コンクリート構造部材の健全性判定方法
【課題】コンクリート構造部材が化粧材で覆われていてもコンクリート構造部材の健全性を正確に判定する。
【解決手段】コンクリート構造部材1に不均一な温度分布となるように温度変化を与え、その後予め定められた時間間隔ごとにハンマー8でコンクリート構造部材1を打撃するなどの手法で得られた自由振動からコンクリート構造部材1の固有振動数を求め、固有振動数の変化の挙動例えば増加あるいは低下などの定性的変化あるいは過度の増加率などの定量的変化から、コンクリートの損傷の有無もしくは鉄筋の構造性能などを診断してコンクリート構造部材としての健全性を評価するものである。
【解決手段】コンクリート構造部材1に不均一な温度分布となるように温度変化を与え、その後予め定められた時間間隔ごとにハンマー8でコンクリート構造部材1を打撃するなどの手法で得られた自由振動からコンクリート構造部材1の固有振動数を求め、固有振動数の変化の挙動例えば増加あるいは低下などの定性的変化あるいは過度の増加率などの定量的変化から、コンクリートの損傷の有無もしくは鉄筋の構造性能などを診断してコンクリート構造部材としての健全性を評価するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造部材の健全性判定方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、コンクリート構造部材例えば鉄筋コンクリート建物を構成している柱、梁、壁、床などのコンクリート構造部材の健全性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建物または鉄骨鉄筋コンクリート造の建物を構成している柱、梁、壁、床などのコンクリート構造部材の健全性を判定する方法がこれまで種々提案されている。コンクリート構造部材の健全性の判定方法としては、ひび割れの目視調査による方法が一般的であり、コンクリート構造部材の表面のひび割れの長さ、幅、発生パターンなどが判断情報とされる。
【0003】
そこで、鉄筋コンクリート構造物表面に生じているひび割れ状態を画像計測によって自動的に検出し、構造物の損傷度を診断する方法が提案されている(特許文献1)。また、ひずみを記憶できる線状のセンサもしくは歪みセンサを予めコンクリート構造部材に埋設しておき、センサのひずみを検出することによってコンクリート構造部材が経験したひずみを評価し、損傷度を診断する方法も提案されている(特許文献2、特許文献3)。また、光ファイバをセンサとして予めコンクリート構造部材に埋め込んでおき、その光ファイバからの出力を監視することでコンクリート構造部材の健全性を診断する方法が提案されている(特許文献4)。また、建物の常時微動を計測し、その計測記録に含まれる建物全体の振動成分のみを抽出することによって、建物の固有振動数や固有モードなどの振動特性を同定し、振動特性が建物の損傷前後で変化する現象を利用して、振動特性を長期的にモニタリングすることによって構造健全性を診断する方法も提案されている(特許文献5)。
【0004】
さらに、鉄筋コンクリート造の建物または構造部材の健全性を判定する方法としては、鉄筋量(鉄筋比)の適正量を確認することを目的として、電磁波やX線を用いてコンクリート内部を透視する方法も多用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−35528号
【特許文献2】特開2005−337818号
【特許文献3】特開2005−337819号
【特許文献4】特開2005−257570号
【特許文献5】特開2003−322585号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ひび割れの目視調査による方法や特許文献1の診断方法では、コンクリート構造部材の表面が露出していなければ実施できない問題がある。即ち、コンクリート建物あるいは構造部材の場合、化粧材で覆う工法を採ることが多く、化粧材を剥がしてコンクリート構造部材の表面を露出させなければならずコストと時間を費やしてしまうことになる。
【0007】
また、特許文献2から4の技術はいずれも評価できるひずみはセンサが埋設された位置に限られてしまう。即ち、構造部材の損傷箇所とセンサを埋め込む位置が一致する必要があり、センサの埋め込み位置を事前に予想する必要がある上に、損傷発生箇所が事前の予想と外れるとセンサが機能しない問題がある。また、コンクリート構造部材に予めセンサを埋設させることにより成立する手法であるため、評価できるコンクリート構造部材はセンサが埋設された新設のものに限られ、既設のコンクリート構造部材には適用することができない。既設のコンクリート構造部材に適用する場合には、センサを埋設するために部分的に破壊するなど、損傷なく実施することはできない問題がある。
【0008】
