説明

コイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸及びその製造方法並びに変位センサ

【課題】動きに対する追従性と復元性に優れるとともに、指向性に優れ、コイル状炭素繊維の特性を効率良く発現することができるコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸及びその製造方法並びに変位センサを提供する。
【解決手段】コイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸10は、ポリウレタン系弾性体11中にコイル状炭素繊維12が配向された状態で含有されて構成されている。コイル状炭素繊維12は、ポリウレタン系弾性糸10中に0.5〜15質量%配合され、糸の長さ方向に配向されている。このポリウレタン系弾性糸10は、紡糸原液を用いて乾式紡糸法又は湿式紡糸法にて紡糸することにより製造される。その場合、紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比(B/A)が6〜12に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性機能、電磁波吸収性機能及びセンサ機能等の特性に優れたコイル状炭素繊維を含み、その機能を効率良く発現することができるコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸及びその製造方法並びに変位センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維直径1nm〜10μm及びコイル直径1nm〜100μmのコイル状炭素繊維は、電気的にはコイルの性質を有し、また機械的にはバネの性質を有しているため、電磁波を熱エネルギーに変換でき、外部から作用する応力等の物理的なエネルギーを電気磁気信号に変換できるという機能を具備している。しかしながら、その変換量は非常に微小であるため単体での利用ではなく、樹脂等の異素材に含有させるという形態で利用が図られている。例えば、シリコーンゴムやウレタン樹脂等の誘電損失材にコイル状炭素繊維を6〜8質量部含有させた一定厚さの電磁波吸収シートが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、コイル状炭素繊維をセンサ素子としてシリコーン樹脂等の媒体に含有させ、媒体に電気的に接続されている一対の電極を備えた触覚センサが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。そして、この触覚センサに触圧が加えられると、センサ素子によって触圧が電磁気的変動に変換され、その触圧を検出することができるようになっている。
【特許文献1】特開2000−244177号公報(第2頁及び第3頁)
【特許文献2】特開2005−49332号公報(第2頁及び第7頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されている電磁波吸収シートはフィルム状であるため、機械や装置の可動部分又は衣料用として用いたとき追従性が悪いという欠点がある。また、コイル状炭素繊維がランダムな方向に含有されているため、電磁波吸収の指向性を付与することができないという問題を有している。一方、特許文献2に開示されている触覚センサもコイル状炭素繊維がブロック状のシリコーン樹脂等に含有されているため、例えばヒューマノイドロボットのアーム部分などの変位量の大きな動きに追従できず、押圧されたときの復元性に劣るという欠点を有している。また、コイル状炭素繊維をシリコーン樹脂等の媒体中に含有させる際に生じる剪断力により、しばしばコイル状炭素繊維が破壊されるという問題があった。従って、様々な動きに対する追従性と押圧後の復元性が良好で、かつコイル状炭素繊維の指向性が良く、コイル状炭素繊維の特性を効率良く発現することができる素材の開発が望まれていた。
【0005】
そこで本発明の目的とするところは、動きに対する追従性と復元性に優れるとともに、指向性に優れ、コイル状炭素繊維の特性を効率良く発現することができるコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸及びその製造方法並びに変位センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸は、ポリウレタン系弾性体中に、コイル状炭素繊維が配向された状態で0.5〜15質量%含有されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2に記載の発明のