説明

ゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体と、それを使用したスラブゲル電気泳動用プレキャストゲル

【課題】
従来の担持体の表面処理に較べ効率よく、しかも担持体とゲル電気泳動用媒体との密着性を向上させる担持体を提供する。
【解決手段】
媒体と触れる面がダイヤモンドライクカーボン層で被覆したゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体によって達成できる。該担持体に非イオン性ラジカル重合性単量体を含む水溶液を充填したのち、重合させて含水ゲルを形成させることにより、従来の担持体の表面処理に較べ効率よく被覆が可能であり、その結果、担持体とゲル電気泳動用媒体との密着性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学医薬分析を目的とし、電気泳動を用いてタンパク質、核酸等の分離を行うときに使用するゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体と、その担持体を使用した電気泳動用プレキャストゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気泳動とは、荷電粒子または分子が電場中を移動する現象のことを言い、前記現象を分子生物学分野でタンパク質、または核酸の分離に応用した方法が一般に電気泳動方法と言われている。電気泳動方法は分子生物学のみならず、医学、水産学、獣医学、薬学などの多くの分野における基礎的研究手段として広く使用されている。特に近年、ゲノムの解読後、プロテオーム解析が盛んとなり、タンパク質の機能解析、またそれを利用した創薬などに、電気泳動方法はなくてはならない手法として位置づけられている。
【0003】
通常、電気泳動を行う場合、緩衝液を含有した媒体を用いる。 媒体としては、アガロース、寒天、セルロースアセテート膜、ポリアクリルアミドゲルなどが公知であり、目的に合わせて使い分けられている。特に、ポリアクリルアミドゲルは、人工的に合成された物質であるため、処方を変えることで分離特性の異なるゲルを容易に作成することができる。
【0004】
泳動用媒体を使用した電気泳動方法は汎用されており、ゲルを充填した担持体の形状によりディスクゲル電気泳動方法、スラブゲル電気泳動方法と呼ばれている。スラブゲル用の担持体は、ガラスプレートを用いたものが一般的であったが、コストや取扱い時の安全面から、近年はプラスチックプレートを使用したプレキャストゲルが上市されている。
【0005】
プラスチックプレート製の担持体を使用してゲル電気泳動を行う場合に問題となるのが、媒体と担持体との密着性である。密着性が悪いとにアプライした試料が媒体と担持体の間に漏出し、分離結果が不明瞭になる。この問題は、電気泳動方法による分離分析結果に大きく影響するものであるから起こらないことが望ましい。
【0006】
特にポリアクリルアミドゲルのように、担持体中で重合反応を行って媒体を形成させる場合は、担持体表面に未反応物が残ることにより、担持体と形成された媒体の密着性が悪化し前記のような問題が顕著に生じる。
【0007】
そのため、媒体と担持体の密着性を向上させる方法が研究されている。例えば、担持体表面を塩化ビニリデンで被覆する方法(特許文献1)、担持体表面を酸化ケイ素皮膜で被覆する方法(特許文献2)、担持体表面を親水性ポリマーで被覆する方法(特許文献3)が知られている。
【0008】
また、前記の方法に加えてさらに媒体中に非イオン性両親媒性ポリマーを添加する方法も報告されている。(特許文献4、特許文献5)
【0009】
本出願人においても、特許文献6、特許文献7に報告されているように、媒体としてポリアクリルアミドゲルを用いた場合の品質向上や製造方法、使用方法について鋭意研究を行い、課題を解決してきた経緯がある。
【0010】
一方で、ダイヤモンドライクカーボン(以下DLCと略記)による表面処理技術は、その耐摩耗性、電気絶縁性を利用して、金型や金属治具、金属刃の品質向上に用いられている。プラスチック表面の処理例としては、プラスチック容器内にDLC層を形成してガス透過性を抑制し、ビール、炭酸飲料、果汁飲料の酸化劣化と低分子有機物の収着を防止する方法が知られている。(特許文献8)
【0011】
【特許文献1】特開昭62−247243号公報
【特許文献2】米国特許5685967号公報
【特許文献3】米国特許6743344号公報
【特許文献4】国際公開2004−067155号公報
【特許文献5】国際公開2005−010520号公報
【特許文献6】特開2001−159621号公報
【特許文献7】国際公開2009−025135号公報
【特許文献8】特開平08−53116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