また、特許文献5記載の診断方法は、損傷前後の振動特性の変化に基づいて建物の構造健全性を評価するため、損傷前の振動特性として建物の新築時の固有振動数のデータが必要であり、新築時(健全時)のデータが存在しない既設の建物には適用できない問題がある。また、コンクリート構造部材のコンクリートの損傷や鉄筋の構造性能を知ることもできない。しかも、新設時のコンクリート構造部材の固有振動数のデータが入手できたとしても、それが健全なコンクリート構造部材であるという保証もない。
【0009】
さらに、電磁波やX線を用いて非破壊で鉄筋を調査する方法においても、鉄筋の存在や配置を知ることはできても、鉄筋の付着などの構造力学的な性能を評価できていない問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、コンクリート構造部材が化粧材で覆われていても、コンクリート構造部材の健全性を正確に判定することができる健全性判定方法を提供することを目的とする。また、事前の予測が困難な損傷をも検知可能なコンクリート構造部材の健全性判定方法を提供することも目的とする。さらに、コンクリート構造部材が新設されたものか既設のものであるかに関係なく、健全時の固有振動数のデータが無くともその健全性を判定することができるコンクリート構造部材の健全性判定方法を提供することも目的とする。さらには、本発明は、現段階において健全であると評価されたコンクリート構造部材に対し、進行しているコンクリートの構造上の劣化あるいは鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損を診断し、将来のコンクリートの損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化を早期に予測可能とするコンクリート健全性評価方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明者等がコンクリート構造部材に不均一な温度分布となるような温度変化を与えたときの固有振動数の変化とコンクリート構造部材の健全性との関連について種々実験・研究を実施した結果、コンクリート部分が健全であるときは加温すると固有振動数が上がるか一定に推移し、損傷があるときは加温すると固有振動数が下がることを知見するに至った。
【0012】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与えると、コンクリート構造部材では圧縮応力と引っ張り応力が同時に発生するような温度応力が発生する。この温度応力によりコンクリート構造部材の主要な材料であるコンクリートのヤング係数が変化する。他方、コンクリート構造部材のもう一つの主要な材料である鉄筋のヤング係数は、コンクリートが損傷しない程度の温度変化であればほとんど変化しない。そして、ヤング係数はコンクリート構造部材の固有振動数を決める定数のひとつであるため、ヤング係数が変化すればコンクリート構造部材の固有振動数も変化する。
【0013】
温度応力分布は、鉄筋とコンクリートを含めた全てのコンクリート構造部材のものであり、鉄筋とコンクリートを合算したものである。つまり、全部材断面に発生した温度応力は、鉄筋とコンクリート部分で分配することになる。鉄筋量が多いほどコンクリートが負担する応力が小さくて済むことになる反面で、鉄筋量が少ないほどコンクリートの負担する応力が大きくなる。極端な例として、鉄筋が全く入っていない無筋コンクリートでは、発生した温度応力はその全部がコンクリートによって負担されることとなる。
【0014】
したがって、温度応力がコンクリート部分に大きく作用するほど、コンクリートの弾性係数(ヤング率)が大きくなり、コンクリート構造部材が堅くなり、固有振動数が増加する、というメカニズムが成り立っているものと考えられる。このメカニズムによれば、コンクリート部分の温度応力が大きいほど、部材の固有振動数は増加することとなる。つまり、鉄筋が少なく、コンクリートに作用する応力が大きくなると、部材の固有振動数の増加量は大きくなる。反対に、鉄筋が多く、コンクリートに作用する応力が小さいと、部材の固有振動数の増加量は小さくなる。また、鉄筋が存在していても、鉄筋とコンクリートとの係着力が低下すれば、コンクリートに作用する応力の配分が増えるため、コンクリート構造部材全体としては固有振動数が増加することとなる。
【0015】
つまり、本発明者等の実験から得られた知見によれば、コンクリート構造部材の鉄筋比並びにコンクリートの構造上の損傷と、コンクリート構造部材の温度変化が与えられた後の固有振動数の変動パターンとの間には、以下の(a)〜(c)の特徴がある。
(a)コンクリート部分が健全である場合には、加温後の固有振動数が増加する。
(b)コンクリート部分が健全である場合に限れば、鉄筋比が小さいほど、加温後の固有振動数の増加率は大きくなる。
(c)コンクリート部分が健全でない場合には、加温後の固有振動数は減少する。
