説明

コア遺伝子およびNS3領域に突然変異を有する突然変異ペスチウイルス

本発明は、突然変異ペスチウイルス、および該ウイルスを含有するワクチンに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突然変異ペスチウイルス、および該ウイルスを含有するワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
ペスチウイルス(Pestivirus;ペスチウイルス属)は世界中で動物における経済的に重要な疾患を引き起こす。ペスチウイルスはフラビウイルス科に含まれ、少なくとも3つの種、すなわち、ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)、古典的ブタコレラウイルス(CSFV)およびヒツジボーダー病ウイルス(BDV)を含む。ウシおよびヒツジから分離体を含むペスチウイルスの第4の独立群の存在が記載されており、この追加的な種をBVDV−2と称することが現在では一般に受け入れられており、したがって、古典的BVDV株はBVDV−1と称される。
【0003】
CSFVはブタにおいて古典的ブタコレラを引き起こす。古典的ブタコレラは高伝染性であり、時にはブタにおける致死的な疾患であり、相当な経済的損失を引き起こしうる。動物はワクチン接種によりCSFVに対して防御されうるが、通常の不活化または修飾生ワクチンは安全性および効力に関する欠点を有する。したがって、新規の改良されたタイプのワクチンが開発されるべきである。
【0004】
ウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)は、多種多様な臨床症状を示す先天性腸疾患の一因である。該疾患は、高い罹患率および低い死亡率を伴う、ウシの伝染性疾患として最初に記載された。罹患したウシは発熱、下痢および咳を示した。該病態はウシウイルス性下痢と称された。今日、BVDVは、世界的な経済的影響を及ぼす、ウシの主要病原体だとみなされている。動物群におけるBVDV感染の臨床パターンおよびその結果としてそれが生産に及ぼす影響は、ウイルスの株、ウシの年齢、動物群における免疫およびストレス因子の相互作用を含む幾つかの要因に左右される。BVDV−1およびBVDV−2は共に、ウシにおける急性感染症(下痢、発熱、出血症候群)ならびに(妊娠中に感染が生じた場合には)流産、胎児の奇形および子ウシの持続的感染を引き起こす。
【0005】
ペスチウイルスのゲノムは(+)RNAの一本鎖からなり、5’UTRおよび3’UTRに隣接した単一の大きなオープンリーディングフレーム(ORF)を含有する。該ORFは、11〜12個の切断産物を与える大きな前駆体ポリタンパク質をコードしている。該ORFはそれらの種々のウイルスタンパク質へと細胞プロテアーゼおよびウイルスプロテアーゼによりプロセッシングされる。該ORF内のウイルスタンパク質は以下の順序で配置されている:NH−Npro−C−Erns−E1−E2−p7−NS2−NS3−NS4A−NS4B−NS5A−NS5B−COOH。ペスチウイルスビリオンは4つの構造タンパク質、小さな正荷電コア(C)タンパク質(これはRNAゲノムと一緒になってヌクレオカプシド構造を形成すると考えられている)および3つのグリコシル化エンベロープタンパク質(Erns、E1、E2)からなる。中和活性は主にE2特異的抗体に関して示された。
【0006】
ペスチウイルスの複製のための最小要件が、例えば、構造タンパク質の遺伝子配列を欠く欠損ペスチウイルスゲノムを作製することにより調べられた。欠損CSFVゲノムは尚も複製され、SK−6細胞内に導入される際にヘルパーA187−CAT RNAと共にウイルス粒子内にパッケージングされうることが判明した(Moserら,J.Virol.,7787−7794,1999)。C、Erns、E1、E2、p7およびNS2をコードする自律複製性であるが欠損性であるBVDVゲノムは既に記載されていた(Behrensら,J.Virol.,72,2364−2372,1998)。もう1つのペスチウイルスのトランス相補CおよびE1欠失突然変異体におけるBVDVがBeerらによりWO04/016794に記載されている。
【0007】
CSFVに関しては、ウイルス弱毒化を示す突然変異体が開示されている。例えば、Risattiら,Virology 364,371−382,2007は、弱毒化表現型を示したE2領域における置換を有するCSFV突然変異体を記載している。Maurerら,vaccine,23(25),3318−28,2005も、強毒性CSFVでの致死的チャレンジに対して部分的防御を示したE2遺伝子の全部または一部を欠くCSFV E2突然変異体を記載している。Meyersら,Journal of Virology,73(12),10224−10235,1999は、突然変異を招くErnsタンパク質をコードする遺伝子における突然変異を有するCSFV突然変異体を記載している。トランス相補Erns欠失においては、CSFVの突然変異体がWildjojoatmodjoら,J.Virol.,74(7),2973−80,2000に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第04/016794号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Moserら,J.Virol.,7787−7794,1999
