説明

コラーゲン原線維形成に関連する疾患または状態の治療のためのコンドロイチン硫酸(CS−E)の使用

本発明は、コラーゲン原線維形成に関連する疾患または状態の治療のためのコンドロイチン硫酸(CS−E)またはその活性フラグメントの使用を含む。これらの化合物は、経口経路、局所経路、注射可能な経路、またはその他好適な経路で投与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質の多くは、オリゴ糖鎖の付加によって翻訳後修飾され、このため、糖タンパク質として知られている。
【背景技術】
【0002】
前記オリゴ糖は、O−グリコシドを介してセリンまたはトレオニン残基に結合するか、あるいはN−グリコシドを介してアスパラギン残基に結合する。プロテオグリカンは、特定のクラスの炭水化物ポリマーによって置換された糖タンパク質であり、グリコサミノグリカン(GAG)として知られている。プロテオグリカンは、ECM中において、細胞表面および細胞内では貯蔵顆粒中にその存在が確認される。プロテオグリカンは、ECM中において構造や組織化に貢献すると共に、細胞表面においては、しばしば、レセプターおよび/またはコレセプターとして機能する。全てのグリコサミノグリカン(ただし、ヒアルロナンは除く)は、コアタンパク質アクセプター上で合成され、よって、プロテオグリカンの不可欠な構成要素(integral component)である(ワイトら(Wight et al.), 1981; Heinegard and Paulsson, 1984, review)。
【0003】
グリコサミノグリカン(GAG)は、二糖の繰返しシーケンスに含まれる単糖の一方がアミノ糖であることを示すように命名されたものである。もう一方の単糖は、ウロン酸(グルクロン酸またはイズロン酸)であるが、当該単糖がガラクトースであるケラタン硫酸は例外である。その他のオリゴ糖置換基は分岐していてもよいが、GAG鎖は直鎖である(ここでも、ケラタン硫酸は例外である)。プロテオグリカンは、1(例えば、デコリン)〜100程度(例えば、アグリカン)のGAG鎖によって置換されていてもよい。
【0004】
グリコサミノグリカンには、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸/ヘパリン、およびケラタン硫酸の4種類が存在する。全グリコサミノグリカン鎖中の二糖は、ヒアルロナンを除いて硫酸化されており、これにより負の電荷が増加し、当該鎖のコンホメーションが延長される。前記分子は広範な溶媒ドメインを占め、高粘度の溶液として観察される。この特性は、軟骨において不可欠であり、組織の耐性の基盤となるものである。
【0005】
CSにおける繰返し二糖シーケンスは、グルクロン酸−N−アセチル‐ガラクトサミン(GlcA‐GalNAc)である(図1参照)。コンドロイチン硫酸にはいくつかの形態が存在し、それぞれ、コンドロイチン−4硫酸、−6硫酸、−D、および−Eと命名されている。これらの形態は、糖類の硫酸化状態が異なる。CS−Eは高度に硫酸化された種であり、IおよびVドメインのパールカンに結合する。
【0006】
図1は、コンドロイチン硫酸の基本構造。GlcA β1−3 GalNAcの繰返し二量体単位。ヒドロキシ位置は全て、硫酸化または/およびエピマー化されてもよい。
【0007】
硫酸化が起こり得る各種の位置に番号を付与している。
【0008】
コンドロイチン硫酸/デルマタン硫酸は、あらゆる細胞外マトリックス内においてその存在が確認される。軟骨および椎間板は、コンドロイチン硫酸が最も豊富な組織である(ワイトら,1981,review)。
【0009】
