説明

コネクタ製造用銅合金条

【課題】金属めっき被膜による表面処理ではなく、繰り返し挿抜に対する高い耐久性および高導電率を有する雄端子又は雌端子を製造することができるコネクタ製造用銅合金条を提供する。
【解決手段】雄端子と雌端子とを嵌合してなるコネクタの製造に使用される銅合金条であり、コネクタの嵌合時に、雄端子が雌端子と嵌合する部位、又は雌端子が雄端子と嵌合する部位となる表面3に、幅が銅合金条の基材2の幅と同等或いはそれ以下であり、厚みが10〜60μmであり、クラッドされた後の表面硬度が130Hv以上である嵌合部用金属材4がクラッドされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金条の少なくとも一方の表面の一部或いは複数部に銅合金条の基材とは異なる材質の金属或いは金属合金材がクラッドされたピン−ソケット型コネクタ製造用銅合金条に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の蓄電池の充電に使用されるような、数十〜数百アンペアという比較的大電流で使用され、1〜10N程度の比較的大きな接触荷重が加えられるピン−ソケット型コネクタには、銅あるいは銅合金からなるピン端子並びにソケット端子の表面に、耐磨耗性・耐久性を付与するために、銀(合金)、錫(合金)、ニッケル(合金)などの適切な金属めっき膜を形成するのが一般的である。
この様なコネクタにおいては、挿抜の繰り返しにより端子表面の粗さが増していき、それに伴って挿入力が増大する現象が見られ、また、屋外で使用されるコネクタでは、大小様々な塵芥が介在することにより、更に端子表面の摩耗が進み、挿入力が著しく上昇する。コネクタの挿抜が人の手による場合には、このような挿入力の増加は作業負担の増大に直結する。特に、電気自動車においては、充電を繰り返し行う必要があり、また充電用の給電スタンドが屋外に設置される場合もあることから、コネクタの端子には、繰り返し挿抜に対する高い耐久性が特に要求されている。
【0003】
これらを解決する技術として、特許文献1には、銅もしくは銅合金からなる端子基材上に、ニッケル−リン合金めっき膜を成膜してなるコネクタ用端子、並びに銅もしくは銅合金からなる端子基材上に、ニッケル−リン合金めっき膜を介して、金属めっき膜を成膜してなる、挿抜回数の増加に伴う挿入力の増加を従来よりも抑えたコネクタ用端子が開示されている。
また、特許文献2には、銅合金等の素材表面上に、表面側から順にNiまたはNi合金層、Cu層、SnまたはSn合金層を被覆した後に300〜900℃で1〜300秒のリフロー処理を施すことによって、最外側に厚さXが0.05〜2μmのSnまたはSn合金層、その内側に厚さYが0.05〜2μmのCu−Snを主体とする金属間化合物を含む合金層、更にその内側に厚さZが0.01〜1μmのNiまたはNi合金層(ここで、0.2X≦Y≦5X、且つ、0.05Y≦Z≦3Yである)が形成された耐熱性皮膜が開示されており、素材表面を被覆するための、耐熱性、成形加工性、はんだ付け性等に優れた皮膜およびその製造方法、さらにこの皮膜で被覆された電気電子部品が提供される。
また、特許文献3には、時効硬化前の析出硬化型鉄合金の片面又は両面に、銅又は銅合金をクラッドし一体化させた後、析出硬化型鉄合金の時効硬化温度で熱処理を行ない
時効硬化させることにより製造されるコネクタの端子などに使用される高強度で高導電性のクラッドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−317253号公報
【特許文献2】特開2002−226982号公報
【特許文献3】特開2008−123964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の銅或いは銅基合金のコネクタ端子部材への金属めっき被膜による表面処理では、必要とされる部位、例えば、嵌合時の雌雄端子同士の接触部分、のみへの後めっき処理が難しく、金属めっき被膜の耐剥離性や耐摩耗性の観点から、電気自動車用の充電器等のコネクタ端子部材に必要とされる繰り返し挿抜に対する高い耐久性を満たし、更に、高導電率を保持するには無理が見られていた。
