説明

ゲルビーズの固化装置及びゲルビーズの固化方法

【課題】ほぼ真球の微細なゲルビーズを簡易に製造することができるゲルビーズの固化装置及びゲルビーズの固化方法を提供する。
【解決手段】ゲルビーズの固化装置は、容器10の底部にゲル化剤層12と保持液層14とがこの順序で積層されており、保持液層14中には、ゲル化対象液の球状の液滴16が保持されている。ゲル化剤層12は保持液層14に接して配置されており、保持液層14に保持されたゲル化対象液の液滴16はゲル化剤層12と保持液層14との界面18においてゲル化剤層12と接する。このとき、液滴16からゲル化剤層12側に水の少なくとも一部が移動し、ゲル化剤層12から液滴16側にゲル化剤が移動して、上記液滴16がゲル化する。これにより液滴16がゲル化し、球状を維持したまま収縮及び固化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルビーズの固化装置及びゲルビーズの固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルギン酸ナトリウム等の材料をゲル化させてゲルビーズを製造する技術が種々提案されている(特許文献1等を参照)。近年、このようなゲルビーズを電子ペーパ等に使用することが検討されており、ゲルビーズの微細化が要望されている。
【0003】
図14には、下記非特許文献1に開示された、油層に滴下したゲル化対象液の液滴をゲル化する方法が示される。図14では、塩化バリウム水溶液層の上にひまわり油等の油層を形成し、油層中にアルギン酸ナトリウム等のゲル化対象液の液滴を滴下し、油層と塩化バリウム水溶液との界面を通過させて、塩化バリウム側でアルギン酸ナトリウムの液滴をゲル化して微細なゲルビーズを製造する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3746766号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L.Capretto,et al., Lab on aChip, vol.8, pp. 617-621, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術においては、図14の拡大図に示されるように、ゲル化対象液の液滴が油層と塩化バリウム水溶液との界面を通過する際に液滴が尾をひくように変形し、真球にならないという問題があった。
【0007】
本発明の目的は、ほぼ真球の微細なゲルビーズを簡易に製造することができるゲルビーズの固化装置及びゲルビーズの固化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のゲルビーズの固化装置の発明は、球状のゲル化対象液と相溶性を有さず、前記ゲル化対象液の球状を維持しつつ保持する保持液層と、前記保持液層に接して配置され、前記保持液層との界面において前記保持液層に保持された球状のゲル化対象液と接して前記球状のゲル化対象液を収縮及び固化させるゲル化剤が含まれるゲル化剤層と、を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記ゲル化剤層と前記保持液層とがこの順序で底部に積層され、上部に前記ゲル化対象液を受け入れる開口を有する容器を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記ゲル化剤層が底部に配置され、前記保持液層が球状のゲル化対象液を保持しつつ前記ゲル化剤層の上を流動する流路を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のゲルビーズの固化装置において、前記ゲル化剤層の上流側に吸水性材料で形成された吸水層が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記吸水層を加熱する加熱手段を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記保持液層が球状のゲル化対象液を保持しつつ流動する流路と、前記ゲル化剤層に代わって前記流路中に前記ゲル化剤を液状で供給する液状ゲル化剤供給手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載のゲルビーズの固化装置において、前記ゲル化剤層によりチューブが形成され、前記保持液層が球状のゲル化対象液を保持しつつ前記チューブ中を流動することを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載のゲルビーズの固化方法の発明は、球状のゲル化対象液を、前記ゲル化対象液と相溶性を有さず、前記ゲル化対象液の球状を維持しつつ保持する保持液層中に入れ、前記保持液層に接して配置され、前記球状のゲル化対象液を収縮及び固化させるゲル化剤が含まれるゲル化剤層との界面において、前記保持液層に保持された球状のゲル化対象液を前記ゲル化剤層と接触させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ほぼ真球の微細なゲルビーズを簡易に製造することができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1にかかるゲルビーズの固化装置の構成例を示す図である。
