説明

ゲル化剤もしくは増粘剤、及びこれを用いた食品

【課題】
従来のゲル化剤、増粘剤は離水が多い、高価である、またミネラルとの反応性が強すぎる、など使用に様々な問題があった。
【解決手段】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、水溶性大豆多糖類に対して架橋化処理を行なった、架橋化大豆多糖類に第二族元素の塩を添加することにより、ゲル化作用又は増粘作用があることを見出し、本発明を完成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化剤もしくは増粘剤、及びこれを用いた食品に関する。さらに、溶液をゲル化する方法又は溶液を増粘させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ジャム、ゼリー、濃厚流動食等に使用されているゲル化剤や増粘剤として、ゼラチン、寒天、高メトキシルペクチン、低メトキシルペクチン、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸ナトリウムなどの水溶性多糖類が用いられてきた。
【0003】
カラギーナンやアルギン酸ナトリウム等のゲル化剤は、食品や医薬品に広く利用されているが、これらのゲル化剤を用いたゲルは冷蔵保存すると離水しやすかった。そしてこれらの多糖類は非常に高価であり、また溶解時の溶液粘度も高いものであった。また、ジェランガムは、シュードモナス・エロディア(Pseudomonas elodea)が生産する多糖類であり、比較的安定に供給される上、寒天やカラギーナン以上に強固なゲルを形成するが、価格が高い問題があった。
【0004】
柑橘類やリンゴの搾汁粕から得られるペクチンもゲル化剤として広く利用されているが、溶解性が悪く、溶液の粘度も高いことから使用時の作業性が悪かった。特許文献1において、栄養剤用ゲル化剤として低メトキシルペクチンが使用されているが、ミネラルとの反応が速く、通常は反応を抑えるために縮合リン酸塩などのキレート剤を併用しなければならなかった。
【0005】
一方、日本では年間約80万tものオカラが豆腐や分離大豆蛋白の製造時に副生しているが、その殆どは飼料や肥料として付加価値が低いまま用いられている。こうしたオカラを有効利用する方法の一つとして、オカラから機能性の高いさまざまな物質の抽出が試みられてきた。例えば特許文献2に開示するように、本出願人は蛋白質を含有する水不溶性の植物繊維を、蛋白質の等電点付近の酸性下において高温で分解させるようにして、水溶性大豆多糖類を得た。こうして得られた水溶性大豆多糖類は、酸性溶液において乳蛋白質を低粘度で安定化する機能に優れており、該用途に広く利用されるに到った。一方、水溶性大豆多糖類でゲル化や増粘といった機能を十分に発揮させることは困難であった。
【0006】
(参考文献)
【特許文献1】特開2006−248981号公報
【特許文献2】特許第2599477号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のゲル化剤、増粘剤は上述の通り、離水が多い、高価である、またミネラルとの反応性が強すぎるなど、使用に様々な問題があった。
そこで本発明は、離水が少なく、ミネラルとの反応性が緩慢で食品等への利用がしやすいゲル化剤又は増粘剤を提供することを課題とし、さらにこれを使用した食品、さらには溶液をゲル化する方法又は増粘させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、水溶性大豆多糖類に対して架橋化処理を行なった架橋化大豆多糖類を用いること、そしてさらに、架橋化大豆多糖類は第二族元素の塩と作用させることにより、望ましいゲルが形成されうること、又は、溶液が望ましい粘度に増粘されることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)架橋化大豆多糖類を有効成分とすることを特徴とするゲル化剤又は増粘剤、
