着に関し、非常に簡便にかつ効果的にこれを可能にするという、全く新たなゲルを接着する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、カチオン基を含んだ有機ゲルに対しては、アニオン性の微粒子を介在させることにより、またアニオン基を含んだ有機ゲルに対しては、カチオン性の微粒子を介在させることにより接着を可能にすると言う方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明は、(1)分子中にカチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルに対しては、アニオン性の微粒子を介在させ、また、分子中にアニオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルに対しては、カチオン性の微粒子を介在させることを特徴とするゲルの接着方法である。(2)また、上記(1)の発明において、有機ゲルが水で膨潤したヒドロゲルであることを特徴とするゲルの接着方法である。(3)更に、上記(1)または(2)の発明において、アニオン性の微粒子およびカチオン性の微粒子の平均粒経が1nm以上1000nm以下であることを特徴とするゲルの接着方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、例えば水分散したアニオンシリカ(アニオン型ナノパーティクル)を、4級アンモニウム型カチオン基を構成成分として含む化学架橋型ヒドロゲルの二つの切片の一方に塗布し、もう一方を軽く圧着するだけで、二つのカチオン型ヒドロゲルをしっかり接着することが出来る。また逆に例えば水分散したアルミナ粒子(カチオン型ナノパーティクル)を、カルボキシアニオン基を構成成分として含む化学架橋型ヒドロゲルの二つの切片の一方に塗布し、もう一方を軽く圧着するだけで、二つのアニオン型ヒドロゲルをしっかり接着することが出来る。さらにこの操作を繰り返せば、積層型の複合ゲルを容易に得ることが出来、また例えば、接着に供されるゲルの化学組成を少しずつ変えてやれば、擬似傾斜ゲル材料を容易に得ることが出来るなど、その応用範囲は広い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に使用できる、ゲルについて説明する。
まず、ポリカチオンゲル(カチオン基を分子中に有する高分子のゲル)について説明する。
最も一般的には、分子中に重合可能な官能基、例えばビニル基を有し、同一分子中に1級、2級、3級アミノ基(それぞれプロトン化してアンモニウム基として使用)や4級アンモニウム基を含むモノマーを、そのモノマーと反応して架橋反応を起こす架橋剤とともに溶媒(例えば水)中または無溶媒で反応の開始剤とともに反応させ、化学的に架橋したゲルとして得ることが出来る。このときカチオン基を有するモノマーは1種類だけを用いる必要は無く、2種類以上を用いてもいいし、また、カチオン基を有するモノマー、架橋剤に加えて、広範囲の条件で中性な性能を示すモノマーや、少量であれば、アニオン性の性格を示すモノマーを加えてもかまわない。
これらのアミノ型、または4級アンモニウム型モノマーの例としては、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピルメタクリレート、アリルアミン、N-メチルアリルアミン、ジアリルアミン、N-メチルジアリルアミン、N,N-ジメチルアリルアンモニウム塩酸塩、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、メタクロイルコリンクロリド、ビニルピリジンなどを挙げることができる。またN−ビニルホルムアミドのように重合反応後アミノ基や置換アミノ基、さらには4級アンモニウム基に変換できるモノマーもこれに含まれる。
【0014】
中性な性能を示すモノマーとしてはアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミドのようなアクリルアミドおよびその誘導体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ビニルピロリドンなどをあげることができる。
【0015】
アニオン性の性能を示すモノマーとしては、アクリル酸(のアルカリ金属塩)、メタクリル酸(のアルカリ金属塩)、ビニルベンゼンスルホン酸(のアルカリ金属塩)、ビニルナフタレンスルホン酸(のアルカリ金属塩)などをあげることが出来る。
これらのモノマーを溶媒(例えば水)に必要量溶解し、そこに架橋剤として従来から公知のN,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N’−ビスアクリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物を所定量添加し、さらに重合反応の開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)を加え、加熱することにより所望のゲルを得ることが出来る。過酸化物を開始剤に用いた場合は、加熱ではなく触媒として、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンや、β−ジメチルアミノプロピオニトリルなどにより重合反応を開始することも出来る。