【非特許文献2】Behrensら,J.Virol.,72,2364−2372,1998
【非特許文献3】Risattiら,Virology 364,371−382,2007
【非特許文献4】Maurerら,vaccine,23(25),3318−28,2005
【非特許文献5】Meyersら,Journal of Virology,73(12),10224−10235,1999
【非特許文献6】Wildjojoatmodjoら,J.Virol.,74(7),2973−80,2000
【発明の概要】
【0010】
本発明は、機能性コアタンパク質を発現し得ないウイルスを与える、コアタンパク質をコードする遺伝子における欠失を有する突然変異ペスチウイルスであって、該ウイルスが、それがNS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメインに1以上の突然変異を含有することにより更に特徴づけられる、突然変異ペスチウイルスを提供する。
【0011】
好ましくは、本発明の突然変異ペスチウイルスは、古典的ブタコレラウイルス(CSFV)またはウシウイルス下痢ウイルス(BVDV)である。
【0012】
該コアタンパク質をコードする遺伝子領域における突然変異は、機能性コアタンパク質が発現され得ないものであるべきである。これは、全体的または部分的に該コアタンパク質をコードする遺伝子を欠失させることにより達成されうる。該コアタンパク質のC末端におけるシグナル配列は下流のポリタンパク質の更なるプロセッシングに必須である。したがって、該コア遺伝子の(一部)を欠失させる際には、Ernsに関するトランスロケーションシグナル配列が保有されるように注意すべきである。
【0013】
該トランスロケーション配列は、CSFV Ernsタンパク質のN末端の前の切断部位(Ala−267/Glu−268)の前のアミノ酸250−267に位置する18アミノ酸の伸長である(Rumenapfら,J.Virol.,65(2),589−597,1991;Rumenapfら,J.Virol.,67(6),3288−3294,1993)。BVDVに関しては、Ernsタンパク質のN末端の前の切断部位はGly−270/Glu−271である。
【0014】
下流プロセッシングに必要な配列の厳密な長さは株または細胞型によって異なりうる。例えば、CSFVに関しては、コアコード配列をアミノ酸169−248(p619)から欠失させて、Ernsのトランスロケーションシグナル(CPLWVTSC168/LEKALLAWAVITILLYQPVAA267/ENIT)を構成するコアタンパク質のC末端アミノ酸にNproのC末端を融合させることが可能である。BVDVに関しては、コアコード配列をアミノ酸169−251から欠失させて、BVDV Ernsのトランスロケーションシグナル(CPLWVSSC168/LEKALLAWAIIALVFFQVTMG270/ENIT)を構成するコアタンパク質のC末端アミノ酸にNproのC末端を融合させることが可能である。該コア遺伝子の大部分の欠失はトランスフェクション後のRNAの複製を可能にしたが、感染性ウイルス後代は産生されなかった。
【0015】
本発明において、機能性コアタンパク質をコードする遺伝子の非存在は該ウイルスゲノムのNS3領域における突然変異により補償されうることが判明した。該コア遺伝子が(前記のとおりに)欠失しているペスチウイルスのcDNAコピー内へのこれらの突然変異の導入は感染性ウイルスの回収を可能にした。NS3領域内の突然変異はNS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内、より詳しくは、該C末端ドメインの100アミノ酸内に密集している。CSFVに関しては、NS3領域のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン(アミノ酸2160−2260)内の7つの独立した突然変異を特定した。本発明の好ましい突然変異CSFウイルスは、Asn2177Tyr、Glu2160Gly、Pro2185Thr/Ala、Gln2189Lys、Pro2200ThrおよびAsn2256Aspよりなる群から選択される、NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内に1以上の突然変異を有する。
