説明

ゲル層を有する糖衣物の製造方法

【課題】弾力のあるゲル層を有するという今までに全くなかった新しい糖衣層を備えた糖衣物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】芯材を糖衣層で被覆してなる糖衣物の製造方法において、前記芯材に対して、粉末状ゼラチンを10重量%以上、グリセリンを12重量%以上含有する第1糖衣層を形成する第1糖衣工程、前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する第2糖衣工程、前記第2糖衣工程中又は第2糖衣工程後に60〜150℃で加熱する工程を有することを特徴とする糖衣物の製造方法、該製造方法で得られる糖衣物であって、最外層である第2糖衣層の下層にゲル化した第1糖衣層を有する糖衣物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖衣物の製造方法、更に詳しくは、中間層に弾力のあるゲル層を有する糖衣物の製造方法及びこの製造方法により得られる糖衣物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の世界では食の多様化に伴い、食品のおいしさを構成する感覚として、味・香りに加え、食感が重要視されている。即ち「新食感」と評され、多方面のジャンルで食品市場を賑わせている。中でもグミキャンディのような弾力ある食感は、若者を中心に幅広い層に好まれている。
【0003】
一方、糖衣食品の世界では、ゼリービーンズ、マーブルチョコレート、糖衣チューイングガム、アーモンドを砂糖で包んだいわゆる“ドラジェ”と言われるものなどが知られている。これらはセンター部の食感に特徴があり、糖衣層部とセンター部の食感差の変化はあるものの、いずれも糖衣層自体の食感は一様である。
【0004】
糖衣層に新たな食感をもたせるべく、本発明者らは、糖衣食品に関する技術をいくつか開示している。例えば、クランチ性を有する糖衣した食品(特許文献1)や、本物の素材の香りと爽快感を糖衣層にもたせた糖衣キャンディ(特許文献2)である。しかし、糖衣層にグミキャンディのような弾力やチューイング性のある食感を持たせる技術は未だかつて提案されていない。
【0005】
糖衣食品は、糖衣パン又はレボリングパンなどと呼ばれる装置(以下、糖衣パンという)を使用し、以下のように製造される。まず被糖衣物である食品(以下、芯材という)に、糖質を主要成分とし、酸味料、香料等の味を構成する添加物と糖衣層の構造を担う結合剤を含む水溶液(以下、糖衣シロップという)を、スプレーなどで中心層表面の全域に行き渡らせ、この後、粉体原料を散布するか又は風を送るなどして乾燥させる工程を複数回繰り返すことにより、糖衣層を形成する。
【0006】
前記結合剤として、ゼラチンやその他多糖類を添加することは一般的によく知られており、特許文献としても多数紹介されている(例えば特許文献3、4)。これらの発明では、ゼラチンや多糖類はセンター部と糖衣部の結合力を強めるために使用されており、ゲル状とはならず、弾力やチューイング性のある糖衣層とはなっていない。
【0007】
また、ゼラチンを被覆する技術としては、例えば、ゼラチンコーティング薬剤を製造する方法(特許文献5)が提案されている。これは、ゼラチン膜を薬剤(芯材)に被覆し、内容保護または着色等を主たる目的としており、ゲルを形成するようなものではない。
【0008】
また、グリセリンを利用したゲルとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを溶媒とした長期安定なゼラチンゲルの製造方法(特許文献6)が提案されている。この製造方法は多価アルコールを溶媒としてゼラチンを溶解させ、この溶液をゲル化させる方法である。しかしながら、このように予めゼラチンを溶解させたゼラチンゲルの表面は粘着性を有するため、例えば、芯材の表面のコーティングに用いた場合には、芯材同士を別々にコーティングを施す必要があり、糖衣パンを用いた生産には向かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3765419号公報
【特許文献2】特許第3671965号公報
【特許文献3】特開昭63−126821号公報
【特許文献4】特開2000−166477号公報
【特許文献5】特許第3628687号公報
