説明

コメ由来核酸分子および改変デンプンの生産のためのその使用

【課題】コメのデンプン顆粒結合タンパク質をコードする核酸分子ならびに改変デンプンを合成するトランスジェニック植物細胞および植物の生産のための方法および組換えDNA分子を提供する。
【解決手段】R1-タンパク質をコードする核酸分子ならびに該核酸分子のそれぞれの相補鎖およびコメにおいて天然に存在するR1-遺伝子。R1-タンパク質をコードするポリヌクレオチドを植物細胞に導入する段階、およびそれにより形質転換された細胞から植物を再生する段階を含む、植物の生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コメのR1-タンパク質をコードする核酸分子、ならびにトランスジェニック細胞の生産のための方法および組換えDNA分子、および改変デンプンを合成する植物に関する。本発明はまた、これらの方法から得られるトランスジェニック植物細胞および植物、ならびにトランスジェニック植物細胞および植物から得ることができるデンプンにも関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類であるデンプンは、植物における最も重要な貯蔵物質の一つであり、食品分野において用いられるのみならず、工業製品の製造における再生材料として重要な役割を有する。可能な限り多くの領域においてこの原料を利用できるようにするためには、多様な物質を得ると共に加工産業の多様な需要にこれらの物質を適合させることが必要である。
【0003】
デンプンは化学的に均一な基礎成分、すなわちグルコースからなるが、これは均一な原料ではない。デンプンはむしろ、重合化の程度およびグルコース鎖の分岐の程度が互いに異なる様々なタイプの分子の複合混合物である。特に、基本的にα-1,4-グリコシド分岐グルコース分子で構成される非分岐ポリマーであるアミロースデンプンと、多かれ少なかれ分岐の多いグルコース鎖の混合物であるアミロペクチンデンプンとは区別される。分岐の結果、α-1,6-グリコシド結合が起こる。その分岐の程度、アミロース/アミロペクチン比、平均鎖長、およびリン酸基の存在によって主に決定されるデンプンの分子構造は、デンプンまたはそれぞれのその水溶液の重要な機能的特性にとって重要である。重要な機能的特性とは例えば、老化傾向、薄膜形成能、粘度、ペースト化特性、すなわち結合および接着特性と共に、低温抵抗性である。デンプン顆粒のサイズはまた、様々な用途にとって重要となる可能性がある。アミロース含有量が高いデンプンの産生は特に重要である。さらに、植物細胞に含まれる改変デンプンは、特定の条件下において、植物細胞の挙動を都合よく変化させる可能性がある。例えば、さらに加工する前に、デンプン抽出等によって、種子および塊茎のようなデンプン含有器官の貯蔵の際のデンプンの分解を減少させることが可能であると考えられる。その上、改変デンプンを含む植物細胞および植物器官を、トウモロコシからのポップコーンもしくはコーンフレークス、またはジャガイモからのフレンチフライ、ポテトチップス、もしくはジャガイモ粉末の製造のような、さらなる加工により適するようにする改変デンプンの産生にも関心が寄せられている。低温での長期保存の際にデンプンの「低温甘味化」の減少、すなわち還元糖(特にグルコース)の放出の減少を示すように、デンプンを改善することにも特に関心が寄せられている。
【0004】
さらに、コメの場合、デンプンの物理化学特性の変化は、コメ粒の調理および食感品質に影響を及ぼすことが知られている。これらの特性を変化させて細かく調節する可能性により、特定の品質のタイプを有する新しいコメの品種を開発できると考えられる。品質のタイプは通常、調理したコメのデンプン特性またはきめ、特に見かけのアミロース含有量(AC)、最終的なデンプンゲル化温度(GT)、および粉砕したコメのゲル粘度(GC)に基づく(ジュリアーノ(Juliano)、Cereal Foods World 43(1998)、207〜222(非特許文献1))。
【0005】
植物から単離することができるデンプンは、化学改変の方法によって特定の工業目的に適合させることが多いが、これは通常時間を要し、しかも高価である。したがって、その特性が加工産業の需要に既に適合しているデンプンを合成する植物を生産する可能性を探ることが望ましい。
【0006】
そのような植物を産生する従来の方法は、古典的な交配方法および変異体の作製であるが、両者はいずれも費用がかさみ、時間がかかる。または、特性が改変したデンプンを合成する植物は、組換えDNA技術によって産生してもよい。しかし、組換えDNA技術を利用するためには、その遺伝子産物がデンプン合成、デンプン改変、またはデンプン分解に影響を及ぼすDNA配列、特に、コメのような重要なデンプン合成植物の配列が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ジュリアーノ(Juliano)、Cereal Foods World 43(1998)、207〜222
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明の基礎となる問題は、それらが植物において天然に合成されたデンプンとは、その物理特性および/または化学特性(それらの特性は今度は例えばこれらの植物の回収可能な部分の調理特性および/または栄養的価値に影響を及ぼす)が異なり、したがって、全般的および/または特定の用途により適したデンプンを合成するように、植物を改変させる核酸分子および方法を提供することである。
【0009】
この問題は、特許請求の範囲に記載される態様を提供することによって解決される。
【0010】
したがって、本発明は、配列番号:2に示すアミノ酸配列を含む、特にコメのタンパク質をコードする核酸分子に関する。そのようなタンパク質は、植物細胞のプラスチド、特にコメの細胞のプラスチドに存在する。本発明の範囲において、記述の核酸分子によってコードされるタンパク質は、R1タンパク質と呼ばれる。該タンパク質は、デンプン顆粒結合型および可溶性型としてプラスチドに存在することが疑われる。さらに、このタンパク質は、デンプンのリン酸化に関係する。
【0011】
本発明はさらに、配列番号:1に記載のヌクレオチド配列、特に配列番号:1に記載のコード領域を含む核酸分子に関する。
【0012】
本発明はまた、プラスミドDSM 12439のcDNA挿入断片によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子にも関する。
【0013】
さらに、本発明は、プラスミドDSM 12439のcDNA挿入断片に含まれるコード領域を含む核酸分子に関する。
【0014】
細胞のプラスチドに存在し、本発明の上記核酸分子とハイブリダイズする、特にコメのタンパク質をコードする核酸分子、またはそれらの相補鎖も、本発明の主題である。本発明において、「ハイブリダイゼーション」という用語は従来のハイブリダイゼーション条件下でのハイブリダイゼーションを意味し、サムブルックら(Sambrook)、「分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」第2版(1989)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)が記述したストリンジェントな条件下が好ましい。より好ましくは、ハイブリダイゼーションは以下の条件下で生じる:
ハイブリダイゼーション緩衝液:2×SSC;10×デンハード溶液(フィコール400+PEG+BSA;比1:1:1);0.1%SDS;5 mM EDTA;50 mM Na2HPO4;250μg/mlニシン精子DNA;50μg/ml tRNA;または
0.25 M リン酸ナトリウム緩衝液pH 7.2
1 mM EDTA
7% SDS
ハイブリダイゼーション温度 T=65〜68℃
洗浄緩衝液: 0.2×SSC;0.1%SDS
洗浄温度: T=65〜68℃
【0015】
本発明の分子とハイブリダイズする核酸分子は、例えば、特にコメの細胞または組織から生成されたゲノムまたはcDNAライブラリから単離してもよい。またはそれらは、組換えDNA技法によってまたは化学合成によって作製してもよい。
【0016】
そのような核酸分子の同定および単離は、本発明の分子を用いて、もしくはこれらの分子の一部を用いて行ってもよく、または場合によってはこれらの逆相補鎖、例えば標準的な方法(例えば、サムブルックら(Sambrook)、1989、「分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)によるハイブリダイゼーションによって行ってもよい。
【0017】
ハイブリダイゼーションのプローブとして、例えば、配列番号:1に示されるヌクレオチド配列またはその一部を、正確にまたは基本的に含む核酸分子を用いてもよい。ハイブリダイゼーションプローブとして用いるDNA断片はまた、従来のDNA合成法によって作製され、そしてその配列が本発明の核酸分子と基本的に同一である合成断片であってもよい。本発明の核酸配列とハイブリダイズする遺伝子を同定して単離した後、配列を決定して、この配列によってコードされるタンパク質の特性を分析しなければならない。
【0018】
そのようなハイブリダイズする核酸分子はまた、上記のタンパク質をコードする上記核酸分子の断片、誘導体、および対立遺伝子変異体を含む。この意味において、断片とは、上記のタンパク質をコードするために十分に長い核酸分子の一部として記述される。誘導体という用語は、これらの分子の配列が上記の核酸分子の配列とは1つまたは複数の位置において異なり、これらの核酸分子の配列と高度の相同性を示すことを意味する。相同性とは、ヌクレオチドレベルで少なくとも90%、特に少なくとも93%、好ましくは95%以上、およびさらにより好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を意味する。好ましくは相同性の程度は、配列番号:1のコード領域のヌクレオチド配列と、それぞれの配列とを比較することによって決定される。比較した2つの配列の長さが同じでない場合、相同性の程度は好ましくは、短い方の配列におけるより長い配列中のヌクレオチド残基と同一であるヌクレオチド残基の百分率を指す。相同性の程度は、ベストフィットプログラム(ウィスコンシン配列分析パッケージ、第8版、ユニックス、ジェネティクスコンピューターグループ、ユニバーシティリサーチパーク、575サイエンスドライブ、マディソン、ウィスコンシン州53711)のような既知のコンピュータープログラムを用いて慣例的に決定することができる。ベストフィットは、2つの配列間の相同性の最善のセグメントを見出すために、スミス&ウォーターマン(Smith and Waterman、Advances in Applied Mathematics 2:482〜489(1981))の局所相同性アルゴリズムを利用している。特定の配列が、例えば本発明の参照配列と95%同一であるか否かを決定するために、ベストフィットまたは他の配列アラインメントプログラムを用いる際に、好ましくは同一性の百分率が参照ヌクレオチド配列の全体の長さにわたって計算されるように、および参照配列におけるヌクレオチドの総数の5%までの相同性におけるギャップが許容されるように、パラメータを設定する。ベストフィットを用いる場合、いわゆる「選択的パラメータ」は好ましくはデフォルト値のままである。所与の配列を本発明の上記核酸分子と比較した場合に見られる変化は、例えば、付加、欠失、置換、挿入、または組換えによって引き起こされたる可能性がある。
【0019】
さらに、相同性とは好ましくは、コードされたタンパク質が、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、特に少なくとも98%、および特に好ましくは少なくとも99%の配列同一性を示す。
【0020】
好ましくは、本発明の核酸分子とハイブリダイズする配列は、相同性のこの領域が長さが少なくとも500ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも600ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも800ヌクレオチド、特に好ましくは少なくとも1000ヌクレオチドである、上記の核酸分子と少なくとも90%、好ましくは少なくとも93%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも98%、特に好ましくは少なくとも99%同一である相同性領域を含む。
