説明

コンクリート堰堤施工方法

【課題】粗石の補填率を高めてコンクリートの使用量を低減することができ、粗石洗浄の工程や締め固めの工程を省略することができるコンクリート施工方法を提供する。
【解決手段】掘削された土砂から粒径80mm以上の粗石12bを選別する選別工程S10と、堰堤施工箇所14aに選別された粗石群を配置する粗石配置工程S20を有する。配置された粗石群の側壁周囲を、型枠である板部材16で取り囲む型枠設置工程S30を有する。36N/mm以上の強度に硬化する高強度コンクリート20を粗石群を取り囲んだ型枠内部に充填する打設工程S40と、打設後に高強度コンクリート20を硬化させる養生工程S50を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、掘削土砂を利用した砂防堰堤等の土木建築構造物を築造するコンクリート堰堤施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に振動ローラを用いた転圧締め固めによる通常の砂防コンクリートの建設おいては、80mm未満の掘削土砂しか利用することができないという実情があった。そこで、近年、砂防堰堤や床固工などの土木建設構造物を施工する際に発生する掘削土砂を有効利用する工法として、いわゆる新粗石コンクリート工法が提案されている。新粗石コンクリート工法は、80〜500mmの比較的大型の粗石を型枠内部に投入し、粗石の隙間に流動性の高いコンクリートを流し込んで構造物を築造する工法である。
【0003】
また、特許文献1に開示されているコンクリート(セメント含有硬化材料)を用いた土木・建築工法は、あらかじめ一般的なコンクリートを流し込んだ型枠内部に粗石を投入し、その投入した粗石に振動を与え、コンクリート中に粗石材を充填する工法である。
【特許文献1】特開2007−277960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の新粗石コンクリート工法にあっては、型枠内に粗石群を投入してコンクリートを充填するため、型枠をあらかじめ所定の形態に構成し、さらに所定の強度で支持する必要があった。よって、専門的な特殊技能を有する者でなければ型枠の組み立て作業をすることができなかった。
【0005】
一方、特許文献1のコンクリート(セメント含有硬化材料)を用いた土木・建築工法にあっては、比較的流動性が低い一般的なコンクリートが使用されるため、コンクリートに投入した粗石群を振動させないと、コンクリートの内部深くまで粗石が充填されず、また、コンクリートが粗石表面に十分付着しない。従って、コンクリートに投入した粗石群に振動を与えて締め固める作業は不可欠であり、特殊な建設機械又は専用アタッチメント等が必要であった。
【0006】
また、型枠内にコンクリートを投入し、粗石群を投入し、さらに締め固める作業を伴うため、上記の新粗石コンクリート工法以上に強固な型枠を設置しなければならない。従って、専門的な特殊技能を有する人員の確保が不可欠であること、型枠を取り外すことができないため再利用できないこと等、同様の問題があった。
【0007】
また、粗石補填部の粗石補填率は37〜57%と比較的高い値が示されているが、型枠を支持するための鉄筋が密集する箇所には粗石が行き渡らないため、その部分はコンクリートのみとなり、構造物全体としての粗石補填率は上記の数値よりも低いものであった。
【0008】
さらに、セメント含有量が少ない一般的なコンクリートが使用されるため、粗石の表面を水等で濡らしてから投入しないと、粗石とコンクリートとの密着性、一体性が確保できず、硬化後の強度が低下してしまう。従って、大粒径の粗石を丁寧に洗浄する洗浄工程が、実質的に不可欠である工法であった。
【0009】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたもので、粗石の補填率を高めてコンクリートの使用量を低減することができ、粗石洗浄の工程や締め固めの工程を省略することができるコンクリート施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、セメントを含有するコンクリートを用いたコンクリート堰堤施工方法において、掘削された土砂から粒径80mm以上の粗石を選別する選別工程と、堰堤施工箇所に選別された前記粗石群を配置する粗石配置工程と、配置された前記粗石群の側壁周囲を型枠である板部材で取り囲む型枠設置工程と、36N/mm以上の強度に硬化する高強度コンクリートを前記粗石群を取り囲んだ前記型枠内部に充填する打設工程と、打設後に前記高強度コンクリートを硬化させる養生工程とから成るコンクリート堰堤施工方法である。好ましくは、前記選別される粗石は、平均粒径が150mm〜500mmの粗石である。