【0016】
重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて0℃〜100℃の範囲で設定できる。重合時間も触媒、開始剤、重合温度、重合溶液量(厚み)など重合条件によって異なり、一般に数十秒〜数時間の間で行える。
【0017】
次に、このようにして得られたゲルの接着に用いるアニオン性微粒子であるが、表面がアニオン性に帯電しており、ゲルに含有されている同一溶媒あるいは完全に混じりあう溶媒中に安定して分散されている必要がある。粒子の平均サイズは1nmから11000nmが好ましく、1nmから100nmが特に好ましい。
具体的には、粒子の安定性、均一性といった性能面からも、また、工業的に多品種が大量に製造されているため、入手しやすく、種類が多数選択できるといった使いやすさの面からも、価格の面からもアニオンシリカがもっとも好ましい。
【0018】
より具体的には例えば日産化学工業株式会社製のスノーテックスシリーズをあげることができる。水分散系では、ST-XS(平均粒経4〜6nm)、ST-20(平均粒経10〜20nm)、ST-20L(平均粒経40〜50nm)、ST-YL(平均粒経50〜80nm)、ST-ZL(平均粒経70〜100nm)をあげることができる。この中でもST-XS、ST-20のような平均粒経の小さいもののほうが強い接着強度を示す傾向がある。
【0019】
接着のメカニズムについては必ずしも完全には理解できてはいないが、ドライビングフォースの重要なものは、二つのゲル切片の界面近傍に存在する多数のカチオン基と、おもに界面を中心に分布する微粒子上の多数のアニオン基の電気的な引力的相互作用であると思われる。粒子が小さすぎる場合、微粒子はゲルの網をすり抜けて、ゲル内に拡散し、界面での接着という機能を失う。微粒子の極端な場合としての多価アニオン原子団(二価のスルホン酸基:SO42-など)の介在では、接着現象は生じない。逆に微粒子が大きすぎる場合、密着のためにゲルは変形を強制され、十分な接着保持力が生まれないものと考えている。したがって、微粒子の大きさとゲルネットワークの大きさには相対的な接着最適の関係が存在するものと考えられる。
【0020】
接着は非常に簡単に起きる。ゲル切片を二つ用意し(最も簡単にはひとつのゲルの塊を2つに切断し)、その片方にアニオン微粒子分散液を適量塗布する。そしてもう一片を塗布面に軽く圧着すると、早ければ即座に、遅くても1時間以下で二つのゲル片は接着する。多くの場合、引き剥がそうとしてもゲルの破壊が先行し、接着面を引き剥がすことは困難である。
【0021】
次に、ポリアニオンゲル(アニオン基を分子中に有する高分子のゲル)について説明する。
最も一般的には、分子中に重合可能な官能基、例えばビニル基を有し、同一分子中にカルボン酸やスルホン酸で代表される酸のアルカリ金属塩基を含有するモノマーと、それと反応して架橋反応を起こす架橋剤とともに溶媒(例えば水)中または無溶媒で反応の開始剤とともに反応させ、化学的に架橋したゲルとして得ることが出来る。このときアニオン基を有するモノマーは1種類を用いても良く、2種類以上を用いてもいいし、また、アニオン基を有するモノマー、架橋剤に加えて、広範囲の条件で非イオン性を示すモノマーや、少量であればカチオン性を示すモノマーや両性(ツビッターイオン)型のモノマーを加えてもかまわない。
アニオン性モノマーの代表例、中性モノマーの代表例、カチオン性モノマーの代表例については、ポリカチオンゲルの説明のところで既に紹介したものを挙げられる。
アニオンゲルの接着には、カチオン微粒子を用いることが必要である。
【0022】
カチオン粒子の代表例としてはアルミナゾルを挙げることができる。より具体的には、日産化学工業株式会社製アルミナゾル520(平均的粒子の大きさ10〜20nm)、アルミナゾル100(平均的粒子の大きさ10×100nm)などである。また表面にAlカチオン処理をしたシリカを用いることも出来る。この具体的例としては日産化学工業株式会社製スノーテックスST-AK(平均粒子経10〜20nm)を挙げることができる。
接着操作やその機作についてはポリカチオンゲルをアニオン微粒子で接着する場合と同様である(電荷はそれぞれ逆であるが)。
【0023】
本発明の接着方法を適用する際の具体的なゲルの形状であるが、ゲルはブロック状、シート状、立体形状、粒子状、繊維状などのいかなる形態でも良い。接着したいゲルの表面にイオン性の微粒子を粉体あるいは分散液の形態で塗布し、他のゲルに圧着することにより接着が行われる。
【実施例】
【0024】
次いで、本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0025】
<カチオン性ポリマーゲルの合成>
(C-1ゲルの合成)
