説明

コイル用冷却構造

【課題】簡単且つコンパクトな構成で、コイルの冷却効率を向上させることができ、前記コイルに流れる最大電流値を良好に増大させることを可能にする。
【解決手段】コイル用冷却構造は、コア28に巻回される第1及び第2コイル30a、30bを有するリアクトル22と、前記リアクトル22を収容するリアクトル用ケーシング24とを備える。第1及び第2コイル30a、30bとリアクトル用ケーシング24との間に形成される断面略三角形状の空間42には、内部に冷却媒体を流すための通路46が形成された冷却部44が配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、インバータの平滑回路用コイルを冷却するためのコイル用冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池を自動車等の車両に搭載した燃料電池車両では、燃料電池から出力されるDC電圧がDC−DCコンバータにより調整された後、インバータによって三相交流に変換される。次いで、三相交流電力が三相モータに供給されることにより、この三相モータに連結されている車輪が回転駆動され、燃料電池車両が走行される。
【0003】
上記のDC−DCコンバータでは、通常、大電流を処理するために平滑用コイルの発熱が大きくなり易い。このため、例えば、平滑用コイルに近接して配置されているスイッチング素子は、熱に影響されて誤動作するおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1に開示されている大電流平滑用の平滑コイルは、図6に示すように、フェライト製のコア1、コイル2、放熱板3、板ばね4及び熱伝導シート5を有している。コア1は、コ字型コア1aとI字コア1bとを有しており、前記I字コア1bは、前記コ字型コア1aの両脚部に密接している。
【0005】
コイル2は、平角導体線を螺旋状に予め成形した単層巻きコイルであり、I字コア1bに嵌装されている。このコイル2の各端部は、熱伝導シート5を介してI字コア1bの平坦表面及び放熱板3の平坦表面に密着している。
【0006】
このような構成において、コイル2は、大電流が流れることにより抵抗損失により発熱するが、放熱板3及びコア1の両方によって伝熱冷却される。従って、コイル2が高温になることがなく、前記コイル2近傍の半導体素子(図示せず)が熱的に悪影響を受けることを抑止することができる、としている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−208521号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記の特許文献1では、コイル2の発熱を伝熱冷却するために、アルミ平板からなる放熱板3を用いており、この放熱板3を介して、前記コイル2を良好に冷却(空冷)するためには、該放熱板3を相当に大型に構成する必要がある。これにより、平滑コイル全体が大型化し、この平滑コイルを組み込む各種装置全体をコンパクトに構成することが困難になるという問題がある。
【0009】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単且つコンパクトな構成で、
コイルの冷却効率を向上させることができ、前記コイルに流れる最大電流値を良好に増大させることが可能なコイル用冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、コアに巻回される円形状の第1及び第2コイルと、前記第1及び第2コイルを収容するケーシングと、前記第1及び第2コイルと前記ケーシングとの間に形成される断面略三角形状の空間に配設され、内部に冷却媒体通路が形成される冷却部材とを備えている。
【0011】
また、本発明は、コアに巻回される円形状の第1及び第2コイルと、前記第1及び第2コイルを収容する第1ケーシングと、スイッチング素子を収容するとともに、前記第1ケーシングの外側に配設される第2ケーシングと、前記第1及び第2コイルと前記第1ケーシングとの間に形成される断面略三角形状の空間に配設され、内部に冷却媒体通路が形成される冷却部材とを備えている。
【0012】
さらに、第1及び第2コイルと冷却部材との間に配設される伝熱部材を備えることが好ましい。伝熱部材は、例えば、絶縁伝熱シート体で構成される。これにより、第1及び第2コイルの冷却効率が有効に向上する。
【0013】
さらにまた、冷却媒体通路に供給される冷却媒体は、車両駆動系を冷却するための冷却液を共用することが好ましい。車両駆動系を冷却するための放熱部を利用することにより、第1及び第2コイルの冷却効率が一層向上するからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1及び第2コイルとケーシングとの間に形成される断面略三角形状の空間、すなわち、通常、デッドスペースとなっている空間に、冷却媒体通路が設けられるため、冷却構造によって外形寸法が増大することがない。しかも、第1及び第2コイルは、冷却媒体通路を流れる冷却媒体を介して良好に冷却され、前記第1及び第2コイルの冷却効率が大幅に向上する。
