説明

ゲル充填装置及びそれを用いたゲル形成方法

【課題】ゲル形成鋳型へのゲル充填途中におけるゲルの固化を防止し、ゲルを安定して形成することができるゲル充填装置を提供する。
【解決方法】本発明に係るゲル充填装置100は、ゲル形成鋳型11にゲル溶液を充填してゲルを形成するものであって、ゲルのモノマー溶液を含有するゲル形成溶液を貯蔵するゲル形成溶液タンク1と、ゲルの重合を開始させる重合開始剤を貯蔵する重合開始剤タンク2と、ゲル形成溶液タンク1および重合開始剤タンク2の各々に連通された吐出口7を備える。ゲル形成溶液と重合開始剤とは、ゲル形成溶液タンク1および重合開始剤タンク2の各々から吐出口7までを連通する第1導路において混合される。ゲル充填装置100は、吐出口7を介して、ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合してなるゲル溶液をゲル形成鋳型11内に吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル形成用のゲル形成鋳型にゲル溶液を充填するゲル充填装置およびそれを用いたゲル形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生命科学研究の分野では、タンパク質や核酸等の生体高分子を分離する手法として、その分離能の高さからポリアクリルアミドゲルを用いたゲル電気泳動法が広く利用されている。
【0003】
また、ゲル電気泳動法には、例えば横型と縦型とが存在する。仮に平板型電気泳動法を行う場合、自己支持性を有さないポリアクリルアミドゲルは1枚の支持体の上または2枚の支持体の間に重ねられて用いられる。ただし、この方法では、実験操作時にゲルが破壊されてしまう危険性が高い。例えば、支持体にゲルを重ね合わせる時、泳動槽内に支持体上のゲルをセットする時、ゲルの保存時、試料をゲルにアプライする時、ゲルで分離した試料を評価する時など、操作のケアレスミスによってゲルは容易に壊れてしまう。
【0004】
そこで、ポリアクリルアミドゲルを利用した電気泳動方法では、2枚の支持体とスペーサーとから構成したモールド(型)内にゲルを形成し、このモールドを垂直に保持したまま電気泳動を行う垂直式電気泳動法がよく用いられている。この方法では、ゲルを形成するために、モノマー溶液に架橋剤や重合開始剤等を加えて混合したゲル溶液をモールドに注入する。ところが、特に注入作業の時間が長くなる場合など、作業途中でゲル溶液が固化(ゲル化)してしまい、モールド内にゲルを適切に形成することができないという問題がある。
【0005】
このような問題に対して、ゲル作製作業途中におけるゲルの固化を防止する試みが行なわれている。
【0006】
例えば、従来、ゲル溶液を入れる容器全体を冷却することによってゲルの固化を防止する試みが行なわれている。ただし、ゲル溶液が冷却されても重合速度が若干遅くなるだけであり、問題を解決するには至っていない。
【0007】
また、特許文献1には、電気泳動用ゲル作製器具にポリジメチルシロキサンまたはシリコーン樹脂を用いることによって、ゲルの固化を防止するゲル作製器具が開示されている。特許文献1では、ゲル作製器具内に重合阻害剤となる酸素が入り込みやすくすることによって、ゲル作製作業途中におけるゲルの固化を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−300404号公報(平成17年10月27日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のゲル作製器具を用いてゲルを作成する場合、ゲルの重合速度が遅くはなるが、ゲル作製作業途中におけるゲルの固化を防止するには十分ではない。例えば、ゲルが固化するまでの時間が、ゲル原料容器からゲル形成容器にゲル溶液を充填する充填時間に比べて短い場合には、ゲル作製器具内でゲルが固化してしまい、ゲルを作製することができない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ゲル形成鋳型へのゲル充填途中におけるゲルの固化を防止し、ゲルを安定して形成することができるゲル充填装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るゲル充填装置は、上記の課題を解決するために、ゲル形成鋳型にゲル溶液を充填してゲルを形成するゲル充填装置であって、ゲルのモノマー溶液を含有するゲル形成溶液を貯蔵する第1貯蔵タンクと、ゲルの重合を開始させる重合開始剤を貯蔵する第2貯蔵タンクと、上記第1貯蔵タンクから送液されたゲル形成溶液と上記第2貯蔵タンクから送液された重合開始剤とから成るゲル溶液を吐出する吐出口と、上記第1および上記第2貯蔵タンクの各々から任意の合流点にて合流して上記吐出口までを流通する第1流路とを備えることを特徴としている。
【0012】
上記構成において、ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合してなるゲル溶液は、混合後にゲル化を開始し、時間の経過を経て固化することによってゲルを形成する。
【0013】
上記構成によれば、第1貯蔵タンクに貯蔵されたモノマー溶液と第2貯蔵タンクに貯蔵された重合開始剤とは、上記第1流路に送液され、当該第1流路の合流点から上記吐出口にかけて互いに混合される。すなわち、ゲル形成溶液と重合開始剤とは吐出口の手前において混合される。このため、本発明に係るゲル充填装置は、ゲル形成溶液と重合開始剤との混合直後に、吐出口からゲル溶液を吐出することができる。これによって、ゲル化が開始したゲル溶液をゲル形成鋳型に速やかに充填することができる。
【0014】
したがって、本発明に係るゲル形成装置によれば、ゲル充填作業の途中で、ゲル溶液が固化してしまうことを防止し、ゲルを安定的に形成することができる。
【0015】
また、本発明に係るゲル充填装置は、上記吐出口に送液する洗浄液を貯蔵する洗浄液タンクと、上記洗浄液タンクから、上記第1流路における上記合流点または上記合流点よりも上流までを流通する第2流路とをさらに備えることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、ゲル溶液の充填後、洗浄液タンクに貯蔵された洗浄液は上記第2流路に送液され、さらに上記第1流路のうちの上記合流点から吐出口にかけて送液される。すなわち、第1流路のうち、ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合してなるゲル溶液が通過した領域を洗浄液により洗浄することができる。これによって、装置内でゲル溶液が固化してしまうことを防ぎ、装置を安定して使用することができる。