【0006】
本発明者らは、金属めっき被膜による表面処理ではなく、繰り返し挿抜に対する高い耐久性および高導電率を有する雄端子又は雌端子を製造することができるコネクタ製造用銅合金条を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、必要とされる箇所への部分的な金属めっき被膜処理ではなく、部分的なクラッド材に着目し、鋭意検討の結果、銅合金条の基材の少なくとも一方の表面の一部或いは複数部のコネクタ端子部材製造時に必要とされる箇所のみに、適切な厚みと表面硬度を有する金属或いは金属合金を圧延や圧着によりクラッドすることにより、上記の問題点が解決されることを見出した。
【0008】
即ち、本発明のコネクタ製造用銅合金条は、雄端子が雌端子と嵌合する部位、及び前記雌端子が前記雄端子と嵌合する部位にそれぞれ嵌合用金属材がクラッドされたコネクタの製造に使用される銅合金条であって、前記嵌合する部位となる表面にクラッドされた前記嵌合用金属材は、幅が銅合金条の基材の幅と同等或いはそれ以下であり、厚みが10〜60μmであり、クラッドされた後の表面硬度が130Hv以上であることを特徴とする。
【0009】
この場合、銅合金条の基材の厚みは0.1〜0.7mmが適切であり、クラッドされる嵌合部用金属材の厚みが10μm未満では、雄端子或いは雌端子として使用時の耐久性が低下し、60μmを超えると効果が飽和し、コストも高くなり無駄である。クラッドされた後の嵌合部用金属材の表面硬さが130Hv未満では、雄端子或いは雌端子として使用時の耐久性、特に、耐磨耗性が低下し、220Hvを超えると、効果が飽和し、コストも高くなり無駄である。
本発明での「嵌合する部位」とは、雄端子と雌端子とが直接面接触している部分およびそれに隣接した5mm以内の面接触に寄与している部分を意味する。また、嵌合部用金属材は、純金属或いは合金のいずれをも含む。
【0010】
また、クラッド部分は、嵌合部用金属材を厚みが10〜60μmの薄板(箔)とし、銅合金条の基材の表面の必要とされる部位に重ね合せた後に、冷間圧延や冷間圧着を施し、更に熱処理して形成されることが好ましく、これにより、銅合金条の基材と嵌合部用金属材の接合界面は、異種金属間の拡散結合がなされ、金属めっき処理による接合界面に比べ、優れた耐剥離性を有し、表面硬度の高いクラッド部を容易に得ることができる。
クラッドされる嵌合部用金属材は、従来の金属めっき膜で使用される金属或いは金属合金と同様なものを使用することができるが、高耐久性および高導電率を考慮すると、銀或いは銀を主成分とする合金であることが好ましい。
【0011】
そして、本発明のコネクタ製造用銅合金条は、プレス打抜き、曲げ加工、かしめ加工等の機械的加工が施され、クラッドされた部位が、コネクタ嵌合時に雄端子が前記雌端子と嵌合する部位に、又は、雌端子が雄端子と嵌合する部位に、それぞれ使用される。これにより、繰り返し挿抜に対する高い耐久性を有することができ、特に、厳しい状況下で使用される電気自動車用充電器コネクタの製造に使用されることが好ましい。
【0012】
更に、本発明のコネクタ製造用銅合金条は、前記雄端子が外部リード線と接合する部位、及び前記雌端子が外部リード線と接合する部位にそれぞれリード線接合部用金属材がクラッドされたコネクタの製造に使用される銅合金条であって、前記接合する部位となる表面にクラッドされた前記リード線接合部用金属材は、幅が銅合金条の基材の幅と同等或いはそれ以下であり、クラッドされた後の表面硬度が130Hv以上であり、厚みが、前記嵌合用金属材より小さいことを特徴とする。
【0013】
コネクタの嵌合時に雄端子が雌端子と嵌合する部位、或いは、雌端子が雄端子と嵌合する部位のみでなく、雄端子が外部リード線と接合する部位、或いは、雌端子が外部リード線と接合する部位にも金属材をクラッドすることにより、雄端子或いは雌端子は端子全体としての強度および耐久性が増し、外部リード線とのはんだ付けなどの接合が容易になる。
