説明

コンクリートの養生方法

【課題】簡易な方法でコンクリートのひび割れの可能性を低減することができるコンクリートの養生方法を提供する。
【解決手段】型枠3内に打設されたコンクリートを養生するコンクリートの養生方法は、打設されたコンクリート体1の上面1aに形成された有底の冷却孔5内に冷却水を供給し冷却孔5内からコンクリート体1を冷却する冷却孔給水工程と、コンクリート体1に型枠3が取り付けられている状態において、冷却孔5内で温度上昇した冷却水を、型枠3の外側の面に設けられた養生マット9に移動させる冷却水移動工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、型枠内に打設されたコンクリートを養生するコンクリートの養生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、打設後のコンクリートには水和発熱が発生し、コンクリート体の表面近傍と表面から遠い内部との間で温度差が発生し、温度応力によるひび割れ等が発生するおそれがある。この対策として、コンクリートを冷却する下記特許文献1の養生方法が知られている。この養生方法では、コンクリート体の中央部に鉛直なスパイラル管を配設してコンクリートを打設した後、スパイラル管内に給水管を挿入して給水を行うことにより、コンクリート体を冷却するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−303159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、諸条件によりコンクリート体の表面近傍が冷えやすい場合などは、上記の養生方法では、コンクリート体の内部と表面近傍との温度差を十分に低減することができない場合もある。そうすると、上記温度差に起因するひび割れの低減効果が十分に得られないおそれもある。これに対して、コンクリート体の内部の冷却能力を向上することも考えられるが、必要な給水量が多くなったり、設備の複雑化の原因になったりする。この種のコンクリート体の養生においては、簡易な手法でひび割れをより確実に抑制することが望まれる。
【0005】
本発明は、簡易な方法でコンクリートのひび割れの可能性を低減することができるコンクリートの養生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のコンクリートの養生方法は、型枠内に打設されたコンクリートを養生するコンクリートの養生方法であって、型枠内に打設されたコンクリート体の上面に有底の冷却孔を形成する冷却孔形成工程と、冷却孔形成工程で形成された冷却孔内に冷却水を供給する冷却孔給水工程と、冷却孔給水工程で供給され冷却孔内で温度上昇した冷却水を、コンクリート体に取り付けられている型枠の外側の面に設けられた吸水部材に移動させる冷却水移動工程と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この養生方法では、コンクリート体の上面に形成された冷却孔に冷却水が供給されることにより、コンクリート体の内部が冷却される。またこのとき、冷却水は、コンクリート体から熱を奪って温度上昇する。次に、この温度上昇した冷却水が、型枠の外側の面に設けられた吸水部材に移動され、吸水部材に吸収される。そして、吸水部材に吸収された冷却水は、型枠を介してコンクリート体の表面近傍との熱交換を行う。ここで、吸水部材に吸収された冷却水は、冷却孔内に供給された冷却水よりも高温である。よって、元来放熱が困難なコンクリート体の内部が比較的低温の冷却水で冷却されるのに対し、元来放熱が容易な表面近傍は比較的高温の冷却水と熱交換を行うことになる。よって、養生中におけるコンクリート体の内部と表面近傍との温度差が低減され、温度応力に起因するコンクリート体のひび割れの可能性が低減する。
【0008】
また、型枠の外側の面に吸水部材を設けた構成により、型枠の外側の面上に存在する冷却水が多くなる。よって、上述の温度差を低減する効果が高く、ひび割れの抑制を確実に図ることができる。また、冷却孔給水工程で温度上昇した冷却水を有効利用して吸水部材に供給する構成であるので、冷却水を加温するためのヒーター等を別途設けるなど設備が複雑化することも避けられ、簡易な方法によるひび割れの抑制が図られる。
【0009】
また、冷却水移動工程では、冷却孔の底部に冷却水を追加供給し、冷却孔内の既存の冷却水を型枠外に溢れさせることにより、既存の冷却水を吸水部材に移動させることとしてもよい。この構成によれば、温度上昇後の既存の冷却水を簡易な方法で吸水部材に移動させることができる。
