説明

ゲル状食品およびその製造方法

【課題】水性飲食品をゲル状化する場合において、十分な粘性を有し、かつざらつきがなく口当たりの良いゲル状食品およびそれを簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.05〜0.4である水不溶性および/または水膨潤性のカルボキシメチルセルロース、より好ましくは、レーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径に於いて、水を分散媒として測定した値のメタノールを分散媒として測定した値に対する比が2.0以上であるカルボキシメチルセルロースを、水性飲食物重量あたり0.1〜5%となるように混合し、高せん断処理することで、十分な粘性を有し、かつ、口当たりの良いゲル状食品が容易に得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛乳、各種野菜ジュース、スープなどの水性飲食物に低置換度カルボキシメチルセルロースを添加し、高圧ホモジナイザー処理などの高せん断処理して得られるゲル状食品およびその製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゲル状食品には、従来、微結晶セルロースやミクロフィブリル化セルロースを主として混合し、セルロース分子が網目構造を形成することで、ゲル状またはペースト状となる食品が知られている。
【0003】
しかし、微結晶セルロースやミクロフィブリル化セルロースは、単独では保水性や増粘効果が不十分で、ゲル状食品としては安定性に欠けると共に、官能評価、具体的にはざらつきがあり舌触りが良くない。また、分散安定性や食品に添加した際の舌触りを改善するために平均粒子径を小さくし、更に、カルボキシメチルセルロース、ザンタンガム、カラヤガム等に代表される水溶性多糖類などの水溶性高分子を配合、コーティングすることが試みられてきた(特許文献1〜3)。
【0004】
これに対し、低置換度セルロースエーテル粉末を水に分散させた後、せん断磨砕させる方法が知られている(特許文献4〜6)。また、低置換度セルロースをアルカリ溶液に溶解後、酸を加えて中和しながら、または中和した液をせん断磨砕させる方法が知られている(特許文献7)。
【0005】
【特許文献1】特開昭53−72868号公報
【特許文献2】特開昭54−157875号公報
【特許文献3】特開昭55−34006号公報
【特許文献4】特公昭56−54292号公報
【特許文献5】特公昭62−61041号公報
【特許文献6】特公平6−49768号公報
【特許文献7】特開2002―204951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前述の低置換度セルロースエーテル粉末を水に分散させた後、せん断磨砕させ、その後、水性飲食物と混合する方法では、水性飲食物の粘性が不足したり、水性飲食物と低置換度セルロース粉末とのなじみが不十分であった。また、低置換度セルロースをアルカリ溶液に溶解後、酸を加えて中和しながら、または中和した液をせん断磨砕させる方法では、調製が煩雑であった。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決し、水性飲食品をゲル状化する場合において、十分な粘性を有し、かつ口当たりの良いゲル状食品およびそれを簡便に製造する方法を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を解決するため鋭意検討したところ、無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.05〜0.4である水不溶性および/または水膨潤性のカルボキシメチルセルロース(以下、低置換度カルボキシメチルセルロースということがある)、より好ましくは、レーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径に於いて、水を分散媒として測定した値のメタノールを分散媒として測定した値に対する比が2.0以上であるカルボキシメチルセルロースを、水性飲食物重量あたり0.1〜5%となるように混合し、高せん断処理することで、十分な粘性を有し、かつ、口当たりの良いゲル状食品が容易に得られることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適度な粘性を有し、かつ、ざらつきがなく口当たりの良いゲル状食品が容易に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、低置換度カルボキシメチルセルロースと、水性飲食物とを混合し高速せん断処理することにより、十分な粘性を有し、かつ、口当たりの良いゲル状食品が容易に得られるものである。
【0011】
[水性飲食物]
本発明において、水性飲食物とは、低粘度の飲料や水性飲食物をいい、具体的には、牛乳、乳酸飲料、豆乳、各種果樹飲料、お茶飲料、コーヒー、紅茶、炭酸飲料、スープ、などが例示されるが、これに限られない。また、食品の粉末化物(乾燥野菜、米粉など)を水に分散させたものも用いることができる。
【0012】
[低置換度カルボキシメチルセルロース]
本発明の低置換カルボキシメチルセルロースは、無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.05〜0.4である水不溶性および/または水膨潤性のカルボキシメチルセルロースを主成分として含有するものである。
【0013】
[カルボキシメチルセルロース]
カルボキシメチルセルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つ。カルボキシルセルロースは、塩の形態であっても良く、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム塩などの金属塩などとすることができる。本発明においてセルロースとは、D−グルコピラノースがβ−1,4グリコシド結合で連なった構造の多糖を意味し、無水グルコースを基本単位とする。一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。天然セルロースとしては、晒または未晒木材パルプ、精製リンター、酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹等が挙げられる。また、晒又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合わせた方法でも良く、例えば、メカニカルパルプ、ケミカルパルプ、砕木パルプ、亜硫酸パルプ、クラフトパルプ等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に、化学的に精製され、主として薬品に溶解して使用する、人造繊維、セロハンなどの主原料となる溶解パルプを用いてもよい。再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。微細セルロースとは、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとするセルロース系素材を酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等によって解重合処理したものや、前記セルロース系素材を機械的に処理したものが例示される。
【0014】
本発明においてカルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう)とは、セルロースを構成する無水グルコース単位1モル当りの水酸基(−OH)のうちカルボキシメチルエーテル基(−OCHCOOH)に置換されているもののモル数を示している。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。本発明のカルボキシメチルセルロース又はその塩は、カルボキシメチル置換度が0.05〜0.4であることが必要である。カルボキシメチル置換度が0.05未満では、カルボキシメチルエーテル基に由来する吸水、膨潤部分が十分形成されず、本発明の特徴とするしっとり感付与、保湿性能を発揮することができない。一方、0.4を超えると水溶性部分が増加して水への溶解が起こり易くなり、本発明の特徴を十分に発揮できない。
【0015】
当該カルボキシメチル置換度は、試料中のカルボキシメチルセルロースを中和するのに必要な水酸化ナトリウム等の塩基の量を測定して確認することができる。この場合、カルボキシメチルエーテル塩の場合には、測定前に予めカルボキシメチルセルロースに変換しておく。測定の際には、塩基、酸を用いた逆滴定、フェノールフタレイン等の指示薬を適宜組み合わせることができる。
【0016】
本発明に用いるカルボキシメチルセルロースは、非結晶である方が好ましい。カルボキシメチル置換度が上記範囲を満たしていても、非結晶でなければ、化学的反応性、吸水性に乏しい結晶領域が残っていることに起因して、水性飲食物となじみにくいとともに、食感も劣る可能性がある。
【0017】
カルボキシメチルセルロースが非結晶であることは、X線回折による測定により確認することができる。具体的には、X線回折の測定の結果、非結晶領域に由来する2θ=18.5°の回折ピーク以外には結晶領域に由来する回折ピークを生じないことが確認されれば、非結晶であるということができる。例えば、セルロースI型結晶では、X線回折による測定で2θ=22.6°に002面の回折強度に由来するピークを生じる。これに対し、本発明のカルボキシメチルセルロースの場合は、微結晶セルロースを原料に使用した場合でも2θ=22.6°の回折ピークは消失している方が好ましい。
【0018】
[カルボキシメチルセルロースの水不溶性および/または水膨潤性]
本発明のカルボキシメチルセルロースは、水不溶性および/または水膨潤性を示す。すなわち、水不溶性及び水膨潤性のうちの少なくとも一方を示すことが必要であり、好ましくは両方を示すものである。
【0019】
水不溶性とは、試料を水に1〜2重量%添加して3〜6時間撹拌後の状態を目視判定して不溶であれば水不溶性と判断することができる。
【0020】
一方、水膨潤性とは、水に浸漬等接触した場合に体積が増加する(膨潤する)ことを示す。例えば、レーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径に於いて、水を分散媒として測定した値のメタノールを分散媒として測定した値に対する比(水を分散媒として測定した値/メタノールを分散媒として測定した値)として表現することができ、該数値が2.0以上であることが好ましい。2.0未満では吸水、膨潤が不十分となり水性飲食物とのなじみ、および良好な食感が十分発揮されない。尚、上限は、カルボキシメチルセルロースが水不溶性を示す範囲であれば、特に限定はない。レーザー回折・散乱式粒度分布計としては、水、メタノールのそれぞれを分散媒とした場合の測定が可能であれば特に限定されず、例えば、マイクロトラック Model−9220−SRA(日機装(株)製)等を用いることができる。
【0021】
[カルボキシメチルセルロースの製造]
