説明

コウジ酸骨格を有するポリウレタン化合物

【課題】効果的にコウジ酸由来の機能を発現できる、主鎖骨格中にコウジ酸またはその誘導体を含む新規なポリウレタン化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるポリウレタン化合物は、コウジ酸由来の機能、例えば、金属捕捉剤として用いることができる。


(式中、Rは、水素または水酸基の保護基を示し、Rは、アルキル基、またはアラルキル基を示し、Rは、1〜4個の芳香環を鎖中に含んでいてもよいアルキレン基、またはフェニレン基を示し、nは整数を示す。)

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、主鎖骨格中にコウジ酸またはその誘導体を含む、新規なポリウレタン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
複素環化合物であるコウジ酸は、抗菌作用、抗酸化作用、重金属との配位形成能等を有することが知られている。
【0003】
このような機能性低分子化合物を高分子化できれば、機能の持続性の向上や安定化が期待できるばかりでなく、高分子樹脂は、簡易かつ安価に繊維状、膜状、粒子状に加工できることから、機能性化合物を種々の用途に適用させることができ、さらにはリサイクル化も可能となる。
【0004】
機能性低分子化合物であるコウジ酸を用いた高分子化合物が提案されている。例えば、特開昭46−34116号公報(特許文献1)には、コウジ酸とホルマリンとフェノールとを共重合させたノボラック樹脂が開示されている。また、本発明者らの一部は、側鎖にコウジ酸二量化誘導体を結合させた高分子化合物を提案している(特開平8−245772号公報:特許文献2)。
【特許文献1】特開昭46−34116号公報
【特許文献2】特開平8−245772号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、今般、コウジ酸またはその誘導体と、特定構造のイソシアネートとを付加重合反応させることにより、効果的にコウジ酸由来の機能を発現できる、主鎖骨格中にコウジ酸またはその誘導体を含む新規なポリウレタン化合物が得られるとの知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0006】
したがって、本発明は、効果的にコウジ酸由来の機能を発現できる、主鎖骨格中にコウジ酸またはその誘導体を含む新規なポリウレタン化合物を提供することをその目的としている。
【0007】
そして、本発明によるポリウレタン化合物は、下記一般式(I)で表されるものである。
【化1】