(2)第二族元素の塩を含有する前記(1)記載のゲル化剤又は増粘剤、
(3)他の水溶性多糖類を含有する前記(1)記載のゲル化剤又は増粘剤、
(4)架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩が添加された食品であって、該架橋化大豆多糖類により食品中においてゲルが形成されているか、又は、食品が増粘されていることを特徴とする食品、
(5)架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を含む原料を水に溶解して食品の原料液を調製し、該原料液を容器に充填した後に、該食品にゲルを形成させ、又は、該食品を増粘させることを特徴とする食品の製造法、
(6)架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を水に溶解して混合溶液を調製することを特徴とする、溶液のゲル化又は増粘方法、
(7)第二族元素の塩との作用により溶液をゲル化し、又は、溶液を増粘させるために使用される架橋化大豆多糖類、である。
【発明の効果】
【0010】
従来の水溶性大豆多糖類はゲル化剤や増粘剤の用途で用いることはできなかったが、本発明により、大豆多糖類を利用したゲル化剤又は増粘剤を提供することが可能となる。そのゲル形成機能や増粘機能は大豆多糖類と第二族元素の塩との作用によって発揮される特有のものである。特に架橋化大豆多糖類と第二族元素の塩との反応は、低メトキシルペクチンと第二族元素の塩との反応のように高いものでなく、緩やかな反応性を有していることが特徴である。また、得られたゲルは冷蔵保存においても経時的に離水することがない。
したがって、緩慢なゲル形成性や増粘性が求められる食品、医薬、その他の様々な分野への利用が可能である。
より具体的には、それらの緩慢な反応性によって、食品等の製造時に原料液の調製段階で架橋化大豆多糖類と第二族元素の塩を同時に添加しても急激に原料液がゲル化や増粘することがない。そのため、原料液が製造ラインでつまりにくく、殺菌ラインや容器の充填ラインにまで物性が大きく変化することなく送液されうる。そして容器等への充填が完了してから所望の硬さのゲルを形成させたり、所望の粘度の溶液に増粘させたりすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のゲル化剤又は増粘剤は、架橋化大豆多糖類を有効成分とすることを特徴とする。また、本発明の食品は、架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩が添加された食品であって、該架橋化大豆多糖類により食品中においてゲルが形成されているか、又は、食品が増粘されていることを特徴とする。また、本発明の食品の製造法は、架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を含む原料を水に溶解して食品の原料液を調製し、該原料液を容器に充填した後に、該食品にゲルを形成させ、又は、該食品を増粘させることを特徴とする。また、本発明の溶液のゲル化又は増粘方法は、架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を水に溶解して混合溶液を調製することを特徴とする。さらに、本発明の架橋化大豆多糖類の用途は、第二族元素の塩との作用により溶液をゲル化し、又は、溶液を増粘させるために使用されるものである。以下、本発明の技術的事項について具体的に説明する。
【0012】
(架橋化大豆多糖類)
本発明においては、大豆多糖類を用いて溶液をゲル化し、又は、溶液を増粘する効果を得るために、大豆多糖類として架橋化大豆多糖類を使用し、これを第二族元素の塩と作用させる点を基本的な技術思想とする。そしてこれによって架橋化大豆多糖類の新たな用途を提供するものである。
