説明

コイル部品

【課題】低損失なコイル部品を提供すること。
【解決手段】平角線70をフラットワイズ巻きしてなるコイル部50eを複数用意し、巻き軸の延びる方向(Z方向)に沿って積層すると共に並列接続してコイル30eを構成する。各平角線70は、表皮深さδの2倍以下の板厚を有するものである。これを近接効果が支配的となる領域の駆動周波数で駆動すると、コイル30eの巻き窓34eのZ方向(巻き軸の延びる方向)の両端近傍のみに電流密度の高い領域60が現れる。これにより、巻き窓34e内部に位置する平角線70間において損失を抑制することができるため、コイル30e全体として損失を低減できる。コイル30eをサブコイルとして、2つ用意し互いに直列に接続してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド自動車等の車体駆動動力用モーターの電力変換装置であるインバータの昇圧回路等に用いられるリアクトルやモーター等のコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、コイル部品は、コイル(巻き線)と磁性体(磁気コアや磁性ヨーク)とを備えている。例えば、特許文献1のコイル部品は、テープ状の導線をフラットワイズ巻きしてなる空芯コイルと、空芯コイルの外周に設けられた磁性体とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−82489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、コイル部品における損失が大きいと、その損失による発熱で劣化してしまうことを避けるために、コイル部品を小型化できないという問題がある。また、エネルギーロスが大きく、電力の有効活用が図れないといった問題もある。
【0005】
そこで、本発明は、低損失なコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
コイル部品における損失の一つとして、交流電流により生じる損失である交流損失があり、交流損失には、表皮効果に起因する損失と、近接効果に起因する損失とがある。
【0007】
本発明の発明者らは、コイル部品における交流損失について、使用する導線の断面サイズが表皮深さの4倍以下、好ましくは2倍以下である場合において、100kHz以上の周波数でコイル部品を駆動すると表皮効果が支配的となるのに対して、100kHz未満、特に50kHz以下の周波数でコイル部品を駆動した場合には、近接効果が支配的となることを見出した。
【0008】
これらを踏まえた上で本発明の発明者らは、近接効果が支配的になる状況では、導線の配置状況等に応じて以下のような交流電流分布が生じることを見出した。
1)円形断面を有する導線(即ち、丸線)が単線である場合、一般的には電流は外周部に集中するが、導線が細い場合には外周部への電流の集中は緩和する。
2)平角導線のように縦横比の異なる導線が単線である場合、断面における長手方向の両端(平角導線の場合、板厚方向と直交する方向の両端)に電流が集中する。
3)互いに直列に接続されている2本の導線が近接し且つそれらの導線に同方向の電流が流れている場合(例えば、ソレノイド状又はスパイラル状に2巻きだけ導線を巻いたコイルの一部など)、各導線の内部で他方の導線から遠ざかる方向に電流が集中し、導線間の電流密度は低下する。
4)互いに直列に接続されている3本以上の導線が一列に近接して配置され且つそれらの導線に同方向の電流が流れている場合(例えば、導線をソレノイド状又はスパイラル状に3巻き以上巻回してなるコイルの一部など)、最も外側に位置する導線においては外側に電流が集中し、それ以外の導線においては他の導線との境界部分に電流が集中する。
5)互いに並列に接続された3本以上の導線が一列に近接して配置されている場合、最も外側に位置する導線においては外側に電流が集中し、それ以外の導線においては電流の集中は生じない。
6)上記4)の条件と他の条件とが同時に成立する場合、他の条件に基づく事象が優先する。
【0009】
本発明の発明者らは、上述した1)〜6)の事象を考慮し、近接効果が支配的となるように構成して表皮効果に起因した損失を抑制する一方で、近接効果に起因した損失を低めるようにコイルを構成することとした。具体的には、本発明の発明者らは、表皮深さを考慮した上で導線の断面サイズを決定し、更に、コイルに通電した場合の交流電流分布の密度がコイルの巻き窓の表面近傍のみに集中するようにコイルを構成することでコイルの巻き窓の内部において近接効果により生じていた損失を抑制することとし、コイル部品全体における交流損失を低くすることとした。ここで、コイルの「巻き窓」とは、コイルの巻き軸を含む平面でコイルを切った場合にできる2つの断面の夫々(即ち、コイルを構成する導線の束の断面)のことをいう。かかる知見等に基づき、本発明は、低損失のコイル部品として以下に掲げるコイル部品を提供する。
【0010】
即ち、本発明は、第1のコイル部品として、
1つ又は2つのサブコイルのみからなるコイルであって単一の巻き軸を有するコイルを備えるコイル部品であって、
前記サブコイルは、1つのコイル部のみ又は2つ以上のコイル部を並列接続してなるもののみからなるものであり、
前記コイル部は、1層又は2層のソレノイド状に巻回された導線又は1層又は2層のスパイラル状に巻回された導線からなるものであり、
前記巻き軸を含む平面で切った場合の前記コイルの2つの断面からなる巻き窓のいずれにおいても、前記コイルに通電した場合の交流電流分布が表面近傍のみに集中している
コイル部品を提供する。
【0011】
また、本発明は、第2のコイル部品として、第1のコイル部品であって、
前記導線は、前記巻き軸の延びる方向又は前記巻き軸と直交する方向の少なくともいずれか一方において、前記コイル部品を駆動する駆動周波数における表皮深さの2倍以下のサイズを有しており、
コイル部品を提供する。
【0012】
また、本発明は、第3のコイル部品として、第1又は第2のコイル部品であって、
前記交流電流分布は、前記巻き軸の延びる方向における前記巻き窓の両端近傍のみ又は前記巻き軸と直交する方向における前記巻き窓の両端近傍のみに集中している
コイル部品を提供する。
【0013】
また、本発明は、第4のコイル部品として、第1乃至第3のいずれかのコイル部品であって、
前記コイルは、2個の前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイルは、前記サブコイルを直列接続してなるものである
コイル部品を提供する。
【0014】
また、本発明は、第5のコイル部品として、第1乃至第4のいずれかのコイル部品であって、
前記導線は、前記表皮深さの2倍以下の直径を有する丸線又は前記表皮深さの2倍以下の板厚を有する平角線からなる
