説明

コアとして同心二重ドラムを備えるソーイングワイヤースプール

厚い金属シートから作製される極細金属ワイヤー用スプール(20)は、コア(22)と、コア(12)に結合された2つのフランジ(24)とを備える。コア(22)は、同心二重ドラム、すなわち、内径dを有する内側ドラム(26)および外径Dを有する外側ドラム(28)を備える。スプールはフランジ上の側圧の荷重分布を変更し、変形に対抗するスプールの構造的剛性をさらに改良する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極細金属ワイヤーが巻き付けられるスプールに関する。より詳細には、本発明は、ワイヤーソー用のワイヤー(以下、「ソーワイヤー」と呼ばれる)またはゴムホースを補強するためのワイヤー(以下、「ホースワイヤー」と呼ばれる)のような極細金属ワイヤーを巻き付けるための厚い金属シート製のスプールに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示されているように、従来のスプール10は、コア12と2つのフランジ14とを有する。2つのフランジ14はコア12の両端に溶接されている。コア12および2つのフランジ14は、機械構造用炭素鋼のような厚い金属シート製である。
【0003】
上記スプールに巻き付けられる極細金属ワイヤーは、たとえば、0.12〜0.16mm以下の径を有し、ソーワイヤーとして役立つ極細金属ワイヤー、または、約0.20〜0.80mmの径を有し、ホースワイヤーとして役立つ極細金属ワイヤーである。別の用途は、約0.12〜0.40mmの径を有し、ゴム製品を補強するため撚りスチールコードのためのワイヤーとして役立つ極細金属ワイヤーである。
【0004】
上記極細金属ワイヤーが所定の張力(たとえば、4〜15ニュートン)の下でスプールに巻き付けられる場合、巻き付け張力は高い締め付け張力をコアに生じさせ、その結果、フランジを離すように押す大きな力をフランジに印加する。そして、この離すように押す力(以下、「側圧」と呼ばれる)は、両端にあるフランジを互いに分離する方向に押圧する。
【0005】
典型的な用途では、ソーワイヤーはマイクロチップ用のシリコンを切断するために使用される。材料の浪費を排除し、高い生産性を維持するため、顧客は、径0.12mmおよび長さ800kmの極細ワイヤーを巻き付けるスプールを要求している。金属ワイヤーの径が小さくなるにつれて、または、巻き付け張力が大きくなるにつれて、または、ワイヤーの往復する巻数が多くなるにつれて、発生される側圧が大きくなる。
【0006】
このような側圧に耐える十分な強度および剛性を与えるため、従来のスプール10は、厚さが約20mm〜50mmの厚い金属シートを利用する。したがって、従来のスプールは非常に重みがあるので、スプールの操作性は非常に悪くなり、スプールは高い輸送コストがかかる。さらに、従来のスプールは材料および取り扱いの高いコストがかかる。
【0007】
その上、側圧は過度に大きいので、この機械的に強度のあるスプールでさえフランジおよびドラムの塑性変形を回避できない。数回の繰り返しの使用後、スプールの変形が進行するか、または、スプールが破損し使用できなくなる。すなわち、従来のスプールは、高いコストに見合う耐久性を確保できないという欠点がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、充分な機械的強度と繰り返し使用可能性を有し、同時に重量およびコストの削減を実現する特別な極細金属ワイヤー用のスプールおよびその製造方法とを提供することである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、極細金属ワイヤー用の厚い金属シート製スプールに関する。スプールは、コアと、ドラムに結合された2つのフランジとを備える。コアは、同心二重ドラム、すなわち、内径dを有する内側ドラムおよび外径Dを有する外側ドラムをさらに備える。本発明は側圧の荷重分布を変更し、変形に対抗するスプールの構造的剛性をさらに改良する。
【0010】
以下、本発明は添付図面を参照してより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来のスプールの断面図である。
【図2】本発明に係るスプールのA−Aによる断面図である。
【図3】従来のスプールによるフランジ上の側圧の荷重分布を示す概略図である。
【図4】本発明に係るスプールによるフランジ上の側圧の荷重分布を示す概略図である。
【図5】本発明に係るスプールの側面図である。
【図6】内側ドラムの外周とフランジの中心孔の内周との間の溶接部の詳細図である。
【図7】外側ドラムの内周とフランジ上に均一に分布したスロットとの間の溶接部の詳細図である。
【図8】外側ドラムの外周とフランジの表面との間の溶接部の詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1には、従来のスプールの断面図が示されている。スプール10は、コア12と、該コア12に結合された2つのフランジ14とを有する。
【0013】
