説明

コレステロール誘導体、リポソーム及びX線用造影剤

【課題】(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なコレステロール誘導体、リポソーム、及び該リポソームを含有するX線用造影剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表されることを特徴とするコレステロール誘導体。


(式中、Gは、糖のアノマー位でエーテル結合を形成した一価の残基を介して結合した糖を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なコレステロール誘導体、リポソーム、及び該リポソームを含有するX線用造影剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薬剤キャリアとして注目されているリポソームの表面に、糖鎖を結合する材料として、糖を修飾したコレステロール誘導体が盛んに研究されている。
【0003】
京都大学の橋田らはガラクトース、マンノース、フコースをコレステロールに修飾し、これを構成成分とするリポソームが肝臓に特異的に集積することを見出している(例えば、非特許文献1参照)。また、三菱化学社では、スペルミジンをジョイントとして糖とコレステロールを結合した新規化合物を提案している。該コレステロール誘導体を構成成分とするリポソームは核酸成分(DNA、RNA断片)を内包することができ、標的細胞に目的の遺伝子を送り込むことで効果的な遺伝子治療を実現できることが期待されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
しかしながら、上記の糖修飾コレステロールはいずれもカチオン性であるため毒性に懸念があり、特に本発明者らの研究対象である造影剤での使用を念頭とした場合には、遺伝子治療に対して使用量が格段に多いため、致命的な欠点となる問題があった。また、非イオン性のヨード化合物を内包するリポソームを作製する場合に、カチオン性材料はその内包率が非常に低くなる欠点があった。
【0005】
また、糖鎖中の糖としてとしてアルファ1,2マンノビオース二糖、アルファ1,3マンノビオース二糖、アルファ1,4マンノビオース二糖、アルファ1,6マンノビオース二糖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖、オリゴマンノース3五糖、オリゴマンノース4b六糖、オリゴマンノース5七糖、オリゴマンノース6八糖、オリゴマンノース7九糖、オリゴマンノース8十糖鎖、オリゴマンノース9十一糖、3′−シアリルラクトース三糖、6′−シアリルラクトース三糖、3′−シアリルラクトサミン三糖鎖、6′−シアリルラクトサミン三糖、ルイスX型三糖、シアリルルイスX型四糖、2′−フコシルラクトース三糖、ジフコシルラクトース四糖及び3−フコシルラクトース三糖を用い、表面に該糖を修飾したリポソームが知られている(例えば、特許文献3参照)。該リポソームは、薬剤や遺伝子を注入し、癌等の標的細胞・組織を認識し、局所的に薬剤や遺伝子を患部に送り込むための治療用ドラックデリバリーとして使用される。しかしながら、該リポソームも非イオン性ヨード化合物を内包する例は知られておらず、本発明者らの検討では、その内包率と経時安定性が極めて低くなる欠点があった。
【0006】
一方、ヨード原子を含有する造影剤は、汎用的には低分子量の有機ヨード剤として提供され、水に溶けるため、尿路撮影、血管造影、CTの造影のように、通常、静脈血管内投与で用いられる。ヨード造影剤は、投与されて数分間は血管内に滞留するが、急速に全身に分布し、通常は腎臓で排泄されて尿中に出る。現在使用されている低分子量・水溶性のヨード造影剤は、血管から臓器や組織への移行が早く、血管の中でも特に静脈を明確に造影することが困難であった。
【0007】
血中滞留性を上げるために今から20年程前、ヨード化けし油をレシチンで分散したオイルエマルジョンタイプの造影剤がいくつか検討された(例えば、非特許文献2参照)。これらは目論見通り血中滞留性が向上し、全身血管の造影能力が格段に向上したが、発熱、悪心、アナフィラキシーショック等の重篤な副作用を引き起こす問題が解決できず、実用化に至っていない。
【0008】
一方、近年、特定臓器の癌疾患の造影が強く求められている。しかしながら、上述の造影剤には臓器特異的な集積性がないため、要望を満たすことが困難である。上述のカチオン性コレステロールを用いたリポソームは、肝臓への集積性が高いことが知られており(例えば、非特許文献1参照)、肝臓疾患用造影剤への応用が期待できる。また、特許文献3には、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3マンノビオース二糖鎖、アルファ1,4マンノビオース二糖鎖、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖、オリゴマンノース3五糖鎖、オリゴマンノース4b六糖鎖、オリゴマンノース5七糖鎖、オリゴマンノース6八糖鎖、オリゴマンノース7九糖鎖、オリゴマンノース8十糖鎖及びオリゴマンノース9十一糖鎖を結合したリポソームは全て血中、肺、脳、癌組織、心臓及び小腸への指向性が高い。また、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖、オリゴマンノース3五糖鎖、オリゴマンノース4b六糖鎖を結合したリポソームは肝臓への指向性が高い。また、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3マンノビオース二糖鎖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖鎖を結合したリポソームは、脾臓への指向性が高い。また、アルファ1,2マンノビオース二糖鎖、アルファ1,4マンノビオース二糖鎖、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖を結合したリポソームはリンパ節への指向性が高い。さらに、オリゴマンノース6八糖鎖を結合したリポソームは胸腺への指向性が高い。
【0009】
また、3′−シアリルラクトース三糖鎖、6′−シアリルラクトース三糖鎖、3′−シアリルラクトサミン三糖鎖、6′−シアリルラクトサミン三糖鎖を結合したリポソームは、全般的に腸管吸収性は極めて高い。また、ルイスX型三糖鎖、シアリルルイスX型四糖鎖、2′−フコシルラクトース三糖鎖、ジフコシルラクトース四糖鎖及び3−フコシルラクトース三糖鎖を結合したリポソームは、病変部の血管内皮細胞表面に存在する各種セレクチンに対する指向性が高い。しかしながら、公知のリポソームは膵臓疾患部位への集積性は低く、膵臓疾患用造影剤への応用は期待できないのが現状である。現在、膵臓疾患、特に膵臓の転移性癌は早期発見が難しく、死亡率の高い疾患として知られており、新規な造影剤の開発が切望されている。
【特許文献1】特表2004−522722号公報
【特許文献2】特表2004−520301号公報
【特許文献3】国際公開第05/011632号パンフレット
【非特許文献1】Chem.,Pharm.,Bull.,53(8),871−880(2005)
【非特許文献2】Radiology,216,154−162(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なコレステロール誘導体、リポソーム、及び該リポソームを含有するX線用造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1. 本発明の上記課題は、以下の構成により達成される。
下記一般式(1)で表されることを特徴とするコレステロール誘導体。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Gは、糖のアノマー位でエーテル結合を形成した一価の残基を介して結合した糖を表し、
【0014】
【化2】

