説明

コイル搬送システム

【課題】高低差のある搬送ラインに沿ってコイルを搬送する場合に、チェーンコンベアを用いることなくコイルを高地側に搬送することができ、従来よりコイル上昇勾配を増大させること。
【解決手段】搬送ライン7に沿って敷設された軌条15と、搬送ライン7に沿って間隔を空けて配置され、コイル2が載置される複数のスキッド20と、搬送ライン7で隣り合うスキッド20間毎に配置された複数のコイルカー30とを備える。軌条15は、搬送ライン7に段差が設けられるように異なる高さに複数段に亘って敷設されている。複数のスキッド20は、少なくとも複数段の軌条15の段差部16に配置されているとともに、その段差部16のスキッド20がそのスキッド20内に侵入する上下段両側のコイルカー30との間でコイル2を受け渡し可能な段間共用スキッド20Aとして構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高低差のある搬送ラインに沿って金属帯が巻き回されてなるコイルを搬送するためのコイル搬送システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続圧延設備にて製造された金属帯は、ダウンコイラのマンドレルに巻き取られてコイルとなった後、マンドレルから抜き取られてコイル貯蔵ヤードや他の処理設備等へ搬送される。このとき、コイルの搬送経路である搬送ラインは、工場のレイアウトに応じて様々に変化しており、コイルは、このような搬送ラインに応じて様々に組み合わせられた搬送装置を用いて搬送されている。
【0003】
ここで、ダウンコイラによって金属帯を巻き取る場合、圧延ラインを搬送されてくる金属帯をその圧延ラインの途中位置より低位置で巻き取ることになるため、ダウンコイラによる巻き取り位置が地盤面(GL)高さより低位置となることが多い。この場合、コイル貯蔵ヤード等のコイル搬入口が地盤面高さに設けられていることが多いことや、他設備との干渉を避ける観点から、巻き取り位置から地盤面高さまでにかけて入側と出側とで高低差のある搬送ラインに沿ってコイルを搬送する必要が生じる。
【0004】
このように、高低差のある搬送ラインに沿ってコイルを搬送する場合、従来においては、特許文献1に開示のようなチェーンコンベアを水平面に対して傾斜させて設けて、このチェーンコンベアによって高地側にコイルを搬送する方法が一般的に採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−328735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなチェーンコンベアによって高地側にコイルを搬送する場合、チェーンの牽引によりチェーンコンベア上のコイルを搬送することになる。このため、チェーンコンベアの水平面に対する勾配で表されるようなコイル上昇勾配が増大するに伴い、チェーンに対するコイルの自重による荷重の負荷が増大してしまう。チェーンに対して負荷される荷重が大きい場合、その分、チェーンの耐力低下を招くうえ、チェーンのメンテナンスの頻度増大を招いてしまうことから、チェーンコンベアのコイル上昇勾配はあまり大きくできないという問題点があった。
【0007】
このチェーンコンベアのコイル上昇勾配について本願発明者が調査したところ、一般には安全性を見積もってその上昇勾配を50/1000程度とすることが大半であることが確認された。
【0008】
このように、チェーンコンベアをコイル搬送装置として用いた場合、従来においてはコイル上昇勾配に上限値が存在していた。このような上限値が存在するということは、一定高さコイルを上昇させるためのコイル搬送装置の水平方向長さが長距離化することを意味しており、その分、コイル搬送装置の大型化を招くうえ、コイル搬送装置を設置するために大規模な土木工事が行なう必要が生じていた。
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、高低差のある搬送ラインに沿ってコイルを搬送する場合に、チェーンコンベアを用いることなくコイルを高地側に搬送することができるとともに、従来よりもコイル上昇勾配を増大させることができるようなコイル搬送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記のコイル搬送システムを発明した。
