説明

コヒーレント光受信機およびコヒーレント光受信方法

【課題】 補償すべき波長分散量が大きく異なる環境下においても、小さな回路規模で柔軟に波長分散補償を行う。
【解決手段】 入力信号の、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償と、予め定めた範囲での波長分散の補償を行う第1の波形等化手段と、入力信号の波長分散の補償を行う第2の波形等化手段と、入力信号の波長分散の値を監視し、補償すべき波長分散量に応じて第1の波形等化手段と第2の波形等化手段のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数を制御する制御手段とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コヒーレント光受信機およびコヒーレント光受信方法に関し、特に、電気的な等化フィルタを用いて波形等化処理を行うコヒーレント光受信機およびコヒーレント光受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速大容量、長距離の波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)光伝送システムを実現する上で、コヒーレント光受信方式が脚光を浴びている。コヒーレント光受信方式は、光ファイバ上を伝送した光信号をコヒーレント受信して電気信号に変換した後に、デジタル信号処理により波長分散補償などの波形等化処理を行う。つまり、コヒーレント光受信方式では、光ファイバによる長距離伝送の際に大きな問題となる波長分散等に起因する信号の波形歪みを、電気的な等化フィルタを用いて高精度に補償を行うことができる。このため、コヒーレント光受信方式は、DCF(Dispersion Compensating Fiber、分散補償ファイバ)やTDC(Tunable Dispersion Compensator、可変波長分散補償器)等の波長分散補償用の光学部品を必要としない。従って、このような高価な光学部品を必要とせず大幅なコスト削減を図ることができる点が、コヒーレント光受信方式の一つの大きな利点となっている。
【0003】
このようなコヒーレント光受信方式を適用した光受信機が、特許文献1乃至3に開示されている。
【0004】
特許文献1は、歪み補償装置のハードウェア規模を縮小させることができる歪み補償装置およびそれを含む光受信装置を開示する。特許文献1が開示する技術は、受信した光信号の波形歪みをデジタル信号処理により補償する歪み補償装置において、補償量が固定された複数の規定量補償部と、補償量が可変の可変補償部を備える。規定量補償部は、オンオフ切り替えにより補償動作の組合せを変更可能に構成されている。そして、制御部は、光伝送路で生じた波形歪みに応じて、規定量補償部の組合せで補償される固定補償量でまず波形歪みを補償し、残りの波形歪みに基づいて可変補償部の補償量を可変制御する。
【0005】
特許文献2は、デジタルコヒーレント受信する際の局発光の周波数変動に起因する通信品質の劣化を解決する技術を開示する。つまり、局発光の周波数が変動すると光信号を精度良くデジタル復調することができない。その結果、通信品質が劣化してしまう。特許文献2によれば、デジタル信号に変換された信号の波形歪みを波形歪補償回路で補償し、その波形歪みが補償された信号の位相を位相検出部で検出する。そして、位相補償器は、その位相検出部で検出された位相に基づいて、波形歪補償回路で波形歪みが補償された信号の位相を補償し、その位相が補償された信号を復調する。
【0006】
特許文献3は、デジタルコヒーレント光受信装置において、分散補償を適切に行う技術を開示する。特許文献3が開示する技術は、第1補償回路で、デジタル信号処理により波長分散に相当する波形歪みを補償する。そして、波長分散補償制御回路で、デジタル変換の際のサンプリング信号と受信光信号の変調周波数との位相ずれ検出出力値に基づき、第1補償回路における波長分散の補償量を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-178222号公報
【特許文献2】特開2011-009956号公報
【特許文献3】特開2011-015013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コヒーレント光受信機のデジタル信号処理部は、一般的に、信号光が光ファイバ中を伝送することにより発生する分散や位相回転を補正し、信号光と局部発振光源の周波数差に起因する周波数オフセットを補正する。そして、補正された信号を源信号に復号する識別復調回路を含む。例えば、特許文献3の図1には、波形歪補償回路、搬送波周波数・位相同期回路、および識別復調回路で構成されるデジタル信号処理部が示されている。そして、同じく特許文献3の図3には、波形歪補償回路として波長分散を補償する波長分散回路と、偏波モード分散等を補償する適応等化型波形歪補償回路が示されている。