担持体表面を塩化ビニリデンで被覆する方法は塗工工程が必要である。酸化ケイ素皮膜で被覆する方法はCVD法で比較的簡易にできるが高温の処理が必要である。親水性ポリマーで被覆する方法は、媒体の水溶液を重合する場合被覆膜が流れやすい。また媒体中に非イオン性両親媒性ポリマーを添加する方法では担持体表面の未反応物を低減することはできない。そのため本発明の課題は、従来の担持体の表面処理に較べ効率よく、しかも担持体とゲル電気泳動用媒体との密着性を向上させる担持体を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体と、それを使用したゲル電気泳動用スラブ型プレキャストゲルに関して以下に述べる発明に到達した。
すなわち本発明は、(1)媒体と触れる面がダイヤモンドライクカーボン層で被覆したことを特徴とするゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体である。例えばこの担持体に非イオン性ラジカル重合性単量体を含む水溶液を充填したのち、重合させて含水ゲルを形成させることにより、従来の担持体の表面処理に較べ効率よく、しかも担持体とゲル電気泳動用媒体との密着性を向上させることが可能である。
(2)この担持体は、2枚の板の二辺あるいは三辺に所定厚さのスペーサーを挟んで形成したケースであることを特徴とする。
(3)またこの担持体は、2枚のプラスチックプレートの二辺あるいは三辺に所定厚さのスペーサーを挟んで形成したケースであることが好ましい。
(4)また本発明は、ゲル電気泳動用の媒体と、前記担持体からなるゲル電気泳動用スラブ型プレキャストゲルである。
(5)前記媒体は、非イオン性ラジカル重合性単量体を含む水溶液を前記担持体に充填したのち、重合させて形成した含水ゲルであることを特徴とする。
(6)前記含水ゲルは、アクリルアミドを含む水溶液を(1)から(3)に記載の担持体に充填したのち、重合させて形成したポリアクリルアミドゲルであることが好ましい。
(7)本発明の電気泳動用プレキャストゲルは、蛋白質や核酸の分離分析に用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、媒体と触れる面がダイヤモンドライクカーボン層で被覆した材料を用いて作成したゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体、この担持体に非イオン性ラジカル重合性単量体を含む水溶液を前記担持体に充填したのち、重合させて形成した含水ゲルとからなるゲル電気泳動用スラブ型プレキャストゲル、さらにこのゲル電気泳動用スラブ型プレキャストゲルを用いて、蛋白質や核酸の分離分析を行うゲル電気泳動用スラブ型プレキャストゲルの使用方法とからなる。DLC層で被覆した担持体を用いることにより、従来の担持体の表面処理に較べ効率よく被覆が可能であるばかりでなく、DLC層の硬質、化学的安定性、表面平滑性、あるいは離型性などの性質により、担持体とゲル電気泳動用媒体との密着性および担持体から媒体を取り出す場合の操作性を向上させることが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のゲル電気泳動法に用いられる泳動用媒体を充填するための担持体は、DLC層で被覆されていることを特徴とするが、DLC層被覆とは、以下のようなものである。
【0016】
ダイヤモンドライクカーボンは、主として炭化水素あるいは炭素の同素体からなる非晶質(アモルファス)の硬質膜である。水素含有量の多少と、含まれる結晶質の電子軌道がダイヤモンド寄りかグラファイト寄りかによって、その性質を区別する。用途に応じ、膜厚さは数十ナノメートルから数十マイクロメートル、硬さはビッカース硬さ相当で1500から7000Hvの範囲で様々な性質のDLCが工業的に生産されている。一般的な特長は、硬質、潤滑性、耐摩耗性、化学的安定性、表面平滑性、離型性、耐焼付き性などがある。製法はプラズマCVD法またはPVD法が一般的に用いられ、下地となる材質や求める膜の性質によって使い分けが行われる。プラズマCVDによるDLCの成膜は、CVD法の一種で原料としてアセチレンなどの炭化水素ガスを使い、チャンバー内で原料ガスをプラズマ化して、気相合成した炭化水素を試料表面に蒸着する。原料に水素が含まれるため、DLCにも必ず水素が含まれる。この製法はワークの温度が室温〜200℃と低いこと、電極の配置により複雑形状でも均一に成膜しやすいこと、処理時間が比較的短いことなど工業的な利点が多く、現在もっとも一般的に利用されている。PVDによるDLCの成膜は、スパッタリング法やイオンプレーティング法などがあり、原料である黒鉛を真空中でイオンビーム、アーク放電及びグロー放電等に晒し、飛び散った炭素原子を目的物の試料面に付着させる。この製法では、炭素のみでDLCを作製することも可能である。代表的な応用例としては、ハードディスクの表面、剃刀(かみそり)の刃、ペットボトルの内面、自動車用部品などがある。