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸は、請求項1に係る発明において、前記コイル状炭素繊維は、糸の長さ方向に配向されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3に記載の発明のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸の製造方法は、コイル状炭素繊維を0.5〜15質量%含有するポリウレタン系弾性糸の紡糸原液を用いて乾式紡糸法又は湿式紡糸法にてコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸を製造する方法であって、紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比(B/A)が6〜12の条件を満たすように紡糸することを特徴とするものである。
【0009】
請求項4に記載の発明の変位センサは、請求項1又は請求項2に記載のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸をセンサ素子とし、該センサ素子に加えられる応力に応じてセンサ素子が変位するように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸は、ポリウレタン系弾性体により構成され、その弾力性に基づいて動きに対する追従性と復元性に優れている。さらに、ポリウレタン系弾性糸中には、コイル状炭素繊維が配向された状態で0.5〜15質量%含有されていることから、指向性に優れ、コイル状炭素繊維の特性を効率良く発現することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸は、コイル状炭素繊維が糸の長さ方向に配向されていることから、請求項1に係る発明の効果に加えて、糸の長さ方向に指向性を発現することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸の製造方法では、紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比(B/A)が6〜12の条件を満たすように紡糸が行われる。このため、紡糸条件として前記比(B/A)を所定範囲に設定するだけで、動きに対する追従性と復元性に優れるとともに、指向性に優れ、コイル状炭素繊維の特性を効率良く発現することができるコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸を容易に製造することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明の変位センサでは、請求項1又は請求項2に記載のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸をセンサ素子としていることから、該センサ素子に加えられる応力に応じてセンサ素子が変位し、変位センサとしての機能を良好に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸(以下、単にポリウレタン系弾性糸ともいう)は、ポリウレタン系弾性体中に、コイル状炭素繊維が配向された状態で0.5〜15質量%含有されて構成されている。すなわち、図1に模式的に示すように、ポリウレタン系弾性糸10は、糸状に形成されたポリウレタン系弾性体11中にコイル状炭素繊維12が糸の長さ方向に配向された状態で分散されて構成されている。
【0015】
ポリウレタン系弾性糸を形成するポリウレタン系弾性体は、その優れた弾性力によってポリウレタン弾性糸の弾性変形及びその復元を可能にするものである。このポリウレタン系弾性体としては、通常の乾式紡糸法又は湿式紡糸法に用いられるものであれば特に限定されるものではない。ポリウレタンは、ポリオールとポリイソシアネートとのウレタン化反応によって得られ、ウレタン結合を有するポリマーである。ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなどが用いられる。ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト(MDI)などが用いられる。ウレタン化反応に際しては、鎖伸張剤(鎖延長剤)を用いることができ、そのような鎖伸張剤としてはエチレンジアミンなどのアミン化合物が挙げられる。ポリウレタンのうち弾性特性の面から、一部に尿素(ウレア)結合を有するポリウレタンポリウレア系樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