【0009】
ここで、受信信号の波形歪み、特に波長分散を補償する回路に注目する。その回路構成は、例えば特許文献3の図4に示されるFIR(Finite Impulse Response:有限インパルス応答)フィルタを用いた回路や、特許文献3の図5に示される高速フーリエ変換を用いて周波数領域で補償する回路が用いられる。
【0010】
このような電気的な等化フィルタは、大きな波長分散を補償するためには大規模な回路が必要になる。例えば、光信号をシングルモードファイバで2,000km以上の距離を伝送する場合、波長分散量は40,000ps/nm近くに達する。この波長分散を、例えばFIRフィルタによって補償する場合、100Gbpsの伝送レートで伝送される信号に対して必要とされるタップ数は、おおよそ数百タップ以上になる。また高速フーリエ変換を用いて周波数領域で補償する場合も同様に大規模な回路が必要になる。このように、波長分散を補償する電気的な等化フィルタは、その補償すべき波長分散量に応じて回路規模が大きくなり、しかも消費電力も大きくなる。
【0011】
それでも、伝送経路が固定されている場合は問題なかった。しかし、複数のノード間をメッシュ接続し、任意のノード間で任意の伝送経路を選択することができるメッシュネットワークにおいては、選択した経路に応じて補償すべき波長分散量が異なる。そのため、波長分散量の大小に係わりなく回路規模の大きな分散補償回路を用いることは無駄であり、補償すべき波長分散量に応じて消費電力を減らすことができない。
【0012】
上述した特許文献2および3に開示される技術は、補償すべき波長分散量に応じて回路規模を変更することや消費電力を減らすことは一切述べていない。
【0013】
特許文献1に開示される技術は、補償量が固定された複数の規定量補償部と可変の補償量で補償する可変補償部を、補償すべき波長分散量に応じて適宜組み合わせて補償する。そのため、補償量が固定された規定量補償部の回路規模はたしかに小さくすることができる。また、規定量補償部で補償する分だけ可変補償部での補償量を減らすことができるので、可変補償部の回路規模も小さくすることができる。
【0014】
しかし、特許文献1に開示される技術は、補償すべき波長分散量が小さなものから大きなものへと大きく異なるような環境に適用する場合には、バランスよく回路を構成することに難がある。つまり、特許文献1に開示される技術は、補償すべき波長分散量がある程度の範囲に納まる環境での使用を前提に、規定量補償部で補償する固定補償量の大きさ、設置すべき規定量補償部の数、および可変補償部で可能な可変補償量が決められる。そのため、想定した範囲よりもさらに小さい波長分散量を補償する環境においては、補償量が固定された複数の規定量補償部は無駄な構成となり得る。
【0015】
本発明の目的は、上記の課題を解決して、補償すべき波長分散量が大きく異なる環境下においても、小さな回路規模で柔軟に波長分散補償を行うことができるコヒーレント光受信機およびコヒーレント光受信方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を実現するために、本発明の一形態であるコヒーレント光受信機は、入力信号の、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償と、予め定めた範囲での波長分散の補償を行う第1の波形等化手段と、前記入力信号の波長分散の補償を行う第2の波形等化手段と、前記入力信号の波長分散の値を監視し、補償すべき波長分散量に応じて前記第1の波形等化手段と前記第2の波形等化手段のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数を制御する制御手段とを含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の他の形態であるコヒーレント光受信方法は、第1の波形等化手段で、入力信号の、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償と、予め定めた範囲での波長分散の補償を行い、第2の波形等化手段で前記入力信号の波長分散補償を行い、前記入力信号の波長分散の値を監視し、補償すべき波長分散量に応じて前記第1の波形等化手段と前記第2の波形等化手段のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、光ファイバ伝送システムにおけるコヒーレント光受信機において、補償すべき波長分散量が大きく異なる環境下においても、小さな回路規模で柔軟に波長分散補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態によるコヒーレント光受信機の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態によるコヒーレント光受信機の動作を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施形態によるコヒーレント光受信機の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の第2の実施形態によるコヒーレント光受信機の第1の半固定等化回路と第2の半固定等化回路の構成例を示すブロック図である。