コンドロイチン硫酸は、ゴルジ体(Golgi)に存在する特定の酵素によって合成される。当該ポリマーは、リンカー三糖上に集合する。当該タンパク質内においてグリシンの前に存在するセリン残基の水酸基は、キシロースと2つの連続したガラクトース残基によって置換される。その後、グルクロン酸およびN-アセチルガラクトサミンという単糖が交互に連続して付加され、鎖を形成する。グルクロン酸塩残基のいくつかは、エピメラーゼによってイズロネートへと変換され、硫酸化が、分泌の直前に起こる最後の事象となる(ワイトら、1981、review)。軟骨において、ヒアレクタン(hyalectins)ファミリーのメンバーであるアグリカンは、コンドロイチン硫酸プロテオグリカンであり、100程度のCS鎖および30程度のケラタン硫酸鎖で置換されている。アグリカン分子は、N末端球状ドメインを介して結合されているHA鎖に沿って集まっている。リンクタンパク質として知られるタンパク質は、前記アグリカン分子のHA結合G1ドメインとHAの両方に接触し、当該錯体を安定化する。このようにして、何百ものアグリカン分子が、前記HAの一端に結合する。このように、軟骨マトリックスにおいては、コンドロイチン硫酸が、群を抜いて最も豊富に存在するGAGとなっている。
【0010】
パールカンは、当初、Engelbrecht−Holm−Swarm(EHS)マウス基底膜腫瘍から単離された大型のヘパラン硫酸プロテオグリカンとして同定された。基底膜において、パールカンはいくつかの異なるクラスの分子に結合することがわかっている。それぞれの場合において、コアタンパク質、ヘパラン硫酸(HS)側鎖、またはこれらが同時に、相互作用の仲介に関与する。プロテオグリカンは、IV型コラーゲン、ナイドジェン、ラミニン、およびフィブロネクチン等のような、基底膜と一体化した細胞外マトリックス成分に結合する(ティンプル・アール(Timpl, R.)およびブラウン・ジェイ・シー(Brown, J. C.)(1996)Bioassays 18, 123-132)。パールカンは、基底膜の外側に存在する細胞外マトリックス成分、例えば、PRELPおよびI型コラーゲンにも結合することがわかっている(ベントソン(Bengtsson, E.)、モルゲリン・エム(Morgelin, M.),ササキ・ティー(Sasaki, T.),ティンプル・アール,ハインガード・ディー(Heinegard, D.),およびアスプバーグ・エー(Aspberg, A.)(2002)J.Biol.Chem)。パールカンは、結合と、インテグリンへのクラスター化の両方によって、細胞接着を支援する(ブラウン・ジェイ・シー,ササキ・ティー,ゴーリング・ダブリュー(Gohring, W.),ヤマダ・ワイ(Yamada, Y.),およびティンプル・アール(1997)Eur.J Biochem. 250, 39-46)。成長因子への結合が、HS側鎖(FGF−2(アビーザー・ディー(Aviezer, D.)、ヘクト・ディー(Hecht, D.),サフラン・エム(Safran, M.),アイシンガー・エム(Eisinger, M.),デーヴィッド・ジー(David, G.),およびヤヨン・エー(Yayon, A.)(1994)Cell 79, 1005-1013))とコアタンパク質(プログラニュリン(ゴンザレス・イー・エム(Gonzalez, E. M.),モンギアット・エム(Mongiat, M.),スレーター・エス・ジェイ(Slater, S. J.),バッファ・アール(Baffa, R.),およびイオッゾ・アール・ヴィー(Iozzo, R. V.)(2003)J Biol Chem))の両方に関して確認されている。その相互作用に基づき、パールカンは、基底膜の統合性(integrity)に関して何らかの役割を担っていると推定されている。
【0011】
パールカンは、元々はHSのみによって置換されるものと考えられていたが、後の研究により、コンドロイチン硫酸(CS)によって部分的に置換された変異体も存在することが判明した(コーチマン・ジェイ・アール(Couchman, J. R.),カプール・アール(Kapoor, R.),スタナム・エム(Sthanam, M.),およびウー・アール・アール(Wu, R. R.)(1996)J Biol Chem 271, 9595-9602)。パールカンのHS置換変異体およびHS/CS置換変異体の両方が、基底膜以外の組織、例えば、軟骨において確認されている。
【0012】