本発明のカルボキシメチルセルロースを製造するにあたっては、公知のカルボキシメチルセルロースの製法を適用することができる。即ち、原料セルロースをマーセル化剤(アルカリ)で処理してマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を調製した後に、エーテル化剤を添加してエーテル化反応させることで本発明のカルボキシメチルセルロースを製造することができる。
【0022】
原料のセルロースとしては、上述のセルロースであれば特に制限なく用いることができるが、セルロース純度が高いものが好ましく、特に、溶解パルプ、リンターを用いることが好ましい。これらを用いることにより、純度の高い非結晶のカルボキシメチルセルロースを得ることができる。
【0023】
マーセル化剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属塩等を使用することができる。エーテル化剤としてはモノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ソーダ等を使用することができる。
【0024】
水溶性の一般的なカルボキシメチルセルロース(DS0.5以上)の製法の場合のマーセル化剤とエーテル化剤のモル比は、エーテル化剤としてモノクロロ酢酸を使用する場合では2.00〜2.45が一般的に採用される。その理由は、2.00以下であるとエーテル化反応が不十分となるため、未反応のモノクロロ酢酸が残って無駄が生じること、及び2.45以上であると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸による副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成するため、不経済であることにある。
【0025】
しかしながら、本発明のカルボキシメチルセルロースを得るためには極めて軽度にカルボキシメチルエーテル基を導入する必要がある。そのために、添加するエーテル化剤のモル数を低くすると、一般的に採用されているモル比ではマーセル化剤の添加モル数も少なくすることになる。その結果、セルロース内部、特に化学的反応性に乏しい結晶部分でのマーセル化は不十分となり、結晶構造が完全には破壊されないこともある。
【0026】
本発明のカルボキシメチルセルロースを調製する際には、極めて軽度にカルボキシメチル化することが必要である。さらには、セルロース内部、特に化学的反応性に乏しい結晶部分の結晶構造を破壊する、すなわち非結晶性である方が好ましい。結晶構造を破壊するためには、セルロース内部も十分なマーセル化を行うために結晶構造を完全に破壊するに十分なマーセル化剤を添加するとともに、エーテル化剤の添加モル数は少量とすることが好ましい。マーセル化剤の添加量は、原料セルロースの無水グルコース単位当り、通常は1.0〜4.0モル、好ましくは1.2〜3.0モルとなるように調整することができる。前記マーセル化剤の添加量は、本発明で添加することのできるエーテル化剤に対し、通常は過剰である。過剰のマーセル化剤はエーテル化反応の際には副反応の原因となり不経済である。従って、エーテル化剤を添加する前に、反応系中に残存するマーセル化剤と添加するエーテル化剤のモル比(マーセル化剤/エーテル化剤)が2.0〜3.0、好ましくは2.2〜2.8になるように予めマーセル化剤を圧搾脱液して除去するか、鉱酸、有機酸などで中和しておくことが好ましい。
【0027】
本発明のカルボキシメチルセルロースの製造に使用する溶媒としては、低級アルコールを挙げることができる。具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、または2種以上の混合物と水の混合媒体などである。溶媒の使用量は、一般に、原料セルロースに対し3〜20重量倍とすることができる。尚、低級アルコールと水の合計に対する低級アルコールの割合は60〜95重量%とすることができる。
【0028】
マーセル化処理は、原料セルロースと溶媒、マーセル化剤を混合して行うことができる。この際、反応温度は、通常0〜70℃、好ましくは10〜60℃である。また、反応時間は通常15分〜4時間、好ましくは30分〜2時間である。その後エーテル化処理を行うが、その前に必要に応じて、過剰のマーセル化剤を圧搾脱液して除去するか、鉱酸か有機酸で中和しておいてもよい。エーテル化処理では、エーテル化剤を原料セルロースに添加してエーテル化反応を行う。得られるカルボキシメチルセルロースの性質、特にカルボキシメチル置換度は、原料セルロースの種類、エーテル化反応の反応系の溶媒組成、機械的条件、反応温度及び反応時間、その他の要因によって変化する。そのため、前記置換度が0.05〜0.4の範囲となるように、反応条件、特にエーテル化剤の添加量を調整することが必要となる。前記置換度にする際のエーテル化剤の添加量は、一般的には、無水グルコース単位当たり0.05〜1.0モルとすることができる。エーテル化反応の反応温度は、通常50〜90℃、好ましくは60〜80℃である。反応時間は通常30分〜6時間、好ましくは1時間〜3時間である。
【0029】
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和する。必要に応じて副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級して本発明のカルボキシメチルセルロースを得る。特に乾式粉砕や湿式粉砕を施すと、より微細化されたカルボキシメチルセルロースを得ることができる。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
【0030】
本発明のカルボキシメチルセルロースは、水を特異的に吸収し、水中では吸水、膨潤して容積比の高いゲル状物質となり、メタノール等の有機溶媒中では吸液も膨潤もしないことが多い。この変化は、レーザー回折・散乱式粒度分布計で測定すると、その平均粒子径は水を分散媒として測定した値とメタノールを分散媒として測定した値の比が2.0以上のときに顕著である。
