説明

ゲルの染色脱色方法及び装置

【課題】電気泳動後の複数のゲルに対して、同一条件で染色、脱色ができ、振とう時のゲルの破損を防止して、作業者がゲルに触れることなく、液を交換することが可能なゲルの染色脱色方法を実現する。
【解決手段】ゲル収容網状容器2はゲル1を一枚毎に格納できる網状であり、ゲル1の格納のための網状底部2aと、網状側面部2bと、段差部2cとから形成され複数個の容器2は互いに重ねて固定できる。ゲルを収容する複数の容器2を重ねた容器集合体3が染色脱色用容器4に収容される。容器集合体3内の各ゲルは上方に配置された容器2の底部2aにより、上方への移動が規制されているため反転すること無く振とうすることができる。これにより、電気泳動後の複数のゲルは容器集合体3内で同時に同一の条件で、振とう時に反転することなく、染色及び脱色を行うことができ検体間の比較を正確に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質等を電気泳動した後のゲルの染色脱色方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載されているように、タンパク質を分子量ごとに分離する電気泳動、または等電点と分子量により分離する二次元電気泳動後のゲルはタンパク質と結合する色素を利用してゲル上で検出できる。
【0003】
クマシーブリリアントブルー(CBB)溶液を用いる場合は、電気泳動後のゲルを0.1%程度のCBB溶液に浸し振とうする。この際、ゲル全体が青色に染色されるが、この液を脱色液(40%メタノール溶液など)に交換し、適当な時間振とうすることでタンパク質の存在しない部分から青色を脱色することができる。タンパク質の存在する部分は青色に染色されるので、タンパク質を検出することができる。
【0004】
また、銀の錯体を含む溶液内で電気泳動後のゲルを振とうし、銀の錯体とタンパク質とを結合させ、その錯体を還元することにより銀を析出させる方法もある(銀染色)。
【0005】
この場合は、ゲルを染色液内で一定時間振とうした後、一度、純水などで洗浄し検出用の液(ホルムアルデヒドなど)でタンパク質をゲル上で検出して観察できるようにするものである。検出後は検出反応を停止する溶液(5〜10%酢酸など)を引き続き加える。このほか、蛍光染色も用いられている。
【0006】
上記のように、ゲルを染色する際、再現良く検出する必要があり、特に、二次元電気泳動においては、検体間でタンパク質の発現を比較することが多い。このため、比較に用いるゲルの染色を同程度にし、再現性を得る必要がある。
【0007】
ここで、ゲルの染色及び脱色用の容器には食品用のタッパーやトレイを用いることが多く、一枚のゲルを一つの容器を用いて振とうし、染色及び脱色を行うことが一般的である。
【0008】
【特許文献1】特開平7−167837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来技術において、電気泳動後、一枚のゲルを一つの容器に入れ、その容器内で、一枚ずつ染色及び脱色を行っていた。このため、使用した染色液の量や、わずかな時間の差により、それぞれのゲル間で染色の程度が異なるという問題が生じていた。
【0010】
また、ゲルを容器内で振とうさせる場合、ゲルが反転して破損してしまう可能性があるため、その作業は、作業者により慎重に行行われる必要があった。このため、ゲルの振とう作業を自動化することが困難であった。
【0011】
さらに、染色液、純水等の液交換は、容器からゲルが流れ落ちないよう、作業者が手袋をした手や汚れのない棒やヘラなどでタンパク質の存在しないゲルの端を押さえて行われているが、この時、ゲル自体の重さによりゲルが裂けてしまい、後で比較できなくなるという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、電気泳動後の複数のゲルに対して、同一条件で染色、脱色ができ、振とう時のゲルの破損を防止して、作業者がゲルに触れることなく、液を交換することが可能なゲルの染色脱色方法及び装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のゲル染色脱色方法は、液体が通過可能な孔が形成されゲルが配置される底面及び側面を有するゲル収容容器に電気泳動後のゲルを収容し、一つのゲル収容容器の上記底面と他のゲル収容容器の底面との間にゲルが配置されるように複数のゲル収容容器を互いに重ね合わせて容器集合体を形成する。そして、容器集合体を、染色液及び脱色液が収容される染色脱色用容器内に配置し、染色脱色用容器を用いて、染色液に容器集合体を浸漬して振とうし、染色脱色用容器を用いて、脱色液に容器集合体を浸漬して振とうする。
【0014】
本発明のゲルの染色脱色用容器は、液体が通過可能な孔が形成されゲルが配置される底面及び側面を有するゲル収容部と、ゲル収容部の側面に形成された段差部とを備え、段差部は他の染色脱色用容器の底面を支持し、複数の染色脱色用容器を互いに重ね合わせて集合体を形成することが可能である。
【0015】
