コヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置
【課題】 パルス面積を考慮した超短光パルス対を用いることによって、固体材料固有の位相緩和時間に依存せず励起子分布数の制御を可能とする。量子ドット集合体のような不均一系や常温に近い温度領域においても適用可能とする。
【解決手段】 媒質10に第1パルス及び第2パルスを照射する。媒質は、例えば、光学媒質、光励起により励起子が生成され分極ができる物質、半導体量子ドット等である。このとき、パルスレーザーから放出されたレーザー光は、パルス対のそれぞれのパルスのパルス面積をπ(又は実質的にπ)に調整され、遅延時間τのパルス対にコントロールされる。第1パルスによって生成された励起子を、第2パルスによって強制的に初期(基底)状態に戻すことで、コヒーレント光制御が行われる。
【解決手段】 媒質10に第1パルス及び第2パルスを照射する。媒質は、例えば、光学媒質、光励起により励起子が生成され分極ができる物質、半導体量子ドット等である。このとき、パルスレーザーから放出されたレーザー光は、パルス対のそれぞれのパルスのパルス面積をπ(又は実質的にπ)に調整され、遅延時間τのパルス対にコントロールされる。第1パルスによって生成された励起子を、第2パルスによって強制的に初期(基底)状態に戻すことで、コヒーレント光制御が行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置に係り、特に、位相緩和時間に制限されない新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光波が本来もっている超高速性と並列性を生かした光情報処理技術の実現は、従来の電子技術による情報処理と比べ応答速度や扱う情報量などの情報処理能力を格段に向上させる。
この光情報処理の分野において一つの課題である高速応答を実現するための光波側の制御技術として、励起子のコヒーレント光制御法がある(非特許文献1参照)。以下に、この励起子のコヒーレント光制御法について説明する。
一般に、レーザー光源からのコヒーレント光パルスによって半導体などの物質を光励起した場合、この第1光パルスによって生成された励起子には光周波数と同一のコヒーレントな分極振動(コヒーレンス)が誘起される。この分極振動が継続している間に第1の光パルスと位相同期した第2の光パルスを照射することによって半導体中の励起子数を自由に制御する方法が励起子の「コヒーレント光制御法」である。第2パルスの位相が第1パルスと同位相のときは励起子数が増加し、逆位相のときは励起子数を減少させることができる。この分極振動が持続している時間を「位相緩和時間」(後述)と呼び、この位相緩和時間の間であればこのような励起子のコヒーレント光制御が可能となる。
【0003】
一般的に半導体を光励起して励起子を生成すると、励起子の寿命すなわち「エネルギー緩和時間」(後述)は数100psであり、光演算の実行を考えたとき、この励起子が存在する間の時間は次の演算が出来ないとされてきた。しかしコヒーレント光制御法を適用することによって強制的に励起子を消滅させることができるため、エネルギー緩和時間の制約を打ち破り、演算操作を行なうことができるようになる。
ただし、励起子のコヒーレント光制御は位相緩和時間内に行なう必要があり、この時間が短い物質および環境下では励起子数の制御は極めて困難となる。位相緩和時間は光学スペクトルの均一幅の逆数で定義される時間であり、均一幅が狭いほど位相緩和時間は長くなるので、均一幅が狭い系がコヒーレント光制御には適している。その点において、単一の原子や分子は理想的であり、ほぼ究極の系となり得る。しかしながら、光学素子などの将来的な応用を考えた場合、設計の自由度や集積度を考慮すれば半導体量子ナノ構造体のような固体量子系が有利である。とりわけ、三次元的な量子閉じ込め効果に起因する状態の完全な離散化によって原子様スペクトルを示す半導体量子ドットはコヒーレント光制御を行なう絶好の系となり得る。また光との相互作用が大きい点からも今後の光学素子としての応用が期待され研究開発が盛んに行なわれている。
【0004】
【非特許文献1】A.P.Heberle and J.J.Baumberg and K.Kohler, Phys. Rev. Lett. 75,2598 (1995)、J.J.Baumberg, A.P.Heberle, K.Kohler, and A.V.Kavokin, Phys. Stat. Sol. (b) 204,9 (1997)
【非特許文献2】T.W.Mossberg, Opt. Lett. 7,77 (1982)
【非特許文献3】M.Bayer and A.Forchel, Phys. Rev. B 65,041308 (2002)
【特許文献1】特開2004−279882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、半導体量子ドットを用いた新しい光学素子の実現にはいくつかの課題がある。以下にその課題を挙げる。
(1) コヒーレント光制御法を用いて光演算素子などの新しい固体素子の実現を考えた場合、単一量子ドットのみでは十分な光信号強度が取れないので、量子ドットを集合体として利用する必要がある。しかし現実の量子ドット集合体の場合、個々の量子ドットのサイズにばらつきがあるため、それぞれの量子ドットは非常に狭い均一幅を示すにもかかわらず、サイズのばらつきを反映した広い不均一広がりが存在する。このような不均一広がりのある系では光励起によって、各分極はコヒーレントに振動し始めるがそれぞれが異なる周波数をもつためにその不均一幅の逆数で定義される時間で相互に打ち消しあい巨視的な分極は極めて早い時間で消失する。単一量子ドットの場合、位相緩和時間が100ps程度であれば位相同期した100fs光パルス対を用いればコヒーレンスが消失する前に励起子数を制御できるが、このような広い不均一幅を有する量子ドット集合体の場合、瞬時にコヒーレンスが消失するため従来のコヒーレント光制御法の適用は極めて困難となる。
【0006】
(2) 通常、半導体など固体物質を対象とした光学測定は10K以下の極低温下で行なわれる。一方、固体素子化を視野に入れた場合、なるべく室温に近い高温下における動作が要求される。しかし、環境温度が上昇するにつれて位相緩和時間は短くなるため、10K以下のような極低温以外でのコヒーレント光制御の適用は困難となる。
本発明は、以上の点に鑑み、パルス面積を考慮した超短光パルス対を用いることによって、固体材料固有の位相緩和時間に依存せず励起子分布数の制御が可能なコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することを目的とする。
本発明は、量子ドット集合体のような不均一系や常温に近い温度領域においても適用可能な新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の解決手段によると、
第1光パルスと第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御方法が提供される。
【0008】
本発明の第2の解決手段によると、
光パルスを出力するパルスレーザーと、
前記パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する光コントローラーと、
前記光コントローラーから出力された光パルスを2つの光路に分け、一方の光路の第1光パルスと他方の光路の第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置が提供される。