【0031】
[高せん断処理]
本発明のゲル状食品は、カルボキシメチルセルロースと水性飲食物を混合した後その混合物を、高せん断処理することにより得ることができる。または、カルボキシメチルセルロースと水性飲食物を混合しながら、高せん断処理をすることによっても得ることができる。具体的には、例えば、高せん断処理を行う装置に、カルボキシメチルセルロースと水性飲食物を投与することが挙げられる。
前記混合物には、必要に応じて、甘味料、着色料、保存料、安定剤、pH調整剤、増粘剤、界面活性剤、香料などの食品添加物などを添加しても良い。また、混合物を高せん断処理をしたものに添加してもよい。
【0032】
本発明でいう、高せん断処理とは、例えば高圧ホモジナイザー処理が挙げられる。高圧ホモジナイザー処理とは、試料を高圧に、具体的に少なくとも10MPa以上加圧し、この高圧状態の試料を狭い間隙より高速に噴射、あるいは二方向より対向衝突させることにより、微粒子化する処理をいう。本発明では、前記の高圧ホモジナイザー処理を行うことができる装置を用いることができる。高圧ホモジナイザー処理であれば、圧力10MPa〜200MPa、好ましくは30MPa〜100MPaが望ましい。
【0033】
本発明によれば、低置換カルボキシメチルセルロースと水性飲食物とを含む混合物の高圧ホモジナイザー処理回数は、特に制限はないが、1回〜5回、好ましくは、1回〜3回、特に好ましくは1回パスがよい。食品中の有効成分の分解などが生じない範囲で、1回パス以上の処理を行っても良い。物理的安定性に乏しい生理活性を有する食品では、何回も高圧ホモジナイザー処理をすると生理活性がなくなる、もしくは活性が低くなることがあるが、本発明によれば、1回の処理でゲル状食品の得ることができる。
本明細書でいう、前記1回パスとは、高圧ホモジナイザーのインタラクションチャンバー内を試料が1回通過することをいう。
高圧ホモジナイザーの処理温度は、処理する飲食品が安定な範囲であれば特に限定されない。処理時のpHは、生成されるゲルの安定性を考慮し、pH3〜pH8、望ましくは、pH4〜pH7が好適である。
【0034】
[水性飲食物と混合する低置換度カルボキシメチルセルロースの量]
本発明では、高せん断処理を行うカルボキシメチルセルロースと水性飲食物の混合比率は、水性飲食物重量あたり、低置換度カルボキシメチルセルロースを0.1〜5.0重量%、好ましくは、0.5〜2.5重量%混合することが好ましい。
【実施例】
【0035】
次に、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例において「部」とは、特にことわりの無い限り「重量部」を表すものとし、「%」は特に断りの無い限り、「重量%」を表すものとする。
【0036】
[物性値の測定方法]
(無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度(DS)の測定)
試料約2.0gを精秤して、300ml共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール(無水メタノール1Lに特級濃硝酸100mlを加えた液)100mlを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)をカルボキシメチルセルロース(H−CMC)にした。その絶乾H−CMC1.5〜2.0gを精秤し、300ml共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mlでH−CMCを湿潤し、0.1N−NaOH100mlを加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N−HSOで過剰のNaOHを逆滴定した。DSは滴定に要した0.1N−HSOの量(ml)を次式に代入して算出した。
A=((100×F'−0.1N−HSO(ml)×F)×0.1)/H−CMCの絶乾重量(g)
DS=0.162×A/(1−0.058×A)(mol/C
A:H−CMC1gを中和するのに必要な1N−NaOHの量(ml)
F:0.1N−HSOのfactor
F':0.1N−NaOHのfactor
【0037】
(結晶化度の測定)
セルロースI型の結晶化度は、試料のX線回折を測定することで求めた。X線回折の測定は、試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(RAD−2Cシステム、理学電気社製)を用いて測定した。結晶化度の算出はSeagelらの手法(L.Seagel,J.J.Greely et al,Text.Res.J.,29,786,1959)、並びにKamideらの手法(K.Kamide,et al,polymer J.,17,909,1985)を用いて行い、X線回折図の2θ=4°〜32°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出した。
xc=(I002C−Ia)/I002C×100
xc=セルロースI型の結晶化度(%)
I002C:2θ=22.6°,002面の回折強度
Ia :2θ=18.5°,アモルファス部分の回折強度
【0038】
(膨潤度の測定)
レーザー回折・散乱式粒度分布計(マイクロトラック Model−9220−SRA、日機装(株)製)により測定される体積累計50%粒子径(平均粒子径)において、膨潤溶媒である水を分散媒に用いて測定した値の非膨潤溶媒であるメタノールを分散媒に用いて測定した値に対する比を膨潤度とした。
【0039】
(溶解性試験)