【0011】
第1発明に係るコイル搬送システムは、高低差のある搬送ラインに沿って金属帯が巻き回されてなるコイルを搬送するためのコイル搬送システムにおいて、前記搬送ラインに沿って敷設された軌条と、前記搬送ラインに沿って間隔を空けて配置され、前記コイルが載置される複数のスキッドと、前記搬送ラインで隣り合うスキッド間毎に配置され、前記軌条上を走行して前記スキッド内に侵入した後にコイル受け台を昇降させることによりこれらの間で前記コイルを受け渡し可能に構成された複数のコイルカーとを備え、前記軌条は、前記搬送ラインに段差が設けられるように異なる高さに複数段に亘って敷設され、前記複数のスキッドは、少なくとも前記複数段の軌条の段差部に配置されているとともに、当該段差部のスキッドがそのスキッド内に侵入する上下段両側のコイルカーとの間で前記コイルを受け渡し可能な段間共用スキッドとして構成されていることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係るコイル搬送システムは、第1発明において、走行中に前記スキッドとの間で干渉が生じ得る位置に到達した時点で干渉の有無を判断し、干渉する場合には前記コイル受け台を昇降させる動作のみを実行するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
第3発明に係るコイル搬送システムは、第1発明又は第2発明において、前記複数のコイルカーによって搬送される前記コイルの水平方向のコイル搬送距離(mm)を鉛直方向のコイル搬送高さ(mm)で除した値であるコイル上昇勾配が100/1000以上となるように構成されていることを特徴とする。
【0014】
第4発明に係るコイル搬送システムは、第1発明乃至第3発明の何れか一つの発明において、前記複数段の軌条は、前記段差間共用スキッド内に侵入する上下段両側のコイルカーが当該段差間共用スキッドに前記コイルを載置できる位置まで少なくとも敷設されていることを特徴とする。
【0015】
第5発明に係るコイル搬送システムは、第1発明乃至第4発明の何れか一つの発明において、前記搬送ラインは、地盤面高さより低位置にある圧延ライン出側のダウンコイラーから当該地盤面高さまで前記コイルが搬送されるよう設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明乃至第5発明によれば、コイルカーによりコイルを搬送するに際して、複数のスキッド間での走行動作とコイル受け台の昇降動作とを同時に行なうことが可能である。このため、入側のスキッドから出側のスキッドに対してコイルカーによりコイルを搬送するに際して、一連の動作を行うために必要となる搬送サイクルタイムの増大を抑えつつ高いコイル上昇勾配を実現して、コイルの搬送能力を高めることが可能となる。また、チェーンコンベアを用いた場合に生じるような、コイル上昇勾配の増大に伴うチェーンに対する負荷の増大といった問題を生じさせることなくコイル上昇勾配を増大させることが可能となる。また、コイル上昇勾配を従来より増大させることが可能となっているので、一定高さコイルを上昇させるために必要となる設備の水平方向長さを従来より低減させることができ、これにより、設備全体の小型化、地面を掘る範囲の削減、建屋の面積の省スペース化を図ることができ、その分、設備費、工事費を低減させることが可能となる。
【0017】
また、第1発明乃至第5発明によれば、コイルカーの走行する軌条が異なる高さに敷設された複数段の軌条として構成されているので、一段の軌条である場合と比較して、コイルを高地側に搬送しようとするコイルカーの軌条からコイル受け台までの距離を短くすることが可能となる。このため、コイルカーの上下方向の重心位置が軌条に近づくことになり、その分、コイルカーの走行動作やコイル受け台の昇降動作を安定させることが可能となり、コイルカーの動作の不安定化を招くことなくコイルカー一台当たりのコイル上昇量を増大させて、高いコイル上昇勾配を実現することが可能となる。
【0018】
また、第1発明乃至第5発明によれば、複数段の軌条の段差部に段間共用スキッドを配置することとしているので、複数段の軌条上を走行する上下段両側のコイルカーとの間でのコイルの受け渡しを通常のスキッドを用いた場合と同様に円滑に行なうことが可能となる。
【0019】