【0017】
また、上記構成によれば、ゲル溶液が残存する可能性のある箇所を効率的に洗浄することができる。
【0018】
また、本発明に係るゲル充填装置は、上記吐出口を介して上記ゲル溶液を充填されたゲル形成鋳型を搬出し、かつ、上記吐出口に対して次のゲル形成鋳型を搬入する搬送手段をさらに備えることが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、複数のゲル形成鋳型に対して効率的にゲルを充填することができる。また、バッチ式のゲル充填装置と比較して、ゲル間バラつきを減少したゲルを形成することができる。
【0020】
また、本発明に係るゲル充填装置は、上記第1流路のうち、上記合流点または上記合流点よりも下流に配置された混合器をさらに備えることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、混合器がモノマー溶液と重合開始剤とを好適に混合するため、ゲルをより安定して作成することができる。
【0022】
また、本発明に係るゲル充填装置において、上記第1流路は、上記吐出口側の末端に設けられた吐出タンクを含んで構成されることが好ましい。
【0023】
上記構成によれば、吐出タンクにおいてモノマー溶液と重合開始剤とが好適に混合されるため、ゲルをより安定して作成することができる。
【0024】
また、本発明に係るゲル充填装置において、上記合流点は上記吐出タンクにあることが好ましい。
【0025】
上記構成によれば、ゲル形成溶液の残渣の洗浄を効率的に行うことができるとともに、装置構成の簡便化が可能となる。
【0026】
また、本発明に係るゲル充填装置は、上記吐出口に設けられた中空構造のニードルをさらに備えることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、ゲル形成溶液は、ニードルを介して、ゲル形成鋳型に注入される。ニードルの外径や内径、または形状を適宜選択することによって、様々なゲル形成鋳型の充填口に対応することができる。また、小口径のニードルを用いることによって、ゲル形成鋳型に大きな充填口を設ける必要がなくなり、電気泳動器具を設計する上で、大きなメリットが得られる。
【0028】
また、本発明に係るゲル充填装置は、上記ゲル形成鋳型に対する上記吐出口の相対的な位置を3軸方向に移動させる3軸可動ロボットをさらに備えることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、所望の位置に設けられたゲル形成鋳型の充填口に対して、ゲル充填装置の吐出口をフレキシブルに位置決めして充填することが可能になる。
【0030】
また、本発明に係るゲル充填装置は、上記ゲル形成鋳型に吐出されたゲル溶液の液面を検出する界面検出器と、上記界面検出器による検出信号に基づいて吐出動作を制御する充填制御手段とをさらに備えることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、複数のゲル形成鋳型間で、ゲル形成溶液の液面がバラツキつくことを抑制できる。これによれば、ゲル形成溶液の充填工程の再現性を良好に確保することができる。
【0032】
また、本発明に係るゲル充填装置は、上記第1および第2貯蔵タンクから上記吐出口までを含む充填系を複数備えることが好ましい。
【0033】
上記構成によれば、複数の充填系を利用してゲル形成溶液をゲル形成鋳型に充填することができる。このため、ゲル形成鋳型に対する充填作業のタクトタイム(作業時間)を減少させることができる。
【0034】
また、本発明に係るゲル充填装置において、複数の上記充填系の間では、上記第1貯蔵タンクの貯蔵する第1ゲル形成溶液の含むモノマー溶液の濃度が互いに異なってもよい。
【0035】
上記構成によれば、被検出物質をスタッキングする濃縮ゲル(濃度が均一なホモジニアスゲル)と、被検出物質を分離する分離ゲル(濃度が均一なホモジニアスゲル)からなる重層構造ポリアクリルアミドゲルを好適に形成することができる。なお、このようなゲルは、高性能な電気泳動用媒体としてその使用用途は広い範囲を有する。
【0036】
また、本発明に係るゲル充填装置において、上記第1貯蔵タンクは、互いに濃度または等電点の異なるモノマー溶液を含有する複数のゲル形成溶液をそれぞれ貯蔵する複数のタンクから構成されており、上記複数のタンクの各々から上記吐出口に送液される上記複数のゲル形成溶液の送液量をそれぞれ漸次的に変化させる混合比制御手段をさらに備えていてもよい。
【0037】
上記構成によれば、ゲル濃度が低い方から高い方に、または、高い方から低い方に変化していくグラジエントゲルを簡便に、安定性よく形成することができる。このようなグラジエントゲルは、広い範囲の分子量分布の被検出物質を観察する時に、好適な電気泳動用媒体である。
【0038】
また、上記構成によれば、固定化pH勾配(IPG:Immobilized pH gradient)ゲルを簡便に、安定性よく形成することもできる。IPGゲルは、pKaの異なるアクリルアミド誘導体の混合溶液からなる二種類のゲル形成溶液を調整し、その二種類のゲル形成溶液からグラジエントゲルを作製することにより形成される。このようなIPGゲルは、二次元電気泳動法の一次元目の等電点(pI)の違いにより分離する電気泳動に用いられるため、プロテオーム解析における需要が大きい。
【0039】
また、上記のゲル充填装置を用いて形成された電気泳動用ゲルは、電気泳動用媒体として好適に利用することができる。
【0040】
また、本発明に係るゲル形成方法は、ゲル形成鋳型にゲル溶液を充填してゲルを形成するゲル形成方法であって、ゲルのモノマー溶液を含有するゲル形成溶液を貯蔵する第1貯蔵タンクと、ゲルの重合を開始させる重合開始剤を貯蔵する第2貯蔵タンクと、上記第1貯蔵タンクから送液されたゲル形成溶液と上記第2貯蔵タンクから送液された重合開始剤とから成るゲル溶液を吐出する吐出口と、上記第1および上記第2貯蔵タンクの各々から任意の合流点にて合流して上記吐出口までを流通する第1流路とを備えるゲル充填装置を用いて、上記第1貯蔵タンク内の上記第1貯蔵タンクおよび上記第2貯蔵タンク内の重合開始剤の各々を上記第1流路に送液する工程と、上記吐出口を介して、上記ゲル形成鋳型に上記ゲル溶液を充填する工程とを含むことを特徴としている。
【0041】