【0016】
CSFVコアΔ(p619)内への突然変異Asn2177Tyr into の導入および該cRNAのエレクトロポレーションは生存可能な感染性ウイルス粒子の驚くべき放出を招いた。該ゲノムRNAはノーザンブロット分析におけるサイズにおいて若干減少したようであり、濃縮ウイルス粒子はコアタンパク質を含有していなかった。ウイルス力価はSK6細胞において5×10 ffu/mlに達し、したがってp447 wt力価より約10倍低かった。次に、残りの突然変異Glu2160Gly、Pro2185Ala、Gln2189Lys、Pro2200ThrおよびAsn2256AspをCSFVコアΔ(p619)内に導入して、p1033(Ala2185)、p1034(Thr2200)、p1035(Lys2189)、p1036(Asp2256)、p1037(Gly2160)およびp1038(Asp2256)を得た。全ての場合において、それぞれのSP6転写産物のエレクトロポレーションの後でウイルスが回収されたが、生存性は有意に異なっていた(成長曲線分析)。Asn2177Tyr置換を含有するゲノムが最高の生存性を示した。
【0017】
したがって、最も好ましいのは、NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内の突然変異がAsn2177Tyr突然変異を含む、本発明の突然変異CSFVである。
【0018】
これらの突然変異が相加効果を及ぼすかどうかを調べるために、最強補償性突然変異体を組合せた。二重突然変異のために、Asn2177TyrをGlu2160Gly、Pro2185Ala、Gln2189Lys、Pro2200ThrおよびAsn2256Aspと組合せた。三重突然変異は、Pro2185AlaおよびPro2200Thr、Pro2185AlaおよびGln2189Lys、Gln2189LysおよびPro2200Thr、ならびにGlu2160GlyおよびGln2189Lysと共に、Asn2177Tyrを含有していた。全ての試験された組合せは、単一突然変異と比較して低下した生存性を示し、このことは、可能な突然変異の付加がコアの補償におけるNS3を改善することを示している。
【0019】
親CSFV wtに対する物理的または表現型的相違は明らかでなかったが、CSFVコアΔは天然宿主において高度に弱毒化された。したがって、本発明の突然変異ウイルスは、CSFVによる感染に対してブタを防御するためのワクチンにおける使用に適している。
【0020】
BVDVに関しては、NS3領域のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン(アミノ酸2169−2269)における8つの独立した突然変異を特定した。本発明の好ましい突然変異BVDウイルスは、Glu2189Lys、Leu2190Pro、Thr2191Ala、Asp2192Glu、Pro2194Leu、Tyr2204His、Asn2265Tyr、Asn2265Aspよりなる群から選択される、NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内に1以上の突然変異を有する。
【0021】
最も好ましいのは、NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内の突然変異がAsp2192Glu、Tyr2204His、Asn2265TyrまたはAsn2265Asp突然変異を含む、本発明の突然変異BVDVである。
【0022】
コアタンパク質は感染性粒子の形成に必須ではないらしい。Cはペスチウイルスの構築には要求されないようであるが、他の機能をもたらす。その機能はNS3のヘリカーゼドメインにおける突然変異により補償される。CSFV ErnsまたはBVDV Ernsに関するトランスロケーションシグナル(それぞれLEKALLAWAVITILLYQPVAA268またはLEKALLAWAIIALVFFQVTMG270)を含むコアタンパク質の残りのアミノ酸(NproのC末端とErnsのN末端との間の距離にわたる配列)の厳密な配列は、Ernsのトランスロケーションが維持される限り、感染性ウイルス粒子の形成に要求されない。無関係な糖タンパク質のシグナル配列により真正配列が機能的に置換されうる。コアの残りのアミノ酸がN末端CD46トランスロケーションシグナルにより完全に置換された構築物は生存可能である(CD46はトランスロケーション細胞タンパク質の単なる一例である)。ウシCD46の膜貫通ドメイン(SSGRSPGWLLLAPLLLLPTSSDA)を導入した場合、生存可能なウイルスが回収され、2×10 ffu/mlの力価に達した。
【0023】