第2発明によれば、コイルカーによりコイルを搬送するに際して、コイル受け台上のコイルとスキッドとの間での衝突や、コイル受け台とスキッド上のコイルとの間での衝突を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るコイル搬送システムが用いられる搬送ラインを模式的に示す平面図である。
【図2】本発明に係るコイル搬送システムが用いられる搬送ラインの一部の構成を模式的に示す側面図である。
【図3】通常スキッドの構成を示す正面図である。
【図4】段間共用スキッドの構成を示す正面図である。
【図5】本発明に係るコイル搬送システムの動作について説明するための側面図である。
【図6】本発明に係るコイル搬送システムの動作について説明するための他の側面図である。
【図7】コイルカーによりコイルを搬送する一連の動作を実行するうえでコイル受け台が通る経路を模式的に示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態として、搬送ラインに沿ってコイルを搬送するためのコイル搬送システムについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係るコイル搬送システム1が用いられる搬送ライン5を模式的に示す平面図であり、図2は、その搬送ライン5の一部を構成する第2搬送ライン7を模式的に示す側面図である。
【0023】
本発明に係るコイル搬送システム1は、鋼帯等の金属帯が巻き回されてなるコイル2を搬送するために用いられるものであり、コイル2の搬送経路である搬送ライン5に入側と出側とで高低差のある場合に用いられる。本実施形態では、圧延ライン3の出側に設けられた二つのダウンコイラ11のマンドレル13により巻き取られたコイル2を、地盤面GLより低位置である巻き取り位置からその地盤面GLまで搬送する場合を例として説明する。
【0024】
圧延ライン3から地盤面GLに至るまでの搬送ライン5は、圧延ライン3と直交する方向に設けられた直線状の第1搬送ライン6と、第1搬送ライン6の出側においてその第1搬送ライン6と直交する方向に設けられ、その出側が地盤面GLに至るまで延びた直線状の第2搬送ライン7と、第2搬送ライン7の出側においてその第2搬送ライン7と直交する方向に設けられた第3搬送ライン8とから構成されている。本発明に係るコイル搬送システム1は、本実施形態では第2搬送ライン7に用いられている。
【0025】
なお、第1搬送ライン6は、ダウンコイラ11のマンドレル13から抜き出したコイル2を第2搬送ライン7まで搬送するために設けられている。第1搬送ライン6は、その第1搬送ライン6に沿って軌条15が敷設されており、その軌条15上にコイル2を搬送するためのコイルカー30が配置されている。また、第1搬送ライン6は、第2搬送ライン7との交差部7aにおいて、コイル2を仮置きするためのスキッド20が配置されている。
【0026】
また、第3搬送ライン8には、この第3搬送ライン8に沿ってチェーンコンベア等からなる搬送装置が設けられており、第2搬送ライン7出側まで搬送されたコイル2は、この第3搬送ライン8に設けられた搬送装置によって、コイル貯蔵ヤードや酸洗設備のような他の処理設備へ搬送される。
【0027】
本発明に係るコイル搬送システム1は、本実施形態において、第2搬送ライン7に沿って敷設された軌条15と、第2搬送ライン7に沿って間隔を空けて配置された複数のスキッド20と、第2搬送ライン7で隣り合うスキッド20間毎に配置された複数のコイルカー30とを備えている。
【0028】
軌条15は、本実施形態において、第2搬送ライン7に段差が設けられるように異なる高さに複数段に亘って敷設されている。複数段の軌条15は、第2搬送ライン7の出側に向かうにつれてそれらの高さが高くなるように敷設されている。複数段の軌条15は、本実施形態において、三段分敷設されている。複数段の軌条15は、第2搬送ライン7で隣り合うもの同士の端部15aが、平面視において重なり合うように上下に間隔を空けて敷設されている。複数段の軌条15は、スキッド20に設けられた一対のレールフレーム25や床9から立設された支柱部材19によって支持されている。
【0029】