上記方法によれば、上記ゲル充填装置の奏する効果と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係るゲル充填装置は、ゲル形成鋳型にゲル溶液を充填してゲルを形成するゲル充填装置であって、ゲルのモノマー溶液を含有するゲル形成溶液を貯蔵する第1貯蔵タンクと、ゲルの重合を開始させる重合開始剤を貯蔵する第2貯蔵タンクと、上記第1貯蔵タンクから送液されたゲル形成溶液と上記第2貯蔵タンクから送液された重合開始剤とから成るゲル溶液を吐出する吐出口と、上記第1および上記第2貯蔵タンクの各々から任意の合流点にて合流して上記吐出口までを流通する第1流路とを備えるため、ゲル形成鋳型へのゲル充填途中におけるゲルの固化を防止し、ゲルを安定して形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態に係るゲル充填装置の構成を示す概略図である。
【図2】上記ゲル充填装置を用いたゲル形成方法の一例を説明する図である。
【図3】上記ゲル充填装置を用いたゲル充填方法の他の一例を説明する図である。
【図4】上記ゲル充填装置を用いたゲル充填方法のさらに他の一例を説明する図である。
【図5】上記ゲル充填装置を用いたゲル充填方法のさらに他の一例を説明する図である。
【図6】上記ゲル充填装置を用いたゲル充填方法のさらに他の一例を説明する図である。
【図7】本発明の他の一実施形態に係るゲル充填装置の構成を示す概略図である。
【図8】上記ゲル充填装置の他の構成例を示す概略図である。
【図9】本発明のさらに他の一実施形態に係るゲル充填装置の構成を示す概略図である。
【図10】上記ゲル充填装置を用いたゲル形成方法の一例を説明する図である。
【図11】上記ゲル充填装置の他の構成例を示す概略図である。
【図12】上記ゲル充填装置の他の構成例を用いたゲル形成方法の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
〔第1の実施形態〕
本発明に係る第1の実施形態について、図1〜図7を参照して以下に説明する。
【0045】
(ゲル充填装置100の構成)
本発明の一実施形態に係るゲル充填装置100は、モールド(ゲル形成鋳型)11にゲル形成溶液を充填して電気泳動用ゲルを形成する装置である。まず、本実施形態に係るゲル充填装置100の構成について、図1を参照して以下に説明する。図1は、本実施形態に係るゲル充填装置100の構成を示す概略図である。
【0046】
図1に示すように、ゲル充填装置100は、ゲル形成溶液タンク(第1貯蔵タンク)1、重合開始剤タンク(第2貯蔵タンク)2、洗浄液タンク3、各タンク内の溶液を送液するポンプ4〜6、吐出口7を有するシリンジ(吐出タンク)8、吐出口7に設けられたニードル9、吐出口7を介してゲル形成溶液を吐出させるディスペンサー10、モールド11を搬送するコンベア(搬送手段)12、当該装置における動作を制御する各種のコントローラ13〜15を備える。また、各種のコントローラ13〜15は、コンピュータ16によって総合的に制御される。
【0047】
ゲル形成溶液タンク1は、ゲル形成溶液を貯蔵するタンクである。本明細書において、「ゲル形成溶液」とは、ゲルの主鎖を構成するモノマー溶液を含む溶液を意味するものであり、架橋剤が適宜含まれていてもよい。例えば、ゲル形成溶液として、N,N´-メチレンビスアクリルアミドを架橋剤として含む30%アクリルアミド溶液、1Mトリス塩酸緩衝液(Tris−HCl)、および超純水を用いて所望のゲル濃度(好ましくは4〜20%)に調整したアクリルアミド溶液を利用することができる。
【0048】
重合開始剤タンク2は、重合開始剤を貯蔵するタンクである。本明細書において、「重合開始剤」とは、ゲル形成溶液と混合することにより、ゲルの重合を開始させる溶液である。例えば、重合開始剤として、ゲル重合開始剤として用いられる過硫酸アンモニウム(APS:Ammoniumpresulfate)と、ゲル重合促進剤として用いられるテトラメチルエチレンジアミン(TEMED:N,N,N´, N´-Tetramethylethylenediamine)とを混合したものを利用することができる。
【0049】
ゲル形成溶液タンク1と重合開始剤タンク2との各々は流路(第1流路)を介して吐出口7に連通している。第1流路は吐出口7側の末端に設けられたシリンジ8を含んで構成され、ゲル形成溶液タンク1と重合開始剤タンク2との各々から延びる第1流路はこのシリンジ8において合流している。
【0050】
なお本明細書において「流路」とは内部に溶液を流通させる構成であればよく、また、「合流」とは、内部の空間が1つの空間に繋がることを意味する。「流路」としては、例えば配管やチューブなどを利用することができる。
【0051】
ポンプ4およびポンプ5は、それぞれ第1流路に配置され、ゲル形成溶液タンク1内のゲル形成溶液と重合開始剤タンク2内の重合開始剤との各々をシリンジ8に向けてそれぞれ送液する。すなわち、ゲル形成溶液タンク1から送液されるゲル形成溶液と、重合開始剤タンク2から送液される重合開始剤とは、シリンジ8にて混合される。ゲル形成溶液と重合開始剤との混合比は、混合制御コントローラ13がポンプ4および5の各々の駆動を制御することによって調節される。
【0052】
なお、以下では、ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合された溶液のことをゲル形成混合溶液(ゲル溶液)という。ゲル形成混合溶液は、混合後、時間の経過によって固化し、ゲルが形成される。
【0053】
また、洗浄液タンク3は、洗浄液を貯蔵するタンクである。洗浄液タンク3は他の流路(第2流路)を介してシリンジ8と連通しており、ポンプ6は洗浄液タンク3内の洗浄液をシリンジ8に向けて送液する。洗浄液は、充填後にシリンジ8およびニードル9内に残存するゲル形成混合溶液を洗い流すために用いられる。洗浄液としては、超純水、および、ゲル形成溶液の調整に用いた緩衝液などを利用することができる。
【0054】
ポンプ4〜6としては、ベリスタポンプおよびダイヤフラムポンプ等を好適に用いることができる。
【0055】
シリンジ8は吐出フレーム17に支持されている。シリンジ8としては、市販されているものを利用することができ、例えば、容量が10〜50mLである樹脂製のものを用いることが好ましい。
【0056】
また、吐出口7には中空構造のニードル9が設けられている。シリンジ8としては、それぞれ市販されているものを利用することができる。例えば、金属および樹脂等、種々の材質のものを用いることができ、その外径および内径もモールド11の設計に合わせて適宜選択可能である。ただし、樹脂製よりは金属製のものが好ましく、外径が0.3〜1mm、内径が0.1〜0.6mmのニードルを好適に利用することができる。また、後述するが、モールド11の充填口に合わせてニードルを設計してもよい。
【0057】