【0016】
そこで、部材断面内で不均一な温度分布となるように温度変化をコンクリート構造部材に与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定すれば、「固有振動数が少し上がる」若しくは「一定に推移する」、「たくさん(過度に)上がる」、「下がる」といった定性的な現象からコンクリートの損傷状態を推定することができ、また温度変化を与えたときの固有振動数の増加率を求めて鉄筋の構造性能の評価指標としたり、さらには予め固有振動数の増加率と鉄筋比との相対関係を求めておくことにより固有振動数の増加率から鉄筋比を定量的に推定することができる。鉄筋の存在、ひいては鉄筋量の推定並びに鉄筋とコンクリートとの付着力(コンクリートと鉄筋との間の隙間の増大やなじみの悪化)の診断にも使える。
【0017】
また、コンクリート構造部材のコンクリート並びに鉄筋の構造性能の状況は、固有振動数の増加率として定量的に把握できることから、健全性判定を定期的に実施して温度変化を与えたときの固有振動数の増加率の経年的変化を分析することで、将来におけるコンクリート並びに鉄筋の構造性能の劣化を構造上の致命的な損傷に至る前に早期に予測することができる。
【0018】
即ち、本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、上述の知見に基づくものであって、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出し、固有振動数の変化が増加する傾向もしくは一定に推移する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷無し、減少する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷有りと判定するものである。
【0019】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じたコンクリート構造部材の振動からその固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、経時変化のパターンから固有振動数の変化方向を判定するものである。
【0020】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材の固有振動数の変化を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により、温度変化を与えた後の固有振動数の変化を求めるものである。
【0021】
また、請求項4記載の発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定して固有振動数の増加率を求め、前記増加率と健全なコンクリート構造部材の前記温度変化時の固有振動数の増加率と比較することにより鉄筋の構造性能を評価指標としてコンクリート構造部材の健全性を判定するものである。
【0022】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、鉄筋比が既知のコンクリート構造部材に不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の増加率と鉄筋比との相関関係を予め求めておき、この相関関係を用いて温度差を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の増加率から鉄筋比を推定するものである。
【0023】
また、請求項6記載の発明は、請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与えた状態でコンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた振動から固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、該パターンから固有振動数の増加率を判定するものである。
【0024】
請求項7記載の発明は、請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材の固有振動数の増加率を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により求めるものである。
【0025】
請求項8記載の発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が減少傾向にあるときには、コンクリートの損傷もしくは将来的にコンクリートの損傷に至る可能性のある軽度な劣化のいずれかが進行しつつあることを診断するものである。
【0026】
