コイル装置、磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル、その製造方法、及び磁気共鳴イメージング装置
【課題】本発明は、導体薄板の面積を十分に確保しつつ、通電電流の偏流及び渦電流の発生を抑制することを目的とするものである。
【解決手段】第1のxメインコイル22aとしては、導体薄板からなる薄板コイルを湾曲させたものが用いられている。第1のxメインコイル22aは、渦巻状の導体部分23により構成されている。径方向に隣接する導体部分23のターン間には、渦巻状のターン間隙間24が形成されている。ターン間隙間24は、電流の方向に沿う線分と、電流の方向に直角な線分とが交互に接続された矩形波状である。即ち、ターン間隙間24は、導体部分23に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
【解決手段】第1のxメインコイル22aとしては、導体薄板からなる薄板コイルを湾曲させたものが用いられている。第1のxメインコイル22aは、渦巻状の導体部分23により構成されている。径方向に隣接する導体部分23のターン間には、渦巻状のターン間隙間24が形成されている。ターン間隙間24は、電流の方向に沿う線分と、電流の方向に直角な線分とが交互に接続された矩形波状である。即ち、ターン間隙間24は、導体部分23に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられている導体薄板製のコイル本体を有するコイル装置、そのコイル装置を用いた磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル、その傾斜磁場コイルの製造方法、及びその傾斜磁場コイルを有する磁気共鳴イメージング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRI装置(磁気共鳴イメージング装置)は、被検者、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR(核磁気共鳴)信号を計測し、頭部、腹部、四肢等の形態や機能を二次元的又は三次元的に画像化する装置である。撮影において、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードが付与される。時系列データとして計測されたNMR信号は、二次元又は三次元フーリエ変換されることにより、画像に再構成される。
【0003】
このようなMRI装置において、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイルは、静磁場を発生する超電導磁石に接近して設置されている。このため、傾斜磁場が時間変化する際には、超電導磁石の熱シールド板、ヘリウム容器及び外壁等の導体に渦電流が生じる。この渦電流による磁場は、被検者の配置される空間において、傾斜磁場を空間的、時間的に変化させる。このため、渦電流が生じると、画質や局所的なスペクトル性能が劣化してしまう。
【0004】
これに対して、従来、渦電流を抑制しつつ、高速な傾斜磁場スイッチング特性を有する傾斜磁場コイルのコイルパターン設計法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、被検者が入る空間を広くすることが求められている一方で、静磁場を発生させる磁石は設置位置の制約からできる限り小さくすることが求められている。このため、傾斜磁場コイルは小型・薄型化することが望まれており、従来のMRI装置では、銅又はアルミニウム等からなる導体薄板を加工した薄板コイルが傾斜磁場コイルとして用いられている。
【0006】
このような薄板コイルは、導体薄板に渦巻状のパターン加工(レーザ加工又はウォータージェット加工)を施した後、ロール機等で円筒又は楕円筒形状に曲げ加工を施すことにより製造される。また、このような従来の傾斜磁場コイルにおいて、渦電流による発熱と、通電するパルス状の大電流による発熱とを抑制する方法として、高磁場領域におけるコイル導体幅を低磁場領域におけるコイル導体幅よりも狭くする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−84716号公報
【特許文献2】特開2009−183386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来の導体薄板からなる傾斜磁場コイルでは、パルス状の大電流を印加した際に生じる磁場が交差すると、渦電流が生じ、温度が上昇する問題が生じる。また、この渦電流は、特に高速撮像時における画質悪化の原因にもなる。
【0009】
このような渦電流を抑制するためには、コイル導体幅を狭め、電流の通電可能な幅を制限することが有効である。また、コイル導体幅を狭めることは、電流の偏流を抑制するという点からも有効である。
【0010】
しかし、単にターン間隙間を大きくしてコイル導体幅を狭くすると、導体薄板の面積が減少するため、ロール機を用いて曲げ加工を行う際に、ロール機と導体薄板との接触面積が小さくなり、導体薄板に力が充分かつ均等に伝わらず、変形が生じるなど曲げ精度が悪化し、これによる製作誤差が生じるという問題があった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、導体薄板の面積を十分に確保しつつ、通電電流の偏流及び渦電流の発生を抑制することができるコイル装置、そのコイル装置を用いた磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル、その傾斜磁場コイルの製造方法、及びその傾斜磁場コイルを有する磁気共鳴イメージング装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るコイル装置は、導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備え、ターン間隙間の少なくとも一部分は、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
また、この発明に係る磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルは、湾曲された導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備え、ターン間隙間の少なくとも一部分は、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
また、この発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、湾曲された導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を有する傾斜磁場コイルを備え、ターン間隙間の少なくとも一部分は、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
