説明

コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食抑制方法

【課題】海水等の塩水に暴露される鉄筋コンクリート構造物におけるコンクリート中に埋設された鉄筋の腐食を抑制し、コンクリート構造物の寿命を延長する方法を提供する。
【解決手段】コンクリート中に強塩基性陰イオン交換能及びコンクリート補強性を有する繊維と必要に応じて強塩基性陰イオン交換樹脂を共存させることにより、海水等の塩水や融雪剤に暴露される鉄筋コンクリート構造物におけるコンクリート中に埋設された鉄筋の長期にわたる腐食を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食抑制方法に関し、特に、海水等の塩水や融雪剤に暴露される鉄筋コンクリート構造物におけるコンクリート中に埋設された鉄筋の長期にわたる腐食抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート(RC)あるいはプレストレストコンクリート(PC)構造物の経年劣化による耐久性が社会的な問題となっている。特に、海中、海岸近傍や融雪剤を散布するような鉄筋コンクリート構造物の場合、塩化物イオンがコンクリート内部に浸入し、鉄筋が腐食して劣化が進む。そのため、種々の方法で補修や補強が行われている。損傷が著しい場合には既存の鉄筋コンクリート構造物を壊して、新たな構造物が設置されることもある。
【0003】
コンクリート中に埋設された腐食した鉄筋を補修や補強するより、当然ながら鉄筋の腐食抑制対策の方が効果的であることは言うまでもない。新設構造物を対象として、塩化物イオンのコンクリートへの浸入を阻止するためや、例え浸入したとしても鉄筋を腐食させないように、以下のような方法が研究開発され、一部は実用化されている(非特許文献:10年間暴露における塩害により劣化した鉄筋コンクリートの補修方法に関する研究 コンクリート工学協会誌,21巻2号ページ193-198,1999. 塩害による鉄筋腐食の診断と抑制に関する研究,コンクリート工学論文集,11巻, 2号, ページ11-20, 2000.)
【0004】
(1) コンクリート表面を被覆する。
(2) コンクリートのかぶりを十分に確保する。
(3) 緻密な構造を有する高強度コンクリートを使用する。
(4) エポキシ樹脂塗装鉄筋を使用する。
(5) プレストレス鉄筋をポリエチレンシースで覆う。
【0005】
最近、安定した社会、エコロジーな社会を実現するために、建設構造物のような社会資本の長期耐久性能が要求されるようになって来た。鉄筋コンクリート構造物の場合、簡単な保守点検作業で百年のスパンでの耐久性を要求されるようになってきた。しかしながら、上記(1)〜(5)に記載の方法は、一定の効果は認められるものの、百年のスパンでの耐久性から見ると、十分とは言えない。
【0006】
すなわち、上記の方法は長期耐久性から見て、次のような問題がある。
(1) コンクリート表面を被覆する。
被覆は紫外線により劣化し、外力により風化するので、耐久性は長くて10年程度である。従って、定期的に再塗布する必要があるが、この手間が大変であることは言うまでもない。
【0007】
(2) コンクリートのかぶりを十分に確保する。
効果的ではあるが、鉄筋コンクリート構造物が重くなるので、有効な方法ではない。また、いったんひびわれが入ると、塩化物イオンの浸入防止に対して無力となる。
【0008】
(3) 緻密な構造を有する高強度コンクリートを使用する。
比較的有効な方法であり、高強度化の手段として補強用短繊維をコンクリートに混入するので、大きなひびわれの発生を防止することが可能となる。しかし、微細ひびわれを完全に防止することは困難であるので、いったん微細ひびわれが入ると、長期耐久性の保障とはならない。
【0009】
(4) エポキシ樹脂塗装鉄筋を使用する。
鉄筋上のエポキシ樹脂層は薄いので、施工時にこの樹脂層を破壊してしまうことがある。わずかな部分のエポキシ樹脂層が破壊され、当該部分の鉄筋が腐食すると、構造物全体の耐久性に影響する。また、プレストレスを付与する定着部の鉄筋切断面から水が浸透し、鉄筋を腐食させることがある。
【0010】
(5) プレストレス鉄筋をポリエチレンシースで覆う。
ポリエチレンシースは可とう性が高いので、シースは破壊されにくいが、コンクリートとの付着力が低いという問題点がある。また、プレストレスを付与する定着部の鉄筋切断面から水が浸透し、鉄筋を腐食させることがあるので、長期耐久性から見て、完全とは言えない。
【0011】
ところで、塩水や融雪剤による鉄筋の腐食は、主に塩化物イオンの働きであることは知られている。そこで、鉄筋を腐食させるイオンを吸着除去するために、イオン交換樹脂を利用することが考えられる。
【0012】
非特許文献1,2には、コンクリート中にイオン交換樹脂を混入することにより、化学工場のようにガス、酸、塩によるコンクリートの風化と鉄筋の腐食を防止することが研究されている。
【0013】