【0010】
また、冷却水の追加供給は、冷却孔内の水温と、コンクリート体の表面近傍の温度と、の差が所定の温度差以下になったときに開始され、冷却孔内の水温が所定値まで低下したときに終了されることとしてもよい。
【0011】
この構成によれば、冷却水の追加供給が終了した後、冷却水は、冷却孔内に留まって温度上昇する。その後、冷却水の水温がコンクリート体の表面近傍の温度に近づいたときに、冷却水の追加供給が再開される。従って、冷却水移動工程では、コンクリート体の表面近傍の温度に近い冷却水が吸水部材に供給される。その結果、コンクリート体の表面近傍は緩やかに冷却され、コンクリート体の内部と表面近傍との温度差を低減させる効果が高い。
【0012】
また、吸水部材は、型枠のうちコンクリート体の側面を覆う側面型枠板の外側の面全体に亘って設けられていることとしてもよい。この構成によれば、コンクリート体の内部と側面近傍との温度差が低減され、ひび割れの可能性が低減する。また、側面型枠板の面全体に亘って吸水部材が設けられるので、コンクリート体の側面全体の温度が均等になり易く、ひび割れ抑制効果が高い。
【0013】
また、吸水部材は、型枠のうちコンクリート体の下面を覆う下面型枠板の下側の面全体に亘って更に設けられていることとしてもよい。この構成によれば、コンクリート体の内部と下面近傍との温度差も低減され、ひび割れの可能性が更に低減する。また、下面型枠板の面全体に亘って吸水部材が設けられるので、コンクリート体の下面全体の温度が均等になり易く、ひび割れ抑制効果が高い。
【0014】
また上記の型枠が、木製型枠であることとしてもよい。この場合、木製型枠の外側の面は比較的乾燥し易いことから、本来は、気化熱によってコンクリート体の表面の温度も低下し易い傾向にある。これに対し、型枠の外側の面に設けられた吸水部材が水分を含む構成によって、木製型枠の外側の面を湿潤状態にすることができる。よって、気化熱によるコンクリート体の表面の温度低下が抑えられ、養生中におけるコンクリート体の内部と表面近傍との温度差が確実に低減される。
【0015】
また、木製型枠は水分を比較的通過させ易いことから、本来は、コンクリート体の表面近傍の水分が木製型枠を通過して外部に逸散し易く、コンクリート体の表面近傍が比較的乾燥し易い傾向にある。これに対し、型枠の外側の面に設けられた吸水部材が水分を含む構成によって、コンクリート体の表面近傍の水分の逸散が抑えられ、コンクリート体の表面の乾燥に起因するひび割れの可能性も低減する。
【0016】
また上記の型枠が、鋼製型枠であることとしてもよい。この場合、鋼製型枠は比較的熱伝導率が高いことから、本来は、コンクリート体の表面近傍が外気の影響を受け易く、コンクリート体の内部と表面近傍との温度差がより大きくなる傾向にある。よって、この場合、上記温度差を低減する必要性がより高く、冷却孔内で温度上昇された冷却水を吸水部材に移動させるといった前述の構成が好適に適用される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のコンクリートの養生方法によれば、簡易な方法でコンクリートのひび割れの可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の養生方法の第1実施形態におけるコンクリート体と型枠等を示す斜視図である。
【図2】図1のコンクリート体に冷却水を供給した状態を示す断面図である。
【図3】本発明の養生方法によるコンクリート体の供試体の温度変化を示すグラフである。
【図4】比較用の供試体の温度変化を示すグラフである。
【図5】本発明の養生方法の第2実施形態におけるコンクリート体と型枠等を示す斜視図である。
【図6】本発明の養生方法の第1実施形態において、木製型枠の代わりに鋼製型枠を使用した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るコンクリートの養生方法の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
〔第1実施形態〕
図1及び図2に示すコンクリート体1は、例えば鉄筋コンクリート構造物の一部をなし、いわゆる「マスコンクリート」と呼ばれる大断面の鉄筋コンクリート体である。コンクリート体1は、大断面であるゆえに、打設後の硬化時の内外の温度差が大きくなる傾向にあり、打設後に特に冷却を必要とするものである。