コイル状炭素繊維は、炭素によって微小なコイル状に形成され、そのコイル形状に基づいて導電性機能、電磁波吸収性機能、センサ機能等の特性を発現することができる材料である。係るコイル状炭素繊維としては、繊維直径1nm〜10μm、コイル直径1nm〜100μmのシングルコイル(一重巻き)状、又はダブルコイル(二重巻き)状であれば特に限定されるものではなく、コイルの巻き方向及び長さ方向での巻数についても限定されない。但し、コイル長が150μmを越えるとコイル状炭素繊維が相互に交絡し、ポリウレタン系弾性体内での分散性が低下し、糸斑の増加や、紡糸での糸切れを招くため、コイル長は150μm以下であることが好ましい。
【0017】
ポリウレタン系弾性体に配合されるコイル状炭素繊維の含有量は、ポリウレタン弾性糸中に0.5〜15質量%であることが必要である。コイル状炭素繊維の含有量が0.5質量%未満の場合には、コイル状炭素繊維に基づく導電性、電磁波吸収性、センサ機能等の機能を果たすことができなくなる。その一方、15質量%を越える場合には、糸斑の増加や、紡糸時の糸切れ、ポリウレタン系弾性糸の基本物性の低下などが起きるため不適当である。
【0018】
このようなポリウレタン系弾性糸は、コイル状炭素繊維を0.5〜15質量%含有するポリウレタン系弾性糸の紡糸原液を用いて乾式紡糸法又は湿式紡糸法にて紡糸することにより製造される。その場合、紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比(B/A)が6〜12の条件を満たすように紡糸が行われる。ここで、乾式紡糸法は、紡糸原液を紡糸ノズルから吐出し、熱風により溶剤を気化させて糸を形成する方法であり、湿式紡糸法は、紡糸原液を紡糸ノズルから凝固浴中に吐出して凝固させることにより糸を形成する方法である。
【0019】
前記紡糸原液を調製するに当たり、コイル状炭素繊維をポリウレタン系弾性体に含有させる方法としては、紡糸前のポリウレタン系弾性体のN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の溶剤(有機溶剤)溶液に、コイル状炭素繊維を斑なく分散するよう攪拌、混合処理する方法が採用される。この場合、コイル状炭素繊維も予め溶剤(有機溶剤)に分散させた分散液としておくことが望ましい。その際、コイル状炭素繊維の分散性を高めるための分散剤を添加しても良い。また、コイル状炭素繊維を予め上記の溶剤に均一分散させてから、ポリウレタン系弾性体溶液と混合処理しても良い。
【0020】
乾式紡糸法又は湿式紡糸法において、前記のように紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されるポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比(B/A)が6〜12の条件を満たすことが必要である。そのような条件を満たすことにより、コイル状炭素繊維の破壊が少なく、コイル状炭素繊維の配向性に優れたコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸を得ることができる。上記比(B/A)が6未満の場合には、紡糸時にポリウレタン系弾性糸の伸びが不足し、コイル状炭素繊維の配向ができなくなる。逆に、比(B/A)が12を越える場合には、紡糸時にポリウレタン系弾性糸が過度に引き伸ばされ、その内部に分散されているコイル状炭素繊維が破壊される。
【0021】
ここでAは、関係式A=B÷(C/100)÷((D/2)×π×N)で表される。但し、Cは紡糸原液中の固形分濃度(質量%)、Dは紡糸ノズルの吐出孔の直径(mm)、Nは吐出孔の数を表す。従ってB/Aは、紡糸原液中の固形分濃度C、吐出面積(孔径D、孔数N)によってAを変化させることにより調整できるが、紡糸原液中の固形分濃度は可紡性の面で許容範囲が狭いため、吐出面積(孔径D、孔数N)によって調整するのが好ましい。但し、ポリウレタン系弾性糸の単糸繊度が10デシテックス(Dtex)に満たないと糸切れしやすくなり、25デシテックスを越えると溶剤が十分に除かれず、糸に残留するので、単糸繊度が10〜25デシテックスになるよう孔径Dと孔数Nを調整することが望ましい。従って、ポリウレタン系弾性糸の繊度は、単糸が10〜25デシテックスからなるモノフィラメント又は10〜2500デシテックスのマルチフィラメントとすることが好ましい。
【0022】
また、紡糸原液には必要に応じて耐光剤、紫外線吸収剤、ガス変色防止剤、顔料、活性剤、艶消剤、膠着防止剤等を配合することができる。さらに、ポリウレタン系弾性糸を膠着防止剤で表面処理することもできる。そして、紡糸後直ちに紙管に巻き取られるが、その巻き形状及び巻き量等は特に限定されるものでない。
【0023】