【図5】本発明の第2の実施形態によるコヒーレント光受信機の制御部の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0021】
尚、実施の形態は例示であり、本発明は以下の実施の形態の構成には限定されない。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態によるコヒーレント光受信機の構成を示すブロック図である。
【0023】
本発明の第1の実施形態によるコヒーレント光受信機100は、コヒーレント光受信手段110、第1の波形等化手段120、第2の波形等化手段130および制御手段140を含む構成となっている。
【0024】
第1の波形等化手段120は、コヒーレント光受信手段110が出力するデジタル電気信号を入力し、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償と、予め定めた範囲での波長分散補償を行う。
【0025】
コヒーレント光受信手段110は、入力した信号光をコヒーレント光受信してデジタル電気信号に変換して出力するが、出力信号にはコヒーレント光受信手段110の特性に起因する波形歪みを含んでいる。例えば、コヒーレント光受信手段110では、信号光をX偏波、Y偏波に分離し、さらにそれぞれの同位相成分と直交位相成分とを検出するので、4つの時間波形を検出する。この4つの検出過程で発生する互いの時間遅延であるスキューが発生する。また、デジタル電気信号に変換する際に行う利得調整では吸収しきれなかったレベルのずれが残っている。
【0026】
第1の波形等化手段120は、このようなコヒーレント光受信手段110の特性に起因する波形歪みの補償に加えて、予め定めた範囲での波長分散補償を行う。
【0027】
第2の波形等化手段130は、入力信号の波長分散補償を行う。
【0028】
制御手段140は、入力信号の波長分散量を監視し、補償すべき波長分散量に応じて第1の波形等化手段と第2の波形等化手段のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数を制御する。
【0029】
なお、この補償係数とは、第1の波形等化手段と第2の波形等化手段のそれぞれが備える等化フィルタにおいて、波形等化のために使用されるフィルタ係数である。
【0030】
次に、図2を参照して、この第1の実施形態の動作を説明する。
【0031】
図2は、第1の実施形態によるコヒーレント光受信機の動作を説明するフローチャートである。第1の実施形態によるコヒーレント光受信機は、次のように動作する。
【0032】
第1の波形等化手段で、入力信号の、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償と、予め定めた範囲での波長分散の補償を行う(S101)。
【0033】
第2の波形等化手段で前記入力信号の波長分散補償を行う(S102)。
【0034】
入力信号の波長分散の値を監視し、補償すべき波長分散量に応じて第1の波形等化手段と第2の波形等化手段のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数を制御する(S103)。
【0035】
上記のように、第1の実施形態のコヒーレント光受信機100は、いずれも電気的な等化フィルタを用いた波形等化手段である、第1の波形等化手段120および第2の波形等化手段130を用いる。
【0036】
上記の説明からわかるように、第1の波形等化手段120および第2の波形等化手段130のいずれも補償量が可変の波形等化手段である。しかも、第1の波形等化手段120は、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に加えて、予め定めた範囲での波長分散補償を行う構成となっている。そして、補償すべき波長分散量に応じて第1の波形等化手段120と第2の波形等化手段130のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数が制御される。
【0037】
そのため、補償すべき波長分散量が大きく異なる環境下においても、柔軟に波長分散補償を行うことができる。つまり、第1の波形等化手段だけで対処する補償、第2の波形等化手段だけで対処する補償、第1の波形等化手段および第2の波形等化手段の両方で対処する補償というように、柔軟に波長分散補償を行うことができる。