コイル部品を提供する。
【0015】
また、本発明は、第6のコイル部品として、第5のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイル部は、前記平角線をフラットワイズ巻きしてなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記平角線のサイズの総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0016】
また、本発明は、第7のコイル部品として、第5のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイル部は、前記平角線をフラットワイズ巻きしてなるものであり、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記平角線のサイズの総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0017】
また、本発明は、第8のコイル部品として、第7のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記サイズの総和の大きい方は、前記サイズの総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品を提供する。
【0018】
また、本発明は、第9のコイル部品として、第5のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイル部は、前記平角線をエッジワイズ巻きしてなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記平角線のサイズの総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0019】
また、本発明は、第10のコイル部品として、第5のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記巻き軸と直交する方向において、一方の前記サブコイルは、他方の前記サブコイルの外側に位置しており、
前記コイル部は、前記平角線をエッジワイズ巻きしてなるものであり、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記平角線のサイズの総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0020】
また、本発明は、第11のコイル部品として、第10のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記サイズの総和の大きい方は、前記サイズの総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品を提供する。
【0021】
また、本発明は、第12のコイル部品として、第5のコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記コイル部を複数備えており、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の夫々は、前記丸線を1層又は2層のソレノイド状に巻回してなるものであって、前記巻き軸から前記丸線までの距離が他の前記コイル部と異なるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部は、前記巻き軸を中心として同心円状に配置され、且つ、互いに並列に接続されている
コイル部品を提供する。
【0022】
また、本発明は、第13のコイル部品として、第12のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記丸線の直径の総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0023】
また、本発明は、第14のコイル部品として、第12のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記巻き軸と直交する方向において、一方の前記サブコイルは、他方の前記サブコイルの外側に位置しており、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記丸線の直径の総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0024】
また、本発明は、第15のコイル部品として、第14のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記直径の総和の大きい方は、前記直径の総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品を提供する。
【0025】
また、本発明は、第16のコイル部品として、第5のコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記コイル部を複数備えており、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の夫々は、前記丸線を1層又は2層のスパイラル状に巻回してなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部は、前記巻き軸の延びる方向に沿って積層されており、且つ、互いに並列に接続されている
コイル部品を提供する。
【0026】
また、本発明は、第17のコイル部品として、第16のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記丸線の直径の総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0027】
また、本発明は、第18のコイル部品として、第16のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記丸線の直径の総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品を提供する。
【0028】
また、本発明は、第19のコイル部品として、第18のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記直径の総和の大きい方は、前記直径の総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品を提供する。
【0029】