【0021】
その上、相同性とは、それぞれの核酸分子との間またはそれらがコードするタンパク質との間に機能的および/または構造的同等性が存在することを意味する。上記の核酸分子と相同であって、これらの核酸分子の誘導体を表す核酸分子は、一般的には同じ生物機能を発揮する改変を構成するこれらの核酸分子の変異体である。これらの変異体は、天然に存在する変種または変異であってもよく、それによって、これらの変異が天然に存在してもよく、または意図的に導入されてもよい。その上、変異体は、合成的に生成された配列であってもよい。
【0022】
対立遺伝子変異体は、天然に存在する変異体と共に、合成によって生成された変異体または組換えDNA技術によって生成された変異体であってもよい。
【0023】
さらに好ましい態様において、「誘導体」という用語は、配列番号:2に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%、特に少なくとも70%の相同性、好ましくは80%以上、さらにより好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性の程度を示すタンパク質をコードする核酸分子を含み、以下からなる群より選択されるペプチドモチーフの少なくとも1個、より好ましくは少なくとも3個、さらにより好ましくは少なくとも5個、特に少なくとも10個および特に好ましくは少なくとも20個を含む、タンパク質をコードする核酸分子を含む:


【0024】
本発明の核酸分子の様々な変異体によってコードされるタンパク質は、一定の共通な性質を示す。酵素活性、分子量、免疫学的反応性、構造等は、ゲル電気泳動での移動度、クロマトグラフィー上の挙動、沈降係数、溶解性、分光学的性質、安定性、至適pH、至適温度などの物理特性とともに、これらの特性に属する。好ましくは、本発明の核酸分子によってコードされるR1-タンパク質は、ローバース(Lorberth)ら(Nature Biotechnology 16(1998)、473〜477)に記載のジャガイモからのR1-タンパク質と類似の特性を有する。特に、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質は、デンプンのリン酸化に関係している。この特性は、大腸菌に核酸分子を発現させて、当業者に周知の、または国際公開公報第97/11188号に記載の方法に従って、該細菌によって合成されるグリコーゲンのリン酸含有量を分析することによって調べることができる。
【0025】
好ましくは、上記の核酸分子の一つによってコードされるタンパク質は、以下の工程によって得られるポリクローナル抗体によって認識される:
【0026】
pSK-R1からのBamHI/Bc1I断片(ローバース(Lorberth)ら、Nature Biotechnology 16(1998)、473〜477)を、pET21d(ノバゲン社)のBamHI制限部位にクローニングし、そこからR1断片を挿入する前に、R1発現ベクターを生成するために塞いだHindIII部位を再度ライゲーションすることによって、HindIII制限部位を除去する。シグナルペプチドコード配列を除去するために、以下の2つのプライマーを用いて900 bp断片を増幅する:


【0027】
PET21dR1-tpを構築するために、NcoI/HindIII切断PCR断片をpET21dR1にライゲーションする。組換えタンパク質を生成するために、BL21(DE3)細胞をこの発現ベクターによって形質転換する。R1タンパク質発現は、OD600値が0.5に達した場合に、1 mM IPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)を増殖培地(強い(terrific)ブロス:トリプトン60 g、酵母抽出物120 g、87%グリセリン20 ml、17 mM KH2PO4、72 mM K2HPO4)加えることによって、開始される。タンパク質発現を37℃で3時間継続した後、細胞を遠心によって沈降させる。細胞を試料緩衝液に再懸濁して溶解する(ラムリ(Laemmli)、Nature 227(1970)、680〜685)。タンパク質抽出物を95℃で5分インキュベートして変性させ、タンパク質をSDS PAGEによって分離する。クーマシーブルー染色の後、〜160 kDa R1タンパク質に相当するバンドをゲルから切除して、ゲル切片を水中で2日間インキュベートすることによってSDSを除去する。ゲル切片を凍結して、破砕し、免疫に用いる。
【0028】
R1タンパク質約100 μgを含むPAA部分を毎回の注射に用いる。ウサギを3回免疫する。最初の追加免疫は、最初の免疫後1および2回目の2週間に行う。最後に、2回目の追加免疫の2週間後に血液を採取して、抗血清を得る。ウェスタンブロット分析に関しては、抗血清を500倍希釈で用いる。
【0029】
さらに、本発明は、その配列が上記分子の配列と比較して、遺伝子コードにより縮重しており、且つ植物細胞のプラスチドに存在するタンパク質をコードする核酸分子に関する。
【0030】
本発明はまた、本発明の核酸分子に対応するゲノム配列に存在する介在配列(イントロン)のヌクレオチド配列にも関する。そのような介在配列は、例えば適したゲノムライブラリをスクリーニングすることによって、本発明の上記核酸分子と共に単離することができる。
【0031】
本発明の核酸分子は、例えば天然資源から単離することができ、遺伝子操作の方法、例えば、PCRによって生成することができ、または当業者に既知の合成方法によって生成することもできる。
【0032】
本発明の核酸分子は、cDNAまたはゲノムDNAのようなDNA分子ならびにRNA分子であってもよい。特に、該核酸分子はまた、上記の1つの核酸分子のコード領域もしくはその一部および/またはコメに天然に存在するR1遺伝子の介在配列(イントロン)を含むコメ由来のゲノム配列となりうる。
【0033】
さらに、本発明は、本発明の上記核酸分子を含む、ベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、および遺伝子操作に一般的な他のベクターに関する。
【0034】
好ましい態様において、ベクターに含まれる核酸分子は、原核細胞および真核細胞において翻訳可能なRNAの転写および合成を確実にする調節エレメントに結合させる。
【0035】
さらなる態様において、本発明は宿主細胞、特に、本発明の上述の核酸分子によってまたは本発明のベクターによって形質転換されたおよび/または組換え操作された原核生物細胞または真核生物細胞、ならびに該細胞に由来し、本発明の核酸分子またはベクターを含む細胞に関する。これは好ましくは、細菌細胞または植物細胞である。
【0036】
本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質は、デンプン合成またはデンプンの改変に影響を及ぼす。植物細胞においてタンパク質の量が変化すれば、植物のデンプン代謝が変化し、特に、物理特性および化学特性が改変されたデンプンが合成される。
【0037】
本出願の記述と類似のタンパク質は、ジャガイモ(ローバース(Lorberth)ら(Nature Biotechnology 16(1998)、473〜477;国際公開公報第97/11188号)およびトウモロコシ(国際公開公報第98/27212号)について既に記述されていた。しかし、コメではそのようなタンパク質の存在は記述されていなかった。
【0038】
本発明の核酸分子を提供することによって、植物、特に、デンプンの構造ならびにコメ粒の調理特性に影響を及ぼす該デンプンの物理特性および化学特性が野生型植物において合成されたデンプンとは異なる改変デンプンを合成する組換えDNA技術によって、イネ科植物を生産することが可能となる。この目的のために、本発明の核酸分子は、植物細胞において転写および翻訳を確実にする調節エレメントに結合させて、植物細胞に導入してもよい。
【0039】
したがって、本発明は、核酸分子が植物細胞において転写を確実にする調節エレメントに結合している、本発明の核酸分子を含むトランスジェニック植物細胞にも関する。調節エレメントは好ましくは、核酸分子に関して異種である。特に、本発明はまた、本発明の核酸分子の発現が対応する野生型細胞と比較して増加している植物細胞にも関する。そのような増加は、例えば、ノザンブロット分析によって検出してもよい。「増加した」という用語は好ましくは、本発明の核酸分子の転写物の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、およびさらにより好ましくは少なくとも100%の増加を意味する。
【0040】
本発明はまた、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質の量が、対応する野生型細胞と比較して増加している植物細胞にも関する。そのような増加は例えば、ウェスタンブロット分析によって検出することができる。そのような抗体は、その産生が本発明のタンパク質の特性に関して上述されているポリクローナル抗体であってもよい。「増加した」という用語は、好ましくは上記のタンパク質の量の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、およびさらに好ましくは少なくとも100%の増加を意味する。
【0041】
本発明のそのような植物細胞は、本発明の核酸分子の少なくとも1つのコピーが、おそらく天然に存在するコピーに加え、該植物細胞のゲノムに組み入れられているという点において、とりわけ天然に存在する植物とは異なる。さらに、これ/これらのさらなる一つ/複数のコピーは好ましくは、ゲノム中の天然には存在しない位置に組み入れられる。これは例えば、サザンブロット分析によって証明してもよい。さらに、そのようなトランスジェニック植物細胞は好ましくは、以下の特徴の少なくとも1つによって、対応する天然に存在する植物細胞とは区別することができる。植物細胞に導入された本発明の核酸分子が植物細胞と異種である場合、トランスジェニック細胞は、本発明の導入された分子からの転写物の存在により形質転換していない細胞と区別することができる。そのような転写物は、例えばノザンブロット分析によって検出することができる。好ましくは、トランスジェニック植物はさらに、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質を含む。タンパク質の存在は、例えばウェスタンブロット分析のような免疫学的方法によって検出することができる。
【0042】
細胞に導入された本発明の核酸分子が細胞に関して同種である場合、トランスジェニック細胞は、例えば本発明の核酸分子の付加的な発現により非形質転換細胞と区別することができる。特に、トランスジェニック細胞は好ましくは、本発明の核酸分子の転写物をより多く含む。これは、例えばノザンブロット分析によって検出することができる。「より多く」とは好ましくは、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも50%多いことを意味する。したがって、トランスジェニック細胞は好ましくは、非形質転換細胞と比較して本発明のタンパク質をより多く含む。これは、例えば、ウェスタンブロット分析によって検出することができる。好ましくは細胞は、本発明のタンパク質を少なくとも10%多く、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも50%多く含む。
【0043】
好ましい態様において、本発明の植物細胞は、デンプン貯蔵組織の細胞、好ましくは塊茎または内胚葉組織の細胞、さらにより好ましくはイネ科植物の内胚葉組織の細胞である。
【0044】