「架橋化大豆多糖類」とは、水溶性大豆多糖類に架橋化処理を行なって得られた大豆多糖類である。ここで「水溶性大豆多糖類」とは、種々の方法で得られる水溶性大豆多糖類を用いることができるが、例えば、特許文献2に記載される方法に従って得られる水溶性大豆多糖類を用いることができる。製造の一例を示せば、豆腐や豆乳、分離大豆蛋白質の製造時に副産物として得られるオカラや、脱脂大豆粕を原料として、水系下で蛋白質の等電点付近である弱酸性域で高温抽出し、固液分離により水溶性大豆多糖類を得ることができる。油分,蛋白質が共に少ない、分離大豆蛋白質製造時のオカラが原料として好ましく、抽出温度は100℃を超えると抽出効率が高く好ましい。このように得られた水溶性大豆多糖類は、抽出濾液または抽出濾液の精製物に対して以下の架橋化処理を行なっても良いし、抽出濾液またはその精製物を更に乾燥した物に対して架橋化処理を行なっても良い。
【0013】
架橋化処理としては、水溶性大豆多糖類分子間を直接架橋させることもできるし、架橋剤を介して架橋させることもできる。多糖類分子間を直接架橋させる方法を例示すると、水溶性大豆多糖類に、塩酸等の鉱酸をはじめとした各種の酸水溶液を、多糖類100gに対して2〜50m mol加え、水分量を0.5〜20重量%とした上で、100℃〜160℃で加熱する。また、水溶性大豆多糖類を酵素処理や、放射線処理によって架橋しても良い。
【0014】
次に、水溶性大豆多糖類に架橋剤を介して架橋させる方法を例示する。水溶性大豆多糖類の水溶液に対し、種々の架橋剤を添加する。ここでいう架橋剤は特に限定されないが、リン酸,フィチン酸,ポリリン酸,メタリン酸,無水リン酸,ヘキサメタリン酸,トリメタリン酸等のリン酸化合物又はその塩類や、オキシ塩化リン,エピクロロヒドリン,ホルムアルデヒド,グルタルアルデヒド,ジエポキシアルカン,ジエポキシアルケン等が例示できる。中でも反応の効率からリン酸化合物又はその塩類が好ましく、トリメタリン酸又はその塩類がより好ましい。
添加する架橋剤の量は、架橋剤の種類や水溶性大豆多糖類の濃度によっても異なってくるが、例えば水溶性大豆多糖類の5重量%水溶液にトリメタリン酸ナトリウムを用いる場合、溶液中の固形分に対して好ましくは1〜100重量%、更に好ましくは10〜80重量%、最も好ましくは20〜50重量%である。架橋剤の量が少なすぎると、架橋化の効率が低く、架橋剤の量が多すぎると溶液の粘度が急激に上昇し、処理の過程で流動性を失ったりゲル化することがある。反応液中の水溶性大豆多糖類の濃度に合わせても、添加する架橋剤の濃度を調整する必要があり、水溶性大豆多糖類の濃度が高い場合、添加する架橋剤は上記値より少量にすることができる。
尚、反応液中の水溶性大豆多糖類の濃度は、低いと反応性が低く、高いと粘度上昇等が伴い取扱性が悪化するが、0.1〜20重量%が好ましく、1〜10重量%が特に好ましい。また、架橋化処理をする場合、反応時の水溶性大豆多糖類の粘性を下げるために、塩類を添加することもできる。塩類としては、水に溶解するものであって、塩化ナトリウム、塩化カルシウムなどが好ましいものとして例示できる。
【0015】
架橋剤としてリン酸化合物またはその塩類を用いる場合、それらを添加後の水溶液は、アルカリ条件下で加熱処理することで、効率よく架橋化処理を行なうことができる。アルカリ条件としては、好ましくはpH10以上、更に好ましくはpH12以上であり、且つ、好ましくはpH13以下が良好である。また、加熱条件としては、好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上、最も好ましくは55℃以上であり、且つ、好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下が良好である。加熱時間は、好ましくは10分間以上、更に好ましくは30分以上であり、且つ、好ましくは4時間以下、更に好ましくは2時間以下が良好である。加熱時のpHおよび加熱温度が高い場合は、水溶性大豆多糖類がβ脱離反応等により分解することがあり、また、加熱時のpHおよび加熱温度が低い場合は、架橋化反応性に劣る。尚、発生する不溶化物を除去すると、水溶性画分のみを得ることができる。
【0016】