また、この外部リード線と接合する部位は、かしめ加工などが施されることが多く、密着力が強固である金属材を使用することにより、加工効率が向上する。
この場合、そのクラッドされたリード線接合部用金属材の厚みは、雄端子或いは雌端子としての直接の挿抜力がかからないので、コストダウンの面からも、雄端子が雌端子と嵌合する部位、或いは、雌端子が雄端子と嵌合する部位に使用される嵌合部用金属材の厚みより小さくて良い。
本発明での「接合する部位」とは、雄端子又は雌端子が外部リード線と電気的接触を保つ部位を意味する。
【0014】
更に、本発明のコネクタ製造用銅合金条は、前記クラッドされた嵌合部用金属材、又はリード線接合部用金属材の表面を除く全表面或いは複数部に金属めっき処理が施されたことを特徴とする。
クラッドされた金属材の表面を除く銅合金条の全表面或いは複数部に金属めっき処理を施すことにより、光沢が付与されて取り扱いも容易になり、製造された雄端子或いは雌端子としての耐酸化性および耐腐食性が向上する。
【0015】
更に、本発明のコネクタ製造用の銅合金条は、前記嵌合部用金属材或いはリード線接合部用金属材がAg:49.9〜89.9質量%、Cu:10〜50質量%、残部が不純物である組成を有することを特徴とする。
銀のみのクラッドで、表面硬度を130Hv以上とするのは、コスト的に難しく、導電率を落さずに、所定の表面硬度を得るには、Ag:49.9〜89.9質量%、Cu:10〜50質量%、残部が不純物である組成を有する銀銅合金を使用することが好ましい。銅の含有量が10質量%未満では、表面硬度を上げるのが難しく、50質量%を超えると、導電率が低下する。
【0016】
更に、本発明のコネクタ製造用の銅合金条は、前記銅合金条の基材がMg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする。
この組成の銅合金条、例えば、三菱伸銅株式会社の商品名「MSP1」の条材は、良好な熱伝導性と強度を有し、熱クリープ性、耐応力腐食割れ性にも優れており、コネクタ製造用銅合金条として適している。
この銅合金条を使用することにより、更に繰り返し挿抜に対する高い耐久性および高導電率を有するコネクタ端子部材を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、金属めっき被膜による表面処理ではなく、クラッドされた金属材により、繰り返し挿抜に対する高い耐久性および高導電率を有するコネクタ端子部材を製造することができる銅合金条が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を示す雄端子用銅合金条の斜視図である。
【図2】本発明の別の実施形態を示す雌端子用銅合金条の斜視図である。
【図3】本発明のさらに別の実施形態を示すコネクタ製造用銅合金条の断面図である。
【図4】本発明のコネクタ製造用銅合金条を使用して製造されたコネクタの一実施形態を示す概略図である。
【図5】本発明のコネクタ製造用銅合金条の動摩擦係数を測定するための装置を概念的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照に、本発明のコネクタ製造用銅合金条の実施形態を詳細に説明する。
図1に示す銅合金条1は、銅合金条の基材2の一方の表面3の一部に嵌合部用金属或いは金属合金材(以下、嵌合部用金属材と称す)4が、他方の表面5にリード線接合部用金属或いは金属合金材(以下、リード線接合部用金属材と称す)6がクラッドされており、後述する雄端子7の製造に使用される。
図2の本発明の銅合金条11は、銅合金からなる条基材12の一方の表面13の一部に嵌合部用金属或いは金属合金材(以下、嵌合部用金属材と称す)14が、同じ表面13の他の部分にリード線接合部用金属或いは金属合金材(以下、リード線接合部用金属材と称す)16がクラッドされており、後述する雌端子17の製造に使用される。雌端子17では、雄端子7と嵌合する部位と外部リード線と接合する部位とが同一円面上であることが通常であり、機械的加工のし易さからも、嵌合部用金属材14とリード線接合部用金属材16とは、同一平面上に形成される。コネクタ接続時に雌端子の嵌合部用金属材14は、雄端子の嵌合部用金属材4と嵌合される。