【0015】
は糖のアノマー位の立体構造が、α体及び/またはβ体であることを表し、Jは二価のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基を表す。糖はアルファ1,2マンノビオース二糖、アルファ1,3マンノビオース二糖、アルファ1,4マンノビオース二糖、アルファ1,6マンノビオース二糖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖、オリゴマンノース3五糖、オリゴマンノース4b六糖、オリゴマンノース5七糖、オリゴマンノース6八糖、オリゴマンノース7九糖、オリゴマンノース8十糖鎖、オリゴマンノース9十一糖、3′−シアリルラクトース三糖鎖、6′−シアリルラクトース三糖、3′−シアリルラクトサミン三糖鎖、6′−シアリルラクトサミン三糖、ルイスX型三糖、シアリルルイスX型四糖、2′−フコシルラクトース三糖、ジフコシルラクトース四糖及び3−フコシルラクトース三糖のいずれかひとつの糖を表す。)
2.前記1に記載のコレステロール誘導体の少なくとも1種、非イオン性ヨード化合物及びリン脂質を含有することを特徴とするリポソーム。
【0016】
3.前記2に記載のリポソームを含有することを特徴とするX線用造影剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なコレステロール誘導体、リポソーム、及び該リポソームを含有するX線用造影剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明者らは鋭意検討の結果、前記一般式(1)で表される特定構造のコレステロール誘導体は、(1)生体に対する毒性が低く、(2)内包率が高く、(3)全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ、(4)膵臓の造影にも優れ、(5)さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有する新規なコレステロール誘導体であり、これを含むX線用造影剤(以下、造影剤ともいう)は優れた造影剤であることを見出した。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
《一般式(1)で表されるコレステロール誘導体》
まず、本発明の一般式(1)で表されるコレステロール誘導体について詳述する。
【0021】
一般式(1)において、Gは糖のアノマー位でエーテル結合を形成した一価の残基を介して結合した糖を表し、該糖はアルファ1,2マンノビオース二糖、アルファ1,3マンノビオース二糖、アルファ1,4マンノビオース二糖、アルファ1,6マンノビオース二糖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖、オリゴマンノース3五糖、オリゴマンノース4b六糖、オリゴマンノース5七糖、オリゴマンノース6八糖、オリゴマンノース7九糖、オリゴマンノース8十糖鎖、オリゴマンノース9十一糖、3′−シアリルラクトース三糖鎖、6′−シアリルラクトース三糖、3′−シアリルラクトサミン三糖鎖、6′−シアリルラクトサミン三糖、ルイスX型三糖、シアリルルイスX型四糖、2′−フコシルラクトース三糖、ジフコシルラクトース四糖及び3−フコシルラクトース三糖のいずれかひとつの糖を表す。
【0022】
【化3】

【0023】
は糖のアノマー位の立体構造が、α体及び/またはβ体であることを表すが、α体、β体それぞれの単独であってもよいし、α体、β体の任意の比率での混合物であってもよい。Jは二価のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基を表すが、直鎖でも分岐していてもよく、好ましくは直鎖のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基である。アルキレンオキシアルキレン基としては、エチレンオキシエチレン基、ポリエチレンオキシエチレン基が好ましい。炭素数の合計は2〜12であることが好ましいが、特に好ましくは2〜8である。該アルキレン基及びアルキレンオキシアルキレン基は置換基を有していてもよいが、好ましくは無置換である。該置換基として具体的には、アルコキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、スルファモイル基、スルホンアミド基、エステル基等が挙げられる。
【0024】
次に、本発明の一般式(1)で表される化合物の具体例を示す。
【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
【化10】