【図2】実施形態2にかかるゲルビーズの固化装置の構成例を示す図である。
【図3】実施形態3にかかるゲルビーズの固化装置の構成例を示す図である。
【図4】実施形態3にかかるゲルビーズの固化装置の他の構成例を示す図である。
【図5】実施形態4にかかるゲルビーズの固化装置の構成例を示す図である。
【図6】実施形態5にかかるゲルビーズの固化装置の構成例を示す図である。
【図7】実施例1において生成したゲルビーズの直径の測定結果を示す図である。
【図8】実施例1において生成した50個のゲルビーズの直径をそれぞれ測定した際の測定結果の変動係数を示す図である。
【図9】実施例1において生成したゲルビーズと液滴との位相差顕微鏡写真を示す図である。
【図10】実施例2において生成したゲルビーズの直径の測定結果を示す図である。
【図11】実施例2において生成した50個のゲルビーズの直径をそれぞれ測定した際の測定結果の変動係数を示す図である。
【図12】実施例3において生成したゲルビーズの直径の測定結果を示す図である。
【図13】実施例3において生成した50個のゲルビーズの直径をそれぞれ測定した際の測定結果の変動係数を示す図である。
【図14】従来における、油層に滴下したゲル化対象液の液滴をゲル化する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0019】
実施形態1
図1には、実施形態1にかかるゲルビーズの固化装置の構成例が示される。図1において、ゲルビーズの固化装置は、容器10の底部にゲル化剤層12と保持液層14とがこの順序で積層されている。また、保持液層14中には、ゲル化対象液の球状の液滴16(図1では円で示されている)が保持されている。
【0020】
ここで、ゲル化対象液としては、例えばアルギン酸ナトリウム等のゲル化して固化させることができる材料の溶液を使用する。また、ゲル化剤層12は、上記ゲル化対象液と接触してこれをゲル化させるゲル化剤が含浸されたゲル状物質の層である。例えば、ゲル化対象液としてアルギン酸ナトリウムを使用し、ゲル化剤として塩化カルシウム水溶液を使用した場合、液滴16からゲル化剤層12側に水の少なくとも一部が移動し、ゲル化剤層12側から液滴16側にカルシウムイオンが移動して、上記液滴16がゲル化する。ゲル化対象液の液滴16は、ゲル化剤層12に含浸されたゲル化剤と接触してゲル化する際に、収縮及び固化されて、サイズが微小化される。これは、上記のように、ゲル化の際に水が吸収されるからである。また、保持液層14は、球状のゲル化対象液の液滴16と相溶性を有さず、ゲル化対象液の液滴16の球状を維持しつつ保持することができる。
【0021】
ここで、ゲル化対象液としては、上記アルギン酸ナトリウムの水溶液の他、カラギーナン水溶液、アガー(寒天)水溶液、アガロース(寒天精製物)水溶液、コラーゲン水溶液、ゼラチン(コラーゲン変性物)水溶液、アルブミン水溶液等が挙げられる。また、ゲル化対象液とゲル化剤との組み合わせとしては、例えばアルギン酸ナトリウムをゲル化させる塩化カルシウムの他、アルギン酸ナトリウム‐塩化バリウム、カラギーナン‐塩化カリウムなどの組み合わせが挙げられる。また、上記アガー、アガロース、ゼラチンの水溶液は冷却によりゲル化することができる。さらに、上記コラーゲン、アルブミンは加熱によりゲル化することができる。また、ゲル化剤を含浸してゲル化剤層12を構成するゲル状物質としては、例えばアガロースゲル、アガー(寒天)ゲル、カラギーナンゲル、セルロースゲル、ポリアクリルアミドゲル等が挙げられる。また、保持液としてはデカン、ドデカン、ヘプタデカン等の炭化水素類、ミネラルオイル、食用油(ひまわり油、とうもろこし油、なたね油等が挙げられる。
【0022】
ゲル化剤層12は保持液層14に接して配置されており、保持液層14に保持されたゲル化対象液の液滴16はゲル化剤層12と保持液層14との界面18においてゲル化剤層12と接する。これにより、上述したように、ゲル化対象液の液滴16が、球状を維持したまま収縮し、固化される。ゲル化対象液の液滴16がゲル化する際に収縮するのは、液滴16中のゲル化成分(例えば、アルギン酸ナトリウム)のみがゲル化し、水分の含有量が減少するからである。
【0023】