また、特許文献1には、既設のコンクリート構造物の表面にイオン交換樹脂を接触させ、コンクリートに含有されているイオンを抽出する方法が提案されている。しかし、塩水や融雪剤による鉄筋の腐食を防止する検討結果は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003-27262号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】イオン交換体と鉄筋コンクリート構造物の風化腐食に関する考察,Architectural Institute Japan, pp.125-128, 1956
【非特許文献2】土木学会中国四国支部第54回研究発表会,pp.541-542, 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1に記載の方法では、鉄筋の存在するコンクリート内部まで浸入した塩化物イオンを除去できるとは考えがたい。また、技術的に可能であるとしても、鉄筋コンクリート構造物は巨大であるので、現実的な対処方法とは考えにくい。
【0017】
非特許文献1,2においては、コンクリート中にイオン交換樹脂を多量に混入するとコンクリートの強度が低下することも報告されている。イオン交換樹脂の混入によるコンクリートの強度低下は、橋や高架構造物等のコンクリート構造物においては、致命的な問題となる可能性がある。
【0018】
そこで本発明の目的は、海水等の塩水や融雪剤に暴露される鉄筋コンクリート構造物におけるコンクリート中に埋設された鉄筋の長期間にわたる、新たな腐食抑制方法を提供することにある。さらに本発明の目的は、前記腐食抑制方法に利用できる新たな材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記問題点を解決するために鋭意研究した結果、強塩基性陰イオン交換能とコンクリート補強性を併せて持つ繊維をコンクリートに共存させることで、当該コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本発明は以下のとおりある。
[1]
コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食抑制方法であって、前記コンクリート中にコンクリート補強性を有する繊維及び強塩基性陰イオン交換樹脂を共存させることを特徴とする、前記腐食抑制方法。
[2]
前記繊維が強塩基性陰イオン交換繊維またはコンクリート補強用繊維に強塩基性陰イオン交換樹脂もしくは強塩基性陰イオン交換短繊維を担持したものである[1]に記載の腐食抑制方法。
[3]
前記繊維の繊維長が1〜30mmの範囲である[1]〜[2]のいずれかに記載の腐食抑制方法。
[4]
強塩基性陰イオン交換樹脂もしくは強塩基性陰イオン交換短繊維を、前記コンクリート中にさらに共存させる[1]〜[3]のいずれかに記載の腐食抑制方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、コンクリート補強性能を有する強塩基性陰イオン交換能を保有する繊維、または強塩基性陰イオン交換樹脂を繊維表面に付与した繊維をコンクリートに混合することにより、コンクリートにひびわれが入ることを抑制し、万一ひびわれが入ってもひびわれが拡大せず、幅が0.2mm以下の微細ひびわれで収めることができ、さらに塩化物イオンを吸着可能であることから、微細ひびわれを通してゆっくり浸入する塩化物イオンを吸着でき、コンクリート内部の鉄筋を長期にわたる腐食から守ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で作製した供試体の説明図である。
【図2】実施例1で用いた腐食促進試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で使用する強塩基性陰イオン交換能及びコンクリート補強性を有する繊維は、強塩基性陰イオン交換能を保有する繊維、または強塩基性陰イオン交換樹脂を繊維表面に付与した繊維である。交換対象とする陰イオンは、鉄筋腐食の主な原因である塩化物イオンであり、従って強塩基性陰イオン交換繊維である必要がある。
【0024】
強塩基性陰イオン交換繊維としては、分子中に例えば第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、クロルメチル化基(−CH2Cl)、アミノメチル化基(−CH2NH2)等を有する強塩基性イオン交換繊維が例示される。
【0025】
強塩基性陰イオン交換繊維のイオン交換容量には特に限定がなく、高いほど良い。現実には、イオン交換繊維の場合、イオン交換容量が1〜5ミリ当量/g程度である。
【0026】