NRK社製の凍結用アンプルに(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドの75%水溶液(東京化成工業株式会社より購入)11.0g(モノマーとして4×10-2mol)をとり、ミリポア社製超純粋装置により精製した水(以下ミリポア水と呼ぶ)10.7gを加えよく混ぜ合わせ、ここに0.123gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(8×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途2gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸カリウム0.108g(4×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に6時間つけ、ゲル濃度35%のカチオンゲルを得た。
【0026】
(C-2ゲルの合成)
NRK社製の凍結用アンプルに(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドの75%水溶液(東京化成工業株式会社より購入)5.5g(モノマーとして2×10−2mol)をとり、ミリポア水10.6gを加えよく混じり合わせ、ここに0.154gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(1×10-3mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途2gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸カリウム0.054g(2×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に6時間つけ、ゲル濃度25%のカチオンゲルを得た。
【0027】
(C-3ゲルの合成)
NRK社製の凍結用アンプルにアリルアミン(東京化成工業株式会社より購入)0.75g(モノマーとして0.8×10-2mol)とアクリルアミド(東京化成工業株式会社より購入)1.71g(モノマーとして2.4×10-2mol)をとり、ミリポア水1gを加えよく混じり合わせ、ここに0.049gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(3.2×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.0365g(1.6×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後65±1℃に調整したシリコンオイルバス中に6時間つけ、ゲル濃度10%のゲルを得た。
【0028】
<アニオン性ポリマーゲルの合成>
(A−1ゲルの合成)
NRK社製の凍結用アンプルにアクリル酸(東京化成工業株式会社より購入)2.9g(モノマーとして4×10-2mol)をとり、ミリポア水7.8gを加えよく混じり合わせ、ここに0.123gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(8×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途調整した10規定の苛性ソーダ溶液5.6gをゆっくり加えアクリル酸を中和した。この溶液に別途調整した2gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸カリウム0.108g(4×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後70±1℃に調整したシリコンオイルバス中に6時間つけ、ゲル濃度25%のアニオンゲルを得た。
【0029】
<中性ポリマーゲルの合成(比較例用)>
NRK社製の凍結用アンプルにアクリルアミド(東京化成工業株式会社より購入)2.27g(モノマーとして3.2×10-2mol)をとり、ミリポア水19.4gを加えよく混じり合わせ、ここに0.049gのN,N’−メチレンビスアクリルアミド(3.2×10-4mol、架橋剤、東京化成工業株式会社より購入)を溶解した。この溶液に別途調整した1gのミリポア水に溶解したペルオキソ二硫酸アンモニウム0.0365g(1.6×10-4mol、ラジカル重合開始剤)を加えた。アンプルを窒素ラインにつなぎ、減圧、窒素置換の操作を10回繰り返した。その後65±1℃に調整したシリコンオイルバス中に4時間つけ、ゲル濃度10%の中性ゲルを得た。
【0030】
<ゲルの接着実験と結果>
(実験1) 上記C-1ゲルを凍結用アンプルから取り出し、はさみを用いて1辺1cmのブロックを切り出した。これを、はさみを用いて二つの切片に切り、片一方のブロックの切断面に日産化学工業株式会社製のスノーテックスST-XS(平均粒経4〜6nm、SiO2分20%)液を一滴(0.02〜0.03g)滴下し、ガラス棒などで、切片に均一になじませる。その後すぐに、もうひとつのゲル切片を切断面が合い向かい合うように軽く圧着する。圧着後5分後、1時間後、1日後の各時点で、切断面をはがすように引っ張り、そのときの挙動で以下のような◎〜×の評価基準で評価した。
切断面がしっかりくっつき、力を入れて引っ張ると切断面で無くゲルのバルクが破壊する場合(◎)、切断面はしっかりくっついているが、力を入れて引っ張ると、切断面から剥がれる場合(○)、切断面の接着が弱く、力を入れて引っ張ると切断面から容易に剥がれる場合(△)、殆どくっついておらず取り扱いの途中で剥がれてしまう場合(×)。