【0038】
しかも、第1の波形等化手段では、予め定めた範囲での波長分散補償を分担して行うので、その分だけ第2の波形等化手段130を小さな回路規模で実現することができる。さらに、第1の波形等化手段120は、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償のためにもともと設けられている手段なので、新たなハードウェアとして追加設置する必要がない。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態のコヒーレント光受信機を説明する。
【0040】
図3は、本発明の第2の実施形態によるコヒーレント光受信機の構成を示すブロック図である。
【0041】
第2の実施形態によるコヒーレント光受信機200は、コヒーレント光受信部210、第1の半固定等化回路220、第2の半固定等化回路230、可変等化回路240、制御部250および誤り訂正/復号回路260を含む構成となっている。
【0042】
図3において、コヒーレント光受信機200に入力した信号光は、コヒーレント光受信部210において、コヒーレント光受信され、電気信号への変換、さらにデジタル信号への変換が行われる。つまり、信号光は、局部発振光源214が出力する局発光とともに90度光ハイブリッド211に入力され、X偏波、Y偏波に分離され、さらにそれぞれの同位相成分と直交位相成分の4つの合波光として出力される。各合波光は、光電変換212およびA/D(アナログ/デジタル)変換213を経てデジタル電気信号としてコヒーレント光受信部210から出力される。
【0043】
コヒーレント光受信部210から出力されたデジタル信号は、第1の半固定等化回路220、第2の半固定等化回路230、可変等化回路240に順次入力されて、波形歪みの等化処理が行われる。そして、誤り訂正/復号回路260によりビット誤りの訂正、信号の復号処理が行われる。
【0044】
第1の半固定等化回路220は、コヒーレント光受信部210から出力されたデジタル信号に対してスキュー補償やレベル調整等を行う。つまり、90度光ハイブリッド211の特性に起因して発生する4つの合波光における時間遅延であるスキューや利得のばらつき、A/D変換前の利得調整では吸収しきれなかった最適レベルからのずれを補償する。このように、第1の半固定等化回路220は、光伝送に起因する波形歪みを等化する前に、コヒーレント光受信部210を構成する部品等の特性に起因する歪みを主として補償する等化回路である。
【0045】
また、さらに、第1の半固定等化回路220は、予め定めた範囲での波長分散補償を行う構成も備えている。
【0046】
第2の半固定等化回路230は、光伝送に起因する波長分散を補償する。後述するように、第2の半固定等化回路230は、時間領域の入力信号を高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transformer)によって周波数領域信号に変換し、周波数領域補償によって波長分散を補償する。そして、逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transformer)によってもとの時間領域の信号に戻している。
【0047】
また、第2の半固定等化回路230は、図3に示すように、その入力側と出力側にスイッチ部が設けられている。これは、後述するように、補償すべき波長分散量が小さく、第2の半固定等化回路230での波形等化を必要としない場合に、第2の半固定等化回路230を停止させる。その際に、第2の半固定等化回路230をバイパスさせて信号を通過させるものである。
【0048】
可変等化回路240は、第2の半固定等化回路230において残留した、偏波モード分散等の波形歪みを適応等化的に補償する。
【0049】
誤り訂正/復号回路260は、波形等化されたデジタル信号に対してビット誤りの訂正を行い、変調されている多値信号を復調して受信信号を出力する。
【0050】
制御部250は、補償すべき波長分散量を識別して、その補償量に応じて第1の半固定等化回路220を用いた波長分散補償や第2の半固定等化回路230を用いた波長分散補償を制御する。
【0051】
なお、第1の半固定等化回路220や第2の半固定等化回路230の「半固定」は、可変等化回路240のように適応的に等化処理する回路と比較した場合に、可変速度が遅いことを区別するために付与した名称にすぎない。
【0052】
次に、本実施形態の特徴となる第1の半固定等化回路220、第2の半固定等化回路230および制御部250のそれぞれの構成に関して説明する。
【0053】
図4は、第1の半固定等化回路220と第2の半固定等化回路230の構成例を示すブロック図である。
【0054】