また、この発明に係る磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法は、導体薄板にターン間隙間をパターン加工することにより、渦巻状の導体部分を形成する工程と、パターン加工された導体薄板を湾曲させる工程とを含み、ターン間隙間をパターン加工する際、ターン間隙間の少なくとも一部分を、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状にする。
【発明の効果】
【0013】
この発明のコイル装置、磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル、その製造方法、及び磁気共鳴イメージング装置は、ターン間隙間の少なくとも一部分を、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状にするので、導体薄板の面積を十分に確保しつつ、導体部分の実質的に電流が流れる範囲を制限することができ、通電電流の偏流及び渦電流の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1によるMRI装置を示すブロック図である。
【図2】図1の傾斜磁場コイルのモールド体を示す斜視図である。
【図3】図2のxメインコイルのパターン設計例を示す斜視図である。
【図4】図3の第1のxメインコイルを示す斜視図である。
【図5】図4の第1のxメインコイルを示す展開図である。
【図6】図5の第1のxメインコイルの一部を拡大して示す展開図である。
【図7】図6とは異なるパターンでターン間隙間を形成した例を示す展開図である。
【図8】図5の第1のxメインコイルの実質的に電流が流れる部分を示す説明図である。
【図9】電流の偏流を説明する説明図である。
【図10】図2のzメインコイルのパターン設計例を示す斜視図である。
【図11】図10の第1のzメインコイルを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるMRI装置を示すブロック図である。図において、MRI装置は、静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、シーケンサ4と、送信系5と、受信系6と、計算機7とを有している。
【0016】
静磁場発生系2は、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させる。また、静磁場発生系2は、永久磁石方式、常電導方式又は超電導方式の静磁場発生磁石を有している。静磁場発生磁石は、被検者1の周りに配置されている。
【0017】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系であるx、y、zの3軸方向に傾斜磁場を印加する複数の傾斜磁場コイル8と、それぞれの傾斜磁場コイル8を駆動する傾斜磁場電源9とを有している。また、傾斜磁場発生系3は、シーケンサ4からの命令に従って傾斜磁場電源9を駆動することにより、x、y、zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzを印加する。
【0018】
撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルスが印加されて、被検者1に対するスライス面が設定される。そして、そのスライス面に直交し、かつ互いに直交する残りの2つの方向に、位相エンコード方向傾斜磁場パルスと周波数エンコード方向傾斜磁場パルスとが印加され、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0019】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスとを所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段である。また、シーケンサ4は、計算機7により制御されて動作し、被検者1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3及び受信系6に送る。
【0020】
送信系5は、被検者1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検者1にRFパルスを照射する。また、送信系5は、変調器10と、高周波発振器11と、高周波増幅器12と、送信側の高周波コイル(送信コイル)13aとを有している。
【0021】
高周波コイル13aは、被検者1に近接して配置されている。高周波発振器11から出力されたRFパルスは、シーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器10により振幅変調される。振幅変調されたRFパルスは、高周波増幅器12で増幅された後に、高周波コイル13aに供給される。これにより、RFパルスが被検者1に照射される。
【0022】
受信系6は、被検者1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出する。また、受信系6は、受信側の高周波コイル(受信コイル)13bと、信号増幅器14と、直交位相検波器15と、A/D変換器16とを有している。
【0023】
高周波コイル13bは、被検者1に近接して配置されている。被検者1からの応答のNMR信号は、送信側の高周波コイル13aから照射された電磁波によって誘起される。誘起されたNMR信号は、高周波コイル13bで検出され、信号増幅器14で増幅される。増幅されたNMR信号は、直交位相検波器15により、シーケンサ4からの指令によるタイミングで、直交する二系統の信号に分割される。分割された信号は、A/D変換器16でそれぞれディジタル量に変換されて、計算機7に送られる。
【0024】
計算機7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行う。また、計算機7には、ディスプレイ17、記憶装置18及び操作装置19が接続されている。
【0025】
ディスプレイ17としては、CRTディスプレイ又は液晶ディスプレイ等が用いられている。記憶装置18としては、光ディスク装置又は磁気ディスク装置等が用いられている。操作装置19としては、トラックボール又はマウスと、キーボードとの組み合わせ等が用いられている。
【0026】
受信系6からのデータが計算機7に入力されると、計算機7により、信号処理、画像再構成等の処理が実行され、その結果である被検者1の断層画像がディスプレイ17に表示されるとともに、画像のデータが記憶装置18に記録される。
【0027】
操作装置19は、ディスプレイ17に近接して配置されている。MRI装置の各種制御情報や計算機7で行う処理の制御情報は、操作装置19を用いて入力される。操作者は、ディスプレイ17を見ながら、操作装置19を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0028】