本発明の核酸分子によってコードされ、記述の細胞において発現されるタンパク質は、好ましくはこれらの細胞のプラスチドに存在する。プラスチドに確実に存在させるために、配列番号:2に記載の配列の最初のアミノ酸残基40〜120個、より好ましくは最初のアミノ酸残基60〜100個を、プラスチドへの転位に関与するもう一つの輸送ペプチドに置換することが考え得る。そのようなペプチドの例は、ヤンセン(Jansen)ら(Current Genetics 13(1988)、517〜522)に開示されているホウレンソウのプラスチドフェロドキシン:NADP+オキシドレダクターゼ(FNR)の輸送ペプチドである。特に、5'非翻訳領域と共に輸送ペプチドをコードする配列を含む、それに開示されているcDNA配列のヌクレオチド-171〜165位に及ぶ配列を用いることができる。もう一つの例は、成熟ロウ様タンパク質の最初のアミノ酸残基34個を含む、トウモロコシのロウ様タンパク質の輸送ペプチドである(クレスゲン(Klosgen)ら、Mol. Gen. Genet. 217(1989)、155〜161)。同様に、成熟タンパク質の最初のアミノ酸残基34個がなくとも、この輸送ペプチドを用いることが可能である。さらに、リブロース二リン酸カルボキシラーゼ小サブユニット(ウォルター(Wolter)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85(1988)、846〜850;ナウラス(Nawrath)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91(1994)、12760〜12764)、NADPリンゴ酸デヒドロゲナーゼ(ギャラード(Gallardo)ら、Planta 197(1995)、324〜332)、またはグルタチオンレダクターゼ(クレイセン(Creissen)ら、Plant J. 8(1995)、167〜175)のシグナルペプチドを用いることができる。
【0045】
当業者に既知の方法を用いて、トランスジェニック植物細胞は、植物体全体へと再生させることができる。本発明のトランスジェニック植物細胞を再生することによって得ることができる植物も同様に、本発明の主題である。
【0046】
本発明のさらなる主題は、上記のトランスジェニック植物細胞を含む植物である。トランスジェニック植物は、原則として任意の所望の種の植物であってよく、すなわち、それらは単子葉植物であっても双子葉植物であってもよい。これらは好ましくは、野菜(例えばトマト)ならびに特に、穀類(ライ麦、オオムギ、オート麦、コムギ、キビ、サゴ等)、トウモロコシ、エンドウ、シワエンドウ、キャッサバ、ジャガイモ、トマト、菜種、大豆、大麻、亜麻、ヒマワリ、ササゲ、およびクズウコンのような、デンプン合成またはデンプン貯蔵植物のような有用植物である。トランスジェニック植物はまた、白花のクローバー、ライグラス、またはアルファルファのような牧草であってもよい。特に好ましいのはコメ、コムギ、トウモロコシ、およびジャガイモ植物である。
【0047】
もう一つの好ましい態様において、本発明の植物は、対応する野生型植物と比較して、デンプン貯蔵組織の細胞における本発明の核酸分子の発現、ならびに/またはコードされたタンパク質の量および/もしくはその活性の量の増加を示す。好ましくは、デンプン貯蔵組織は塊茎組織または内胚葉組織である。
【0048】
この意味において、本発明の範囲において「野生型植物」または「野生型細胞」という用語は、本発明のトランスジェニック植物もしくは細胞を生産するための出発物質として用いられる植物または細胞を意味しており、すなわちそのような植物または細胞を調製するために導入された核酸分子を別として、本発明のトランスジェニック植物または細胞と同じ遺伝情報を有する植物または細胞を意味する。
【0049】
特に好ましい態様において、本発明のトランスジェニック植物はイネ科植物である。
【0050】
本発明はまた、本発明の上記植物および/またはそのような植物のデンプン貯蔵部分からデンプンを抽出する段階を含む、改変デンプンを生産するための方法にも関する。好ましくはそのようなプロセスはさらに、デンプンを抽出する前に、本発明の植物を栽培する段階と、栽培した植物および/またはこれらの植物のデンプン貯蔵部分を収穫する段階とを含む。
【0051】
植物または植物のデンプン貯蔵部分からデンプンを抽出する方法は当業者に周知である。例えば、トウモロコシの種子からデンプンを抽出する方法は、例えば、エックホフ(Eckhoff)ら(Cereal Chem. 73(1996)、54〜57)に記載されている。トウモロコシデンプンの工業規模での抽出は通常、「湿式ミル」によって行う。さらに、様々なデンプン貯蔵植物からデンプンを抽出する方法は例えば、「デンプン:化学と技術(Starch:Chemistry and Technology)」(ウィスラー、ベミラー&パスチャル(Whisler, BeMiller and Paschall)編、(1994)第二版、アカデミックプレスインク、ロンドンLTD;ISBN 0-12-746270-8;例えば、第XII章、417〜468頁;「トウモロコシおよびモロコシデンプン:生産(Corn and Sorghum Starches:Production)」、ワトソン(Watson, S.A.)、第XIII章、469〜479頁;「タピオカ、クズウコンおよびサゴデンプン:生産(Tapioca, Arrowroot, and Sago Starches:Production)」、コービッシュリー&ミラー(Corbishley and Miller)、第XIV章、479〜490頁:「ジャガイモデンプン:生産と用途(Potato Starch:Production and Uses)」、ミッチュ(Mitch)、第XV章、491〜506頁;コムギデンプン:生産、改変および用途(Wheat Starch:Production, Modification, and Uses);ナイト&オルソン(Knight and Olson);ならびに第XVI章、507〜528号;コメのデンプン:生産と用途(Rice Starch:Production and Uses);ローワー&クレム(Rohwer and Klerm))に記載されている。植物材料からのデンプンを抽出する方法において通常用いられる手段は、分離器、デカンター、ハイドロクローンおよびデンプンを乾燥させるための様々な種類の装置、例えば噴霧乾燥器またはジェット乾燥器である。
【0052】
本発明はまた、本発明のトランスジェニック植物細胞および植物から、または上記の方法によって得ることができるデンプンにも関する。本発明の核酸分子の発現または付加発現により、本発明のトランスジェニック植物細胞および植物は、野生型植物、すなわち非形質転換植物からのデンプンと比較して改変されているデンプンを合成する。
【0053】
特に、そのようなデンプンは好ましくは、対応する非形質転換細胞または植物によって合成されたデンプンよりリン酸含有量が高い。より高いリン酸含有量とは好ましくは、対応する非形質転換細胞または植物からのデンプンより、少なくとも10%多い、より好ましくは少なくとも30%多い、さらにより好ましくは少なくとも50%多い、および特に好ましくは少なくとも100%多いリン酸塩を含むことを意味する。デンプンのリン酸含有量は、例えば、ローバース(Lorberth)ら、上記のように、またはリム(Lim)ら(Cereal Chem. 71(1994)、488)に記載されているように測定することができる。リン酸含有量が高いデンプンは、ペースト透明度の増加を示すことができ、そのため食品産業および製紙産業において、例えば紙表面の調製にとって特に重要である。通常、製紙産業は、表面のサイジングまたはコーティングのために化学改変されたデンプン、例えば、ヒドロキシエチル化、またはリン酸化デンプンを利用する。このように、リン酸化の程度が高いデンプンを植物に産生させれば、製紙産業の需要に適合させるために、デンプンを化学改変する必要性がなくなると考えられる。
【0054】
このように、本発明はまた、そのペースト透明性が野生型植物のデンプンと比較して、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも100%、特に好ましくは少なくとも250%、および最も好ましくは少なくとも500%増加しているデンプンにも関する。ペースト透明性(光の透過性)は、以下の方法によって測定する:光透過性を決定するために、0.5%のデンプン/水の懸濁液を調製し、ペースト化を誘導するために90℃で15分加熱する。その後、該分散液の吸光度(約85℃で)を628 nmで測定する。
【0055】
本発明はまた、好ましくは野生型植物の粒と比較して変化した調理品質および/または増加した栄養的価値を示す、本発明に係るトランスジェニックイネ科植物から得ることができるコメ粒にも関する。本発明の構成において、「調理品質」という用語は、調理時間、調理速度、水吸収、容積膨張、(機械的)硬度、粘着性、調理過程でのコメ粒の伸長のような特性を含む。好ましい態様において、「調理品質」という用語は、本発明に係るコメ粒が、対応する野生型植物の粒と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、および最も好ましくは少なくとも30%減少する最小調理時間を示すことを意味する。および/または本発明に係るコメ粒が対応する野生型植物の粒と比較して少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも5%、および最も好ましくは少なくとも10%増加した水分吸収速度を示すことを意味する。最小調理時間はランギーノ(Ranghino)(Riso 15(1969)、117〜127)の方法に従って測定することができる。水分吸収速度の測定は、例えば、ジュリアーノ(Juliano、IRRI Res. Paper. Ser 77、国際コメ調査協会、ロスベイノス、ラグナ、フィリピン、28頁)、またはハリック&ケリー(Halick and Kelly)(Cereal Chemistry 36(1959)、91〜98)が記述したように実施することができる。
【0056】
「栄養的価値」という用語は、コメ粒における鉄および亜鉛のような利用可能な微量栄養素の量に関連する。本発明の好ましい態様において、コメ粒における亜鉛および/または鉄および/または微量栄養素の量は増加している。この意味において、「増加した」という用語は、対応する野生型植物と比較して亜鉛、鉄、または微量栄養素の量の少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%、さらにより好ましくは少なくとも10%、および最も好ましくは少なくとも20%の増加を意味する。
【0057】
微量栄養素、亜鉛および鉄の量を測定する方法は当業者に周知である。
【0058】
本発明のさらなる主題は、コメからR1タンパク質を生産する方法であって、タンパク質を発現させる条件下で本発明の宿主細胞を培養し、該タンパク質を培養細胞および/または培養培地から単離する方法である。
【0059】
さらに、本発明は、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質ならびに上記方法によって得ることができるタンパク質に関する。これらは、好ましくは、核遺伝子によってコードされ、プラスチドに存在するコメからのタンパク質である。本発明のさらなる主題は、本発明のタンパク質を特異的に認識する抗体である。これらは、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。そのような抗体を生産する方法は、当業者に公知である。
【0060】
さらに、細胞において本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質の量を減少させることによって、植物細胞において合成されたデンプンの特性に影響を及ぼすことが可能である。この減少は例えば、本発明の核酸分子のアンチセンス発現、適したリボザイムの発現、共抑制作用、またはいわゆる「インビボ変異誘発」によって、行ってもよい。
【0061】
したがって、本発明のDNA分子の転写物、または対応するゲノム配列のイントロンの配列と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA分子ならびにこれらのアンチセンス分子も、本発明の主題である。植物細胞において転写の際にアンチセンス作用を引き起こすために、そのようなDNA分子の長さは、少なくとも15 bp、好ましくは100 bp以上、および最も好ましくは500 bp以上であるが、通常は5000 bpより短く、好ましくは2500 bpより短い。