なお、ゲル化対象液を球状の液滴16とするには、例えば上記特許文献1等に記載された装置を使用することができる。特許文献1の装置では、微細加工技術によって作製された溝の分岐構造にゲル化対象液と保持液とをそれぞれ流し込んで合流させ、ゲル化対象液を球状の液滴16とする構成となっている。また、容器10の上部には、上記装置により製造したゲル化対象液の球状の液滴16を受け入れるための開口20が形成されており、上記装置により製造されたゲル化対象液の球状の液滴16が、開口20から保持液層14に矢印で示されるように投入される。
【0024】
実施形態2
図2(a)、(b)には、実施形態2にかかるゲルビーズの固化装置の構成例が示され、図1と同一要素には同一符号を付している。図2(a)が平面図であり、図2(b)が図2(a)のb−b断面図である。
【0025】
図2(b)の例では、流路22が形成されており、流路22の底部にはゲル化剤層12が配置されている。また、保持液層14がゲル化対象液の球状の液滴16を保持しつつ上記ゲル化剤層12の上を流動するように構成されている。この際、保持液層14を構成する保持液は矢印A方向に流れ、これに伴って丸印で示されたゲル化対象液の球状の液滴16は、ゲル化剤層12と保持液層14との界面18においてゲル化剤層12と接しながら、矢印B方向に回転移動する。このため、図2(b)の例では、流路22に勾配がつけられているが、これには限定されず、例えば保持液層14を構成する保持液をポンプ等で流動させる構成としてもよい。
【0026】
以上の構成により、図2(a)に示されるように、保持液層14が矢印A方向に流れるときに、ゲル化対象液の球状の液滴16が矢印B方向に回転移動しながらゲル化剤層12と接することにより、ゲル化されて球状を維持したまま収縮し、固化される。
【0027】
実施形態3
図3には、実施形態3にかかるゲルビーズの固化装置の構成例が示され、図2(a)、(b)と同一要素には同一符号を付している。図3の例では、図2(a)、(b)と同様に、流路22が形成されており、流路22の底部にはゲル化剤層12が配置されている。また、保持液層14がゲル化対象液の球状の液滴16を保持しつつ矢印A方向に流れており、これに伴って丸印で示されたゲル化対象液の球状の液滴16は矢印B方向に回転移動する。
【0028】
本実施形態において特徴的な点は、上記保持液層14の流れ方向(矢印A)及びゲル化対象液の球状の液滴16の回転移動方向(矢印Bの方向)において、ゲル化剤層12の上流側に吸水性材料で形成された吸水層24が設けられていることである。この吸水層24とゲル化対象液の液滴16とが界面18で接することにより、ゲル化対象液の液滴16から水の少なくとも一部が吸収されるので、界面18においてゲル化剤層12と接したときに、球状を維持したままより短時間でより小さなゲルビーズにゲル化することができる。
【0029】
上記吸水層24を構成する材料には、吸水性のポリマー等を使用することができる。吸水性のポリマーとしては、例えばポリアクリル酸ナトリウムゲル等を挙げることができる。
【0030】
図3に示されるように、ゲル化対象液の球状の液滴16が、ゲル化剤層12及び吸水層24と保持液層14との界面18において吸水層24及びゲル化剤層12にこの順序で接しながら、矢印B方向に回転移動する際に、吸水層24で水分の少なくとも一部が吸収され、さらにゲル化剤層12と接してゲル化し、収縮及び固化して行く。図3では、液滴16が吸水層24及びゲル化剤層12に接しながら、その大きさが次第に小さくなる様子が描かれている。
【0031】
図4には、実施形態3にかかるゲルビーズの固化装置の他の構成例が示され、図3と同一要素には同一符号を付している。図4において、特徴的な点は、吸水層24に対向する位置に加熱装置26が配置されていることである。加熱装置26としては、例えば流路22の壁面に組み込んだ透明電極(ITO:酸化インジウムスズ)配線への通電による抵抗加熱型加熱装置、同じく流路22の壁面に組み込んだ蒸着クロム薄膜などの吸光発熱層に対する近赤外線照射による吸光発熱型加熱装置、あるいは水に吸収性のある波長(1480nmなど)の近赤外光光源を近接させて照射する吸光加熱型加熱装置等が挙げられる。
【0032】
図4の例では、加熱装置26により、吸水層24と保持液層14との界面18において吸水層24に接しながら、流路22中を矢印B方向に回転移動するゲル化対象液の球状の液滴16が加熱される。これにより、吸水層24によるゲル化対象液の液滴16からの水の吸収速度が上昇し、吸水層24の後でゲル化対象液の液滴16が接するゲル化剤層12上でより短時間でゲル化することができる。図4でも、液滴16が吸水層24及びゲル化剤層12に接しながら、その大きさが次第に小さくなる様子を描かれている。
【0033】
実施形態4