【0009】
本発明の第3の解決手段によると、
光パルスを出力する第1及び第2のパルスレーザーと、
前記第1及び第2の光パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する第1及び第2の光コントローラーと、
前記第1の光コントローラーから出力される第1光パルスと、前記第2の光コントローラから出力される第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するためのパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、位相緩和時間に制限されることなく、高速応答(例えば、1ps程度)の実現により高繰り返しスイッチングや光演算が可能な新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することができる。
また、本発明によると、固体素子化に有利である量子ドット集合体のような不均一系、さらにより室温に近い温度領域においても適用可能なπパルス対コヒーレント制御法を利用した新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1. 用語の説明
(1)位相緩和時間
位相緩和時間(同義語:デコヒーレンス時間、横緩和時間)とは、励起光により生成された励起子が位相情報(分極振動)を記憶している時間である。
図9(A)に、静止座標系(X,Y,Z)から見た位相緩和過程のイメージの説明図を示す。エネルギー緩和時間が十分長い(Z成分の緩和時間が長い)時、ブロッホベクトルRは光周波数でZ軸のまわりを回転しながら時間とともに、そのX、Y成分を失う。たとえば、位相緩和の時定数はT2を示すと、指数関数的な減衰曲線(例えば、後述のエコー減衰曲線)の信号強度が1/eになる点で定義される。
図9(B)に、回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図を示す。
図示のように、T2の時間でx、y成分が0になる。
【0012】
(2)エネルギー緩和時間
エネルギー緩和時間(同義語:分布数緩和時間、分布数寿命、再結合寿命、発光寿命、縦緩和時間)とは、励起された原子、電子などが熱平衡状態(通常、基底状態)に減衰する時間である。励起子の場合、エネルギー緩和時間は、電子が再び正孔と結合するまでの時間である。
図10(A)に、静止座標系(X,Y,Z)から見たエネルギー緩和過程のイメージの説明図を示す。位相緩和時間が無限大と仮定する時、ブロッホベクトルRは光周波数でZ軸のまわりを回転しながら、そのZ成分を失う。エネルギー緩和の時定数をT1で示すと、位相緩和時間同様指数関数的な減衰曲線の1/eになる点で定義される。
図10(B)に、回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図を示す。
図示のように、T1の時間でz成分が−1(基底状態)になる。
【0013】
(3)ブロッホベクトル
ブロッホベクトル(光学的ブロッホベクトル)とは、2準位原子と光電場のコヒーレント相互作用を回転するベクトルモデルで表したものである。
図11に、ブロッホベクトルの説明図を示す。
ブロッホ球は半径1の単位球であり、緩和現象を考えない時、2準位系が光との相互作用の過程で運動するにつれて、ブロッホベクトルは単位球面上の軌道をたどる。x、yはコヒーレンス、zは分布数差(W−W0)を表す。例えば、W=0、W0=1の時、z=−1(基底状態)である。
【0014】
(4)量子ドット
量子ドットとは、数ナノメートル〜数10ナノメートル(1nm=10−9m)サイズの半導体微結晶である。
図12に、量子ドットの説明図を示す。
量子ドット中の電子、正孔や励起子は3次元方向で自由度が奪われる(閉じ込められる)。その結果、原子と同様の離散的なエネルギー状態をとるようになり、長い位相緩和時間や強い光非線形性をもつ。
【0015】
2.ブロッホベクトルモデル
新しいコヒーレント制御法を説明するために、光学ブロッホ方程式を視覚化したブロッホベクトルモデルを用いる。光学ブロッホ方程式は光と2準位系のコヒーレント相互作用を記述するものであり、式(1)で表される。
【0016】
【数1】
ここで、wは分布数差(実数)、ρはコヒーレンス(又は位相)(複素数)である。Ωはラビ周波数と呼ばれ、物質の双極子モーメントと電場の積に比例する。T1、T2はそれぞれ励起子のエネルギー緩和時間と位相緩和時間を表す。
ここでコヒーレンスρの実部をx、虚部をyとして、分布数差wをzとすると光学ブロッホ方程式は式(2)のように変換でき、これら3つの変数の時間発展をデカルト座標表示したものをブロッホベクトルモデルという。
【0017】
【数2】
このブロッホベクトルモデルにより、2準位系に光パルスを入射した後の系の時間発展を調べることができる。xとyがコヒーレンスであり、zが励起子の分布数差を表している。
【0018】
3.本発明に関連する従来のコヒーレント光制御
図1は、ブロッホ方程式を用いて計算した従来のコヒーレント光制御における励起子の分布数差(z成分)の時間変化を示す図である。図1(a)、(b)はそれぞれ位相緩和時間がT2=100ps、10psにおける計算結果。パルス対の相対位相はπ、パルス面積はπ/10である。
上述したコヒーレント光制御装置において、エネルギー緩和時間T1=200ps、双極子モーメントをμ=20Debye、入射光のパルス幅をΔt=100fsと仮定して計算を行なった。図1(a)は、単一量子ドットのような均一広がり系を仮定し、位相緩和時間はT2=100psとしてある。第1パルスと第2パルスを1psの時間間隔で系に入射した場合、第1パルスによって光励起された励起子が第2パルスによって強制的に初期状態に戻されていることがわかる。ただし、第1パルス及び第2パルスの相対位相はπに限る。図1(b)は位相緩和時間がT2=10psの場合における分布数差の時間変化である。他の計算パラメータは図1(a)の時と同じである。この場合、第2パルス後にも系は完全には初期状態に戻ってなく、コヒーレント光制御が困難であることを示してある。
【0019】
図2に、従来のコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図を示す。
この図は、このときの分極の振る舞いを視覚化したブロッホベクトルモデルを示したものである。ブロッホベクトルRは励起パルスによって誘起された分極を表す。なお、共鳴励起の場合、ブロッホ球のy−z平面(z−x平面)上の運動のみに着目すればよい。位相緩和時間が短い時、図2に示すように、ブロッホベクトルのコヒーレンス成分(y成分(x成分))が位相緩和時間で減衰するため、ブロッホベクトルの大きさは減少する(図2、下中図参照)。そのため、第2パルスとして第1パルスと同じパルス面積で照射した場合に残留励起子が生じ、系は完全に初期状態に戻らない(図2、下右図参照)。すなわちコヒーレント制御のためには位相緩和時間が長いことが必要であり、コヒーレント光制御を適用する光学媒質として単一量子ドットが期待される所以である。
【0020】
4.コヒーレント光制御装置
つづいて従来のコヒーレント光制御法とは異なり、入射光パルスのパルス面積を考慮した新しいコヒーレント光制御法及び装置について説明する。なお、パルス面積は、例えば、ブロッホ球で表したときブロッホベクトルRとZ軸との角度で示される。ラビ周波数Ωとパルス幅Δtの積(あるいは、パルス幅と電場振幅の積)をパルス面積Θとして、入射光パルス対のパルス面積をΘ=π(パルス面積がπのパルスをπパルスと呼ぶ)とした時のコヒーレント光制御について考える。