コアの非存在下のペスチウイルスの増殖はペスチウイルスマーカーワクチンへの可能性を切り開くものである。ペスチウイルスによる感染に打ち勝った動物の血清中にはコアタンパク質に対する抗体が存在すると予想されうる。コアは免疫原性であり、有意な量で発現される。
【0024】
同様に、本発明の感染性ウイルス粒子を製薬上許容される担体と共に含有するワクチンは本発明の一部である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】臨床徴候および体温の図である。40℃を超える体温が発熱として記録されている。
【図2】白血球数の図である。10G/l未満の値が白血球減少症として記録された。この値は濃い黄色の線により大まかに示されている。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
コア欠失構築物
NS3における置換が欠損コアタンパク質を補償するという仮定を試験するために、コアコード配列(aa169−248(SDDGASG−KPPESRKKL))が欠失した感染性CSFV cDNA(p619)内に該ヌクレオチド変化を導入した。したがって、NproのC末端は、Ernsのトランスロケーションシグナル(CPLWVTSC168/LEKALLAWAVITILLYQPVAA267/ENIT)を構成するコアのC末端アミノ酸に融合されている。コア遺伝子の大部分の欠失はトランスフェクション後の該RNAの複製を可能にしたが、感染性ウイルス後代は産生されなかった。CSFVコアΔ内への突然変異Asn2177Tyrの導入および該cRNAのエレクトロポレーションは生存可能な感染性ウイルス粒子の驚くべき放出を招いた。該ゲノムRNAはノーザンブロット分析におけるサイズにおいて若干減少したようであり、濃縮ウイルス粒子はコアタンパク質を含有していなかった。ウイルス力価はSK6細胞において5×10 ffu/mlに達し、したがってp447 wt力価より約10倍低かった。次に、残りの突然変異Glu2160Gly、Pro2185Ala、Gln2189Lys、Pro2200ThrおよびAsn2256AspをCSFVコアΔ(p619)内に導入して、p1033(Ala2185)、p1034(Thr2200)、p1035(Lys2189)、p1036(Asp2256)、p1037(Gly2160)およびp1038(Asp2256)を得た。全ての場合において、それぞれのSP6転写産物のエレクトロポレーションの後でウイルスが回収されたが、生存性は有意に異なっていた。Asn2177Tyr置換を含有するゲノム(突然変異体「CSFV1017コアΔ」)が最高の生存性を示した。コアタンパク質は感染性粒子の形成に必須ではないらしい。Cはペスチウイルスの構築には要求されないようであるが、他の機能をもたらす。その機能はNS3のヘリカーゼドメインにおける突然変異により補償される。
【0027】
NS3における突然変異による存在しないコアの補償がBVDVにも当てはまるかどうかを評価するために、プライマーBVT86(GCAGCTTGAAACCCATAGGGGGCAG)およびコア268(CTAGAGAAAGCCCTATTGGCCTG)を使用する、XhoI/BglII断片(nt222−2335)を含有するサブクローン上のPCRにより、BVDV cDNAクローンNCP7(GeneBankアクセッション番号AF220247)のコアコード配列を除去した。該欠失を配列決定により確認し、XhoI/NcoI断片(nt222−4671)の連結により完全長cDNAクローン内に導入した。コアを欠く得られた完全長プラスミド(p1026)は、CSFVコアΔ(p619)と同様に、Ernsのシグナル配列の前にNproをコードしていた。p1026の転写産物はMDBK細胞において複製性であったが、感染性ウイルスは観察されなかった。NCP7ΔC内への置換Pro2194Ala、Pro2209TyrおよびAsn2265Aspの導入は、MDBK細胞上で力価測定された場合に約10 ffu/mlの感染性ウイルス力価のレスキューを可能にした。ブタSK6細胞における増殖のために操作された修飾NCP7ΔCは、コアがTyr2204His、Asn2265Tyr、Asn2265Asp、Pro2194Leu、Gln2I98LySおよびLeu2199Proにおいて補償されることを示した。コアタンパク質ウイルスを欠くNCP7は有意な力価(Asn2265Tyr:3.3×10、Tyr2204His:2×10およびAsp2192Glu:1.5×10 ffu/ml)でSK6細胞からレスキューされた。MDBK細胞において良好に増殖する通常の1型BVDVウイルスであるBVDV C86の感染性コピーに基づき、前記のとおりにコア欠失突然変異体を作製し、Asn2265Asp(Asn2433Asp)に類似した突然変異を導入した。SK6細胞におけるトランスフェクションの後、5×10 ffuの力価を有するウイルスが回収された。
【0028】
コアタンパク質由来膜貫通ドメインは宿主細胞配列により機能的に置換されうる。