(式中、
は、水素または水酸基の保護基を示し、
は、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を示し、
は、炭素数1〜20のアルキレン基、1〜4個の芳香環を鎖中に含む炭素数1〜20のアルキレン基(該芳香環またはアルキレン基上の1以上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい)、またはフェニレン基(該フェニレン基は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい)を示し、
nは整数を示す。)。
【0008】
本発明による新規なポリウレタン化合物は、効果的にコウジ酸由来の機能を発現でき、例えば、金属との配位能による金属捕捉剤として有利に用いることができる。
【発明の具体的説明】
【0009】
定義
本明細書において、基または基の一部としてのアルキル基は、直鎖または分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0010】
また、ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を意味する。
【0011】
コウジ酸骨格を有するポリウレタン化合物
本発明によるポリウレタン化合物は、上記一般式(I)で表される構造を有する、主鎖骨格中にコウジ酸またはその誘導体を含むものである。
【0012】
一般式(I)において、Rが表す水酸基の保護基は、慣用されている保護基から適宜選択されてよいが、例えば、その具体例として、炭素数1〜20のアルキル基(好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基(好ましくは炭素数2〜10のアルキルカルボニル基、より好ましくは炭素数2〜6のアルキルカルボニル基)、炭素数2〜20のオキシアルキレン基(好ましくは炭素数2〜10のオキシアルキレン基、より好ましくは炭素数2〜6のオキシアルキレン基)、炭素数7〜15のアラルキル基(このアラルキル基は置換されていてもよく、置換基としては、ベンジル基、ジフェニルメチル基、トリチル基、4−メトキシベンジル基、4−ニトロベンジル基、2−ニトロベンジル基などが挙げられる)、テトラヒドロピラニル基、およびシリル保護基などが挙げられる。シリル保護基としては、炭素数1〜20のトリアルキルシリル基が好ましく、より好ましくは、tert-ブチルジメチルシリル基である。
【0013】
また、一般式(I)において、Rは、炭素数1〜20のアルキル基(好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、より好ましくは炭素数1〜6のアルキル基)、または炭素数7〜15のアラルキル基を表す。
【0014】
また、Rが表す炭素数1〜20のアルキレン基は、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、好ましくは3〜10のアルキル基を表す。さらに、このアルキレン基は環状構造とっていてもよく、この場合の炭素数は4〜8が好ましい。
【0015】
また、Rが表す1〜4個の芳香環を鎖中に含む炭素数1〜20のアルキレン基は、好ましくは基−(CH−Ph−(CH−(ここで、Phはフェニレン基を表し、jおよびkは独立して1〜20の整数を表すが、但しj+k≦20であり、好ましくはそれぞれ1〜4の整数を表す)または基−Ph−(CH−Ph−(ここで、Phはフェニル基を表し、mは1〜20の整数を表し、好ましくは1〜4の整数を表す)を表す。これら芳香環またはアルキレン基上の1以上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0016】
また、Rが表すフェニレン基は、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0017】
本発明の好ましい態様によれば、好ましいRの具体例としては、4,4‘−メチレンビスフェニレン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルフェニレン)、1,6−ヘキサメチレン、1,4−シクロヘキシレン、および、1,3−フェニレンビス(1−メチルエチレン)などが挙げられる。
【0018】
一般式(I)においてnは整数を示し、好ましくはその下限が1であり、より好ましくは2であり、その上限は15であり、より好ましくは7である。
【0019】
ポリウレタン化合物の製造方法
本発明によるポリウレタン化合物は、コウジ酸の二量体モノマーである下記一般式(II)で表される化合物と、特定構造を有する下記一般式(III)で表されるジイソシアナート化合物との重付加反応によって得られる。
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ前記一般式(I)中のRおよびRと同義である。)
【化3】