前記コイル状炭素繊維は、ポリウレタン系弾性糸中で配向されることが必要であり、配向されることによってコイル状炭素繊維のもつ導電性機能、電磁波吸収性機能、センサ機能等の特性を発揮することができる。ポリウレタン系弾性糸を乾式紡糸法又は湿式紡糸法によって製造する場合には、コイル状炭素繊維はポリウレタン系弾性糸中で糸の長さ方向(糸の軸方向)に配向される。そのため、コイル状炭素繊維のもつ特性を糸の長さ方向に選択的に発現させることができる。
【0024】
上述したポリウレタン系弾性糸はコイル状炭素繊維を含有することから、コイル状炭素繊維のもつ導電性機能、電磁波吸収性機能、センサ機能等の特性を利用して電気分野、機械分野など広範囲の用途に使用することができる。例えば、ポリウレタン系弾性糸をセンサ素子とし、該センサ素子に加えられる応力に応じてセンサ素子が変位するように構成されている変位センサとして好適に使用することができる。
【0025】
さて、本実施形態の作用を説明すると、ポリウレタン系弾性糸は、ポリウレタン系弾性体による弾力性に基づいて、応力が加えられたときにはその応力に追従し、応力が取り除かれたときには元の状態に復元する。ポリウレタン系弾性糸中に含まれるコイル状炭素繊維は、そのコイル形状によって伸縮可能である。そのため、コイル状炭素繊維は、ポリウレタン系弾性体の変形に伴って伸縮することができる。
【0026】
また、ポリウレタン系弾性糸中のコイル状炭素繊維は配向されていることから、その配向方向にコイル状炭素繊維に基づく特性が発現される。しかも、コイル状炭素繊維の含有量がポリウレタン系弾性糸中0.5〜15質量%に設定されていることから、ポリウレタン系弾性糸の物性を損なうことなく、コイル状炭素繊維の特性を発現することができる。
【0027】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 実施形態におけるコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸は、ポリウレタン系弾性体により構成され、その弾力性によって動きに対する追従性と復元性に優れている。このため、糸形成時(紡糸時)における延伸に対するコイル状炭素繊維の破壊を抑制することができる。特に、ポリウレタン弾性体がその長さ方向に伸張又は復元したときに、ポリウレタン系弾性体と同期しながらコイル状炭素繊維のコイルピッチ(巻線間隔)をバネ状に変動することが可能となるため、可動部分に用いた場合でもコイル状炭素繊維が破損することなくその機械的特性と電気的特性を効率的に発現することができる。加えて、べースがポリウレタン系弾性体であるため最終的な形状を自由に選択することができ、かつ可動部分に用いたときの追従性に優れている。
【0028】
さらに、ポリウレタン系弾性糸中には、コイル状炭素繊維が配向された状態で0.5〜15質量%含有されて構成されていることから、指向性に優れ、コイル状炭素繊維の特性を効率良く発現することができる。
【0029】
・ 前記コイル状炭素繊維が糸の長さ方向に配向されることにより、コイル状炭素繊維の特性について糸の長さ方向に指向性を発現することができる。
・ ポリウレタン系弾性糸は、紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比(B/A)が6〜12の条件を満たすように紡糸されて製造される。このため、紡糸条件として前記比(B/A)を所定範囲に設定するだけで、動きに対する追従性と復元性に優れるとともに、指向性に優れ、コイル状炭素繊維の特性を効率良く発現することができるポリウレタン系弾性糸を容易に製造することができる。
【0030】
・ 前記ポリウレタン弾性糸を用いた変位センサではポリウレタン系弾性糸をセンサ素子としていることから、該センサ素子に加えられる応力に応じてセンサ素子が変位し、変位センサとしての機能を良好に発揮することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。なお、部は質量部を示し、コイル状炭素繊維の配向と破壊の有無、繊度、弾性特性、繊度斑(糸斑)は以下の方法により評価した。
<コイル状炭素繊維の配向と破壊の有無>
コイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸の側面をマイクロスコープにより倍率100倍で観察し、コイル状炭素繊維の配向と破壊の有無を確認した。併せて伸張回復時のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸のコイルの状態を光学顕微鏡により観察した。
<繊度、弾性特性>
日本化学繊維協会発行(昭和53年10月)の「ポリウレタンフィラメント糸試験方法」により、繊度(Dtex)、破断時の引張強さ(cN/Dtex)及びそのときの伸度(%)、300%伸長時の引張強さ(cN/Dtex)を測定し、単糸繊度(Dtex)は繊度÷フィラメント数より算出した。