また、本発明は、第20のコイル部品として、第6乃至第8並びに第16乃至第19のいずれかのコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記巻き軸の延びる方向において前記サブコイルを構成する前記コイル部の接続関係が前記サブコイル間の境界を挟んで互いに対称となるように配置されている
コイル部品を提供する。
【0030】
また、本発明は、第21のコイル部品として、第9乃至第15のいずれかのコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記巻き軸と直交する方向において前記サブコイルを構成する前記コイル部の接続関係が前記サブコイル間の境界を挟んで互いに対称となるように配置されている
コイル部品を提供する。
【0031】
また、本発明は、第22のコイル部品として、第1乃至第21のいずれかのコイル部品であって、
前記駆動周波数を50kHz以下として設計された
コイル部品を提供する。
【0032】
また、本発明は、第23のコイル部品として、第1乃至第22のいずれかのコイル部品であって、
前記巻き窓の前記表面近傍に対向するように位置するヒートシンクを更に備える
コイル部品を提供する。
【発明の効果】
【0033】
上述した事象5)から理解されるように、一列に近接して配置され且つ互いに並列接続された複数の導線は、近接効果が支配的な状況にあっては、アスペクト比の大きい一本の導線と同様の交流電流分布を生じさせる。このため、サブコイルは、2つ以上のコイル部を並列接続してなるもののみからなるものであったとしても、実質的には1つのコイル部のみからなる場合と同様に扱うことができる。かかるサブコイルを3つ以上直列に接続してしまうと、上述した事象4)から理解されるようにサブコイル間の境界部分にも交流電流分布の高いところが出てしまって損失が大きくなる可能性があるが、サブコイルの数を2つ以下(即ち、1つ又は2つのみ)と限定すると、サブコイルが直列に接続されていたとしても上述した事象3)から理解されるように、サブコイル間の境界部分には殆ど交流電流分布の高いところが現れず、従って当該境界部分における損失を抑制することができる。このように、本発明の構成を採用すると、コイルの巻き窓の表面近傍のみに交流電流分布を集中させることができ(即ち、損失が生じる部位を巻き窓の表面近傍のみに限定することができ)、巻き窓内部における損失を抑制することができるため、コイル部品全体としての損失を低く抑えることができる。
【0034】
特に、各サブコイルを複数のコイル部で構成することとしたり、2つのサブコイルを用いたりして、コイルを事実上分割することとすると、コイル部品全体を大型化することなく巻き数を増やすことができたり、既存のより安価な材料でコイルを構成することが可能となるためコイル部品のコストを低く抑えることができる等の利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】コイルを模式的に示す斜視図である。磁性体は省略されている。
【図2】巻き軸を含む平面でコイル部品を切った場合の断面を模式的に示す図である。
【図3】巻き窓を模式的に示す図である。左図がエッジワイズ巻きのコイルの巻き窓の例であり、右図がフラットワイズ巻きのコイルの巻き窓の例である。
【図4】本発明の実施の形態によるコイルの巻き窓における交流電流分布の例を模式的に示す図である。
【図5】近接効果が支配的となった場合の丸線における交流電流分布を模式的に示す図である。左図は、比較的径の大きい丸線の例であり、右図は比較的径の小さい丸線の例である。
【図6】近接効果が支配的となった場合の平角線における交流電流分布を模式的に示す図である。
【図7】近接配置されると共に直列接続された2本の丸線において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。
【図8】一列に近接配置されると共に直列接続された3本の角線において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。
【図9】一列に近接配置されると共に直列接続された3本の丸線において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。
【図10】一列に近接配置されると共に並列接続された3本の角線において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。
【図11】一列に近接配置されると共に並列接続された3本の丸線において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。
【図12】近接効果が支配的となった場合のコイルの巻き窓における交流電流分布を模式的に示す図である。左図がエッジワイズ巻きのコイルに関するものであり、右図がフラットワイズ巻きのコイルに関するものである。
【図13】複数行複数列の丸線の束からなる巻き窓において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。左図は、1層のソレノイド状に巻回された丸線からなるコイル部を巻き軸と直交する方向において複数同心円状に配置してなるサブコイル(コイル)に関するものであり、右図は、1層のスパイラル状に巻回された丸線からなるコイル部を巻き軸の延びる方向に複数積層配置してなるサブコイル(コイル)に関するものである。
【図14】フラットワイズ巻きのコイル部を巻き軸の延びる方向に積層しつつ並列接続してなるサブコイル(コイル)の巻き窓において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。
【図15】エッジワイズ巻きのコイル部を巻き軸と直交する方向に同心円状に近接配置しつつ並列接続してなるサブコイル(コイル)の巻き窓において近接効果が支配的となった場合の交流電流分布を模式的に示す図である。
【図16】サブコイルを2つ有するコイルの例について模式的に示す図である。図示されたコイルは、巻き軸の延びる方向に2つのサブコイルが積層されたようなコイルの巻き窓を有している。
【図17】サブコイルを2つ有するコイルの他の例について模式的に示す図である。図示されたコイルは、巻き軸と直交する方向において一方のサブコイルが他方のサブコイルの外側に位置しているようなコイルの巻き窓を有している。
【図18】図16のコイルの具体例を示す図である。
【図19】図16のコイルの他の具体例を示す図である。
【図20】図17のコイルの具体例を示す図である。
【図21】ヒートシンクを更に備える変形例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1及び図2を参照すると、本発明の実施の形態によるコイル部品10は、磁性体20とコイル30とを備えている。コイル30は、Z方向を巻き軸32の延びる方向としたものである。磁性体20及びコイル30としては、既存の技術を考慮して様々な形態を採用することができる。但し、コイル30については、以下に詳述する構造的条件を備えることが必要とされる。