ディスペンサー10は、例えばシリンジ8に対して圧縮空気を加える構造を有しており、シリンジ8に送液されたゲル形成混合溶液または洗浄液をニードル9から吐出させる。ここで、ゲル形成混合溶液の吐出圧力や吐出時間等を最適化することによって、モールド11にゲル形成混合溶液を精度良く充填させることができる。
【0058】
また、シリンジ8が設けられた吐出フレーム17は移動制御コントローラ14に接続されている。吐出フレーム17は、モールド11に対するニードル9の位置を調整可能なように、移動可能に構成されている。移動制御コントローラ14は、シリンジ8内のゲル形成混合用液または洗浄液の吐出、および、ニードル9のXZ方向(図1参照)の移動を制御する。
【0059】
コンベア(搬送手段)12は、ゲル形成混合溶液を充填されたモールド11を搬出し、ゲル充填装置100における充填位置に次のモールド11を搬入する。例えばコンベア12の上には複数のモールド11が乗せられており、コンベア12の移動に伴ってモールド11の搬出および搬入が連続的に行なわれる。また、コンベア12は、移動制御コントローラ15に接続されており、移動制御コントローラ15は、コンベア12のY軸方向(図1参照)の移動を制御する。
【0060】
なお、本実施形態において、移動制御コントローラ14および15は、モールド11に対するニードル9の相対的な位置を3軸方向に移動させる3軸可動ロボットを構成する。これにより、所望の位置に設けられたモールド11の充填口に対して、ニードル9をフレキシブルに位置決めして充填可能となる。
【0061】
以上のように構成されたゲル充填装置100は、ニードル9と、モールド11に設けられた充填口とを介して、ゲル形成混合溶液をモールド11へ充填する。
【0062】
モールド11は、ガラス板またはプラスチック板等を用いた2枚の基体と、当該2枚の基体の間に設けられた所望の厚さのスペーサーとから作製することができる。また、当業者が所望の設計を行えば、射出成型等によって、例えばポリメタクル酸メチル樹脂(PMMA:Polymethylmethacrylate)の鋳型を大量に低コストで作製することができる。また、モールド11の充填口は、当業者の設計により所望の位置に設けることが可能である。これに関しては、後述にて詳しく説明する。
【0063】
ゲル充填装置100によりモールド11に充填されたゲルは、代表的な電気泳動用媒体の一つであるポリアクリルアミドゲルとして利用することができる。ポリアクリルアミドゲルは、ナトリウムドデシル硫酸塩を用いたポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に好適な電気泳動用媒体である。
【0064】
なお、被分離物質としては、電気泳動および転写によって分離または分析すべき物質であればよく、生物材料(例えば、生物個体、体液、細胞株、組織培養物、または組織断片)からの調製物を好適に用いることができ、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドをより好適に用いることができる。
【0065】
本実施形態に係るゲル充填装置100は、ゲル化が開始されるゲル形成混合溶液を、ゲル形成溶液と重合開始剤と混合の直後に吐出することが可能である。このため、ゲル充填作業の途中で、ゲル形成混合溶液がゲル化してしまうことを防止することができる。ゲル充填装置100による効果は、特に、ゲル形成混合溶液の固化時間がゲル形成溶液タンク1から吐出口7までの送液時間に比べて短い場合に有効である。
【0066】
また、本実施形態では、ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合されてなるゲル形成混合溶液が通過する領域は、シリンジ8およびニードル9のみである。このため、シリンジ8とニードル9という限られた領域を洗浄することによって、ゲル充填装置100内にゲルが残存することを防ぐことができる。
【0067】
(ゲル充填装置100の動作)
本実施形態に係るゲル充填装置100の充填動作について以下に説明する。
【0068】
まず、コンベア12が、ゲルを充填すべきモールド11を所定の充填位置に搬送する。
【0069】
一方、ゲル形成溶液タンク1は所望の濃度に調整されたゲル形成溶液を貯蔵しており、重合開始剤タンク2は調整済みの重合開始剤を貯蔵している。ここで、ポンプ4はゲル形成溶液タンク1内のゲル形成溶液をシリンジ8に送液し、同時に、ポンプ5は重合開始剤タンク2内の重合開始剤をシリンジ8に送液する。シリンジ8に送液されたゲル形成溶液と重合開始剤とは混合してゲル形成混合用液となる。
【0070】
上記送液時、混合制御コントローラ13がポンプ4および5を制御してゲル形成溶液および重合開始剤の送液量を調整することによって、ゲル形成溶液と重合開始剤との混合比が制御される。
【0071】
次に、吐出フレーム17は所定の場所に搬送されたモールド11に移動し、ニードル9の先端はモールド11の充填口からモールド11内部に向けて位置する。その後、ディスペンサー10は、ニードル9を介してシリンジ8内のゲル形成混合溶液をモールド11内に吐出する。なお、ゲル形成混合溶液は、細いニードル9を通過する時にさらに良好に混合される。
【0072】
充填後、コンベア12は、充填済みのモールド11を搬出し、次のモールド11を所定の充填位置に搬送する。
【0073】
ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合されたゲル形成混合溶液は、混合後、数十分から数時間のうちに固化する。したがって、充填後、モールド11を保存することにより、モールド11内にはゲルが形成される。
【0074】
また、充填後、ゲル充填装置100内にゲル形成混合溶液が残存したまま固化すると、その後の装置の使用に支障が生じる。このため、充填後には、ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合された箇所から吐出口までを洗浄することが好ましい。
【0075】
具体的には、ニードル9が例えば廃液容器など廃液系に移動し、ポンプ6が洗浄液タンク3内の洗浄液をシリンジ8に送液する。洗浄液はシリンジ8およびニードル9を通過してこれらを洗浄する。場合によっては、圧縮空気により残渣をゲル充填装置の系外に排出しても構わない。
【0076】
以上の動作によって、モールド11内にゲル形成混合用液を充填してゲルを形成することができる。
【0077】
なお、モールド11の搬出は、充填されたゲル形成混合溶液が固化するまで控える必要はなく、モールド11にゲル形成混合溶液が充填された後に即座に行われてもよい。
【0078】