第1の半固定等化回路220は、FIR(Finite Impulse Response)フィルタが時間領域等化フィルタとして波形等化に用いられている。FIRフィルタは、遅延部Tと、複素乗算器による乗算部と、複素加算器による加算部から構成される。遅延部Tの前後からタップされた信号は、各複素乗算器において各タップに対する時間領域等化フィルタ係数(タップ係数)A0〜A4と複素乗算される。そして、加算部において各複素乗算された総和がとられ、入力信号に対してA0〜A4を係数としたデジタルフィルタ処理を行った信号として出力される。なお、ここで示しているタップ数は例示であり、これに限られるものではない。
【0055】
第1の半固定等化回路220は、このタップ係数A0〜A4を適切な値に設定することにより、入力信号の、コヒーレント光受信部210の特性に起因する歪み補償である、スキュー補償やレベル調整等を行って出力する。また、波長分散補償も同時に行うようにこのタップ係数A0〜A4を設定することにより、スキュー補償やレベル調整等と同時に波長分散補償をも第1の半固定等化回路220で実施することを可能にしている。
【0056】
このような第1の半固定等化回路220として、次のような構成が例示される。
【0057】
第1の半固定等化回路220は、スキュー補償やレベル調整等を行うために必要なタップ係数を予め記憶しておき、通常時はこのタップ係数に基づいてスキュー補償やレベル調整等を行う。一方、第1の半固定等化回路220において波長分散補償を行う場合は、制御部250からの指示を受ける。その指示に、第1の半固定等化回路220において実施すべき波長分散補償値に対応する分散補償係数が含まれる。そして、第1の半固定等化回路220は、スキュー補償やレベル調整等のタップ係数と制御部250から指示された分散補償係数とに基づいて、スキュー補償やレベル調整等と同時に波長分散補償を行うために必要なタップ係数を算出する。
【0058】
つまり、第1の半固定等化回路220は、制御部250からの指示がなければ予め記憶しているタップ係数に基づいてスキュー補償やレベル調整等を行う。また、制御部250から波長分散補償の実施を指示されると、スキュー補償やレベル調整等と同時に波長分散補償を行うために必要なタップ係数を算出し、その算出したタップ係数に基づいてスキュー補償、レベル調整等と同時に波長分散補償を行う。
【0059】
第2の半固定等化回路230は、波長分散補償を行うことを主目的とする等化回路であり、比較的小さな回路規模で多段のFIRフィルタと等価な特性を実現できる周波数領域等化フィルタを用いる。周波数領域等化フィルタは、高速フーリエ変換部(FFT)、複素乗算部、逆高速フーリエ変換部(IFFT)で構成される。時間領域の入力信号は、高速フーリエ変換(FFT)によって周波数領域信号に変換される。その周波数領域信号に対して複素乗算部において適切なタップ係数B0〜B2が与えられ、波形等化された周波数領域信号が得られる。波形等化された周波数領域信号は、逆高速フーリエ変換部(IFFT)によりもとの時間領域の信号に変換して出力される。なお、ここで示しているタップ数は例示であり、これに限られるものではない。
【0060】
このように、波長分散補償は主として第2の半固定等化回路230で実施されるが、第1の半固定等化回路220においてもスキュー補償やレベル調整等を行うと同時に波長分散補償を行う構成となっている。
【0061】
次に、このように構成された第2の実施形態のコヒーレント光受信機200の動作を、図3と図5を参照して説明する。
【0062】
なお、ここでは、説明のために、第1の半固定等化回路220および第2の半固定等化回路230で実施可能な波長分散補償量を次のように想定する。
【0063】
第1の半固定等化回路220は、最大900ps/nmの波長分散補償を可能とし、第2の半固定等化回路230は、最大20,000ps/nmの波長分散補償を可能とする。
【0064】
図3を参照すると、制御部250は波長分散検出回路251および制御回路252を含む。
【0065】
波長分散検出回路251は第2の半固定等化回路230の出力側に接続され、第2の半固定等化回路230から出力される信号に含まれる波長分散量を検出している。また、第2の半固定等化回路230において、スイッチ部は、信号が第2の半固定等化回路230の内部を経由するように設定されている。
【0066】
波長分散検出回路251が検出した波長分散量は、制御回路252に通知される。制御回路252は、波長分散検出回路251から通知された波長分散量に応じて、第1の半固定等化回路220と第2の半固定等化回路230を制御する。
【0067】
図5は、制御部250の動作を説明するフローチャートである。
【0068】
前述のように、波長分散検出回路251は第2の半固定等化回路230から出力される信号に含まれる波長分散量を検出している。まず、波長分散検出回路251は補償動作が行われる前の初期値の波長分散量を識別する(S201)。
【0069】