<繊度斑(糸斑)評価>
イーブネステスタ(KET−80II/C、計測測器工業株式会社製)にて試料のポリウレタン弾性糸を2倍に伸張した状態で連続走行させ、走行速度:50m/分、測定時間:1分間の条件下に、ノ−マルモードで繊度変動率(CV(%))を計測した。
(実施例1〜4及び比較例1〜4)
数平均分子量1975のポリオキシテトラメチレングリコ−ル3316部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト684部を45℃にて混合した後、80℃にて80分間反応させて、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマ−4000部を得た。これとは別に、鎖伸長剤としてエチレンジアミン59部と末端停止剤としてジエチルアミン10部を、0℃に冷やしたN,N−ジメチルアセトアミド135部に加えて良く撹拌し、鎖伸長剤と末端停止剤の混合溶液を得た。
【0032】
次に、先に得たウレタンプレポリマ−4000部に、0℃に冷やしたN,N−ジメチルアセトアミド7765部を加え、良く撹拌した。その後、ウレタンプレポリマ−のイソシアネ−ト基に対して、鎖伸長剤と末端停止剤の活性水素基の合計が等モルとなるように鎖伸長剤と末端停止剤の混合溶液を添加して反応させ、固形分34.0質量%のポリウレタン(ポリウレタンポリウレア)のN,N−ジメチルアセトアミド溶液11800部を得た。
【0033】
一方、繊維直径0.01〜1μm、コイル直径1〜10μm、コイル長90〜150μmのダブルコイル状のコイル状炭素繊維(シーエムシー技術開発(株)製)40部を予めN,N−ジメチルアセトアミドに34.0質量%となるように分散させてコイル状炭素繊維の分散液を得た。そして、前記ポリウレタンのN,N−ジメチルアセトアミド溶液約11800部に対し、コイル状炭素繊維の分散液を糸中のコイル状炭素繊維の含有率が1質量%となるように加え、十分攪拌混合したものを紡糸原液とし、表1に示す孔径及び孔数の紡糸ノズルから熱風中に吐出して乾式紡糸を行った。
【0034】
この場合、実施例1〜4及び比較例1〜4において、紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比であるB/Aを表1に示すように設定した。次いで、仮撚りした後に、10%伸張しながら紙管に幅42mmで夫々巻き取り、繊度約22Dtex、糸巻量15gのコイル状炭素繊維含有ポリウレタン弾性糸を得た。なお、このときの紡糸速度は、750m/分とした。
【0035】
得られた夫々のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸について、コイル状炭素繊維の配向と破壊の有無、単糸繊度、弾性特性(破断時の引張強さ、伸度、伸長時の引張強さ)、繊度斑及び糸切れを測定し、それらの結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

表1に示したように、比較例1及び3では、比B/Aが6よりも小さいため、コイル状炭素繊維の配向が不足し、比較例2及び4では比B/Aが12を越えているので、コイル状炭素繊維の破壊が確認された。これに対し、実施例1〜4においては比B/Aが6〜12の範囲にあるため、コイル状炭素繊維が破壊することなく、配向性も十分に保たれた状態で、繊度斑や弾性特性も良好で、糸切れも発生することはなかった。
(実施例5〜7及び比較例5、6)
実施例1と同様の操作により得た固形分34.0質量%のポリウレタンのN,N−ジメチルアセトアミド溶液1800部に対し、実施例1と同様のコイル状炭素繊維のN,N−ジメチルアセトアミド34.0質量%分散液を、コイル状炭素繊維が表2に示す糸中の含有量となるように加え、十分攪拌混合したものを紡糸原液とした。そして、紡糸原液を紡糸ノズルから熱風中に吐出して乾式紡糸し、仮撚りした後に、10%伸張しながら紙管に幅42mmで夫々巻き取り、繊度約310Dtex、糸巻量200gのコイル状炭素繊維含有ポリウレタン弾性糸を得た。なお、紡糸速度は、600m/分に設定した。
【0037】
得られた夫々のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸について、コイル状炭素繊維の配向と破壊の有無、単糸繊度、弾性特性(破断時の引張強さ、伸度、伸長時の引張強さ)、繊度斑及び糸切れを測定し、それらの結果を表2に示した。
【0038】
【表2】