(式中、Rは前記一般式(I)中のRと同義である。)
【0020】
本発明においては、コウジ酸に含まれる2つの水酸基のうち、アルキル性水酸基であるヒドロキシメチル基が優先的にイソシアナートと反応するため、他方のフェノール性水酸基をシリル化等で保護しなくとも、コウジ酸のヒドロキシメチル基とイソシアナートとの重付加反応が進行する。
【0021】
上記の一般式(II)で表される化合物は、コウジ酸とアルデヒド類とから容易に合成することができ、具体的には、Barhamらの方法(J. Amer. Chem. Soc., 60巻、1541頁、1938年)やYamatoらの方法(J. Med. Chem., 28巻、1026頁、1985年)に準じて合成することができる。上記の反応によってコウジ酸二量体を得る場合、Rは、アルキル基であることが好ましく、より好ましくはプロピル基である。
【0022】
上記の一般式(III)で表されるイソシアナート化合物としては、得られるポリウレタンの溶解性等を考慮して適宜選択できるが、本発明においては、式中のRが、4,4‘−メチレンビスフェニレン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルフェニレン)、1,6−ヘキサメチレン、1,4−シクロヘキシレン、および、1,3−フェニレンビス(1−メチルエチレン)であるイソシアナートを用いることが好ましい。
【0023】
上記一般式(II)と(III)とを重付加反応させる際の溶媒としては、特に限定されるものではないが、本発明においては、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、酢酸エチルのようなエステル類、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、さらにアセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどを好ましく使用でき、これらの中でも、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、2−ブタノンが特に好ましい。
【0024】
重付加反応を行う際の反応温度としては、10〜190℃が好ましく、特に30〜120℃が好ましい。
【0025】
また、上記の反応は、反応触媒がない状態でも進行するが、反応促進の観点からは反応触媒を併用することが好ましく、触媒添加によって重付加反応が円滑に進行する。本発明においては、反応触媒として、二酢酸ジブチルスズが好ましく用いられる。
【0026】
ポリウレタン化合物の用途/金属捕捉剤
本発明によるポリウレタン化合物は、コウジ酸またはその誘導体を主鎖骨格に含むものであり、コウジ酸由来の機能を発現することができる。とりわけ、コウジ酸は金属イオンとの錯体を形成するため、本発明によるポリウレタン化合物は、重金属等の補足能を有する。例えば、本発明によるポリウレタン化合物は、鉄、マンガン、銅等の金属イオンとキレートを形成し得るため、金属捕捉剤として使用することができる。
【0027】
さらに、このポリウレタンは、繊維状、膜状、粒子状などの形態に成形可能であるため、種々の用途に応じて簡易かつ安価に適した形態に成形することができる。
【0028】
また、コウジ酸を高分子化することで、金属捕捉剤をより効率的に回収または再利用することができる。
【実施例】
【0029】
本発明を、実施例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲が、これら実施例により限定されるものではない。
【0030】
実施例1
(1)コウジ酸二量体の調製
上記したBarhamらの方法やYamatoらの方法に従い、コウジ酸、ブタナール、および炭酸ナトリウムをエタノールに混合し、24時間還流を行うことにより、上記一般式(II)で表される化合物(式中のRが水素であり、Rがプロピル基である)である、コウジ酸二量体(以下、BKADとも言う。)を得た。
【0031】
(2)ポリウレタンの合成
コウジ酸モノマーとして、得られたBKADを0.338gと、イソシアナートとして1,3−ビス(イソシアネート−1−メチルエチル)ベンゼンを0.252gと、触媒として二酢酸ジブチルスズを5.32μlと、溶媒としてTHFを2mlとをこの順でナスフラスコに加えた。この反応溶液を70℃で96時間還流させて重付加反応を進行させた。この後、この反応溶液をジエチルエーテル中に注ぎ、生じた沈殿を濾過することにより、目的のポリウレタン0.115gを得た。収率は37%であった。
【0032】
得られたポリウレタンの分子量を測定したところ、数平均分子量は約1100であった。
【0033】
また、得られたポリウレタンについて、NMRおよび赤外吸収スペクトル(IR)の測定を行い、構造の同定を行った。結果は以下に示される通りであった。
H−NMR(DMSO−d、δppm)ピーク: 0.87 (d, 3H)、1.24 (m, 2H)、1.49 (m, 12H)、1.91 (m, 2H)、4.54 (m, 1H)、4.79 (m, 4H)、6.35 (s, 2H)、7.13-7.41 (m, 3H)、7.76-7.96、8.18-8.35、9.04-9.34.
IR(KBr、cm−1)ピーク: 3319、1733、1659
【0034】
(3)金属捕捉性能の評価
得られたポリウレタンの金属捕捉性能を評価するため、ポリウレタンを塩化第二鉄(III)のDMF溶液中に加えて、溶液の色の変化を調べた。その結果、溶液は黄色から赤色へと変色し、金属キレートが形成されていることが確認された。
【0035】
また、上記溶液のポリウレタン添加前後における紫外可視吸収スペクトルを測定した。その結果、ポリウレタン添加の前後において、塩化第二鉄(III)のd→d遷移に由来するλmax=360nmの吸収が減少するとともに、新たに400〜600nm(λmax=485nm)の範囲での吸収がみられた。
【0036】
一方、出発原料であるBKADの金属錯体形成能についても同様に評価したところ、ポリウレタンと同様の吸収ピークを示していた。
【0037】
また、他の金属種についても錯体形成能を調べるため、塩化第二鉄の替わりに、酢酸マンガン(II)および酢酸銅(II)を用いて、上記と同様にして溶液の色を調べた。
【0038】
その結果、酢酸マンガン(II)溶液では橙色に、酢酸銅(II)では緑色に変色するのを確認できた。
【0039】
以上の結果から明らかなように、得られたポリウレタン化合物は金属との錯体を形成することができ、コウジ酸二量体モノマーと同様の金属捕捉能を有していることがわかった。
【0040】
実施例2
コウジ酸モノマーとして実施例1で使用したBKADを0.338gと、イソシアナートとして4,4−メチレンビス(4−フェニルイソシアナート)を0.250gと、触媒として二酢酸ジブチルスズを5.32μlと、溶媒としてTHFを2mlとをこの順でナスフラスコに加えた。この反応溶液を24時間還流させて重付加反応を進行させ、実施例1と同様にしてポリウレタン0.441gを得た。収率は75%であった。
IR(KBr、cm−1)ピーク:3324、1739、1662
【0041】
実施例3
コウジ酸モノマーとして実施例1で使用したBKADを0.338g、イソシアナートとして4,4−メチレンビス(2,6−ジエチルフェニルイソシアナート)を0.362gとを用いて、実施例2と同様の条件にて重付加反応を進行させ、ポリウレタン0.0561gを得た。収率は8%であった。
IR(KBr、cm−1)ピーク: 3286、1716、1635
【0042】
実施例4
コウジ酸モノマーとして実施例1で使用したBKADを0.338g、イソシアナートとして1,6−ヘキサメチレンジイソシアナートを0.506gを用いて、上記と同様の条件にて重付加反応を進行させ、ポリウレタン0.405gを得た。収率は80%であった。
IR(KBr、cm−1)ピーク: 3330、1732、1661
【0043】
実施例5
コウジ酸モノマーとして実施例1で使用したBKADを0.338g、イソシアナートとして1,4−シクロヘキシルジイソシアナートを0.166gを用いて、上記と同様の条件にて重付加反応を進行させ、ポリウレタン0.424gを得た。収率は84%であった。
IR(KBr、cm−1)ピーク: 3325、1731、1660

