説明

コネクタ

【課題】インシュレータに複数のコンタクトを並べて支持したコネクタの高周波特性を向上させることが可能なコネクタを提供する。
【解決手段】インシュレータ15の仕切壁21に、コンタクト25の並び方向に見たときにコンタクトの一部と重なり、かつ仕切壁によってコンタクト挿入溝20との該並び方向の空間的連通が遮断された、コンタクト挿入溝より広幅の中空部22を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FPCやFFC等の薄板状の接続対象物を接続するためのコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
回路基板(リジッド基板)と薄板状の接続対象物(FPCやFFC等)とを導通させるコネクタは一般的に、接続対象物を挿脱可能な溝、及び、該挿脱方向に延びかつ該挿脱方向に直交する方向に並ぶ複数のコンタクト挿入溝を有するインシュレータと、各コンタクト挿入溝に一つずつ挿入した複数のコンタクトと、を具備しており、コンタクトは回路基板の表面に形成した回路パターンに接続している。インシュレータの上記溝に対して接続対象物を挿入すると、接続対象物と各コンタクトが互いに接触するので、回路基板と接続対象物がコンタクトを介して互いに導通する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4413961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のコネクタ(コンタクト)に流した電気信号の高周波特性を向上させるためには、コネクタのインピーダンス(値)を、回路基板及び接続対象物のインピーダンス(値)に極力近づける必要がある。
しかし、インシュレータの隣り合うコンタクト挿入溝の間には両者を仕切る仕切壁が存在し、かつ一般的にインシュレータを構成する樹脂材の比誘電率は高い(例えば3〜4程度)。そのため従来のコネクタは隣り合うコンタクトの間の結合容量が高まり易い構造であり、コネクタのインピーダンス(値)が回路基板及び接続対象物のインピーダンス(値)に比べて大きく低下する傾向にある。
【0005】
本発明の目的は、インシュレータに複数のコンタクトを並べて支持したコネクタの高周波特性を向上させることが可能なコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコネクタは、薄板状の接続対象物を挿脱可能で、該挿脱方向に延びかつ該挿脱方向に直交する方向に並ぶ複数のコンタクト挿入溝、及び、隣り合うコンタクト挿入溝どうしを区切る複数の仕切壁、を有するインシュレータと、上記接続対象物の厚み方向に離間し両者の間に上記接続対象物が挿入される、少なくとも一方が該接続対象物に接触する第1片と第2片、及び、第1片と第2片を接続する連結片を有する、上記コンタクト挿入溝に一つずつ挿入した複数のコンタクトと、を備えるコネクタにおいて、上記仕切壁に、上記コンタクトの並び方向に見たときに該コンタクトの一部と重なり、かつ該仕切壁によって上記コンタクト挿入溝との該並び方向の空間的連通が遮断された、該コンタクト挿入溝より広幅の中空部を形成したことを特徴としている。
【0007】
上記中空部が、上記コンタクト挿入溝に比べて上記接続対象物の厚み方向寸法が大きいのが好ましい。
【0008】
上記インシュレータに、上記コンタクトの上記連結片と少なくとも一部が重なる上記中空部を形成してもよい。
さらに上記第1片を上記インシュレータの底壁に固定し、上記インシュレータに、上記第1片と、上記第2片の上記連結片との接続部より上記接続対象物の脱出方向側に位置する部分と、に重なる上記中空部を形成してもよい。
【0009】
上記第1片の該底壁との対向面に凹部を形成してもよい。
この場合は、さらに上記インシュレータに、上記凹部と少なくとも一部が重なる上記中空部を形成してもよい。
【0010】
上記接続対象物が、該接続対象物の長手方向に沿って延びる回路パターンと、上記回路パターンの端部を除いた部分の両面を覆う絶縁カバー層と、を備えるFPCであり、上記回路パターンが、上記絶縁カバー層の外側に位置し、かつ、上記第1片と第2片の少なくとも一方と接触し、上記絶縁カバー層の端面側の端部が該端面側に向かうにつれて徐々に狭幅になるランド部と、上記上記ランド部の上記端部を除いた部分より狭幅で、かつ該ランド部の上記端部から上記絶縁カバー層の上記端面まで直線的に延びる接続部と、を具備してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、インシュレータの仕切壁に、コンタクトの並び方向に見たときに各コンタクトの一部と重なり、かつ仕切壁によってコンタクト挿入溝との該並び方向の空間的連通が遮断され、かつコンタクト挿入溝より広幅である中空部を形成してある。