【0037】
本実施の形態によるコイル部品10は、コイル30の巻き窓34における交流電流分布を特定の状態に制御してなるものである。ここで、コイル30の巻き窓34とは、図2から理解されるようなコイル30の断面のことである。詳しくは、図2に示されるように、巻き軸32を含む平面でコイル部品10を切った場合、そこにはコイル30の断面が2つ現れることとなる。これらコイル30の断面の夫々は、具体的には、当該コイル30を構成する導線の束の断面(即ち、導線の断面の集合体)である。この断面の夫々を巻き窓34という。即ち、図2に示されるように、巻き軸32を含む平面でコイル部品10(コイル30)を切った場合、そこには2つの巻き窓34が現れることとなる。図3に巻き窓の例を示す。図3の左図は、平角線70をエッジワイズ巻きしたコイル30aの巻き窓34aを示し、図3の右図は、平角線70をフラットワイズ巻きしたコイル30bの巻き窓34bを示す。なお、コイル30aは、1層のソレノイド状に巻回された平角線70からなるものであり、コイル30bは1層のスパイラル状に巻回された平角線70からなるものであるととらえることもできる。
【0038】
本実施の形態による構造的条件を満たすコイル30の巻き窓34においては、図4の左図及右図に示されるように、コイル30に通電した場合の電流密度の高い領域60が表面近傍のみに集中することとなる。例えば、図4の左図においては、巻き窓34のr方向(巻き軸と直交する方向)の両端近傍のみに電流密度の高い領域60が現れており、図4の右図においては、巻き窓34のZ方向(巻き軸の延びる方向)の両端近傍のみに電流密度の高い領域60が現れている。かかる交流電流分布によると、巻き窓34の表面以外の部分(即ち、巻き窓34の内部に位置する導線間の境界など)に生じる交流損失を抑制することができることから、コイル部品(コイル30)全体の損失を低くすることができる。なお、例えば、図4左のような交流電流分布は、図3左のように平角線70をエッジワイズ巻きしてなるコイル30aであって本実施の形態による構造的条件を満たすコイル30aの巻き窓34aにおいて確認することができ、一方、図4右のような交流電流分布は、図3右のように平角線70をフラットワイズ巻きしてなるコイル30bであって本実施の形態による構造的条件を満たすコイル30bの巻き窓34bにおいて確認することができる。
【0039】
50kHz以下の駆動周波数でコイル部品10を駆動すると、交流損失においては近接効果が支配的になると考えることができる。加えて、駆動周波数が30kHz以下、特に10kHz近傍になると交流損失は実質的に近接効果のみに起因するものと考えることができる。このような駆動周波数fの電流を、その駆動周波数fで定まる表皮深さδ(=1/√(πfμσ);ここでμは導線の透磁率、σは導線の導電率)の4倍(好ましくは2倍)を考慮したサイズを有する導線に流した場合、近接効果による交流電流分布は以下のようになる。ここで、「表皮深さδの4倍(好ましくは2倍)を考慮したサイズを有する導線」とは、例えば、丸線の場合には表皮深さδの4倍(好ましくは2倍)以下の直径を有するものであり、平角線の場合には表皮深さδの4倍(好ましくは2倍)以下の板厚を有するものである。即ち、「表皮深さδの4倍(好ましくは2倍)を考慮したサイズを有する導線」とは、コイルとして巻回した場合に、巻き軸の延びる方向(Z方向)又は巻き軸と直交する方向(r方向)の少なくともいずれか一方において、表皮深さδの4倍(好ましくは2倍)以下のサイズを有するような導線である。
【0040】
事象1:円形断面を有する導線(即ち、丸線)が単線である場合、一般的には電流は外周部に集中するが、導線が細い場合には外周部への電流の集中は緩和する。
【0041】
図5を参照すると、丸線72が一本のみあったとして、その丸線72に電流を流した場合、図5左に示されるように電流密度の高い領域60は表面近傍(外周部)に集中するが、丸線72が細い場合には図5右に示されるように電流が表面近傍のみに集中するといったことがない。
【0042】
事象2:平角導線のように縦横比の異なる導線が単線である場合、断面における長手方向の両端(平角導線の場合、板厚方向と直交する方向の両端)に電流が集中する。
【0043】
図6を参照すると、一本のみの平角線70に電流を流した場合であって、平角線70の板厚が表皮深さ以下であるような場合、電流密度の高い領域60は平角線70の幅方向(板厚方向と直交する方向;平角線70の断面における長手方向)の両端のみに集中する。
【0044】
事象3:互いに直列に接続されている2本の導線が近接し且つそれらの導線に同方向の電流が流れている場合、各導線の内部で他方の導線から遠ざかる方向に電流が集中し、導線間の電流密度は低下する。
【0045】
図7に示されるように、丸線72をスパイラル状に2巻きだけ巻いたコイルに対して通電した場合、そのコイルの巻き窓において電流密度の高い領域60は各丸線72の他の丸線72から遠い表面近傍のみに集中する。即ち、丸線72の線間(境界)近傍には電流密度の高い領域60は現れない。図7に示される例は、丸線72をスパイラル状に2巻きだけ巻いてなるコイルに関するものであるが、例えば、丸線72をソレノイド状に2巻きだけ巻いてなるコイルの場合も同様であり、また、丸線72に代えて角線をソレノイド状又はスパイラル状に2巻きだけ巻回してコイルを構成したような場合も同様である。
【0046】
事象4:互いに直列に接続されている3本以上の導線が一列に近接して配置され且つそれらの導線に同方向の電流が流れている場合、最も外側に位置する導線においては外側に電流が集中し、それ以外の導線においては他の導線との境界部分に電流が集中する。
【0047】
例えば、図8に示されるように、角線74をスパイラル状に3巻きだけ巻いたコイルに通電した場合、電流密度の高い領域60は、最外周の表面のみではなく線間にも表れる。図9に示されるように、丸線72をスパイラル状に3巻きだけ巻いたコイルに通電した場合も同様である。これら図8及び図9の例のように、互いに直列に接続された3本の導線(角線74及び丸線72)が一列に近接配置されると、一の導線に流れる電流によってその導線と隣接する導線内に逆方向に向かう電流が誘導されることとなり、導線間における交流損失が増大してしまう。なお、図8及び図9に示された例は、角線74や丸線72をスパイラル状に巻回したコイルに関するものであるが、例えば、角線74や丸線72をソレノイド状に巻回したコイルの場合も同様である。また、図8及び図9に示される例では角線74及び丸線72を3巻きだけ巻回してコイルを構成しているが、3巻き以上巻回しても同様である。