スキッド20は、少なくとも複数段の軌条15の段差部16に配置されるものである。スキッド20は、本実施形態において、複数段の軌条15の段差部16以外にも配置されており、より具体的には、三段の軌条15の段差部16に合計二つ配置され、それ以外の箇所に合計六つ配置されている。スキッド20は、複数段の軌条15の段差部16に配置されているものと、それ以外のものとで構成が異なる。以下においては、複数段の軌条15の段差部16に配置されているスキッド20を段間共用スキッド20Aとして説明し、それ以外のスキッド20を通常スキッド20Bとして説明し、段間共用スキッド20Aと通常スキッド20Bに共通する構成についてはスキッド20として説明する。
【0030】
図3は、通常スキッド20Bの構成を示す正面図であり、図4は、段間共用スキッド20Aの構成を示す正面図である。
【0031】
スキッド20は、搬送ライン5に沿って敷設された軌条15を間に挟んで立設された一対の支柱フレーム21と、一対の支柱フレーム21から内側に突出された一対のスキッドフレーム23とを備えている。また、スキッド20は、一対のスキッドフレーム23より下側において一対の支柱フレーム21から内側に突出された一対のレールフレーム25を一組又は二組備えている。通常スキッド20Bは、本実施形態において、一対のレールフレーム25を一組備えており、段間共用スキッド20Aは、一対のレールフレーム25を二組備えている。
【0032】
支柱フレーム21、スキッドフレーム23及びレールフレーム25はH形鋼等の骨組部材26からなるものである。支柱フレーム21は、この骨組部材26を縦横方向に骨組状に組み合わせて構成され、その下端部21aが床9に対してアンカーボルト等を介して固定されている。一対のレールフレーム25は、その上面に軌条15が敷設されており、軌条15を支持するものとして構成されている。
【0033】
一対のスキッドフレーム23は、一対の支柱フレーム21から内側に水平に突出されており、その内側端部23a間に後述するようなコイルカー30のコイル受け台35が侵入できる程度の間隔を空けて設けられている。一対のスキッドフレーム23の内側端部23aは、それらの上面に一対の受け面23bを有している。一対の受け面23bは、一対のスキッドフレーム23の内側に向かうにつれて下方に傾斜するように設けられている。コイル2は、この一対のスキッドフレーム23の一対の受け面23bをコイル載置部23cとして、このコイル載置部23c上に支承されるように載置されるものであり、その軸穴2aを略水平にしたいわゆるダウンエンドの状態で載置される。
【0034】
第2搬送ライン7に沿って配置されている複数のスキッド20は、本実施形態において、第1搬送ライン6との交差部7aに位置するスキッド20を除いて、第2搬送ライン7の出側に向かうにつれてそれらのコイル載置部23cの高さが徐々に高くなるように構成されている。
【0035】
複数のコイルカー30は、隣り合うスキッド20間を夫々の走行経路として走行可能とされている。コイルカー30は、軌条15上を自走可能な台車フレーム31と、台車フレーム31に対して昇降可能に設けられたコイル受け台35とを有している。
【0036】
台車フレーム31には、側部両側に複数の走行車輪32が回転可能に取り付けられており、台車フレーム31は、この走行車輪32に連結された図示しない車軸を駆動モータ等により回転駆動させることによって、軌条15上を自走可能とされている。台車フレーム31には、その中央部に油圧シリンダ等からなる昇降シリンダ33が設けられており、昇降シリンダ33のロッド先端部にコイル受け台35が設けられている。
【0037】
コイル受け台35は、昇降シリンダ33が昇降動作をすることによって昇降可能とされている。コイル受け台35は、その上面に一対の受け面35aを有している。一対の受け面35aは、外側から内側に向かうにつれて下方に傾斜するように設けられており、この一対の受け面35aによって台車フレーム31の走行方向に沿って凹状をなす谷部が形成されている。コイル2は、いわゆるダウンエンドの状態で、この一対の受け面35a上に支承されるように載置されて搬送される。
【0038】
このように構成されるコイルカー30は、スキッド20の内部である一対の支柱フレーム21間に侵入した後にコイル受け台35を昇降させることにより、コイル受け台35とスキッド20の一対のスキッドフレーム23との間でコイル2を受け渡し可能に構成されている。
【0039】