この中空部(空気層)の比誘電率は1であり、一般的なインシュレータ(仕切壁)の比誘電率に比べて低い。そのため本発明のコネクタは隣り合うコンタクト間で結合容量が高まり難い構造であり、中空部がない従来のコネクタに比べてインピーダンス(値)を回路基板及び接続対象物のインピーダンス(値)に近づけることが可能である。そのため、コネクタ(コンタクト)に流した電気信号の高周波特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態のコネクタのアクチュエータがアンロック位置に位置するときの前方から見た斜視図である。
【図2】コネクタの後方から見た分解斜視図である。
【図3】アクチュエータがアンロック位置に位置するコネクタの正面図である。
【図4】アクチュエータがアンロック位置に位置するコネクタの底面図である。
【図5】図3のV−V矢線に沿う断面図である。
【図6】図3のVI−VI矢線に沿う断面図である。
【図7】図3のVII−VII矢線に沿う断面図である。
【図8】図3のVIII−VIII矢線に沿う断面図である。
【図9】図3のIX線で示した部分の拡大図である。
【図10】FPCを挿入したコネクタのアクチュエータをロック位置に位置させたときの前方から見た斜視図である。
【図11】図10と同じ状態における図7と同様の断面図である。
【図12】FPCの端部の拡大平面図である。
【図13】図12のXIII−XIII矢線に沿う断面図である。
【図14】図13のXIV−XIV矢線に沿う断面図である。
【図15】回路基板、コネクタ、及び、FPCに回路基板側から電気信号を流したときのインピーダンスを示すグラフである。
【図16】変形例のFPCの図13と同様の断面図である。
【図17】変形例のFPCの図14と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について図1〜図15を参照しながら説明する。なお、以下の説明中の前後、左右、及び上下の方向は、図中の矢印の方向を基準としている。
本実施形態のコネクタ10は所謂バックロックタイプであり、かつ7回路の差動伝送が可能なコネクタである。コネクタ10は、大きな構成要素としてインシュレータ15、グランドコンタクト25A、シグナルコンタクト25B、固定金具35、及び、アクチュエータ45を具備している。
インシュレータ15は絶縁性かつ耐熱性の合成樹脂材料を射出成形したものである。インシュレータ15の前面の左右両端部を除く部分にはインシュレータ15の前後方向の中央部まで延びるFPC挿入溝16が凹設してある。インシュレータ15の後部の左右両端部を除く部分にはアクチュエータ受入用凹部17が凹設してあり、インシュレータ15の後面の左右両側部近傍にはアクチュエータ受入用凹部17と連通する一対の軸受用凹部18が凹設してある。インシュレータ15の前面の左右両端部近傍には、後方に向かって直線的に延びる金具取付溝19が左右一対として形成してある。図7に示すように金具取付溝19の側面形状は略ユ字形である。さらにインシュレータ15の前面の左右の金具取付溝19の間には、後方に向かって直線的に延びる計22本のコンタクト挿入溝20が所定間隔(0.5mm間隔)おきに左右方向に並べて形成してある。図示するように各コンタクト挿入溝20は前後両端が開口しており、その側面形状は略ユ字形である。インシュレータ15は隣り合うコンタクト挿入溝20どうしを区切る計21枚の側面視略ユ字形をなす仕切壁21を有している。そして各仕切壁21、左端のコンタクト挿入溝20と左側の金具取付溝19の間に位置する部分、及び、右端のコンタクト挿入溝20と右側の金具取付溝19の間に位置する部分には、側面視略ユ字形をなす計23本の中空部22が左右方向に並べて形成してある。図示するように各仕切壁21に形成した中空部22の左右両側面は当該仕切壁21によって塞がれている。さらに図9に示すように中空部22はコンタクト挿入溝20より広幅(中空部は0.2mm、コンタクト挿入溝20は0.13mm)かつコンタクト挿入溝20より上下寸法が長い。また左端の中空部22の左側面と右端の中空部22の右側面はインシュレータ15の一部によって塞がれている。
【0014】
計22本のグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bは、ばね弾性を備えた銅合金(例えばリン青銅、ベリリウム銅、チタン銅)やコルソン系銅合金の薄板を図示の形状に順送金型(スタンピング)により成形加工したものであり、表面にニッケルメッキで下地を形成した後に、金メッキを施してある。グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの板厚(左右寸法)は0.1mmである。