【0021】
コンクリート体1は、型枠3内に打設され直方体形状をなす。コンクリート体1の中央部には、打設後の冷却を行うための冷却孔5が形成される。冷却孔5は、コンクリート体1の中央部において上面1aから鉛直下方に延びている。冷却孔5は複数形成されてもよい。このコンクリート体1では、図2の紙面に直交する方向に3つの冷却孔5が配列されている。詳細は後述するが、冷却孔5内には、コンクリート体1を冷却するための冷却水が供給される。
【0022】
型枠3の上端は、コンクリート体1の上面1aよりも約10cm程度高い位置になるように設定されている。型枠3は、コンクリート体1の鉛直な4つの側面1sをそれぞれ覆う4つの側面型枠板3sと、コンクリート体1の水平な下面1tを覆う下面型枠板3tと、を有している。ここでは、型枠3は木製型枠であり、側面型枠板3s及び下面型枠板3tは合板で形成されている。また、側面型枠板3s及び下面型枠板3tの外側の面には桟木4が取り付けられている。
【0023】
側面型枠板3sの外側の面には、面全体に亘って養生マット(吸水部材)9が取り付けられている。養生マット9は、側面型枠板3sの外側の面に貼り付けられ、側面型枠板3sと桟木4との間に挟み込まれている。同様に下面型枠板3tの下側の面にも、面全体に亘って養生マット9が取り付けられている。養生マット9としては吸水性及び保湿性を有する布等が用いられる。なお、側面型枠板3sと桟木4との間に養生マット9が設けられる点以外は、公知の型枠支保工の構造を採用すればよいので、他の支保材の図示及び説明を省略する。
【0024】
型枠3の下方には、水受け容器13が設けられている。詳細は後述するが、水受け容器13は、型枠3から溢れ出た冷却水を一旦貯留する。水受け容器13に貯留された冷却水は、排水ポンプ15によって系外に排出される。なお、コンクリート体1の上面1aにも別途養生マットを被せてもよい。
【0025】
続いて、コンクリート体1の養生方法について説明する。
【0026】
(冷却孔形成工程)
コンクリート体1は、円筒形のスパイラルチューブを鉛直に埋め込んだ状態で打設される。そうすると、スパイラルチューブの中空部として、コンクリート体1の上面1aから鉛直下方に延びる有底の冷却孔5が形成される。なお、コンクリート体1から型枠3を取り外す前で、コンクリート体1がある程度硬化した時点で、スパイラルチューブを取り除いてもよい。そうすると、スパイラルチューブを取り除いた跡として冷却孔5が形成される。また、スパイラルチューブを用いる方法に限らず、例えば、コンクリート体1がある程度硬化した時点で上面1aを穿孔し冷却孔5を設けてもよい。
【0027】
(注水工程)
図2に示すように、コンクリート体1に型枠3が取り付けられたままの状態で、冷却孔5内に給水管11が挿入される。給水管11の先端は、冷却孔5の底面近傍まで到達する。次に、給水管11を通じて外部から冷却孔5の底部に冷却水が注入される。給水管11から注入される冷却水は、別途準備された冷却機等により予め所定温度(例えば20℃)に調整されている。冷却水は、冷却孔5内に充填されると共に、コンクリート体1の上面1aを覆うように型枠3の上端の高さまで溜められる。
【0028】
この状態でしばらく静置され、冷却孔5内の冷却水は、コンクリート体1の水和反応で発生する熱を奪いコンクリート体1の内部を冷却する。また、冷却孔5内の冷却水はコンクリート体1からの熱を受けて温度上昇する。そして、冷却孔5の底部における冷却水の水温T1と、コンクリート体1の表面近傍の温度T3と、の温度差が所定値以下(例えば5℃以下)になったときに、後述する追加注水工程が開始される。なお、上記の水温T1を検知するために、冷却孔5の底部に熱電対13が設置される。また、上記のコンクリート体1の表面近傍の温度T3を検知するために、コンクリート体1の側面1s上に熱電対15が設置される。
【0029】
当該注水工程は、冷却孔5内に冷却水を供給し冷却孔5内からコンクリート体1を冷却する「冷却孔給水工程」に該当する。
【0030】
(追加注水工程)