請求項9記載の発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が増加傾向にあるときには鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損が進行し鉄筋の構造性能の劣化が進行しつつあることを診断するものである。
【0027】
ここで、本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、気温または日照などの自然現象により実現されるものであっても良いし、人工熱源により強制的に加温されることにより実現されるようにしても良い。また、請求項5から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法、即ち鉄筋の構造評価を行う場合にコンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に冷却されることによる相対的温度差を与えることによって実現されるものであっても良い。また、人工熱源により強制的に加温あるいは冷却を行って不均一な温度変化をコンクリート構造部材に与える場合には、コンクリート構造部材の全ての面を加温あるいは冷却しても良いが、好ましくは一部の面、より好ましくは一つの面に対して加温あるいは冷却することであり、場合によっては一方の面を人工熱源により強制的に加温し、同時に他方の面を冷却することにより制御された温度分布を与えることで不均一な温度変化を実現するようにしても良い。さらに、人工熱源としては、コンクリート構造部材に直接貼り付けられたヒータや、冷暖房装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出するだけであるので、仮にコンクリート構造部材が化粧材で覆われていてもその化粧材の上からでもコンクリート構造部材に対して打撃を与えることによって固有振動数を得ることができ、化粧材を剥がさずにコンクリート構造部材の健全性を判定することができる。つまり、目視で確認できる箇所は勿論のこと、目視では確認できない箇所であってもコンクリート構造部材の健全性を判定することができる。さらには、コンクリート構造部材の表面に現れない内部の欠陥の有無も検出できる。
【0029】
また、本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、不均一な温度分布となる温度変化を与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化に基づいて損傷の有無を判定することができるので、コンクリート構造部材で損傷しそうな箇所を予測してその部分にひずみを検出するためのセンサなどを埋設しておかなくてもコンクリート構造部材の損傷を検出することができる。つまり、評価対象となるコンクリート構造部材(例えば、柱)のどこに損傷が発生するのか未知であったとしても、損傷の発生の有無を検出できる。また、コンクリート構造部材に予めセンサーを埋め込む必要がないので、コンクリート構造部材に傷を付けることもなければ、既存のコンクリート構造部材に対しても診断可能である。
【0030】
さらに、本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、不均一な温度分布となる温度変化を与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化に基づいて、コンクリートの損傷の有無あるいは鉄筋の付着などの構造力学的な妥当性や鉄筋量の適正量の評価ないし鉄筋の有無を判定できるので、比較用のサンプルやコンクリート構造部材の新設時(健全時)の固有振動数のデータが無くとも、コンクリート構造部材の健全性を判定することができる。即ち、既設のコンクリート構造部材であっても、コンクリートの損傷の有無あるいは鉄筋の付着などの構造力学的な妥当性や鉄筋量の適正量の評価ないし鉄筋の有無などのデータが全く保証されていない新設のコンクリート構造部材であっても、それらの健全性について判定することができる。
【0031】
また、本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定して固有振動数の増加率を求め、この固有振動数の増加率を健全なコンクリート構造部材の固有振動数の増加率と比較することにより、鉄筋の構造性能を評価指標としてコンクリート構造部材の健全性を判定することができる。この判定方法は、微小なひずみ範囲の試験ではあるが、実際の構造力学的な性能を直接評価でき、鉄筋の付着などの構造力学的な妥当性についても評価でき、さらには鉄筋の存在ひいては鉄筋量の推定並びに鉄筋とコンクリートとの付着力(コンクリートと鉄筋との間の隙間の増大やなじみの悪化)の診断にも適用できるものである。
【0032】