【0017】
上記のようにDLCによるコーテイングは、塩化ビニリデンや酸化ケイ素皮膜で被覆する方法などの較べ被覆が容易であり、親水性ポリマーで被覆する方法などの較べ被覆層が剥がれにくいなどの特徴を有する。また前記DLC層は、担持体に破損やゆがみが生じなければ公知の方法を用いて形成することができる。必要に応じて担持体とDLC層の間に中間層を設けても良い。
【0018】
前記DLC層の厚みは、0.01〜2μmであることが望ましい。特に好ましくは0.05〜1.0μmの範囲である。薄すぎると均一な層を形成することが難しく、厚すぎるとDLC層により担持体の透過性が低下し、ゲル電気泳動に使用する際に、染料の移動距離から適当な通電時間を判断することが困難となる。
【0019】
前記担持体は、2枚の板の二辺あるいは三辺に所定厚さのスペーサーを挟んで形成されているケースである。板とスペーサーは別々に用意して形成しても良いし、例えば射出成型によってスペーサー一体型の板を作成することもできる。
【0020】
前記板およびスペーサーには、ガラス、プラスチックのいずれかを用いることができる。
【0021】
特にプラスチックを使用する場合には、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、スチレン−アクリルニトリル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネートなどがあげられるが、DLC層が形成可能な素材であれば、これらに限定されるものではない。また、2枚の板は、異なる種類のものを組み合わせて使用しても良い。
【0022】
前記板の厚みは、0.3〜5.0mmが望ましく、特に望ましくは0.5〜3.0mmである。0.3mm以下では電気泳動に使用するために必要な強度が得られず、5.0mm以上では通電時の発熱の除去効率が悪くなり泳動結果に影響を及ぼす。また2枚の板は、異なる厚みのものを組み合わせて使用しても良い。
【0023】
また、DLC層による被覆は、基材とスペーサーに別々に行ってから担持体を形成しても良いし、形成後に行っても良い。
【0024】
また、本発明はゲル電気泳動用媒体と前記担持体からなるゲル電気泳動用プレキャストゲルにも関する。
【0025】
本発明の電気泳動用プレキャストゲルは、ゲル電気泳動法に用いられる泳動用媒体と2枚の板の二辺あるいは三辺に所定厚さのスペーサーを挟んで形成したケースである担持体からなる電気泳動用スラブ型プレキャストゲルである。
【0026】
前記泳動用媒体とは、アガロース、寒天、でんぷんなどの天然高分子ゲルや合成高分子ゲルなどの含水ゲルのことを指す。アガロース、寒天、でんぷんなどの天然高分子ゲルは、これらを含む水溶液を前記担持体に充填しゲル化させて電気泳動用プレキャストゲルとすることができる。また、合成高分子ゲルは、非イオン性水溶性ビニル単量体と架橋性単量体、ラジカル重合開始剤、緩衝液を含む水溶液を前記担持体に充填したのち重合反応を行ってゲル化させて電気泳動用プレキャストゲルとすることができる。
【0027】
前記非イオン性水溶性ビニル単量体は、特に限定されるものではないが、例として、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルスクシイミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、ダイアセトンアクリルアミドなどがあげられる。特に好ましいのは、アクリルアミドである。
【0028】
前記架橋性単量体とは、2個以上のビニル基を持つラジカル重合性単量体であり、例えば、メチレンビスアクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ピペラジンジアクリルアミド、N,N−ジアリル酒石酸アミド、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジンなどが挙げられる。
【0029】
前記ラジカル重合開始剤とは、酸化剤/還元剤からなるレドックス重合開始剤、水溶性アゾ開始剤のことを指す。特に好ましくは、過酸化物あるいはその塩、または過硫酸物あるいはその塩と還元剤との組み合わせからなるラジカル重合開始剤である。また、ラジカル重合開始剤と光照射、ラジカル重合開始剤と光増感剤と光照射を組み合わせて使用しても良い。
【0030】