パールカン欠損マウスの発生により、特に興味深い2つの知見が得られた(アリカワ−ヒラサワ・イー(Arikawa-Hirasawa, E.),ワタナベ・エイチ(Watanabe, H.),タカミ・エイチ(Takami, H.),ハッセル・ジェイ・アール(Hassell, J. R.),およびヤマダ・ワイ(1999)Nat Genet. 23, 354-358; コステル・エム(Costell, M.),グスタフソン・イー(Gustafsson, E.),アスゾディ・エー(Aszodi, A.),モルゲリン・エム,ブロシュ・ダブリュー(Bloch, W.),ハンツィカー・イー(Hunziker, E.),アディックス・ケー(Addicks, K.),ティンプル・アール,およびファスラー・アール(Fassler, R.)(1999)J Cell Biol 147, 1109-1122))。第1に、パールカンが欠乏したマウスにおいては、不十分な(compromised)基底膜強度または統合性に起因する深刻な障害(例えば、心膜の断裂)が起こったものの、基底膜の初期構成については、問題はないものと思われた。第2の印象的な知見は、明らかに軟骨におけるパールカンの欠乏が原因で、重大な骨格の欠陥が見られたことである。
【0013】
これらの結果が発表されると、マウスモデルにおけるこの知見の関連性が強調され、骨格不全を伴う少なくとも2種類のヒト遺伝病が、根底に存在するパールカンの不足または完全な欠如に起因するものと見なされた(ニコル・エス(Nicole, S.),デヴォイン・シー・エス(Davoine, C. S.),トパログリュー・エイチ(Topaloglu, H.),カットリコ・エル(Cattolico, L.),バーッラル・ディー(Barral, D.),ベイトン・ピー(Beighton, P.),ハミダ・シー・ビー(Hamida, C. B.),ハモウダ・ エイチ(Hammouda, H.),クルオード・シー(Cruaud, C.),ホワイト・ピー・エス(White, P. S.),サムソン・ディー(Samson, D.),アーツィベレア・ジェイ・エー(Urtizberea, J. A.),レーマンホアン・エフ(Lehmann-Horn, F.),バイセンバッハ・ジェイ(Weissenbach, J.),ヘンタティー・エフ(Hentati, F.),およびフォンテイン・ビー(Fontaine, B.)(2000) Nat Genet. 26, 480-483; アリカワ−ヒラサワ・イー,ウィルコックス・ダブリュー・アール(Wilcox, W. R.),リー・エー・エイチ(Le, A. H.),シルバーマン・エヌ(Silverman, N.),コビンドラフ・ピー(Govindraj, P.),ハッセル・ジェイ・アール(Hassell, J. R.),およびヤマダ・ワイ(2001)Nat Genet. 27, 431-434)。
【0014】
骨格の発達において、骨の形成に先立って、軟骨テンプレートの析出(deposition)が起こる。このテンプレートの統合性が、骨格の適切な構築の前提条件である。パールカン欠損マウスの軟骨においては、II型コラーゲン原線維の数が少なく、その組織化の程度も低く、さらにアグリカンのレベルが減少しており、細胞外マトリックスの組織化がうまくいっていないことを示している(コステル・エム,グスタフソン・イー,アスゾディ・エー,モルゲリン・エム,ブロシュ・ダブリュー,ハンツィカー・イー,アディックス・ケー,ティンプル・アール,およびファスラー・アール(1999)J Cell Biol 147, 1109-1122)。
【0015】
成熟したコラーゲン線維は、複数の異なる種類の結合アクセサリータンパク質を含有している場合がある。これらのタンパク質は、これらの線維の組織化に関与し、その他の分子への結合を調節し、線維状コラーゲンネットワークの構築に寄与する。最近では、コラーゲンモノマーが線維を構築する初期の工程を調節する調節分子であると考えられている。我々の研究所において、軟骨オリゴマー基質タンパク質(COMP)が、モノマーからの線維形成を促進することが発見された(モルゲリンおよびハインガード,manuscript)。その他の分子は、これとは逆の効果を有しており、例えば、デコリン(ボーゲル・ケー・ジー(Vogel, K. G.),ポールソン・エム(Paulsson, M.),およびハインガード・ディー(1984)Biochem.J. 223, 587-597)やフィブロモジュリン(ヘッドボン・イー(Hedbom, E.)