【0021】
まず、本発明の実施の形態のコヒーレント光制御の概要を説明する。
図13に、コヒーレント光制御の説明図を示す。
図示のように、媒質10にレーザーパルスを照射する。媒質は、例えば、光学媒質、光励起により励起子が生成され分極振動が誘起される物質、半導体、半導体量子ドット、単一量子ドット、量子ドット集合体、光学スペクトルの均一広がり系、又は、光学スペクトルの不均一広がり系等である。このとき、パルスレーザーから放出されたレーザー光は、パルス対のそれぞれのパルスのパルス面積をπ(又は実質的にπ)に調整され、遅延時間τの第1パルス及び第2パルスにコントロールされる。第1パルス及び第2パルスは、媒質10に照射されることにより、ブロッホベクトルを180°回転させる。このようにして、第1パルスによって生成された励起子が第2パルスによって強制的に初期状態に戻すことで、コヒーレント光制御が行われる。なお、第1パルス及び第2パルスの相対位相(位相差)はπとしてもよいし、両パルスを同じパルス(位相差無し)としてもよいし、さらに、任意の値とすることもできる。なお、「実質的にπ」とは、例えば、ブロッホベクトルを180°回転させることができる程度のパルス面積をいう。
【0022】
つぎに、図3に、πパルス対を用いた新しいコヒーレント光制御装置の構成図を示す。
このコヒーレント光制御装置は、パルスレーザー1、光コントローラ2、パルス間隔設定部3、検出器4を備え、媒質10に光パルスを照射する。
パルスレーザー1は、光パルスを出力する。
光コントローラ2は、パルスレーザー1からの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する。なお、パルス面積は次式で表される。
【0023】
【数3】
【0024】
ここで、Eは光電場の振幅であり、パルス幅を一定とすると、光コントローラ2により、例えば、パルス光強度を調整することによってパルス面積を制御することができる。また、光コントローラ2は、パルス幅Δtを調整してもよいし、光強度とパルス幅の両方を調整するなど、適宜の方法でパルス面積を調整することができる。光コントローラ2では、例えば予め計算した設定値、又は、測定結果に従い求めた設定値に基づき、パルス面積を調整することができる。
パルス間隔設定部3は、第1パルスと第2パルスとの時間間隔を調整する。パルス間隔設定部3は、例えば、ハーフミラー31、ミラー32、33を備える。図示の構成の場合、パルス間隔設定部3は、ハーフミラー31で2つに分けたレーザー光のうち片側の光路長をミラー32で調整することでパルス間に時間遅延をつけ、ミラー32からの反射光とミラー33からの反射光とが再び同軸上を進む。
【0025】
このように、第1及び第2パルスがそれぞれ面積πとなるように光強度等が調整され、所定時間間隔で半導体量子ドットのような光学媒質に入射させる。なお、光コントローラ2、パルス間隔設定部3による調整は、コンピュータで行ってもよい。さらに、パルスを設定し、フィードバック制御することもできる。例えば、第1光パルス及び/又は前記第2光パルスを測定する光パルス測定器と、光パルス測定器による測定結果に基づき、光パルス面積及び/又は時間間隔を制御するコンピュータとをさらに備えることにより、パルス面積を調整することができる。
検出器4は、例えば、分光器を用いることができる。媒質10の2準位系には基底準位と励起子の励起準位を使い、検出器4による2準位系の応答の観測には、例えば、励起子最低発光準位(励起子の基底準位)からの自然放出光を用いることができる。検出器4は、例えば、非共鳴蛍光をモニターとして使うことにより、励起光の散乱をスペクトル上で避けた観測が可能となる。
【0026】
5.コヒーレント光制御の適用
図4は、均一広がり系で、位相緩和時間がT2=10psとした場合の励起子分布数の時間発展を示している。図1(b)で示したようにΘ=π/10の位相同期パルス対を用いた従来のコヒーレント光制御では第2パルス後に残留励起子があるために、完全な励起子分布数の制御が困難であった。しかし、Θ=πのπパルス対を用いた場合には1ps後にほぼ完全に励起子の分布数は初期状態に戻り、コヒーレント光制御が可能であることが示されている。
【0027】
図5に、πパルス対を用いたコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図を示す。
図4のような状況は、図5に示すように第1のπパルス励起によってブロッホベクトルを180°回転させるためブロッホベクトルのコヒーレンス成分の減衰が分布数成分に影響を及ぼさないためである。これは蓄積フォトンエコーにおけるポピュレーション記憶効果(非特許文献2参照)に類似の現象である。
このパルス面積πのパルス対(πパルス対)を用いた新しいコヒーレント光制御法を適用すれば、固体素子化に有利な量子ドット集合体においても励起子分布数の制御が可能となる。
【0028】
図6は、不均一系において位相緩和時間がT2=10psとした場合の量子ドット集合体のような不均一広がりのある系に面積制御したπパルス対を入射した時の系の時間変化を示す図である。ここで、不均一広がりとして不均一幅20meVのガウス型を仮定している。通常では不均一広がりによる極めて早いデフェイジング(dephasing、失整相)効果によりコヒーレント光制御が不可能な量子ドット集合体においても、第2パルス後には励起子分布数は初期状態に戻っていることがわかる。
従来、量子ドット集合体のような不均一広がりのある系に対するコヒーレント光制御としてはパルス面積を面積制御した3パルス列を用いた方法(特許文献1参照)がある。これは光エコー現象を応用したコヒーレント光制御法であり、不均一広がりによるdephasing効果を光エコー現象のリフェイジング(rephasing、回復整相)効果で相殺し、巨視的な分極を復活させることによって励起子数をエネルギー緩和時間内で制御するものである。
【0029】
図7には、本発明による2つのπパルス列によるコヒーレント光制御法と従来の面積制御3パルス列を用いた方法における励起子分布数の時間変化の比較図を示す。図7(a)、(b)は3パルス列制御法による系の時間発展、図7(c)、(d)は2パルス列制御法による系の時間発展を示している。全ての計算においてエネルギー緩和時間T1=500ps、位相緩和時間T2=20ps、不均一幅σ=20meVとしている。
図7(a)、(c)はどちらも第1励起パルスと最後の励起パルス(制御パルス)の時間間隔が1psであり、3パルス列制御法も2パルス列制御法もどちらの場合においても制御パルス照射後には系は初期状態に戻っている。一方、図7(b)、(d)は第1励起パルスと制御パルスの時間間隔が10psであり、この場合、3パルス列制御法では制御パルス照射後でも完全には系が初期状態に戻っていない。すなわち、3パルス列制御法は、この例では、パルス間隔よりも十分に長い位相緩和時間をもつ媒質にしか適用することが出来ない。
【0030】
図8は励起子分布数の回復率γをγ=(N0−N)/N0と定義し、3パルス列制御法と2パルス列制御法におけるパルス間隔に対するγの比較図である。ここでN0は第1パルスにより生成された励起子分布数、Nは制御パルス後の残留励起子の分布数である。図8の○(丸印)と■(四角印)はそれぞれ3パルス列制御法と2パルス列制御法による励起子分布数の回復率を示している。横軸は第1パルスと制御パルスの時間間隔である。3パルス列制御法におけるγが位相緩和時間T2の指数関数で減衰するのに対して、2パルス列制御法ではT2には制限されずエネルギー緩和時間T1の指数関数で減衰している。すなわち、πパルス対を用いることによって、位相緩和時間に制限されない励起子のコヒーレント光制御が可能となる。