水溶性大豆多糖類と他の高分子素材を用いてヘテロ架橋させる場合も、水溶性大豆多糖類同士のホモ架橋の場合と同様であり、直接架橋させることも、他の架橋剤を介して架橋させることも可能である。また、その際の反応方法や条件も水溶性大豆多糖類単独の場合に準じる。他の高分子素材としては、セルロース,微結晶セルロース,発酵セルロース,CMC等の各種修飾セルロース,ヒアルロン酸,デンプン,化工澱粉,デキストリン,寒天,カラギーナン,ファーセラン,グアーガム,ローカストビーンガム,タマリンド種子多糖類,タラガム,アラビアガム,トラガントガム,カラヤガム,ペクチン,キサンタンガム,プルラン,ジェランガム,キチン,キトサンなどの多糖類又はその加水分解物が挙げられる。
【0017】
得られた架橋化大豆多糖類はそのままで用いることも可能であるが、混在するミネラル成分を除去してから用いてもよい。脱塩精製処理の方法として、塩類が分離除去できるいずれの方法でも構わない。メタノール,エタノール,イソプロパノール,アセトン等の極性有機溶媒を用いた沈殿法,電気透析,イオン交換樹脂あるいは疎水性樹脂,限外ろ過膜(UF膜)を用いた膜分画等が例示できる。これらの1つ又は2つ以上の方法を組み合わせて用いることが好ましい。こうして精製された架橋化大豆多糖類溶液を間接殺菌や直接殺菌等の殺菌処理を経た後もしくは経ることなく、凍結乾燥,噴霧乾燥又は加熱乾燥等により乾燥後、必要により粉砕して架橋化大豆多糖類の粉末が得られる。
【0018】
ゲル化剤又は増粘剤の食品等への添加量は、食品等の種類によって異なり適宜調整すればよいが、例えば食品の場合であれば、架橋化大豆多糖類の量に換算して食品中に0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%程度が適当である。
【0019】
(第二族元素の塩)
本発明に使用し、架橋化大豆多糖類に作用させる金属塩は、第二族元素の塩であることが重要である。一価金属塩を使用しても、架橋化大豆多糖類の溶液粘度には何ら影響を与えない。第二族元素の塩としては、カルシウム,マグネシウム,ストロンチウム,バリウムなどが例示される。第二族元素の塩は架橋化大豆多糖類と緩慢な熱可逆性ゲルを形成する。特にカルシウム塩は架橋化大豆多糖類との反応で容易に均一なゲルを形成する。
陰イオンの種類としては、塩酸、乳酸、酢酸、硫酸、リン酸、炭酸、クエン酸、グルコン酸、水酸化物などが例示される。特に塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グルコン酸カルシウム、グルコン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、乳酸カルシウムなどの水易溶性の第二族元素の塩が好ましい。また、第二族元素の塩は二種以上を組み合わせて添加することもできる。
【0020】
第二族元素の塩の添加量としては、添加する塩の種類、製品の塩濃度や蛋白質濃度の相違に応じて変動しうるが、通常はゲル化剤の場合、食品中に10mM〜1M、好ましくは50〜500mM、さらに好ましくは50〜100mM程度である。また増粘剤の場合、1mM〜1M、好ましくは1〜500mM程度である。
【0021】
(他の水溶性多糖類)
本発明には必須ではないが、架橋化大豆多糖類と共に、その他の水溶性多糖類を併用することができ、ゲル化剤又は増粘剤の中にも含有させることができる。その他の水溶性多糖類として具体的には、HMペクチン、LMペクチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC−Na)、ポリガラクツロン酸(PGA)、水溶性大豆多糖類、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、脱アシル型ジェランガム、ネイティブジェランガム、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、フェヌグリークガム、アラビアガム、カラヤガム、カラギーナン、キトサン、微結晶セルロース、寒天等を併用することができる。