【0015】
これにより、簡単且つコンパクトな構成で、第1及び第2コイルに流れる最大電流値を良好に増大させること可能になる。
【0016】
さらに、第1及び第2コイルが収容される第1ケーシングは、スイッチング素子が収容される第2ケーシングの外側に配設されるため、このスイッチング素子に前記第1及び第2コイルの熱が伝わることを阻止することができる。従って、スイッチング素子は、過熱による誤動作を有効に防止することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るコイル用冷却構造が採用される燃料電池システム10の概略構成説明図である。
【0018】
燃料電池システム10は、燃料電池12を備えている。この燃料電池12は、図示していないが、例えば、固体高分子電解質膜をアノード側電極とカソード側電極とで挟持した電解質膜・電極構造体を備え、前記電解質膜・電極構造体とセパレータとを交互に積層したスタックとして構成されている。
【0019】
燃料電池システム10は、燃料電池12の発電電圧を降圧するためのコンバータ部14と、前記コンバータ部14から出力される直流電力を、三相交流電力に変換するインバータ部16と、前記三相交流電力が供給されるモータ18とを備え、これらが制御回路(PCU)20により駆動制御される。
【0020】
コンバータ部14では、トランジスタ(スイッチング素子)Tr1、Tr2がスイッチングされることにより、リアクトル22の出力端子に高電流が誘起され、インバータ部16のトランジスタ(スイッチング素子)Tr3〜Tr8が三相スイッチングされることによって、モータ18が三相交流電力により駆動される。このモータ18は、例えば、燃料電池車両を走行させるための駆動源として使用される。
【0021】
図2に示すように、リアクトル22は、例えば、アルミニウム製(アルミ合金鋳物)のリアクトル用ケーシング(第1ケーシング)24に収容された状態で、PCU用ケーシング(第2ケーシング)26に装着される。このPCU用ケーシング26は、制御回路20の他、コンバータ部14及びインバータ部16を構成するトランジスタTr1〜Tr8を収容している。
【0022】
図3及び図4に示すように、リアクトル22は、コア28の互いに平行する両側部に巻回される円形状の第1及び第2コイル30a、30bを備える。リアクトル22は、伝熱部材、例えば、絶縁伝熱シート32を介装してリアクトル用ケーシング24に収容される。絶縁伝熱シート32は、例えば、エチレンプロピレンジ−モノマー(EPDM)が母材の合成ゴムにより構成される。リアクトル22には、絶縁伝熱シート32とは反対側にスペーサー34a、34bを介装して固定ステイ36a、36bが配設される。固定ステイ36a、36bに設けられているボルト38が、リアクトル用ケーシング24のねじ孔40に嵌合されることにより、リアクトル22が前記リアクトル用ケーシング24に装着される。
【0023】
リアクトル用ケーシング24には、第1及び第2コイル30a、30bとこのリアクトル用ケーシング24との間に形成される断面略三角形状の空間42に対応して冷却部(冷却部材44)が設けられる。この冷却部44内には、冷却媒体、例えば、水、LLC(ロングライフクーラント)又は油等の冷却液を流すための通路(冷却媒体通路)46が形成され、前記冷却部44の下部には、入口配管48が接続されるとともに、前記冷却部44の上部には、出口配管50が接続される。
【0024】
図5に示すように、入口配管48及び出口配管50は、燃料電池車両の駆動系を冷却するための冷却系52に接続される。この冷却系52は、冷却液(LLC40%)が用いられており、ポンプ54を介して前記冷却液が循環される循環路56を設ける。循環路56には、例えば、モータ18が配設されてこのモータ18の冷却を行う一方、温まった冷却液から放熱を行うためのラジエータ(放熱器)58が配設されている。循環路56には、PCU用ケーシング26内を冷却するための配管60が設けられている。
【0025】
このように構成されるコイル用冷却構造では、燃料電池システム10の運転により燃料電池12からの発電電圧がコンバータ部14により降圧され、所定の大電流が得られる。この大電流は、コンバータ部14からインバータ部16に出力されるため、前記インバータ部16では、直流電力が三相交流電力に変換されてモータ18に供給され、このモータ18の動作用下に、図示しない燃料電池車両の走行が可能になる。
【0026】
その際、燃料電池車両では、図5に示すように、車両駆動系である、例えば、モータ18の冷却系52のポンプ54が駆動されている。このため、循環路56に沿って冷却液が循環され、モータ18等を冷却するとともに、冷却処理によって高温となった冷却液は、ラジエータ58により冷却されて、再度、モータ18に送られる。
【0027】