ここで、複数のスキッド20のうちの段間共用スキッド20Aは、その段間共用スキッド20A内に侵入する上下段両側のコイルカー30との間でコイル2を受け渡し可能なものとして構成されている。このような構成を実現するため、複数段の軌条15は、段間共用スキッド20A内に侵入する上下段両側のコイルカー30が、その段間共用スキッド20Aにコイル2を載置できる位置まで少なくとも敷設されている。
【0040】
次に、本発明に係るコイル搬送システム1の動作について、第1搬送ライン6や第3搬送ライン8でのコイル2の動きとともに説明する。
【0041】
第1搬送ライン6では、ダウンコイラ11のマンドレル13により巻き取られたコイル2がコイルカー30のコイル受け台35によって支持されるようコイル受け台35を上昇させた後、コイルカー30を第1搬送ライン6の軌条15上に沿って走行させて、マンドレル13より抜き取る。続いて、第1搬送ライン6出側までコイルカー30を走行させた後、コイル受け台35上のコイル2を第1搬送ライン6及び第2搬送ライン7の交差部7aのスキッド20に移載する。このとき、コイル2の軸穴2aと第2搬送ライン7の延長方向とが略平行となるように、コイル受け台35を旋回させたりコイルリフターを用いたりすること等によってコイル2を旋回させてから交差部7aのスキッド20に移載する。
【0042】
図5及び図6は、本発明に係るコイル搬送システム1の動作について説明するための側面図である。
【0043】
本発明に係るコイル搬送システム1が用いられている第2搬送ライン7では、本実施形態において、入側の三つのスキッド20間を走行経路とするコイルカー30と、他のスキッド20間を走行経路とするコイルカー30とでその動作が異なっている。各コイルカー30は、図示しないプロセスコンピュータ等による制御の下、以下に説明するような一連の動作を行うよう構成されている。以下においては、コイルカー30が実行する一連の動作開始前、動作終了後のコイルカー30の位置を待機位置として説明する。
【0044】
入側の三つのスキッド20間を走行経路とするコイルカー30では、次のような一連の動作を実行する。まず、コイルカー30の待機位置から入側のスキッド20内にコイルカー30を侵入させる。続いて、図5(a)に示すように、コイル受け台35を上昇させて入側のスキッド20に載置されているコイル2をコイル受け台35により受け取らせる。続いて、図5(b)に示すように、第2搬送ライン7出側のスキッド20内に侵入させるまで、軌条15上に沿ってコイルカー30を走行させる。この走行動作の途中では、コイルカー30のコイル受け台35は上昇させない。続いて、図6(a)に示すように、コイル受け台35を降下させて出側のスキッド20にコイル2を受け渡す。続いて、図6(b)に示すように、コイルカー30の待機位置上に位置するまでコイルカー30を第2搬送ライン7入側に走行させた後、コイルカー30が実行する一連の動作が終了する。
【0045】
他のスキッ間を走行経路とするコイルカー30は、次のような一連の動作を実行する。図7(a)は、コイルカー30によりコイル2を搬送する一連の動作を実行するうえでコイル受け台35が通る経路を模式的に示した模式図である。なお、この図7に示す干渉位置とは、第2搬送ライン7の入側のスキッド20又は出側のスキッド20内へコイルカー30を侵入させようとしたときに、そのスキッド20との間で干渉が生じ得る位置のことを意味している。ここでいう干渉が生じ得るとは、例えば、コイル受け台35上にコイル2が載置されたコイルカー30を出側のスキッド20内に侵入させようとしたときに、コイル受け台35の上昇量が不十分であるため、その出側のスキッド20とコイルカー30のコイル2との間で干渉が生じる場合のことをいう。また、この他に、コイル2が載置されている入側のスキッド20内にコイルカー30を侵入させようとしたときに、コイル受け台35の降下量が不十分であるため、その入側のスキッド20のコイル2とコイルカー30のコイル受け台35との間で干渉が生じる場合のことをいう。
【0046】
各コイルカー30は、まず、コイルカー30の待機位置から入側のスキッド20内にコイルカー30を走行させて侵入させる動作S1を実行する。続いて、図5(a)、図7(a)に示すように、コイル受け台35を上昇させて第2搬送ライン7入側のスキッド20のコイル載置部23cに載置されているコイル2をコイル受け台35により受け取らせる動作S2を実行する。
【0047】