図2には、本発明に係るスプールのA−Aによる断面図が示されている。スプール20は、コア22と、コア22に結合された2つのフランジ24とを有し、コア22は同心二重ドラム、すなわち、内径dを有する内側ドラム26と、外径Dを有する外側ドラム28とを備える。
【0014】
図3に示されているように、フランジ14は、極細金属ワイヤーの張力から発生された側圧F2を受ける。フランジ14のスライス上の荷重分布は、一端で支持され、側圧F2が均一に分布した梁として簡略化可能である。しかし、図4に示されているように、フランジ24は極細金属ワイヤーの張力から発生された側圧F4を受ける。フランジ24のスライス上の荷重分布は、一端および中央の両方で支持され、側圧F4が均一に分布した梁として簡略化可能である。この両持ち梁は片持ち梁より構造強度が高い。
【0015】
その上、以下の点が見出された。
1.コアに巻き付けられる極細金属ワイヤーの層の数が多いほど、より多くの金属ワイヤーがコアに張力を加えるので、コア上の圧力が高くなる。
2.コアに巻き付けられる極細金属ワイヤーの層の数が多いほど、より多くの金属ワイヤーがフランジに張力を加えるので、フランジ上の側圧が高くなる。
【0016】
したがって、外側ドラムの外径Dを増大することは、ドラムに巻き付けられる極細金属ワイヤーの層を削減するために役立ち、コア上の圧力およびフランジ上の側圧を低減するためにさらに役立つ。その上、φおよびDが増大されるとき、巻き付けおよび巻き戻し工程中のスプールの回転速度は減少し、これはフランジ付近でのワイヤーの位置決めをより良く制御し、問題をより少なくすることになる。しかし、スプールはソー装置の空間に適合すべきであるので、外側ドラムの外径およびフランジの外径の拡大には常に限界がある。したがって、外径Dは内径dの1.3倍〜2.1倍であり、フランジの外径φは内径dの2.2倍〜2.8倍である。
【0017】
さらなる改良は、ドラム上の極細金属ワイヤーの層をさらに削減するためスプールの高さHを延長することである。スプールはソー装置の空間に適合すべきであるので、スプールの高さHの延長には限界がある。したがって、スプールの高さH、すなわち、外側ドラムの高さHは、内径dの2.0倍〜3.0倍である。
【0018】
従来のスプールであるスプール0と、本発明に係るスプールであるスプール1およびスプール2との間の以下の比較は、改良および利点をさらに示すことが可能である。図1に示されているように、従来のスプールは、以下の仕様:
d=150mm
φ=315mm
H=315mm
を有する。一方、本発明に係るスプールは、図2に示されているように、以下の仕様を有する。
【0019】
【表1】

【0020】
スプール、すなわち、従来のスプールであるスプール0と、本発明に係る2つのスプールであるスプール1およびスプール2とが同量の極細金属ワイヤーを巻き付ける場合、従来のスプールと比較すると、本発明に係るスプールのコア上の圧力とフランジ上の側圧とは著しく減少し、その上、構造的剛性は著しく増加する。
【0021】
コアおよびフランジ上の荷重分布の改良と、スプールの構造的剛性の改良とによって、本発明は、従来のスプールと同等であるスプールを製作するために2.5mm〜7.0mm、好ましくは、3.0mm〜5.0mmの厚さを有するより薄い金属シートを使用可能である。
【0022】
以下の表は、本発明に係るスプールの改良および利点を示している。
【0023】
【表2】

【0024】
上記比較テストは、比率φ/Dもまたこの2重ドラムスプールのために重要であることをさらに明らかにする。比率φ/Dが小さいほど、使用後のスプールの変形は小さいので、スプールの再使用の回数が多くなる。しかし、比率φ/Dにはある程度の限界がある。一方で、比率φ/Dの下限は、フランジの外径φがスプールを使えるようにするために外側ドラムの外径Dより大きくなるべきであるので、1.0より大きくなるべきである。他方で、比率φ/Dの上限は、フランジが外側ドラムを越える高さが大きいほど、使用後のスプールの変形が大きくなるので、2.0を越えるべきでない。したがって、比率φ/Dは1.0〜2.0であり、より好ましくは、1.3〜1.6である。
【0025】
図5に示されているように、フランジ24は、1個の中心孔30と、中心孔の周りに均一に分布したスロット32とを有する。図6に示されているように、内側ドラム26の外周とフランジ24の中心孔30の内周との間に溶接部が存在する。図7に示されているように、外側ドラム28の内周とフランジ24の均一に分布したスロット32との間に溶接部が存在する。上記配置には以下の利点がある。
1.内側ドラムとフランジとの間の接続を改良する。
2.外側ドラムとフランジとの間の接続を改良する。
3.内側ドラムと外側ドラムとの間の接続を確実にする。
4.外側ドラムとフランジとの間の制限された溶接部のためにフランジの変形を制限する。
5.簡略化された構造のため容易に製造できる。
【0026】
図8に示されているように、外側ドラム28の外周とフランジ24の表面との間に溶接部が存在する。この溶接部は、外側ドラムとフランジとの間の接続をさらに改良し、スプールの構造的剛性を改良する。
【0027】
本発明に係るスプールを製造する方法は以下のステップを含む。