およびハインガード・ディー(1989)J.Biol.Chem. 264, 6898-6905)は、生体外での線維形成の速度を低減させる。これらの分子の遺伝子ターゲティングは、異常なコラーゲン原線維や、組織の力学的性質の障害を招く(ダニエルソン・ケー・ジー(Danielson, K. G.),バリボウルト・エイチ(Baribault, H.),ホルメス・ディー・エフ(Holmes, D. F.),グラハム・エイチ(Graham, H.),カドラー・ケー・イー(Kadler, K. E.),およびイオッゾ・アール・ヴィー(1997)J Cell Biol 136, 729-743;スベンソン・エル(Svensson, L.),アスゾディ・エー、ラインホルト・エフ・ピー(Reinholt, F. P.),ファスラー・アール,ハインガード・ディー,およびオールドバーグ・エー(Oldberg, A.)(1999)J.Biol.Chem.)。細胞近傍のタンパク質がコラーゲン線維形成の初期段階を調節している様子を示した写真がある。
【0016】
パールカンは、HSおよびCSが置換された形態で存在し、これらの形態は、コラーゲン原線維形成を容易にするために使用できることがわかっている。驚いたことに、遊離CS−Eの添加は、コラーゲン原線維形成において有効であったが、これ以外のCS変異体は、いずれも有意な効果を示さなかった(例えば、CS−DまたはCS−6)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
多数の出版物が、創傷治癒および既存の関節症の治療におけるコンドロイチン硫酸の効果について記載している(米国特許第5929050号明細書、特開平10−120577、および露国特許第2216332号明細書)。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、CS−Eまたはその活性フラグメントを使用してコラーゲンを主成分とする細胞外マトリックス(ECM)の形成を促し、これにより、原線維形成アゴニストとして作用するか、あるいはCS−Eまたはその活性フラグメントの修飾により、線維症アンタゴニストとして作用するものなので、これらとは著しく相違している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明には、障害に関連する各種状態および疾患を、アゴニストおよびアンタゴニストのそれぞれによるコラーゲン原線維形成(CFF)の容易化または予防によって治療するためのパールカン由来のコンドロイチン硫酸もしくはコンドロイチン硫酸E(CS−E)、またはCS−Eの活性フラグメントの使用が含まれる。
【0020】
さらに本発明には、前記状態および疾患を治療するための、CS−Eまたはその活性フラグメントを含有する薬学的に許容可能な組成物が含まれる。
【0021】
CS−Eまたはその活性フラグメントは、高度に硫酸化されており、よって、荷電化合物である場合があり、本発明には、アルカリ金属塩(ナトリウム、カリウム、セシウム)およびアルカリ土類塩(例えば、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、ストロンチウム)およびアンモニウム、ならびに有機塩等の薬学的に許容可能な塩がさらに含まれる。
【0022】
さらに本発明には、培養担体(scaffolds)を含有もしくは補充する細胞の移植による障害の治療のための人工コラーゲンマトリックスの製造において、治療上有効な量のCS−Eまたはその活性フラグメントを投与するための製剤が含まれる。
【0023】
本願に含まれる適応症は、肺線維症、創傷治癒、特に、慢性的な創傷の治癒、潰瘍性大腸炎やクローン病等の慢性的な腸疾患、慢性関節リウマチ(RA)、変形性関節症(OA)、再建的骨格形成や骨格修復を含むが、これらに限定されないコラーゲン原線維形成における障害に関連する状態および疾患である。
【0024】
(CFFアゴニスト)
CFFアゴニストを単独または外因性コラーゲン(exogenous collagen)と共に適用することにより、慢性的な創傷の治癒を促すことができる。これは、急性の開放創の治療にも有用である。
【0025】