図5(a)、(b)には、実施形態4にかかるゲルビーズの固化装置の構成例が示される。図5(a)が全体構成図であり、図5(b)が、図5(a)の破線で囲まれた部分の拡大図である。
【0034】
図5(a)において、流路22には、ゲル化対象液を供給するゲル化対象液供給手段28、保持液層を形成する保持液を供給する保持液供給手段30及びゲル化剤溶液を供給するゲル化剤供給手段32が接続されている。
【0035】
ゲル化対象液供給手段28からゲル化対象液が、保持液供給手段30から保持液が、それぞれ流路22に供給されると、流路22中で保持液に保持されたゲル化対象液の球状の液滴16が生成する。なお、ゲル化対象液の流路22への供給は、ゲル化対象液を液滴16とするために断続的に行われる。この場合、流路22中では、通常1秒間に数十個から数百個の液滴を生成するので、上記ゲル化対象液の「断続的に行われる供給」の周波数は数十〜数百とするのが好適である。生成したゲル化対象液の液滴16は、保持液により形成された保持液層14に保持されつつ矢印B方向に移動する。また、ゲル化剤供給手段32からは、流路22にゲル化剤溶液が供給され、ゲル化剤層12に代わってゲル化剤溶液層34を形成する。
【0036】
図5(b)の部分拡大図に示されるように、上記液滴16は、ゲル化剤溶液層34と保持液層14との界面18においてゲル化剤溶液層34と接しながら、矢印B方向に移動する。この間に、液滴16からゲル化剤溶液層34側に水の少なくとも一部が移動し(矢印Cで示す)、ゲル化剤溶液層34から液滴16側にゲル化剤成分が移動して、上記液滴16がゲル化し、球状を維持したまま収縮し、固化される。液滴16がゲル化剤溶液層34に接しながら、その大きさが次第に小さくなる様子は、図5(a)に描かれている。
【0037】
実施形態5
図6には、実施形態5にかかるゲルビーズの固化装置の構成例が示される。図6の例では、円筒形の管36の外周側にゲル化剤層12が配置され、ゲル化剤層12によりチューブが形成されている。ゲル化剤層12により形成された上記チューブの中に、保持液層14と保持液層14に保持されたゲル化対象液の球状の液滴16とを供給して上記チューブ中を移動させると、チューブの外壁を構成するゲル化剤層12とゲル化対象液の液滴16とが接触し、上記液滴16がゲル化し、球状を維持したまま収縮し、固化される。
【0038】
なお、上記管36の材料としては、樹脂、ガラス等を使用できるが、これらには限定されない。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の具体例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
図1に示されたゲルビーズの固化装置を使用し、ゲル化対象液としてアルギン酸ナトリウム水溶液、ゲル化剤として塩化カルシウム水溶液、保持液として界面活性剤CRS−75をデカンに1質量%の濃度で混合した油相、をそれぞれ使用して、ゲルビーズを製造した。なお、上記保持液に混合する界面活性剤としては、上記CRS−75の他、SPAN80、SPAN85等を使用してもよい。本実施例1では、ゲル化剤である塩化カルシウム水溶液濃度を0.5mol/l(一定)とし、ゲル化対象液であるアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.2〜1.0質量%まで0.2質量%ずつ振るとともに、ゲル化前におけるアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴の直径を100μm、150μm、200μmの3種類に調整して、生成したゲルビーズの直径を測定した。なお、直径の測定は、画像解析ソフト(Image-Pro Plus, MediaCybernetics社)を使ったマニュアル測定で行った。この場合、上記の手順でゲルビーズの製造を1回行い、製造したゲルビーズの50個についてそれぞれ直径を測定した。
【0041】
測定結果を図7に示す。なお、図7に示された直径は、上記50個のゲルビーズの測定結果の平均値である。図7において、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が低くなるにしたがって、ゲルビーズの直径が小さくなっているのがわかる。これは、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が低いほどゲル化するアルギン酸ナトリウムの量が少なくなるからである。図7の例では、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が1.0質量%の場合に、直径が200μmの液滴が48μmのゲルビーズとなり、直径が150μmの液滴が32μmのゲルビーズとなり、直径が100μmの液滴が25μmのゲルビーズとなっている。一方、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度が0.2質量%の場合には、直径が200μmの液滴が26μmのゲルビーズとなり、直径が150μmの液滴が21μmのゲルビーズとなり、直径が100μmの液滴が16μmのゲルビーズとなっている。このように、ゲル化前の液滴の直径と、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度とにより、生成するゲルビーズのサイズを制御できることがわかる。