制御回路252は、この初期値の波長分散量に応じて、波長分散補償に使用する半固定等化回路を決定する(S202)。
【0070】
例えば、初期値の波長分散量が900ps/nm未満であれば、第1の半固定等化回路220で補償できる範囲の波長分散量なので、制御回路252は、第1の半固定等化回路220で波長分散補償を実施するように制御する(S203)。この場合、制御回路252は、第2の半固定等化回路230は必要としないので動作させない。そして、制御回路252は、スイッチ部を、信号が第2の半固定等化回路230をバイパスするように設定する。また、制御回路252は、第1の半固定等化回路220に対して、第1の半固定等化回路220で波長分散補償を実施するために必要な分散補償係数を通知する。これは、波長分散検出回路251が検出した波長分散量にもとづいて算出された値である。
【0071】
このように制御することにより、図4を参照して説明したように、第1の半固定等化回路220は、コヒーレント光受信部210の特性に起因する歪み補償である、スキュー補償やレベル調整等と同時に波長分散補償を行う。
【0072】
また、初期値の波長分散量が900ps/nm以上、20,000ps/nm未満であれば、第2の半固定等化回路230で補償できる範囲の波長分散量である。そのため、制御回路252は第2の半固定等化回路230で波長分散補償を実施するように制御する(S204)。この場合、制御回路252は、第1の半固定等化回路230での波長分散補償は必要としないので、第1の半固定等化回路220に分散補償係数を通知することはない。そして、制御回路252は、スイッチ部を、信号が第2の半固定等化回路230の内部を通過するように設定する。また、制御回路252は、第2の半固定等化回路230に対して、第2の半固定等化回路230で波長分散補償を実施するために必要な分散補償係数を通知する。これは、波長分散検出回路251が検出した波長分散量にもとづいて算出された値である。
【0073】
このように制御することにより、第1の半固定等化回路220はコヒーレント光受信部210の特性に起因する歪み補償であるスキュー補償やレベル調整等のみを行い、波長分散補償は第2の半固定等化回路230で実施される。
【0074】
もし、初期値の波長分散量が20,000ps/nmを超えているような場合には、制御回路252は、第2の半固定等化回路230に加えて第1の半固定等化回路220も使用して波長分散補償を実施するように制御する(S205)。
【0075】
例えば、20,500ps/nmの波長分散補償が必要な場合、制御回路252は、第1の半固定等化回路220で500ps/nmを補償し、第2の半固定等化回路230で20,000ps/nmを補償するように制御する。この場合、制御回路252は、第1の半固定等化回路220に対しては500ps/nmの波長分散を補償するのに必要な分散補償係数を通知する。また、制御回路252は、第2の半固定等化回路230に対しては20,000ps/nmの波長分散を補償するのに必要な分散補償係数を通知する。そして、制御回路252は、スイッチ部を、信号が第2の半固定等化回路230の内部を通過するように設定する。
【0076】
このように制御することにより、第1の半固定等化回路220は、コヒーレント光受信部210の特性に起因する歪み補償であるスキュー補償やレベル調整等と同時に、500ps/nmの波長分散補償を行う。そして、第2の半固定等化回路230は、残りの20,000ps/nmの波長分散補償を行う。
【0077】
次に、上述した初期状態での波長分散量に基づく波長分散補償を行っている状況下で、波長分散検出回路251が検出した波長分散量が変化した場合の制御動作を説明する。
【0078】
まず、図5のステップS203で、第1の半固定等化回路220が波長分散補償を実施している状況下での動作を説明する。
【0079】
波長分散検出回路251は第2の半固定等化回路230の出力側の信号に含まれる波長分散量を検出して、制御回路252に通知している。前述したように、この場合は第2の半固定等化回路230を使わないので、信号が第2の半固定等化回路230をバイパスするようにスイッチ部が設定されている。
【0080】
制御回路252は、波長分散検出回路251から通知される波長分散量の変化の有無を判定している(S206)。波長分散量が変化しても、900ps/nm未満であれば、引き続き第1の半固定等化回路220による波長分散補償を継続する。
【0081】
しかし、波長分散量が変化して900ps/nmを超える場合には、第1の半固定等化回路220では対処できないので、制御回路252は、第2の半固定等化回路230により波長分散補償を実施するように制御する。つまり、停止させていた第2の半固定等化回路230を動作させ、信号が第2の半固定等化回路230の内部を経由するようにスイッチ部の設定を切り替える。そして、波長分散検出回路251が検出した波長分散量にもとづいて算出した分散補償係数を第2の半固定等化回路230に通知する。同時に、第1の半固定等化回路220への分散補償係数の通知を停止する。