【0048】
事象5:互いに並列に接続された3本以上の導線が一列に近接して配置されている場合、最も外側に位置する導線においては外側に電流が集中し、それ以外の導線においては電流の集中は生じない。
【0049】
例えば、図10に示されるように、互いに並列に接続された3本の角線74を一列に近接配置して、それら角線74に通電した場合、電流密度の高い領域60は、最外周の表面のみに現れる。即ち、角線74の線間(境界部分)には電流密度の高い領域60は現れない。図11に示されるように、互いに並列に接続された3本の丸線72を一列に近接配置して、それら丸線72に通電した場合も同様である。図10及び図11では角線74や丸線72を3本のみ近接配置した例を示しているが、4本以上並置しても同様である。
【0050】
図10及び図11と図6から理解されるように、互いに並列に接続された複数の導線(丸線72や角線74など)を一列に近接配置した状態でそれら導線に通電すると、平角線70に通電した場合と同様の交流電流分布となる。これを利用すると、複数の安価な丸線72で平角線70と同様の結果を得ることができる。
【0051】
事象6:事象4に示される条件と他の事象1〜3及び5に示される条件とが同時に成立する場合、他の事象1〜3及び5が優先する。
【0052】
例えば、図6に示されるような事象2の条件を満たす平角線70を用いて、図12左に示されるエッジワイズ巻きのコイルを構成した場合や、図12右に示されるフラットワイズ巻きのコイルを構成した場合、各平角線70の幅方向(平角線70の断面における長手方向)の両端に電流密度の高い領域60が現れる。即ち、図12左のエッジワイズ巻きのコイル30aの場合、巻き窓34aのr方向(巻き軸と直交する方向)における両端に電流密度の高い領域60が集中し、図12右のフラットワイズ巻きのコイル30bの場合、巻き窓34bのZ方向(巻き軸の延びる方向)における両端に電流密度の高い領域60が集中する。
【0053】
同様に、図11に示されるような事象5の条件を満たす複数の丸線72でコイル部50c,50dを構成すると共に複数のコイル部50c,50dを用いて、図13に示されるようなコイル30c,30dを構成した場合、r方向(巻き軸と直交する方向)又はZ方向(巻き軸の延びる方向)における両端に電流密度の高い領域60が現れる。なお、図13左に示されるコイル30cは互いに巻き径の異なるソレノイド状のコイル部50cを同心円状に配置してなるものであり、点線で示されるように互いに並列に接続されている。即ち、巻き窓34cにおいて一列を構成する断面は一本の丸線72に属する(一つのコイル部50cに属する)ものである。一方、図13右に示されるコイル30dはスパイラル状に巻回されたコイル部50dをZ方向に積層してなるものであり、点線で示されるように互いに並列に接続されている。即ち、巻き窓34dにおいて一行を構成する断面は一本の丸線72に属する(一つのコイル部50dに属する)ものである。
【0054】
更に、図13に示される例において丸線72を平角線に変更したとしても同様の結果が得られる。
【0055】
例えば、図14に示されるように、フラットワイズ巻きのコイル部50eをZ方向(巻き軸の延びる方向)に沿って複数積層しつつ点線で示されるように並列接続してコイル30eを構成した場合、巻き窓34eにおいてはZ方向の両端のみに電流密度の高い領域60が現れる。同様に、図15に示されるように、エッジワイズ巻きのコイル部50fをr方向に同心円状に複数配置しつつ点線で示されるように並列接続してコイル30fを構成すると、巻き窓34fにおいてはr方向の両端のみに電流密度の高い領域60が現れる。これら図14及び図15の例と図12に示される例とを比較すれば理解されるように、並列接続された複数のコイル部50e,50fからなるコイル30e,30fにおいては、アスペクト比の大きい平角線からなるコイルと同様の交流電流分布が得られる。アスペクト比の大きい平角線でコイルを構成すると、その端部又は端末をエッジワイズ曲げして処理することができないなど取り扱い上において問題となることが多いが、複数のコイル部50e,50fを並列接続した場合、アスペクト比の大きい平角線と同様の交流電流分布を得つつ端末処理等を問題なく行うことができる。加えて、複数のコイル部を並列接続して、コイル(サブコイル)を得た場合、コイル部間に働くローレンツ力の大幅な低下によりコイル部品における振動やそれに起因した騒音を低減することができる。
【0056】
上述した例においては、1つのコイル部のみからなるコイル30a,30bや複数のコイル部を並列接続してなるコイル30c〜30fについて説明してきたが、かかるコイル30a〜30fをサブコイル40とし、図16及び図17に示されるように、単一の巻き軸(即ち、共通の巻き軸)を有するように2つのサブコイル40を近接配置して1つのコイル30g,30hを構成することとしてもよい。換言すると、上述したコイル30a〜30fは、1つのサブコイルのみからなるものであると考えることもできる。
【0057】
更に、いずれのコイル30g,30hにおいてもサブコイル40同士を直列接続することとしてもよい。サブコイル40同士が直列に接続されている場合であっても事象3から理解されるようにサブコイル40の数が2つのみである場合、サブコイル40間の境界には電流密度の高い領域60が現れない。もし3つのサブコイル40を直列に接続してしまった場合には事象4から予想されるようにサブコイル40の境界部分にも電流密度の高い領域が現れてしまい、コイル全体としては損失を低く抑えることができない恐れもある。従って、サブコイル40は、多くても2つでなければならない。
【0058】
図18乃至図20を参照すると、コイル30i〜30kは夫々サブコイル40i〜40kを2つ直列接続してなるものである。図18のコイル30iは、平角線70をフラットワイズ巻きしてなるコイル部50i〜50iを2つ積層してなるサブコイル40iを2つ用意し、それらをZ方向に積層した上で直接に接続してなるものである。図18において、コイル部50i〜50iの接続関係は点線で示されている。図19のコイル30jは、平角線70をフラットワイズ巻きしてなるコイル部50j〜50jを3つ積層してなるサブコイル40jを2つ用意し、それらをZ方向に積層した上で直接に接続してなるものである。図19において、コイル部50j〜50jの接続関係は点線で示されている。図20のコイル30kは、平角線70をエッジワイズ巻きしてなるコイル部50k〜50kを2つ同心円状に近接配置してなるサブコイル40kを2つ更に同心円状に近接配置した上で直列に接続してなるものである。図20において、コイル部50k〜50kの接続関係は点線で示されている。図18乃至図20のいずれにおいても、対をなすサブコイル40i〜40k同士に含まれるコイル部の数は互いに等しく、接続関係はサブコイル40i〜40k間の境界部分に対して対象となるように構成されている。これにより、コイル30i〜30kの巻き窓34i〜34kのZ方向又はr方向のいずれかの両端に電流密度の高い領域60を効率よく集中させることができる。