他の水溶性多糖類を併用することにより、ゲル化乃至増粘剤はゲル化性や増粘性が改善される。また、ゲル化剤として使用される場合は、15℃以下の冷蔵保存時の経時的な離水を抑えることが出来る。
【0022】
(ゲル化剤又は増粘剤)
本発明のゲル化剤又は増粘剤は、ゲル化作用又は増粘作用を有する製剤である。その有効成分である架橋化大豆多糖類は、単独ではその機能を発揮しない。すなわち、架橋化大豆多糖類が第二族元素の塩と作用することによって初めてその機能が発揮されることが特徴である。したがって第二族元素の塩の存在は必須であるが、必ずしも製剤中に架橋化大豆多糖類と共に第二族元素の塩が含まれている必要はない。本発明のゲル化剤又は増粘剤を食品等に添加する際に、別途第二族元素の塩を添加することによってもゲル化作用又は増粘作用を発揮させることができる。製剤中に架橋化大豆多糖類と第二族元素の塩を含有させる場合はそれらが作用しない状態、具体的には粉末同士を混合して製剤化するのが好ましい。予め水系下でそれらを混合したものを乾燥粉末化した場合には製剤化する前にそれらが反応してしまう可能性がある。
【0023】
(架橋化大豆多糖類を用いた溶液のゲル化方法又は増粘方法)
架橋化大豆多糖類を用いた溶液のゲル化又は増粘方法について述べる。
架橋化大豆多糖類は溶液中に単独で添加してもゲル化剤又は増粘剤としては作用しないが、第二族元素の塩と溶液中で共存することによって作用する。すなわち、架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を水に溶解して混合溶液を調製することによって溶液がゲル化又は増粘する。溶液をゲル化させるか増粘させるかは、架橋化大豆多糖類の濃度や添加する第二族元素の塩の濃度によって適宜調整すればよい。
一般のゲル化剤はある程度水を加熱して溶解させる必要があるが、架橋化大豆多糖類は例えば40℃以下、特に30℃以下であっても水に溶解させることができ、該温度域においても第二族元素の塩と作用するのが特徴である。このように比較的低温域で溶解し、ゲル化や増粘が可能であることは、溶解のための加熱が不要となり、使用時の作業性が大幅に改善されるという利点を有する。
さらなる利点として、例えばLMペクチンも第二族元素の塩との反応を利用してゲル化するが、第二族元素の塩との反応が極めて迅速であるため、LMペクチンと第二族元素の塩が水に同時に溶解した場合、これらは直ちに作用し、ゲル化又は増粘が進行してしまう。そのためゲル化物の製造にLMペクチンが用いられる場合、溶解タンクや製造ラインでLMペクチンがゲル化しないように溶液を高温で維持したり、第二族元素の塩を添加するタイミングをずらしたり、キレート剤を添加したりする必要があった。一方、架橋化大豆多糖類と第二族元素の塩との反応は緩慢であるのが特徴であり、これらを同時に水に溶解させても直ちにゲル化や増粘が進行しない。そのためこの溶液を溶解タンクや製造ラインにおいて特別な操作なしに溶解時の溶液の状態を維持しつつ、容器等にそのまま充填することが可能である。
【0024】
このように架橋化大豆多糖類に第二族元素の塩を作用させて調製されたゲルは、加熱により溶解する熱可逆性を有するのが特徴である。ゲルの強度、性状、溶解温度などはゲル化剤の添加量、第二族元素の塩の種類もしくは添加量によって適宜調節することができる。得られたゲルは15℃以下の冷蔵下で保存しても経時的な離水が殆ど見られない。
【0025】
(食品)
以上の通り、架橋化大豆多糖類を食品、医薬品、化成品等の種々の応用製品に添加し、第二族元素の塩と作用させることにより、ゲル化作用又は増粘作用を発揮させることができる。特にその用途としては食品への応用範囲が広い。
すなわち、該食品は、架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩が添加された食品であって、該架橋化大豆多糖類により食品中においてゲルが形成されているか、又は、食品が増粘されていることを特徴とする。