【0032】
【化11】

【0033】
【化12】

【0034】
【化13】

【0035】
【化14】

【0036】
【化15】

【0037】
【化16】

【0038】
【化17】

【0039】
【化18】

【0040】
【化19】

【0041】
【化20】

【0042】
【化21】

【0043】
しかし本発明はこれらに限定されない。これらの例示化合物の合成方法は実施例に示す。
【0044】
《コレステロール誘導体、非イオン性ヨード化合物、及びりん脂質を含有するリポソーム》
本発明のリポソームは、通常公知のリポソームと同様に脂質二重膜から形成されている。その脂質膜の成分として、一般にリン脂質が好ましく使用される。本発明に用いられるリン脂質は、通常公知のもので制限はない。ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、カルジオリピン、スフィンゴミエリン等のリン脂質である。卵黄、大豆その他の動植物材料に由来するリン脂質、それらの水素添加物、水酸化物の誘導体といった半合成のリン脂質、または合成加工品等、限定されることなく用いられる。リン脂質の構成脂肪酸も特に限定されることはなく、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のどちらでもよい。
【0045】
具体的な中性リン脂質の例として、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルエノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
【0046】
これらのリン脂質は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0047】
本発明のコレステロール誘導体は、上述の脂質二重膜を構成する成分となるが、その使用量としてはリン脂質1質量部に対して0.05〜1.5質量部、好ましくは0.2〜1質量部、より好ましくは0.3〜0.8質量部の割合が望ましい。
【0048】
本発明に係る非イオン性ヨード化合物は、上述のリポソームに内包される成分であるが、水溶性であることが好ましく、具体的にはヨウ化フェニル基、例えば2,4,6−トリヨードフェニル基を少なくとも1個有する非イオン性ヨード化合物が好適である。好ましい非イオン性ヨード化合物として具体的には、イオヘキソール、イオペントール、イオジキサノール、イオプロミド、イオトロラン、イオメプロール、N,N′−ビス〔2−ヒドロキシ−1−(ヒドロキシメチル)−エチル〕−5−〔(2−ヒドロキシ−1−オキソプピル)−アミノ〕−2,4,6−トリヨード−1,3−ベンゼン−ジカルボキシアミド(イオパミドール);メトリザミド等が挙げられる。
【0049】
非イオン性ヨード化合物は、これらの例示に限定されるものではない。また、非イオン性ヨード化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本明細書において、化合物は遊離形態の他に、その塩、水和物等も含めて言及することがある。特に好適なヨード系化合物として、高度に親水性であり、かつ高濃度でも浸透圧が高くならないイオメプロール、イオパミドール、イオトロラン、イオジキサノール等が挙げられる。イオトラン、イオジキサノールといった二量体非イオン性ヨード化合物では、ヨウ素担持効率が高く、同一ヨード濃度の造影剤を調製しても全体のモル数が低いために浸透圧を低下させる利点がある。
【0050】
本発明に係る非イオン性ヨード化合物の濃度は、該化合物の性質、意図する製剤の投与経路及び臨床上の指標といった要因に基づき任意に設定することができる。リポソーム内に封入されたヨード化合物の量は、典型的には添加された全ヨード化合物の5〜40質量%、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜25質量%である。非イオン性ヨード化合物の濃度をこの値の範囲にするには、非イオン性ヨード化合物を含有する造影剤溶液(例えば、日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)の添加量を調整する。
【0051】
この内包率はリポソーム粒子の細密充填の限界を下回るために、リポソームにおける造影物質の保持安定性は損なわれない。本発明のリポソームの構成成分は、上記に限定されず、他の成分を加えることができる。その例としては、FEBS Lett.223,42(1987);Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85,6949(1988)等に記載のモノシアルガングリオキシドGM1誘導体、Chem.Lett.2145(1989);Biochim.Biophys.Acta 1148,77(1992)等に記載のグルクロン酸誘導体、Biochim.Biophys.Acta 1029,91(1990);FEBS Lett.268,235(1990)等に記載のポリエチレングリコール誘導体が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0052】
《リポソームの形成方法》
本発明のリポソームは、当業者が利用可能ないかなる方法で形成してもよい。形成法の例としては、Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,9,467(1980)、“Liposomes”(M.J.Ostro編、MARCELL DEKKER、INC.)等に記載されている。具体例としては、超音波処理法、エタノール注入法、フレンチプレス法、エーテル注入法、コール酸法、カルシウム融合法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、これに限られるものではない。リポソームの構造は特に限定されず、ユニラメラまたはマルチラメラ等のいずれの形態でもよい。また、リポソームの内部に適宜の化合物の1種または2種以上を配合することも可能である。
【0053】
形成方法の一例を以下に示す。リン脂質、安定化剤、酸化防止剤等の構成成分を、フラスコ内のクロロホルム等の有機溶媒中で混合し、有機溶媒を留去した後、真空乾燥することによりフラスコ内壁に薄膜を形成させる。次に、前記フラスコ内に非イオン性ヨード化合物の水溶液を加え、激しく攪拌することにより、リポソーム分散液を得る。得られたリポソーム分散液を遠心分離し、上澄みをデカンテーションして封入されなかった化合物等を除去する。必要に応じ、さらに、親水性高分子の脂質誘導体の溶液を加えて加温することにより、本発明のリポソームが得られる。
【0054】
なお、親水性高分子の脂質誘導体の溶液を構成成分の混合時に加えることによっても、本発明のリポソームが得られる。
【0055】
また、別の方法として、上記の構成成分を混合し、高圧吐出型乳化機により高圧吐出させることにより、本発明のリポソームを得ることもできる。
【0056】