【0029】
Ernsのトランスロケーションシグナル(LEKALLAWAVITILLYQPVAA268)を含む残存アミノ酸の機能的重要性を排除するために、NproのC末端とErnsのN末端との間の距離にわたる配列をCSFVコアΔN2177Y(p1017)においてウシCD46の膜貫通ドメイン(SSGRSPGWLLLAPLLLLPTSSDA)により置換した。それぞれのcDNA(p1246)のSP6転写産物をSK6細胞内にトランスフェクトした。2×10 ffu/mlの力価に達する生存可能なウイルスが回収された。
【0030】
材料および方法
細胞およびウイルス
SK6細胞を、5% COを含むインキュベーター内で、10% ウシ胎児血清と非必須アミノ酸とを含有するDMEM内でプラスチックディッシュ上で増殖させた。細胞を3日ごとに分割した。全てのCSFVウイルスは非cp CSFV株Alfort−p447(Galleiら,J.Virol.,79(4),2440−2448,2005)に由来する。
【0031】
エレクトロポレーション:
2μgのSP6転写産物を5×10個のSK6細胞内にエレクトロポレーションした。この目的のために、SK6細胞(90%のコンフルエンシー)をトリプシン処理し、PBS(Ca++およびMg++)中で2回洗浄し、310μlの総容量中で該転写産物と混合し、2mmの間隙のキュベット中のエレクトロポレーション(Biorad Genepulser,0.18KVおよび0.95μFd)に付した。細胞を該キュベットから回収し、10% ウシ胎児血清で補足されたDMEM内で35mmプラスチックディッシュ上でプレーティングした。
【0032】
RNA調製およびcDNA合成:
レスキューされたウイルスに感染したSK6細胞を洗浄し、Rneasyキット(Quiagen)を該製造業者により推奨されているとおりに使用して、該RNAを調製した。2μgのRNAを、関心のある実際の位置によって異なるプライマーを使用する逆転写に付した。PCRを適当なプライマーで行い、pGEM−Tベクター(Promega)内にサブクローニングした。
【0033】
(実施例2)
動物実験
古典的ブタコレラウイルス(CSFV)突然変異体「CSFV1017コアΔ」の毒性を実験条件下で特徴づけるために、動物実験を行った。
【0034】
目的
この実験の主要目的は、CSFV突然変異体「CSFV1017コアΔ」が、親株「CSFV Alfort p447」と比較して弱毒化を示すかどうかを調べることであった。歩哨ブタの使用により、該ウイルスの放出および伝達を大雑把に調べることが可能であった。弱毒化が証明されたため、残りのブタを1月2日に高病原性CSFV株Koslovでチャレンジした。
【0035】
動物実験
第1部−感染
6頭の離乳直後のブタを2006年10月16日に商業的養豚場から購入し、Institute of Virologyの高収容ユニット内に入れた。動物を各群3頭の2つの群に無作為に分けた。全ての動物を個々に番号および耳標識で識別表示した。それらの2つの群(群1:番号75〜77を有する動物;群2:番号78〜80を有する動物)を、該実験の全体にわたり互いに接触させることなく別々の畜舎内に高収容条件(100Paの負の空気圧)下で維持した。動物に1日1回給餌した。水は任意に供給した。動物は実験開始時に臨床的に健康であった。実験の開始前に、血液サンプルを全動物から集め、ペスチウイルス(CSFV、ボーダー病ウイルス(BDV)およびウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV))に対する中和抗体の存在に関して中和アッセイにより検査した。新しい環境に対する順応期間の後、各群の2頭のブタに約10 TCID50のそれぞれCSFV1017(群1)およびCSFV Alfort p447(群2)を筋肉内感染させた。感染後少なくとも12時間にわたり歩哨ブタ(各群1頭)をそれらの群から取り出した。この期間の後、それらをそれぞれの群に再び加えた。両群の動物を臨床症状および体温に関して毎日モニターした。40℃を超える体温を発熱として記録した。該実験の経過中、もはや許容できない臨床症状を示す動物を動物愛護上の理由により安楽死させた。全動物の死後検査を行い、記録した。血液サンプル(天然血液およびEDTA抗凝血化血液)を感染後第0、2、4、7、10、14、21および28日に全動物から採取した。安楽死の当日に追加的なサンプルを採取した。天然血液サンプルを1500rpm、室温で15分間遠心分離(Labofuge 400R,Heraeus,Germany)して血清を得た。ついで血清を0.5〜2mlの適当なアリコートに分割し、更なる試験まで−80℃で保存した。
【0036】
第II部−チャレンジ
感染の部(第I部)の後に生存したブタを感染後第71日に104.5 TCID50の高病原性CSFV株Koslovで鼻腔内にチャレンジした。血液サンプルをチャレンジ後第0、3、6日およびそれぞれのブタの安楽死の当日に採取した。