図示するように8本のグランドコンタクト25Aと14本のシグナルコンタクト25Bは共に側面視略エ字形状であり、略前後方向に延びる固定片(第1片)26と、固定片26より短寸で略前後方向に延びる可動片(第2片)27と、固定片26と可動片27の中間部同士を接続する弾性変形可能な変形接続部(連結片)28と、を具備している。固定片26の下面の後端近傍部には凹部25aが形成してある。凹部25aは側面視台形であり、固定片26の左右幅全体に渡って凹設してある。固定片26の後端部には鉤状係止部(テール部)29が突設してあり、固定片26の上面の前端と後端部近傍には接触突部30と前方に向かって湾曲するフック部31がそれぞれ突設してある。可動片27の前端部には接触突部32が下向きに突設してあり、可動片27の下面の後端部には係止凹部(被押圧部)33が凹設してある。
【0015】
グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bはインシュレータ15の後方から各コンタクト挿入溝20に挿入してある。より具体的には、左右両端のコンタクト挿入溝20とその間に位置する6本のコンタクト挿入溝20にグランドコンタクト25Aを等間隔(3本おきに1本ずつ)で挿入してあり、隣り合う2本のグランドコンタクト25Aの間に位置する2本のコンタクト挿入溝20に各シグナルコンタクト25Bをそれぞれ挿入してある。図5及び図11に示すように、各グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bをコンタクト挿入溝20に挿入すると、固定片26の下面は対応するコンタクト挿入溝20の底面に接触し、可動片27の上面は対応するコンタクト挿入溝20の天井面から下方に離間し、鉤状係止部29が底壁20aの後縁部に係合する。さらに固定片26の側面に形成した係止突起(図示略)が対応するコンタクト挿入溝20の側面に食い込むので(図示略)、固定片26はコンタクト挿入溝20の底面(インシュレータ15の底壁20a)に対して固定されている。また固定片26の下面は、凹部25aを形成した部分を除く全体がコンタクト挿入溝20の底面(インシュレータ15の底壁20a)に接触しており、凹部25aの直前に位置する部分と直後に位置する部分(鉤状係止部29の前端部の直上に位置する部分)の双方がコンタクト挿入溝20の底面に接触している。
【0016】
左右一対の固定金具35は金属板のプレス成形品であり、略前後方向に延びる固定片36と、固定片36より短寸で略前後方向に延びる可動片37と、固定片36と可動片37の中間部同士を接続する弾性変形可能な変形接続部38と、を具備している。固定片36の下面の前端近傍部には鉤状係止部39が突設してあり、固定片36の上面の前部と後部には係合突部40と係止突起41がそれぞれ突設してある。可動片37の前端部には係合突部42が下向きに突設してあり、可動片37の下面の後端部には係止凹部43が凹設してある。
左右の固定金具35はインシュレータ15の前方から左右の金具取付溝19にそれぞれ挿入してある。図7に示すように固定金具35を金具取付溝19に挿入すると、固定片36の下面は対応する金具取付溝19の底面に接触し、可動片37の上面は対応する金具取付溝19の天井面から下方に離間し、鉤状係止部39が底壁20aの前縁部に係合する。さらに金具取付溝19の後端部19aに挿入した固定片36の後部に突設した係止突起41が、後端部19aの上面に食い込むので、固定片36は金具取付溝19の底面(インシュレータ15の底壁20a)に対して固定されている。
【0017】
左右方向に延びる板状部材である回転式のアクチュエータ45は耐熱性の合成樹脂材料を金属製の成形型を利用して射出成形したものである。左右両側面の下端部には左方と右方に向かってそれぞれ延び、かつ互いに同軸をなす回転支持軸46が突設してある。アクチュエータ45の表面(図1、図5等では前面、図10、図11では上面をなす面)の下端部近傍には計45個の逃げ用凹部47が左右方向に並べて凹設してあり、アクチュエータ45の左右両側部を除く下端部には左右方向に向かって延びるカム部(押圧部)48が形成してある。また、アクチュエータ45の裏面(図1、図5等では後面、図10、図11では下面をなす面)には計22個の抜止用凹部49が左右方向に並べて凹設してある。
【0018】