かかる食品の例としては、ゼリー,プリン,ムース,ババロア,羊羹,蕨餅等の菓子、濃厚流動食や経腸栄養剤等の医療用食品、ジュース,乳飲料,コーヒー飲料,ココア飲料,アルコール飲料,スープ,ドリンクゼリー等の飲料、ソース,ドレッシング,マヨネーズ,ケチャップ,マスタード,調味エキス,タレ,あんかけ等の調味料、ジャム,マーマレード、フラワーペースト等のスプレッド類もしくはフィリング類、ヨーグルト,クリームチーズ,クリーム等の乳製品もしくは乳代替品、フルーツプレパレーション、ハム,ソーセージ,ハンバーグ等の魚畜肉錬り製品などが挙げられ、原料を水で溶解する工程を経る食品がより好ましい。
このような食品の製造態様としては、架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を水に溶解して原料液を調製し、該原料液を容器に充填した後に、該食品にゲルを形成させ、又は、該食品を増粘させる製造法が挙げられる。原料液には食品の他の原料が含まれていてもよい。溶解タンク等で調合された原料液は、容器まで製造ラインで送液することができ、途中で副原料の添加や殺菌を行うこともできる。ここで容器はビン、紙製容器、プラスチック容器等の定形的な容器のみならず、アルミパウチやチューブなども含まれる。
また食品の実施形態としては、架橋化大豆多糖類と第二族元素の塩、及びその他の原料のミックス粉を調製し、これを密封包装し、ゼリーや飲料等のプレミックス粉末食品とすることも可能である。
【実施例】
【0026】
以下に実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明する。尚、例中の「部」及び「%」は何れも重量基準を意味するものとする。
【0027】
○製造例1(水溶性大豆多糖類の製造)
分離大豆蛋白質の製造工程で得られた脱脂生オカラに2倍重量の水を加え、塩酸を用いてpHを4.5に調整した。120℃で90分間加圧加熱処理を行ない、冷却後に遠心分離(10,000g×20分)により不溶性成分を分離して水溶性大豆多糖類溶液を得た。同多糖類溶液を最終60重量%エタノールで沈殿させ、回収した沈殿を90重量%の含水エタノールで洗浄し、得られた沈殿を風乾して水溶性大豆多糖類を得た。これを大豆多糖類Aとした。
【0028】
○製造例2(架橋化大豆多糖類の製造)
製造例1で得た大豆多糖類Aの5重量%水溶液を調製し、沸騰水浴中で5分間加熱した。多糖類水溶液にトリメタリン酸ナトリウムを溶液中に最終2重量%となるように溶解し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH12に調整した。この反応液を60℃で1時間攪拌しながら反応させた。不溶物を遠心分離(8,000rpm, 30分)で除去し、上清を得た。多糖類溶液を最終60重量%エタノールで沈殿させ、回収した沈殿を90重量%の含水エタノールで洗浄し、得られた沈殿を風乾して架橋化大豆多糖類を得た。これを大豆多糖類Bとした。
【0029】
○実験例1(大豆多糖類の分子量及び糖分析値)
中性糖は、硫酸分解した後、HPLC-PAD法で分析した。ウロン酸は、D-ガラクツロン酸を標準物質としてBlumenkrantz法で比色定量した。また、ゲルろ過HPLC (TSKgel-G-5000PWXL;TOSOH, 7.8mm×30cm 移動相:50mM 酢酸ナトリウム水溶液(pH5.0), 流速 1.0mL/min, RI検出器, 標準物質プルランP-82(昭和電工(株)))により分子量分布を測定した。高分子画分の定量については、RI検出装置で測定して得たクロマトグラムの総ピーク面積が多糖類の総量に相当するとし、総ピーク面積に対する分子量50万から1000万の高分子多糖類成分のピーク面積の含有割合を定量した。以下の表1に高分子成分の含有割合と組成、糖組成分析値を示す。
【0030】
(表1)大豆多糖類の分子量及び分析値

【0031】
トリメタリン酸処理後の大豆多糖類Bは、高分子成分含有比率の含量からも明らかなように、処理前の大豆多糖類Aに比較して高分子化している。このことから、トリメタリン酸により、水溶性大豆多糖類が架橋化されたことが確認できた。