【0020】
銅合金条の基材2、12の厚みは、一般的に0.1〜0.7mmであり、材質は、コネクタの雄端子或いは雌端子としての使用に適する導電率、強度、曲げ加工性、耐久性を有する銅或いは銅合金なら種類は問われないが、熱クリープ性、耐応力腐食割れ性などを考慮すると、Mg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する、例えば、三菱伸銅株式会社の商品名「MSP1」が特に好ましい。
雄端子7の製造に用いられる銅合金条1では、嵌合部用金属材4及びリード線接合部用金属材6は、幅が基材2と同等或いはそれ以下であり、その厚みは、10〜60μmである。厚みが10μm未満では、コネクタ雄端子として使用時の耐久性が低下し、60μmを超えると効果が飽和し、コストも高くなり無駄である。
雌端子17の製造に用いられる銅合金条11では、嵌合部用金属材14及びリード線接合部用金属材16は、幅が基材12と同等或いはそれ以下であり、その厚みは、10〜60μmである。厚みが10μm未満では、コネクタ雌端子として使用時の耐久性が低下し、60μmを超えると効果が飽和し、コストも高くなり無駄である。
【0021】
図1の銅合金条1は、所定の外形にプレス打抜きされ、矢印で示すように丸める曲げ加工、かしめ加工等の機械的加工が施されて、雄端子となり、耐久性が高く、密着力が強くて硬度の高い嵌合部用金属材4が、コネクタ嵌合時に雄端子が雌端子と嵌合する部位に使用される。これにより、繰り返し挿抜に対する高い耐久性を有することができ、特に、厳しい状況下で使用される電気自動車用充電器コネクタの製造に使用されることが好ましい。
更に、リード線接合部用金属材6は、雄端子7が外部リード線21と接合する部位に使用される。これにより、雄端子7全体としての強度および耐久性が増し、外部リード線21とのはんだ付けなどの接合が容易になる。この外部リード線21と接合する部位は、かしめ加工などを施されることが多く、密着力が強固であるリード線接合部用金属材6を使用することにより、加工効率が向上する。この場合、リード線接合部用金属材6の厚みは、雄端子7として雌端子17との直接の挿抜力がかからないので、コストダウンの面からも、嵌合部用金属材4の厚みより小さくて良い。
嵌合部用金属材4及びリード線接合部用金属材6の表面硬さは、130Hv以上である。130Hv未満では、コネクタ雄端子として使用時の耐久性、特に、耐磨耗性が低下し、220Hvを超えると、効果が飽和し、コストも高くなり無駄となる。
【0022】
図2の銅合金条11は、所定の外形にプレス打抜きされ、矢印で示すように丸める曲げ加工、かしめ加工等の機械的加工が施されて、雌端子17となり、耐久性が高く、密着力が強くて硬度の高い嵌合部用金属材14が、コネクタ嵌合時に雌端子が雄端子と嵌合する部位に使用される。これにより、繰り返し挿抜に対する高い耐久性を有することができ、特に、厳しい状況下で使用される電気自動車用充電器コネクタの製造に使用されることが好ましい。
更に、リード線接合部用金属材16は、雌端子17が外部リード線22と接合する部位に使用される。これにより、雌端子17全体としての強度および耐久性が増し、外部リード線22とのはんだ付けなどの接合が容易になる。この外部リード線22と接合する部位は、かしめ加工などを施されることが多く、密着力が強固であるリード線接合部用金属材16を使用することにより、加工効率が向上する。この場合、リード線接合部用金属材16の厚みは、雌端子17として雄端子7との直接の挿抜力がかからないので、コストダウンの面からも、嵌合部用金属材14の厚みより小さくて良い。
嵌合部用金属材14及びリード線接合部用金属材16の表面硬さは、130Hv以上である。130Hv未満では、コネクタ雌端子として使用時の耐久性、特に、耐磨耗性が低下し、220Hvを超えると、効果が飽和し、コストも高くなり無駄となる。
【0023】