さらに、本発明によると、鉄筋比が既知のコンクリート構造部材に不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の増加率と鉄筋比との相関関係を予め求めておき、この相関関係を用いて固有振動数の増加率から鉄筋比を推定するようにしているので、力学的な見地にたって鉄筋量(鉄筋比)と付着力を含めた鉄筋の構造性能を直接評価でき、さらに補助的データとの併用により鉄筋の存在ひいては鉄筋量の推定あるいは鉄筋とコンクリートとの付着力の診断が可能となる。
【0033】
さらに、本発明によると、コンクリート構造部材に対して温度を与える仕掛けや、自由振動を与える仕掛けが簡略なもので足りる。
【0034】
さらに、本発明は、健全性評価を定期的に実施して、温度変化を与えたときの固有振動数の増加率のデータを蓄積すると共にその時系列的推移の傾向からコンクリート損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化の進行状況を診断するようにしているので、現段階で健全であると評価されるコンクリート構造部材の劣化の進行状況と将来のコンクリート損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化を致命的な損傷に至る前に早期に予測することができる。したがって、例えば、鉄筋比の最低限度を予め求めておけば、定期に健全性判定を実施している時に、次の定期点検時には、鉄筋比が最低限度を超える可能性が高く、何らかの措置を講じるべきである、といった判断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0036】
図1〜図6に本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法の実施形態の一例を示す。本実施形態のコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化(本明細書では単に不均一な温度変化とも略称する)を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出し、固有振動数の変化からコンクリート構造部材の健全性を判定するものである。なお、本実施形態におけるコンクリート構造部材1とは、例えば鉄筋コンクリート建物を構成している柱、梁、壁、床などが例に挙げられるが、これに特に限られるものではなく、プレキャストコンクリート板やコンクリート建物、鉄骨鉄筋コンクリート建物および鉄骨コンクリート建物の一部分なども含むものである。
【0037】
コンクリート構造部材への温度変化の与え方は、少なくともコンクリート構造部材の断面内の温度分布が不均一になるように与えられるものであれば良く、加温されたり冷却される面が限られたり、熱源の種類や加温手法ないし冷却手法に特に限定されるものではない。例えば、コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、気温または日照などの自然現象により実現されるものであっても良いし、人工熱源により強制的に加温されることにより実現されるようにしても良い。また、鉄筋の構造性能の評価を行う場合には、コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に冷却されることによる相対的温度差を与えることによって実現されるものであっても良い。
【0038】
また、人工熱源により強制的に加温あるいは冷却を行って不均一な温度変化をコンクリート構造部材に与える場合には、コンクリート構造部材の全ての面を加温あるいは冷却しても良いが、好ましくは一部の面、より好ましくは一つの面に対して加温あるいは冷却することであり、場合によっては一方の面を人工熱源により強制的に加温し、同時に他方の面を冷却することにより制御された温度分布を与えることで不均一な温度変化を実現するようにしても良い。さらに、人工熱源としては、コンクリート構造部材に直接貼り付けられたヒータや、冷暖房装置であることが好ましい。さらに、本実施形態ではコンクリート構造部材1の表面にラバーヒーター5を貼り付けてコンクリート構造部材1を表面側から加温する例を挙げて説明しているが、ラバーヒーター5の代わりに例えばパネルヒーターまたはハロゲンヒーター、ストーブ等の放射熱を熱源とする暖房装置あるいはボイラーや煙突からの熱をコンクリート構造部材1の表面に近接させて加温するようにしても良い。コンクリート構造部材の一面のみをヒータなどの人工的熱源あるいは自然熱源で加温する場合が最も温度差が大きく不均一になるので好ましい。
【0039】