前記緩衝液とは、電気泳動法に用いられる全ての緩衝液を用いることができる。例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと塩酸からなる緩衝液、あるいは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと塩酸と両性電解質からなる緩衝液、あるいはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと塩酸とグリシンとグリシンをのぞく両性電解質からなる緩衝液、あるいはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとホウ酸からなる緩衝液、あるいはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと酢酸からなる緩衝液、あるいはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとグリシンからなる緩衝液、あるいはビストリスと塩酸からなる緩衝液があげられる。
【0031】
前記緩衝液のpHは6.0〜8.8の範囲であり、特に好ましくはpH6.0から7.5の範囲である。pH6.0以下では、電気泳動による蛋白質あるいは核酸の分離が不鮮明で使用目的に適さないし、pH7.5以上では、前記重合体の加水分解が進行しプレキャストゲルとして長期安定性を維持できない。
【0032】
特に好ましくはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンとグリシンとグリシンを除く両性電解質からなる緩衝液pHが6.0〜7.5の範囲である緩衝液である。また、前記水溶液には必要に応じてドデシル硫酸ナトリウムなどの変性剤、比重調整剤、ゲル強度向上剤等の添加剤を加えても良い。
【0033】
本発明のプレキャストゲルを用いて、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび両性電解質を含有する水溶液である泳動用緩衝液を用いて蛋白質の分離を行うことができる。前記泳動用緩衝液にはドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含有させても良い。
【0034】
また、本発明のプレキャストゲルを用いて、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび両性電解質を含有する水溶液である泳動緩衝液を用いて核酸の分離を行うことも可能である。
【0035】
以下に本発明の担持体およびその使用方法について実施例をあげて詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0036】
下端から10mm上に高さ2mm、幅8mmのスリットを開けた横幅10cm、縦8.5cm、厚さ0.5mmの長方形のPET板と、上部に凹状の切り込みの入った同寸法のPET板に厚さ1mmのコの字型のスペーサーを貼付けたスペーサー一体型PET板を作成した。それぞれ片面にDLC層を形成させた後、貼りあわせて横幅8mm、高さ7.5mm、奥行1mmの空間を持つ担持体を作成した。本発明の担持体の分解斜視図を第1図に示す。
【0037】
前記担持体に表1に記載の分離層用アクリルアミド溶液を、脱酸素操作せずに充填して分離用アクリルアミドゲルを作成したのち、表1に記載の濃縮層用アクリルアミド溶液を脱気せずに充填しコームを挿入して濃縮用アクリルアミドゲルとサンプルウェルを作成し、電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルとした。各アクリルアミド溶液の組成を表1に、使用したゲル緩衝液の組成を表2に示す。
【0038】
(表1)

【0039】
(表2)

【0040】
得られた電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルを用いて電気泳動を行った。泳動用緩衝液はトリス0.025mol/L、グリシン0.192mol/L、SDS0.1重量%からなる緩衝液を使用した。前記緩衝液はレムリー処方として公知である。泳動試料として、鶏肉抽出物(A)、、BIO−RAD社製プレシジョンプラスマーカー(B)、アプロサイエンス社製アプロ分子量マーカー(C)を使用した。電気泳動は20mA/1枚の定電流で約55分間行った。
【0041】
電気泳動が終了した後、担持体からゲルを取り出し、染色、脱色を行った。染色は、0.05%CBB(クマシーブリリアントブルー)-G250、12%酢酸、30%メタノール溶液中で振とう機を使用して45分間行い、脱色は12%酢酸、15%メタノール溶液中で振とう機を使用して90分間行い、最後に純水中にて60分間振とうさせた。
【0042】
(表3)




【0043】
実施例に記載の電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルを使用することにより鮮明なパターンを得ることができた。各蛋白質の移動度も計測することができた。
【0044】
(比較例1)
DLC層のないPET板、スペーサーを使用した以外は、実施例と同様に担持体の作成、電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルの作成、電気泳動、染色、脱色を行った。