【0032】
○実験例2 (大豆多糖類へのカルシウム塩添加)
表2の配合の通り、大豆多糖類A、Bにカルシウム塩として水易溶性の塩化カルシウムを添加して水溶液を調製し、水溶液の20℃における粘度をBM型粘度計を用いて測定した。この水溶液のpHは約5であり弱酸性であった。得られた結果を表2の下段に示す。また、4℃にて一晩冷蔵保存し、ゲル化の有無を目視にて確認した。
その結果、増粘テストでは、大豆多糖類Bにおいて顕著な増粘が認められた。ゲル化テストでは、大豆多糖類Bにおいてのみゲル化が認められた。大豆多糖類Bによって得られたゲルは、カルシウム塩と常温で緩慢に反応した。また、冷蔵保存したゲルには経時的な離水は認められなかった。大豆多糖類Bによって得られたゲルはいずれも、加熱すると再溶解した。
【0033】
(表2)大豆多糖類への塩化カルシウム添加試験

【0034】
○実験例3 (大豆多糖類へのマグネシウム塩添加)
表3の配合の通り、大豆多糖類A、Bにマグネシウム塩として水溶性の塩化マグネシウムを添加して水溶液を調製し、水溶液の20℃における粘度をBM型粘度計を用いて測定した。この水溶液のpHは約5であり弱酸性であった。得られた結果を表3の下段に示す。また、4℃にて一晩保存し、ゲル化の有無を目視にて確認した。
その結果、大豆多糖類Bにおいて顕著な増粘が認められた。ただし、マグネシウム塩を用いた場合、同じ添加量ではカルシウム塩よりも増粘作用が小さかった。
【0035】
(表3)大豆多糖類への塩化マグネシウム添加試験

【0036】
○応用例1 (カルシウム塩添加ゲルの作成)
大豆多糖類Bの10重量%溶液を50部、水を45部、2M塩化カルシウム溶液を5部の順に25℃で添加し、容器に充填し4℃で一晩冷蔵した。室温に戻したのち、ゲル強度を万能材料試験機(インストロン・ジャパン(株)製)で測定したところ、破断荷重は14.9gf、破断変位は9.9mmと弾力のあるゲルであることがわかった。また、目視にて離水を確認したところ、4℃の冷蔵下で1週間の保存においても離水は確認されなかった。
【0037】
○応用例2 (栄養剤用ゲル化剤としての応用)
大豆多糖類Bと塩化カルシウム溶液、高栄養流動食CZ-Hi(森永乳業社製)を表4の配合で25℃で混合し、栄養剤を得た。得られた栄養剤の物性を官能評価した(表4下段)。
官能評価の基準は、常温で流動性を有し、かつ口腔内へのべたつきがなく誤嚥しにくい粘度を有しているものを最も良好なものとして「◎」評価とし、常温で流動性がなくなり硬くなるほど、口腔内へのべたつきが多くなるほど「○」→「△」→「×」の順に評価を下げた。また部分凝集が認められたものについても「×」をつけた。
【0038】
(表4) 栄養剤用ゲル化剤の配合


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋化大豆多糖類を有効成分とすることを特徴とするゲル化剤又は増粘剤。
【請求項2】
第二族元素の塩を含有する請求項1記載のゲル化剤又は増粘剤。
【請求項3】
他の水溶性多糖類を含有する請求項1記載のゲル化剤又は増粘剤。
【請求項4】
架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩が添加された食品であって、該架橋化大豆多糖類により食品中においてゲルが形成されているか、又は、食品が増粘されていることを特徴とする食品。
【請求項5】
架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を含む原料を水に溶解して食品の原料液を調製し、該原料液を容器に充填した後に、該食品にゲルを形成させ、又は、該食品を増粘させることを特徴とする食品の製造法。
【請求項6】
架橋化大豆多糖類及び第二族元素の塩を水に溶解して混合溶液を調製することを特徴とする、溶液のゲル化又は増粘方法。
【請求項7】
第二族元素の塩との作用により溶液をゲル化し、又は、溶液を増粘させるために使用される架橋化大豆多糖類。