次に、追加注水工程では、給水管11からの所定温度(例えば20℃)の冷却水が冷却孔5の底部に追加注入される。新たな冷却水が追加注入されることにより、冷却孔5内で温度上昇した既存の冷却水が上方に押し出され、型枠3の上端から外側に溢れ出す。以下、給水管11から追加注入された冷却水を「低温冷却水」、冷却孔5から押し出される既存の冷却水を「高温冷却水」と区別して称する。熱電対13で検知される水温T1が所定温度(例えば20℃)に低下したときに、給水管11からの低温冷却水の追加注入を停止する。これにより冷却孔5内が低温冷却水で充填されて、冷却孔5近傍における冷却効率が回復する。この状態でしばらく静置され、冷却孔5内に充填された低温冷却水がコンクリート体1の水和反応熱を奪い、冷却孔5近傍からコンクリート体1の内部を冷却する。
【0031】
ここでは、給水管11が冷却孔5の底面近傍まで延びており低温冷却水が冷却孔5の底部に注入されるので、低温冷却水と高温冷却水との密度差により、高温冷却水が冷却孔5内を円滑に上方に移動する。また、高温冷却水を円滑に上方に移動させるために、給水管11の先端をJ字状に曲げるなどして、冷却水を上方に向けて噴出するようにしてもよい。
【0032】
その一方、型枠3の上端から溢れ出した高温冷却水は養生マット9に吸収され、側面型枠板3sの外側の面全体に広がる。養生マット9に吸収された高温冷却水は、側面型枠板3sを介してコンクリート体1の側面1sとの熱交換を行い、コンクリート体1を側面1sから冷却する。また、高温冷却水は、自重で養生マット9中を下方に移動し、下面型枠板3tを介してコンクリート体1を下面1tから冷却する。高温冷却水は、最終的には水受け容器13に貯留され排水ポンプ15で系外に排出される。
【0033】
そして、冷却孔5の底部における冷却水の水温T1と、コンクリート体1の表面近傍の温度T3と、の温度差が所定値以下(例えば5℃以下)になったときに、この追加注水工程が再び繰り返される。すなわち、冷却孔5の底部における冷却水の水温T1が、コンクリート体1の表面近傍の温度T3に近くなるごとに、追加注水工程は複数回繰り返して行われる。
【0034】
以上の追加注水工程は、冷却孔5内に低温冷却水を供給し冷却孔5内からコンクリート体1を冷却する「冷却孔給水工程」と、上記低温冷却水の追加供給で、冷却孔5内の既存の高温冷却水を型枠3外まで溢れさせることにより、高温冷却水を養生マット9に移動させる「冷却水移動工程」と、を同時に実行する工程であると言うことができる。
【0035】
(後処理工程)
上述した追加注水工程を繰り返しながらコンクリート体1が十分に硬化した後、給水管11、水受け容器13及び排水ポンプ15を除去し、更に、型枠3を除去する脱枠作業を行う。更に、冷却孔5をモルタル又はコンクリートで埋め戻して、コンクリート体1を完成させる。
【0036】
冷却孔5の深さは、コンクリート体1の厚さ(上下幅)の50〜90%とすることが好ましく、その中でも70〜80%とすることが更に好ましい。また、冷却孔5の孔径は、30mm〜100mmが好ましい。また、冷却孔5の孔径は、コンクリート体1に含まれる鉄筋の最大あきの1/5以上とすることが好ましく、1/2以上とすることが更に好ましい。また、冷却孔5の配置密度(上から見たコンクリート体1の単位面積当たりに設ける冷却孔5の本数)は、冷却孔5の孔径に応じて2.5〜5.0本/m2に設定することが好ましい。例えば、冷却孔5の孔径が50mmである場合には、冷却孔5の配置密度を4.2本/m2とし、冷却孔5の孔径が100mmである場合には、冷却孔5の配置密度を3.5本/m2とすることが好ましい。
【0037】
続いて、上述のコンクリート体1の養生方法による作用効果について説明する。
【0038】
上述の養生方法の追加注水工程では、冷却孔5に低温冷却水が供給されることにより、コンクリート体1の内部が冷却される。また静置されている間に、低温冷却水は、コンクリート体1から熱を奪って温度上昇し高温冷却水となる。
【0039】
その後、この高温冷却水が、型枠3から溢れ出して養生マット9に吸収され、側面型枠板3sを介してコンクリート体1の側面1sとの熱交換を行う。ここで、養生マット9に吸収された高温冷却水は、冷却孔5内に供給された低温冷却水よりも高温である。よって、元来放熱が困難なコンクリート体1の内部(冷却孔5近傍)が低温冷却水で冷却されるのに対し、元来放熱が容易な側面1s近傍は高温冷却水で冷却されることになる。よって、養生中におけるコンクリート体1の内部と表面近傍との温度差が低減され、温度応力に起因するコンクリート体1のひび割れの可能性が低減する。
【0040】
また、同様にして、高温冷却水とコンクリート体1の下面1tとの熱交換も下面型枠板3tを介して行われ、養生中におけるコンクリート体1の内部(冷却孔5近傍)と下面1t近傍との温度差も低減される。よって、養生中におけるコンクリート体1の内部と表面近傍との温度差が更に低減され、温度応力に起因するコンクリート体1のひび割れの可能性が更に低減する。