アクチュエータ45は、その下端部(回転支持軸46を除く部分)をインシュレータ15のアクチュエータ受入用凹部17内に位置させ、かつ左右の回転支持軸46を左右の軸受用凹部18に回転可能に嵌合することにより、インシュレータ15に対して回転支持軸46回りに回転可能に取り付けてある。アクチュエータ45はインシュレータ15に対して略直交するアンロック位置(図1、図3、図5〜図7に示す位置)と、略水平となるまで後方に倒れたロック位置(図10、図11に示す位置)との間を回転可能である。
図1及び図5に示すように、アクチュエータ45がアンロック位置に位置するとき、グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの可動片27の後端部がアクチュエータ45の対応する逃げ用凹部47内に遊嵌し、カム部48は可動片27の係止凹部33を押圧しない。さらにフック部31の前端突出部の下面に抜止用凹部49の内面が下方から当接する。また固定金具35の可動片37の後端部がアクチュエータ45の対応する逃げ用凹部47内に遊嵌し、カム部48は可動片37の係止凹部43を押圧しない。
一方、図10及び図11に示すようにアクチュエータ45がロック位置まで回転すると、アクチュエータ45のカム部48がグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの可動片27の係止凹部33を上方に押圧するので、変形接続部28が弾性変形して可動片27の前端部が下方に回転する。さらに、各抜止用凹部49に各グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bのフック部31が嵌合する。また図示は省略してあるが、アクチュエータ45のカム部48が固定金具35の可動片37の係止凹部43を上方に押圧するので、変形接続部38が弾性変形して可動片37の前端部が下方に回転する。
以上の構成であるコネクタ10は、各グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの鉤状係止部29を回路基板CB(図1参照)の上面に形成した回路パターン(図示略)に半田付けし、かつ固定金具35の鉤状係止部39を回路基板CBの上面に形成した接地パターン(図示略)に半田付することにより、回路基板CBの上面に実装してある。
【0019】
アクチュエータ45がアンロック位置に位置するとき、インシュレータ15のFPC挿入溝16には前方から接続対象物であるFPC(フレキシブルプリント基板)50を挿入可能である。
FPC50は薄板状の長尺物であり、その厚みは自由状態にあるグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの接触突部30と接触突部32の間隔、及び、自由状態にある固定金具35の係合突部40と係合突部42の間隔より短い。FPC50は複数の薄膜材を互いに接着して構成した積層構造であり、FPC50の延長方向に沿って直線的に延びる計8本の接地パターン51と、各接地パターン51の間に2本ずつ配置した計14本の回路パターン52と、接地パターン51及回路パターン52の両端部を除く部分の両面を覆うカバーレイ53と、長手方向の両端部の一方の面(図では下面)に固定した、その他の部分に比べて硬い補強板54と、その他の部材と、を具備している。さらにFPC50の長手方向の両端近傍部の両側縁部にはそれぞれ係合凹部55が凹設してある。
図13、図14はFPC50の詳細な断面構造を示している。図13、図14に示したFPC50の各構成部の材質及び厚みは以下の通りである(図13に記載した各部分の寸法の単位はμm)。

構成 材質 厚み(μm)
〈1〉 カバーレイ ポリイミド 25
〈2〉 接着層 熱硬化性接着剤 25
〈3〉 めっき 銅スルーホール 15
〈4〉 銅箔 電解銅 18
〈5〉 基材 液晶ポリマー(LCP) 50
〈6〉 銅箔 電解銅 18
〈7〉 めっき 銅スルーホール 15
〈8〉 接着層 熱硬化性接着剤 25
〈9〉 カバーレイ ポリイミド 25
〈10〉 接着層 熱硬化性接着剤 50
〈11〉 補強板 ポリイミド 125

図12に示すように(図12に記載した各部分の寸法の単位はmm)、各接地パターン51のカバーレイ53によって覆われた部分はカバーレイ53の端面53aの近傍部を除いて一定幅であり、カバーレイ53の端面に近づくにつれて徐々に狭幅となる。各接地パターン51の両端近傍部(カバーレイ53の端面53aの外側に位置する部分)であるランド部51aはカバーレイ53の端面端面53aからFPC50の両端面の直前まで同じ幅を維持し、ランド部51aよりFPC50の両端面側に位置する部分はランド部51aよりさらに狭幅となる。一方、各回路パターン52のカバーレイ53によって覆われた部分はカバーレイ53の端面53aの近傍部を除いて一定幅部52cとなっており、一定幅部52cの端部からカバーレイ53の端面53aまで延びる屈曲部52dは当該一定幅部より僅かに広幅である。