【0037】
臨床検査
白血球数
酢酸(2%)での赤血球溶解の後にNeubauer(改良型)による計数チャンバーを使用して、EDTA血から白血球を手動で計数した。EDTA血をThomaにより血液希釈ピペット内に0.5指標まで吸入した。ついで酢酸(2%)を11指標まで加え、該サンプル希釈物を穏やかに約60秒間振とうした。調製された計数チャンバー内に該希釈物を満たした後、光学顕微鏡下で白血球計数視野内の白血球を計数した。チャンバーの仕様書に従い正確な値を計算した。10G/l未満の値を白血球減少症として記録した。白血球の計数は感染後第0、2、4、7、10、14、21および28日に行った。
【0038】
中和ペルオキシダーゼ結合抗体アッセイ
European Commission(2002年2月1日付けのCommission Decision 2002/106)の“Diagnostic Manual”およびそれに付属のTechnical Partに従い、それぞれCSFVおよびBVDV/ペスチウイルスに対する抗体の検出のために以下のウイルスを使用して中和ペルオキシダーゼ結合抗体アッセイ(NPLA)を行った:
・BVDV NADL
・CSFV参照株「Alfort 187」(CSF 902)
・CSFV Alfort p447(親株)
・CSFV Koslov(チャレンジ株)
・CSFV Diepholz(CSF0104)。
【0039】
BVDV抗体の検出のためのNPLAを初代胎児ウシ腎細胞上で行い、一方、CSFV抗体の検出のためのNPLAを永久ブタ腎細胞(SK6)上で行った。抗体価は、2つの重複ウェルの50%においてウイルス複製を妨げた最高初期血清希釈度の逆数として表される。これらの中和希釈50%(ND50)は、KARBERの方法を用いて計算した。CSFV抗体の検出のためのNPLAは、感染後(CSFV Alfort p447およびCSF0902)第0、10、14、21および28日に行った。また、チャレンジ後第0、3および6日ならびに安楽死の当日に採取したサンプルを調べた(CSFV Alfort p447およびCSF0902)。また、CSFV KoslovおよびCSF0104を使用して、チャレンジ後に採取したサンプルをNPLAに付した。BVDVに対する中和抗体の検出のためのNPLAは実験開始前に行った。
【0040】
抗体酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)
感染後第0、14、21および28日ならびに安楽死の当日に集めた血清サンプルを、NPLAの他に、CSFVに対する抗体の検出のための商業的に入手可能な抗体酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)に付した。全ての試験は、製造業者の説明に記載されているものに厳密に従って行った。以下のELISA試験キットを使用した:
・HerdChek CSFV,Idexx Laboratories,Worrstadt,Germany。
【0041】
ウイルス分離
白血球調製物からのウイルス分離を、EU Diagnostic Manual(Commission Decision 2002/106/EC)に従い永久ブタ腎細胞系SK6およびRie5−1上で2継代にわたって行った。ペスチウイルス特異的モノクローナル抗体BVD/C16(Petersら,1986)および市販の種特異的ペルオキシダーゼ結合コンジュゲート(RAMPO,Dako)で間接免疫標識を行った。
【0042】
抗原ELISA
ウイルス分離の他に、商業的に入手可能な抗原酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)を、製造業者の説明書に記載されているものに厳密に従って行った。第0、4、7および10日に採取したサンプルを分析に付した。以下のELISA試験キットを使用した:
・CHEKIT HCV−Antigen,former Dr.Bommeli AG,Liebefeld−Bern,Switzerland。
【0043】
結果
第I部−感染
臨床徴候および体温(図1を参照されたい)
該実験の感染の部の間に、動物76のみが感染後第8日に僅かな発熱(40.1℃)を示した。動物75および76に関しては感染後第14日に40.0℃の微熱体温が記録された。これとは対照的に、群2の全動物が発熱を示した。動物78は感染後第8および9日ならびに感染後第13日から第28日の実験終了まで発熱体温を示した。動物79は感染後第9日および第14日から実験終了まで発熱を示した。動物80に関しては感染後第7、9、10日および第13日から第20日まで発熱体温が記録された。第21日に動物80は35.6℃の体温を示した。