上述のリポソームの形成品は、必ず有機溶媒を含んでいる。残留する有機溶媒、特にクロル系有機溶媒は完全に除去することが困難であり、生体に及ぼす悪影響が懸念される。本発明に使用するリポソームを形成するには、上記の問題点を回避できる方法として、超臨界もしくは亜臨界の二酸化炭素を使用するリポソーム形成法を利用することが好ましい。二酸化炭素の臨界温度が31.1℃、臨界圧力が75.3kgf/cm2(7.38MPa)と比較的扱いやすく、大気圧下で不活性なガスゆえ残存しても人体に無害であり、高純度流体が安価で容易に入手できる等といった理由により好適である。本発明で使用する超臨界状態(亜臨界状態を含む)の二酸化炭素の好適な圧力は、80〜500kgf/cm2(7.8〜49MPa)、好ましくは90〜400kgf/cm2(8.8〜39MPa)、より好ましくは100〜200kgf/cm2(9.8〜20MPa)である。また好適な臨界状態の二酸化炭素ガスの温度としては、32〜200℃、好ましくは35〜100℃、さらに好ましくは40〜80℃である。これらの範囲内で、温度及び圧力を適宜選択して組み合わせることにより、超臨界状態(亜臨界状態を含む)とするのがよい。
【0057】
超臨界二酸化炭素使用するリポソームの調製方法は、具体的に以下のようにして行われる。圧力容器に液体二酸化炭素を加え、上記の好適な圧力及び温度のもとにある超臨界状態もしくは亜臨界状態にする。超臨界(もしくは亜臨界)状態の二酸化炭素に本発明のリポソーム膜構成物質を溶解するか、あるいは予めこれらの化合物を加えた圧力容器に液体二酸化炭素を加え、次いで温度、圧力を調整して超臨界状態にして溶解してもよい。
【0058】
その際、溶解助剤を添加すると、膜脂質成分の超臨界二酸化炭素への溶解が短時間で充分に行われるため、形成されるリポソームにおける一枚膜リポソームの比率が高くなる。溶解助剤として、低級アルコール、グリコール、グリコールエーテル等を1種または2種以上併用することが望ましい。例えば、アルコール類を超臨界二酸化炭素の0.1〜10質量%、好ましくは、1〜8質量%の割合で助溶媒として使用するのがよい。より好ましい解助剤としては、安全性の観点からエタノールである。
【0059】
引き続き生成した脂質混合物に、本発明に係る非イオン性ヨード化合物、必要に応じて公知の製剤助剤を含む水溶液を連続的に添加して、水相/二酸化炭素エマルジョンを形成する。系内を減圧して二酸化炭素を排出すると、本発明に係る非イオン性ヨード化合物を内包するリポソームが分散している水性分散液が生成する。
【0060】
上記ヨード化合物のリポソーム内への内包化の割合は、リポソーム用脂質の総量とヨード化合物(必要に応じてさらに製剤助剤)を含む水溶液との比率によっても左右される。リポソームの円滑な形成、ならびにその脂質膜内へのヨード化合物の効率的な内包化には、使用する脂質総量と内包物質を含有する水溶液との比率もまた調整する必要がある。この脂質総量とは、リポソーム膜を構成するリン脂質類、前記一般式(1)で表されるコレステロール誘導体、その他ステロール類、及びその他の添加した脂質類全てを対象とした総和の質量である。上記水溶液1リットルに対して、脂質総量が5〜150mmolesの範囲、好ましくは30〜120mmolesの範囲、より好ましくは50〜100mmolesの範囲の割合で、リポソーム膜構成物質を含む溶媒を混合する。そうした場合、本発明に係る非イオン性ヨード化合物のリポソーム内への内包化は良好に進行し、結果的にそのヨード化合物の保持効率も向上する。
【0061】
次に、リポソーム粒子のサイズ及びその分布について詳述する。「中心粒径」とは、粒子分布で最も出現頻度の高い粒子径を指している。なお、粒子径または粒径は、粒子の直径を意味する。粒径の調整は、処方またはプロセス条件で行うことができる。例えば、上記の超臨界の圧力を大きくすると、形成されるリポソーム粒径は小さくなる。リポソームの粒子径の分布をより狭い範囲に揃えるには、作製されるリポソームの懸濁液を一定サイズの孔径を有する濾過膜、好ましくはポリカーボネート膜等に強制的に透過させてもよい。この場合、濾過膜として0.05〜0.4μm、好ましくは0.1〜0.4μm、さらに好ましくは0.15〜0.2μmの孔径のフィルターを装着した静圧式押出し装置に通すことにより、リポソーム多重層膜の脂質膜枚数を減らすとともに、中心粒径として100〜300nmの最適寸法を有する均一なリポソームを効率よく調製することができる。具体的には、各種の静圧式押出し装置、例えば「エクストルーダー」(商品名、日油リポソーム製)等を使用して、フィルターを強制的に透過させる。フィルターは、ポリカーボネート系、セルロース系等のタイプを適宜使用することができる。このような「押出し」操作工程を取り入れることにより、上記サイジングに加えて、リポソーム分散液の交換、濾過滅菌も併せて可能になるという利点もある。引き続きリポソーム分散液を、遠心分離、ゲル濾過等の方法により未保持の薬剤を除去して精製したり、濃縮、希釈、凍結乾燥等の操作を任意に行ってもよい。本発明の造影剤リポソームの中心粒径は、通常50〜300nm、好ましくは50〜200nm、より好ましくは50〜130nmである。
【0062】
《X線用造影剤》
次に、本発明のリポソーム含有する造影剤について詳述する。
【0063】
注射のために製剤化された本発明の造影剤は、迅速で簡便な注射を可能にするよう適度な粘度のみを有するべきである。粘度は、10.20×10-4kgf・s/m2(10mPa・s、10cP)未満、または好ましくは5.10×10-4kgf・s/m2(5mPa・s、5cP)未満、またはより好ましくは2.04×10-4kgf・s/m2(2mPa・s、2cP)未満である。また、注射のために製剤化された本発明の造影剤は過度の浸透圧を有するべきではない。なぜなら、これは毒性を増加させ得るからである。浸透圧は、3000ミリオスモル/kg未満、または好ましくは2500ミリオスモル/kg未満、または最も好ましくは900ミリオスモル/kg未満である。
【0064】
本発明の造影剤は、無機または有機の酸及び塩基から誘導される塩を含有することができる。塩の具体例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモエート、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、ウンデカン酸塩、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム、マグネシウム及び亜鉛塩)、有機塩基を有する塩(例えば、ジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミン)、及びアミノ酸(例えば、アルギニン、リジン)を有する塩等を包含する。また、塩基性窒素含有基は、低級アルキルハライド(例えば、メチル、エチル、プロピル及びブチルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、ジアルキル硫酸(例えば、ジメチル、ジエチル、ジブチル及びジアミル硫酸)、長鎖ハライド(例えば、デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルクロライド、ブロマイド及びヨージド)、アラルキルハライド(例えば、ベンジル及びフェネチルブロマイド)ならびにその他のような薬剤で4級化され得る。それによって、水溶性または油溶性あるいは水分散性または油分散性の生成物が得られる。本発明の好ましい塩は、N−メチル−D−グルカミン、カルシウム及びナトリウム塩である。
【0065】