また、温度10K以下の極低温において位相緩和時間が数100psを超える半導体量子ドットも環境温度が液体窒素温度(77K)程度になると位相緩和時間は短くなり、数ps〜数10psとなる(非特許文献3参照)。従来のコヒーレント光制御法および3パルス列制御法の適用が不可能であるような、より室温に近い温度領域においても、πパルス対によるコヒーレント光制御法を用いることによって励起子分布数の制御が可能となる。
【0031】
6.変形例
(1)図14に、コヒーレント光制御装置の他の構成図を示す。
図14(A)の実施の形態では、2つのパルスレーザー1−1、1−2が設けられ、第1及び第2パルスを出力している。パルス間隔設定部3−1は、ミラー及びハーフミラーを有し、第1及び第2のパルスを所定時間間隔で媒質10に照射するためのものである。
図14(B)の実施の形態では、2つのパルスレーザー1−1、1−2が設けられ、第1及び第2パルスを出力している。パルス間隔設定部3−2は、例えば電気的にトリガを出力して、パルスレーザー1−1及び1−2の出力タイミングをとるためのものであり、第1及び第2のパルスを所定時間間隔で媒質10に照射するためのものである。
【0032】
(2)図15に、コヒーレント光制御装置のパルス間隔設定部の他の構成図を示す。
図示のように、パルス間隔設定部3−2は、2つのハーフミラーと反射プリズム(又は反射ミラー)を有する。このような適宜の構成で、ふたつのパルスの時間間隔を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、例えば、光情報処理の分野において1ps以下の時間間隔の高繰り返しスイッチングや光演算が可能な新しい光学素子開発のための光制御技術に利用することができる。
なお、例えば、励起子が、励起状態であるときを「1」、基底状態であるときを「0」としてデータに対応させてもよいし、励起状態及びそれに続く基底状態によりひとつの単位で「1」、基底状態及びそれに続く基底状態によりひとつの単位で「0」としてデータに対応してもよい。また、これらの逆に「0」「1」をそれぞれ対応させてもよい。本発明は、例えば、媒質又は励起子を励起状態又は基底状態とするかを面積制御されたレーザーパルスにより高速に制御し、その状態を検出することで、適宜データに対応させて、高速データの記憶、データ通信、送信・受信、符号化・復号化等に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来のコヒーレント光制御法による励起子分布数の時間変化を示す図。
【図2】従来のコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図。
【図3】πパルス対を用いたコヒーレント光制御装置の構成図。
【図4】均一系(T2=10ps)においてπパルス対を用いたコヒーレント光制御法を適用した際の励起子分布数の時間変化を示す図。
【図5】πパルス対を用いたコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図。
【図6】不均一系(T2=10ps)においてπパルス対を用いたコヒーレント光制御法を適用した際の励起子分布数の時間変化を示す図。
【図7】3パルス列コヒーレント光制御法とπパルスコヒーレント光制御法による励起子分布数の時間変化の比較図。
【図8】3パルス列コヒーレント光制御法とπパルスコヒーレント光制御法における励起子分布数の回復率γの比較図。
【図9】(A)静止座標系(X,Y,Z)から見た位相緩和過程のイメージ、及び、(B)回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図。
【図10】(A)静止座標系(X,Y,Z)から見たエネルギー緩和過程のイメージ、及び、(B)回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図。
【図11】ブロッホベクトルの説明図。
【図12】量子ドットの説明図。
【図13】コヒーレント光制御の説明図。
【図14】コヒーレント光制御装置の他の構成図。
【図15】コヒーレント光制御装置のパルス間隔設定部の他の構成図。
【符号の説明】
【0035】
1 パルスレーザー
2 光コントローラ
3 パルス間隔設定部
4 検出器
10 媒質
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置に係り、特に、位相緩和時間に制限されない新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光波が本来もっている超高速性と並列性を生かした光情報処理技術の実現は、従来の電子技術による情報処理と比べ応答速度や扱う情報量などの情報処理能力を格段に向上させる。
この光情報処理の分野において一つの課題である高速応答を実現するための光波側の制御技術として、励起子のコヒーレント光制御法がある(非特許文献1参照)。以下に、この励起子のコヒーレント光制御法について説明する。
一般に、レーザー光源からのコヒーレント光パルスによって半導体などの物質を光励起した場合、この第1光パルスによって生成された励起子には光周波数と同一のコヒーレントな分極振動(コヒーレンス)が誘起される。この分極振動が継続している間に第1の光パルスと位相同期した第2の光パルスを照射することによって半導体中の励起子数を自由に制御する方法が励起子の「コヒーレント光制御法」である。第2パルスの位相が第1パルスと同位相のときは励起子数が増加し、逆位相のときは励起子数を減少させることができる。この分極振動が持続している時間を「位相緩和時間」(後述)と呼び、この位相緩和時間の間であればこのような励起子のコヒーレント光制御が可能となる。
【0003】
一般的に半導体を光励起して励起子を生成すると、励起子の寿命すなわち「エネルギー緩和時間」(後述)は数100psであり、光演算の実行を考えたとき、この励起子が存在する間の時間は次の演算が出来ないとされてきた。しかしコヒーレント光制御法を適用することによって強制的に励起子を消滅させることができるため、エネルギー緩和時間の制約を打ち破り、演算操作を行なうことができるようになる。
ただし、励起子のコヒーレント光制御は位相緩和時間内に行なう必要があり、この時間が短い物質および環境下では励起子数の制御は極めて困難となる。位相緩和時間は光学スペクトルの均一幅の逆数で定義される時間であり、均一幅が狭いほど位相緩和時間は長くなるので、均一幅が狭い系がコヒーレント光制御には適している。その点において、単一の原子や分子は理想的であり、ほぼ究極の系となり得る。しかしながら、光学素子などの将来的な応用を考えた場合、設計の自由度や集積度を考慮すれば半導体量子ナノ構造体のような固体量子系が有利である。とりわけ、三次元的な量子閉じ込め効果に起因する状態の完全な離散化によって原子様スペクトルを示す半導体量子ドットはコヒーレント光制御を行なう絶好の系となり得る。また光との相互作用が大きい点からも今後の光学素子としての応用が期待され研究開発が盛んに行なわれている。
【0004】
【非特許文献1】A.P.Heberle and J.J.Baumberg and K.Kohler, Phys. Rev. Lett. 75,2598 (1995)、J.J.Baumberg, A.P.Heberle, K.Kohler, and A.V.Kavokin, Phys. Stat. Sol. (b) 204,9 (1997)