群1の動物(75〜77)は、該実験の最初の部分においては、CSFV感染を示す臨床徴候を何ら示さなかったが、群2の全動物(78〜80)は顕著な臨床症状を示した。臨床徴候の重症度は動物によって様々であった。動物76は重度の歩行困難のためCSF感染には無関係に第44日に安楽死に付された。該実験経過中、動物78は重度の下痢、結膜炎、食欲不振、皮膚病変および運動失調を示した。該動物は感染後第28日に安楽死に付された。動物79は、食欲減退および若干の下痢を含む軽度の特徴的でない症状を示したに過ぎなかった。該動物は感染後第28日に安楽死に付された。動物80は、胃腸および呼吸徴候、食欲不振、感情鈍麻ならびに皮膚病変を含む重度の症状を示した。該動物は感染後第21日に瀕死状態で安楽死に付された。
【0044】
白血球数(図2を参照されたい)
一般に、群1の動物は白血球減少症を示さなかった。それでも、動物75および77は感染後第20日に10G/l未満の値を示した。同じ日に、動物76は僅か10.3G/lを示した。群2の全動物はCSFV Alfort p447による感染後に重度の白血球減少症を示した。動物78においては、感染後第4日に白血球減少症が発症し、安楽死の日に僅か0.45G/lが記録された。歩哨ブタ79は感染後第21および28日に白血球減少症値を示し、感染後第14日に既に10.6G/lの限界値を示していた。動物80は感染後第4日から重度の白血球減少症を示した。その末期の値は感染後第21日に1.4G/lであった。
【0045】
病理学
群1の動物は該実験の感染の部の間に安楽死に付された。群2の動物は種々の病理学的徴候を示した。動物78は、びらん性皮膚炎、腸および気道におけるリンパ節の腫張および出血、胸腺萎縮、気管支肺炎、潰瘍性胃炎、カタル性腸炎、腎盂腎炎、ならびに腎皮質における点状出血を示した。動物79は、軽度の胸腺萎縮、腸および気道におけるリンパ節の軽度腫張、肺炎(前葉)、潰瘍性胃炎、重度のカタル性腸炎および膀胱炎を示した。動物80は、皮膚および皮下組織(肢端および腹部)の点状出血、リンパ節の顕著な拡大、浮腫および出血(全身性)、重度の胸腺萎縮、髄膜、脾臓、喉頭蓋、気管、胃、腸壁、回盲弁、膀胱、肝臓、胆嚢および腎臓における点状出血を示した。また、動物80はカタル性化膿性肺炎、心内膜下および心筋内の広範な出血、重度の出血性胃炎、便秘、ならびに重度の間質性腎炎を示した。
【0046】
抗体検出
中和ペルオキシダーゼ結合抗体アッセイ(NPLA)
全動物が該実験前にBVDV/ペスチウイルス抗体に関して陰性結果を示した。第0日に採取された全サンプルが、NPLAにおいて使用された両方のCSFV株(CSF0902およびAlfort p447)に関して陰性(<5 ND50)結果を示した。CSFV株Alfort p447を使用した場合には、群1の動物は感染後第14日から陽性結果を示した(動物75)。詳細には、動物75は感染後第14日に7.5 ND50の抗体価を示し、ついでこれは316 ND50まで増加した。動物76は感染後第21および28日に陽性結果を示し、抗体価は158.5 ND50に達した。歩哨動物77は抗体価を何ら示さなかった。CSF0902を使用した場合には、動物76だけが感染後第28日に7.5 ND50の低い抗体価を示した。群2の動物は、該実験の全体にわたって行った全NPLAにおいて、CSFV抗体に関して陰性(<5 ND50)のままであった。
【0047】
抗体酵素結合イムノソルベントアッセイ(Ab−ELISA)
動物75は感染後第21日に最初の疑わしい結果を示し、感染後第28日に陽性であり、一方、動物76は感染後第14日に疑わしい結果を示し、感染後第21および28日に陽性結果を示した。動物77は陰性のままであった。動物78および79は該試験の全体にわたって陰性を示し、一方、動物80は安楽死の当日(感染後第21日)に疑わしい結果を示した。
【0048】
ウイルス分離
群1の動物は該試験の感染の部の全体にわたってSK6およびRie5−1細胞の両方において陰性結果を示した。動物78はそれぞれSK6およびRie5−1細胞上で感染後第4、7、10(SK6細胞上のみで調べた)および14日に陽性結果を示した。また、このブタに関してRie5−1細胞上で感染後第2日に陽性結果が得られた。歩哨ブタである動物79は両細胞系上で陰性のままであった。SK6細胞上では、動物80は感染後第7、10および14日に陽性結果を示した。Rie5−1細胞上でも感染後7および14日(第10日にはサンプル物質の欠如のため試験されなかった)に陽性結果が見出された。
【0049】
抗原酵素結合イムノソルベントアッセイ(Ag−ELISA)
Ag−ELISAは群1の全動物ならびに群2の動物78および79に関して陰性のままであった。動物80だけが感染後第10日に陽性結果を示した。
【0050】
第II部−チャレンジ
臨床徴候および体温
感染の部の後に生存したブタである動物75および77を感染後第71日に高病原性CSFV株Koslovでチャレンジした。
【0051】