【0062】
本発明はさらに、植物細胞において発現の際に植物細胞において共抑制作用のために、本明細書に記述のタンパク質をコードする本発明の核酸分子の発現を減少させるRNAを合成するDNA分子に関する。そのようなDNA分子は、本発明の核酸分子のコード領域またはその一部および/もしくは対応するゲノム配列のイントロンの配列を含んでもよい。本発明はまた、それによってコードされるRNA分子にも関する。共抑制の一般的な原理および対応する方法は当業者に周知であり、例えば、ヨーゲンセン(Jorgensen)(Trends Biotechnol. 8(1990)、340〜344)、ニーベル(Niebel)ら(Curr. Top. Microbiol. Immunol. 197(1995)、91〜103)、フラベル(Flavell)ら(Curr. Top. Microbiol. Immunol. 197(1995)、43〜56)、パラキ&ボーシェレ(Palaqui and Vaucheret)(Plant Mol. Biol. 29(1995)、149〜159)、ボーシェレ(Vaucheret)ら(Mol. Gen. Genet. 248(1995)、311〜317)、デボーン(de Borne)ら(Mol. Gen. Genet. 243(1994)、613〜621)、スミス(Smyth)(Curr. Biol. 7(1997)、R793〜R795)、およびタイラー(Taylor)(Plant Cell 9(1997)、1245〜1249)に記載されている。
【0063】
上記のアンチセンスアプローチまたは共抑制アプローチの助けを借りて、イネ科植物細胞における本発明の核酸分子の発現を阻害するために、好ましくは配列番号:1に記載のヌクレオチド配列と少なくとも90%、より好ましくは少なくとも93%、さらにより好ましくは少なくとも95%、および最も好ましくは少なくとも98%の相同性の程度を示すDNA分子を用いる。
【0064】
さらなる態様において、本発明は、本発明のDNA分子の転写物ならびにこれらがコードされたRNA分子を特異的に切断するリボザイム活性を有するRNA分子をコードするDNA分子に関する。
【0065】
リボザイムはRNA分子および特異的標的配列を切断することができる触媒的に活性なRNA分子である。組換えDNA技術によって、リボザイムの特異性を変化させることが可能である。様々なクラスのリボザイムが存在する。特定の遺伝子の転写物の特異的切断をねらいとした実際的な応用に関して、好ましくは、リボザイムの2つの異なる群の代表的なものを利用してもよい。第一の群はグループIイントロンリボザイム型に属するリボザイムより構成される。第二の群は、特徴的な構造特徴としていわゆる「ハンマーヘッド」モチーフを示すリボザイムよりなる。標的RNA分子に対する特異的認識は、このモチーフに隣接する配列を変化させることによって改変してもよい。標的分子における配列との塩基対形成によって、これらの配列は、触媒反応が起こり、それにより標的分子の切断が起こる位置を決定する。効率的な切断のための特異的要件は低いため、実際的にそれぞれの望ましいRNA分子に対して特異的なリボザイムを開発することが原理的に可能である。
【0066】
本発明のDNA分子の転写物を特異的に切断するリボザイムをコードするDNA分子を生成するために、例えば、リボザイムの触媒ドメインをコードするDNA配列の両側に、標的酵素の配列と相同であるDNA配列を結合させる。触媒ドメインをコードする配列は、SCMoウイルスのサテライトDNAの触媒ドメイン(デビーズ(Davies)ら(Virology 177(1990)、216〜224))、またはTobRウイルスのサテライトDNAの触媒ドメイン(スタイネッケ(Steinecke)ら、EMBO J. 11(1992)、1525〜1530;ハセロフ&ゲルラック(Haseloff and Gerlach)、Nature 334(1988)、585〜591)であってもよい。触媒ドメインに隣接するDNA配列は好ましくは、本発明の上記DNA分子に由来する。リボザイム発現の一般的な原理および方法は、例えば欧州特許第B1 0 321 201号に記載されている。植物細胞におけるリボザイムの発現は、例えばフェイター(Feyter)ら(Mol. Gen. Genet. 250(1996)、329〜338)に記載されている。
【0067】
植物細胞における本発明のタンパク質の活性の減少も同様に、いわゆる「インビボ変異誘発」(「キメラ形成術」としても知られる)によって行うことができる。この方法において、ハイブリッドRNA/DNAオリゴヌクレオチド(キメロプラスト)を細胞に導入する(キップ(Kipp)ら、1997年9月21〜27日にシンガポールで開催された第5回国際植物分子生物学会でのポスター発表;ディクソン&アルンツェン(Dixon and Arntzen)、「トランスジェニック植物における代謝の操作(Metabolic Engineering in Transgenic Plants)」に関する会議報告書、基調シンポジウム、カパーマウンテン、CO、アメリカ、TIBTECH 15(1997)、441〜447;国際特許出願国際公開公報第95/15972号;クレン(Kren)ら、Hepatology 25(1997)、1462〜1468;コール・ストラウス(Cole-Strauss)ら、Science 273(1996)、1386〜1389;ズ(Zhu)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96(1999)、8768〜8773)。RNA/DNAオリゴヌクレオチドのDNA成分の一部は、植物細胞において内因性であり、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列とは相同であるが、変異を示す、または相同領域内に存在する異種部分を含む。該内因性配列と相同なRNA/DNAオリゴヌクレオチドの領域とこれらの配列との塩基対形成およびそれに続く相同的組換えにより、オリゴヌクレオチドのDNA成分に含まれる変異を植物細胞ゲノムに導入することができる。これによって、本発明のタンパク質の活性が減少する。
【0068】
さらなる態様において、本発明は、上記のDNA分子を含むベクター、特に記述のDNA分子が植物細胞において転写を確実にする調節エレメントに結合しているベクターに関する。
【0069】
さらに、本発明は、記述のDNA分子またはベクターを含む宿主細胞に関する。宿主細胞は、細菌細胞のような原核細胞であってもよく、または真核細胞であってもよい。真核宿主細胞は好ましくは植物細胞である。
【0070】
さらに、本発明は、異種核酸分子の存在または発現によって、本発明のタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現が阻害される、トランスジェニック植物細胞に関する。
【0071】
好ましい態様において、異種核酸分子は以下からなる群より選択される:
(a)本発明のタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現を減少させることができるアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
(b)共抑制作用によって本発明のタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現を減少させることができるDNA分子;
(c)本発明のタンパク質をコードする内因性遺伝子の転写物を特異的に切断することができるリボザイムをコードするDNA分子;および
(d)本発明のタンパク質をコードする内因性遺伝子において変異または異種配列の挿入を引き起こし、それによって、本発明のタンパク質の発現が減少する、または不活性タンパク質が合成される、インビボ変異誘発によって導入された核酸分子。
【0072】
これらのトランスジェニック植物細胞は、周知の技術によって完全な植物体へと再生させてもよい。このように、本発明は、記述のトランスジェニック植物細胞からの再生によって得られる植物、ならびに記述のトランスジェニック植物細胞を含む植物にも関する。トランスジェニック植物そのものは、如何なる所望の植物種の植物であってもよく、好ましくは野菜(例えば、トマト)および特に上記のようなデンプン貯蔵植物、および最も好ましくはコメ、トウモロコシ、コムギおよびジャガイモ植物細胞のような有用植物であってもよい。
【0073】
さらに、本発明は、記述のDNA分子によってコードされるアンチセンスRNA分子ならびにリボザイム活性を有するRNA分子および例えば転写によって得ることができる共抑制作用を引き起こすRNA分子に関する。
【0074】
本発明のさらなる主題は、非形質転換細胞と比較して改変デンプンを合成するトランスジェニック植物細胞の作製方法である。この方法において、本発明のDNA分子によってコードされ、内因性型で細胞に存在するタンパク質の量は、植物細胞において減少している。
【0075】
好ましい態様において、この減少は、アンチセンス作用によって影響を受ける。この目的のため、本発明のDNA分子またはその一部を、植物細胞において転写を確実にするプロモーター、およびおそらく転写の終了と共に転写物のポリアデニル化を確実にする終結シグナルとに、アンチセンス方向で結合させる。同様に、対応するゲノム配列のイントロンの配列を利用することも可能である。植物細胞において有効なアンチセンス作用を確実にするためには、合成されたアンチセンスRNAの最小の長さが、15ヌクレオチド、好ましくは少なくとも100ヌクレオチド、および最も好ましくは少なくとも500ヌクレオチドでなければならない。さらに、アンチセンスRNAをコードするDNA配列は形質転換すべき植物種に関して相同でなければならない。
【0076】
さらなる態様において、本発明のDNA分子によってコードされるタンパク質の量の減少は、リボザイム作用によって影響を受ける。リボザイムの基本的な作用は、そのようなRNA分子をコードするDNA分子の構築と共に、既に先に記述されている。トランスジェニック細胞においてリボザイム活性を有するRNAを発現させるために、リボザイムをコードする上記のDNA分子を、植物細胞において転写を確実にするDNAエレメント、特にプロモーターおよび終結シグナルに結合させる。植物細胞において合成されたリボザイムは、内因性型として植物細胞に存在する本発明のDNA分子の転写物の切断を引き起こす。
【0077】
本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質の量を減少させるもう一つの可能性は共抑制である。したがって、本発明の方法によって得ることができる植物細胞はもう一つの主題である。これらの植物細胞は、本発明のDNA分子によってコードされるタンパク質の量が減少しているという点、および野生型細胞と比較してそれらが改変デンプンを合成するという点において特徴を有する。
【0078】
好ましくは、トランスジェニック細胞は、対応する非形質転換細胞と比較して本発明のタンパク質をコードする転写物の量の少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも70%、および最も好ましくは少なくとも90%減少を示す。転写物の量は例えば、ノザンブロット分析によって決定することができる。さらに、細胞は好ましくは、本発明のタンパク質の量が転写物に対応して減少している。これは例えば、ウェスタンブロット分析のような免疫学的方法によって決定することができる。そのようなウェスタンブロット分析において用いることができる抗体の例は、その産生が本発明のタンパク質の特性に関連して上記に記載されているポリクローナル抗体である。
【0079】
さらに、そのような方法を適用する植物細胞はイネ科植物細胞である。
【0080】
さらに、本発明は、記述の植物細胞の再生によって得ることができる植物ならびに本発明の記述の細胞を含む植物に関する。
【0081】