表2に示したように、比較例6ではコイル状炭素繊維の配向性は認められるものの、その含有率が15質量%を越えているので、繊度斑が大きく、物性も劣り、糸切れも多い。これに対し、実施例5〜7においてはコイル状炭素繊維が配向し、コイル状炭素繊維の含有率が高い程、物性は低下傾向にあるものの許容範囲にあり、繊度斑も少なく、糸切れはないことが分かる。なお、比較例5では、コイル状炭素繊維が配向し、物性の劣化も少なく、繊度斑も少ないが、コイル状炭素繊維の含有率が低過ぎるため、コイル状炭素繊維の特性を発揮することができない。
(実施例8、湿式紡糸法による製造)
数平均分子量1975のポリオキシテトラメチレングリコ−ル3316部、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト684部を45℃にて混合した後、80℃にて80分間反応させて、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマ−4000部を得た。これとは別に、鎖伸長剤としてエチレンジアミン59部と末端停止剤としてジエチルアミン10部を、0℃に冷やしたN,N−ジメチルアセトアミド135部に加えて良く撹拌し、鎖伸長剤と末端停止剤の混合溶液を得た。
【0039】
次に、前記ウレタンプレポリマ−4000部に、0℃に冷却したN,N−ジメチルアセトアミド16000部を加え、良く撹拌した。その後、ウレタンプレポリマ−のイソシアネ−ト基に対して、鎖伸長剤と末端停止剤の活性水素基の合計が等モルとなるように鎖伸長剤と末端停止剤の混合溶液を添加して反応させ、固形分20.0質量%のポリウレタン(ポリウレタンポリウレア)のN,N−ジメチルホルムアミド溶液20000部を得た。
【0040】
一方、繊維直径0.01〜1μm、コイル直径1〜10μm、コイル長90μm以下のダブルコイル状のコイル状炭素繊維(シーエムシー技術開発(株)製)40部を予めN,N−ジメチルホルムアミドに20.0質量%となるように分散させてコイル状炭素繊維の分散液を得た。そして、前記ポリウレタンのN,N−ジメチルホルムアミド溶液20000部に対し、コイル状炭素繊維の分散液を糸中のコイル状炭素繊維の含有率が1質量%となるように加え、十分攪拌混合したものを紡糸原液とし、表2に示す孔径及び孔数の紡糸ノズルから熱水中に吐出して湿式紡糸を行った。
【0041】
この場合、紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比であるB/Aを表2に示すように設定した。次いで、得られた糸を仮撚りした後に、10%伸張しながら紙管に幅42mmで夫々巻き取り、繊度約78Dtex、糸巻量15gのコイル状炭素繊維含有ポリウレタン弾性糸を得た。なお、このときの紡糸速度は、300m/分とした。その結果、湿式紡糸法によって製造されたコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸は、弾性糸として十分に良好な物性を有するものであった。
(実施例9)
実施例1の製造方法にてコイル状炭素繊維を1質量%含有させたコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸について、伸張前及びこれを長さ方向に元の長さに対して伸び率100%まで伸張したときの図をそれぞれ図2(a)及び図2(b)に示す。図2(a)のポリウレタン系弾性糸10ではコイル状炭素繊維12がポリウレタン系弾性体11の中に破壊が防止され、かつ糸の長さ方向に配向されて含有されていることが確認できる。図2(b)のポリウレタン系弾性糸10では、コイル状炭素繊維12がポリウレタン系弾性体11の伸張に追随してコイルがほぼ2倍に伸張していることが確認できる。なお、伸張時の負荷を除いて回復操作を行うことにより、コイル状炭素繊維12及びポリウレタン系弾性体11は図2(a)に示す元の状態に復元する。
(実施例10、変位センサとしての利用)
実施例1と同様の製造方法で製造され、実施例1で使用したコイル状炭素繊維を1質量%含有し、糸の撚本数が20本のポリウレタン弾性糸(A−20)及びコイル状炭素繊維を含有せず、糸の撚本数が20本のポリウレタン弾性糸(B−20)を用意した。
【0042】
そして、電極間距離を3mmに固定した銅板製の電極(厚さ1mm)間に橋渡しするように上記3種類のポリウレタン弾性糸を架設した。その後、木製の棒によりポリウレタン弾性糸を伸張させ、そのときのポリウレタン弾性糸のインピーダンス変化を測定した。但し、ポリウレタン弾性糸の長さが10、15、20、25及び30mmにおけるインピーダンスを測定した。インピーダンスの変化量は、インピーダンスアナライザーを用い、周波数200kHzで測定した。
【0043】
その結果、ポリウレタン弾性糸(A−20)については、図3に示すように、糸の長さ(伸張量)が長くなるに従ってインピーダンスの増大が見られ(線形の変化)、ポリウレタン弾性糸を変位センサとして使用できることが確認された。これに反し、ポリウレタン弾性糸(B−20)については、糸の伸張に対してインピーダンスの変化が見られなかった。