【特許文献6】特許第4169748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、弾力のあるゲル層を有するという今までに全くなかった新しい糖衣層を備えた糖衣物及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、糖衣層中にゼラチンとグリセリンを含有させ、それを加熱したところ、驚くべきことに糖衣層がゲル化して弾力のある食感を有することを発見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、
(1)芯材を糖衣層で被覆してなる糖衣物の製造方法において、
前記芯材に対して、粉末状ゼラチンを10重量%以上、グリセリンを12重量%以上含有する第1糖衣層を形成する第1糖衣工程、
前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する第2糖衣工程、
前記第2糖衣工程中又は第2糖衣工程後に60〜150℃で加熱する工程、
を有することを特徴とする糖衣物の製造方法、
(2)前記(1)に記載の製造方法で得られる糖衣物であって、最外層である第2糖衣層の下層にゲル化した第1糖衣層を有する糖衣物、
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の糖衣物の製造方法では、芯材と最外糖衣層の間の中間層に弾力のあるゲル化した糖衣層を有する、今までにない食感を楽しめる糖衣物を提供することができる。
グミキャンディのような弾力ある食感は幅広い層の消費者に好まれており、あらゆる糖衣物に弾力のあるゲルの食感を組み合わせることができることは非常に有意義である。本発明の糖衣物の製造方法により、例えば、豆類、ナッツ類、果実類、チョコレート等の周りに弾力あるゲル化した糖衣層を有する今までにない糖衣物を製造することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の糖衣物の製造方法は、
芯材を糖衣層で被覆してなる糖衣物の製造方法において、
前記芯材に対して、粉末状ゼラチンを10重量%以上、グリセリンを12重量%以上含有する第1糖衣層を形成する第1糖衣工程、
前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する第2糖衣工程、
前記第2糖衣工程中又は第2糖衣工程後に60〜150℃で加熱する工程、
を有することを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の糖衣物の製造方法の各工程について説明する。
【0016】
(第1糖衣工程)
本工程は、芯材に対して、粉末状ゼラチンを10重量%以上、グリセリンを12重量%以上含有する第1糖衣層を形成する工程である。
具体的には、第1糖衣工程では、糖衣パンなどの回転容器内に芯材を入れ、容器を回転させながら、グリセリンを掛け、次いで粉末状ゼラチン、必要に応じて他の粉体原料を、表面が乾くまで掛けてゆく。この工程を繰り返し、最終的に第1糖衣層を所望の厚さまで増やしていく。
【0017】
前記芯材は、可食物であれば特に制限はない。例えば、錠菓、糖衣物、丸薬、ガム、キャンディ、グミキャンディ、チョコレート、豆類、ナッツ類、乾燥果実、焼菓子等を芯材として使用でき、その形状にも特に制限はない。ただし、食べ易さ及び糖衣の作業性の観点から、芯材の大きさは、口に入れやすい大きさであることが好ましい。
【0018】
前記グリセリンは、無色透明の粘性の液体であり、別名グリセロール、1,2,3−プロパントリオールと呼ばれる。
【0019】
第1糖衣層中のグリセリンの含有量は、12重量%以上である。12重量%未満では、粉末状ゼラチンのゲル化が不十分であり、食感として弾力を感じにくいものとなってしまう。また、前記グリセリンの含有量は、糖衣を効率よく行い、ゲル化を促す観点から、30重量%以下が好ましい。
【0020】
また、前記グリセリン中に、必要に応じて香料等の他の原料を溶解して使用することも可能である。
【0021】
前記粉末状ゼラチンは、製法や由来に特に限定されずに使用することができる。粉末を形成するゼラチン粒子としてはできる限り細かいほど好都合であるが、60メッシュパスの粒度であれば十分である。
【0022】
本発明では、前記のように第1糖衣工程において粉末状ゼラチンを用いる点に一つの特徴がある。
【0023】
従来、ゲル層の表面に糖衣を行うことは、ゲル層を形成する際に使用するゲル状物質が粘着性を伴うために、例えば、糖衣パンに芯材を入れ、次いでゲル状物質を入れると、ゲル状物質を介して芯材どうしが一体化してしまうという問題があった。