【非特許文献2】T.W.Mossberg, Opt. Lett. 7,77 (1982)
【非特許文献3】M.Bayer and A.Forchel, Phys. Rev. B 65,041308 (2002)
【特許文献1】特開2004−279882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、半導体量子ドットを用いた新しい光学素子の実現にはいくつかの課題がある。以下にその課題を挙げる。
(1) コヒーレント光制御法を用いて光演算素子などの新しい固体素子の実現を考えた場合、単一量子ドットのみでは十分な光信号強度が取れないので、量子ドットを集合体として利用する必要がある。しかし現実の量子ドット集合体の場合、個々の量子ドットのサイズにばらつきがあるため、それぞれの量子ドットは非常に狭い均一幅を示すにもかかわらず、サイズのばらつきを反映した広い不均一広がりが存在する。このような不均一広がりのある系では光励起によって、各分極はコヒーレントに振動し始めるがそれぞれが異なる周波数をもつためにその不均一幅の逆数で定義される時間で相互に打ち消しあい巨視的な分極は極めて早い時間で消失する。単一量子ドットの場合、位相緩和時間が100ps程度であれば位相同期した100fs光パルス対を用いればコヒーレンスが消失する前に励起子数を制御できるが、このような広い不均一幅を有する量子ドット集合体の場合、瞬時にコヒーレンスが消失するため従来のコヒーレント光制御法の適用は極めて困難となる。
【0006】
(2) 通常、半導体など固体物質を対象とした光学測定は10K以下の極低温下で行なわれる。一方、固体素子化を視野に入れた場合、なるべく室温に近い高温下における動作が要求される。しかし、環境温度が上昇するにつれて位相緩和時間は短くなるため、10K以下のような極低温以外でのコヒーレント光制御の適用は困難となる。
本発明は、以上の点に鑑み、パルス面積を考慮した超短光パルス対を用いることによって、固体材料固有の位相緩和時間に依存せず励起子分布数の制御が可能なコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することを目的とする。
本発明は、量子ドット集合体のような不均一系や常温に近い温度領域においても適用可能な新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の解決手段によると、
第1光パルスと第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御方法が提供される。
【0008】
本発明の第2の解決手段によると、
光パルスを出力するパルスレーザーと、
前記パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する光コントローラーと、
前記光コントローラーから出力された光パルスを2つの光路に分け、一方の光路の第1光パルスと他方の光路の第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置が提供される。
【0009】
本発明の第3の解決手段によると、
光パルスを出力する第1及び第2のパルスレーザーと、
前記第1及び第2の光パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する第1及び第2の光コントローラーと、
前記第1の光コントローラーから出力される第1光パルスと、前記第2の光コントローラから出力される第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するためのパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、位相緩和時間に制限されることなく、高速応答(例えば、1ps程度)の実現により高繰り返しスイッチングや光演算が可能な新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することができる。
また、本発明によると、固体素子化に有利である量子ドット集合体のような不均一系、さらにより室温に近い温度領域においても適用可能なπパルス対コヒーレント制御法を利用した新しいコヒーレント光制御方法及びコヒーレント光制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1. 用語の説明
(1)位相緩和時間
位相緩和時間(同義語:デコヒーレンス時間、横緩和時間)とは、励起光により生成された励起子が位相情報(分極振動)を記憶している時間である。
図9(A)に、静止座標系(X,Y,Z)から見た位相緩和過程のイメージの説明図を示す。エネルギー緩和時間が十分長い(Z成分の緩和時間が長い)時、ブロッホベクトルRは光周波数でZ軸のまわりを回転しながら時間とともに、そのX、Y成分を失う。たとえば、位相緩和の時定数はT2を示すと、指数関数的な減衰曲線(例えば、後述のエコー減衰曲線)の信号強度が1/eになる点で定義される。
図9(B)に、回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図を示す。
図示のように、T2の時間でx、y成分が0になる。
【0012】
(2)エネルギー緩和時間
エネルギー緩和時間(同義語:分布数緩和時間、分布数寿命、再結合寿命、発光寿命、縦緩和時間)とは、励起された原子、電子などが熱平衡状態(通常、基底状態)に減衰する時間である。励起子の場合、エネルギー緩和時間は、電子が再び正孔と結合するまでの時間である。
図10(A)に、静止座標系(X,Y,Z)から見たエネルギー緩和過程のイメージの説明図を示す。位相緩和時間が無限大と仮定する時、ブロッホベクトルRは光周波数でZ軸のまわりを回転しながら、そのZ成分を失う。エネルギー緩和の時定数をT1で示すと、位相緩和時間同様指数関数的な減衰曲線の1/eになる点で定義される。
図10(B)に、回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図を示す。
図示のように、T1の時間でz成分が−1(基底状態)になる。
【0013】
(3)ブロッホベクトル
ブロッホベクトル(光学的ブロッホベクトル)とは、2準位原子と光電場のコヒーレント相互作用を回転するベクトルモデルで表したものである。
図11に、ブロッホベクトルの説明図を示す。
ブロッホ球は半径1の単位球であり、緩和現象を考えない時、2準位系が光との相互作用の過程で運動するにつれて、ブロッホベクトルは単位球面上の軌道をたどる。x、yはコヒーレンス、zは分布数差(W−W0)を表す。例えば、W=0、W0=1の時、z=−1(基底状態)である。
【0014】
(4)量子ドット
量子ドットとは、数ナノメートル〜数10ナノメートル(1nm=10−9m)サイズの半導体微結晶である。
図12に、量子ドットの説明図を示す。
量子ドット中の電子、正孔や励起子は3次元方向で自由度が奪われる(閉じ込められる)。その結果、原子と同様の離散的なエネルギー状態をとるようになり、長い位相緩和時間や強い光非線形性をもつ。
【0015】
2.ブロッホベクトルモデル
新しいコヒーレント制御法を説明するために、光学ブロッホ方程式を視覚化したブロッホベクトルモデルを用いる。光学ブロッホ方程式は光と2準位系のコヒーレント相互作用を記述するものであり、式(1)で表される。
【0016】
【数1】
ここで、wは分布数差(実数)、ρはコヒーレンス(又は位相)(複素数)である。Ωはラビ周波数と呼ばれ、物質の双極子モーメントと電場の積に比例する。T1、T2はそれぞれ励起子のエネルギー緩和時間と位相緩和時間を表す。