本発明の造影剤は、任意のキャリア、アジュバントもしくはビヒクルを含有することができる。本発明の造影剤に使用され得るキャリア、アジュバント及びビヒクルは、イオン交換物質、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(例えば、ヒト血清アルブミン)、緩衝性物質(例えば、ホスフェート)、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩または電解質(例えば、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロースベースの物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及びラノリンを包含するが、これらに限定されない。
【0066】
本発明の造影剤は、注射可能な無菌の調合薬の形態(例えば、注射可能な無菌の水性または油性の懸濁液)であり得る。この懸濁液は、当該分野で公知の技術に従い、適切な分散剤または湿潤剤及び懸濁剤を用いて製剤され得る。注射可能な無菌の調合薬はまた、無毒性の非経口で受容可能な希釈剤または溶媒中における、無菌の注射可能な溶液または懸濁液(例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として)であってもよい。用いられ得る受容可能なビヒクル及び溶媒は、水、リンガー溶液及び等張食塩水である。さらに、従来では、無菌の不揮発油が溶媒または懸濁媒体として使用される。この目的のために、合成のモノ−またはジ−グリセリドを含む任意の刺激のない不揮発油が使用され得る。脂肪酸(例えば、オレイン酸及びそのグリセリド誘導体)は、天然の薬学的に受容可能なオイル(例えば、オリーブオイルまたはヒマシ油)と同様に、注射可能物の調製、特にこれらのポリオキシエチル化した変形物において有用である。これらのオイル溶液または懸濁液はまた、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤(例えば、Ph.Helvまたは類似のアルコール)を含み得る。
【0067】
本発明の造影剤は、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与、直腸投与、鼻腔投与、頬投与、膣投与または従来の無毒性の薬学的に受容可能なキャリア、アジュバント及びビヒクルを含有する投薬製剤中に埋め込まれたリザーバを介して投与され得る。本明細書に使用されるように用語「非経口」は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、くも膜下、肝臓内、病変内及び頭蓋内注射または点滴技術を含む。
【0068】
経口投与される場合、本発明の薬学的組成物は任意の経口的に受容可能な投薬形態(カプセル、錠剤、水性の懸濁液または溶液が挙げられるがこれらに限定されない)で投与され得る。錠剤を経口使用する場合、一般的に使用されるキャリアには、ラクトース及びコーンスターチが挙げられる。代表的には、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤もまた添加される。カプセル形態の経口投与に対して、有用な希釈剤としては、ラクトース及び乾燥コーンスターチが挙げられる。経口使用に水性懸濁液を必要とする場合、活性成分は乳化剤及び懸濁剤と配合される。所望の場合、特定の甘味料、香味料または着色料もまた添加してもよい。あるいは、直腸投与のために座薬形態で投与される場合には、本発明の造影剤は、室温で固体であるが直腸温で液体である適切な非刺激性の賦形剤とを混合して調製され得、その結果直腸内で溶け薬剤を放出する。このような物質として、ココアバター、ビーズワックス及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0069】
また、前述のように、特に、処置標的が局所施用によって容易に接近可能な領域または器官(目、皮膚または下部腸道(lower intestinal tract)を含む)を含む場合に、本発明の造影剤は局所投与され得る。適切な局所製剤は、これらの各領域または器官用に容易に調製される。
【0070】
下部腸道に対する局所施用は、直腸用座薬製剤または適切な浣腸製剤でなされ得る。局所−経皮性パッチもまた使用してよい。局所施用に対して、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解される活性成分を含有する、適切な軟膏に製剤され得る。本発明の造影剤の局所投与のためのキャリアは、鉱油、液体ペトロラタム、白色ペトロラタム、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水を包含するが、それらに限定されない。あるいは、本発明の造影剤は、1つ以上のキャリア中に懸濁または溶解された活性成分を含有する、適切なローションまたはクリームに製剤されてもよい。適切なキャリアは、鉱油、ソルビタンモノステアレート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリールアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水を包含するが、それらに限定されない。
【0071】
眼使用に対して、本発明の造影剤は防腐剤(例えば、ベンジルアルコニウムクロライド)を含有してもしなくてもよい。pH調節された等張の無菌生理食塩水中に微小化された懸濁液として、または好ましくはpH調節された等張の無菌生理食塩水中の溶液として製剤され得る。あるいは、眼使用に対して本発明の造影剤は、ペトロラタムのような軟膏に製剤され得る。
【0072】
鼻腔エーロゾルまたは吸入による投与に対して、本発明の造影剤は、製薬的製剤の分野で周知の技術に従って調製され、そしてベンジルアルコールもしくは他の適切な防腐剤、生体利用性を増大させる吸収促進剤、フルオロカーボン、及び/または他の従来の可溶化剤もしくは分散剤を使用し、生理食塩水中の溶液として調製され得る。
【0073】
投薬は、診断用画像化機器の感度、ならびに造影剤の組成に依存する。例えば、MRI画像化に対して、本発明のコレステロール誘導体を含有する造影剤は、一般的に、より低い磁気モーメントを有する常磁性物質、例えば、鉄(III))を含有する造影剤より、より低い投薬を必要とする。好ましくは、投薬は、1日当たり約0.001〜1mmol/kg体重の活性金属−リガンド錯体の範囲である。より好ましくは、投薬は、1日当たり約0.005〜0.05mmol/kg体重の範囲である。
【0074】
しかし、任意の特定の患者に対する特定の投薬処方もまた、種々の因子(年齢、体重、健康状態、性別、治療食、投与時間、排泄速度、薬物の組み合わせ及び処置する内科医の判断を含む)に依存することが理解されるべきである。
【0075】
本発明では造影剤の適切な投薬の投与に続いて、X線画像化が行われる。本発明のX線画像化は従来公知の方法による脳血管撮影、選択的血管撮影、四肢血管撮影、ディジタルX線撮影法による静脈性血管撮影、コンピューター断層撮影における造影、静脈性尿路撮影等による画像化であることが好ましい。本発明の造影剤は全身血管、及び肝臓、特に膵臓の造影に優れているので、選択的血管撮影、コンピューター断層撮影における腹部造影が最適な撮像方法である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、特に断りがない限り、実施例中の「%」は「質量%」を表す。
【0077】
(合成例)
下記スキーム(反応式1)により、例示化合物1,2Manb−O−cholを合成した。
【0078】
【化22】