続いて、図5(b)、図7(a)に示すように、入側のスキッド20のコイル2をコイル受け台35により受け取らせてから、出側のスキッド20との間で走行による干渉が生じ得る干渉位置まで走行させる動作S3を実行する。このとき、コイルカー30を走行させつつコイル受け台35を上昇させるような動作S3−1を実行する。
【0048】
動作S3では、その終了後において、コイル受け台35の上昇量が不十分であるため、コイル受け台35上のコイル2と出側のスキッド20との間で干渉が生じてしまう場合がある。これを解決するため、コイルカー30が干渉位置にまで走行した時点でスキッド20との間での干渉の有無を判断し、干渉すると判断した場合にはその干渉位置でコイル受け台35を昇降させる動作S4のみを実行することが好ましい。因みに、図7(b)に示すように、動作S3−1を実行する前や動作S3−1の途中に、ある程度コイル受け台35を上昇させるのみの動作S3−2を実行したり、図7(c)に示すように、コイルカー30の走行速度のみを変化させて、速い走行速度でコイルカー30を走行させつつコイル受け台35を上昇させる動作S3−3と、遅い走行速度でコイルカー30を走行させつつコイル受け台35を上昇させる動作S3−4とを実行して、コイル受け台35の昇降動作S4を省略できるようにしてもよい。これらの動作によりコイル受け台35の上昇量を調整して、出側のスキッド20にコイルカー30を侵入可能となるようにする。
【0049】
続いて、コイルカー30を走行させてスキッド20内に侵入させる動作S5を実行する。続いて、図6(a)、図7(a)に示すように、コイル受け台35を降下させて出側のスキッド20のコイル載置部23cにコイル2を受け渡す動作S6を実行する。
【0050】
続いて、図6(b)、図7(a)に示すように、出側のスキッド20にコイル受け台35のコイル2を受け渡してから、入側のスキッド20との間で走行による干渉が生じ得る干渉位置まで走行させる動作S7を実行する。このとき、コイルカー30を走行させつつコイル受け台35を降下させるような動作S7−1を実行する。
【0051】
動作S7では、その終了後において、コイル受け台35の降下量が不十分であるため、入側のスキッド20のコイル載置部23cに載置されているコイル2とコイル受け台35との間で干渉が生じてしまう場合がある。これを解決するため、動作S3のときと同様に、図7(a)に示すように、コイルカー30が干渉位置にまで走行した時点でスキッド20との間での干渉の有無を判断し、干渉すると判断した場合にその干渉位置でコイル受け台35を昇降させる動作S8のみを実行することが好ましい。因みに、図7(b)、図7(c)に示すように、動作S7−1を実行する前や途中で、コイル受け台35のみを降下させる動作S7−2を実行してもよいし、異なる走行速度でコイルカー30を走行させる動作S7−3、S7−4を実行するようにしてもよい。
【0052】
ここまでが、入側の三つのスキッド20間を除いた他のスキッド20間を走行経路とするコイルカー30が実行する一連の動作となる。このように、これらのコイルカー30は、入側のスキッド20から出側の他のスキッド20にコイル2を搬送するように構成されているとともに、そのコイル2の搬送時において、両スキッド20間を走行しつつコイル受け台35を昇降させるように構成されている。
【0053】
各コイルカー30は、このような一連の動作をほぼ同一の時間内でほぼ同一のタイミングで行なうよう構成されており、これによって、一連の動作を行うごとに、第2搬送ライン7入側のスキッド20に載置されているコイル2が、これと隣り合う第2搬送ライン7出側のスキッド20に間欠的に搬送されることになる。そして、第1搬送ライン6から第2搬送ライン7入側に搬送されてきたコイル2は、各コイルカー30がこのような一連の動作を繰り返し行うことによって、ダウンコイラ11のある巻き取り位置から地盤面GL高さまで搬送されることになる。
【0054】
因みに、第2搬送ライン7の最も出側に位置するスキッド20まで搬送されたコイル2は、コイルリフター等によって、第3搬送ライン8に設けられた搬送装置に移載された後、コイル貯蔵ヤードや酸洗設備のような他の処理設備へ搬送される。
【0055】
なお、本実施形態に係るコイル搬送システム1では、図2に示すような、複数のコイルカー30によって搬送されるコイル2の水平方向のコイル搬送距離L0(mm)を鉛直方向のコイル搬送高さh0(mm)で除した値であるコイル上昇勾配が100/1000以上となるように構成されている。これは、図7に示すような、第2搬送ライン7で隣り合うスキッド20の中心位置間の水平方向距離L1をこれらのコイル載置部23c間の高さの差h1で除した値を100/1000以上とすることにより実現される。