本発明においては、温度応力を発生させるために温度を不均一にすることが特に重要であり、温度応力が発生しさえすれば良い。さらに言えば、応力が大きいほど良い。例えば、二面をヒータ加温する場合にも、対向する二面にヒータを貼るよりも隣り合う二面にヒータを貼る方が、断面内で不均一な温度分布になるので、より大きな温度応力を発生させる上で好ましい。さらに、一面だけにヒータを貼った場合の方が、温度差即ち部材断面内での温度分布の不均一さが大きくなるので、はるかに有効である。また、4面のうち、隣接する2面にヒータを貼ることも効果的である。この場合には、断面内の対角線上に温度の勾配がきつくなり、温度差が大きくなるので有効である。さらには、柱の4面全てにヒータを貼り付けて同時に加温する場合においても、加温し始めた当初は周囲と中心とで温度差が発生しているので、有効である。しかし、この場合、時間の経過とともに周囲と中心の温度差が小さくなるので、固有振動数の変化を検出する作業を早期に行う必要がある。十分に時間が経過した後は断面内の温度分布が均一になってしまうと、もはや温度応力が発生していないので、有効なデータが取得できない。
【0040】
ここで、鉄筋が入っていないコンクリートは、表面温度差が20℃を超えると、ひび割れが入る可能性があるといわれていることから、コンクリート構造部材に与えられる温度変化によって生じる最大温度差例えば表裏面間の温度差は少なくとも20℃以下であることが望ましい。他方、温度差が5℃程度では固有振動数の変化が小さく不適当であると思われる。そこで、コンクリート構造部材1の部材断面内に不均一な温度分布が生じるような温度変化によって生ずる表面温度差は、10℃〜15℃、好ましくは10℃程度である。
【0041】
さらに、加温時間としては、コンクリート構造部材1の断面内に与えられる不均一な温度変化換言すれば表面温度差が上述の適切な範囲内に達すると共に加温前後の固有振動数が十分に比較できる固有振動数の経時変化の波形パターンが得られる程度の不均一な温度変化が保たれる時間(温度応力が発生する時間内)であり、実験データから推定すれば1〜2時間程度が妥当であると思われる。
【0042】
また、不均一な温度変化が与えられたコンクリート構造部材の固有振動数を測定するには、打撃力の付加などで自由振動を生じさせ、その自由振動を振動センサなどで検出することによって行われる。なお、加温開始後に断続的に打撃を加えるなどの方法によって、コンクリート構造部材の固有振動数の経時変化を波形として検出する場合には、コンクリートを加温した後の固有振動数の変動カーブを読み取ることで診断することになる。即ち、加温開始後の固有振動数の経時変化の傾向だけで健全性を評価できるので、コンクリートを加温する前の固有振動数は不要である。しかしながら、固有振動数の変動カーブを正確に読み取るには、コンクリート構造部材を加温する前の固有振動数を求めておくことは有用である。この加温前の固有振動数のデータがあれば、必ずしも打撃を繰り返して固有振動数の変動カーブを求めなくとも、加温開始から一定時間経過したときの固有振動数と温度変化を与える前の固有振動数とを比較することにより、温度変化を与えた後の固有振動数の変化が増加しているのか、減少しているのか、換言すればコンクリートが損傷しているのか否かを判断できる。そこで、加温前の固有振動数の測定についても求めておくことが望ましい。
【0043】
ところで、コンクリート構造部材を加温する前にも、日照や気温、室温の変動によって、コンクリート構造部材には不均一な温度が作用していて、しかもそれが変動しているので、それらの自然な温度変動によって固有振動数がふらつくことは考えられる。しかしながら、その温度変動は、人工的に与えられる表裏面の温度差あるいは意図的に与えられる温度差に比べると、無視できる程度の温度変化である。そこで、加温前特に加温直前の固有振動数としては、1点の試験値によっても良いし、複数の試験値の統計量を用いるようにしても良いが、変動の影響をより排除できる統計量の採用が好ましい。統計量としては、平均値、中央値(メジアン)、最頻値のいずれの使用も可能であるが、中央値を採用する方が突発的な原因による固有振動数の変動の影響を受けずに安定した数値が得られる場合が多い。なお、中央値とは、測定値に大きいほうから番号を付けて、真ん中の番号に相当する測定値の値を指す。
【0044】
図1に本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法を実施するコンクリート構造部材の健全性判定装置(以下、「健全性判定装置」と称する)の一例を示す。この健全性判定装置4は、コンクリート構造部材1の一つの面(以下、本実施形態ではこの面を「表面」、その反対側の面を「裏面」、それ以外の面を「側面」と称する)に貼り付けてコンクリート構造部材を表側から加温するラバーヒーター5と、コンクリート構造部材1を打撃してコンクリート構造部材1に自由振動を生じさせる自由振動発生装置9と、コンクリート構造部材1の自由振動を検出する振動センサ10と、この振動センサ10で得られた振動波形から固有振動数を算出するとともにその算出結果を時系列に沿って記録する振動分析装置11とを備えている。自由振動発生装置9は、実験台の床3に立てられている一対の支柱6と、その間に回動軸7を介して逆さに吊り下げられているハンマー8と、該ハンマー8をタイマー作動により一定の時間間隔で回動軸7周りに持ち上げるように回転させて駆動装置(図示省略)とを有し、駆動装置によって持ち上げられたハンマー8を自由落下により回転させてラバーヒーター5の上からコンクリート構造部材1の表面の中央部分を水平方向に打撃させるようにしている。勿論、人手によってハンマーなどでコンクリート構造部材を打撃するようにしても良い。振動センサ10はコンクリート構造部材1の一つの側面の中央の高さに設置され、コンクリート構造部材1の自由振動を検出する。