【0011】
前記粗石配置工程と、前記型枠設置工程と、前記打設工程と、前記養生工程とを含む一連の工程を複数回行う際に、次層を前層の上に積層する前に、前層の上面を整える継目処理工程を設けるものである。
【0012】
前記型枠設置工程で設置される前記板部材による型枠は、堰堤施工箇所に配置された前記粗石群の側壁面に複数の前記板部材の内面側を当接させ、その外面側に盛られた土砂で前記板部材を支えて形成され、前記養生工程の後、前記板部材を抜き取るものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明のコンクリート堰堤施工方法によれば、堰堤施工箇所に積み上げられた所定の粒径の粗石群を型枠である板部材を添えて囲み、その周囲に土砂を盛るという簡易な型枠設置方法であるため、専門的な特殊技能を必要としない。また、その板部材をコンクリート硬化後に容易に取り外すことが可能で再利用できる。
【0014】
また、高強度コンクリートを使用するため流動性が高く、型枠と粗石群の間に無駄な隙間なくコンクリートを補填でき、さらに、堰堤を複数回積層して形成する際も容易に隙間なく積み重ねることができ、構造物全体として粗石の補填率を高めることができる。その結果、廃棄物である粗石の有効利用に寄与すると同時に、コンクリートの使用量が低減して施工コストを低減することができる。
【0015】
また、粗石洗浄工程や締め固め工程を省略して、施工工数を大幅に削減することができ、打設後の養生期間も大幅に短縮することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のコンクリート施工方法の一実施形態について、図1〜図4を用いて説明する。本実施形態は、セメントを含有するコンクリートを用いた砂防堰堤を施工する工法であって、図1に示すように、掘削された土砂から所定の粒径以上の粗石を選別する選別工程S10と、堰堤施工箇所に選別された粗石を配置する粗石配置工程S20と、配置された粗石群の側壁周囲を型枠で取り囲む型枠設置工程S30と、36N/mm以上の強度に硬化する高強度コンクリートを、粗石群を取り囲む型枠内部に充填する打設工程S40と、打設後に高強度コンクリートを硬化させる養生工程S50との一連の作業により堰堤施工が終了する。また、その堰堤上面に次の堰堤を積層する場合には、前層の上面を整える継目処理工程S60を設け、その後、粗石配置工程S20に戻って次層の施工である一連の工程が繰り返し行われる。
【0017】
以下、各工程ごとに詳しく説明する。本発明のコンクリート施工方法では、リサイクルが困難であった粒径80mmから500mm程度の大粒径の粗石を有効利用するものである。本実施形態の選別工程S10では、コンクリートの流動性や施工性、強度等を考慮して、粒径150mm以上500mm以下の粗石12bを選別して使用する。選別の方法は、図2に示すように、掘削土砂12をバックホウ10に取り付けたスケルトンバケット10aに投入して振動を与える。すると、小粒径の粗石12aは、スケルトンバケット10aの底面に形成された網目状の透孔10bから落下するので、スケルトンバケット10a内に残った大粒径の粗石12bのみが次の工程に送られる。
【0018】
また、一般に砂防堰堤は、岩盤以外の場所においては、最低2m河床を掘削して設置され、一連の堰堤工事が完了すると、この掘削跡は元の高さまで埋め戻されることとなる。本実施形態の粗石配置工程S20が行われる河床14は、図3(a)に示すように、例えば深さは約3m、幅wは約3.5mの堰堤施工箇所14aとその両側の作業空間14bを合わせて幅が約7m、奥行きは、約2mの堰堤施工箇所14aとその両側の作業空間14bを合わせ約5mにわたって掘削されている。また、後述するように、養生期間にコンクリートが硬化するときの性質や挙動に鑑みて、1回の打設高さhは、900mmに設定されている。従って、粗石配置工程S20では、大粒径の粗石12bがバックホウ等を用いて堰堤施工箇所14aに投入され、約900mm強の高さに整然と積み上げられる。
【0019】
型枠設置工程30では、堰堤施工箇所14aに配置された粗石群の側壁周囲(四方側面)を取り囲み、コンクリートを打設するための型枠を形成する。型枠の設置方法は図3(b)に示すように、例えば900mm×1800mm×3.5mm程度外形を有する鉄製の板部材16を複数枚用い、板部材16の内面側を粗石群の側壁面に当接させ、その外面側から埋戻土砂18を盛ることによって板部材16を支える。
【0020】