【0041】
また、型枠3の外側の面に養生マット9のような吸水部材を設けた構成により、型枠3の外側の面上に存在する高温冷却水が多くなる。よって、上述したようなコンクリート体1の内部と表面近傍との温度差を低減する効果が高く、ひび割れの抑制を確実に図ることができる。また、冷却孔5内で温度上昇した高温冷却水を有効利用して養生マット9に供給する構成であるので、冷却水を加温するためのヒーター等を別途設けるなど設備が複雑化することも避けられ、簡易な方法によるひび割れの抑制が図られる。
【0042】
また、追加注水工程では、冷却孔5の底部に冷却水を追加供給し、冷却孔5内の既存の冷却水を型枠3外まで溢れさせることにより、既存の冷却水を養生マット9に移動させる。この構成により、簡易な方法で、冷却孔5内に低温冷却水を供給し冷却孔5内からコンクリート体1を冷却する「冷却孔給水工程」と、冷却孔5内の既存の高温冷却水を養生マット9に移動させる「冷却水移動工程」と、を同時に実現することができる。
【0043】
なお、給水管11からの冷却水を連続的に供給することも考えられるが、この場合は養生マット9に含まれる水の水温が低くなりすぎ、コンクリート体1の内部と表面近傍との温度差を十分に低減することができないおそれがある。これに対し、上述の養生方法では注水と静置とを繰り返しながら間欠的に注水が行われる。すなわち、冷却水の追加供給は、冷却孔5内の水温T1と、側面1s近傍の温度T3と、の差が所定の温度差以下になったときに開始され、冷却孔5内の水温が所定値まで低下したときに終了される。
【0044】
この構成により、冷却水の追加供給が終了した後、冷却水は、冷却孔5内に留まって温度上昇する。その後、冷却水の水温T1が温度T3に近づいたときに、冷却水の追加供給が再開される。従って、コンクリート体1の表面近傍の温度に近い冷却水が養生マット9に供給される。その結果、コンクリート体1の表面近傍は高温冷却水との小さい温度差によって緩やかに冷却されるので、コンクリート体の内部と表面近傍との温度差を低減させる効果が高い。
【0045】
また、養生マット9は、側面型枠板3sの外側の面全体に亘って設けられている。この構成により、コンクリート体1の側面1s全体の温度が均等になり易く、ひび割れ防止効果が高い。また、養生マット9は、下面型枠板3tの下側の面全体に亘って更に設けられている。この構成により、コンクリート体1の下面1t全体の温度が均等になり易く、下面1tにおいても、ひび割れ防止効果が高い。
【0046】
また型枠3として採用された木製型枠の外側の面は比較的乾燥し易いことから、本来は、気化熱によってコンクリート体1の表面の温度も低下し易い傾向にある。これに対し、型枠3の外側の面に設けられた養生マット9が水分を含む構成によって、型枠3の外側の面を湿潤状態にすることができる。よって、気化熱によるコンクリート体1の表面の温度低下が抑えられ、養生中におけるコンクリート体1の内部と表面近傍との温度差が低減される。
【0047】
また木製型枠は水分を比較的通過させ易いことから、本来は、コンクリート体1の表面近傍の水分が型枠3を通過して外部に逸散し易く、コンクリート体1の表面近傍が比較的乾燥し易い傾向にある。これに対し、型枠3の外側の面に設けられた養生マット9に水分を含ませる構成によって、型枠3が湿潤状態となり、コンクリート体1の表面近傍の水分の逸散が抑えられる。よって、コンクリート体1の表面の乾燥に起因するひび割れの可能性も低減する。すなわち、コンクリート体1の初期の硬化過程において脱枠前から湿潤養生を行うことができ、コンクリート表層の緻密化による表面ひび割れの抑制と、長期に亘る強度発現が期待できる。
【0048】
また、排水ポンプ15からの水を循環させ冷却水として再利用することも考えられるが、条件によっては排水ポンプ15からの水の水温が高く、水を再び冷却するコストが過大になる場合がある。また、循環機構のトラブルが発生した場合に冷却不能になる場合もある。以上のような不都合を避けるために、本実施形態では、排水ポンプ15からの水を再利用することなく、系外に排出し廃棄することとしている。
【0049】
続いて、本発明者らが行った上述の養生方法の試験について説明する。
【0050】