本発明のゲルの染色脱色用振とう装置は、上記染色脱色用容器の複数が互いに重ね合わされた集合体が収容される染色脱色用容器が配置され、この染色脱色用容器を振とうする振とう部と、この振とう部の動作を制御するコントローラとを備える。
【発明の効果】
【0016】
電気泳動後の複数のゲルに対して、同一条件で染色、脱色ができ、振とう時のゲルの破損を防止して、作業者がゲルに触れることなく、液を交換することが可能なゲルの染色脱色方法、ゲルの染色脱色用容器及びゲルの染色脱色用振とう装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるゲル染色及び脱色用容器の概略斜視図である。図1の(A)に示すように、ゲル収容網状容器2は、ゲル1を一枚毎に格納できる網状のものであり、ゲル1の格納のための網状底部2aと、網状側面部2b(図では、簡素化のため、網状部分は省略する)と、段差部2cとから形成されている。そして、図1の(B)に示すように、複数個の容器2は、一つの容器2の底部2aの他の容器2の段差部2cに挿入されて支持され、互いに重ねて固定することができる。
【0018】
網状側面部2bの高さ寸法は、ゲル1の厚みより大きく、ゲル1の幅寸法以下の値となっている。例えば、ゲル1の厚みが1〜2mmの場合、網状側面部2bの高さ寸法は、5mm〜1cmとなっている。また、ゲル1は、例えば、縦11cm、横13cmの二次元電気泳動後のゲル(アクリルアミド濃度15%)である。
【0019】
そして、それぞれがゲルを収容する複数の容器2を重ねた容器集合体3が、染色液及び脱色液を内部に満たすことができる染色脱色用容器4に収容される。
【0020】
染色液及び脱色液にはメタノールや酢酸を用いることが多く、容器2の材質はそれらに耐性を持つことが必要であり、例えばポリエチレンテレフタレートで作製する。網状容器2は振とう時にゲルを破損しないよう、表面を平滑にしておく。染色脱色用容器4は市販のタッパー等で差し支えなく、材質はポリプロピレンでも他でも構わない。
【0021】
図2は、本発明の実施形態における自動振とう装置10の概略構成図である。図2において、自動振とう装置10は、網状容器4が配置され、染色脱色用容器4を振とうする振とう部5と、染色液等の送液ポンプ(図示せず)に接続され、容器4に染色液、脱色液等を供給する送液用管6と、この送液用管6に配置され、染色液等の供給開始停止を行うバルブ8aと、容器4に収容された染色液等を容器4から排出するための廃液用管7と、この廃液用管7に配置され、染色液等の廃液の開始停止を行うバルブ8bと、上記染色液等の送液ポンプ、バルブ8a、8b、振とう部5の動作を制御するコントローラ9とを備える。なお、容器4には、廃液用管7との接続部が形成されている。
【0022】
操作者がゲルを収容する複数の容器2を重ねた容器集合体3を容器4に入れ、操作スイッチ(図示せず)を投入すると、コントローラ9は、バルブ8aを開とし、送液ポンプを動作させて、染色液を容器4内に供給する。このとき、バルブ8bは閉となっている。なお、容器集合体3の最上部に位置する容器2には、ゲルは配置されていない。
【0023】
染色液が容器4内に満たされ、容器集合体3が染色液に浸漬される設定時間だけ経過すると、コントローラ9は、振とう部5を動作させて、容器集合体3内の複数のゲルを同時に同一条件で振とうさせる。このとき、容器集合体3内の各ゲルは、上方に配置された容器2の底部2aにより、上方への移動が規制されているため、反転すること無く、振とうされる。
【0024】
所定時間経過後、コントローラ9は、振とう部5の振とう動作を停止し、バルブ8bを開として、容器4内の染色液を、廃液用管7を介して廃棄する。
【0025】
続いて、コントローラ9は、バルブ8bを閉とし、バルブ8aを開として、送液ポンプを動作させて、脱色液を容器4内に供給する。
【0026】
脱色液が容器4内に満たされ、容器集合体3が脱色液に浸漬される設定時間だけ経過すると、コントローラ9は、振とう部5を動作させて、容器集合体3内の複数のゲルを同時に同一条件で振とうさせる。
【0027】
所定時間経過後、コントローラ9は、振とう部5の振とう動作を停止し、バルブ8bを開として、容器4内の脱色液を、廃液用管7を介して廃棄する。
【0028】
操作者は、容器集合体3を容器4から取り出し、タンパク質を検出する。この場合、上述したように、電気泳動後の複数のゲルは、容器集合体3内で同時に同一の条件で、染色及び脱色を行うことができるので、検体間の比較を正確に行うことができる。
【0029】
図3は、本発明の一実施形態を用いて、同一の検体を二つのゲル1、ゲル2を用いて、染色及び脱色した結果の概略を示す図である。これは、縦11cm、横13cmの二次元電気泳動後のゲル(アクリルアミド濃度15%)を用い、染色方法はCBB染色により行った。ゲル1(図3の(A))、ゲル2(図3の(B))についてタンパク質のない部分は同様に白く、タンパク質が分離されたスポットも同程度に染色され、同一条件で染色、脱色されていることが判断できる。
【0030】
実験結果により、目視でタンパク質のスポット数を計数した。それによると、ゲル1において322個、ゲル2において321個のスポットが検出され、その染色程度も、目視認識レベルでは殆ど差異は無かった。
【0031】