ここでコヒーレンスρの実部をx、虚部をyとして、分布数差wをzとすると光学ブロッホ方程式は式(2)のように変換でき、これら3つの変数の時間発展をデカルト座標表示したものをブロッホベクトルモデルという。
【0017】
【数2】
このブロッホベクトルモデルにより、2準位系に光パルスを入射した後の系の時間発展を調べることができる。xとyがコヒーレンスであり、zが励起子の分布数差を表している。
【0018】
3.本発明に関連する従来のコヒーレント光制御
図1は、ブロッホ方程式を用いて計算した従来のコヒーレント光制御における励起子の分布数差(z成分)の時間変化を示す図である。図1(a)、(b)はそれぞれ位相緩和時間がT2=100ps、10psにおける計算結果。パルス対の相対位相はπ、パルス面積はπ/10である。
上述したコヒーレント光制御装置において、エネルギー緩和時間T1=200ps、双極子モーメントをμ=20Debye、入射光のパルス幅をΔt=100fsと仮定して計算を行なった。図1(a)は、単一量子ドットのような均一広がり系を仮定し、位相緩和時間はT2=100psとしてある。第1パルスと第2パルスを1psの時間間隔で系に入射した場合、第1パルスによって光励起された励起子が第2パルスによって強制的に初期状態に戻されていることがわかる。ただし、第1パルス及び第2パルスの相対位相はπに限る。図1(b)は位相緩和時間がT2=10psの場合における分布数差の時間変化である。他の計算パラメータは図1(a)の時と同じである。この場合、第2パルス後にも系は完全には初期状態に戻ってなく、コヒーレント光制御が困難であることを示してある。
【0019】
図2に、従来のコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図を示す。
この図は、このときの分極の振る舞いを視覚化したブロッホベクトルモデルを示したものである。ブロッホベクトルRは励起パルスによって誘起された分極を表す。なお、共鳴励起の場合、ブロッホ球のy−z平面(z−x平面)上の運動のみに着目すればよい。位相緩和時間が短い時、図2に示すように、ブロッホベクトルのコヒーレンス成分(y成分(x成分))が位相緩和時間で減衰するため、ブロッホベクトルの大きさは減少する(図2、下中図参照)。そのため、第2パルスとして第1パルスと同じパルス面積で照射した場合に残留励起子が生じ、系は完全に初期状態に戻らない(図2、下右図参照)。すなわちコヒーレント制御のためには位相緩和時間が長いことが必要であり、コヒーレント光制御を適用する光学媒質として単一量子ドットが期待される所以である。
【0020】
4.コヒーレント光制御装置
つづいて従来のコヒーレント光制御法とは異なり、入射光パルスのパルス面積を考慮した新しいコヒーレント光制御法及び装置について説明する。なお、パルス面積は、例えば、ブロッホ球で表したときブロッホベクトルRとZ軸との角度で示される。ラビ周波数Ωとパルス幅Δtの積(あるいは、パルス幅と電場振幅の積)をパルス面積Θとして、入射光パルス対のパルス面積をΘ=π(パルス面積がπのパルスをπパルスと呼ぶ)とした時のコヒーレント光制御について考える。
【0021】
まず、本発明の実施の形態のコヒーレント光制御の概要を説明する。
図13に、コヒーレント光制御の説明図を示す。
図示のように、媒質10にレーザーパルスを照射する。媒質は、例えば、光学媒質、光励起により励起子が生成され分極振動が誘起される物質、半導体、半導体量子ドット、単一量子ドット、量子ドット集合体、光学スペクトルの均一広がり系、又は、光学スペクトルの不均一広がり系等である。このとき、パルスレーザーから放出されたレーザー光は、パルス対のそれぞれのパルスのパルス面積をπ(又は実質的にπ)に調整され、遅延時間τの第1パルス及び第2パルスにコントロールされる。第1パルス及び第2パルスは、媒質10に照射されることにより、ブロッホベクトルを180°回転させる。このようにして、第1パルスによって生成された励起子が第2パルスによって強制的に初期状態に戻すことで、コヒーレント光制御が行われる。なお、第1パルス及び第2パルスの相対位相(位相差)はπとしてもよいし、両パルスを同じパルス(位相差無し)としてもよいし、さらに、任意の値とすることもできる。なお、「実質的にπ」とは、例えば、ブロッホベクトルを180°回転させることができる程度のパルス面積をいう。
【0022】
つぎに、図3に、πパルス対を用いた新しいコヒーレント光制御装置の構成図を示す。
このコヒーレント光制御装置は、パルスレーザー1、光コントローラ2、パルス間隔設定部3、検出器4を備え、媒質10に光パルスを照射する。
パルスレーザー1は、光パルスを出力する。
光コントローラ2は、パルスレーザー1からの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する。なお、パルス面積は次式で表される。
【0023】
【数3】
【0024】
ここで、Eは光電場の振幅であり、パルス幅を一定とすると、光コントローラ2により、例えば、パルス光強度を調整することによってパルス面積を制御することができる。また、光コントローラ2は、パルス幅Δtを調整してもよいし、光強度とパルス幅の両方を調整するなど、適宜の方法でパルス面積を調整することができる。光コントローラ2では、例えば予め計算した設定値、又は、測定結果に従い求めた設定値に基づき、パルス面積を調整することができる。
パルス間隔設定部3は、第1パルスと第2パルスとの時間間隔を調整する。パルス間隔設定部3は、例えば、ハーフミラー31、ミラー32、33を備える。図示の構成の場合、パルス間隔設定部3は、ハーフミラー31で2つに分けたレーザー光のうち片側の光路長をミラー32で調整することでパルス間に時間遅延をつけ、ミラー32からの反射光とミラー33からの反射光とが再び同軸上を進む。
【0025】
このように、第1及び第2パルスがそれぞれ面積πとなるように光強度等が調整され、所定時間間隔で半導体量子ドットのような光学媒質に入射させる。なお、光コントローラ2、パルス間隔設定部3による調整は、コンピュータで行ってもよい。さらに、パルスを設定し、フィードバック制御することもできる。例えば、第1光パルス及び/又は前記第2光パルスを測定する光パルス測定器と、光パルス測定器による測定結果に基づき、光パルス面積及び/又は時間間隔を制御するコンピュータとをさらに備えることにより、パルス面積を調整することができる。
検出器4は、例えば、分光器を用いることができる。媒質10の2準位系には基底準位と励起子の励起準位を使い、検出器4による2準位系の応答の観測には、例えば、励起子最低発光準位(励起子の基底準位)からの自然放出光を用いることができる。検出器4は、例えば、非共鳴蛍光をモニターとして使うことにより、励起光の散乱をスペクトル上で避けた観測が可能となる。
【0026】
5.コヒーレント光制御の適用
図4は、均一広がり系で、位相緩和時間がT2=10psとした場合の励起子分布数の時間発展を示している。図1(b)で示したようにΘ=π/10の位相同期パルス対を用いた従来のコヒーレント光制御では第2パルス後に残留励起子があるために、完全な励起子分布数の制御が困難であった。しかし、Θ=πのπパルス対を用いた場合には1ps後にほぼ完全に励起子の分布数は初期状態に戻り、コヒーレント光制御が可能であることが示されている。
【0027】
図5に、πパルス対を用いたコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図を示す。