下表1に示す配合の普通コンクリートを練混ぜ、前述のコンクリート体1の構造をもつ供試体を作製した。具体的には、冷却孔形成のためのボイドを型枠の中央に設置してコンクリートを打設し、供試体の上面中央に1本の冷却孔を形成した。供試体は長さ900mm、幅600mm、高さ1800mmの直方体とし、その上面中央に孔径60mm、深さ1350mmの冷却孔を形成した。
【0051】
【表1】

【0052】
使用した型枠は木製型枠であり、側面型枠板及び下面型枠板の外側の面全体に、市販の養生マットを貼り付け、桟木で押さえ込んで固定した。型枠の上端は、供試体の天端より10cm上方に位置していた。また、供試体の冷却孔の底部の温度(水温)T1と、供試体内で冷却孔近傍の位置(略中央部)の温度T2と、供試体の表面近傍の位置の温度T3と、の各位置の温度を測定すべく、各位置に熱電対を設置した。
【0053】
型枠内にコンクリート打設し、コンクリートの凝結の始発を確認した後に、冷却水による冷却を開始した。冷却水の供給方法は次のとおりである。
1.冷却孔の底面近傍まで挿入した給水管から20℃の冷却水を注入し、型枠上端まで冷却水を満たして、冷却水の注水を停止する。
2.冷却孔の底部の水温T1と、供試体の表面近傍の位置の温度T3との温度差が5℃以下になった時点で給水管からの追加注水を開始する。
3.冷却孔の底部の水温T1が20℃になった時点で追加注水を停止する。
4.コンクリートの内部温度(温度T2)が外気温に漸近するまで、上記2及び3の処理を繰り返す。なお、コンクリートの内部温度T2とは、冷却孔の底部の近傍位置におけるコンクリート体内部の温度であり、温度T2を測定するための熱電対17(図1参照)が予め埋め込まれている。
【0054】
養生中の供試体における内部温度T2及び表面近傍の温度T3を測定し、その温度変化を図3のグラフに示した。図3の横軸はコンクリート打設からの経過時間を示す。
【0055】
また、比較のために比較供試体を別途作製し養生した。比較供試体の寸法は上記の供試体と同一であるが、型枠板には養生マットを設置せず、冷却水による冷却を行わずに比較供試体を硬化させた。養生中の比較供試体においても上記供試体と同様にして、冷却孔近傍に該当する位置(図1の熱電対17の位置に対応)の温度T2’及び表面近傍(図1の熱電対15の位置に対応)の温度T3’を測定し、その温度変化を図4のグラフに示した。
【0056】
図4のグラフによれば、養生中における比較供試体の中央部の温度T3’の最高値は68℃に達し、温度T2’と温度T3’との最大温度差は8℃であった。これに対し、図3のグラフによれば、供試体の中央部の温度T3の最高値は48℃に抑えられ、温度T2と温度T3との最大温度差は6℃に低減された。この結果により、本実施形態の養生方法によれば、養生中におけるコンクリート体の内部と表面近傍との温度差が低減することが確認された。
【0057】
〔第2実施形態〕
続いて、図5を参照しながら本発明の養生方法の第2実施形態について説明する。本実施形態の養生方法では、型枠3の外側の面に吸水部材を設置するための構造が第1実施形態とは異なる。すなわち、本実施形態の養生方法では、第1実施形態の養生マット9に代えて、吸水性及び保湿性を有するカーテン式クロス33を吸水部材として採用する。
【0058】
具体的には、側面型枠板3sの上端部それぞれにレール31が取付けられ、各レール31に対してカーテン式クロス33が吊り下げられる。カーテン式クロス33の上端部はレール31にガイドされ水平に可動であるので、1枚のカーテン式クロス33全体を、カーテンの如く1箇所に寄せて束ねたり側面型枠板3sの全面を覆うように広げたりすることが可能である。なお、側面型枠板3sに桟木や他の支保材が取り付けられる場合には、カーテン式クロス33が当該支保材の外側から側面型枠板3sを覆うようにすればよい。なお、カーテン式クロス33以外の本実施形態の養生方法の構成については、第1実施形態と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0059】
型枠3内にコンクリートを打設する際には、カーテン式クロス33を一箇所に寄せて束ね、側面型枠板3sを露出させることができる。これにより、カーテン式クロス33は、コンクリート打設時において、打音による充填確認や型枠変形等の確認等の妨げにならない。そして、養生時の冷却水供給時においては、側面型枠板3sの全面を覆うようにカーテン式クロス33広げることで、カーテン式クロス33が第1実施形態における養生マット9と同様の機能を発揮することができる。よって、本実施形態の養生方法により、第1実施形態と同様の作用効果が奏される。なお、カーテン式クロス33を側面型枠板3sに沿って確実に固定するため、図5に示すようにカーテン式クロス33の外側から水平にゴムバンド35を巻き付けるようにしてもよい。