これに対して、本発明の容器集合体3を使用せず、同一検体について、個々の容器を用いて、染色及び脱色を行ったところ、一つのゲルで約320個のスポットが検出され、他のゲルでは約310個のスポットが検出され、結果に大きな差が生じてしまった。
【0032】
以上のように、本発明の一実施形態によれば、網状容器2は、ゲルを収容でき、染色液、脱色液を通過可能であり、互いに重ね合わせることができる。そして、網状容器2を互いに重ね合わせて、容器集合体3とすることにより、上方に存在する容器2の底板により、振とう時のゲルの反転が防止される。
【0033】
これにより、電気泳動後の複数のゲルを、同一条件での染色、脱色を、液交換時におけるゲルの破損や、振とう時におけるゲルの反転を発生させること無く実行することができ、高精度なタンパク質の検出を実行することができる。
【0034】
また、複数枚のゲルを纏めて染色及び脱色できるので、使用する試薬量の低減や、操作時間の短縮も可能である。
【0035】
また、容器集合体3により振とう時のゲルの反転発生が防止されるので、操作者が観察しながら、振とう作業を行必要が無くなり、染色、脱色、振とうを自動的に行うことが可能な自動振とう装置10を実現することができる。
【0036】
なお、上述した例では、CBB染色を用いた例を示しているが、染色法が銀染色や蛍光試薬を使用した染色であっても差し支えない。また、3枚以上のゲルを同時に比較する場合に、特に本発明は効果的である。
【0037】
また、上述した例では、容器2は網状となっているが、ゲルを収容でき、染色液、脱色液が通過可能であれば、網状でなくともよい。例えば、染色液、脱色液が通過可能な孔を容器底部に形成したものでもよい。
【0038】
また、容器2の材質は金属やプラスチックであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施形態であるゲル収容容器2の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態である自動振とう装置の概略説明図である。
【図3】本発明の一実施形態を用いてゲルを染色、脱色した結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 電気泳動後のゲル
2 ゲル収容網状容器
2a 底部
2b 側面部
2c 段差部
3 網状容器集合体
4 染色脱色用容器
5 振とう部
6 送液用管
7 廃液用管
8a、8b バルブ
9 コントローラ
10 自動振とう装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を分子量毎に分離する電気泳動後のゲルを、染色液又は脱色液と共に振とうし、染色及び脱色を行うゲルの染色脱色方法において、
液体が通過可能な孔が形成され、ゲルが配置される底面及び側面を有するゲル収容容器に電気泳動後のゲルを収容し、
一つのゲル収容容器の上記底面と他のゲル収容容器の底面との間に上記ゲルが配置されるように複数の上記ゲル収容容器が互いに重ね合わせられた容器集合体を、染色液又は脱色液が収容される染色脱色用容器内に配置し、
上記染色脱色用容器を用いて、染色液に上記容器集合体を浸漬して振とうし、
上記染色脱色用容器を用いて、脱色液に上記容器集合体を浸漬して振とうすることを特徴とするゲルの染色脱色方法。
【請求項2】
タンパク質を分子量毎に分離する電気泳動後のゲルを、染色液及び脱色液と共に振とうし、染色及び脱色を行うゲルの染色脱色用容器において、
液体が通過可能な孔が形成されゲルが配置される底面及び側面を有するゲル収容部と、
上記ゲル収容部の側面に形成された段差部と、
を備え、上記段差部は他の染色脱色用容器の底面を支持し、複数の染色脱色用容器を互いに重ね合わせて集合体を形成することを特徴とするゲルの染色脱色用容器。
【請求項3】
請求項2記載のゲルの染色脱色用容器において、上記底面には網状に複数の孔が形成されていることを特徴とするゲルの染色脱色用容器。
【請求項4】
請求項2記載の染色脱色用容器の複数が互いに重ね合わされた集合体が収容される染色脱色用容器が配置され、この染色脱色用容器を振とうする振とう部と、
上記振とう部の動作を制御するコントローラと、
を備えることを特徴とするゲルの染色脱色用振とう装置。
【請求項5】
請求項4記載のゲルの染色脱色用振とう装置において、上記染色脱色用容器内に染色液及び脱色液を供給する液体供給手段と、上記染色脱色用容器内の染色液及び脱色液を廃液する液体廃液手段と、
を備え、上記コントローラは、上記液体供給手段と、上記液体廃液手段の動作を制御することを特徴とするゲルの染色脱色用振とう装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−82854(P2008−82854A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262592(P2006−262592)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000233550)株式会社日立ハイテクサイエンスシステムズ (112)