また、洗浄液による洗浄を行うタイミングは、シリンジ8内のゲル形成混合溶液が固化する前に設定する。例えば、モールド11に充填後のゲル形成溶液が固化する前に、ゲル形成溶液が通過した導路を洗浄する。上述したように、1つのモールド11にゲル形成混合溶液を充填した後に直ぐ洗浄を行ってもよいが、任意に設定した複数のモールド11にゲル形成混合溶液を充填する毎に行ってもよい。
【0079】
(ゲル充填方法)
本実施形態に係るゲル充填装置100によるゲル充填方法について、図2〜6を参照して以下に説明する。図2〜6は、ゲル充填方法の一例を説明するための模式図である。
【0080】
まず、ゲル形成混合溶液の基本的な充填方法について図2を参照して説明する。図2(a)〜(c)は、ゲル充填方法の各工程を示す模式図である。
【0081】
まず、図2(a)に示すように、ニードル9をモールド11の充填口18に挿入する。次に、図2(b)に示すように、ニードル9を介して、ゲル形成混合溶液をモールド11内のスペースに充填する。最後に、図2(c)に示すように、ニードル9をモールド11の充填口18から抜く。その後、モールド11内に充填されたゲル形成混合溶液がゲルを形成する。
【0082】
以上の充填方法は、形成するゲルの種類やモールド11の形状に合わせて、適宜、追加や変更が可能である。
【0083】
図3は、モールド壁面充填方法を説明する図である。図3に示すように、モールド11の充填口18が上面に形成されている場合、ゲル形成混合溶液を充填する際、ゲル形成混合溶液をモールド11の壁面19に導液させることが好ましい。仮に、ゲル形成混合溶液を壁面19に導液させず、モールド11の中央部分に注入した場合、気泡がモールド内に残存したままゲルが形成されることがあるので注意が必要になる。また、壁面19に溝などの特別な構造が形成された場合、ゲル形成混合溶液を壁面19に効果的に導液させることができる。
【0084】
図4は、ニードル引き上げ充填方法を説明する図である。図4(a)はニードル9の引き上げ前の状態を示し、図4(b)はニードル9がある程度引き上げられた状態を示す。図4(a)(b)に示すように、モールド11の充填口18が上面に形成されている場合、ゲル形成混合溶液を充填する際、ニードル9を引き上げつつ充填することが好ましい。このとき、充填されたゲル形成混合溶液の液面に対応してニードル9を引き上げる。このような方法を用いることにより、気泡発生を防止しつつゲル形成混合溶液を充填することが可能になる。
【0085】
図3および図4では、モールド11の充填口18が上面に形成されている場合の充填方法を説明したが、本発明はこれに限られず、充填口18が側面に形成されたモールド11に対しても充填することができる。
【0086】
図5(a)(b)は、側面に充填口を形成されたモールド11に対する充填方法を説明する図である。図5(a)はニードル9をモールド11に挿入する前の状態を示し、図5(b)はニードル9をモールド11に挿入した後の状態を示す。ここで、ニードル9は、モールド11の側面に挿入可能なように90°に曲げられた形状を有する。図5(a)(b)に示すように、モールド11の側面における充填口18にニードル9を挿入し、ニードル9を介してゲル形成混合溶液をモールド11内に充填する。
【0087】
なお、ニードル9はさらに90°曲げられ、二段階に90°曲げされた形状であっても構わない。これによって、モールド11が縦にセットされた場合でも、横にセットされた場合でも対応可能となる。
【0088】
図6は、界面検出器20を用いた充填方法を説明する図である。図6に示すように、モールド11には界面検出器(充填制御手段)20が設けられることが好ましい。界面検出器20は、モールド内に充填されたゲル形成混合溶液の液面を検出するものであり、コンピュータ16に接続される。例えば、設定した界面までゲル形成混合溶液の液面が上昇すると、界面検出器20による検出信号に基づいてフィードバックがかかり、ゲル形成混合溶液の送液が止められる。このような液面制御を行うことにより、モールド11内で所定の長さ(図6中の上下方向の長さ)のゲルを再現性よく形成することができる。
【0089】
なお、モールド11に形成されるスペースの体積は、モールド11に用いる基体の精度や、モールド11の組み立て精度等に大きく依存し、必ずしも一定の体積を示すものではない。よって、一定体積のゲル形成混合溶液を精度よく充填するよりは、充填する際の液面を検出する方がより良好な再現性を得ることができる。本充填方法は、特に、後述にて説明する重層構造ホモジニアスゲル(分離ゲル)を製造する際に有効である。
【0090】
〔第2の実施形態〕
本発明に係る第2の実施形態について、図7および図8に基づいて説明すれば以下の通りである。尚、本形態では、上記第1の実施形態との相違点について説明するため、説明の便宜上、第1の実施形態で説明した部材と同一の機能を有する部材には同一の部材番号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0091】
上記第1の実施形態では、1種類のゲル形成溶液を用いる構成について説明しているが、本発明はこれに限られず、複数種類のゲル形成溶液を用いる構成であってもよい。本実施形態では、2種類のゲル形成溶液を用いるゲル充填装置110について説明する。
【0092】
本実施形態に係るゲル充填装置110は、グラジエントゲルまたはIPGゲル作製に好適なモノニードル型ゲル充填装置である。具体的には、ゲル充填装置110は、第1ゲル形成溶液および第2ゲル形成溶液という2種類のゲル形成溶液を用い、両者の溶液を所望の濃度で混合することによって、第1ゲル形成溶液から第2ゲル形成溶液へとその成分を漸次変化させたゲルを形成することができる。
【0093】
例えば、アクリルアミド濃度が5%〜10%のグラジエントを有するポリアクリルアミドゲルを作製する場合、ゲル充填装置110は、5%アクリルアミドを含有する第1ゲル形成溶液と、10%アクリルアミドを含有する第二のゲル形成溶液とを用い、これらの溶液を漸次混合する。
【0094】
また、等電点(pI)が3〜10のIPGゲルを作製する場合、好適なアクリルアミド誘導体を混合してpI3に調整した第1ゲル形成溶液と、好適なアクリルアミド誘導体を混合してpI10に調整した第2ゲル形成溶液とを用い、これらの溶液を漸次混合する。
【0095】
(ゲル充填装置110の構成)
本実施形態に係るゲル充填装置110の構成について図7を参照して以下に説明する。図7は、本実施形態に係るゲル充填装置110の構成を示す概略図である。
【0096】
本実施形態に係るゲル充填装置110は、第1ゲル形成溶液が貯蔵された第1ゲル形成溶液タンク21、第2ゲル形成溶液が貯蔵された第2ゲル形成溶液タンク22を備えている。言い換えると、本実施形態では、実施形態1におけるゲル形成溶液タンクが複数のタンクから構成されている。