上記評価基準に基づき、C-1ゲルをST-XSで接着した場合は、圧着後の時間にかかわらず全て◎評価であった。
【0031】
(実験2) 上記C-1ゲルの代わりにC-2ゲルを用い、スノーテックスST-XSのかわりにスノーテックスST-20(平均粒経10〜20nm、SiO2分20%)を用いた以外は実験1と同様に操作して、接着状態を評価した。その結果、C-2ゲルをST-20で接着した場合は圧着後の時間にかかわらず全て◎評価であった。
【0032】
(実験3) 上記C-1ゲルの代わりにC-3ゲルを用い、実験1と同様に操作して、接着状態を評価した。その結果、C-3ゲルをST-XSで接着した場合は、5分後は○、1時間後および1日後は◎評価であった。つぎに、接着して1日後のC-3ゲルを1日間ミリポア水に浸漬し、水を吸収させ、全体の重量が約2倍になりほぼ平衡に達した後にゲルを引っ張り、接着状態を評価した。結果は○評価であった。
【0033】
(実験4) 上記C-1ゲルの代わりにA-1ゲルを用い、スノーテックスST-XSのかわりにアルミナゾル520(粒子の平均大きさ10〜20nm、Al2O3分21%)を用いた以外は実験1と同様に操作して、接着状態を評価した。その結果、A-1ゲルをアルミナゾル520で接着した場合は圧着後の時間にかかわらず全て◎評価であった。
【0034】
(比較実験1) 上記実験1において、日産化学工業株式会社製のスノーテックスST-XS(平均粒経4〜6nm、SiO2分20%)液のかわりに、ミリポア水を用いた以外は、実験1と同様の操作を行いゲルの接着を試みた。その結果、圧着後の時間にかかわらず接着は全て△評価であった。
【0035】
(比較実験2) 上記実験1において、日産化学工業株式会社製のスノーテックスST-XS(平均粒経4〜6nm、SiO2分20%)液のかわりに、硫酸ナトリウムの20%水溶液を用いた以外は、実験1と同様の操作を行いゲルの接着を試みた。その結果、圧着後の時間にかかわらず接着は全て×評価であった。
【0036】
(比較実験3) 上記実験2において、日産化学工業株式会社製のスノーテックスST-XS(平均粒経4〜6nm、SiO2分20%)液のかわりに、アルミナゾル520(粒子の平均大きさ10〜20nm、Al2O3分21%)を用いた以外は、実験1と同様の操作を行いゲルの接着を試みた。その結果、圧着後の時間にかかわらず接着は全て×評価であった。
【0037】
(比較実験4) 上記実験4において、アルミナゾル520(粒子の平均大きさ10〜20nm、Al2O3分21%)液のかわりに、日産化学工業株式会社製のスノーテックスST-XS(平均粒経4〜6nm、SiO2分20%)を用いた以外は、実験4と同様の操作を行いゲルの接着を試みた。その結果、圧着後の時間にかかわらず接着は全て×評価であった。
【0038】
(比較実験5) 上記実験1において、C-1ゲルの代わりに上記中性ポリマーゲルを用いた以外は、実験1と同様の操作を行いゲルの接着を試みた。その結果、圧着後の時間にかかわらず接着は全て△評価であった。
【0039】
(比較実験6)
上記実験4において、A-1ゲルの代わりに上記中性ポリマーゲルを用いた以外は、実験1と同様の操作を行いゲルの接着を試みた。その結果、圧着後の時間にかかわらず接着は全て△評価であった。
【0040】
<実施例のまとめ>
上記実施例に示されるように、カチオン基を持つゲル同士はアニオン性のナノパーティクルにより、アニオン基をもつゲル同士はカチオン性のナノパーティクルにより、強固に接着できる。一方、ナノパーティクルを含まない液で接着しようとした場合、帯電ナノパーティクルの代わりに多価イオンを含む液で接着しようとした場合、またカチオン基を持つゲル同士をカチオン性のナノパーティクルにより接着しようとした場合、アニオン基をもつゲル同士をアニオン性のナノパーティクルにより接着しようとした場合は、接着はことごとく失敗した。さらに電荷を持たないゲルをこの方法で接着することもできない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
このように本発明の効果は明確であり、応用分野としてはゲルの成型やゲルの加工、ゲルによる多層体の生成、擬似傾斜材料の生成などが考えられ、本技術の応用展開性は大きい。特に水性ゲルは、生体適合性、環境適合性が高いことが期待されることから、ソフトマテリアルや機能性ゲル材料として幅広い産業分野で用途がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にカチオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルに対しては、アニオン性の微粒子を介在させ、また、分子中にアニオン基を有する高分子を構成成分とする有機ゲルに対しては、カチオン性の微粒子を介在させることを特徴とするゲルの接着方法。
【請求項2】
有機ゲルが水を含有したヒドロゲルであることを特徴とする請求項1に記載のゲルの接着方法。
【請求項3】
アニオン性の微粒子およびカチオン性の微粒子の平均粒経が1nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のゲルの接着方法。