さらに、強塩基性陰イオン交換繊維は、繊維長が0.5〜30mm、繊維径が5〜200μm、アスペクト比が50〜1000であることが適当である。繊維長がより短い、繊維径がより大きい、またはアスペクト比がより小さい場合は、繊維がコンクリートにかかる応力を負担することができず、引き抜けてしまい、微細クラックの発生を防止することができない。一方、繊維長がより長い、繊維径がより小さい、またはアスペクト比がより大きい場合は、コンクリートに補強繊維を均一に混合することが不可能である。なお、本明細書において、繊維の「アスペクト比」とは、繊維長を繊維断面の面積と同面積を有する相当円の直径で除した値である。
【0027】
強塩基性陰イオン交換繊維の代表例としては、ポリスチレンを海成分とし、ポリエチレンまたはポリプロピレンを島成分として多芯海島型複合繊維を製糸する。繊維中のポリスチレン部分をパラホルムアルデヒドの硫酸溶液中で架橋し、ポリスチレンを不溶化する。架橋ポリエチレンまたはポリプロピレン繊維をスルホン化、クロルメチル化、トリメチルアンモニウム化することにより、強塩基性イオン交換繊維が形成される。例えば、
(a)第4級アンモニウム基を有するイオン交換繊維
IONEX TIN−200(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>2.0ミリ当量/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)
(b)クロルメチル化基を有するイオン交換繊維
IONEX TIN−400(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>2.5ミリ当量/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)
(c)アミノメチル化基を有するイオン交換繊維
IONEX TIN−500(商品名(IONEX:登録商標)、東レ・ファインケミカル(株)製、イオン交換容量:>2.5ミリ当量/g、繊維径:40μm、繊維長:0.5mm)
等があげられる。
【0028】
また、ポリビニルアルコール繊維を骨格として、側鎖にアミノ基を導入したイオン交換繊維も市販されている。例えば、
(d)第1級〜第3級アミノ基を有するイオン交換繊維
IEF−WA(商品名、(株)ニチビ製、イオン交換容量:>3.0ミリ当量/g、繊維径:55×15μm、繊維長:>1.0mm)
(e)第4級アミノ基を有するイオン交換繊維
IEF−SA(商品名、(株)ニチビ製、イオン交換容量:>4.0ミリ当量/g、繊維径:55×15μm、繊維長:>1.0mm)
等があげられる。
【0029】
本発明で用いる繊維は、コンクリート補強用繊維に強塩基性陰イオン交換樹脂を表面加工したものでも良い。強塩基性陰イオン交換樹脂による表面加工は、例えば、粒子状等の強塩基性陰イオン交換樹脂を補強用繊維の表面への担持であることができる。具体的には、粒子状等の強塩基性陰イオン交換樹脂を補強用繊維の表面に接着性の材料で固定することにより担持することができる。
【0030】
強塩基性陰イオン交換樹脂が表面に付着される補強用繊維は、コンクリート中のアルカリ性に対して、耐久性があり、コンクリートに混合した際に、破断せず、コンクリートの硬化体に発生する微細クラックを防止できる補強繊維であれば、特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール繊維(PVA繊維)、ポリプロピレン繊維(PP繊維)、ポリエチレン繊維(PE繊維)、アラミド繊維、アクリル繊維、炭素繊維、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、ポリベンゾオキサゾール系繊維、レーヨン繊維、ガラス繊維、スチール繊維等が挙げられる。製造コストを低減し、微細クラック防止の観点から好ましい繊維はPVA繊維、PE繊維、PP繊維である。
【0031】
これらの補強用繊維は繊維長が0.5〜30mm、繊維径が5〜200μm、アスペクト比が50〜1000であることが適当である。繊維長がより短い、繊維径がより大きい、またはアスペクト比がより小さい場合は、コンクリートに応力がかかった時、繊維が応力を負担することができず、引き抜け、微細クラックの発生を防止することができない。一方、繊維長がより長い、繊維径がより小さい、またはアスペクト比がより大きい場合は、繊維をコンクリートに均一に混合することが不可能となる。
【0032】
繊維に付与する強塩基性陰イオン交換樹脂としては、分子中に例えば、第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、2−ヒドロキシプロピルアミノ基(−OC24N(C25)CH2CH(OH)CH3)、トリエチルアミノ基(−(CH22N(C253)、ポリエチレンイミノ基(−(CH2CH2NH)xCH2CH2NH2)、ジエチルアミノエチル基(−(CH22N(C252)、p−アミノベンジル基(−CH2−C64−NH2)、N−メチルグルカミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−(C(OH)H)4−CH2OH)等を有する塩基性陰イオン交換樹脂があげられる。該強塩基性陰イオン交換樹脂の代表例としては、例えばAmberlite IRA−410J(商品名、オルガノ(株)製、イオン交換容量:1.4meq/mL)等の第4級アンモニウム基含有陰イオン交換樹脂等があげられる。特に好ましい強塩基性陰イオン交換樹脂としては、第4級アンモニウム基(−NR3)、第3級アミノ基(−NR2)、第2級アミノ基(−NHR)、第1級アミノ基(−NH2)、クロルメチル化基(−CH2Cl)、アミノメチル化基(−CH2NH2)等を有する陰イオン交換樹脂を挙げることができる。