さらにCFFアゴニストは、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病またはその他の炎症性の腸疾患を含むが、これらに限定されない内部創傷の治癒を容易にする。
【0026】
CFFアゴニストは、外科的治療および移植後の治癒を容易にするために使用することができる。
【0027】
進行性の変性関節疾患である変形性関節症においては、関節軟骨コラーゲンが分解される。CFFアゴニストは、このプロセスに対抗するか、もしくはこのプロセスを逆行させ、および/または、新たに合成されたコラーゲン分子が集合して線維となることを容易にする。
【0028】
CFFアゴニストは、損傷した靭帯および腱の修復を促すために使用することができる。
【0029】
CFFアゴニストは、ひどい骨折の後の骨修復を容易にするために使用することができる。
【0030】
(組織工学におけるCFFアゴニスト)
組織工学は、損傷した組織(例えば、火傷を負った皮膚の治癒またはOAの軟骨)を、自己由来の細胞補充療法または移植によって修復するために使用することができる。CFFアゴニストは、患者の細胞もしくは組織、または各種幹細胞由来の移植可能な皮膚、腱、軟骨、骨または血管を製造するために行われる細胞または組織の培養において、コラーゲンマトリックスの形成を促すために使用することができる。
【0031】
CFFアゴニストは、例えば、火傷およびOA軟骨の治癒のために使用される、巧妙に形成された人工のコラーゲンマトリックス培養担体を製造するために使用することができる。埋め込み後、これらの培養担体は、患者の周辺組織から補充した細胞によって定着(populated)される。
【0032】
CFFアゴニストは、角膜移植用の巧妙に構成されたコラーゲン原線維マトリックスの製造にも有用である。
【0033】
(線維性障害)
瘢痕化は、外傷および損傷に対する体の自然な反応である。線維症の状態においては、正常な創傷治癒反応が制御不能となった状態が続き、コラーゲンの過剰な生産や沈積が起こる。これにより、正常な組織が瘢痕組織に入れ替わった場合に機能の喪失が起こる。線維症は、実質的に体内の全ての器官系において発症し得る。
【0034】
線維症には、数多くの異なる原因が存在し、例えば、外傷、外科手術、感染、環境汚染物質および毒素(アルコールを含む)が挙げられる。線維症の症状の例として、心臓発作後に起こる瘢痕組織形成、糖尿病の合併症である腎線維症、肺線維症、および内部器官同士の間に起こる手術瘢痕組織形成が挙げられる。
【0035】
急性線維症は、損傷、感染、外科手術、火傷、放射線障害、および化学療法等のような様々な形態の外傷に対する反応である。多くの慢性症状、例えば、糖尿病、ウイルス感染、および高血圧は、組織機能の継続的な喪失を引き起こす進行性の線維症を誘発する。一般的に、肝臓、腎臓、および肺において発症する。全身性の線維性疾患としては、糖尿病患者の腎症、強皮症、特発性肺線維症、および心筋梗塞後に起こる反応性線維症が挙げられる。
【0036】
(CFFアンタゴニスト)
CFFアンタゴニストを使用することにより、コラーゲン原線維の集合を阻止することで線維形成プロセスに対抗することが可能となると考えられる。多くの場合、これは、局所的な投与を行い、これにより全身療法において起こり得る副作用を回避することによって達成できる。しかしながら、CFFアンタゴニストは、それが好適である場合には、全身的に投与してもよい。
【0037】
CFFアンタゴニストは、創傷治癒における瘢痕形成、過形成性瘢痕化およびケロイド、火傷損傷後の過形成性瘢痕化に関連して起こる拘縮、外科手術による癒着、または強皮症を含むが、これらに限定されない皮膚の線維性障害の予防に用いることができる。CFFアンタゴニストの局所的な適用は、浸透ポンプ装置またはその他の好適な投与方法によって投与を行うことができる外科手術による癒着の場合を除き、容易と思われる。
【0038】
CFFアンタゴニストは、突発性肺線維症の治療および予防に使用することができる。
【0039】
CFFアンタゴニストは、肝線維症/肝硬変および糖尿病患者の腎線維症等の、その他の深部器官における線維症の治療に使用することができる。
【0040】