図4のような状況は、図5に示すように第1のπパルス励起によってブロッホベクトルを180°回転させるためブロッホベクトルのコヒーレンス成分の減衰が分布数成分に影響を及ぼさないためである。これは蓄積フォトンエコーにおけるポピュレーション記憶効果(非特許文献2参照)に類似の現象である。
このパルス面積πのパルス対(πパルス対)を用いた新しいコヒーレント光制御法を適用すれば、固体素子化に有利な量子ドット集合体においても励起子分布数の制御が可能となる。
【0028】
図6は、不均一系において位相緩和時間がT2=10psとした場合の量子ドット集合体のような不均一広がりのある系に面積制御したπパルス対を入射した時の系の時間変化を示す図である。ここで、不均一広がりとして不均一幅20meVのガウス型を仮定している。通常では不均一広がりによる極めて早いデフェイジング(dephasing、失整相)効果によりコヒーレント光制御が不可能な量子ドット集合体においても、第2パルス後には励起子分布数は初期状態に戻っていることがわかる。
従来、量子ドット集合体のような不均一広がりのある系に対するコヒーレント光制御としてはパルス面積を面積制御した3パルス列を用いた方法(特許文献1参照)がある。これは光エコー現象を応用したコヒーレント光制御法であり、不均一広がりによるdephasing効果を光エコー現象のリフェイジング(rephasing、回復整相)効果で相殺し、巨視的な分極を復活させることによって励起子数をエネルギー緩和時間内で制御するものである。
【0029】
図7には、本発明による2つのπパルス列によるコヒーレント光制御法と従来の面積制御3パルス列を用いた方法における励起子分布数の時間変化の比較図を示す。図7(a)、(b)は3パルス列制御法による系の時間発展、図7(c)、(d)は2パルス列制御法による系の時間発展を示している。全ての計算においてエネルギー緩和時間T1=500ps、位相緩和時間T2=20ps、不均一幅σ=20meVとしている。
図7(a)、(c)はどちらも第1励起パルスと最後の励起パルス(制御パルス)の時間間隔が1psであり、3パルス列制御法も2パルス列制御法もどちらの場合においても制御パルス照射後には系は初期状態に戻っている。一方、図7(b)、(d)は第1励起パルスと制御パルスの時間間隔が10psであり、この場合、3パルス列制御法では制御パルス照射後でも完全には系が初期状態に戻っていない。すなわち、3パルス列制御法は、この例では、パルス間隔よりも十分に長い位相緩和時間をもつ媒質にしか適用することが出来ない。
【0030】
図8は励起子分布数の回復率γをγ=(N0−N)/N0と定義し、3パルス列制御法と2パルス列制御法におけるパルス間隔に対するγの比較図である。ここでN0は第1パルスにより生成された励起子分布数、Nは制御パルス後の残留励起子の分布数である。図8の○(丸印)と■(四角印)はそれぞれ3パルス列制御法と2パルス列制御法による励起子分布数の回復率を示している。横軸は第1パルスと制御パルスの時間間隔である。3パルス列制御法におけるγが位相緩和時間T2の指数関数で減衰するのに対して、2パルス列制御法ではT2には制限されずエネルギー緩和時間T1の指数関数で減衰している。すなわち、πパルス対を用いることによって、位相緩和時間に制限されない励起子のコヒーレント光制御が可能となる。
また、温度10K以下の極低温において位相緩和時間が数100psを超える半導体量子ドットも環境温度が液体窒素温度(77K)程度になると位相緩和時間は短くなり、数ps〜数10psとなる(非特許文献3参照)。従来のコヒーレント光制御法および3パルス列制御法の適用が不可能であるような、より室温に近い温度領域においても、πパルス対によるコヒーレント光制御法を用いることによって励起子分布数の制御が可能となる。
【0031】
6.変形例
(1)図14に、コヒーレント光制御装置の他の構成図を示す。
図14(A)の実施の形態では、2つのパルスレーザー1−1、1−2が設けられ、第1及び第2パルスを出力している。パルス間隔設定部3−1は、ミラー及びハーフミラーを有し、第1及び第2のパルスを所定時間間隔で媒質10に照射するためのものである。
図14(B)の実施の形態では、2つのパルスレーザー1−1、1−2が設けられ、第1及び第2パルスを出力している。パルス間隔設定部3−2は、例えば電気的にトリガを出力して、パルスレーザー1−1及び1−2の出力タイミングをとるためのものであり、第1及び第2のパルスを所定時間間隔で媒質10に照射するためのものである。
【0032】
(2)図15に、コヒーレント光制御装置のパルス間隔設定部の他の構成図を示す。
図示のように、パルス間隔設定部3−2は、2つのハーフミラーと反射プリズム(又は反射ミラー)を有する。このような適宜の構成で、ふたつのパルスの時間間隔を調整することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、例えば、光情報処理の分野において1ps以下の時間間隔の高繰り返しスイッチングや光演算が可能な新しい光学素子開発のための光制御技術に利用することができる。
なお、例えば、励起子が、励起状態であるときを「1」、基底状態であるときを「0」としてデータに対応させてもよいし、励起状態及びそれに続く基底状態によりひとつの単位で「1」、基底状態及びそれに続く基底状態によりひとつの単位で「0」としてデータに対応してもよい。また、これらの逆に「0」「1」をそれぞれ対応させてもよい。本発明は、例えば、媒質又は励起子を励起状態又は基底状態とするかを面積制御されたレーザーパルスにより高速に制御し、その状態を検出することで、適宜データに対応させて、高速データの記憶、データ通信、送信・受信、符号化・復号化等に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来のコヒーレント光制御法による励起子分布数の時間変化を示す図。
【図2】従来のコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図。
【図3】πパルス対を用いたコヒーレント光制御装置の構成図。
【図4】均一系(T2=10ps)においてπパルス対を用いたコヒーレント光制御法を適用した際の励起子分布数の時間変化を示す図。
【図5】πパルス対を用いたコヒーレント光制御法のパルスシーケンスとブロッホベクトルモデルによる説明図。
【図6】不均一系(T2=10ps)においてπパルス対を用いたコヒーレント光制御法を適用した際の励起子分布数の時間変化を示す図。
【図7】3パルス列コヒーレント光制御法とπパルスコヒーレント光制御法による励起子分布数の時間変化の比較図。
【図8】3パルス列コヒーレント光制御法とπパルスコヒーレント光制御法における励起子分布数の回復率γの比較図。
【図9】(A)静止座標系(X,Y,Z)から見た位相緩和過程のイメージ、及び、(B)回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図。
【図10】(A)静止座標系(X,Y,Z)から見たエネルギー緩和過程のイメージ、及び、(B)回転座標系(x,y,z)から見た位相緩和のイメージの説明図。
【図11】ブロッホベクトルの説明図。
【図12】量子ドットの説明図。
【図13】コヒーレント光制御の説明図。
【図14】コヒーレント光制御装置の他の構成図。
【図15】コヒーレント光制御装置のパルス間隔設定部の他の構成図。
【符号の説明】
【0035】
1 パルスレーザー
2 光コントローラ
3 パルス間隔設定部
4 検出器
10 媒質