【0056】
本発明に係るコイル搬送システム1によれば、コイルカー30によりコイル2を搬送するに際して、スキッド20間での走行動作とコイル受け台35の昇降動作とを同時に行うことが可能である。このため、入側のスキッド20から出側のスキッド20に対してコイルカー30によりコイル2を搬送するに際して、コイルカー30に一連の動作を行わせるのに必要となる搬送サイクルタイムの増大を抑えつつ高いコイル上昇勾配を実現して、コイル2の搬送能力を高めることが可能となっている。
【0057】
また、本発明に係るコイル搬送システム1によれば、チェーンコンベアを用いることなくコイル2を上昇させながら搬送ラインに沿って搬送させることが可能となっている。このため、チェーンコンベアを用いた場合に生じるような、コイル上昇勾配の増大に伴うチェーンに対する負荷の増大といった問題を生じさせることなくコイル上昇勾配を増大させることが可能となる。
【0058】
また、本発明に係るコイル搬送システム1によれば、コイル上昇勾配を従来より増大させることが可能となっているので、一定高さコイル2を上昇させるために必要となる設備の水平方向長さを従来より低減させることができる。また、これにより、設備全体の小型化、地面を掘る範囲の削減、建屋の面積の省スペース化を図ることができ、その分、設備費、工事費を低減させることが可能となる。
【0059】
また、本発明に係るコイル搬送システム1では、第2搬送ライン7のコイルカー30の走行する軌条15が、異なる高さに敷設された複数段の軌条15として構成されている。これにより、一段の軌条15である場合と比較して、コイル2を高地側に搬送しようとするコイルカー30の軌条15からコイル受け台35までの距離を短くすることが可能となる。このため、軌条15からコイルカー30のコイル受け台35までの距離を短くすることができるので、コイルカー30の上下方向の重心位置が軌条15に近づくことになり、その分、コイルカー30の走行動作やコイル受け台35の昇降動作を安定させることが可能となる。また、コイルカー30の走行動作やコイル受け台35の昇降動作を安定させることが可能となるので、その分、コイルカー30の動作の不安定化を招くことなくコイルカー30一台当たりのコイル上昇量を増大させて、高いコイル上昇勾配を実現することが可能となる。
【0060】
また、本発明に係るコイル搬送システム1によれば、複数段の軌条15の段差部16に段間共用スキッド20Aを配置することとしているので、複数段の軌条15上を走行する上下段両側のコイルカー30との間でのコイル2の受け渡しを通常スキッド20Bを用いた場合と同様に円滑に行なうことが可能となる。
【0061】
また、本発明に係るコイル搬送システム1によれば、コイル2を上昇させるための第2搬送ライン7を直線状とすることできるので、その第2搬送ライン7に直交する方向に存在する他設備への干渉を抑えつつ、上述のような効果を得ることが可能となる。
【0062】
また、本実施形態に係るコイル搬送システム1によれば、コイルカー30が干渉位置にまで走行した時点でスキッド20との間での干渉の有無を判断し、干渉すると判断した場合にコイル受け台35を昇降させる動作S4、S8のみを実行するように構成されている。このため、コイルカー30によりコイル2を搬送するに際して、コイル受け台35上のコイル2とスキッド20との間での衝突や、コイル受け台35とスキッド20上のコイル2との間での衝突を防止することが可能となる。
【0063】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0064】
例えば、本発明に係るコイル搬送システム1が用いられる搬送ラインは、ダウンコイラ11のマンドレル13により巻き取られたコイル2を地盤面GLまで搬送するものに限定されない。
【実施例1】
【0065】
以下、本発明の効果を実施例により更に説明する。本例では、図1、図2に示すような第2搬送ライン7でのコイル搬送システム1を用いて、コイル上昇勾配が100/1000以上とすることができるかどうか確認することとした。
【0066】