このような型枠設置方法によれば、以下のような優れた効果が得られる。まず、小型の板部材16を複数枚用いることによって、粗石群の側壁に形成される凸凹形状に極力合わせて型枠を形成することによって、粗石12bと板部材16に生じる隙間を少なくでき、コンクリートの使用量を低減させることができる。また、板部材16を粗石群の周囲に立てかけ、外側から埋戻土砂を盛って支持する、という簡易な方法であるため、型枠の組み立てに際して、専門的な特殊技能を有する者でなくとも作業ができるという特徴がある。
【0021】
また、2次元的な平面状の板部材16が、コンクリートと埋戻土砂の境界に挟まれているだけの構造であるため、板部材16はコンクリートの硬化後に抜き取ることが容易で、その板部材16を再利用することもできる。この板部材16を抜き取る作業については、後の養生工程S50で述べる。
【0022】
打設工程S40では、板部材16で構成した型枠内に、高強度コンクリート20を投入する。強硬度コンクリート20は、JIS A 5038の「区分03高強度コンクリート」に該当するものであって、硬化後の強度が36N/mm以上の高い強度をもつコンクリート材である。また、高強度コンクリートは、一般的なコンクリート材(36N/mm未満)に比べ、セメントの分量を多く、水の分量を少なく構成されているが、近年の技術進歩によって非常に流動性が高いものが開発されている。本実施形態では、最大粗骨材粒径25mm、フロー値65cm程度の高い流動性をもつ高強度コンクリートが好ましい。
【0023】
高強度コンクリートを打設することによって、以下のような優れた効果が得られる。まず、高強度コンクリートはセメント含有率が非常に高いため、シルト分や粘土分が普通に表面に現れている粗石であれば、少々の粗石に汚れがあっても、コンクリートとの密着性は問題にならない。また、基本的に埋め戻し部分の築造に用いるため、施工後の堤体に大きな外力は働かないため、必要以上に強固な密着性や安定性は求められない。よって、事前に粗石の汚れを洗浄したり、その表面を水で濡らすような工程は省略することができる。
【0024】
また、高強度コンクリートは流動性が高く、粗石群の隙間に自動的に入り込むため、振動を与えるなどの締め固めの工程を設ける必要がない。これらの工程削減により、施工工数を大幅に削減することができる。
【0025】
養生工程S50では、高強度コンクリートが打設された状態で放置し、コンクリートが硬化するのを待つ工程である。なお、高強度コンクリートは、一般的なコンクリートに比べて非常に短時間で硬化するので、打設した翌日には型枠である板部材16を取り外すことができる。図3(d)に示すように、2次元的な平面状の板部材16が高強度コンクリート20と埋戻土砂18の境界に挟まれているだけの構造であるため、板部材16は容易に抜き取ることができ、再利用することも可能である。
【0026】
また、打設後の養生期間は、一般的に2〜4日間に基準化されている。これは、コンクリートの硬化中に発生する中和熱による熱膨張でひび割れが生じたり、養生期間が短いと硬化後の強度が低下する等の特質に鑑みて、粗石が投入されていないコンクリート100%で打設された場合を前提条件として経験値を基に基準化されたものである。しかし、本実施形態の養生工程S50においては、体積の約半分を占める粗石12bの熱容量の作用によって、中和熱による熱膨張が緩和される等の作用が働くため、養生期間の基準を短くするよう見直すことが可能と思われる。また、同様の理由によって、1回の打設高さ900mmについても、さらに高くすることも可能である。これによって、堰堤施工の全体工期を大幅に短縮されることが期待される。
【0027】
堰堤が1層(高さ約900mm)で十分な場合は、以上の一連の工程の後、堰堤周辺の埋め戻し部分を整え、施工完了となる。しかし、1層目の上面に2層目を積層して堰堤の高さを高くする場合は、2層目を積層する前処理として継目処理工程S60を行う。継目処理工程S60では、図4(a)に示すように、1層目で打設したコンクリートの
表面をブラシ22等できれいにしてさらに洗浄し、一層目の上面をできるだけきれいに整える作業を行う。これによって、一層目の上面と、積み上げ配置された2層目の粗石12bとの間に生じる隙間が小さくなり、密着性が高くなり、強度を高めることができる。
【0028】
継目処理工程S60以降の2層目の作業は、図4(b)に示す粗石配置工程S20と型枠設置工程S30、図4(c)に示す打設工程S40、図4(d)に示す養生工程S50という一層目と同様の工程が行われ、その後、堰堤周辺の埋め戻し部分を整え、本実施形態の砂防堰堤(例えば、高さ約1800mm)の施工が完了する。
【0029】