各回路パターン52の両端近傍部52e(カバーレイ53の端面53aの外側に位置し、カバーレイ53の端面53aから補強板54の中間位置まで直線的に延びる部分)(接続部)は補強板54の中間位置まで屈曲部52cと同じ幅を維持し、当該中間位置からFPC50の両端面近傍位置まで延びるランド部52aは両端近傍部52eより広幅であり、ランド部52aからFPC50の両端面まで延びる端部52fはランド部52aより狭幅(両端近傍部52eと同幅)となっている。図12に示すようにランド部52aの4つの角部を直角形状とせずに面取りする(平面視で円弧状に形成する)ことによりランド部52aの前後の端部52bの幅を徐々に変化させ、ランド部52aの面積を減少させているので、ランド部52aはスタブ成分が低減している。
【0020】
FPC50の一方の端部をFPC挿入溝16に挿入すると(FPC50のFPC挿入溝16に対する挿脱方向は前後方向)、FPC50の端部がグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの固定片26の前半部と可動片27の前半部の間に位置する。さらに図示は省略してあるが、左右の係合凹部55に対して左右の固定金具35の係合突部40が下方から係合する。この状態でアクチュエータ45をロック位置まで回転させると、図11に示すように、グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの可動片27の前端部が下方に回転し、グランドコンタクト25Aの接触突部32が対応するランド部51aに強い圧力で接触し、シグナルコンタクト25Bの接触突部32が対応するランド部52aに強い圧力で接触し(図12の各ランド部52aに記載した黒丸が接触突部32の接触位置)、かつ、FPC50の端部の下面に各グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの接触突部30が強い力で接触する。従って、各グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bを介して、回路基板CBの上記回路パターンとFPC50の回路パターン52が電気的に導通し、回路基板CBの上記接地パターンとFPC50の接地パターン51が電気的に導通する。さらに図示は省略してあるが、左右の固定金具35の係合突部42が左右の係合凹部55に対して上方から係合するので、FPC50のFPC挿入溝16からの引き抜きが規制される。
一方、アクチュエータ45をアンロック位置まで戻して各グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25BからFPC50への接触圧力を解放し、左右の固定金具35の係合突部42を左右の係合凹部55から上方に脱出させれば、FPC50をFPC挿入溝16から前方に引き抜くことが可能になる。
【0021】
図15は回路基板CBに接続したSMAコネクタ(同軸ケーブル用コネクタ。図示略)に電気信号を流したときの時間とインピーダンス(値)の関係を表すグラフである。時間を表す横軸は、SMAコネクタに電気信号が入ったときの時間を基準時(ゼロ)としている。電気信号は時間が進むにつれてFPC50側に進むので、当該横軸は実質的にSMAコネクタ、回路基板CB、コネクタ10(グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25B)、及び、FPC50を通る信号経路の各位置を表している(0[ns]から略0.2[ns]がSMAコネクタ、略0.2[ns]から略0.5[ns]までが「回路基板CB」、略0.5[ns]から略0.7[ns]までが「コネクタ10」、略0.7[ns]〜が「FPC50」である)。解析は、Agilent Technologies社製のベクトルネットワークアナライザ(E5071C)を用いて、Tr(ライズタイム・立ち上がり時間)を50ps、コンタクトピッチを0.5mmとして実施した。
図15中には2本の折れ線グラフが記入してある。このうち細線で表したグラフは、コネクタ10から中空部22を省略した構造のコネクタ(即ち従来構造のコネクタ)をFPC50と回路基板CBに接続したときのグラフである。当該グラフから明らかなように、この場合は回路基板CBのインピーダンスは約100Ω程度でFPC50のインピーダンスは共に約90Ω程度であるが、コネクタ(コンタクト)のインピーダンスは最も小さい部分が約63Ω程度であり、回路基板CB及びFPC50との差が大きい。