本例では、コイル2として、最大重量27TON、外径1150〜2300mmφ、板幅550〜1580mmのものを用いた。また、コイルカー30として、水平方向の最大走行速度が40mpm(meter per minutes)であり、コイル受け台35の最大昇降速度が4.5mpm(meter per minutes)であるものを用いた。各コイルカー30は、コイル受け台35が図7(a)に示すような経路を通るように設定した。また、図7(a)に示すような、第2搬送ライン7で隣り合うスキッド20の中心位置間の水平方向距離L1は7.2mとし、これらのコイル載置部23c間の高さの差h1は1.1mとし、h1/L1が152/1000となるように設定した。これは、図2に示すような、h0/L0で表されるコイル上昇勾配が152/1000となることを意味している。
【0067】
この結果、搬送サイクルタイムが55秒である条件下で、第1搬送ライン6から第2搬送ライン8にコイル2を搬送する作業を問題なく行うことができた。
【符号の説明】
【0068】
1 :コイル搬送システム
2 :コイル
3 :圧延ライン
6 :第1搬送ライン
7 :第2搬送ライン
8 :第3搬送ライン
11 :ダウンコイラ
13 :マンドレル
15 :軌条
16 :段差部
19 :支柱部材
20 :スキッド
20A :段間共用スキッド
20B :通常スキッド
21 :支柱フレーム
23 :スキッドフレーム
23c :コイル載置部
25 :レールフレーム
30 :コイルカー
31 :台車フレーム
32 :走行車輪
33 :昇降シリンダ
35 :コイル受け台
GL :地盤面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高低差のある搬送ラインに沿って金属帯が巻き回されてなるコイルを搬送するためのコイル搬送システムにおいて、
前記搬送ラインに沿って敷設された軌条と、
前記搬送ラインに沿って間隔を空けて配置され、前記コイルが載置される複数のスキッドと、
前記搬送ラインで隣り合うスキッド間毎に配置され、前記軌条上を走行して前記スキッド内に侵入した後にコイル受け台を昇降させることによりこれらの間で前記コイルを受け渡し可能に構成された複数のコイルカーとを備え、
前記軌条は、前記搬送ラインに段差が設けられるように異なる高さに複数段に亘って敷設され、
前記複数のスキッドは、少なくとも前記複数段の軌条の段差部に配置されているとともに、当該段差部のスキッドがそのスキッド内に侵入する上下段両側のコイルカーとの間で前記コイルを受け渡し可能な段間共用スキッドとして構成されていること
を特徴とするコイル搬送システム。
【請求項2】
前記複数のコイルカーは、前記スキッドとの間で干渉が生じ得る位置にまで走行した時点で干渉の有無を判断し、干渉すると判断した場合には前記コイル受け台を昇降させる動作のみを実行するように構成されていること
を特徴とする請求項1に記載のコイル搬送システム。
【請求項3】
前記複数のコイルカーによって搬送される前記コイルの水平方向のコイル搬送距離(mm)を鉛直方向のコイル搬送高さ(mm)で除した値であるコイル上昇勾配が100/1000以上となるように構成されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載のコイル搬送システム。
【請求項4】
前記複数段の軌条は、前記段間共用スキッド内に侵入する上下段両側のコイルカーが当該段間共用スキッドに前記コイルを載置できる位置まで少なくとも敷設されていること
を特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のコイル搬送システム。
【請求項5】
前記搬送ラインは、地盤面高さより低位置にある圧延ライン出側のダウンコイラーから当該地盤面高さまで前記コイルが搬送されるよう設けられていること
を特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のコイル搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−24809(P2012−24809A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165771(P2010−165771)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】