【0059】
以上説明した本実施の形態によるコイル部品のコイルの構造的条件についてまとめると、本実施の形態によるコイル部品のコイルは、2つ以下のサブコイルのみを備えるものである。即ち、コイルは、サブコイルを1つのみからなるものであるか、サブコイルを2つのみからなるものである。コイルが2つのサブコイルからなる場合、それらのサブコイルは、単一の巻き軸を共通の巻き軸とし且つ互いに近接配置されている。
【0060】
各サブコイルは、1又は複数のコイル部を備えている。一つのサブコイルに含まれるコイル部の数が2以上である場合、それらコイル部は互いに並列に接続され、近接配置されている。例えば、2つのサブコイルを巻き軸の延びる方向(Z方向)において並置する場合には、それらサブコイルは、巻き軸の延びる方向(Z方向)においてサブコイルを構成するコイル部の接続関係が2つのサブコイル間の境界を挟んで互いに対称となるように配置されていることが好ましい。一方、2つのサブコイルを巻き軸と直交する方向(r方向)において例えば同心円状に配置する場合には、それらサブコイルは、巻き軸と直交する方向(r方向)においてサブコイルを構成するコイル部の接続関係が2つのサブコイル間の境界を挟んで互いに対称となるように配置されていることが好ましい。
【0061】
各コイル部は、1層又は2層のソレノイド状に巻回された導線又は1層又は2層のスパイラル状に巻回された導線からなるものである。損失をより低くするためには、各コイル部を1層のソレノイド状に巻回された導線又は1層のスパイラル状に巻回された導線のみで構成することが好ましいが、生産性の観点からは各コイル部を2層のソレノイド状に巻回された導線又は2層のスパイラル状に巻回された導線で構成することが好ましい。但し、例えば、導線をソレノイド状に巻回する場合、巻き軸方向の端部で2度ほど折り返して3層以上としてしまうと層間において無視できない損失が生じてしまう。同様の理由により、コイル部を直列に接続してしまうと、コイル部間において無視できない損失が生じてしまう恐れがある。従って、サブコイルを構成するコイル部が2つ以上である場合、それらコイル部は互いに並列接続されていなければならない。
【0062】
なお、各コイル部を構成する導線は、巻き軸の延びる方向(Z方向)又は巻き軸と直交する方向(r方向)の少なくともいずれか一方において、コイル部品を駆動する駆動周波数fにおける表皮深さδの4倍以下のサイズを有することが必要とされる。即ち、例えば、丸線の場合には表皮深さδの4倍以下の直径を有しており、平角線の場合には表皮深さδの4倍以下の板厚を有していることが必要とされる。より効果的な線間における損失抑制を実現したい場合、導線は、巻き軸の延びる方向(Z方向)又は巻き軸と直交する方向(r方向)の少なくともいずれか一方において、表皮深さδの2倍以下のサイズを有することが好ましい。即ち、丸線の場合には表皮深さδの2倍以下の直径を有していることが好ましく、平角線の場合には表皮深さδの2倍以下の板厚を有していることが好ましい。
【0063】
かかる構造的条件を満たす本実施の形態によるコイル部品のコイルのいずれの巻き窓においても、コイルに通電した場合の交流電流分布が表面近傍のみに集中することとなる。特に、本実施の形態において図示してきたような例によると、交流電流分布は、巻き軸の延びる方向(Z方向)における巻き窓の両端近傍のみ又は巻き軸と直交する方向(r方向)における巻き窓の両端近傍のみに集中する。いずれの場合にも、巻き窓内部に位置する導線間などにおいて電流密度の高い部分が生じることはなく、従って、巻き窓内部において無視できない損失が生じることを抑制することができる。
【0064】
特定の方向(上述した例ではZ方向又はr方向)における巻き窓の両端近傍のみに電流密度の高い領域が存在するような偏った電流密度分布を確実に得るため、その特定の方向におけるサブコイルのサイズが所定の条件を満たしていることが好ましい。
【0065】
例えば、図12右に示されるように平角線70をフラットワイズ巻きしてコイル部を構成し、そのコイル部を1つ用いてサブコイルを構成した場合であって、コイルが1つのサブコイルのみからなる場合、巻き軸の延びる方向(Z方向)における平角線70のサイズ(即ち、平角線70の幅)の1/2が表皮深さδよりも大きいことが好ましい。図14を用いて説明したように、2つ以上のコイル部50eを並列接続して近接配置したものは、1つのコイル部と同様の交流電流分布を示す。かかる場合、巻き軸の延びる方向(Z方向)における平角線70のサイズの総和の1/2が表皮深さδよりも大きいことが好ましい。
【0066】
また、図12左に示されるように平角線70をエッジワイズ巻きしてコイル部を構成し、そのコイル部を1つ用いてサブコイルを構成した場合であって、コイルが1つのサブコイルのみからなる場合、巻き軸と直交する方向(r方向)における平角線70のサイズ(即ち、平角線70の幅)の1/2が表皮深さδよりも大きいことが好ましい。図15に示されるように2つ以上のコイル部50fを並列接続して近接配置してなるサブコイルの場合、巻き軸と直交する方向(r方向)における平角線70のサイズの総和の1/2が表皮深さδよりも大きいことが好ましい。
【0067】
更に、図13左に示されるように、丸線72を1層のソレノイド状に巻回して構成されたコイル部50cであって互いに巻き径(巻き軸から丸線までの距離)の異なるコイル部50cを複数用意して、巻き軸を中心としてそれら複数のコイル部50cを同心円状に配置すると共に互いに並列に接続してサブコイルを構成した場合であって、コイル30cが1つのサブコイルのみからなる場合、巻き軸と直交する方向(r方向)におけるコイル部50cの丸線72の直径の総和(即ち、図13左に示される巻き窓34cのr方向のサイズ)の1/2は、表皮深さδよりも大きいことが好ましい。
【0068】
同様に、図13右に示されるように、丸線72を1層のスパイラル状に巻回して構成されたコイル部50dを複数用意して、巻き軸の延びる方向(Z方向)に沿ってそれら複数のコイル部50dを積層すると共に互いに並列に接続してサブコイルを構成した場合であって、コイル30dが1つのサブコイルのみからなる場合、巻き軸の延びる方向(Z方向)におけるコイル部50dの丸線72の直径の総和(即ち、図13右に示される巻き窓34dのZ方向のサイズ)の1/2は、表皮深さδよりも大きいことが好ましい。
【0069】
図16及び図17に示されるように、サブコイル40を2つ備える場合にあっては、電流密度分布の高い領域が両端に表れるような方向におけるサイズの小さいサブコイル40と表皮深さδとの関係を調整することが好ましい。