【0082】
次に、図5のステップS204で、第2の半固定等化回路230が波長分散補償を実施している状況下での動作を説明する。
【0083】
波長分散検出回路251は第2の半固定等化回路230の出力側の信号に含まれる波長分散量を検出して、制御回路252に通知している。そして、制御回路252は、波長分散検出回路251から通知される波長分散量の変化の有無を判定している(S207)。
【0084】
波長分散量が変化しても、900ps/nm以上、20,000ps/nm未満であれば、引き続き第2の半固定等化回路230による波長分散補償を継続する。
【0085】
ここで、波長分散量が減少方向に変化して900ps/nm未満になると、制御回路252は、第2の半固定等化回路230の動作を停止して、第1の半固定等化回路220が波長分散補償を実施するように制御する。制御回路252は、波長分散検出回路251が検出した波長分散量にもとづいて算出した分散補償係数を第1の半固定等化回路220に通知する。これにより、第1の半固定等化回路220は、前述したように、コヒーレント光受信部210の特性に起因する歪み補償であるスキュー補償やレベル調整等と同時に波長分散補償を行うように動作する。一方、制御回路252は、第2の半固定等化回路230の動作を停止させ、信号が第2の半固定等化回路230をバイパスするようにスイッチ部の設定を切り替える。
【0086】
逆に、波長分散量が増加方向に変化して、波長分散量が20,000ps/nmを超えるような場合には、制御回路252は、第2の半固定等化回路230に加えて第1の半固定等化回路220も使用して波長分散補償を実施するように制御する。この場合は、分担して波長分散を補償するのに必要な分散補償係数を、第1の半固定等化回路220に通知する。
【0087】
次に、図5のステップS205で、第1の半固定等化回路220と第2の半固定等化回路230が波長分散補償を実施している状況下での動作を説明する。
【0088】
波長分散検出回路251は第2の半固定等化回路230の出力側の信号に含まれる波長分散量を検出して、制御回路252に通知している。そして、制御回路252は、波長分散検出回路251から通知される波長分散量の変化の有無を判定している(S208)。
【0089】
波長分散量が変化しても、依然として20,000ps/nmを超えていれば、引き続き第1の半固定等化回路220と第2の半固定等化回路230による波長分散補償を継続する。
【0090】
一方、波長分散量が減少して20,000ps/nm未満になれば、第2の半固定等化回路230による波長分散補償で対処できるので、制御回路252は、第1の半固定等化回路220が分担して処理していた分散補償係数の、第1の半固定等化回路220への通知を停止する。なお、このとき波長分散量が急激に減少して900ps/nm未満になったような場合には、第2の半固定等化回路230による波長分散補償を停止して、第1の半固定等化回路220による波長分散補償を継続するようにしても良い。
【0091】
なお、本実施形態では、波長分散検出回路251を第2の半固定等化回路230の出力側に接続するものとして説明したが、第1の半固定等化回路220の出力側に接続してもかまわない。また、第1の半固定等化回路220の入力側に接続してフィードフォワードの制御をするように構成しても良い。
【0092】
以上に説明したように、コヒーレント光受信機200は、波長分散検出回路251で検出した波長分散量に応じて、制御回路252が第1の半固定等化回路220と第2の半固定等化回路230を適宜組み合わせて波長分散補償を行う。そのため、補償すべき波長分散量が大きく異なる環境下においても、柔軟に波長分散補償を行うことができる。つまり、第1の半固定等化回路220だけで対処する補償、第2の半固定等化回路230だけで対処する補償、第1の半固定等化回路220および第2の半固定等化回路230の両方で対処する補償というように、柔軟に波長分散補償を行うことができる。また、第1の半固定等化回路220だけで波長分散補償を行う場合には、第2の半固定等化回路230を停止することにより消費電力を削減することができる。
【0093】
しかも、第1の半固定等化回路220では、予め定めた範囲での波長分散補償を分担して行うので、その分だけ第2の半固定等化回路230を小さな回路規模で実現することができる。さらに、第1の半固定等化回路220は、コヒーレント光受信部210の特性に起因する歪み補償である入力信号のスキュー補償やレベル調整等のためにもともと設けられている回路なので、新たな回路構成として追加する必要がない。
【符号の説明】
【0094】
100 コヒーレント光受信機
110 コヒーレント光受信手段
120 第1の波形等化手段
130 第2の波形等化手段
140 制御手段
200 コヒーレント光受信機
210 コヒーレント光受信部