なお、図1において、送信側の高周波コイル13aと傾斜磁場コイル8とは、被検者1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、被検者1を取り囲むように設置されている。また、受信側の高周波コイル13bは、被検者1を取り囲むように設置されている。
【0029】
また、現在臨床で普及している撮像対象核種は、被検者の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体の頭部、腹部、四肢等の形態又は機能が二次元又は三次元的に撮像される。
【0030】
図2は図1の傾斜磁場コイル8のモールド体を示す斜視図であり、この例では、アクティブシールド型の傾斜磁場コイルを示している。ここで、傾斜磁場コイル8における座標軸は、撮像領域の中心を原点、静磁場の方向をz軸とし、z軸と直交する2軸をx軸、y軸とする。
【0031】
傾斜磁場コイル8としては、3種類のメインコイル、即ちxメインコイル20a、yメインコイル20b及びzメインコイル20cと、3種類のシールドコイル、即ちxシールドコイル21a、yシールドコイル21b及びzシールドコイル21cとが用いられている。これらのコイル20a〜20c,21a〜21cは、樹脂等によってモールドされ一体化されている。
【0032】
xメインコイル20a、yメインコイル20b及びzメインコイル20cは、撮像領域において、それぞれ対応する方向に線形な傾斜磁場を発生させる。xシールドコイル21a、yシールドコイル21b及びzシールドコイル21cは、対応する方向に傾斜磁場を発生させる。
【0033】
また、シールドコイル21a〜21cは、メインコイル20a〜20cの外側で、かつ、メインコイル20a〜20cと静磁場発生磁石との間の空間に設置され、メインコイル20a〜20cによる漏れ磁場を防ぐ役割を果たす。
【0034】
図3は図2のxメインコイル20aのパターン設計例を示す斜視図である。このようなパターン上に電流を印加することによって、撮像領域内でx軸方向に線形に変化する所望の磁場を発生させることができる。また、このようなパターンを実現するために、xメインコイル20aとして、第1のxメインコイル22a、第2のxメインコイル22b、第3のxメインコイル22c、及び第4のxメインコイル22dが用いられている。
【0035】
各xメインコイル22a〜22dとしては、導体薄板からなる薄板コイルを湾曲させたものが用いられている。導体薄板の材料としては、例えば銅又はアルミニウム等の電気を良く通す材料が用いられる。
【0036】
図4は図3の第1のxメインコイル22aを示す斜視図である。コイル本体である第1のxメインコイル22aは、渦巻状の導体部分23により構成されている。径方向に隣接する導体部分23のターン間には、渦巻状のターン間隙間24が形成されている。
【0037】
ターン間隙間24は、電流の方向に沿う線分と、電流の方向に直角な線分とが交互に接続された複数回の蛇行形状、この例では矩形波状である。なお、矩形波状ではなく、曲線状であってもよい。即ち、ターン間隙間24は、導体部分23に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。また、第1のxメインコイル22aの中央部分には、中空部分25が形成されている。
【0038】
導体薄板の厚さは、例えば2〜3mmである。また、ターン間隙間24の幅寸法は、例えば1〜2mmである。さらに、導体部分23の巻数(ターン数)は、例えば15〜30程度であるが、図では簡単のため少なく示している。
【0039】
第2、第3、第4のxメインコイル22b〜22dは、第1のxメインコイル22aと同じ若しくは類似の形状である。このようなコイル22a〜22dの組み合わせにより、撮像領域でx方向に線形に変化する傾斜磁場が発生される。
【0040】
図5は図4の第1のxメインコイル22aを示す展開図である。第1のxメインコイル22aを製造する場合、まず、平板状の導体薄板に、中空部分25、ターン間隙間24及びコイル外周線をパターン加工する。パターン加工は、レーザ加工、ウォータージェット加工、又はパレットパンチング加工により行うことができる。また、ターン間隙間24は、外周側から内周側へ向けて、又は内周側から外周側へ向けて、一筆書き状にパターン加工することができる。
【0041】
図6は図5の第1のxメインコイル22aの一部を拡大して示す展開図である。ターンT1とターンT2とは渦巻状の隣り合うターンであり、ターンT2はターンT1に対して外側に位置する。
【0042】
ターンT1における所望の電流最外周線to1上に、点A1、B1、C1、D1、・・・を、ターンT2における所望の電流最内周線ti2上に、点A2、B2、C2、D2、・・・をとる。そして、線分A1−A2、B1−B2、C1−C2、D1−D2、A2−B2、B1−C1、C2−D2を結ぶ線をパターン加工の軌跡とする。これらは線分でなく曲線でもあってもよい。
【0043】
これによって、パターン加工の軌跡は、A1−A2−B2−B1−C1−C2−D2−D1−・・・の一筆書き状(連続的)となり、この軌跡に沿ってターン間隙間24を切削加工すれば、ターンT1とターンT2は電気的に絶縁された状態になる。
【0044】
これによって、ターンT1において、曲線ti1と曲線to1の間の線幅dw1に電流を制限し、ターンT2おいて、曲線ti2とto2の間の線幅dw2に電流を制限した、パターンを形成することができる。即ち、各ターンにおいて、矩形波状のターン間隙間24により、導体部分23の径方向内側及び外側へ突出した部分には電流が流れ難くなり、径方向内側及び外側へ突出した部分を除く部分のみに実質的に電流が流れることになる。
【0045】
また、同一ターン内の線幅dw1,dw2は、同じ寸法であってもよいし、位置によって変化させてもよい。図5の例では、xメインコイル22aの周方向寸法(例えば1000〜1500mm)に対してz軸方向の寸法(例えば500〜800mm)が短くなっており、導体部分23の実質的に電流が流れる部分の幅は周方向の位置によって変化している。例えば、図5のz軸方向中央部(xメインコイル22aの長軸上の部分)における実質的に電流が流れる部分の幅は、図5の周方向中央部(xメインコイル22aの短軸上の部分)における実質的に電流が流れる部分の幅よりも小さくなっている。
【0046】
ここで、スリット間距離ds1、ds2が、線幅dw1、dw2よりも広すぎると、所望の電流制限領域以外に電流が蛇行し、傾斜磁場の線形性が乱れたり、渦電流が増大したりする。このため、スリット間距離ds1、ds2は、所望の線幅dw1、dw2に対して、2分の1以下にすることが望ましい。即ち、導体部分23の各ターンにおいて、矩形波状のターン間隙間24の1パルス幅分(1矩形波分)の寸法(1蛇行幅分の寸法)は、導体部分23の幅方向のターン間隙間24が設けられている領域を除いた部分の幅寸法の2分の1以下にすることが望ましい。