雄端子7の製造に際して、嵌合部用金属材4及びリード線接合部用金属材6を銅合金の条基材2にクラッドする手法としては、これら金属材4、6を厚みが10〜60μmの薄板(箔)として、基材2の一方の表面3及び他方の表面5に重ね合わせた後に、冷間圧延や冷間圧着を施し、更に熱処理して形成されることが好ましく、これにより、条基材2と金属材4、6の接合界面は、異種金属間の拡散結合がなされ、金属めっき処理による接合界面と比べ、優れた耐剥離性を有し、表面硬度の高いクラッド部を容易に得ることができる。
これら嵌合部用金属材4及びリード線接合部用金属材6は、従来の金属めっき膜で使用される金属或いは金属合金と同様なものを使用することができるが、高耐久性および高導電率を考慮すると、銀或いは銀を主成分とする合金であることが好ましい。ただし、銀のみで表面硬度を130Hvとすることは難しく、導電率を落とさずに所定の表面硬度を得るには、Ag:49.9〜89.9質量%、Cu:10〜50質量%、残部が不純物である組成を有する銀銅合金を使用することが好ましい。銅の含有量が10質量%未満では、表面硬度を上げるのが難しく、50質量%を超えると、導電率が低下する。
【0024】
雌端子17の製造に際して、嵌合部用金属材14及びリード線接合部用金属材16を銅合金の条基材2にクラッドする手法としては、これら金属材14、16を厚みが10〜60μmの薄板(箔)として、基材12の一方の表面13に重ね合わせた後に、冷間圧延や冷間圧着を施し、更に熱処理して形成されることが好ましく、これにより、条基材12と金属材14、16の接合界面は、異種金属間の拡散結合がなされ、金属めっき処理による接合界面と比べ、優れた耐剥離性を有し、表面硬度の高いクラッド部を容易に得ることができる。
これら嵌合部用金属材14及びリード線接合部用金属材16は、従来の金属めっき膜で使用される金属或いは金属合金と同様なものを使用することができるが、高耐久性および高導電率を考慮すると、銀或いは銀を主成分とする合金であることが好ましい。ただし、銀のみで表面硬度を130Hvとすることは難しく、導電率を落とさずに所定の表面硬度を得るには、Ag:49.9〜89.9質量%、Cu:10〜50質量%、残部が不純物である組成を有する銀銅合金を使用することが好ましい。銅の含有量が10質量%未満では、表面硬度を上げるのが難しく、50質量%を超えると、導電率が低下する。
【0025】
図3は、本発明の別の実施形態を示すコネクタ製造用銅合金条を示している。
この銅合金条21は、図1あるいは図2に示す銅合金条(図3には雄端子用の銅合金条のみを示す)のクラッド部分を除く全面に金属めっき22を1〜3μmの厚さで施したものであり、光沢が付与されて取扱いも容易になり、製造されるコネクタ雄端子或いは雌端子としての耐酸化性および耐腐食性が向上する。金属めっき25としては、錫或いは錫合金、ニッケル或いはニッケル合金等が好ましい。
【0026】
図4は、本発明のコネクタ製造用銅合金条1、11を使用して製造されたコネクタの一実施形態を示す概略図である。
雄端子7は、先端に、雌端子17に嵌合する嵌合部31が形成され、その基端部にリード線接合部32が形成されている。嵌合部31は棒状に形成され、リード線接合部32は、リード線33の先端に露出している導体33aを嵌合する円筒部34が嵌合部31に連続して形成され、その円筒部34に、一対のかしめ片35a,35bが左右に開いた状態に一体に形成された構成とされている。これらかしめ片35a,35bは、リード線33の外被33bをかしめる外被用かしめ片35aと導体用かしめ片35bとが連続して形成されている。
雌端子17は、先端に、雄端子7の嵌合部31を嵌合する嵌合部41が形成され、その基端部にリード線接合部42が形成されている。嵌合部41は、雄端子7の嵌合部31を緊密に嵌合し得る内径の円筒状に形成され、その先端部を除く中央部分に長さ方向に沿うスリットが周方向に間隔をおいて複数形成されることにより、弾性変形容易部43とされている。リード線接合部42は、雄端子7と同様に、リード線33の先端の導体33aを嵌合する円筒部44が嵌合部41に連続して形成され、その円筒部44に、一対のかしめ片45a,45bが左右に開いた状態に一体に形成されており、それぞれ外被用かしめ片45aと導体用かしめ片45bとが連続して形成されている。