【0079】
アセチル−トリクロロアセトイミドイル−1,2−マンノビオース(1)13g(17mmol)及び、中間体(2)8.6g(17mmol)をメチレンクロリド200mlに溶解し、十分に減圧乾燥したモレキュラーシーブス4Aを10g加え、一時間攪拌した。その後内温を−20℃に冷却し、トリメチルシリルトリフラート(TMSOTf)0.02ml(0.2mmol)をメチレンクロリド3mlに希釈した溶液を、内温を維持しながら30分かけて滴下した。滴下終了後、30分同温度で攪拌した後、室温に戻した。反応液を飽和重曹水及び純水で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤をろ別後、溶媒を減圧で濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロメトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル:ノルマルヘキサン=1:1)にて精製し、中間体(3)を17g(収率90%)得た。次に中間体(3)10g(9mmol)をジオキサン50ml及びメタノール100mlの混合溶媒に溶解し、1Mのソジュウムメトキサイド溶液1.7ml(1.7mmol)を加え2時間攪拌した。その後、陽イオン交換樹脂Dowex50Wを3g加えて、中和し、樹脂をろ別後、溶媒を減圧で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクリマトグラフィー(展開溶媒:メチレンクロリド:エタノール:8:1)にて精製し、目的物1,2Manb−O−cholを9.1g(収率85%)得た。トータル収率77%。元素分析により目的物であることを確認した。
【0080】
元素分析値
(計算値%):C、62.76;H、8.98;O、26.60
(実測値%):C、62.66;H、8.88;O、26.65
以下、本発明の化合物を同上の方法により合成した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
実施例1
〔リポソームを含有する造影剤の形成方法A〕
ジパルミトイルホスファチジルコリン(50nmol)(日本油脂株式会社製、COATSOME MC−6060)、表1に記載の本発明のコレステロール誘導体及び比較のコレステロール誘導体(10nmol)及びPEG−リン脂質(10nmol)(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT DSPE−020CN)をJ.Med.Chem.,25(12),1500(1982)記載の方法により、ナス型フラスコ内でクロロホルムに溶解して均一溶液とした後、溶媒を減圧で留去してフラスコ底面に薄膜を形成した。この薄膜を真空で乾燥後、非イオン性ヨード化合物を含有する造影剤溶液(日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)5mlを注入した。次に超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を氷冷下で5分実施することにより、非イオン性ヨード化合を含有するリポソームの分散液を得た。
【0083】
得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmで加圧濾過した。得られた試料をスペクトラプロ社製、バイオテックRC透析チューブに封入し、多量の生理食塩水(9.0×10-1%、1000g)中に浸して透析を行い、リポソーム内に取り込めなかった非イオン性ヨード化合物等を除去した。
【0084】
得られたリポソーム含有造影剤を表2に示す。
【0085】
【化23】