【0047】
また、切削の軌跡をA2−B2、B1−C1、C2−D2とする代わりに、図7に示すように、A1−B1、B2−C2、C1−D1としてもよい。この場合、パターン加工の軌跡は、A2−A1−B1−B2−C2−C1−D1−D2−・・・の一筆書き状(連続的)となる。
【0048】
図6及び図7では、ターンT1及びターンT2のパターン加工法について説明したが、これをコイルの他のターンについて行うことにより、コイル全体のパターン加工の軌跡は図5のようになる。
【0049】
図5に示す形状にてパターン加工を行った後、ロール機で所望の曲率の円筒又は楕円筒形状に曲げ加工を行うことで、図4のようなxメインコイル22aが形成される。
【0050】
図8は図5の第1のxメインコイル22aの実質的に電流が流れる部分を示す説明図である。図5のような形状にパターン加工することによって、図8に示すような領域29に電流が流れ、領域30では電流が制限される。即ち、図8の領域29と領域30との境界線上でパターン加工した場合と同等に電流が制限され、渦電流による発熱とパルス状の大電流による発熱とを抑制する効果が得られる。
【0051】
図9は電流の偏流を説明する説明図である。図9の(a)では、電流通電領域が33aと34aとの間に制限されている。また、図9の(b)では、電流通電領域が33bと34bとの間に制限されている。即ち、図9(b)の方が図9(a)よりも通電領域の幅が狭い。
【0052】
このような状態において、曲率が大きい区間では、設計上の電流中心が曲線31であっても、内側方向に偏流が生じ、実際の電流中心は曲線32a、32bになる。特に、図9(a)では、曲線32aが曲線31から大きく外れてしまう。これに対して、実施の形態1のパターン加工は、電流通電領域を図8(b)のように制限することと等価であり、電流の偏流を抑制することができる。
【0053】
以上の方法によれば、パターン加工の際に導体薄板を切り落としてしまう部分を少なくすることが可能で、パターン加工による導体薄板の面積の減少を防ぐことができる。このため、パターン加工後の曲げ加工を行う際、ロール機のロールと導体薄板との接触面積を十分に保つことができ、ロールの力が十分かつ均等に導体薄板に伝わるため、精度良く曲げ加工を行うことができる。
【0054】
また、パターン加工の軌跡を一筆書き状(連続的)にすることができ、加工軌跡が重複することなく、連続的に加工することができ、加工時間を短縮することができる。
【0055】
なお、中空部分25は、取り除く必要があるが、曲げ加工時のロールとの接触面積を保つという点から、パターン加工の際には残しておき、曲げ加工後に取り除いてもよい。この場合、パターン加工の際には、中空部分25の周囲に一部を残してスリットを入れておき、曲げ加工後に、残した部分を切断すればよい。
【0056】
また、上記の説明では、xメインコイルの形成方法について述べたが、yメインコイル、xシールドコイル及びyシールドコイルに関しても類似の形状であるため、同様の手法を適用することができる。
【0057】
さらに、図10は図2のzメインコイル20cのパターン設計例を示す斜視図である。zメインコイル20cとしては、ソレノイド形状を有する第1及び第2のzメインコイル(コイル本体)35a,35bが用いられている。
【0058】
第1のzメインコイル35aについて、上述のxメインコイル22aと同様の方法を適用する場合、図11に示すようなパターン加工を導体薄板に施し、図11の長手方向両端部を接続(例えばろう付け)して円筒形にすればよい。また、第2のzメインコイル35bも同様に製作することができる。さらに、zシールドコイルも同様に製作することができる。
但し、zメインコイル及びzシールドコイルについては、上述の方法を適用せず、従来と同様の構造(コイル導体をソレノイド状に巻回した構造)としてもよい。また、この場合、zメインコイル及びzシールドコイルの少なくともいずれか一方を管状の導体で構成し、内部に冷媒を流通させてもよい。
【0059】
さらにまた、図4及び図5ではターン間隙間24を全体で矩形波状としたが、必ずしも全体を矩形波状としなくてもよい。例えば、図8の周方向の中間部では、領域30の幅が小さいため、ターン間隙間24を蛇行させなくてもよい。
【0060】
また、上記の例では、矩形波状のターン間隙間24を示したが、dw1,dw2に対してds1,ds2が十分に小さければ、正弦波状であってもよい。
さらに、上記の例では、磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルについて説明したが、この発明は、磁気共鳴イメージング装置以外の機器に搭載されるコイル装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
8 傾斜磁場コイル、22a 第1のxメインコイル(コイル本体)、22b 第2のxメインコイル(コイル本体)、22c 第3のxメインコイル(コイル本体)、22d 第4のxメインコイル(コイル本体)、23 導体部分、24 ターン間隙間、35a 第1のzメインコイル(コイル本体)、35b 第2のzメインコイル(コイル本体)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられている導体薄板製のコイル本体を有するコイル装置、そのコイル装置を用いた磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル、その傾斜磁場コイルの製造方法、及びその傾斜磁場コイルを有する磁気共鳴イメージング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRI装置(磁気共鳴イメージング装置)は、被検者、特に人体の組織を構成する原子核スピンが発生するNMR(核磁気共鳴)信号を計測し、頭部、腹部、四肢等の形態や機能を二次元的又は三次元的に画像化する装置である。撮影において、NMR信号には、傾斜磁場によって異なる位相エンコードが付与されるとともに周波数エンコードが付与される。時系列データとして計測されたNMR信号は、二次元又は三次元フーリエ変換されることにより、画像に再構成される。
【0003】
このようなMRI装置において、傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイルは、静磁場を発生する超電導磁石に接近して設置されている。このため、傾斜磁場が時間変化する際には、超電導磁石の熱シールド板、ヘリウム容器及び外壁等の導体に渦電流が生じる。この渦電流による磁場は、被検者の配置される空間において、傾斜磁場を空間的、時間的に変化させる。このため、渦電流が生じると、画質や局所的なスペクトル性能が劣化してしまう。
【0004】