【0027】
そして、雄端子7では、前述した嵌合部用金属材4が棒状の嵌合部31の基端側に近い部分の外周部に配置され、リード線接合部用金属材6が円筒部34及び導体用かしめ片35bの内面に配置されている。一方、雌端子17では、嵌合部用金属材14が嵌合部41の先端部の内周面に配置され、リード線接合部用金属材16が円筒部44及び導体用かしめ片45bの内面に配置されている。
この様な個々のコネクタの雄端子7及び雌端子17が、雄端子毎、あるいは雌端子毎に複数本まとめてハウジングに収容されることにより多ピン型のコネクタとなる。
【実施例】
【0028】
長さ500mm、幅30mm、厚み0.3mmである三菱伸銅株式会社の商品名「MSP1」(Mg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する)の条材の表面の部位1(コネクタの雄端子として使用され雌端子と嵌合する部位となる)に、長さ20mm、幅30mm、厚み30μmの89.9質量%の銀と10.0質量%の銅と0.1質量%の不純物とからなる銀箔を重ね合わせ、更に、表面の部位2(コネクタの雄端子として使用され外部リード線と接合する部位となる)に、長さ15mm、幅30mm、厚み10μmの89.9質量%の銀と10.0質量%の銅と0.1質量%の不純物とからなる銀箔を重ね合わせ、約690N/cm(70kgf/cm)の圧力にて冷間圧着を施した後に、550℃で10分間保持の熱処理を施して、銀のクラッド部1、2を有するコネクタの雄端子用の銅合金条を製造した。
比較例として、銀箔の厚みを9μmとして、同様な手法にて、銀のクラッド部3、4を有するコネクタの雄端子用の銅合金条を製造した。
次に、長さ500mm、幅30mm、厚み0.3mmである三菱伸銅株式会社の商品名「MSP1」(Mg:0.3〜2%、P:0.001〜0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する)の条材の表面の部位5(コネクタの雄端子として使用され雌端子と嵌合する部位となる)に、長さ20mm、幅30mm、厚み30μmの69.95質量%の銀と29.95質量%の銅と0.1質量%の不純物とからなる銀銅箔を重ね合わせ、更に、表面の部位6(コネクタの雄端子として使用され外部リード線と接合する部位となる)に、長さ15mm、幅30mm、厚み10μmの69.95質量%の銀と29.95質量%の銅と0.1質量%の不純物とからなる銀銅箔を重ね合わせ、約690N/cm(70kgf/cm)の圧力にて冷間圧着を施した後に、550℃で10分間保持の熱処理を施して、銀銅合金のクラッド部5、6を有するコネクタの雄端子用の銅合金条を製造した。
比較例として、銀銅箔の厚みを9μmとして、同様な手法にて、銀銅合金のクラッド部7、8を有するコネクタの雄端子用の銅合金条を製造した。
【0029】
これらの銅合金条の各クラッド部につき、表面硬さ、動摩擦係数、剥離性、接触抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
表面硬さは、マイクロビッカース硬度計にて測定した。
動摩擦係数は、嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料によって板状のオス試験片と内径1.5mmの半球状としたメス試験片とを作成し、アイコーエンジニアリング株式会社製の横型荷重測定器(Model−2152NRE)を用い、両試験片間の摩擦力を測定して動摩擦係数を求めた。
図5により説明すると、水平な台51上にオス試験片52を固定し、その上にメス試験片53の半球凸面を置いてめっき面どうしを接触させ、メス試験片53に錘54によって4.9N(500gf)の荷重Pをかけてオス試験片52を押さえた状態とする。この荷重Pをかけた状態で、オス試験片52を摺動速度80mm/分で矢印に示す水平方向に10mm引っ張ったときの摩擦力Fをロードセル55によって測定した。その摩擦力Fの平均値Favと荷重Pより動摩擦係数(=Fav/P)を求めた。