【0042】
図8には、上記50個のゲルビーズの直径をそれぞれ測定した際の測定結果の変動係数(CV値)が示される。一般に、粒子径がマイクロメートル(μm)単位の「微粒子」は、変動係数が十数パーセント以下であれば「単分散微粒子」とされており、粒径のばらつきが小さいと評価される(例えば、特開平6−256452等参照)。図8に示されるように、いずれの変動係数も10%以下の値となっている。これにより、実施例1で製造されたゲルビーズは、直径のばらつきが小さいことがわかる。
【0043】
図9(a)、(b)には、濃度が0.5質量%、直径が100μmのアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴と、これを以上に述べた操作によりゲル化したゲルビーズとの位相差顕微鏡写真が示される。図9(a)がゲル化前の液滴であり、図9(b)がゲルビーズである。また、それぞれの図には、20μmを表すスケールバーSが示されている。
【0044】
図9(a)に示されるアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴の直径は、上記の通り100μmであったが、ゲル化後には、図9(b)に示されるように、25μm程度の直径まで収縮していることがわかる。また、図9(b)からは、生成したゲルビーズが、ほぼ真球であることもわかる。
【0045】
実施例2
図1に示されたゲルビーズの固化装置を使用し、ゲル化対象液としてアルギン酸ナトリウム水溶液、ゲル化剤として塩化カルシウム水溶液、保持液として界面活性剤CRS−75をデカンに1質量%の濃度で混合した油相、をそれぞれ使用して、ゲルビーズを製造した。本実施例2では、ゲル化対象液であるアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5質量%(一定)とし、ゲル化剤である塩化カルシウム水溶液濃度を0.2〜1.0mol/lまで0.2mol/lずつ振るとともに、ゲル化前におけるアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴の直径を100μm、150μm、200μmの3種類に調整した。生成したゲルビーズの直径は、実施例1と同様の方法で測定した。
【0046】
測定結果を図10に示す。なお、図10に示された直径も、実施例1と同様50個のゲルビーズの測定結果の平均値である。図10において、塩化カルシウム水溶液の濃度が高くなるにしたがって、ゲルビーズの直径が小さくなっているのがわかる。これは、塩化カルシウム水溶液の濃度が高いほど、アルギン酸ナトリウム水溶液の液滴から吸収する水の量が増加するためである。ただし、その変化量は、アルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を変化させた場合(実施例1)よりも小さかった。図10の例では、塩化カルシウム水溶液の濃度が0.2mol/lの場合に、直径が200μmの液滴が45μmのゲルビーズとなり、直径が150μmの液滴が32μmのゲルビーズとなり、直径が100μmの液滴が22μmのゲルビーズとなっている。一方、塩化カルシウム水溶液の濃度が1.0mol/lの場合には、直径が200μmの液滴が35μmのゲルビーズとなり、直径が150μmの液滴が24μmのゲルビーズとなり、直径が100μmの液滴が19μmのゲルビーズとなっている。
【0047】
図11には、上記50個のゲルビーズの直径をそれぞれ測定した際の測定結果の変動係数(CV値)が示される。図11に示されるように、いずれの変動係数も10%以下の値となっており、実施例2で製造されたゲルビーズは、直径のばらつきが小さいことがわかる。
【0048】
実施例3
図1に示されたゲルビーズの固化装置を使用し、ゲル化対象液としてアルギン酸ナトリウム水溶液、ゲル化剤として塩化カルシウム水溶液、保持液として界面活性剤CRS−75をデカンに1質量%の濃度で混合した油相、をそれぞれ使用して、ゲルビーズを製造した。本実施例3では、ゲル化対象液であるアルギン酸ナトリウム水溶液の濃度を0.5質量%(一定)とし、ゲル化剤である塩化カルシウム水溶液濃度を0.5mol/l(一定)とし、ゲル化前におけるアルギン酸ナトリウム水溶液の液滴の直径を90μm、117μm、178μmの3種類に調整して、この液滴と塩化カルシウム水溶液との接触時間を1時間から12時間まで変化させて生成したゲルビーズの直径を測定した。生成したゲルビーズの直径は、実施例1と同様の方法で測定した。