【0033】
繊維に付与するイオン交換樹脂の微細形状としては、ゆっくり時間をかけて浸入する塩化物イオンを吸着させるため、小さな穴の多数あるハイポーラス型が好ましい。
【0034】
強塩基性陰イオン交換樹脂の形状としては、球形、矩形、繊維状など特に限定されない。大きさとしては、0.01〜2mmの範囲が好ましい。0.01mm以下では、比表面積が大きくので、塩化物イオンの吸着速度が速くなりすぎ、コンクリート内部の塩化物イオンの濃度勾配が大きく、結果としてイオン交換樹脂の有効期間が短くなる恐れがある。2mm以上では、強塩基性陰イオン交換樹脂がコンクリートの中で、欠陥として作用し、コンクリート強度が低下する恐れがある。また、補強用繊維に強塩基性陰イオン交換樹脂を担持させることが困難となる。
【0035】
補強用繊維に強塩基性陰イオン交換樹脂を担持する方法としては、強塩基性陰イオン交換樹脂を接着性のある樹脂に分散させ、連続繊維に付与し、必要に応じて乾燥、固化させる。この連続繊維を0.5〜30mmの長さに切断し、補強用繊維として使用する。0.5mm以下では補強繊維による微細ひび割れ防止効果が十分とはいえない。逆に30mm以上では、補強繊維をコンクリートに分散させることが困難となる。
【0036】
補強繊維に強塩基性陰イオン交換樹脂を担持する場合、接着性のある樹脂を用いることができる。接着性のある樹脂としては、繊維束にイオン交換樹脂を多量にかつ強固に付着させることができ、可とう性があり、かつコンクリート中で変質しないものであることが適当である。これらの特性を満足させる樹脂として、水系ポリウレタンエマルジョン接着剤、水系ポリエチレンエマルジョン接着剤、メラミン系接着剤、フェノール系接着剤、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤などが挙げられる。
【0037】
補強用繊維に対する強塩基性陰イオン交換樹脂の担持量は多いほど好ましい。しかしながら、現実には上限があり、コンクリート補強用繊維100質量部に対してイオン交換樹脂の量は最大20質量部程度である。
【0038】
コンクリートに添加される補強用繊維の容積比率は一般に0.1〜3%の範囲である。0.1%以下では補強繊維による微細ひび割れの発生防止効果が低い。3%以上では、補強繊維をコンクリートに分散させることが困難となり、またコンクリートの粘度が高くなりすぎ、施工も困難となる。
【0039】
本発明においてコンクリートに使用される水硬性セメントは、水との反応により硬化体を形成できる限り、特に限定されず、例えば、各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカセメント、マグネシアセメント、硫酸塩セメント等が挙げられる。
【0040】
コンクリートの原料としてセメントとともにシリカ質原料も用いられる。シリカ質原料としては、珪石粉、高炉スラグ、珪砂、フライアッシュ、珪藻土、シリカヒューム、非晶質シリカ等を使用することができる。シリカ質原料は水硬性セメント100重量部に対して40〜100重量部、好ましくは50〜80重量部の割合で配合される。シリカ質原料が40重量部より少ないとコンクリートの強度が低下し、結果的に防食性能に悪影響を及ぼす。また、100重量部より多くてもコンクリートの強度が低下し、防食性能に悪影響を及ぼす。
【0041】
補強用繊維をコンクリートに混合する方法としては、補強用繊維を切断せずに分散できる方法であれば良く、二軸強制練りミキサーなどが採用される。
【0042】
本発明においては、上記コンクリート中に、粒子状イオン交換樹脂をさらに共存させて、塩化物イオンの除去効果を高めることもできる。但し、粒子状イオン交換樹脂の添加はコンクリートの強度を低下させる原因になるので、粒子状イオン交換樹脂の添加量はコンクリートに対する容積比率で、0.01〜1.0%の範囲である。0.01%以下ではイオン交換容量が小さすぎる。1.0%を越えると、コンクリート強度が低下するので、好ましくない。
【0043】
本発明は、強塩基性陰イオン交換能及びコンクリート補強性を有する繊維からなる、コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食抑制及びコンクリートの補強用繊維も包含する。本発明の鉄筋の腐食抑制及びコンクリートの補強用繊維は、上記本発明の腐食抑制方法で説明したものと同様の繊維である。本発明の繊維は、鉄筋を埋設したコンクリートが塩水に暴露される構造物の少なくとも一部である場合に特に有効である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0045】