剥離性は、20kNの荷重にて90°曲げ(曲率半径R:0.7mm)を行った後、大気中で160℃×250時間保持し、曲げ戻して、曲げ部の剥離状況の確認を行い、剥離の見られたものを×、見られなかったものを○とした。
接触抵抗は、試料を175℃×1000時間放置した後、山崎精機株式会社製電気接点シミュレーターを用い荷重0.49N(50gf)摺動有りの条件で測定した。
また、各銅合金条より、実際に雄端子及び雌端子を作製し、電気自動車用充電コネクタ(SAE規格No「J1772」)の電源端子として装着し、このコネクタを14000回挿抜した時の挿入力の変化を測定し、変化率が0.5%未満のものを○、0.5%以上のものを×として挿抜性を評価した。測定結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
これらの結果より、本発明の銅合金条の表面の一部或いは複数部に金属或いは金属合金材がクラッドされたコネクタ製造用銅合金条は、動摩擦係数、剥離性、接触抵抗、挿抜性に優れており、繰り返し挿抜に対する高い耐久性および高導電率を有するコネクタ端子部材を製造する条材として適していることがわかる。
【0032】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 銅合金条
2 基材
3 一方の表面
4 嵌合部用金属材
5 他方の表面
6 リード線接合部用金属材
7 雄端子
11 銅合金条
12 基材
13 一方の表面
14 嵌合部用金属材
16 リード線接合部用金属材
17 雌端子
21 銅合金条
22 金属めっき
31 嵌合部
32 リード線接合部
33 リード線
33a 導体
33b 外被
34 円筒部
35a 外被用かしめ片
35b 導体用かしめ片
41 嵌合部
42 リード線接合部
43 弾性変形容易部
44 円筒部
45a 外被用かしめ片
45b 導体用かしめ片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄端子が雌端子と嵌合する部位、及び前記雌端子が前記雄端子と嵌合する部位にそれぞれ嵌合用金属材がクラッドされたコネクタの製造に使用される銅合金条であって、前記嵌合する部位となる表面にクラッドされた前記嵌合用金属材は、幅が銅合金条の基材の幅と同等或いはそれ以下であり、厚みが10〜60μmであり、クラッドされた後の表面硬度が130Hv以上であることを特徴とするコネクタ製造用銅合金条。
【請求項2】
前記雄端子が外部リード線と接合する部位、及び前記雌端子が外部リード線と接合する部位にそれぞれリード線接合部用金属材がクラッドされたコネクタの製造に使用される銅合金条であって、前記接合する部位となる表面にクラッドされた前記リード線接合部用金属材は、幅が銅合金条の基材の幅と同等或いはそれ以下であり、クラッドされた後の表面硬度が130Hv以上であり、厚みが、前記嵌合用金属材より小さいことを特徴とする請求項1記載のコネクタ製造用銅合金条。
【請求項3】
前記クラッドされた嵌合部用金属材、又はリード線接合部用金属材の表面を除く全表面或いは複数部に金属めっき処理が施されたことを特徴とする請求項1又は2記載のコネクタ製造用銅合金条。
【請求項4】
前記嵌合部用金属材或いはリード線接合部用金属材がAg:49.9〜89.9質量%、Cu:10〜50質量%、残部が不純物である組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のコネクタ製造用銅合金条。
【請求項5】
前記銅合金条の基材がMg:0.3〜2質量%、P:0.001〜0.1質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のコネクタ製造用銅合金条。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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