1.フランジ24が厚い金属シートのプレス加工により製造され、フランジ24の外周が折り畳み手順によって概ね補強される。中心孔30と均一に分布したスロット32とがプレス加工によって製造される。
2.内側ドラム26および外側ドラム28が金属シートを円筒形状に曲げることにより形成される。
3.内側ドラム26の外周がフランジ24の中心孔30の内周に溶接される。
4.外側ドラム28の内周がフランジ24の均一に分布したスロット32に溶接される。
5.外側ドラム28の外周がフランジ24の表面に溶接される。
6.内側ドラム26の両端は装置上のスプールの搭載の実現を容易にするため面取り角を有することが可能である。
7.外側ドラム28の外周とフランジ24の表面との間の溶接部は、滑らかな巻き付けおよび巻き戻し工程を実現し易くするため、切断し、丸くすることが可能である。
【0028】
本発明の別の改良は、図9に示されているように、内側ドラム26の外周と外側ドラム28の内周との間にいくらかの支持プレート34を溶接することである。支持プレート34は、変形に対する外側ドラム28の強度を改良し、内側ドラム26と外側ドラム28とを確実に同心にする。
【0029】
本発明のさらなる改良は、図10に示されているようにフランジ24の中心孔30の周りに面取り角を作り、外側ドラム28の両端をフランジ24の表面に溶接することである。したがって、スプールが極細ワイヤーで荷重を加えられているとき、内側ドラム26の両端がフランジ24の表面に接して圧力を受けているので、内側ドラム26の両端とフランジ24の表面との間を溶接する必要がない。
【符号の説明】
【0030】
10 従来のスプール
12 従来のスプールのコア
14 従来のスプールのフランジ
20 本発明に係るスプール
22 本発明に係るスプールのコア
24 本発明に係るスプールのフランジ
26 本発明に係るスプールの内側ドラム
28 本発明に係るスプールの外側ドラム
30 本発明に係るスプールのフランジの中心孔
32 本発明に係るスプールのフランジ上に均一に分布したスロット
d 内側ドラム26の内径
D 外側ドラム28の外径
φ フランジ24の外径
H 外側ドラム28の高さ
F2 フランジ14に加わる側圧
F4 フランジ24に加わる側圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、
前記コアに結合された2つのフランジと、
を備えた極細金属ワイヤー用の厚い金属シート製のスプールにおいて、
前記コアが、内径dを有する内側ドラムおよび外径Dを有する外側ドラムからなる同心二重ドラムで構成されていることを特徴とする、スプール。
【請求項2】
前記金属シートの厚さが2.5mm〜7.0mmであることを特徴とする、請求項1に記載のスプール。
【請求項3】
前記金属シートの厚さが3.0mm〜5.0mmであることを特徴とする、請求項2に記載のスプール。
【請求項4】
前記外側ドラムの前記外径Dが、前記内側ドラムの前記内径dの1.3倍〜2.1倍であることを特徴とする、請求項3に記載のスプール。
【請求項5】
前記各フランジの径φが、前記内側ドラムの前記内径dの2.2倍〜2.8倍であることを特徴とする、請求項4に記載のスプール。
【請求項6】
比率φ/Dが1.0〜2.0であることを特徴とする、請求項5に記載のスプール。
【請求項7】
前記比率φ/Dが1.3〜1.6であることを特徴とする、請求項6に記載のスプール。
【請求項8】
前記外側ドラムの高さHが、前記内側ドラムの前記内径dの2.0倍〜3.0倍であることを特徴とする、請求項7に記載のスプール。
【請求項9】
前記各フランジが、1個の中心孔と前記中心孔の周りに均一に分布したスロットとを有することを特徴とする、請求項8に記載のスプール。
【請求項10】
前記内側ドラムの外周が、前記内側ドラムの両端で前記フランジの前記中心孔の内周に溶接されていることを特徴とする、請求項9に記載のスプール。
【請求項11】
前記外側ドラムの内周が、前記外側ドラムの両端で前記フランジ上の前記均一に分布したスロットに溶接されていることを特徴とする、請求項10に記載のスプール。
【請求項12】
前記外側ドラムの外周が、前記外側ドラムの前記両端で前記フランジの表面に溶接されていることを特徴とする、請求項11に記載のスプール。
【請求項13】
支持プレートが、前記内側ドラムの外周と前記外側ドラムの内周との間に溶接されていることを特徴とする、請求項9に記載のスプール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−507782(P2011−507782A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540107(P2010−540107)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/068017
【国際公開番号】WO2009/080750
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(592014377)ナムローゼ・フェンノートシャップ・ベーカート・ソシエテ・アノニム (81)
【氏名又は名称原語表記】N V BEKAERT SOCIETE ANONYME
【Fターム(参考)】