本発明はまた、本発明の上記植物からおよび/またはそのような植物のデンプン貯蔵部分からデンプンを抽出する段階を含む、改変デンプンの生産方法に関する。好ましくはそのような方法はさらに、本発明の植物を培養する段階;ならびにデンプンを抽出する前に栽培した植物および/またはこれらの植物のデンプン貯蔵部分を収穫する段階を含む。
【0082】
本発明はまた、記述のトランスジェニック植物細胞および植物から得ることができるデンプン、または上記の方法によって得ることができるデンプンに関する。トランスジェニック植物細胞において、アンチセンスRNA、リボザイム、または共抑制RNAをコードする記述のDNA分子の発現により、本発明のDNA分子によってコードされ、内因性型として細胞に存在するタンパク質の量は減少する。好ましくはこの減少によって、植物細胞において合成されるデンプンの物理特性および化学特性は劇的に変化する。非形質転換細胞または植物からのデンプンと比較すると、改変デンプンは好ましくは、変化したペースト化特性、すなわちデンプン水溶液の変化した粘度および/または変化した、特に減少したリン酸含有量を示す。好ましい態様において、リン酸含有量は、対応する非形質転換植物細胞または植物から得ることができるデンプンと比較して少なくとも5%、より好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも50%、減少している。リン酸含有量は上記のように決定することができる。
【0083】
本発明はさらに、野生型植物の粒と比較して調理品質の変化を示す、本発明のトランスジェニックイネ科植物から得ることができるコメ粒に関する。本発明の構成において、「調理品質」という用語は、調理時間、調理速度、水分吸収、容積膨張、(機械的)硬度、粘着性、調理プロセスの際のコメ粒の伸長のような特性を含む。
【0084】
好ましくは、「調理品質」という用語は、本発明のコメ粒が対応する野生型植物の粒と比較して少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも5%、およびさらにより好ましくは少なくとも10%の水分吸収の減少を示すことを意味する。粒の水分吸収の程度を決定する方法は当業者に周知である。
【0085】
本発明の核酸分子の発現は、原則的に如何なる種の植物種に起こってもよい。単子葉植物および双子葉植物、特に野菜(例えば、トマト)のような有用植物が好ましく、そして好ましくは穀類(ライ麦、オオムギ、オート麦、コムギ、キビ、サゴ等)、コメ、トウモロコシ、エンドウ、シワエンドウ、キャッサバ、ジャガイモ、トマト、菜種、大豆、大麻、亜麻、ヒマワリ、ササゲ、クズウコンのようなデンプン貯蔵植物、ならびに白花のクローバー、ライグラス、およびアルファルファのような牧草である。
【0086】
特に好ましい植物はコメ、トウモロコシ、コムギ、およびジャガイモ植物である。
【0087】
本発明の構成において、「植物細胞において転写を確実にする調節DNAエレメント」という用語は、植物細胞において転写を開始または終結させるDNA領域である。転写の開始を確実にするDNA領域は特にプロモーターである。
【0088】
植物において本発明の様々な上記のDNA分子を発現させるために、植物細胞において機能的な如何なるプロモーターを用いてもよい。プロモーターは、用いる植物種と同種であっても異種であってもよい。例えば、全ての植物組織における構成的発現を確実にし、同様に国際公開公報第9401571号に記載のプロモーター構築物のプロモーターである、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター(オーデル(Odell)ら、Nature 313(1985)、810〜812;ミツハラ(Mitsuhara)ら、Plant and Cell Physiology 37(1996)、49〜59)を利用してもよい。しかし、外因性要因によって決定される時点に限って(国際公開公報第9307279号においてなど)、または植物の特定の組織に限っては(例えば、ストックハウス(Stockhaus)ら、EMBO J. 8(1989)、2245〜2251を参照のこと)その後の配列が発現されるプロモーターを利用してもよい。形質転換すべき植物のデンプン貯蔵部分において活性であるプロモーターを用いることが好ましい。トウモロコシの場合、これらの部分はトウモロコシの種子であり、ジャガイモの場合は塊茎である。ジャガイモを形質転換するために、塊茎特異的B33プロモーター(ロシャ・ソサ(Rocha-Sosa)ら、EMBO J. 8(1989)、23〜29)を特に用いてもよいが、これに限定しない。プロモーターは別として、転写を開始するDNA領域も同様に、いわゆるエンハンサーエレメントのような転写のさらなる増加を確実にするDNA配列を含んでもよい。
【0089】
植物細胞、特にコメの細胞における発現のために、以下のプロモーターを用いることができる:35Sプロモーター(オーデル(Odell)ら、上記;ミツハラ(Mitsuhara)ら、上記)、ユビキチンプロモーター(米国特許第5,614,399号;クリステンセン(Christensen)ら、Plant Mol. Biol. 18(1992)、675〜689;タキモト(Takimoto)ら、Plant Mol. Biol. 26(1994)、1007〜1012;コルネヨ(Cornejo)ら、Plant Mol. Biol. 23(1993)、567〜581;トキ(Toki)ら、Plant Phys. 100(1992)、1503〜1507)、内胚葉特異的発現のためには、グルテリンプロモーター(レイジー(Leisy)ら、Plant Mol. Biol. 14(1990)、41〜50;ツェン(Zheng)ら、Plant J. 4(1993)、357〜366;コノノヴィッツ(Kononowicz)ら、米国植物生理学会およびカナダ植物生理学会の合同総会、ミネアポリス、ミネソタ州、アメリカ、1993年7月1日〜8月4日、Plant Physiol. 102(補足)(1993)166;ツァオ(Zhao)ら、米国植物生理学会総会、ピッツバーグ、ペンシルバニア州、アメリカ、1992年8月1〜5日、Plant Physiol. 99(1補足)(1992)、85;ヨシハラ(Yoshihara)ら、FEBS Lett. 383(1996)、213〜218)、HMGプロモーター、トウモロコシのゼイン遺伝子のプロモーター(ペダーセン(Pedersen)ら、Cell 29(1982)、1015〜1026;クアトロッキオ(Quatroccio)ら、Plant Mol. Biol. 15(1990)、81〜93)、シュランケン-1プロモーター(ウェール(Werr)ら、EMBO J. 4(1985)、1373〜1380)、さらに、アクチンプロモーター(マッケルロイ(McElroy)ら、Plant Cell 2(1990)、163〜171)、cab-6プロモーター(Plant and Cell Physiology 35(1994)、773〜778)、RTBVプロモーター(イン(Yin)ら、Plant J. 12(1997)、1179〜1188)、CVMVプロモーター(ベルダゲール(Verdaguer)ら、Plant Mol. Biol. 31(1996)、1129〜1139)、rab 16Bプロモーター(Plant Physiol. 112(1996)、483〜491)、psbD-Cオペロンのプロモーター(ト(To)ら、Plant and Cell Physiology 37(1996)、660〜666)、Tpiプロモーター(スノウデン(Snowden)ら、Plant Mol. Biol. 31(1996)、689〜692)、Osgrp1プロモーター(ユ(Xu)ら、Plant Mol. Biol. 28(1995)、455〜471)、Ltp2プロモーター(カラ(Kalla)ら、Plant J. 6(1994)、849〜860)、ADH1プロモーター(キョウズカ(Kyozuka)ら、Mol. Gen. Genet. 228(1991)、40〜48)およびLHCPプロモーター(EMBO J. 10(1991)、1803〜1808)。光合成活性細胞における発現に関しては、Ca/bプロモーター(例えば、米国特許第5 656 496号;米国特許第5 639 952号;バンサル(Bansal)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89(1992)、3654〜3658を参照のこと)、ならびにルビスコSSUプロモーター(例えば、米国特許第5 034 322号および米国特許第4 962 028号を参照のこと)を用いることができる。種子特異的発現のためには、ソラマメのUSPプロモーター(フィードラー(Fiedler)ら、Plant Mol. Biol. 22(1993)、669〜679;ボイムレイン(Baumlein)ら、Mol. Gen. Genet. 225(1991)、459〜467)を用いることができる。
【0090】
さらに、「調節DNAエレメント」という用語はまた、転写を正しく終了させるように作用し、転写物を安定化させると考えられているポリAテールを転写物に付加する働きをする終結シグナルを含んでもよい。そのようなエレメントは、文献に記述されており、望ましければ交換することができる。そのような終結配列の例としては、ノパリンシンターゼ遺伝子(NOS遺伝子)もしくはアグロバクテリウム由来のオクトピンシンターゼ遺伝子(ギーレン(Gielen)ら、EMBO J. 8(1989)、23〜29)のポリアデニル化シグナルを含む3'非翻訳領域、または大豆由来の貯蔵タンパク質の遺伝子と共にリブロース-1,5-二リン酸カルボキシラーゼの小サブユニットの遺伝子(ssRUBISCO)の3'非翻訳領域が挙げられる。
【0091】
本発明のDNA分子の植物細胞への導入は好ましくは、プラスミドを用いて行う。植物ゲノムへのDNAの安定な組み込みを確実にするプラスミドが好ましい。
【0092】
高等植物への異種遺伝子の導入を準備するために、大腸菌の複製シグナル、および形質転換した細菌細胞を選択するためのマーカー遺伝子を含む、大量のクローニングベクターが用いられる。そのようなベクターの例は、pBR322、pUCシリーズ、M13mpシリーズ、pACYC184等である。所望の配列を適した制限部位でベクターに組み入れてもよい。得られたプラスミドを大腸菌細胞の形質転換に用いる。形質転換した大腸菌細胞を適した培地で培養して、その後回収して溶解する。プラスミドは標準的な方法によって回収する。得られたプラスミドDNAの特徴付けのための分析方法として、一般的に、制限分析および配列分析を利用する。それぞれの操作の後、プラスミドDNAを切断して、得られたDNA断片を他のDNA配列に結合してもよい。
【0093】
DNAを植物宿主細胞に導入するため、多様な技術を利用することができる。これらの技術はアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)を形質転換媒体として用いるT-DNAによる植物細胞の形質転換、プロトプラスト融合、DNAのインジェクションおよび電気穿孔、バイオリスティック法によるDNAの導入と共にさらなる可能性を含む。
【0094】
植物細胞へのDNAのインジェクションおよび電気穿孔の場合、用いるプラスミドに特殊な要求はない。pUC誘導体のような単純なプラスミドを用いてもよい。しかし、そのように形質転換した細胞から植物体全体を再生する場合、選択マーカー遺伝子が存在しなければならない。
【0095】
植物細胞に所望の遺伝子を導入する方法に応じて、さらなるDNA配列が必要となる場合がある。例えば植物細胞の形質転換などのためにTi-またはRi-プラスミドを用いる場合、Ti-およびRi-プラスミドT-DNAの少なくとも右境界域、しかしよりしばしば左右境界域を隣接領域として、導入すべき異種遺伝子に結合しなければならない。
【0096】