これに対して、従来、渦電流を抑制しつつ、高速な傾斜磁場スイッチング特性を有する傾斜磁場コイルのコイルパターン設計法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、被検者が入る空間を広くすることが求められている一方で、静磁場を発生させる磁石は設置位置の制約からできる限り小さくすることが求められている。このため、傾斜磁場コイルは小型・薄型化することが望まれており、従来のMRI装置では、銅又はアルミニウム等からなる導体薄板を加工した薄板コイルが傾斜磁場コイルとして用いられている。
【0006】
このような薄板コイルは、導体薄板に渦巻状のパターン加工(レーザ加工又はウォータージェット加工)を施した後、ロール機等で円筒又は楕円筒形状に曲げ加工を施すことにより製造される。また、このような従来の傾斜磁場コイルにおいて、渦電流による発熱と、通電するパルス状の大電流による発熱とを抑制する方法として、高磁場領域におけるコイル導体幅を低磁場領域におけるコイル導体幅よりも狭くする方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−84716号公報
【特許文献2】特開2009−183386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような従来の導体薄板からなる傾斜磁場コイルでは、パルス状の大電流を印加した際に生じる磁場が交差すると、渦電流が生じ、温度が上昇する問題が生じる。また、この渦電流は、特に高速撮像時における画質悪化の原因にもなる。
【0009】
このような渦電流を抑制するためには、コイル導体幅を狭め、電流の通電可能な幅を制限することが有効である。また、コイル導体幅を狭めることは、電流の偏流を抑制するという点からも有効である。
【0010】
しかし、単にターン間隙間を大きくしてコイル導体幅を狭くすると、導体薄板の面積が減少するため、ロール機を用いて曲げ加工を行う際に、ロール機と導体薄板との接触面積が小さくなり、導体薄板に力が充分かつ均等に伝わらず、変形が生じるなど曲げ精度が悪化し、これによる製作誤差が生じるという問題があった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、導体薄板の面積を十分に確保しつつ、通電電流の偏流及び渦電流の発生を抑制することができるコイル装置、そのコイル装置を用いた磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル、その傾斜磁場コイルの製造方法、及びその傾斜磁場コイルを有する磁気共鳴イメージング装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係るコイル装置は、導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備え、ターン間隙間の少なくとも一部分は、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
また、この発明に係る磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルは、湾曲された導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備え、ターン間隙間の少なくとも一部分は、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
また、この発明に係る磁気共鳴イメージング装置は、湾曲された導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を有する傾斜磁場コイルを備え、ターン間隙間の少なくとも一部分は、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。
また、この発明に係る磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法は、導体薄板にターン間隙間をパターン加工することにより、渦巻状の導体部分を形成する工程と、パターン加工された導体薄板を湾曲させる工程とを含み、ターン間隙間をパターン加工する際、ターン間隙間の少なくとも一部分を、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状にする。
【発明の効果】
【0013】
この発明のコイル装置、磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル、その製造方法、及び磁気共鳴イメージング装置は、ターン間隙間の少なくとも一部分を、導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状にするので、導体薄板の面積を十分に確保しつつ、導体部分の実質的に電流が流れる範囲を制限することができ、通電電流の偏流及び渦電流の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1によるMRI装置を示すブロック図である。
【図2】図1の傾斜磁場コイルのモールド体を示す斜視図である。
【図3】図2のxメインコイルのパターン設計例を示す斜視図である。
【図4】図3の第1のxメインコイルを示す斜視図である。
【図5】図4の第1のxメインコイルを示す展開図である。
【図6】図5の第1のxメインコイルの一部を拡大して示す展開図である。
【図7】図6とは異なるパターンでターン間隙間を形成した例を示す展開図である。
【図8】図5の第1のxメインコイルの実質的に電流が流れる部分を示す説明図である。
【図9】電流の偏流を説明する説明図である。
【図10】図2のzメインコイルのパターン設計例を示す斜視図である。
【図11】図10の第1のzメインコイルを示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるMRI装置を示すブロック図である。図において、MRI装置は、静磁場発生系2と、傾斜磁場発生系3と、シーケンサ4と、送信系5と、受信系6と、計算機7とを有している。
【0016】
静磁場発生系2は、水平磁場方式であれば、体軸方向に均一な静磁場を発生させる。また、静磁場発生系2は、永久磁石方式、常電導方式又は超電導方式の静磁場発生磁石を有している。静磁場発生磁石は、被検者1の周りに配置されている。
【0017】
傾斜磁場発生系3は、MRI装置の座標系であるx、y、zの3軸方向に傾斜磁場を印加する複数の傾斜磁場コイル8と、それぞれの傾斜磁場コイル8を駆動する傾斜磁場電源9とを有している。また、傾斜磁場発生系3は、シーケンサ4からの命令に従って傾斜磁場電源9を駆動することにより、x、y、zの3軸方向に傾斜磁場Gx、Gy、Gzを印加する。
【0018】
撮影時には、スライス面(撮影断面)に直交する方向にスライス方向傾斜磁場パルスが印加されて、被検者1に対するスライス面が設定される。そして、そのスライス面に直交し、かつ互いに直交する残りの2つの方向に、位相エンコード方向傾斜磁場パルスと周波数エンコード方向傾斜磁場パルスとが印加され、エコー信号にそれぞれの方向の位置情報がエンコードされる。