【0024】
これに対して、本発明では、第1糖衣層を形成する際に粉末状のゼラチンを使用することで、第1糖衣工程では、個々の芯材どうしを固着させることなく、効率よく糖衣を行うことが可能になり、また、後述の糖衣工程でも第1糖衣層の表面上に別の第2糖衣層を形成することが可能になり、しかも後述の加熱により第1糖衣層中において粉末状ゼラチンがグリセリンや微量に含まれる水に溶解することで、最外層である第2糖衣層の下層にある第1糖衣層がゲル化することになる。
【0025】
第1糖衣層中の粉末状ゼラチンの含有量は、10重量%以上である。10重量%未満では、食感として弾力を感じにくいものとなってしまう。また、前記粉末状ゼラチンの含有量は、糖衣を効率よく行い、ゲル化しやすい観点から80重量%以下が好ましい。
【0026】
また、前記粉末状ゼラチンと共に使用する粉体原料としては、可食物であれば特に制限はないが、例えば、糖質、酸味料、果汁パウダー、果肉粉砕品、茶葉粉砕品、コーヒー豆粉砕品、ココアパウダー、粉乳、高甘味度甘味料、粉末香料等が挙げられる。ただし、粉体原料の種類によってはぼそぼそした食感になりやすいため、口どけがよい成分として、糖質や酸味料を用いることが好ましい。
なお、前記粉体原料の粉末状態としては、前記芯材の糖衣が可能な程度の粒径であればよく、特に限定はないが、例えば、糖衣の作業性に優れるという観点から、前記粉末状ゼラチンと近似した粒径であればよい。
【0027】
第1糖衣工程における温度条件は、前記粉末状ゼラチンが溶解しない程度の温度に調整する。例えば、加熱せずに、室温またはそれ以下に冷却して温度を調整してもよい。
【0028】
前記のような第1糖衣工程により、芯材の表面に第1糖衣層が形成された第1糖衣処理物が得られる。第1糖衣層の厚みとしては、芯材の種類や大きさにより一概に限定はできない。この第1糖衣処理物は、続けて第2糖衣工程に供してもよいし、糖衣層が安定するまで静置してから第2糖衣工程に供してもよい。
【0029】
(第2糖衣工程)
本工程は、第1糖衣層の上から第2糖衣層を形成する工程である。
具体的には、第2糖衣工程としては、糖衣パンの回転容器内に第1糖衣処理物を入れ、前記容器を回転させながら、糖衣シロップを掛け、その後送風や粉体原料を掛けることにより、表面を乾燥させる。この工程を繰り返し、最終的に第2糖衣層を所望の厚さまで増やしていく。
【0030】
前記糖衣シロップの主成分となる糖質としては、例えば、砂糖、水飴、キシリトール、トレハロース、還元パラチノース、マルチトール等が使用できる。前記糖質を水に溶解させることで糖衣シロップを得ることができる。糖衣シロップの水分値としては、25〜35重量%の範囲に調整することが好ましい。また、糖衣シロップには、他の糖質、澱粉、増粘多糖類、香料、着色料、乳化剤、果汁、酸味料等を必要に応じて添加できる。
【0031】
前記粉体原料としては、第1糖衣工程で使用できる粉体原料であって、粉末状ゼラチンを除く可食物であれば特に制限はない。
【0032】
本工程により、芯材に第1糖衣層および第2糖衣層が形成された第2糖衣処理物が得られる。
【0033】
(加熱工程)
本工程は、第2糖衣工程中又は第2糖衣工程後に60〜150℃で加熱する工程である。
【0034】
本工程では、前記第2糖衣工程中又は第2糖衣工程後に、糖衣処理中の物又は第2糖衣処理物を60〜150℃で加熱することで、第2糖衣層の下層にある第1糖衣層がゲル化して、グミキャンディのような弾力のある食感をもったゲル層を有する糖衣物を製造することができる。
【0035】
なお、第2糖衣工程中に加熱する場合には、初めに糖衣を少し行ってから、加熱しながら糖衣を続けることが好ましい。
【0036】
前記加熱温度は60〜150℃である。60℃未満では、ゲル化が不十分であり、150℃を超えると、加熱により得られる糖衣物の風味や香りの劣化が起きやすくなる。前記加熱温度は、効率よく第1糖衣層でゲル化を生じさせ、風味や香りのよい糖衣物を得られやすいという観点から、60〜100℃が好ましい。
【0037】
なお、本発明における第1糖衣層でのゲル化の程度としては、すべての粉末状ゼラチンがゲル化する必要はなく、一部分がゲル化しているだけで、十分な弾力性を奏することが可能である。前記粉末状ゼラチンのゲル化の程度は、第1糖衣層中における粉末状ゼラチンとグリセリンとの含有量比により調整することができる。例えば、粉末状ゼラチンに対するグリセリンの含有量の比率を大きくすることで、粉末状ゼラチンの溶解量が増大してより柔軟なゲル状体にすることができる。また、粉末状ゼラチンに対するグリセリンの含有量の比率を少なくすることで、粉末状ゼラチンの溶解量を少なくすることもできる。