【0070】
例えば、図16に示されるコイル30gは、巻き軸の延びる方向(Z方向)にサブコイル40が積層されており、かかるコイル30gの巻き窓においては巻き軸の延びる方向(Z方向)の両端に電流密度の高い領域が現れる。このケースにおいて、巻き軸の延びる方向(Z方向)におけるサブコイル40のサイズl、lについてサイズlがサイズlよりも小さいときには(l<l)、小さい方のサイズlが表皮深さδよりも大きい(従って、大きい方のサイズlは当然に表皮深さδより大きい)ことが好ましい。
【0071】
ここで、サブコイル40のサイズl,lは、例えば、一本の平角線をフラットワイズ巻きしてなるサブコイルの場合には、平角線の幅(Z方向における平角線のサイズ)に対応している。また、平角線をフラットワイズ巻きしてなるコイル部を複数用いてサブコイルを構成した場合には、平角線の幅(Z方向における平角線のサイズ)の総和となる。例えば、図18に示されるようなコイル30iにおいて、各サブコイル40iのサイズl,lは、コイル部50iを構成する平角線70の幅とコイル部50iを構成する平角線70の幅との和又はコイル部50iを構成する平角線70の幅とコイル部50iを構成する平角線70の幅との和となる。
【0072】
図17に示されるコイル30hは、巻き軸と直交する方向(r方向)においてサブコイル40が同心円状に近接配置されており、かかるコイル30hの巻き窓においては巻き軸と直交する方向(r方向)の両端に電流密度の高い領域が現れる。このケースにおいて、巻き軸と直交する方向(r方向)におけるサブコイル40のサイズl、lについてサイズlがサイズlよりも小さいときには(l<l)、小さい方のサイズlが表皮深さδよりも大きい(従って、大きい方のサイズlは当然に表皮深さδより大きい)ことが好ましい。
【0073】
サブコイル40のサイズl,lは、例えば、一本の平角線をエッジワイズ巻きしてなるサブコイルの場合には、平角線の幅(r方向における平角線のサイズ)に対応している。また、平角線をエッジワイズ巻きしてなるコイル部を複数用いてサブコイルを構成した場合には、平角線の幅(r方向における平角線のサイズ)の総和となる。例えば、図20に示されるようなコイル30kにおいて、各サブコイル40kのサイズl,lは、コイル部50kを構成する平角線70の幅とコイル部50kを構成する平角線70の幅との和又はコイル部50kを構成する平角線70の幅とコイル部50kを構成する平角線70の幅との和となる。
【0074】
更に、図16や図17に示されるようなコイル30g,30hを丸線で構成した場合、サブコイル40のサイズl,lは、夫々、Z方向やr方向(その方向における両端に電流密度の高い領域が存在するような方向)において一列に並べられた丸線の直径の総和となる。
【0075】
なお、上述したサブコイル40のサイズl,lについて、所望の交流電流分布を得るためには、大きい方のサイズlが小さい方のサイズlの5倍以下である(即ち、5l≧lを満たす)ことが好ましい。
【0076】
上述したように、本実施の形態によるコイルは巻き窓の表面近傍に電流密度の高い領域を集中させることができる。即ち、コイルにおいて発熱する可能性のある領域を予め特定することができる。従って、その近傍にヒートシンクを配置しておくと、効率的に放熱させることができ、コイルの熱劣化を抑制することができる。図21に示されるコイル部品10mは、コイル30mと、熱伝導率特性の高いアルミニウムからなるケース80と、Z方向においてケース80に隣接して設けられたヒートシンク90とを備えている。コイル30mは、巻き窓34mのZ方向(巻き軸の延びる方向)の両端のみに電流密度の高い領域60を有するものであり、従って、ケース80を介してヒートシンク90により効率的に冷却される。
【符号の説明】
【0077】
10,10m コイル部品
20 磁性体
30,30a〜30k,30m コイル
32 巻き軸
34,34a〜34f,巻き窓34i〜34k,34m 巻き窓
40,40i〜40k サブコイル
50c〜50f,50i〜50k コイル部
60 領域
70 平角線
72 丸線
74 角線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は2つのサブコイルのみからなるコイルであって単一の巻き軸を有するコイルを備えるコイル部品であって、
前記サブコイルは、1つのコイル部のみ又は2つ以上のコイル部を並列接続してなるもののみからなるものであり、
前記コイル部は、1層又は2層のソレノイド状に巻回された導線又は1層又は2層のスパイラル状に巻回された導線からなるものであり、
前記巻き軸を含む平面で切った場合の前記コイルの2つの断面からなる巻き窓のいずれにおいても、前記コイルに通電した場合の交流電流分布が表面近傍のみに集中している
コイル部品。
【請求項2】
請求項1記載のコイル部品であって、
前記導線は、前記巻き軸の延びる方向又は前記巻き軸と直交する方向の少なくともいずれか一方において、前記コイル部品を駆動する駆動周波数における表皮深さの2倍以下のサイズを有している
コイル部品。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のコイル部品であって、
前記交流電流分布は、前記巻き軸の延びる方向における前記巻き窓の両端近傍のみ又は前記巻き軸と直交する方向における前記巻き窓の両端近傍のみに集中している
コイル部品。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のコイル部品であって、
前記コイルは、2個の前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイルは、前記サブコイルを直列接続してなるものである
コイル部品。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のコイル部品であって、
前記導線は、前記表皮深さの2倍以下の直径を有する丸線又は前記表皮深さの2倍以下の板厚を有する平角線からなる
コイル部品。
【請求項6】
請求項5記載のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイル部は、前記平角線をフラットワイズ巻きしてなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記平角線のサイズの総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項7】
請求項5記載のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイル部は、前記平角線をフラットワイズ巻きしてなるものであり、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記平角線のサイズの総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項8】