実施例1
次の原材料を準備する。
(1) 三菱化学社製の強塩基性陰イオン交換樹脂
(商品名SA−10A、直径0.25mm、1.3ミリ当量/g)
(2) 第一工業製薬社製の自己乳化型ポリウレタンエマルジョン
(商品名スーパーフレックス、有効成分40部)
(3) 3500デシテックスのポリプロピレン連続繊維
(4) カット長さ5mmのニチビイオン交換繊維
(株式会社ニチビ製IEF-SC、4.0ミリ当量/g)
【0046】
イオン交換樹脂を付与した補強繊維を準備する。
有効成分が40部のスーパーフレックスを水で10倍に希釈した。希釈液100部に対して、イオン交換樹脂SA−10Aの10部を加えて撹拌する。撹拌しながら連続的にポリプロピレン繊維に付与し、熱風で乾燥する。乾燥後に長さ1.5mmにカットする。イオン交換樹脂SA−10Aのない10倍に希釈したスーパーフレックスを付与した短カットポリプロピレン繊維との重量差から、イオン交換樹脂SA−10Aの付着量は短カットポリプロピレン繊維に対して3.0重量%であった。
【0047】
促進腐食試験用供試体を準備する。
定法に従って、セメント912kg/m3、細骨材591kg/m3、水155kg/m3なるコンクリートを二軸強制練りミキサーで混練した。これに、上記で準備した短カットポリプロピレン繊維0.5容積%を加えて二軸強制練りミキサーで混合した。
【0048】
断面が直径50mm、長さ80mmの鋼製管の中心に直径10mm、リード線を取り付けた長さ40mmの異形鉄筋を配置した。この鋼製管に補強繊維を混合したコンクリートを流し込み、振動を与えて、内部のボイドを除去した。これを1日間常温で硬化させた後、水中で7日養生し、図1に示した供試体を得た。
【0049】
図2に示したように、腐食促進試験のために、この供試体に陰極用チタン製メッシュを巻き、直流安定化電源を接続した。常温の3%塩化ナトリウム水溶液に含浸し、0.7Aの電流になるように,直流電圧をかけた。7日間経過に供試体を取り出し、塩化物イオンの進入の程度と異形鉄筋の外観による腐食状況を調べた。結果を表1に示した。
【0050】
なお、塩化物イオンの浸入の程度の測定は次の通りである。供試体を洗浄乾燥後に表面よりドリルで穴を開け、表面から6mmごとに削り粉を採取し、定法に従い、蛍光X線分光法で塩化物イオンを定量した。また、異形鉄筋については目視検査とあらかじめ質量を計測しておき、一定時間後経過の質量を計測し、その差で腐食程度を表した。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例2
イオン交換樹脂を付与した補強繊維に代わって、イオン交換繊維IEF−SA(商品名、(株)ニチビ製、イオン交換容量:4.0meq/g、繊維径:55×15μm、繊維長:1.5cm)を使用して表1記載と同じ試験を実施し、結果を表2に示した。
【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
コンクリートに補強用短繊維を混入することによりコンクリートに微細ひびわれが入ることを抑制する。万一コンクリートに微細ひびわれが入っても、コンクリートに添加した補強繊維自体が有する強塩基性陰イオン交換樹脂機能またはその表面に付与した強塩基性陰イオン交換樹脂または必要に応じて加えた強塩基性陰イオン交換樹脂により塩化物イオンを吸着できるので、内部の鉄筋を腐食から守ることができる。結果として、海水等の塩水や融雪剤に暴露される鉄筋コンクリート構造物におけるコンクリート中に埋設された鉄筋の長期にわたる腐食を抑制し、コンクリート構造物の寿命を延長することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に埋設された鉄筋の腐食抑制方法であって、前記コンクリート中にコンクリート補強性を有する繊維及び強塩基性陰イオン交換樹脂を共存させることを特徴とする、前記腐食抑制方法。
【請求項2】
前記繊維が強塩基性陰イオン交換繊維またはコンクリート補強用繊維に強塩基性陰イオン交換樹脂もしくは強塩基性陰イオン交換短繊維を担持したものである請求項1に記載の腐食抑制方法。
【請求項3】
前記繊維の繊維長が1〜30mmの範囲である請求項1〜2のいずれかに記載の腐食抑制方法。
【請求項4】
強塩基性陰イオン交換樹脂もしくは強塩基性陰イオン交換短繊維を、前記コンクリート中にさらに共存させる請求項1〜3のいずれかに記載の腐食抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−68969(P2011−68969A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222484(P2009−222484)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】