アグロバクテリウムを形質転換に用いる場合、導入すべきDNAを特殊なプラスミドに、すなわち中間ベクターまたはバイナリベクターのいずれかにクローニングしなければならない。T-DNA内の配列と相同な配列のために、中間ベクターを、相同的組換えによってアグロバクテリウムのTi-またはRi-プラスミドに組み入れてもよい。これはまた、T-DNAの移入に必要なvir領域を含む。中間ベクターは、アグロバクテリウムにおいて複製できない。ヘルパープラスミドを用いることによって、中間ベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に移入してもよい(結合)。バイナリベクターは、大腸菌と共にアグロバクテリウムにおいて複製される可能性がある。それらは、選択マーカー遺伝子と共に左右T-DNA境界域によって枠組みされるリンカーもしくはポリリンカーを含む。それらはアグロバクテリウムに直接形質転換されてもよい(ホルスターズ(Holsters)ら、Mol. Gen. Genet. 163(1978)、181〜187)。アグロバクテリウムの形質転換に用いるプラスミドはさらに、形質転換した細菌の選択を可能にするNPT II遺伝子のような選択マーカー遺伝子を含む。プラスミドはさらに、スペクチノマイシンに対する抵抗性(スバブ(Svab)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87(1990)、8526〜8530;スバブ(Svab)ら、Plant Mol. Biol. 14(1990)、197〜206)、ストレプトマイシンに対する抵抗性(ジョーンズ(Jones)ら、Mol. Gen. Genet. 91(1987)、86〜91;スバブ(Svab)ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87(1990)、8526〜8530;スバブ(Svab)ら、Plant Mol. Biol. 14(1990)、197〜206)、ホスフィノトリシンに対する抵抗性(デブロック(De Block)ら、EMBO J. 6(1987)、2513〜2518)、グリホセートに対する抵抗性(トンプソン(Thompson)ら、EMBO J. 6(1987)、2519〜2523;トンプソン(Thompson)ら、Weed Sci. 35(1987)、19〜23(補足))、またはヒグロマイシンに対する抵抗性(ウォルドロン(Waldron)ら、Plant Mol. Biol. 5(1985)、103〜108)を付与する遺伝子のような選択マーカー遺伝子を含んでもよい。宿主細胞として作用するアグロバクテリウムはvir領域を有するプラスミドを含まなければならない。vir領域は植物細胞へのT-DNAの移入にとって必要である。さらなるT-DNAが存在してもよい。そのようにして形質転換したアグロバクテリウムを植物細胞の形質転換に用いる。
【0097】
植物細胞の形質転換にT-DNAを利用することは、広く研究されており、欧州特許第120 516号;ホーケマ(Hoekema)、「バイナリ植物ベクター系(The Binary Plant Vector System)」、オフセット印刷、カンタース(Kanters, B.V.)、アルブラッセルダム(1985)、第V章;フラレー(Fraley)ら、Crit. Rev. Plant. Sci. 4、1〜46およびアン(An)ら、EMBO J. 4(1985)、277〜287)に詳しく記載されている。いくつかのバイナリベクターは、pBIN19(クロンテックラボラトリーズインク、アメリカ)のように既に市販されている。
【0098】
DNAを植物細胞に移入するため、植物外植片をアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)またはアグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes)と共に培養することが適しているかも知れない。次に、感染させた植物材料(例えば、葉片、茎の一部、根、しかしプロトプラストまたは懸濁培養植物細胞も同様に)から、形質転換した細胞の選択のために抗生物質または殺生物剤を含んでもよい適した培地において、植物体全体を再生してもよい。次に、そのようにして得られた植物を、導入したDNAが存在するか否かに関して調べてもよい。バイオリスティック法を用いるまたはプロトプラストを形質転換することによって、異種DNAを導入するためのその他の可能性は、当業者に既知である(例えば、ウィルミッツァー(Willmitzer, L.)、1993、「トランスジェニック植物(Transgenic Plants)」、「バイオテクノロジー、多数巻からなる包括論文(Biotechnology, A Multi-Volume Comprehensive Treatise)」、レーム、リード、ピューラー、スタドラー(H.J. Rehm, G. Reed, A. Puhler, P. Stadler)編、第2巻、627〜659頁、VCHバインハイム-ニューヨーク-バーゼル-ケンブリッジを参照のこと)。
【0099】
アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を用いたTi-プラスミドベクター系による双子葉植物の形質転換は十分に確立された方法であるが、より最近の研究は、アグロバクテリウムに基づくベクターによる形質転換もまた、単子葉植物の場合にも用いることができることを示している(チャン(Chan)ら、Plant Mol. Biol. 22(1993)、491〜506;ヒエイ(Hiei)ら、Plant J. 6(1994)、271〜282)。
【0100】
単子葉植物を形質転換するもう一つの系は、バイオリスティックアプローチによる形質転換、プロトプラスト形質転換、部分的透過細胞の電気穿孔、グラスファイバーによるDNAの導入である。
【0101】
トウモロコシの形質転換を特に扱った関連文献に様々な参考文献がある(例えば、国際公開公報第95/06128号、欧州特許第0 513 849号;欧州特許第0 465 875号を参照のこと)。欧州特許第292 435号において、粘液のない、脆い顆粒様のトウモロコシカルスから開始して、稔性植物を得る方法が記述されている。この意味において、稔性植物を再生するためには、プロトプラストから植物に再生することができる、分裂可能なプロトプラストの培養を生成することができるカルス懸濁培養から開始する必要があることが、シリト(Shillito)ら(Bio/Technology 7(1989)、581)によってさらに認められた。7〜8ヶ月のインビトロ培養期間の後、シリト(Shillito)らは生存子孫を有する植物を得るが、しかしそれらは、異常な形態および生殖性を示した。
【0102】
プリオリ&センダール(Prioli and Sondahl)(Bio/Technology 7(1989)、589)は、カテト(Cateto)トウモロコシ近交系カタログ番号100-1のトウモロコシプロトプラストから稔性の植物を再生させて得る方法を記述した。著者らは、プロトプラストの稔性植物への再生は、遺伝子型、ドナー細胞の生理状態および培養条件のような様々な多くの要因に依存すると仮定している。コメに関しては、様々な形質転換方法、例えばアグロバクテリウム媒介遺伝子移入による形質転換(ヒエイ(Hiei)ら、Plant J. 6(1994)、271〜282;ヒエイ(Hiei)ら、Plant Mol. Biol. 35(1997)、205〜218;パーク(Park)ら、J. Plant Biol. 38(1995)、365〜371)、プロトプラスト形質転換(ダッタ(Datta)、「植物への遺伝子移入(Gene Transfer to plants)」、I.ポトリクス, G.スパンゲンバーグ(I.Potrykus, G., Spangenberg)編、スプリンガー出版、ベルリン、ハイデルベルグ、1995、66〜75頁;ダッタ(Datta)ら、Plant Mol. Biol. 20(1992)、619〜629;サダシバム(Sadasivam)ら(Plant Cell Rep.(1994)、394〜396)、バイオリスティックアプローチ(リ(Li)ら、Plant Cell Rep. 12(1993)、250〜255;カオ(Cao)ら、Plant Cell Rep. 11(1992)、586〜591);クリストウ(Christou)、Plant Mol. Biol.(1997)、197〜203)および電気穿孔(ユ(Xu)ら、「植物への遺伝子移入(Gene transfer top lants)」、I.ポトリクス, G.スパンゲンバーグ(I.Potrykus, G., Spangenberg)編、スプリンガー出版、ベルリン、ハイデルベルグ、1995、201〜208)を応用することができる。
【0103】
導入されたDNAが植物細胞のゲノムに組み入れられると、通常該DNAはその場で安定であり続け、同様に最初に形質転換した細胞の子孫の中に留まる。これは通常、殺生物剤またはカナマイシン、G 418、ブレオマイシン、ヒグロマイシン、もしくはホスフィノトリシン等のような抗生物質に対する抵抗性を、形質転換した植物細胞に付与する選択マーカーを含む。したがって、個々に選択されたマーカーは、導入されたDNAを欠損する細胞からの形質転換細胞の選択を可能にするはずである。
【0104】
形質転換細胞は、植物内で通常の様式で増殖する(同様に、マコーミック(McCormick)ら、Plant Cell Report 5(1986)、81〜84を参照のこと)。得られた植物は通常の様式で栽培して、同じ形質転換された遺伝子を有する植物または他の遺伝子を有する植物と交雑させることができる。得られたハイブリッド個体は対応する表現型特性を有する。
【0105】
表現型特徴が安定に保持されているか否か、そしてそれが移入されるか否かを確実にするためには、2世代またはそれ以上の世代を生育させなければならない。さらに、対応する表現型または他の特性が残っていることを確認するために、種子を採取しなければならない。
【0106】
本発明の植物細胞もしくは植物から得ることができるデンプンまたは本発明の方法によって得ることができるデンプンは、その特性のために、本明細書において既に記載した特定の目的に適しているのみならず、様々な工業的用途にも適している。
【0107】
基本的に、該デンプンは、2つの主な分野に分類される。1つは、酵素処理または化学的処理で得られる、本質的にグルコースおよびグルカン成分から成る、デンプンの加水分解産物といわゆる天然のデンプンとから成る。それらは、発酵などのさらなる工程および化学改変に用いることができる。この場合、その加水分解工程が、単純で、安価に実施されることが重要である。現在、この工程は、実質的にアミログルコシダーゼを用いた酵素処理で実施されている。その場合、デンプン構造の変換、例えば、粒子表面の増加、少分枝化による消化され易さの向上、酵素の接近を妨害するような立体構造の改善によって、使用する酵素量を減少させることにより、コストが削減される。
【0108】
そのポリマー構造のために用いられるいわゆる天然デンプンの使用は、さらに2つの分野に分類される。
【0109】
(a) 食料品分野での使用
デンプンは、様々な食料品の典型的な添加物であり、デンプンは、本質的に水溶性添加物の結合および/または粘性増加、ゲル形成増加等の目的で使用される。重要な特性としては、流動性と収着性、膨潤とパスティフィケーション(Pastification)温度、粘性と濃化作用、デンプン溶解性、透明性とのり構造、熱・ずれ・酸抵抗性、レトログラデーション(retrogradation)の傾向、フィルム形成能、凍結/融解に対する抵抗性、消化性、無機または有機イオンとの複合物質形成能が挙げられる。本発明に係るデンプン、特にコメから得ることができるデンプンは、例えば中華料理の麺またはアジア料理の麺と呼ばれるヌードルの調製に用いることができる。その上、本発明のデンプンは脂肪代用品として用いてもよい。
【0110】
(b) 食料品以外の分野での使用
デンプン使用の他の主な使用分野は、様々な生産工程におけるアジュバント(補剤)として、または工業生産物の添加剤としての分野である。アジュバントとしてのデンプン利用の主な応用分野は、とりわけ製紙および板紙工業である。この分野で、デンプンは主に、保持剤(背面固体の保持)、物質を凝固させるためのサイズ充填剤や細かい粒子、および脱水のために利用される。それに加えて、堅さ、丈夫さ、無傷性、グリップ性、光沢、なめらかさ、引裂き強さ、外観などのデンプンの有する特性が利用される。
【0111】