【0049】
測定結果を図12に示す。なお、図12に示された直径も、実施例1と同様50個のゲルビーズの測定結果の平均値である。図12において、液滴と塩化カルシウム水溶液との接触時間が長くなるにしたがって、ゲルビーズの直径が小さくなっているのがわかる。これは、接触時間が長いほど、アルギン酸ナトリウム水溶液の液滴から塩化カルシウム水溶液が吸収する水の量が増加するためである。図12の例では、ゲル化前に90μmであった液滴が、1時間後に44μmとなり、その後時間の経過とともに小さくなって、12時間後に22μmのゲルビーズとなった。同様に、ゲル化前に117μmであった液滴は、1時間後に77μmとなり、その後時間の経過とともに小さくなって、12時間後に31μmのゲルビーズとなった。また、同様に、ゲル化前に178μmであった液滴は、1時間後に115μmとなり、その後時間の経過とともに小さくなって、12時間後に48μmのゲルビーズとなった。このように、液滴と塩化カルシウム水溶液との接触時間により、生成するゲルビーズのサイズを制御できることがわかる。
【0050】
図13には、上記50個のゲルビーズの直径をそれぞれ測定した際の測定結果の変動係数(CV値)が示される。図13に示されるように、いずれの変動係数も10%以下の値となっており、実施例3で製造されたゲルビーズは、直径のばらつきが小さいことがわかる。
【符号の説明】
【0051】
10 容器、12 ゲル化剤層、14 保持液層、16 液滴、18 界面、20 開口、22 流路、24 吸水層、26 加熱装置、28 ゲル化対象液供給手段、30 保持液供給手段、32 ゲル化剤供給手段、34 ゲル化剤溶液層、36 管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のゲル化対象液と相溶性を有さず、前記ゲル化対象液の球状を維持しつつ保持する保持液層と、
前記保持液層に接して配置され、前記保持液層との界面において前記保持液層に保持された球状のゲル化対象液と接して前記球状のゲル化対象液を収縮及び固化させるゲル化剤が含まれるゲル化剤層と、
を備えることを特徴とするゲルビーズの固化装置。
【請求項2】
請求項1に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記ゲル化剤層と前記保持液層とがこの順序で底部に積層され、上部に前記ゲル化対象液を受け入れる開口を有する容器を備えることを特徴とするゲルビーズの固化装置。
【請求項3】
請求項1に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記ゲル化剤層が底部に配置され、前記保持液層が球状のゲル化対象液を保持しつつ前記ゲル化剤層の上を流動する流路を備えることを特徴とするゲルビーズの固化装置。
【請求項4】
請求項3に記載のゲルビーズの固化装置において、前記ゲル化剤層の上流側に吸水性材料で形成された吸水層が設けられていることを特徴とするゲルビーズの固化装置。
【請求項5】
請求項3に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記吸水層を加熱する加熱手段を備えることを特徴とするゲルビーズの固化装置。
【請求項6】
請求項1に記載のゲルビーズの固化装置が、さらに前記保持液層が球状のゲル化対象液を保持しつつ流動する流路と、前記ゲル化剤層に代わって前記流路中に前記ゲル化剤を液状で供給する液状ゲル化剤供給手段とを備えることを特徴とするゲルビーズの固化装置。
【請求項7】
請求項1に記載のゲルビーズの固化装置において、前記ゲル化剤層によりチューブが形成され、前記保持液層が球状のゲル化対象液を保持しつつ前記チューブ中を流動することを特徴とするゲルビーズの固化装置。
【請求項8】
球状のゲル化対象液を、前記ゲル化対象液と相溶性を有さず、前記ゲル化対象液の球状を維持しつつ保持する保持液層中に入れ、
前記保持液層に接して配置され、前記球状のゲル化対象液を収縮及び固化させるゲル化剤が含まれるゲル化剤層との界面において、前記保持液層に保持された球状のゲル化対象液を前記ゲル化剤層と接触させる、
ことを特徴とするゲルビーズの固化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−223726(P2012−223726A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95002(P2011−95002)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)