動物75はチャレンジ感染後に発熱体温もいずれの臨床徴候も示さず、チャレンジ後第16日に安楽死に付された。動物77はチャレンジ後第3日に発熱を示し、これは安楽死まで続いた。該動物は重度の神経症状を示し、チャレンジ後第8日に瀕死状態で安楽死に付された。
【0052】
病理学
該チャレンジの前に、動物76は重度の歩行困難のために安楽死に付された。この動物は、CSFを示すいずれの病理学的病変をも示さなかった。それは前葉の軽度肺炎を示したに過ぎなかった。前葉の軽度肺炎および軽度潰瘍性胃炎の他には、動物75は病理学的徴候を示さなかった。動物77は、腫張した部分的に出血性のリンパ節、カタル性肺炎、腹水、軽度の潰瘍性胃炎、肝充血、胆嚢浮腫および間質性腎炎を示した。
【0053】
抗体検出
チャレンジ感染後、動物75は160 ND50のチャレンジウイルスに対する抗体価(チャレンジ後第16日)およびCSF0104に対する640を超える力価を示した。動物77は陰性のままであった。
【0054】
要約および結論
・CSFV突然変異体「CSFV 1017コアΔ」は、親株「CSFV Alfort p447」と比較して実質的に完全な弱毒化を示した。
・群2の動物とは対照的に、群1の動物では、種々の細胞系上でウイルス分離においてウイルスは検出されなかった。
・歩哨ブタを除き、群1の動物はCSFV 1017コアΔによる感染後に中和抗体を示した。
・群1の歩哨ブタは抗体および抗原の両方の検出においていずれの陽性結果も示さなかった。したがって、該ウイルス突然変異体の放出および伝達の可能性はほとんど考えられない。
・高病原性CSFV株によるチャレンジ感染後の臨床徴候の非存在は、CSFV1017コアΔに既に感染した動物の完全な防御を証明した。
・該歩哨ブタは、CSFV Koslovによる感染後に急性致死性CSFの経過を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性コアタンパク質を発現し得ないウイルスを与える、コアタンパク質をコードする遺伝子における突然変異を有する突然変異ペスチウイルスであって、該ウイルスが、それがNS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメインに1以上の突然変異を含有することにより更に特徴づけられる、突然変異ペスチウイルス。
【請求項2】
該ペスチウイルスが古典的ブタコレラウイルス(CSFV)である、請求項1に記載の突然変異ペスチウイルス。
【請求項3】
NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内の突然変異が、Asn2177Tyr、Glu2160Gly、Pro2185Thr/Ala、Gln2189Lys、Pro2200ThrおよびAsn2256Aspよりなる群から選択される、請求項2に記載の突然変異CSFV。
【請求項4】
NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内の突然変異がAsn2177Tyr突然変異を含む、請求項2または3に記載の突然変異CSFV。
【請求項5】
該ペスチウイルスがウシウイルス性下痢ウイルス(BVDV)である、請求項1に記載の突然変異ペスチウイルス。
【請求項6】
NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内の突然変異が、Glu2189Lys、Leu2190Pro、Thr2191Ala、Asp2192Glu、Pro2194Leu、Tyr2204His、Asn2265Tyr、Asn2265Aspよりなる群から選択される、請求項5に記載の突然変異BVDV。
【請求項7】
NS3のヘリカーゼドメインのC末端ドメイン内の突然変異がAsp2192Glu、Tyr2204His、Asn2265TyrまたはAsn2265Asp突然変異を含む、請求項5または6に記載の突然変異BVDV。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の突然変異ペスチウイルスおよび製薬上許容される担体を含むことを特徴とするワクチン。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−502641(P2012−502641A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527309(P2011−527309)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061989
【国際公開番号】WO2010/031783
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(506196247)インターベツト・インターナシヨナル・ベー・ベー (85)
【Fターム(参考)】