実施例および比較例の添加剤2gを水100ml中に加え、スターラーで3時間撹拌後、その状態を目視判定した。尚、評価は以下の様に定めた。尚、試料のうち一部でも不溶性を示せばその部分を分離、抽出等して不溶性のカルボキシメチルセルロース又はその塩として利用可能である。よって、下記評価のうち「×」のほか「△」である試料は、水不溶性を示すものと判断できる。
○:溶解、△:一部溶解、×:不溶
【0040】
[製造例1]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム30部を水58部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製後、酢酸を26部添加して過剰のマーセル化剤を中和する。更に攪拌しつつ90%IPA45部に溶解したモノクロロ酢酸11部を添加し、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕して無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度(DS)0.16のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0041】
[製造例2]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム33部を水58部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製後、酢酸を16部添加して過剰のマーセル化剤を中和する。更に攪拌しつつ90%IPA45部に溶解したモノクロロ酢酸19部を添加し、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.28のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0042】
[製造例3]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム38部を水58部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製後、酢酸を13部添加して過剰のマーセル化剤を中和する。更に攪拌しつつ90%IPA45部に溶解したモノクロロ酢酸26部を添加し、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.38のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0043】
[製造例4]
回転数100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)435部と水酸化ナトリウム39.5部を水65部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。45℃で30分攪拌、混合しマーセル化セルロースを調整後、50%モノクロル酢酸のIPA溶液9.0部を加え、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.06のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0044】
[製造例5]
回転数100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)435部と水酸化ナトリウム29.6部を水65部に溶解したものを加え、市販の晒クラフトパルプ(日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で1時間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調整後、50%モノクロル酢酸のIPA溶液14.0部を加え、70℃に昇温し90分反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.11のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0045】
[製造例6]
回転数100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム44.4部を水78部に溶解したものを加え、脱脂木粉100部を仕込んだ。45℃で30分攪拌、混合しマーセル化セルロースを調整後、50%モノクロル酢酸のIPA溶液28.0部を加え、70℃に昇温し90分反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.23のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0046】
[製造例7]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム23部を水58部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製後、更に攪拌しつつ90%IPA45部に溶解したモノクロロ酢酸23部を添加し、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.34のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0047】