【0019】
シーケンサ4は、高周波磁場パルス(以下、「RFパルス」という)と傾斜磁場パルスとを所定のパルスシーケンスで繰り返し印加する制御手段である。また、シーケンサ4は、計算機7により制御されて動作し、被検者1の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を送信系5、傾斜磁場発生系3及び受信系6に送る。
【0020】
送信系5は、被検者1の生体組織を構成する原子の原子核スピンに核磁気共鳴を起こさせるために、被検者1にRFパルスを照射する。また、送信系5は、変調器10と、高周波発振器11と、高周波増幅器12と、送信側の高周波コイル(送信コイル)13aとを有している。
【0021】
高周波コイル13aは、被検者1に近接して配置されている。高周波発振器11から出力されたRFパルスは、シーケンサ4からの指令によるタイミングで変調器10により振幅変調される。振幅変調されたRFパルスは、高周波増幅器12で増幅された後に、高周波コイル13aに供給される。これにより、RFパルスが被検者1に照射される。
【0022】
受信系6は、被検者1の生体組織を構成する原子核スピンの核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出する。また、受信系6は、受信側の高周波コイル(受信コイル)13bと、信号増幅器14と、直交位相検波器15と、A/D変換器16とを有している。
【0023】
高周波コイル13bは、被検者1に近接して配置されている。被検者1からの応答のNMR信号は、送信側の高周波コイル13aから照射された電磁波によって誘起される。誘起されたNMR信号は、高周波コイル13bで検出され、信号増幅器14で増幅される。増幅されたNMR信号は、直交位相検波器15により、シーケンサ4からの指令によるタイミングで、直交する二系統の信号に分割される。分割された信号は、A/D変換器16でそれぞれディジタル量に変換されて、計算機7に送られる。
【0024】
計算機7は、各種データ処理と処理結果の表示及び保存等を行う。また、計算機7には、ディスプレイ17、記憶装置18及び操作装置19が接続されている。
【0025】
ディスプレイ17としては、CRTディスプレイ又は液晶ディスプレイ等が用いられている。記憶装置18としては、光ディスク装置又は磁気ディスク装置等が用いられている。操作装置19としては、トラックボール又はマウスと、キーボードとの組み合わせ等が用いられている。
【0026】
受信系6からのデータが計算機7に入力されると、計算機7により、信号処理、画像再構成等の処理が実行され、その結果である被検者1の断層画像がディスプレイ17に表示されるとともに、画像のデータが記憶装置18に記録される。
【0027】
操作装置19は、ディスプレイ17に近接して配置されている。MRI装置の各種制御情報や計算機7で行う処理の制御情報は、操作装置19を用いて入力される。操作者は、ディスプレイ17を見ながら、操作装置19を通してインタラクティブにMRI装置の各種処理を制御する。
【0028】
なお、図1において、送信側の高周波コイル13aと傾斜磁場コイル8とは、被検者1が挿入される静磁場発生系2の静磁場空間内に、被検者1を取り囲むように設置されている。また、受信側の高周波コイル13bは、被検者1を取り囲むように設置されている。
【0029】
また、現在臨床で普及している撮像対象核種は、被検者の主たる構成物質である水素原子核(プロトン)である。プロトン密度の空間分布や、励起状態の緩和時間の空間分布に関する情報を画像化することで、人体の頭部、腹部、四肢等の形態又は機能が二次元又は三次元的に撮像される。
【0030】
図2は図1の傾斜磁場コイル8のモールド体を示す斜視図であり、この例では、アクティブシールド型の傾斜磁場コイルを示している。ここで、傾斜磁場コイル8における座標軸は、撮像領域の中心を原点、静磁場の方向をz軸とし、z軸と直交する2軸をx軸、y軸とする。
【0031】
傾斜磁場コイル8としては、3種類のメインコイル、即ちxメインコイル20a、yメインコイル20b及びzメインコイル20cと、3種類のシールドコイル、即ちxシールドコイル21a、yシールドコイル21b及びzシールドコイル21cとが用いられている。これらのコイル20a〜20c,21a〜21cは、樹脂等によってモールドされ一体化されている。
【0032】
xメインコイル20a、yメインコイル20b及びzメインコイル20cは、撮像領域において、それぞれ対応する方向に線形な傾斜磁場を発生させる。xシールドコイル21a、yシールドコイル21b及びzシールドコイル21cは、対応する方向に傾斜磁場を発生させる。
【0033】
また、シールドコイル21a〜21cは、メインコイル20a〜20cの外側で、かつ、メインコイル20a〜20cと静磁場発生磁石との間の空間に設置され、メインコイル20a〜20cによる漏れ磁場を防ぐ役割を果たす。
【0034】
図3は図2のxメインコイル20aのパターン設計例を示す斜視図である。このようなパターン上に電流を印加することによって、撮像領域内でx軸方向に線形に変化する所望の磁場を発生させることができる。また、このようなパターンを実現するために、xメインコイル20aとして、第1のxメインコイル22a、第2のxメインコイル22b、第3のxメインコイル22c、及び第4のxメインコイル22dが用いられている。
【0035】
各xメインコイル22a〜22dとしては、導体薄板からなる薄板コイルを湾曲させたものが用いられている。導体薄板の材料としては、例えば銅又はアルミニウム等の電気を良く通す材料が用いられる。
【0036】
図4は図3の第1のxメインコイル22aを示す斜視図である。コイル本体である第1のxメインコイル22aは、渦巻状の導体部分23により構成されている。径方向に隣接する導体部分23のターン間には、渦巻状のターン間隙間24が形成されている。
【0037】
ターン間隙間24は、電流の方向に沿う線分と、電流の方向に直角な線分とが交互に接続された複数回の蛇行形状、この例では矩形波状である。なお、矩形波状ではなく、曲線状であってもよい。即ち、ターン間隙間24は、導体部分23に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっている。また、第1のxメインコイル22aの中央部分には、中空部分25が形成されている。
【0038】
導体薄板の厚さは、例えば2〜3mmである。また、ターン間隙間24の幅寸法は、例えば1〜2mmである。さらに、導体部分23の巻数(ターン数)は、例えば15〜30程度であるが、図では簡単のため少なく示している。
【0039】
第2、第3、第4のxメインコイル22b〜22dは、第1のxメインコイル22aと同じ若しくは類似の形状である。このようなコイル22a〜22dの組み合わせにより、撮像領域でx方向に線形に変化する傾斜磁場が発生される。
【0040】