【0038】
また、加熱時間は、第1糖衣層のゲル化を十分にかつ経済的に生じさせる観点から1〜5時間であり、2〜3時間が好ましい。
【0039】
以上のようにして得られる糖衣物は、最外層である第2糖衣層の下層にゲル化した糖衣層(第1糖衣層)を有するという、今までにない構成を備えた、新規な食感を楽しめる糖衣物である。
【実施例】
【0040】
次に、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0041】
(実施例1)
糖衣の原料として、以下の(A)〜(C)の3種類の糖衣用シロップを準備した。
(A)グリセリン
(B)下掛けシロップ;砂糖100g、水飴20g、アラビアガム3gを水45gに溶解し、常温に保持しておいた。
(C)外掛けシロップ;砂糖100g、アラビアガム1gを水43gに溶解し、これを30℃で保温しておいた。
【0042】
尚、以下の第1糖衣工程及び第2糖衣工程での送風は、温度20℃、湿度35%とした。
まず、オニオン型糖衣パンに、芯材として単重0.5gの丸型チョコレートを100g投入し、(A)グリセリン20gと表1に示す混合粉体80gを数回に分けて交互に掛け、第1糖衣層とした。
続いて(B)下掛けシロップ25gと砂糖60gを数回に分けて交互に掛け、その後、送風をたえず送りながら、(C)外掛けシロップ60gを数回に分けて掛け、十分乾燥させ、第2糖衣層とした。
【0043】
続いてこの第2糖衣処理物を糖衣パン内で60℃、3時間加熱し、その後、一日間室温下で空冷した。こうして得られた糖衣物は、外の糖衣(第2糖衣層)を噛むと中から弾力あるグミキャンディのような食感を有する糖衣層(第1糖衣層)が現れ、さらに中から芯材であるチョコレートが出てくるという、バラエティに富んだ食感の菓子となった。
【0044】
【表1】

【0045】
(実施例2)
表1の配合の混合粉体を用い、実施例1と同様に糖衣物を作製した。芯材としてはローストアーモンドを使用した。得られた糖衣物は、弾力ある食感を内部にもつ、今までにないドラジェとなった。
【0046】
(実施例3)
表1の配合の混合粉体を用い、実施例1と同様に糖衣物を作製した。ただし、(C)外掛けシロップ60gを数回に分けて掛けた後、90℃の温風を送りながら(C)外掛けシロップ20gを2時間かけて数回に分けて掛け、第2糖衣層とした。その後、一日間室温下で空冷した。こうして得られた糖衣物の内部の第1糖衣層では、実施例1と同様に弾力あるグミキャンディのようなゲルを形成していた。
【0047】
(比較例1)
表1の配合の混合粉体を用い、実施例1と同様にして糖衣物を作製した。得られた糖衣物の内部は、グミには程遠いぼそぼそした食感のものとなった。
【0048】
(比較例2)
実施例1と同様の配合の混合粉体を用い、実施例1の(A)のシロップを70%ソルビトール溶液に置き換え、実施例1と同様にして糖衣物を作製した。得られた糖衣物内部の第1糖衣層は、グミには程遠いぼそぼそした食感のものとなった。
【0049】
(比較例3)
実施例1と同様の配合の混合粉体を用い、実施例1と同様にして糖衣物を作製した。ただし、第2糖衣層形成後、糖衣パン内での加熱条件を40℃、3時間とした。得られた糖衣物内部の第1糖衣層は、グミには程遠いぼそぼそした食感のものとなった。
【0050】
(比較例4)
加熱条件を160℃とした以外は、比較例3と同様にして糖衣物を得た。得られた糖衣物内部の第1糖衣層はゲル化していたものの、高度の加熱により風味や香りの劣化が顕著であり、食するには不適当なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材を糖衣層で被覆してなる糖衣物の製造方法において、
前記芯材に対して、粉末状ゼラチンを10重量%以上、グリセリンを12重量%以上含有する第1糖衣層を形成する第1糖衣工程、
前記第1糖衣層を被覆する第2糖衣層を形成する第2糖衣工程、
前記第2糖衣工程中又は第2糖衣工程後に60〜150℃で加熱する工程、
を有することを特徴とする糖衣物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で得られる糖衣物であって、最外層である第2糖衣層の下層にゲル化した第1糖衣層を有する糖衣物。