【0086】
【化24】

【0087】
〔リポソームを含有する造影剤の形成方法B〕
ジパルミトイルホスファチジルコリン(50nmol)(日本油脂株式会社製、COATSOME MC−6060)、表1に記載の本発明のコレステロール誘導体及び比較のコレステロール誘導体(10nmol)及びPEG−リン脂質(10nmol)(日本油脂株式会社製、SUNBRIGHT DSPE−020CN)の混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を60℃に加熱し、次いで液体二酸化炭素13gを加えた。撹拌を行いながら、50kgf/cm2(4.9MPa)であったオートクレーブ内の圧力を、オートクレーブ内の体積を減ずることにより、120kgf/cm2(12MPa)にまで上げて、二酸化炭素を超臨界状態にし、撹拌しながら脂質類を分散・溶解させた。さらに撹拌しながら、造影剤溶液(日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)5mlを定量ポンプで連続的に50分間かけて注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、非イオン性ヨード化合物を含有するリポソームの分散液を得た。
【0088】
得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmで加圧濾過した。得られた試料をスペクトラプロ社製、バイオテックRC透析チューブに封入し、多量の生理食塩水(9.0×10-1%、1000g)中に浸して透析を行い、リポソーム内に取り込めなかった非イオン性ヨード化合物等を除去した。
【0089】
得られたリポソーム含有造影剤を表2に示す。
【0090】
〔比較のリポソームを含有する造影剤の形成方法(国際公開第05/011632号パンフレット実施例29〜32参照)〕
リポソームはコール酸透析法を用いて調製した。すなわち、ジパルミトイルフォスファチジルコリン、コレステロール、ジセチルフォスフェート、ガングリオシド及びジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンをモル比で、それぞれ35:40:5:15:5の割合で合計脂質量45.6mgになるように混合し、コール酸ナトリウム46.9mg添加し、クロロホルム/メタノール溶液3mlに溶解した。この溶液を蒸発させ、沈殿物を真空中で乾燥させることによって脂質膜を得た。この薄膜を真空で乾燥後、非イオン性ヨード化合物を含有する造影剤溶液(日局イオパミドール溶液306.2mg/ml(ヨード含有量150mg/ml)、トロメタモールを1mg/ml、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTANa2−Ca)0.1mg/mlを含有し、適量の塩酸及び水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)5mlを注入した。
【0091】
次に、超音波照射(Branson社製、No.3542プローブ型発振器、0.1mW)を氷冷下で5分実施することにより、非イオン性ヨード化合を含有するリポソームの分散液を得た。
【0092】
得られた分散液を60℃まで加熱し、アドバンテック社製のセルロース系フィルター、1.0μmで加圧濾過した。得られた試料をスペクトラプロ社製、バイオテックRC透析チューブに封入し、多量の生理食塩水(9.0×10-1%、1000g)中に浸して透析を行い、リポソーム内に取り込めなかった非イオン性ヨード化合物等を除去した。このリポソーム溶液10mlをXM300膜(Amicon Co.,USA)とCBS緩衝液(pH8.5)を用いた限外濾過にかけ、溶液のpHを8.5にした。
【0093】
次に、架橋試薬bis(sulfosuccinimidyl)suberate(BS3;Pierce Co.,USA)10mlを加え、25℃で2時間攪拌した。その後、さらに7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミンとBS3との化学結合反応を完結した。そして、このリポソーム液をXM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過にかけた。次に、CBS緩衝液(pH8.5)1mlに溶かしたtris(hydroxymethyl)aminomethane 40mgをリポソーム液10mlに加えて、25℃で2時間攪拌後、7℃で一晩攪拌してリポソーム膜上の脂質に結合したBS3とtris(hydroxymethyl)aminomethaneとの化学結合反応を完結した。これにより、抗癌剤ドキソルビシン封入リポソーム膜の脂質ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン上にtris(hydroxymethyl)aminomethaneの水酸基が配位して水和親水性化された。
【0094】
さらに。既報の手法(Yamazaki,N.,Kodama,M.and Gabius,H.−J.(1994)Methods Enzymol.242,56−65)により、カップリング反応法を用いて行った。すなわち、この反応は2段階化学反応で行い、まずはじめに、リポソーム膜面上に存在するガングリオシドを1mlのTAPS緩衝液(pH8.4)に溶かしたメタ過ヨウ素酸ナトリウム43mgを加えて室温で2時間攪拌して過ヨウ素酸酸化した後、XM300膜とPBS緩衝液(pH8.0)で限外濾過することにより酸化されたリポソーム10mlを得た。このリポソーム液に、20mgのヒト血清アルブミン(HSA)を加えて25℃で2時間攪拌し、次にPBS(pH8.0)に2M NaBH3CN 100μlを加えて10℃で一晩攪拌してリポソーム上のガングリオシドとHSAとのカップリング反応でHSAを結合した。そして、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過をした後、HSA結合非イオン性ヨード造影剤封入リポソーム液10mlを得た。
【0095】
さらに、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖(Calbiochem Co.,USA)50μgを0.25gのNH4HCO3を溶かした0.5ml水溶液に加え、37℃で3日間攪拌した後、0.45μmのフィルターで濾過して糖鎖の還元末端のアミノ化反応を完結してアルファ1,6マンノビオース二糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを得た。
【0096】
次に、HSA結合非イオン性ヨード造影剤封入リポソームの一部分1mlに架橋試薬3,3′−dithiobis(sulfosuccinimidyl)propionate(DTSSP;Pierce Co.,USA)1mgを加えて25℃で2時間、続いて7℃で一晩攪拌し、XM300膜とCBS緩衝液(pH8.5)で限外濾過してDTSSPがリポソーム上のHSAに結合したリポソーム1mlを得た。
【0097】
次に、このリポソーム液に上記のアルファ1,6マンノビオース二糖鎖のグリコシルアミン化合物50μgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにアルファ1,6マンノビオース二糖鎖の結合を行った。
【0098】
次に、このリポソーム液にtris(hydroxymethyl)aminomethane(Wako Co.,Japan)13mgを加えて、25℃で2時間攪拌し、その後7℃で一晩攪拌し、XM300膜とPBS緩衝液(pH7.2)で限外濾過してリポソーム膜面結合ヒト血清アルブミン上のDTSSPにtris(hydroxymethyl)aminomethaneの結合を行った。その結果、アルファ1,6マンノビオース二糖鎖とヒト血清アルブミンとリポソームとが結合したリンカー蛋白質(HSA)の親水性化処理をした非イオン性ヨード造影剤封入リポソーム(略称:IH−A6)2ml(総脂質量2mg、総蛋白量200μg)が得られた。
【0099】
得られたリポソーム含有造影剤を表2に示す。
【0100】
〔試験1〕
リポソームの粒径の測定
表1の試料(リポソーム分散液)をWBCアナライザー(日本光電社製、A−1042)にてリポソームの平均粒径を求めた。平均粒径が100〜400nmのものが好ましく、600nm以上のものは凝集が起こっており好ましくない。
【0101】
〔試験2〕
ヨード化合物の内包率の測定
表1の試料(リポソーム分散液)を等張の食塩水で透析し、透析終了後にエタノールを添加してリポソームを破壊し、吸光度の測定によりリポソーム内のヨード化合物量を求めた。試料中の全ヨード化合物量に対する比率を内包率(%)として表す。
【0102】
試験1、2の結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
表2から分かるように、本発明のコレステロール誘導体を含有するリポソームは形成方法A及びBのいずれにおいても良好な平均粒径を示したが、比較のコレステロール誘導体は、特に形成方法Bで全て凝集が起こり粒径600nmを超えており、好ましくないことが分かる。また、本発明のコレステロール誘導体を用いたリポソームは良好な内包率を示すが、比較のコレステロール誘導体を用いたリポソームの内包率は明らかに低く、特に形成方法Bでは特に低く、好ましくないことが分かった。これは比較のコレステロール誘導体がカチオン性であり超臨界二酸化炭素に対する溶解度の低さに起因していると考えられる。
【0105】
実施例2
実施例1で作製したリポソーム含有造影剤(形成方法A及びB)及び生理食塩水を用い、体重30gのマウス一匹当たり3ml注入でヨウ素量が2500mgI/kgの投与量となる造影剤を調製した。
【0106】
〔試験3〕
急性毒性試験
この造影剤をddyマウスの尾静脈より投与することにより、投与後24時間以内に死亡したマウスの数をカウントした。検体数を20として得られた結果を表3に示す。
【0107】
【表3】