211 90度光ハイブリッド
212 光電変換
213 A/D変換
214 局部発振光源
220 第1の半固定等化回路
221 係数演算部
222 係数記憶部
230 第2の半固定等化回路
240 可変等化回路
250 制御部
251 波長分散検出回路
252 制御回路
260 誤り訂正/復号回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償と、予め定めた範囲での波長分散の補償を行う第1の波形等化手段と、
前記入力信号の波長分散の補償を行う第2の波形等化手段と、
前記入力信号の波長分散の値を監視し、補償すべき波長分散量に応じて前記第1の波形等化手段と前記第2の波形等化手段のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数を制御する制御手段と
を含むことを特徴とするコヒーレント光受信機。
【請求項2】
前記制御手段は、補償すべき波長分散量が、予め定めた範囲での前記第1の波形等化手段で実施可能な波長分散量の場合、前記第2の波形等化手段の動作を停止し、前記第1の波形等化手段において、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に加えて波長分散補償を実行させることを特徴とする請求項1に記載のコヒーレント光受信機。
【請求項3】
前記制御手段は、補償すべき波長分散量が、前記第1の波形等化手段で実施可能な予め定めた範囲での波長分散量を超える場合、前記第2の波形等化手段に波長分散補償を実行させ、前記第1の波形等化手段にコヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償のみを実行させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコヒーレント光受信機。
【請求項4】
前記制御手段は、補償すべき波長分散量が、前記第2の波形等化手段で実施可能な波長分散量を超える場合、前記第2の波形等化手段に波長分散補償を実行させるとともに、前記第1の波形等化手段にコヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に加えて波長分散補償を実行させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかの請求項に記載のコヒーレント光受信機。
【請求項5】
前記第1の波形等化手段は、前記制御手段から波長分散補償すべき第1の補償係数の通知を受けると、当該第1の補償係数と、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に必要な第2の補償係数とに基づいて、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に加えて波長分散補償を実行するために必要な第3の補償係数を生成することを特徴とする請求項4に記載のコヒーレント光受信機。
【請求項6】
第1の波形等化手段で、入力信号の、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償と、予め定めた範囲での波長分散の補償を行い、
第2の波形等化手段で前記入力信号の波長分散補償を行い、
前記入力信号の波長分散の値を監視し、補償すべき波長分散量に応じて前記第1の波形等化手段と前記第2の波形等化手段のそれぞれが実施する波長分散補償に関する補償係数を制御する
ことを特徴とするコヒーレント光受信方法。
【請求項7】
前記監視による補償すべき波長分散量が、予め定めた範囲での前記第1の波形等化手段で実施可能な波長分散量の場合、前記第2の波形等化手段の動作を停止し、前記第1の波形等化手段において、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に加えて波長分散補償を実行させることを特徴とする請求項6に記載のコヒーレント光受信方法。
【請求項8】
前記第1の波形等化手段で、波長分散補償すべき第1の補償係数の通知を受け、当該第1の補償係数と、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に必要な第2の補償係数とに基づいて、コヒーレント光受信手段の特性に起因する波形歪みの補償に加えて波長分散補償を実行するために必要な第3の補償係数を生成することを特徴とする請求項7に記載のコヒーレント光受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−81066(P2013−81066A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219886(P2011−219886)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】