【0060】
以上では、第1及び第2実施形態を例として本発明を説明したが、本発明は、前述した第1及び第2実施形態に限定されるものではない。例えば、第1及び第2実施形態では、木製の型枠3を用いているが、図6に示すように、木製の型枠3に代えて鋼製型枠53を用いてもよい。また、構成型枠53と前述のカーテン式クロス33とを組み合わせてもよい。鋼製型枠53を用いた場合、コンクリート体1の養生中における構成要素は、外見上は図1,図2及び図5と同様であり、型枠3を鋼製型枠53に差し替えた図面で示すことができる。
【0061】
ここで、鋼製型枠は木製型枠53に比べて比較的熱伝導率が高いことから、構成型枠53を用いた場合には、コンクリート体1の表面近傍が外気の影響を受け易く、コンクリート体1の内部と表面近傍との温度差がより大きくなる傾向にある。よって、この場合、上記温度差を低減する必要性がより高く、冷却孔5内で温度上昇された高温冷却水を吸水部材9に移動させるといった前述の構成がより好適に適用される。なお、市販の鋼製型枠の中には、型枠板の外側の面がフラットではないタイプもあるが、この場合にも、種々の留め具を用いて、型枠板の外側の面全体に養生マット9を固定することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…コンクリート体、1a…コンクリート体の上面、1s…コンクリート体の側面、1t…コンクリート体の下面、3…型枠、3s…側面型枠板、3t…下面型枠板、5…冷却孔、9…養生マット(吸水部材)、33…カーテン式クロス(吸水部材)、53…鋼製型枠。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型枠内に打設されたコンクリートを養生するコンクリートの養生方法であって、
前記型枠内に打設されたコンクリート体の上面に有底の冷却孔を形成する冷却孔形成工程と、
前記冷却孔形成工程で形成された前記冷却孔内に冷却水を供給する冷却孔給水工程と、
前記冷却孔給水工程で供給され前記冷却孔内で温度上昇した前記冷却水を、前記コンクリート体に取り付けられている前記型枠の外側の面に設けられた吸水部材に移動させる冷却水移動工程と、を備えたことを特徴とするコンクリートの養生方法。
【請求項2】
前記冷却水移動工程では、
前記冷却孔の底部に前記冷却水を追加供給し、前記冷却孔内の既存の冷却水を前記型枠外に溢れさせることにより、前記既存の冷却水を前記吸水部材に移動させることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの養生方法。
【請求項3】
前記冷却水の追加供給は、
前記冷却孔内の水温と、前記コンクリート体の表面近傍の温度と、の差が所定の温度差以下になったときに開始され、
前記冷却孔内の水温が所定値まで低下したときに終了されることを特徴とする請求項2に記載のコンクリートの養生方法。
【請求項4】
前記吸水部材は、
前記型枠のうち前記コンクリート体の側面を覆う側面型枠板の外側の面全体に亘って設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のコンクリートの養生方法。
【請求項5】
前記吸水部材は、
前記型枠のうち前記コンクリート体の下面を覆う下面型枠板の下側の面全体に亘って更に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のコンクリートの養生方法。
【請求項6】
前記型枠は、木製型枠であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のコンクリートの養生方法。
【請求項7】
前記型枠は、鋼製型枠であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のコンクリートの養生方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23897(P2013−23897A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159289(P2011−159289)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】