CFFアンタゴニストは、心筋梗塞後に起こる心筋の瘢痕化の予防に使用することができる。
【0041】
CFFアンタゴニストは、血管形成術後のアテローム性動脈硬化症および再狭窄の予防、またはこれらに対抗するため使用することができる。後者を達成するためには、修飾ステント(modified stents)の埋め込みによって、前記アンタゴニストを局所的に輸送すればよい。
【実施例】
【0042】
(インビトロ原線維形成アッセイ)
ウシペプシン抽出I型コラーゲンを、ビトローゲン(Vitrogen)社より購入した。II型コラーゲンを、先に述べたように(ボーゲル・ケー・ジー,ポールソン・エム,およびハインガード・ディー,(1984)Biochem.J. 223, 587-597)、ウシ気管軟骨からペプシン抽出した。原線維形成アッセイについては、先に述べた(ヘッドボン・イーおよびハインガード・ディー(1989)J.Biol.Chem. 264, 6898-6905)。
【0043】
簡単に説明すると、コラーゲンモノマー(330nM)溶液を、0.012M NaOHを適切な体積添加することによって中性のpHとし、20mM HEPES、pH7.4の150mM NaClで緩衝液処理した。パールカンフラグメントを、コラーゲンのモル濃度と同一のモル濃度、もしくはコラーゲンのモル濃度の10分の1のモル濃度となるように添加した。試料をしっかりと短時間で混合し、キュベットに移した。前記試料を分光光度計内のウォータージャケット式キュベットにて37℃(I型コラーゲン)または35℃(II型コラーゲン)でインキュベートし、400nm(I型コラーゲン)または313nm(II型コラーゲン)で散乱する光による吸光度を、5〜18時間観察した。吸光度/濁度の増加は、線維形成の増加に依存する。
【0044】
(CS−E原線維形成)
先に述べたような方法で、原線維形成を行った。イカ由来のCS−Eを、カルビオケム(Calbiochem)社より購入した。先の実験におけるGAG鎖のモル濃度に対応する0.13μg/ml、HS/CS(PG IB)を含む組換えパールカンドメインI変異体使用(33nM)。
【0045】
当該原線維形成実験の結果を、図2に示している。この図からわかるように、CS−Eのみが、試験を行ったその他のコンドロイチン硫酸変異体(CS−DおよびCS−6)とは異なり、コラーゲン原線維形成(CFF)に関して陽性結果を示した。
【0046】
図2は、CS−Eによって促進されるコラーゲン原線維形成を示している。異なる種類の精製CS鎖について、コラーゲン原線維形成アッセイにおける効果を調べるため試験を行った(パネルA)。高度に硫酸化されたCS−Eは、原線維形成に対して著しい効果を及ぼしたが、CS−6またはCS−Dは、いずれも効果を示さなかった。CS−Eによる促進効果は、適用量に依存しており、30μg/mlの濃度で飽和状態に達した(パネルB)。
【0047】
(インビボモデル)
創傷治癒の調査のためのインビボモデル例
体重22±2gの5ICR雄マウス群を使用する。ヘキソバルビタール(90mg/kg、腹腔内に投与)による麻酔状態のもと、各マウスの肩および背中の領域を剃毛する。鋭利な穿孔器(内径:12mm)を使用し、皮筋層および結合組織を含む皮膚を除去する。透明プラスチックシート上で3、5、7、9、および11日間トレースした創傷領域を、イメージアナライザー(Image Analyzer)(ライフサイエンスリソース ビスタ(Life Science Resources VISTA)、バージョン3.0)を用いて定量する。試験化合物および/または賦形剤(20μl、PBS中0.5%カルボキシメチルセルロース、pH7.4)を損傷直後に局所的に適用し、その後は、一日一回の適用を連続して10日間行う。創傷半閉鎖時間(CT50)を求め、各測定時において化合物処理群と賦形剤群とを比較するため、対応のないスチューデントのt検定を行う。