請求項7記載のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記サイズの総和の大きい方は、前記サイズの総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品。
【請求項9】
請求項5記載のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記コイル部は、前記平角線をエッジワイズ巻きしてなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記平角線のサイズの総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項10】
請求項5記載のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記巻き軸と直交する方向において、一方の前記サブコイルは、他方の前記サブコイルの外側に位置しており、
前記コイル部は、前記平角線をエッジワイズ巻きしてなるものであり、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記平角線のサイズの総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項11】
請求項10記載のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記サイズの総和の大きい方は、前記サイズの総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品。
【請求項12】
請求項5記載のコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記コイル部を複数備えており、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の夫々は、前記丸線を1層又は2層のソレノイド状に巻回してなるものであって、前記巻き軸から前記丸線までの距離が他の前記コイル部と異なるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部は、前記巻き軸を中心として同心円状に配置され、且つ、互いに並列に接続されている
コイル部品。
【請求項13】
請求項12記載のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記丸線の直径の総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項14】
請求項12記載のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記巻き軸と直交する方向において、一方の前記サブコイルは、他方の前記サブコイルの外側に位置しており、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸と直交する方向における前記丸線の直径の総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項15】
請求項14記載のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記直径の総和の大きい方は、前記直径の総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品。
【請求項16】
請求項5記載のコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記コイル部を複数備えており、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の夫々は、前記丸線を1層又は2層のスパイラル状に巻回してなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部は、前記巻き軸の延びる方向に沿って積層されており、且つ、互いに並列に接続されている
コイル部品。
【請求項17】
請求項16記載のコイル部品であって、
前記コイルは、1つの前記サブコイルのみからなるものであり、
前記サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記丸線の直径の総和の1/2は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項18】
請求項16記載のコイル部品であって、
前記コイルは、2つの前記サブコイルのみからなるものであり、
2つの前記サブコイルにおいて、該サブコイルを構成する前記コイル部の前記巻き軸の延びる方向における前記丸線の直径の総和の小さい方は、前記表皮深さよりも大きい
コイル部品。
【請求項19】
請求項18記載のコイル部品であって、
2つの前記サブコイルにおいて、前記直径の総和の大きい方は、前記直径の総和の小さい方の5倍以下である
コイル部品。
【請求項20】
請求項6乃至請求項8並びに請求項16乃至請求項19のいずれかに記載のコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記巻き軸の延びる方向において前記サブコイルを構成する前記コイル部の接続関係が前記サブコイル間の境界を挟んで互いに対称となるように配置されている
コイル部品。
【請求項21】
請求項9乃至請求項15のいずれかに記載のコイル部品であって、
前記サブコイルは、前記巻き軸と直交する方向において前記サブコイルを構成する前記コイル部の接続関係が前記サブコイル間の境界を挟んで互いに対称となるように配置されている
コイル部品。
【請求項22】
請求項1乃至請求項21のいずれかに記載のコイル部品であって、
前記駆動周波数を50kHz以下として設計された
コイル部品。
【請求項23】
請求項1乃至請求項22のいずれかに記載のコイル部品であって、
前記巻き窓の前記表面近傍に対向するように位置するヒートシンクを更に備える
コイル部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−26589(P2013−26589A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162825(P2011−162825)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】