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1光パルスと第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御方法。
【請求項2】
前記媒質は、光学媒質、光励起により励起子が生成され分極振動が誘起される物質、半導体、半導体量子ドット、単一量子ドット、量子ドット集合体、光学スペクトルの均一広がり系、又は、光学スペクトルの不均一広がり系のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項3】
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれについて、光パルス幅を一定として、光パルス強度を調整することによって、光パルス面積がπとなるように制御されることを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項4】
前記媒質は、基底準位と、励起子の励起準位とによる2準位系であり、2準位系の応答を励起子の最低発光準位又は励起子の基底準位からの自然放出光又は非共鳴蛍光により観測することを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項5】
前記第1光パルス及び/又は前記第2光パルスを測定し、測定結果に基づき、光パルス面積及び/又は時間間隔を制御することを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項6】
光パルスを出力するパルスレーザーと、
前記パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する光コントローラーと、
前記光コントローラーから出力された光パルスを2つの光路に分け、一方の光路の第1光パルスと他方の光路の第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置。
【請求項7】
光パルスを出力する第1及び第2のパルスレーザーと、
前記第1及び第2の光パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する第1及び第2の光コントローラーと、
前記第1の光コントローラーから出力される第1光パルスと、前記第2の光コントローラから出力される第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するためのパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置。
【請求項8】
前記第1光パルス及び/又は前記第2光パルスを測定する光パルス測定器と、
前記光パルス測定器による測定結果に基づき、光パルス面積及び/又は時間間隔を制御するコンピュータと
をさらに備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載のコヒーレント光制御装置。
【請求項9】
前記媒質は、基底準位と、励起子の励起準位とによる2準位系であり、
2準位系の応答を励起子の最低発光準位又は励起子の基底準位からの自然放出光又は非共鳴蛍光により観測する検出器をさらに備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載のコヒーレント光制御装置。
【請求項1】
第1光パルスと第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御方法。
【請求項2】
前記媒質は、光学媒質、光励起により励起子が生成され分極振動が誘起される物質、半導体、半導体量子ドット、単一量子ドット、量子ドット集合体、光学スペクトルの均一広がり系、又は、光学スペクトルの不均一広がり系のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項3】
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれについて、光パルス幅を一定として、光パルス強度を調整することによって、光パルス面積がπとなるように制御されることを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項4】
前記媒質は、基底準位と、励起子の励起準位とによる2準位系であり、2準位系の応答を励起子の最低発光準位又は励起子の基底準位からの自然放出光又は非共鳴蛍光により観測することを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項5】
前記第1光パルス及び/又は前記第2光パルスを測定し、測定結果に基づき、光パルス面積及び/又は時間間隔を制御することを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光制御方法。
【請求項6】
光パルスを出力するパルスレーザーと、
前記パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する光コントローラーと、
前記光コントローラーから出力された光パルスを2つの光路に分け、一方の光路の第1光パルスと他方の光路の第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置。
【請求項7】
光パルスを出力する第1及び第2のパルスレーザーと、
前記第1及び第2の光パルスレーザーからの光パルスに対して、光パルス面積がπ又は実質的にπとなるように制御する第1及び第2の光コントローラーと、
前記第1の光コントローラーから出力される第1光パルスと、前記第2の光コントローラから出力される第2光パルスとの間に時間遅延をつけ、前記第1及び第2の光パルスを媒質に照射するためのパルス間隔設定部と
を備え、
前記第1光パルスと前記第2光パルスのそれぞれの光パルス面積をπ又は実質的にπとして前記媒質に照射することにより、ブロッホベクトルを180°回転させ、
前記第1光パルスによって前記媒質中に励起子を生成し、
前記第2光パルスによって前記励起子を強制的に初期状態に戻すようにした
コヒーレント光制御装置。
【請求項8】
前記第1光パルス及び/又は前記第2光パルスを測定する光パルス測定器と、
前記光パルス測定器による測定結果に基づき、光パルス面積及び/又は時間間隔を制御するコンピュータと
をさらに備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載のコヒーレント光制御装置。
【請求項9】
前記媒質は、基底準位と、励起子の励起準位とによる2準位系であり、
2準位系の応答を励起子の最低発光準位又は励起子の基底準位からの自然放出光又は非共鳴蛍光により観測する検出器をさらに備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載のコヒーレント光制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図14】
【図15】
【図12】
【公開番号】特開2008−107703(P2008−107703A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292461(P2006−292461)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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