[製造例8]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム30部を水58部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製後、更に攪拌しつつ90%IPA45部に溶解したモノクロロ酢酸9部を添加し、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.03のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0048】
[製造例9]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム49部を水78部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製後、更に攪拌しつつ90%IPA45部に溶解したモノクロロ酢酸37部を添加し、70℃に昇温して90分間エーテル化反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.45のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0049】
[製造例10]
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーにイソプロピルアルコール(IPA)522部と水酸化ナトリウム32.4部を水78部に溶解したものを加え、市販の溶解パルプ(NDPS、日本製紙ケミカル(株)製)を絶乾で100部仕込んだ。30℃で90分間攪拌、混合しマーセル化セルロースを調製後、50%モノクロル酢酸のIPA溶液5.0部を加え、70℃に昇温し90分反応させた。反応終了後、中和、脱液、乾燥、粉砕してDS0.005のカルボキシメチルセルロースナトリウムを得た。これを本発明に用いた。
【0050】
製造例1〜10のCMCの各種物性値を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
[実施例1〜7]牛乳ゲル化物の調製と食感試験
水性飲食物として、市販の牛乳1リットルに、製造例1〜7の試料を2重量%添加し混合後、高圧ホモジナイザ(APV GAULIN LABORATORY HOMOGENIZER 15MR-8AT)にて、450Kgw/cm(約44MPa)で1回〜5回パスさせた。
【0053】
ゲル化の有無は、処理物の状態から目視判断し、また、食感(ざらつき)を、パネラー8人で5段階評価(良5〜1劣)した。その平均点を表2に示す。
【0054】
[比較例1〜3]牛乳ゲル化物の調製と食感試験
水性飲食物として、市販の牛乳1リットルに、製造例8〜10の試料を2重量%添加し混合の上、高圧ホモジナイザ(APV GAULIN LABORATORY HOMOGENIZER 15MR-8AT)にて、450Kgw/cm(約44MPa)で1回〜5回パスさせた。
【0055】
ゲル化の有無は、処理物の状態から目視判断し、また、食感(ざらつき)を、パネラー8人で5段階評価(良5〜1劣)した。その平均点を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
[比較例4]
製造例1で調整した低置換度カルボキシメチルセルロース粉末を、水1リットルに10g添加後、高圧ホモジナイザ(APV GAULIN LABORATORY HOMOGENIZER 15MR-8AT)にて、500Kgw/cm(約49MPa)で1回パスさせたのち、得られたゲル溶液にスキムミルクを50g添加し、攪拌機(機器名称)で500rpmで5分間で処理したが、均一なゲル状食品は得られなかった。
【0058】
[比較例5]
市販の牛乳1リットルに、ミクロフィブリル化セルロース(ダイセル化学株式会社製、商品名セリッシュFD-100F)の固形分が、溶液あたり20gとなるように添加後、高圧ホモジナイザ(APV GAULIN LABORATORY HOMOGENIZER 15MR-8AT)にて、530Kgw/cm(約52MPa)で5回パスを行ったが、ゲル状食品は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.05〜0.4である水不溶性および/または水膨潤性のカルボキシメチルセルロースと水性飲食物とを含む混合物を高せん断処理して得られるゲル状食品。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースが、非結晶であることを特徴とする請求項1に記載のゲル状食品。
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースが、レーザー回折・散乱式粒度分布計で測定される体積累計50%粒子径に於いて、水を分散媒として測定した値のメタノールを分散媒として測定した値に対する比が2.0以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のゲル状食品。
【請求項4】
前記高せん断処理が、高圧ホモジナイザー処理であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のゲル状食品。
【請求項5】
無水グルコース単位当りのカルボキシメチル置換度が0.05〜0.4である水不溶性および/または水膨潤性のカルボキシメチルセルロースと水性飲食物とを混合した後、または混合しながら、高せん断処理するゲル状食品の製造方法。

【公開番号】特開2010−57393(P2010−57393A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224788(P2008−224788)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(502368059)日本製紙ケミカル株式会社 (86)
【Fターム(参考)】