【0097】
第1ゲル形成溶液タンク21、第2ゲル形成溶液タンク22、および重合開始剤タンク2は、第1流路を介して吐出口7に連通している。第1流路は、吐出口7側の末端に設けられたシリンジ8を含んで構成されるが、シリンジ8ではなく、合流点27において合流している。
【0098】
ポンプ23および24は、それぞれ第1流路に配置されており、第1ゲル形成溶液タンク21内の第1ゲル形成溶液と、第2ゲル形成溶液タンク22内の第1ゲル形成溶液との各々を混合器26に向けてそれぞれ送液する。
【0099】
ポンプ23および24には混合制御コントローラ(混合比制御手段)25が接続されており、混合制御コントローラ25は、ポンプ4および5の各々の駆動を制御することによって、第1ゲル形成溶液と第2ゲル形成溶液との混合比を制御する。例えば、ゲル充填装置110による充填動作中に、混合制御コントローラ25が上記混合比を漸次変化させることによって、所望のグラジエントゲルまたはIPGゲルを形成することができる。
【0100】
また、本実施形態に係るゲル充填装置110は、混合器26を備えている。混合器26は、第1流路における合流点27とシリンジ8との間に配置されており、第1ゲル形成溶液タンク21から送液された第1ゲル形成溶液と、第2ゲル形成溶液タンク22から送液された第2ゲル形成溶液とを効果的に混合する。混合器26としては、市販されているグラジエントミキサーやスタティックミキサー等を用いることができ、また当業者が好適に設計したミキサーを用いることもできる。
【0101】
本実施形態において、洗浄液タンク3は、第2流路を介して、第1流路のうち、合流点27よりも上流の位置に連通している。これによって、第1および第2ゲル形成溶液と重合開始剤とが混合されてなるゲル形成混合溶液が通過する領域(混合器26、シリンジ8、およびニードル9を含む領域)を効率的に洗浄することができる。
【0102】
なお、合流点27は第1流路中において任意に設定可能であるが、吐出口7に近い方が好ましい。また、合流点27は混合器26の配置位置であってもよい。
【0103】
また、第1ゲル形成溶液と第2ゲル形成溶液との混合溶液の送液制御、重合開始剤の送液制御、ディスペンサー10による吐出制御、洗浄液の送液制御、およびニードル9とコンベア12との位置関係の3軸(XYZ軸)移動制御は、コンピュータ16によって総合的に制御される。
【0104】
また、ゲル充填装置110におけるその他の部材の機能は、上記実施形態1にて説明したものと同様である。
【0105】
(他の構成例)
本発明において、ディスペンサー10およびシリンジ8は必須の構成ではなく、これらを省略して簡略化されたゲル充填装置120を実現することもできる。このゲル充填装置120について図8を参照して以下に説明する。図8は、本実施形態の他の構成例に係るゲル充填装置120の構成を示す概略図である。
【0106】
図8に示すように、ゲル充填装置120は、ディスペンサー10およびシリンジ8を備えない点以外は、図7に示すゲル充填装置110と同様の構成を有する。ただし、ゲル充填装置120では、ポンプ5、23、および24が、第1ゲル形成溶液、第2ゲル形成溶液および重合開始剤をそれぞれ送液することによって、これらからが混合されてなるゲル形成混合溶液を送液する。また、吐出口7には直接ニードル9が設けられており、混合器26にて混合されたゲル形成混合溶液は、吐出口7に送液され、ニードル9を介してモールド11に充填される。
【0107】
このような送液系を設計する場合、液体クロマトグラフィーの送液システムを参考にすることが有効であり、ポンプ5、23、および24として、複数の溶媒の流速を制御可能なグラジエントポンプを利用することが好ましい。しかし、グラジエントポンプはポンプ自体の価格が高価であるため、当業者の設計により、適宜最適なポンプを選択することが望ましい。
【0108】
〔第3の実施形態〕
本発明に係る第3の実施形態について、図9から図12に基づいて説明すれば以下の通りである。尚、本形態では、上記第1の実施形態との相違点について説明するため、説明の便宜上、第1の実施形態で説明した部材と同一の機能を有する部材には同一の部材番号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0109】
上記第1および第2の実施形態では、ゲル形成溶液タンク、重合開始剤タンク、およびニードルを含む、ゲル形成混合溶液の充填系を1つ有する構成について説明しているが、本発明はこれに限られず、複数の充填系を備えていてもよい。本実施形態では、説明を簡単に行うために、2つの充填系を備えるダブルニードル型のゲル充填装置130について説明する。
【0110】
本実施形態に係るゲル充填装置110は、2つの充填系において、異なる種類のゲル形成溶液を利用することができる。このため、ゲル充填装置110は、Laemmli法(U.K.Laemmli,Nature,1970,227,680.)に基づき、実際に分離を行うゲル(分離ゲル)の上に濃縮ゲルを積層した重層ホモジニアスゲルを生産性よく形成することができる。
【0111】
(ゲル充填装置130の構成)
本実施形態に係るゲル充填装置130の構成について図9を参照して以下に説明する。図9は、本実施形態に係るゲル充填装置120の構成を示す概略図である。
【0112】
図9に示すように、本実施形態に係るゲル充填装置130は、2つの充填系AおよびBを備えている。充填系Aは、ゲル形成溶液Aを貯蔵するゲル形成溶液タンク1a、重合開始剤Aを貯蔵する重合開始剤タンク2a、各タンク内の溶液を送液するポンプ4aおよび5a、吐出口7aを有するシリンジ8a、吐出口7aに設けられたニードル9a、ディスペンサー10a、混合制御コントローラ13aを含んで構成される。
【0113】
同様に、充填系Bは、ゲル形成溶液Bを貯蔵するゲル形成溶液タンク1b、重合開始剤Bを貯蔵する重合開始剤タンク2b、各タンク内の溶液を送液するポンプ4bおよび5b、吐出口7bを有するシリンジ8b、吐出口7bに設けられたニードル9b、ディスペンサー10b、混合制御コントローラ13bを含んで構成される。なお、充填系AおよびBにおける各部材の機能は実施形態1にて説明したものと同様である。
【0114】
また、本実施形態では、洗浄液タンク3は、シリンジ8aおよび8bの両方に連通している。また、コンピュータ16は、充填系Aにおけるゲル形成混合溶液Aの送液制御、充填系Bにおけるゲル形成混合溶液Bの送液制御、ディスペンサー10の吐出制御、洗浄液の送液制御、ならびに、ニードル9aおよび9bとコンベア12との位置関係の3軸(XYZ軸)移動制御を総合的に制御する。
【0115】