【0044】
なお、前記実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。
・ ポリウレタン系弾性体として、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタンゴムなどを使用することもできる。
【0045】
・ コイル状炭素繊維として、長さ、コイルの直径、線径、巻き形態等の異なるものを複数組み合わせて用いることもできる。
・ ポリウレタン弾性糸中におけるコイル状炭素繊維の配向は糸の長さ方向に限られず、例えば磁場、電場などを利用して任意の方向に配向させることもできる。
【0046】
・ コイル状炭素繊維として、コイルの直径が大きく、線径が小さく、弾力性がより大きい超弾性コイルを用いることができる。
さらに、前記実施形態より把握される技術的思想について以下に記載する。
【0047】
・ 前記ポリウレタン系弾性体は、ポリウレタンポリウレア系樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸。このように構成した場合、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加えて、ポリウレタン系弾性糸の弾性特性を向上させることができる。
【0048】
・ 前記紡糸原液は、ポリウレタン系弾性体の有機溶剤溶液とコイル状炭素繊維の有機溶剤分散液との混合液であることを特徴とする請求項3に記載のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸の製造方法。このように構成した場合、請求項3に係る発明の効果に加えて、ポリウレタン系弾性体中におけるコイル状炭素繊維の分散性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施形態におけるコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸を模式的に示す説明図。
【図2】(a)はポリウレタン系弾性糸の伸張前の状態を顕微鏡で観察した結果を示す説明図、(b)はポリウレタン弾性糸の100%伸縮後における状態を顕微鏡で観察した結果を示す説明図。
【図3】ポリウレタン弾性糸の長さとインピーダンスとの関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0050】
10…ポリウレタン系弾性糸、11…ポリウレタン系弾性体、12…コイル状炭素繊維。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン系弾性体中に、コイル状炭素繊維が配向された状態で0.5〜15質量%含有されていることを特徴とするコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸。
【請求項2】
前記コイル状炭素繊維は、糸の長さ方向に配向されていることを特徴とする請求項1に記載のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸。
【請求項3】
コイル状炭素繊維を0.5〜15質量%含有するポリウレタン系弾性糸の紡糸原液を用いて乾式紡糸法又は湿式紡糸法にてコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸を製造する方法であって、
紡糸ノズルから吐出される紡糸原液の線速度A(m/min)に対する紡糸されたポリウレタン系弾性糸の巻き取り速度B(m/min)の比(B/A)が6〜12の条件を満たすように紡糸することを特徴とするコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のコイル状炭素繊維含有ポリウレタン系弾性糸をセンサ素子とし、該センサ素子に加えられる応力に応じてセンサ素子が変位するように構成されていることを特徴とする変位センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−197849(P2007−197849A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15551(P2006−15551)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【出願人】(000005359)富士紡ホールディングス株式会社 (180)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(399054000)シーエムシー技術開発 株式会社 (23)
【Fターム(参考)】