製紙生産工程においては、4種類の利用法が区別される。すなわち、サーフィス(surface)、コーティング(coating)、マス(mass)、およびスプレイイング(spraying)である。
【0112】
サーフィス処理に関してデンプンに要求される特性は、本質上、高度な輝き、適当な粘性、高い粘度安定性、良好なフィルム形成、ほこり低形成である。コーティングの場合、固体含量、適当な粘性、高結合性、および高色素親和性が、重要な役割を担う。マスへの添加剤として、速く、均一で、ロスのない拡散、高機械強度、および紙パルプへの完全な保持が重要である。スプレイイングにおけるデンプンの使用は、固体含量、高粘性、および高結合性が重要である。
【0113】
接着剤工業における主な応用分野は、4つの分野に分けられる。それらは、純粋なデンプンにかわ、特定の化学薬品で調製されたデンプンにかわ、合成樹脂および分散高分子への添加剤、合成接着剤の添加剤分野である。すべてのデンプンに基づく接着剤のうちの90%は、波形ボード、紙包み、紙バッグ、紙とアルミニウムのための混合材料、箱、および封筒・切手などの湿りのりとして、使用されている。
【0114】
補助剤、添加剤としての他の利用は、織物および織物保護製品においてである。織物工業においては、4つの応用分野がある。紡績中に働く張力に対しての糸の保護のために、および紡績中のすり切れに対する抵抗力上昇のために有効であり、糸のいが除去を円滑に、そして強力に促進するための添加剤として、脱色、染色等の、品質低下を招く前処理の後の、織物改良の薬剤として、色素のり生産時の、色素の拡散を抑制するための濃化剤として、縫い糸整経剤の添加物として利用される。
【0115】
さらに、デンプンは建築材料への添加剤として用いることもできる。一つの例は、石膏プラスターボードの生産である。そこでは、薄いプラスターに混合されたデンプンは、水で糊状になり、石膏ボードの表面を拡散し、そしてボードに板紙を接着させる。他の応用分野は、デンプンをプラスターやミネラルファイバーに混合することである。すでに混合されているコンクリートにおいて、デンプンは整形工程の減速のために使用されうる。
【0116】
さらに、デンプンは、水に対する土粒子の一時的な保護のため人為的な陸地移動の際の土壌安定化に寄与する。最新の知識によると、デンプンとポリマーエマルジョンから構成される製品は、今までに使用されている製品と同程度に、浸食および外皮形成を減少させる効果を持つと考えられている。しかし、それらは、著しくコストを削減する。
【0117】
デンプンの他の使用分野は、デンプンを植物保護剤に添加し、これら調製物の特性を改変することである。例えば、デンプンは、植物保護剤や肥料の吸水性向上のために、活性成分の徐放のために、水性、揮発性および/または臭い成分を、微晶質で、安定な変形可能物質に変換するために、適合性のない成分を混合するために、そして遅い分解速度による有効期間の延長のために利用される。
【0118】
デンプンはまた、薬物、医薬品および化粧品工業の分野において使用される。製薬工業において、デンプンは錠剤のバインダーとして、またはカプセル中のバインダーの希釈のために使用される。さらにデンプンは、飲んだ時に溶液を吸収して、短い時間内でよく膨潤し、活性成分が素早く放出されるので、錠剤の分解促進剤として適している。さらに、質の面で、デンプンは、医用フローワンス(flowance)およびダスティングパウダー(dusting powders)に応用される。化粧品の分野においては、デンプンは、例えば、香水やサリチル酸のような粉末状添加物のキャリアーとして利用される。さらにデンプンの応用としては、ねり歯磨きがある。
【0119】
石炭および練炭への添加物としてのデンプン利用が考えられる。デンプンを添加することにより、石炭は定量的に塊になり、および/または高品質に練炭化され、したがって、練炭の早期分解を防ぐ。バーベキュウ石炭は、4から6%のデンプンを含む。熱用石炭は、0.1 から0.5%のデンプンを含む。さらに、デンプンは、石炭や練炭への添加により、毒性物質の放出を著しく減少させるので、結合剤として適している。
【0120】
さらにデンプンは、鉱石や石炭スラリーの処理において、凝結剤として使用されうる。
【0121】
デンプン応用の他の分野は、鋳造における工程材料への添加剤としての利用である。様々な鋳造工程において、結合剤と混合された砂から作製される心型が必要である。現在、最も普通に使用されている結合剤は、改変デンプン(ほとんど膨潤デンプン)と混合されたベントナイトである。
【0122】
デンプンを添加する目的は、流動抵抗を増加させ、結合力を上昇させることにある。さらに膨潤デンプンは、冷水中での分散能、再水和性、砂との良好な混合性および水との高結合性といった、生産工程のための前提条件を満たす。
【0123】
ゴム工業において、デンプンは、工業的および光学的な品質の向上に使用される。使用の目的は、表面光沢、グリップ性、および外観の向上である。この目的のために、デンプンは、冷和硫の前に、ゴム物質のねばねばした表面上に分散させられる。デンプンはまた、ゴムの印刷性改良のためにも使用される。
【0124】
改変デンプンの他の利用分野は、レザー代替物の生産である。
【0125】
プラスチック市場において、下記のデンプン利用分野が出現している。それらは、デンプン由来産物の加工工程への利用(この場合、デンプンは単なる充填剤で、合成ポリマーとデンプンとの間に直接結合はない)または、デンプン由来産物のポリマー生産物への統合(この場合、デンプンとポリマーは、安定な結合を形成する)である。
【0126】
純粋な充填剤としてのデンプンの使用はタルクなどの他の物質には匹敵し得ない。こうした事情は、特定のデンプン特性が効果的となり、したがって最終産物の特性プロフィールが明らかに変化する場合は異なる。一つの例は、ポリエチレンなどの熱塑性物質の処置におけるデンプン生産物の利用である。したがってデンプン及び合成ポリマーを、顆粒状のポリエチレンを用いる通常の技術によって様々な生産物が作成される「マスターバッチ(master batch)」を形成するために同時発現によって1:1の割合で結合させる。ポリエチレンフィルムにデンプンを組み込むことにより、凹型における物質の浸透性の増加、水蒸気の浸透性の増加、静電気防止作用の増加、抗妨害作用の増加ならびに水性染料の有効な印刷がもたらされる。
【0127】
他の可能性としてはポリウレタンフォームにおけるデンプンの利用がある。デンプン誘導体を適応させならびに操作技術を最適なものにすることによって、合成ポリマーとデンプンの水酸基との間の反応を特異的に調節することが可能となる。その結果、デンプンを使用することによる以下の特性プロフィールを有するポリウレタンフィルムが得られる。すなわち熱膨張の共同作因の減少、収縮作用の減少、圧力/張力作用の増加、水受容体の変化を伴わない水蒸気浸透度の増加、引火性及び熱分解密度の減少、可燃性部分の欠落がないこと、非ハロゲン化合物、ならびに時効の減少である。現在までのところまだ存在している不利な点は圧力及び衝撃強度が減少することである。
【0128】
フィルムの生産物開発は単なるオプションではない。ポット(pot)、プレート及びボウルなどの固状プラスチック産物もまた、デンプンの含有量が50%以上であるため作成することができる。さらに、デンプン/ポリマー混合物により、遙かに簡単に生物分解されるという利点が提供される。
【0129】
さらに、それらの非常に高い水結合性によって、デンプングラフトポリマーは、最大限の重要性を獲得している。それらは、デンプンのバックボーンと、ラジカルチェイン機序(radical chain mechanism)の原理に従って、それにグラフトされた合成モノマーのサイド格子を持つ製品である。現在利用できるデンプングラフトポリマーは、高粘性下において、デンプン g あたり水1000 g までの優れた結合性と保持能力によって特徴づけられる。これらの超吸収剤は、主に衛生分野(例えばおむつやシートのような製品)および農業分野(例えば、種ペレット)で使用されている。
【0130】
組換えDNA技術によって改変される新しいデンプンの利用のための決定因子は、一方では、構造、含水量、タンパク質含量、脂質含量、繊維含量、灰/リン酸塩含量、アミロース/アミロペクチン比、相対分子量の分布、分枝の程度、顆粒のサイズと形、および結晶化であり、もう一方は、次に示す特徴をもたらす性質である。すなわち流動性と収着性、パスティフィケーション(Pastification)温度、粘性、濃化作用、溶解性、のり構造、透明性、熱・ずれ・酸抵抗性、レトログラデーション(retrogradation)の傾向、ゲル形成能、凍結/融解に対する耐性、複合体形成能、ヨウ素結合、フィルム形成能、接着力、酵素安定性、消化性、および反応性である。最も顕著な特性は粘性である。
【0131】
その上、本発明の植物細胞から得ることができる改変デンプンはさらなる化学改変を行ってもよく、その結果上記の特定の応用分野にとって品質の改善が得られると考えられる。これらの化学改変は、原理的に当業者には公知である。これらは、とりわけ、下記の方法による改変である。
−酸処理、
−酸化、および
−エステル化(リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、キサントゲン酸塩、酢酸塩、およびクエン酸塩の形成。さらに他の有機酸もまた、エステル化のために使用される。)
−デンプンエーテルの形成(デンプンアルキルエーテル、O-アリルエーテル、水酸化アルキルエーテル、O-カルボキシメチルエーテル、N-含有デンプンエーテル、およびS-含有デンプンエーテル。)
−分枝デンプンの形成
−デンプングラフトポリマーの形成。
【0132】
本発明はまた、本発明の植物細胞を含む、種子、果実、挿穂、塊茎、または根茎のような、本発明の植物の繁殖材料にも関する。
【0133】
本発明において記述されたプラスミドpOs_R1は、ブダペスト条約の要件に従って、ドイツ連邦共和国ブラウンシュバイヒのドイツ微生物培養細胞コレクション(DSMZ)に1998年10月1日に、アクセッション番号DSM 12439として寄託されている。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】図1はプラスミドpcoOs_R1の構造の略図を示す。A:CaMV 35S終結シグナル(トプファー(Topfer)ら、Nucleic Acids Res. 15(1987)、5890)B:pat遺伝子C:CaMV 35Sプロモーター(オーデル(Odell)ら、Nature 313(1985)、180)D:ユビキチンプロモーター(トキ(Toki)ら、Plant Physiol. 100(1992)、1503〜1507)E:ユビキチンイントロン(クリステンセン(Christensen)ら、Plant Mol. Biol. 18(1992)、675〜689)F:pOs_R1のSmaI/SnaBI断片(4427 bp)G:nosターミネーター(デピッカー(Depicker)ら、J. Appl. Genet. 1(1982)、561〜573)LB:T-DNA左境界域RB:T-DNA右境界域
【発明を実施するための形態】
【0135】
以下の実施例により本発明を説明する。
【0136】
実施例1
R1酵素をコードするイネ(Oryza sativa)からのcDNAのクローニング
8週齢のイネ科植物(インディカ種IR36)の緑色部分に由来する総RNAを、公表された手順に従って調製した(ロゲマン(Logemann)ら、Anal. Biochem. 163(1987)、21〜26)。製造元のマニュアルに従ってオリゴテックスmRNA精製キット(キアゲン社)を用いて、総RNA 1 mgを起源として用いてポリA+ RNAを調製した。ポリA+ RNA5μgを用いて、製造元のマニュアルに従って(ZAP cDNA合成キット[ストラタジーン社])cDNAライブラリを構築した。
【0137】
組換えファージにおけるcDNA挿入断片の大きさの平均値は1.3 kbであった。プラークのリフティングは、ハイボンドNフィルター(アマシャム社)を用いて非増幅ライブラリの組換え型ファージ約2×105個について実施した。
【0138】