ゲル充填装置130によれば、充填系Aのゲル形成混合溶液Aおよび充填系Bのゲル形成混合溶液Bが、ニードル9aおよび9bの各々を介して、モールド11に充填される。ここで、ゲル形成混合溶液Aとゲル形成混合溶液Bとに異なるゲル形成混合溶液を利用すれば、重層ホモジニアスゲルを好適に形成することができる。
【0116】
(ゲル形成方法の一例)
本実施形態に係るゲル充填装置130を用いて重層ホモジニアスゲルを形成する方法について、図10を参照して以下に説明する。図10(a)〜(d)は、ゲル形成方法の各工程を示す模式図である。
【0117】
ここで、ゲル充填装置130における2つの充填系(充填系AおよびB)の各々に用いるゲル形成混合溶液は、上述のLaemmli法でいう分離ゲルおよび濃縮ゲルの各々に対応する。
【0118】
具体的には、充填系Aに用いるゲル形成混合溶液Aは分離ゲルに対応する。そのために、N,N´-メチレンビスアクリルアミドを架橋剤として含有するアクリルアミド溶液およびトリス塩酸緩衝液からなるゲル形成溶液Aと、APSおよびTEMEDからなる重合開始剤Aとの各々を、ゲル形成混合溶液Aにおいてアクリルアミド濃度がトータルして10%になるように調整する。また、ゲル形成溶液Aまたは重合開始剤Aには、ゲル形成混合溶液Aにおいて10〜20%濃度になるグリセロールを添加しておく。このグリセロールは、ゲル溶液の比重差を応用して重層ゲルを形成する工程に利用するものであり、ゲル溶液に比重差を付けることが可能な物質であれば、グリセロールに限定されるものではない。
【0119】
一方、充填系Bに用いるゲル形成混合溶液Bは濃縮ゲルに対応する。そのために、N,N´-メチレンビスアクリルアミドを架橋剤として含有するアクリルアミド溶液およびトリス塩酸緩衝液からなるゲル形成溶液Bと、APSおよびTEMEDからなる重合開始剤Bとの各々を、ゲル形成混合溶液Bにおいてアクリルアミド濃度がトータルして4%になるように調整する。また、ゲル形成混合溶液Bに添加するグリセロールは、ゲル形成混合溶Aに添加するグリセロール濃度以下であればよく、グリセロールを全く添加しなくても構わない(すなわち、グリセロール濃度は0%)。
【0120】
まず、図10(a)に示すように、コンベア12で所定位置にセットされたモールド11の充填口18にして、ニードル9aおよび9bを同時に挿入する。次に、図10(b)に示すように、シリンジ8aに送液されたゲル形成混合溶液Aを、ニードル9aを介してモールド11内に吐出する。
【0121】
次に、図10(c)に示すように、シリンジ8bに送液されたゲル形成混合溶液Bを、ニードル9bを介してモールド11内に吐出する。これによって、モールド11内では、ゲル形成混合溶液Aの上にゲル形成混合溶液Bが重層される。
【0122】
最後に、図10(d)に示すように、ニードル9aおよび9bをモールド11から脱着し、モールド11内のゲル形成混合溶液Aおよびゲル形成混合溶液Bを一括してゲル化する。これによって、モールド11内には、濃縮ゲル(濃度が均一なホモジニアスゲル)と、分離ゲル(濃度が均一なホモジニアスゲル)からなる重層構造ポリアクリルアミドゲルを好適に形成することができる。
【0123】
以上のように、ゲル充填装置130(ダブルニードル型ゲル充填装置)を用いれば、モールド11の充填口18に対するニードル9aおよび9bの移動や、モールド11の搬送などの回数を、モノニードル型ゲル充填装置と比較して半分に減少させ、タクトタイム(作業時間)を短縮することができる。なお、充填系の数を3つにしたトリプルニードル型であれば、上記の作業に要する回数を3回から1回に減少することも可能である。
【0124】
(他の構成例)
本実施形態の他の構成例に係る第2のダブルニードル型のゲル充填装置140について図11を参照して以下に説明する。
【0125】
図11は、本実施形態の他の構成例に係るゲル充填装置140の構成を示す概略図である。上述した図9に示すゲル充填装置130は、2本のニードルが1つのモールド11に挿入される構成であるが、図11に示すゲル充填装置140は、2本のニードルの各々が隣り合う2つのモールドにそれぞれ挿入される構成である。すなわち、ゲル充填時、コンベア12上に載せられた複数のモールド11のうち、所定位置に搬送されたモールド11にはニードル9aが挿入され、同時に、その隣のモールド11にはニードル9bが挿入される。これ以外の構成については、図9に示すゲル充填装置130と同一である。
【0126】
次に、ゲル充填装置140を用いて重層ホモジニアスゲルを形成する方法について、図12を参照して以下に説明する。図12(a)(b)は、ゲル形成方法の各工程を示す模式図である。
【0127】
なお、コンベア12上には複数のモールド11がナンバー1から順にセットされているとする。
【0128】
図12(a)は、複数のモールド11内に連続的にゲルを形成する工程において、あるタイミングにおいてモールド11に充填を行う状態を示している。図12(a)に示すタイミングでは、ナンバー15のモールド11には既に、ゲル形成混合溶液Aとゲル形成混合溶液Bが重層され、分離ゲル41と濃縮ゲル42が形成されている。また、既にゲル形成混合溶液Aが充填された、ナンバー50のモールド11には、ニードル9bを介してゲル形成混合溶液Bが充填される。同時に、ナンバー51のモールド11には、ニードル9aを介してゲル形成混合溶液Aが充填される。
【0129】
図12(b)は、図12(a)に示す処理の後、次のタイミングにおいて、モールド11に充填を行う状態を示している。なお、図12(b)では、図12(a)に示す処理の後、コンベア12によってモールド11群が搬送されている。
【0130】
ナンバー15のモールド11は、図12(a)に示した位置よりも右側に搬送され、ナンバー16のモールドが左側より搬送されている。
【0131】
ナンバー50のモールド11は、ニードル9bを介する充填エリアから右側にずれ、替わりに、図12(a)でゲル形成混合溶液Aが充填されたナンバー51のモールド11が搬送されている。図12(b)に示すタイミングでは、このナンバー51のモールド11には、ニードル9bを介してゲル形成混合溶液Bが充填される。
【0132】
ナンバー52のモールド11は、ニードル9aを介する充填エリアに搬送されている。このナンバー52のモールド11には、ニードル9aを介してゲル形成混合溶液Aが充填される。
【0133】
また、ナンバー52のモールド11の左隣には、新たに、ゲル充填前のナンバー53のモールド11が搬送されている。
【0134】
以上のような工程をサイクリックに行うことによって、大量のモールド11に対して、効率的に、ゲル形成混合溶液Aとゲル形成混合溶液Bとを充填および重層し、分離ゲルと濃縮ゲルとを形成することができる。
【0135】