一方、太線で表したグラフは本実施形態の場合を表している。このグラフから明らかなように、回路基板CBのインピーダンスは約100Ω程度でFPC50のインピーダンスは共に約86Ω程度である。しかしコネクタ10(シグナルコンタクト25B)のインピーダンスは最も小さい部分でも約84Ω程度あり、回路基板CB及びFPC50との差がかなり小さくなっていることが分かる。この結果は、インシュレータ15の仕切壁21に側方から見たときにグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの変形接続部28、固定片26、及び、可動片27の約1/2(変形接続部28より前側に位置する部分)と重なり、かつ仕切壁21によってコンタクト挿入溝20との左右方向の空間的連通が遮断され、さらにコンタクト挿入溝20より広幅かつ上下寸法が長い中空部22を形成していることに起因している。この中空部22(空気層)の比誘電率は1であり、インシュレータ15を構成する樹脂材の比誘電率(3〜4程度)に比べてかなり低いため、中空部22を形成した部分では隣り合うグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25B間で結合容量が高まり難く、それ故、中空部22がない構造のコネクタに比べてインピーダンス(値)が高くなっている。そのためコネクタ10を回路基板CBとFPC50に接続した場合は、従来構造のコネクタを接続した場合に比べて電気信号の高周波特性が向上する。
【0022】
さらに各固定片26に凹部25aを形成することにより隣り合う固定片26の対向面積(仕切壁21を省略した場合に互いに対向する部分の面積)を減少させ、かつ凹部25aとコンタクト挿入溝20の底面との間に中空部(空間)を形成しているので、グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの高周波特性をより向上させることができる。
また、インシュレータ15に形成した中空部22は側面視略ユ字形をなしている。中空部22の後端部19aの少なくとも一部が側方から見たときに固定片26の凹部25aと重なる。その結果、中空部22のコンタクト挿入溝20(グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25B)と重なり合う領域が広くなり、隣り合うグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25B間の結合容量がより一層高まり難くなっているので、凹部25a及び後端部19aを形成しない場合に比べてコネクタ10のインピーダンス(値)は高くなる。
しかも、固定片26上面の凹部25aの直上に位置する部分(後端近傍部)には、アクチュエータ45を回転させるときにカム部48から下向きの力が掛かるものの、固定片26の下面は凹部25aの前後両側がコンタクト挿入溝20の底面に接触しているため、回転するカム部48から固定片26上面の後端近傍部に及ぶ力は底壁20aによって確実に受け止められる。そのため固定片26の後端近傍部が大きく撓むことはなく、それ故、ケーブル接続用コネクタとして必要な基本的な要件(機能)である、アクチュエータ45の回転操作性や、グランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの姿勢の安定性(固定片26のインシュレータ15の底壁20aに対する固定力の確保)を損うことなく、伝送特性を向上させることが可能となる。
【0023】
さらに仮に回路パターン52を一定幅部52cの端部にランド部52aが直接接続する構造にすると(カバーレイ53の端面53aからランド部52aまでの距離を短くすると)、一定幅部52cとランド部52aの接続部においてインピーダンスが急激に落ち込んでしまう。
しかし本実施形態のFPC50の回路パターン52は、カバーレイ53の端面53aの外側に位置する部分に、ランド部52aより狭幅で直線的に延びる両端近傍部52eを形成することにより、カバーレイ53の端面53aからランド部52a上の上記接触位置(図12の黒丸で示した位置)までの距離を長くし(ランド部52aの長さを従来より短くし)、かつ、ランド部52aの端部52bの幅を徐々に変化させている。このように構成することによりカバーレイ53の端面53aからランド部52a上の接触位置(図12の黒丸の位置)までの間の大部分の領域の幅をほぼ一定にしているので、インピーダンスが急激に落ち込むことがない。
しかもシグナルコンタクト25Bの接触突部32が接触するランド部52aは回路パターン52の中で最も広幅なので、接触突部32とランド部52aを確実に接触させることが可能である。