図5は図4の第1のxメインコイル22aを示す展開図である。第1のxメインコイル22aを製造する場合、まず、平板状の導体薄板に、中空部分25、ターン間隙間24及びコイル外周線をパターン加工する。パターン加工は、レーザ加工、ウォータージェット加工、又はパレットパンチング加工により行うことができる。また、ターン間隙間24は、外周側から内周側へ向けて、又は内周側から外周側へ向けて、一筆書き状にパターン加工することができる。
【0041】
図6は図5の第1のxメインコイル22aの一部を拡大して示す展開図である。ターンT1とターンT2とは渦巻状の隣り合うターンであり、ターンT2はターンT1に対して外側に位置する。
【0042】
ターンT1における所望の電流最外周線to1上に、点A1、B1、C1、D1、・・・を、ターンT2における所望の電流最内周線ti2上に、点A2、B2、C2、D2、・・・をとる。そして、線分A1−A2、B1−B2、C1−C2、D1−D2、A2−B2、B1−C1、C2−D2を結ぶ線をパターン加工の軌跡とする。これらは線分でなく曲線でもあってもよい。
【0043】
これによって、パターン加工の軌跡は、A1−A2−B2−B1−C1−C2−D2−D1−・・・の一筆書き状(連続的)となり、この軌跡に沿ってターン間隙間24を切削加工すれば、ターンT1とターンT2は電気的に絶縁された状態になる。
【0044】
これによって、ターンT1において、曲線ti1と曲線to1の間の線幅dw1に電流を制限し、ターンT2おいて、曲線ti2とto2の間の線幅dw2に電流を制限した、パターンを形成することができる。即ち、各ターンにおいて、矩形波状のターン間隙間24により、導体部分23の径方向内側及び外側へ突出した部分には電流が流れ難くなり、径方向内側及び外側へ突出した部分を除く部分のみに実質的に電流が流れることになる。
【0045】
また、同一ターン内の線幅dw1,dw2は、同じ寸法であってもよいし、位置によって変化させてもよい。図5の例では、xメインコイル22aの周方向寸法(例えば1000〜1500mm)に対してz軸方向の寸法(例えば500〜800mm)が短くなっており、導体部分23の実質的に電流が流れる部分の幅は周方向の位置によって変化している。例えば、図5のz軸方向中央部(xメインコイル22aの長軸上の部分)における実質的に電流が流れる部分の幅は、図5の周方向中央部(xメインコイル22aの短軸上の部分)における実質的に電流が流れる部分の幅よりも小さくなっている。
【0046】
ここで、スリット間距離ds1、ds2が、線幅dw1、dw2よりも広すぎると、所望の電流制限領域以外に電流が蛇行し、傾斜磁場の線形性が乱れたり、渦電流が増大したりする。このため、スリット間距離ds1、ds2は、所望の線幅dw1、dw2に対して、2分の1以下にすることが望ましい。即ち、導体部分23の各ターンにおいて、矩形波状のターン間隙間24の1パルス幅分(1矩形波分)の寸法(1蛇行幅分の寸法)は、導体部分23の幅方向のターン間隙間24が設けられている領域を除いた部分の幅寸法の2分の1以下にすることが望ましい。
【0047】
また、切削の軌跡をA2−B2、B1−C1、C2−D2とする代わりに、図7に示すように、A1−B1、B2−C2、C1−D1としてもよい。この場合、パターン加工の軌跡は、A2−A1−B1−B2−C2−C1−D1−D2−・・・の一筆書き状(連続的)となる。
【0048】
図6及び図7では、ターンT1及びターンT2のパターン加工法について説明したが、これをコイルの他のターンについて行うことにより、コイル全体のパターン加工の軌跡は図5のようになる。
【0049】
図5に示す形状にてパターン加工を行った後、ロール機で所望の曲率の円筒又は楕円筒形状に曲げ加工を行うことで、図4のようなxメインコイル22aが形成される。
【0050】
図8は図5の第1のxメインコイル22aの実質的に電流が流れる部分を示す説明図である。図5のような形状にパターン加工することによって、図8に示すような領域29に電流が流れ、領域30では電流が制限される。即ち、図8の領域29と領域30との境界線上でパターン加工した場合と同等に電流が制限され、渦電流による発熱とパルス状の大電流による発熱とを抑制する効果が得られる。
【0051】
図9は電流の偏流を説明する説明図である。図9の(a)では、電流通電領域が33aと34aとの間に制限されている。また、図9の(b)では、電流通電領域が33bと34bとの間に制限されている。即ち、図9(b)の方が図9(a)よりも通電領域の幅が狭い。
【0052】
このような状態において、曲率が大きい区間では、設計上の電流中心が曲線31であっても、内側方向に偏流が生じ、実際の電流中心は曲線32a、32bになる。特に、図9(a)では、曲線32aが曲線31から大きく外れてしまう。これに対して、実施の形態1のパターン加工は、電流通電領域を図8(b)のように制限することと等価であり、電流の偏流を抑制することができる。
【0053】
以上の方法によれば、パターン加工の際に導体薄板を切り落としてしまう部分を少なくすることが可能で、パターン加工による導体薄板の面積の減少を防ぐことができる。このため、パターン加工後の曲げ加工を行う際、ロール機のロールと導体薄板との接触面積を十分に保つことができ、ロールの力が十分かつ均等に導体薄板に伝わるため、精度良く曲げ加工を行うことができる。
【0054】
また、パターン加工の軌跡を一筆書き状(連続的)にすることができ、加工軌跡が重複することなく、連続的に加工することができ、加工時間を短縮することができる。
【0055】
なお、中空部分25は、取り除く必要があるが、曲げ加工時のロールとの接触面積を保つという点から、パターン加工の際には残しておき、曲げ加工後に取り除いてもよい。この場合、パターン加工の際には、中空部分25の周囲に一部を残してスリットを入れておき、曲げ加工後に、残した部分を切断すればよい。
【0056】
また、上記の説明では、xメインコイルの形成方法について述べたが、yメインコイル、xシールドコイル及びyシールドコイルに関しても類似の形状であるため、同様の手法を適用することができる。
【0057】
さらに、図10は図2のzメインコイル20cのパターン設計例を示す斜視図である。zメインコイル20cとしては、ソレノイド形状を有する第1及び第2のzメインコイル(コイル本体)35a,35bが用いられている。
【0058】
第1のzメインコイル35aについて、上述のxメインコイル22aと同様の方法を適用する場合、図11に示すようなパターン加工を導体薄板に施し、図11の長手方向両端部を接続(例えばろう付け)して円筒形にすればよい。また、第2のzメインコイル35bも同様に製作することができる。さらに、zシールドコイルも同様に製作することができる。
但し、zメインコイル及びzシールドコイルについては、上述の方法を適用せず、従来と同様の構造(コイル導体をソレノイド状に巻回した構造)としてもよい。また、この場合、zメインコイル及びzシールドコイルの少なくともいずれか一方を管状の導体で構成し、内部に冷媒を流通させてもよい。