したがって、本実施形態によれば、複数のニードルと充填方法を工夫することにより(例えば、2本のニードルを用いて隣り合う2つのモールドに同時にゲル形成混合溶液を充填することにより)、1本のニードルを用いた場合と比較して、半分以下のタクトタイム(作業時間)を達成することができる。
【0136】
なお、本実施形態は、第2の実施形態にて述べたように、複数種類のゲル形成溶液を用いる構成であってもよい。例えば、第1ゲル形成溶液および第2ゲル形成溶液という2種類のゲル形成溶液を用い、グラジエントゲルまたはIPGゲルの作製が可能な構成としてもよい。
【0137】
この場合、充填系Aは、第1ゲル形成溶液A、第2ゲル形成溶液A、重合開始剤Aの各々を充填する3つの溶液タンクを備える。また、充填系Bは、第1ゲル形成溶液B、第2ゲル形成溶液B、重合開始剤Bの各々を充填する3つの溶液タンクを備える。すなわち、合計6系統の溶液とそれを充填する溶液タンクが必要となる。
【0138】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明に係るゲル充填器具は、電気泳動用の分離媒体を作製することに好適に利用することができ、例えば臨床医療分野やタンパク質解析分野への応用が可能である。
【符号の説明】
【0140】
1 ゲル形成溶液タンク(第1貯蔵タンク)
2 重合開始剤タンク(第2貯蔵タンク)
3 洗浄液タンク
7 吐出口
8 シリンジ(吐出タンク)
11 モールド(ゲル形成鋳型)
12 コンベア(搬送手段)
20 界面検出器
25 混合制御コントローラ(混合比制御手段)
26 混合器
27 合流点
100、110、120、130、140 ゲル充填装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル形成鋳型にゲル溶液を充填してゲルを形成するゲル充填装置であって、
ゲルのモノマー溶液を含有するゲル形成溶液を貯蔵する第1貯蔵タンクと、
ゲルの重合を開始させる重合開始剤を貯蔵する第2貯蔵タンクと、
上記第1貯蔵タンクから送液されたゲル形成溶液と上記第2貯蔵タンクから送液された重合開始剤とから成るゲル溶液を吐出する吐出口と、
上記第1および上記第2貯蔵タンクの各々から任意の合流点にて合流して上記吐出口までを流通する第1流路とを備えることを特徴とするゲル充填装置。
【請求項2】
上記吐出口に送液する洗浄液を貯蔵する洗浄液タンクと、
上記洗浄液タンクから、上記第1流路における上記合流点または上記合流点よりも上流までを流通する第2流路とをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のゲル充填装置。
【請求項3】
上記吐出口を介して上記ゲル溶液を充填されたゲル形成鋳型を搬出し、かつ、上記吐出口に対して次のゲル形成鋳型を搬入する搬送手段をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のゲル充填装置。
【請求項4】
上記第1流路のうち、上記合流点または上記合流点よりも下流に配置された混合器を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のゲル充填装置。
【請求項5】
上記第1流路は、上記吐出口側の末端に設けられた吐出タンクを含んで構成される
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のゲル充填装置。
【請求項6】
上記合流点は、上記吐出タンクにあることを特徴とする請求項5に記載のゲル充填装置。
【請求項7】
上記吐出口に設けられた中空構造のニードルをさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のゲル充填装置。
【請求項8】
上記ゲル形成鋳型に対する上記吐出口の相対的な位置を3軸方向に移動させる3軸可動ロボットをさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のゲル充填装置。
【請求項9】
上記ゲル形成鋳型に吐出されたゲル溶液の液面を検出する界面検出器と、上記界面検出器による検出信号に基づいて吐出動作を制御する充填制御手段とをさらに備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のゲル充填装置。
【請求項10】
上記第1および第2貯蔵タンクから上記吐出口までを含む充填系を複数備えることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のゲル充填装置。
【請求項11】
複数の上記充填系の間では、上記第1貯蔵タンクの貯蔵する第1ゲル形成溶液の含むモノマー溶液の濃度が互いに異なることを特徴とする請求項10に記載のゲル充填装置。
【請求項12】
上記第1貯蔵タンクは、互いに濃度または等電点の異なるモノマー溶液を含有する複数のゲル形成溶液をそれぞれ貯蔵する複数のタンクから構成されており、
上記複数のタンクの各々から上記吐出口に送液される上記複数のゲル形成溶液の送液量をそれぞれ漸次変化させる混合比制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のゲル充填装置。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載のゲル充填装置を用いて形成されたことを特徴とする電気泳動用ゲル。
【請求項14】
ゲル形成鋳型にゲル溶液を充填してゲルを形成するゲル形成方法であって、
ゲルのモノマー溶液を含有するゲル形成溶液を貯蔵する第1貯蔵タンクと、
ゲルの重合を開始させる重合開始剤を貯蔵する第2貯蔵タンクと、
上記第1貯蔵タンクから送液されたゲル形成溶液と上記第2貯蔵タンクから送液された重合開始剤とから成るゲル溶液を吐出する吐出口と、
上記第1および上記第2貯蔵タンクの各々から任意の合流点にて合流して上記吐出口までを流通する第1流路とを備えるゲル充填装置を用いて、
上記第1貯蔵タンク内の上記第1貯蔵タンクおよび上記第2貯蔵タンク内の重合開始剤の各々を上記第1流路に送液する工程と、
上記吐出口を介して、上記ゲル形成鋳型に上記ゲル溶液を充填する工程とを含むことを特徴とするゲル形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−102722(P2011−102722A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256976(P2009−256976)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)