循環路56には、配管60が設けられてPCU用ケーシング26内の冷却が行われるとともに、入口配管48に冷却液が導入される。従って、この冷却液は、リアクトル用ケーシング24の冷却部44内に形成されている通路46に供給される。そして、冷却液は、通路46を下方から上方に向かって移動しながら、リアクトル22を構成する第1及び第2コイル30a、30bを冷却した後、出口配管50から循環路56に戻される。
【0028】
この場合、本実施形態では、図4に示すように、リアクトル22を構成する第1及び第2コイル30a、30bと、リアクトル用ケーシング24との間に形成される断面略三角形状の空間42、すなわち、通常、デッドスペースとなっている空間42に、通路46が設けられている。このため、第1及び第2コイル30a、30bを、例えば、空冷により冷却するための放熱部材(ヒートシンク)を外方に突出して設ける必要がなく、リアクトル22の外形寸法が増大することを可及的に阻止することができる。
【0029】
しかも、第1及び第2コイル30a、30bは、通路46を流れる冷却液を介して良好に冷却される。従って、第1及び第2コイル30a、30bの冷却効率が大幅に向上する。
【0030】
これにより、本実施形態では、簡単且つコンパクトな構成で、第1及び第2コイル30a、30bに流れる最大電流値を良好に増大させることが可能になるという効果が得られる。
【0031】
さらに、第1及び第2コイル30a、30bと、冷却部44との間には、伝熱部材として絶縁伝熱シート32が介装されている。このため、第1及び第2コイル30a、30bの冷却効率が一層有効に向上するという利点がある。
【0032】
さらにまた、冷却部44の通路46には、車両駆動系を冷却するための冷却液が供給されている。従って、図5に示すように、リアクトル22を冷却するための冷却液は、循環路56に沿って循環供給されており、放熱性能の大きなラジエータ58を利用することができ、第1及び第2コイル30a、30bの冷却効率がより一層向上するという効果がある。
【0033】
また、リアクトル22を収容するリアクトル用ケーシング24は、スイッチング素子であるトランジスタTr1〜Tr8を収容するPCU用ケーシング26の外側に配設されている。これにより、第1及び第2コイル30a、30bの放熱がスイッチング素子に伝わることを有効に阻止することができ、前記スイッチング素子の誤動作を確実に防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るコイル用冷却構造が採用される燃料電池システムの概略構成説明図である。
【図2】前記コイル用冷却構造を構成するPCU用ケーシングにリアクトル用ケーシング24が装着された状態の斜視説明図である。
【図3】前記リアクトル用ケーシング及びリアクトルの分解斜視説明図である。
【図4】前記リアクトル用ケーシング及び前記リアクトルの断面説明図である。
【図5】前記コイル用冷却構造に送られる冷却液を循環させる冷却系の説明図である。
【図6】特許文献1に係る大電流平滑用の平滑コイルの説明図である。
【符号の説明】
【0035】
10…燃料電池システム 12…燃料電池
14…コンバータ部 16…インバータ部
18…モータ 20…制御回路
22…リアクトル 24…リアクトル用ケーシング
26…PCU用ケーシング 28…コア
30a、30b…コイル 32…絶縁伝熱シート
48…入口配管 50…出口配管
60…配管
Tr1〜Tr8…トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアに巻回される円形状の第1及び第2コイルと、
前記第1及び第2コイルを収容するケーシングと、
前記第1及び第2コイルと前記ケーシングとの間に形成される断面略三角形状の空間に配設され、内部に冷却媒体通路が形成される冷却部材と、
を備えることを特徴とするコイル用冷却構造。
【請求項2】
コアに巻回される円形状の第1及び第2コイルと、
前記第1及び第2コイルを収容する第1ケーシングと、
スイッチング素子を収容するとともに、前記第1ケーシングの外側に配設される第2ケーシングと、
前記第1及び第2コイルと前記第1ケーシングとの間に形成される断面略三角形状の空間に配設され、内部に冷却媒体通路が形成される冷却部材と、
を備えることを特徴とするコイル用冷却構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の冷却構造において、前記第1及び第2コイルと前記冷却部材との間に配設される伝熱部材を備えることを特徴とするコイル用冷却構造。
【請求項4】
請求項1又は2記載の冷却構造において、前記冷却媒体通路に供給される冷却媒体は、車両駆動系を冷却するための冷却液を共用することを特徴とするコイル用冷却構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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