【0024】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形を施しながら実施可能である。
例えば図16、図17に示す構造のFPC50’を利用してもよい。
FPC50’は複数の薄膜材を互いに接着して構成した積層構造であり、計8本の接地パターン51と、各接地パターン51の間に2本ずつ配置した計14本の回路パターン52と、カバーレイ53と、補強板54と、その他の部材と、を具備しており、補強板54の両側縁部にはそれぞれ係合凹部55が凹設してある。
図16、図17に示したFPC50’の各構成部の材質及び厚みは以下の通りである(図16に記載した各部分の寸法の単位はμm)。

構成 材質 厚み(μm)
〈1〉 カバーレイ ポリイミド 30
〈2〉 接着層 熱硬化性接着剤 25
〈3〉 めっき 銅スルーホール 15
〈4〉 銅箔 電解銅 18
〈5〉 接着層 熱硬化性接着剤 10
〈6〉 基材 ポリイミド 25
〈7〉 接着層 熱硬化性接着剤 10
〈8〉 銅箔 電解銅 18
〈9〉 めっき 銅スルーホール 15
〈10〉 接着層 熱硬化性接着剤 25
〈11〉 カバーレイ ポリイミド 30
〈12〉 接着層 熱硬化性接着剤 50
〈13〉 補強板 ポリイミド 125

このFPC50’をコネクタ10に接続した場合も上記実施形態と同様に、従来構造のコネクタを接続した場合に比べて電気信号の高周波特性が向上する。
【0025】
また、仕切壁21に形成する中空部22は側方から見たときに各コンタクト25の少なくとも一部と重なるのであれば、その形状(設定範囲)を変えても良い。例えば、上記実施形態の中空部22から〈1〉固定片26と重なる部分を省略、〈2〉可動片27と重なる部分を省略、〈3〉固定片26及び可動片27と重なる部分を省略(変形接続部28と重なる部分のみ形成)、のように変更してもよい。これらの変更を施した場合もコネクタ10のインピーダンスは中空部22を形成しない場合に比べて大きくなる。なお出願人の実証研究によれば、中空部22は変形接続部28と重なる部分が最も大きな効果(隣り合うコンタクト25間で結合容量が高まるのを防止する効果)を発揮するため、中空部22をどのような形状にする場合も変形接続部28と重なる部分を有する形状とするのが好ましい。
【0026】
さらにグランドコンタクト25Aとシグナルコンタクト25Bを、各コンタクト挿入溝20に一本おきに交互に配置してもよい。
また、薄板状の接続対象物はFPC以外のケーブル、例えばFFC(Flexible Flat Cable)であってもよい。
またグランドコンタクト25Aの接触突部30及び接触突部32と、シグナルコンタクト25Bの接触突部30及び接触突部32の前後方向位置をずらしてもよい。
またコネクタ10をシングル伝送用コネクタとし(各コンタクトを全てシグナルコンタクト25Bとし)、回路基板CB、FPC50、及び、FPC50’のパターンをすべて回路パターンとしてもよい。
さらに表裏を逆にした状態で接続対象物をインシュレータ15に挿入することにより、接続対象物の回路パターンをシグナルコンタクト25Bの接触突部30に接触させたり、或いは、接続対象物の表裏両面に回路パターンを形成し、表裏の回路パターンをシグナルコンタクト25Bの接触突部30と接触突部32に接触させてもよい。
また鉤状係止部(テール部)を固定片26の前端部に形成してもよい。
【0027】
さらにグランドコンタクト25A及びシグナルコンタクト25Bの形状を、可動片27の後半部(変形接続部28との接続部より後方に位置する部分)を省略した側面視略ユ字形としたり、固定片26の後半部(変形接続部28との接続部より後方に位置する部分)及び可動片27の後半部を省略した側面視略コ字形(固定片26の前後いずれかの端部に鉤状係止部(テール部)を形成する)としてもよい。
さらにコンタクトがエ字形、ユ字形、コ字形のいずれであっても、回転式アクチュエータをインシュレータの前半部に回転可能に支持し、該アクチュエータをインシュレータ15に対して略直交するアンロック位置と、略水平となるまで前方に倒れたロック位置との間を回転可能とすることにより、コネクタを所謂フロントロックタイプとしてもよい。この場合は、アクチュエータの一部に形成したカム部(押圧部)が固定片26と可動片27の間に位置し、インシュレータに挿入した接続対象物は該カム部の直下に位置する。当該アクチュエータがアンロック位置に位置するときは接続対象物の直上に位置する該押圧部は接続対象物を下方に押圧せず、ロック位置に位置するときは該押圧部が接続対象物を下方に押圧して、接続対象物の下面に形成した回路パターン(図示略)をコンタクト25、25’の接触突部30に接触させる。
【0028】