P<0.05で、統計的有意差があると見なす(モンテシノス・エム・シー(Montesinos, M.C.),ガダンギ・ピー(Gadangi, P.),ロングエイカー・エム(Longaker, M.),サン・ジェイ(Sung, J.),レヴァイン・ジェイ(Levine, J.),ニルセン・ディー(Nilsen, D.),レイブマン・ジェイ(Reibman, J.),リ・エム(Li, M.),ジアン・シー・ケー(Jiang, C.K.),ヒルショーン・アール(Hirschorn, R.),レヒト・ピー・エー(Recht, P.A.),オスタッド・イー(Ostad, E.),レビン・アール・アイ(Levin, R.I.),およびクロステイン・ビー・エヌ(Crostein, B.N.)Wound healing is accelerated by agonists of Adenosine A2(Gαs-linked)receptors. J. Exp. Med. 186: 1615 -1620, 1997.)。
【0048】
(製剤)
【0049】
【表1】

【0050】
より多量の活性成分が必要な場合は、ラクトースの使用量を減らしてもよい。
【0051】
【表2】

【0052】
注射による非経口投与のための溶液は、前記活性物質の水溶性で薬学的に許容可能な酸付加塩の水溶液として、好ましくは0.1重量%から約5重量%濃度で調製できる。
【0053】
これらの溶液は、制御された放出および/または排出が行えるように、安定剤、緩衝剤、および/またはゲル化剤(ヒアルロナン、PEG、HPMC、EHEC等。ただし、これらに限定されない)を含有してもよい。
【0054】
局所製剤の例
局所投与用のゲルは、活性物質の濃度を0.1重量%〜10重量%とし、制御された放出および/または排出が行えるように、安定剤、緩衝剤、および/または追加のゲル化剤(ヒアルロナン、PEG、HMPC、EHEC等。ただし、これらに限定されない)を任意に含有するように調製できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】コンドロイチン硫酸の基本構造。GlcA β1−3 GalNAcの繰返し二量体単位。ヒドロキシ位置は全て、硫酸化または/およびエピマー化されてもよい。硫酸化が起こり得る各種の位置に番号を付与している。
【図2】図2は、CS−Eによって促進されるコラーゲン原線維形成を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲン原線維形成に関連する疾患または状態の治療のためのコンドロイチン硫酸(CS−E)の使用。
【請求項2】
治療する前記疾患または状態が、創傷(潰瘍)である請求項1に記載のコンドロイチン硫酸(CS−E)の使用。
【請求項3】
コラーゲン原線維形成に関連する疾患または状態を治療するための医薬品を製造するためのコンドロイチン硫酸(CS−E)の使用。
【請求項4】
治療する前記疾患または状態が創傷(潰瘍)である、請求項3に記載の医薬品製造のためのコンドロイチン硫酸(CS−E)の使用。
【請求項5】
請求項1に記載のように使用される、薬学的に許容可能な担体および/または補助剤と共にCS−Eを含有する医薬組成物。
【請求項6】
薬学的に許容可能な担体および/または補助剤と共にCS−Eを含有する医薬組成物の、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
請求項1で定義した化合物を対象に有効量投与することを含む、前記対象におけるコラーゲン原線維形成または関連するシステムの疾患、障害および/または病的状態を治療する方法。
【請求項8】
経口経路、局所経路、注射可能な経路、またはその他好適な経路で投与される、有効量の請求項1で定義した化合物。
【請求項9】
局所経路で投与される、有効量の請求項1および8に記載の化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−534749(P2007−534749A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510653(P2007−510653)
【出願日】平成17年4月26日(2005.4.26)
【国際出願番号】PCT/SE2005/000599
【国際公開番号】WO2005/102362
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【出願人】(506360848)アナマル メディカル エービー (3)
【Fターム(参考)】