以上説明したように、この発明のコンクリート施工方法によれば、型枠設置工程S30において簡易に型枠が設置できるため、特殊な技能を必要としない。また、板部材16はコンクリート硬化後に取り外すことが容易であるため繰り返しの利用も容易に可能である。
【0030】
また、型枠設置工程S30において型枠は無駄な間隙なく粗石群の周囲を取り囲むことができ、さらに、堰堤を多層に積層して形成する場合も、隙間なく積み重ねることによって、構造物全体としての高い強度を得ることができる。
【0031】
また、高強度コンクリートを用いることによって、従来必要であった粗石洗浄工程や締め固め工程が省略できる他、打設後の養生期間を短縮することによって、全体工期の大幅な短縮が可能となる。
【0032】
また、一般的な建設機械だけで施工可能な工法であるため、全国の施工現場で適用することができる。さらに、吊り下げという危険な作業がないため、工事遂行の安全性向上も図られる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではなく、型枠を形成する板部材は、養生工程において引き抜き可能な引き抜き抵抗の表面形状であればよい。また、材質や板厚についても、施工時にコンクリート、粗石、埋戻土砂等によって加えられる圧力に耐えられる強度を有するものであれば、鉄以外の金属や木材等であってもよい。また、板部材が安価であって再利用する必要がない場合には、上記のように引き抜き可能な形状でなくてもよい。
【0034】
また、堰堤の積層回数および1層の打設高さ、選別使用する粗石の粒径、高強度コンクリートの性質(流動性及び硬化後の強度)、養生期間などは、施工現場の地質や地形などに鑑みて適宜設定することができるものである
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明のコンクリート施工方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】この実施形態の選別工程を説明する略図である。
【図3】この実施形態の堰堤(1層目)を施工する各工程を説明する略断面図である。
【図4】この実施形態の堰堤(2層目)を施工する各工程を説明する略断面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 バックホウ
12 採掘土砂
12b 大粒径の粗石
14 河床
14a 施工箇所
14b 作業空間
16 板部材
18 埋戻土砂
20 高強度コンクリート
S10 選別工程
S20 粗石配置工程
S30 型枠設置工程
S40 打設工程
S50 養生工程
S60 継目処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含有するコンクリートを用いたコンクリート堰堤施工方法において、掘削された土砂から粒径80mm以上の粗石を選別する選別工程と、堰堤施工箇所に選別された前記粗石群を配置する粗石配置工程と、配置された前記粗石群の側壁周囲を型枠である板部材で取り囲む型枠設置工程と、高強度コンクリートを前記粗石群を取り囲んだ前記型枠内部に充填する打設工程と、打設後に前記高強度コンクリートを硬化させる養生工程とから成ることを特徴とするコンクリート堰堤施工方法。
【請求項2】
前記選別される粗石は、平均粒径が150mm〜500mmの粗石であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート堰堤施工方法。
【請求項3】
前記粗石配置工程と、前記型枠設置工程と、前記打設工程と、前記養生工程とを含む一連の工程を複数回行う際に、次層を前層の上に積層する前に、前層の上面を整える継目処理工程を設けることを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート堰堤施工方法。
【請求項4】
前記型枠設置工程で設置される前記板部材による型枠は、堰堤施工箇所に配置された前記粗石群の側壁面に複数の前記板部材の内面側を当接させ、その外面側に盛られた土砂で前記板部材を支えて形成され、前記養生工程の後、前記板部材を抜き取ることを特徴とする請求項1,2または3記載のコンクリート堰堤施工方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−162017(P2009−162017A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2126(P2008−2126)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(501028390)国土交通省北陸地方整備局長 (12)