【0108】
表3に示すように、本発明の造影剤は生体に対する毒性が低いことが分かる。
【0109】
実施例3
実施例1で作製したリポソーム含有造影剤(形成方法A)及び生理食塩水を用い、体重30gのマウス一匹当たり0.3ml注入でヨウ素量が250mgI/kgの投与量となる造影剤を調製した。
【0110】
〔試験3〕
組織内分布の評価
この造影剤をddyマウスの尾静脈より投与することにより組織内分布を評価した。投入後、5分、30分、2時間、24時間の肝臓、膵臓及び血液内のヨウ素の濃度を、誘導結合プラズマ発光分析装置(Urtima−2、Jyobin Yvon社製)にて測定した。検体数を20として得られた結果の平均値を表4、5に示す。なお、投与後24時間以内に死亡したり、重篤な障害が生じる検体はなかった。
【0111】
【表4】

【0112】
【表5】

【0113】
表4、5より、本発明の造影剤は、比較の造影剤に対して、全身血管及び肝臓の造影に優れ、かつ膵臓の造影にも優れ、さらに24時間以内に体外に大部分が排泄される安全性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするコレステロール誘導体。
【化1】

(式中、Gは、糖のアノマー位でエーテル結合を形成した一価の残基を介して結合した糖を表し、
【化2】

は糖のアノマー位の立体構造が、α体及び/またはβ体であることを表し、Jは二価のアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基を表す。糖はアルファ1,2マンノビオース二糖、アルファ1,3マンノビオース二糖、アルファ1,4マンノビオース二糖、アルファ1,6マンノビオース二糖、アルファ1,3アルファ1,6マンノトリオース三糖、オリゴマンノース3五糖、オリゴマンノース4b六糖、オリゴマンノース5七糖、オリゴマンノース6八糖、オリゴマンノース7九糖、オリゴマンノース8十糖鎖、オリゴマンノース9十一糖、3′−シアリルラクトース三糖鎖、6′−シアリルラクトース三糖、3′−シアリルラクトサミン三糖鎖、6′−シアリルラクトサミン三糖、ルイスX型三糖、シアリルルイスX型四糖、2′−フコシルラクトース三糖、ジフコシルラクトース四糖及び3−フコシルラクトース三糖のいずれかひとつの糖を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載のコレステロール誘導体の少なくとも1種、非イオン性ヨード化合物及びリン脂質を含有することを特徴とするリポソーム。
【請求項3】
請求項2に記載のリポソームを含有することを特徴とするX線用造影剤。

【公開番号】特開2009−96749(P2009−96749A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268820(P2007−268820)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】