【0059】
さらにまた、図4及び図5ではターン間隙間24を全体で矩形波状としたが、必ずしも全体を矩形波状としなくてもよい。例えば、図8の周方向の中間部では、領域30の幅が小さいため、ターン間隙間24を蛇行させなくてもよい。
【0060】
また、上記の例では、矩形波状のターン間隙間24を示したが、dw1,dw2に対してds1,ds2が十分に小さければ、正弦波状であってもよい。
さらに、上記の例では、磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルについて説明したが、この発明は、磁気共鳴イメージング装置以外の機器に搭載されるコイル装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
8 傾斜磁場コイル、22a 第1のxメインコイル(コイル本体)、22b 第2のxメインコイル(コイル本体)、22c 第3のxメインコイル(コイル本体)、22d 第4のxメインコイル(コイル本体)、23 導体部分、24 ターン間隙間、35a 第1のzメインコイル(コイル本体)、35b 第2のzメインコイル(コイル本体)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備えているコイル装置であって、
前記ターン間隙間の少なくとも一部分は、前記導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっていることを特徴とするコイル装置。
【請求項2】
湾曲された導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備えている磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルであって、
前記ターン間隙間の少なくとも一部分は、前記導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル。
【請求項3】
前記ターン間隙間は複数回の蛇行形状であり、
前記導体部分の各ターンにおいて、前記ターン間隙間の1蛇行幅分の寸法は、前記導体部分の幅方向の前記ターン間隙間が設けられている領域を除いた部分の幅寸法の2分の1以下であることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル。
【請求項4】
前記ターン間隙間は、矩形波状であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の傾斜磁場コイルを備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
導体薄板にターン間隙間をパターン加工することにより、渦巻状の導体部分を形成する工程と、
パターン加工された前記導体薄板を湾曲させる工程と
を含む磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法であって、
前記ターン間隙間をパターン加工する際、前記ターン間隙間の少なくとも一部分を、前記導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状にすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法。
【請求項7】
前記導体部分に流れる電流の方向に沿う部分と、前記導体部分に流れる電流の方向に直角な部分とを交互にパンチング加工することにより、蛇行した前記ターン間隙間を形成することを特徴とする請求項6記載の磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法。
【請求項1】
導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備えているコイル装置であって、
前記ターン間隙間の少なくとも一部分は、前記導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっていることを特徴とするコイル装置。
【請求項2】
湾曲された導体薄板により構成され、導体部分のターン間にターン間隙間が設けられているコイル本体を備えている磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルであって、
前記ターン間隙間の少なくとも一部分は、前記導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状になっていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル。
【請求項3】
前記ターン間隙間は複数回の蛇行形状であり、
前記導体部分の各ターンにおいて、前記ターン間隙間の1蛇行幅分の寸法は、前記導体部分の幅方向の前記ターン間隙間が設けられている領域を除いた部分の幅寸法の2分の1以下であることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル。
【請求項4】
前記ターン間隙間は、矩形波状であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイル。
【請求項5】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の傾斜磁場コイルを備えたことを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
導体薄板にターン間隙間をパターン加工することにより、渦巻状の導体部分を形成する工程と、
パターン加工された前記導体薄板を湾曲させる工程と
を含む磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法であって、
前記ターン間隙間をパターン加工する際、前記ターン間隙間の少なくとも一部分を、前記導体部分に流れる電流の方向に対して蛇行した形状にすることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法。
【請求項7】
前記導体部分に流れる電流の方向に沿う部分と、前記導体部分に流れる電流の方向に直角な部分とを交互にパンチング加工することにより、蛇行した前記ターン間隙間を形成することを特徴とする請求項6記載の磁気共鳴イメージング装置用傾斜磁場コイルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−22052(P2013−22052A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156586(P2011−156586)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
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