【0045】
比較例1に記載の電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルを使用した場合、パターンは不鮮明でバンドもブロードであり各蛋白質の移動度を計測することができなかった。
【0046】
( 比較例2)
表4に記載の濃縮層用および分離層用アクリルアミド溶液を用いた以外は比較例1と同様に担持体の作成、電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルの作成、電気泳動、染色、脱色を行った。
【0047】
比較例1に記載の電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルを使用した場合、パターンは不鮮明でバンドもブロードであり各蛋白質の移動度を計測することができなかった。
【0048】
(比較例3)
市販の塩化ビニリデンで表面処理された電気泳動用スラブゲル作成のためのプラスチック製担持体を用いた以外は実施例と同様にして、電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルの作成、電気泳動、染色、脱色を行った。
【0049】
比較例3に記載の電気泳動用ポリアクリルアミドスラブゲルを使用した場合に得られた結果を表4に示す。
【0050】
(表4)

【0051】
比較例3は実施例と同様の結果が得られた。
【0052】
実施例で作成した電気泳動用ゲルでは、アクリルアミドゲルと担持体の密着性が良く、鮮明な分離パターンを得ることができ分離分析に利用できた。分離性能も良好だった。
【0053】
比較例1および2で作成した電気泳動用ゲルは、ポリアクリルアミドゲルと担持体と密着性が悪く、試料が漏出し、得られた分離パターンは不明瞭で分離分析には利用できなかった。
【0054】
比較例3で作成した電気泳動用ゲルと実施例のゲルは同様の結果を示した。
【0055】
以上の結果から、本発明のゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体は、比較的簡易な方法で担持体の被覆処理を行うことができるうえ、媒体と担持体との密着性を向上させるのに有用であり、それを用いることで高品位なゲル電気泳動用プレキャストゲルを提供できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のゲル電気泳動法に用いる泳動用媒体を充填するための担持体は媒体と担持体との密着性を向上させるのに有用であり、それを用いることで高品位なプレキャストゲルを提供でき、産業上の利用可能性は甚だ大きい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1図は、本発明の担持体の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0058】
1.スリットのあるPET板
2.コの字型スペーサー
3.凹状の切り込みのあるPET板
4.スリット
5.DLC層
6.DLC層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体と触れる面がダイヤモンドライクカーボン層で被覆したことを特徴とする
ゲル電気泳動用媒体を充填するための担持体。
【請求項2】
2枚の板の二辺あるいは三辺に所定厚さのスペーサーを挟んで形成したケースであることを特徴とする請求項1に記載の担持体。
【請求項3】
前記板が、プラスチック製であることを特徴とする請求項1および2に記載の担持体。
【請求項4】
ゲル電気泳動法に用いられる泳動用媒体と、請求項1から請求項3に記載の担持体からなる電気泳動用プレキャストゲル。
【請求項5】
前記泳動用媒体が、非イオン性ラジカル重合性単量体を含む水溶液を請求項1から請求項3に記載の担持体に充填したのち、重合させて形成した含水ゲルであることを特徴とする請求項4に記載の電気泳動用プレキャストゲル。
【請求項6】
前記非イオン性ラジカル重合性単量体が、アクリルアミドであることを特徴とする請求項5に記載の電気泳動用プレキャストゲル。
【請求項7】
請求項4から6に記載の電気泳動用プレキャストゲルを用いて蛋白質および核酸の分離分析を行うことを特徴とする電気泳動用プレキャストゲルの使用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−237709(P2012−237709A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108194(P2011−108194)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)