またコンタクトをユ字形やコ字形にした場合に、コンタクトの固定片の下面(底壁20aとの対向面)に凹部25aを形成してもよい。この場合も固定片の下面は凹部25aの前後両側を底壁20aに接触させるのが好ましい。
【符号の説明】
【0029】
10 コネクタ
15 インシュレータ
16 FPC挿入溝
17 アクチュエータ受入用凹部
18 軸受用凹部
19 金具取付溝
19a 後端部
20 コンタクト挿入溝
20a 底壁
21 仕切壁
22 中空部
25A グランドコンタクト
25B シグナルコンタクト
25a 凹部
26 固定片(第1片)
27 可動片(第2片)
28 変形接続部(連結片)
29 鉤状係止部(テール部)
30 接触突部
31 フック部
32 接触突部
33 係止凹部(被押圧部)
35 固定金具
36 固定片
37 可動片
38 変形接続部
39 鉤状係止部
40 係合突部
41 係止突起
42 係合突部
43 係止凹部
45 回転式アクチュエータ
46 回転支持軸
47 逃げ用凹部
48 カム部(押圧部)
49 抜止用凹部
50 50’ FPC(接続対象物)
51 接地パターン
51a ランド部
52 回路パターン
52a ランド部
52c 一定幅部
52d 屈曲部
52e 両端近傍部(接続部)
52f 端部
53 カバーレイ(絶縁カバー層)
54 補強板
55 係合凹部
CB 回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板状の接続対象物を挿脱可能で、該挿脱方向に延びかつ該挿脱方向に直交する方向に並ぶ複数のコンタクト挿入溝、及び、隣り合うコンタクト挿入溝どうしを区切る複数の仕切壁、を有するインシュレータと、
上記接続対象物の厚み方向に離間し両者の間に上記接続対象物が挿入される、少なくとも一方が該接続対象物に接触する第1片と第2片、及び、第1片と第2片を接続する連結片を有する、上記コンタクト挿入溝に一つずつ挿入した複数のコンタクトと、
を備えるコネクタにおいて、
上記仕切壁に、上記コンタクトの並び方向に見たときに該コンタクトの一部と重なり、かつ該仕切壁によって上記コンタクト挿入溝との該並び方向の空間的連通が遮断された、該コンタクト挿入溝より広幅の中空部を形成したことを特徴とするコネクタ。
【請求項2】
請求項1記載のコネクタにおいて、
上記中空部が、上記コンタクト挿入溝に比べて上記接続対象物の厚み方向寸法が大きいコネクタ。
【請求項3】
請求項1または2記載のコネクタにおいて、
上記インシュレータに、上記コンタクトの上記連結片と少なくとも一部が重なる上記中空部を形成したコネクタ。
【請求項4】
請求項3記載のコネクタにおいて、
上記第1片を上記インシュレータの底壁に固定し、
上記インシュレータに、上記第1片と、上記第2片の上記連結片との接続部より上記接続対象物の脱出方向側に位置する部分と、に重なる上記中空部を形成したコネクタ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のコネクタにおいて、
上記第1片の該底壁との対向面に凹部を形成したコネクタ。
【請求項6】
請求項5記載のコネクタにおいて、
上記インシュレータに、上記凹部と少なくとも一部が重なる上記中空部を形成したコネクタ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載のコネクタにおいて、
上記接続対象物が、
該接続対象物の長手方向に沿って延びる回路パターンと、
上記回路パターンの端部を除いた部分の両面を覆う絶縁カバー層と、
を備えるFPCであり、
上記回路パターンが、
上記絶縁カバー層の外側に位置し、かつ、上記第1片と第2片の少なくとも一方と接触し、上記絶縁カバー層の端面側の端部が該端面側に向かうにつれて徐々に狭幅になるランド部と、
上記上記ランド部の上記端部を除いた部分より狭幅で、かつ該ランド部の上記端部から上記絶縁カバー層の上記端面まで直線的に延びる接続部と、
を具備するコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−16376(P2013−16376A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149008(P2011−149008)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【特許番号】特許第5016127号(P5016127)
【特許公報発行日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000128407)京セラコネクタプロダクツ株式会社 (77)
【Fターム(参考)】