緩衝液A(5×SSC、0.5%BSA、5×デンハート、1%SDS、40 mMリン酸緩衝液、pH 7.2、100 mg/lニシン精子DNA、25%ホルムアミド)において42℃で4時間プレハイブリダイゼーションを行った後、フィルターをトウモロコシのR1 cDNAの放射性標識(ランダムプライムドDNA標識キット)947 bp EcoRI/XhoI断片とハイブリダイズさせた(国際公開公報第98/27212号)。42℃で8時間ハイブリダイゼーションを行った後、3×SSC、0.5%SDSを含む緩衝液においてフィルターを50℃で20分間3回洗浄した。X線フィルムの暴露は通常通り14時間実施した。
【0139】
強くハイブリダイズしたファージプラークを再度スクリーニングして、精製した。プラスミドを製造元のマニュアルに従ってインビボ切除によって単離して、制限マッピングによって特徴付けを行った。DNA配列分析は最も長いcDNA挿入断片を含むプラスミドについて実施した。それらのプラスミドのうち、pOs_R1と命名された一つは配列番号:2に示されるヌクレオチド配列情報を含んでいた。
【0140】
cDNAは、5'末端部分が欠失している限りごく部分的である。しかし、失われている5'末端は、5'-RACE(cDNA末端の迅速な増幅)法のような当技術分野で周知の方法によって単離することができる。この方法に従って、ポリメラーゼ連鎖反応を利用することによって、cDNAの欠失した5'末端を増幅することが可能である。この方法は、クロンテック社の「マラソンcDNA増幅キット」を用いて実施してもよい。欠失した5'-末端をクローニングするその他の可能性としては、他のPCR反応、例えばλgt11コメcDNAライブラリ(クロンテック社、パロアルト、カリフォルニア州、アメリカ)を用いた他のPCR反応、免疫スクリーニングを実施すること、または例えばサムブルック(Sambrook)らの「分子クローニング、実験マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」、第二版(1989)、コールドスプリングハーバー研究所出版、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク州、に記述される標準的なハイブリダイゼーション方法を用いることが挙げられる。
【0141】
実施例2
コメにおけるR1遺伝子の共抑制のための構築物
実施例1に記載されたcDNAによってコードされるタンパク質の量が減少したイネ科植物を生産することを可能にするために、植物細胞において共抑制作用を得られるようにするプラスミドを構築した。このプラスミドは植物細胞の形質転換に用いることができ、以下の配列を含む:
− CaMVの35Sプロモーター(オーデル(Odell)ら、Nature 313(1985)、180);
− 35S終結シグナル(トプファー(Topfer)ら、Nucleic Acids Res. 15(1987)、5890);
− 選択マーカーとしてのpat遺伝子;
− ユビキチンプロモーター(トキ(Toki)ら、Plant Physiol. 100(1992)、1503〜1507);
− ユビキチンイントロン(クリステンセン(Christensen)ら、Plant Mol. Biol. 18(1992)、675〜689);
− 実施例1に記載のcDNAを含むプラスミドpOs_R1のSmaI/SnaBI断片(4427 bp);
− nosターミネーター(デピッカー(Depicker)ら、J. Appl. Genet. 1(1982)、561〜573);および
− T-DNA左右境界配列。
【0142】
pcoOs_R1と命名したプラスミドの構造を図1に示す。このプラスミドは、例えばアグロバクテリウム媒介遺伝子移入によるまたは粒子衝突による、イネ科植物細胞の形質転換、および形質転換したイネ科植物の再生に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下からなる群より選択されるR1-タンパク質をコードする核酸分子ならびに該核酸分子のそれぞれの相補鎖およびコメにおいて天然に存在するR1-遺伝子の介在配列:
(a)配列番号:2に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする核酸分子;
(b)配列番号:1に記載のヌクレオチド配列のコード領域を含む核酸分子;
(c)プラスミドDSM 12439のcDNA挿入断片によってコードされるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子;
(d)プラスミドDSM 12439のcDNA挿入断片のコード領域を含む核酸分子;
(e)(a)〜(d)のいずれか1つに示される核酸分子の相補鎖とハイブリダイズする核酸分子;および
(f)その配列が遺伝子コードの縮重のために(e)の核酸分子の配列とは異なる核酸分子。
【請求項2】
そのアミノ酸配列が配列番号:2に記載のアミノ酸配列と少なくとも60%の相同性の程度を示し、以下からなる群より選択されるペプチドモチーフの少なくとも1つを含む、タンパク質をコードする請求項1記載の核酸分子:


【請求項3】
請求項1または2記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項4】
核酸分子が真核細胞および原核細胞において転写を確実にする調節エレメントに結合している、請求項3記載のベクター。
【請求項5】
請求項1もしくは2記載の核酸分子、または請求項3もしくは4記載のベクターによって遺伝子改変されている宿主細胞。
【請求項6】
請求項1または2記載の核酸分子によってコードされるR1-タンパク質の量が、対応する遺伝子改変されていない宿主細胞と比較して増加している、請求項5記載の宿主細胞。
【請求項7】
トランスジェニック植物細胞である、請求項5または6記載の宿主細胞。
【請求項8】
請求項7記載の植物細胞を含む植物。
【請求項9】
請求項1または2記載の核酸分子によってコードされるR1-タンパク質をコードする請求項1または2記載のポリヌクレオチドを植物細胞に導入する段階、およびそれにより形質転換された細胞から植物を再生する段階を含む、請求項8記載の植物の生産方法。
【請求項10】
請求項8記載の植物からおよび/または該植物のデンプン貯蔵部分からデンプンを抽出する段階を含む、改変デンプンの生産方法。
【請求項11】
請求項7記載の植物細胞から、請求項8記載の植物から、または請求項10記載の方法によって得ることができるデンプン。
【請求項12】
請求項5または6記載の宿主細胞がタンパク質を発現させる条件下で培養され、該タンパク質が該細胞および/または培養培地から単離される、請求項1または2記載の核酸分子によってコードされるタンパク質の生産方法。
【請求項13】
請求項1もしくは2記載の核酸分子によってコードされる、または請求項12記載の方法によって得ることができるタンパク質。
【請求項14】
請求項13記載のタンパク質を特異的に認識する抗体。
【請求項15】
請求項1または2記載のDNA分子の転写物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA分子。
【請求項16】
請求項1または2記載のDNA分子の転写物を特異的に切断するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA分子。
【請求項17】
植物細胞において発現すると、共抑制効果のために、請求項1または2記載の核酸分子の発現が減少する、RNAをコードするDNA分子。
【請求項18】
請求項15〜17のいずれか一項記載のDNA分子を含むベクター。
【請求項19】
DNA分子が植物細胞において転写を確実にする調節DNAエレメントに結合している、請求項18記載のベクター。
【請求項20】
請求項15〜17のいずれか一項記載のDNA分子または請求項18もしくは19記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項21】
異種核酸分子の存在または発現によって、請求項13記載のタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現が阻害される、トランスジェニック植物細胞。
【請求項22】
異種核酸分子が以下からなる群より選択される、請求項21記載のトランスジェニック植物細胞:
(a)請求項13記載のタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現を減少させることができるアンチセンスRNAをコードするDNA分子;
(b)共抑制効果によって、請求項13記載のタンパク質をコードする内因性遺伝子の発現を減少させることができるDNA分子;
(c)請求項13記載のタンパク質をコードする内因性遺伝子の転写物を特異的に切断することができるリボザイムをコードするDNA分子;および
(d)変異または請求項13記載のタンパク質をコードする内因性遺伝子における異種配列の挿入を引き起こし、それによって、請求項13記載のタンパク質の発現の減少または不活性タンパク質の合成が起こる、インビボ変異誘発によって導入された核酸分子。
【請求項23】
請求項21または22記載の植物細胞を含むトランスジェニック植物。
【請求項24】
請求項15〜17のいずれか一項記載のDNA分子の転写によって得ることができるRNA分子。
【請求項25】
内因性型として細胞において合成される請求項13記載のタンパク質の量が、細胞において減少していることを特徴とする、改変デンプンを合成するトランスジェニック植物細胞の生産方法。
【請求項26】
細胞における請求項13記載のタンパク質の量の減少がアンチセンス作用によって引き起こされることを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項27】
細胞における請求項13記載のタンパク質の量の減少がリボザイムの作用によって引き起こされることを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項28】
細胞における請求項13記載のタンパク質の量の減少が共抑制作用によって引き起こされることを特徴とする、請求項25記載の方法。
【請求項29】
細胞における請求項13記載のタンパク質の量の減少が、このタンパク質をコードする内因性遺伝子における変異によって引き起こされることを特徴とし、該変異がインビボ変異誘発によって導入される、請求項25記載の方法。
【請求項30】
請求項25〜29のいずれか一項記載の方法によって得ることができる植物細胞。
【請求項31】
請求項30記載の植物細胞を含むトランスジェニック植物。
【請求項32】
請求項23もしくは31記載の植物からおよび/または該植物のデンプン貯蔵部分からデンプンを抽出する段階を含む、改変デンプンの生産方法。
【請求項33】
請求項21、22、もしくは30記載の植物細胞、もしくは請求項23もしくは31記載の植物から得ることができる、または請求項32記載の方法によって得ることができるデンプン。
【請求項34】
コメに由来することを特徴とする、請求項33記載のデンプン。
【請求項35】
請求項6または7記載の植物細胞を含む請求項8記載の植物の繁殖材料。
【請求項36】
請求項21もしくは22記載の植物細胞または請求項30記載の植物細胞を含む、請求項23または31記載の植物の繁殖材料。
【請求項37】
イネ科植物である、請求項23または31記載のトランスジェニック植物。
【請求項38】
請求項37記載のイネ科植物の種子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−135879(P2011−135879A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17984(P2011−17984)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【分割の表示】特願2000−581219(P2000−581219)の分割
【原出願日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【出願人】(500522563)バイエル バイオサイエンス ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】