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される、ポリウレタン化合物:
【化1】

(式中、
は、水素または水酸基の保護基を示し、
は、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数7〜15のアラルキル基を示し、
は、炭素数1〜20のアルキレン基、1〜4個の芳香環を鎖中に含む炭素数1〜20のアルキレン基(該芳香環またはアルキレン基上の1以上の水素原子は、炭素数1〜6のアルキル基またはハロゲン原子で置換されていてもよい)、またはフェニレン基(該フェニレン基は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、またはハロゲン原子で置換されていてもよい)を示し、
nは整数を示す。)。
【請求項2】
が表す保護基が、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルキルカルボニル基、炭素数2〜20のオキシアルキレン基、置換されていてもよい炭素数7〜15のアラルキル基、テトラヒドロピラニル基、およびシリル保護基からなる群から選択されるものである、請求項1に記載のポリウレタン化合物。
【請求項3】
が、4,4‘−メチレンビスフェニレン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルフェニレン)、1,6−ヘキサメチレン、1,4−シクロヘキシレン、および、1,3−フェニレンビス(1−メチルエチレン)からなる群から選択されるものである、請求項1または2に記載のポリウレタン化合物。
【請求項4】
が水素である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリウレタン化合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリウレタン化合物を製造する方法であって、
下記一般式(II):
【化2】

(式中、RおよびRは、それぞれ前記一般式(I)中のRおよびRと同義である。)
で表される化合物と、
下記一般式(III):
【化3】

(式中、Rは前記一般式(I)中のRと同義である。)
で表される化合物と、を重付加反応させること、を含んでなる、方法。
【請求項6】
コウジ酸とアルデヒド類とを脱水縮合して、前記一般式(II)で表される化合物を製造することを含んでなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリウレタン化合物を含んでなる、金属捕捉剤。

【公開番号】特開2008−120884(P2008−120884A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304379(P2006−304379)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物名、巻数、号数 高分子学会予稿集、第55巻1号 2.発行者名 社団法人 高分子学会 3.発行年月日 平成18年5月10日 〔刊行物等〕 1.刊行物名、巻数、号数 高分子学会予稿集、第55巻2号 2.発行者名 社団法人 高分子学会 3.発行年月日 平成18年9月5日
【出願人】(592055392)富士アミドケミカル株式会社 (5)
【Fターム(参考)】