【0045】
自由振動発生装置9のハンマー8は予め定められた時間間隔(例えば2分間隔)でモーター(図示省略)の駆動力によって作動し、コンクリート構造部材1に一定の力で打撃を与える。ハンマー8によるコンクリート構造部材1の打撃は、例えばコンクリート構造部材1の中央(柱状物であれば中央高さ位置)を、コンクリート構造部材1に損傷を与えることのない軽い力で行なわれる。ハンマー8でコンクリート構造部材1を打撃すると、コンクリート構造部材1の振動の形状は図3に示すようにコンクリート構造部材1の中央部分で振動振幅が最も大きくなるような振動の形状となる。振動センサ10はハンマー8による打撃が行われる毎にコンクリート構造部材1で生じる自由振動を検出し、その検出結果を示す信号を振動分析装置11に出力する。一定の時間間隔(2分間隔)で打撃することで、固有振動数の経時変化のパターン(プロフィール)を得るようにしている。振動分析装置11は、予め定められた制御プログラムに基づいて作動する例えばCPUからなる制御部11aと、データを記憶するためのメモリ11bとを備えている。制御部11aは振動センサ10から入力された検出結果即ち自由振動波形を図4に示すように加速度の時系列データとしてメモリ11bに記録する。制御部11aは図4に示す自由振動波形から繰り返し周期を読み取り、その周期の逆数を算出し、その算出結果を固有振動数としてメモリ11bに時系列に沿って記録するとともに、振動分析装置11に接続されている表示装置12に固有振動数の経時変化の態様を表示する。
【0046】
以上のように構成された健全性判定装置4を利用してコンクリート構造部材1の健全性を判定する場合、先ず、自由振動発生装置9と振動分析装置11を稼動させて、予め定められた時間間隔ごとにハンマー8でコンクリート構造部材1を打撃して、その打撃によって得られた自由振動からコンクリート構造部材1の固有振動数を求め、それをメモリ11bに時系列に沿って記録するとともに表示装置12にその経時変化の態様を表示する。そして、コンクリート構造部材1の表面をラバーヒーター5で加温し、引き続き固有振動数をメモリ11bに時系列に沿って記録して行くとともに表示装置12にその経時変化の態様を表示して行く。
【0047】
コンクリート構造部材1の表面部分の温度が上昇すると、その部分が熱膨張して伸びようとする。その一方で、コンクリート構造部材1の裏面はラバーヒーター5からの熱が伝達されにくいため、あるいは仮に熱が伝達されても図5に示すようにコンクリート構造部材1の表面よりも温度の上昇幅が小さいため、コンクリート構造部材1の裏面部分は熱膨張しないか、あるいはほとんど熱膨張しない。このようなコンクリート構造部材1の表面部分と裏面部分の熱膨張の違いにより、コンクリート構造部材1には図6に示すように圧縮応力と引っ張り応力が発生する。これらの応力の発生によってコンクリート構造部材1のコンクリート部分のヤング係数が変化する。ヤング係数はコンクリート構造部材1の固有振動数を決める定数の一つであるため、ヤング係数が変化すればコンクリート構造部材1の固有振動数も変化する。
【0048】
したがって、コンクリート構造部材1不均一な温度変化を与えた状態でコンクリート構造部材1に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた振動から固有振動数を算出し、その固有振動数の経時変化をモニタリングすることにより、固有振動数の経時変化のパターンからコンクリート構造部材1のコンクリート部分の健全性の判定を、さらには固有振動数の増加率あるいは増加量から鉄筋量の把握を行うことが可能になる。しかも、ひび割れの診断と鉄筋比の診断は、ともに温度変化を与えたときの固有振動数の変化の挙動に基づいて判断されることから、固有振動数の増加率あるいは増加量より好ましくは変化量の経時変化のパターンを求めておけば、一度の試験もしくはデータで、コンクリートの損傷と鉄筋の構造性能の双方について評価指標としたコンクリート構造部材の健全性を以下のようにして評価できる。
【0049】
(コンクリート損傷の評価)
コンクリートの損傷に関しては、不均一な温度分布となる温度変化を与えたときの固有振動数の変化を模式的に説明した図7に示すように、加温直後に固有振動数が少しでも上昇すれば健全と判定される。例えば、図7で経路Aを通った場合には、加温直後に固有振動数が増加しているので『健全』と診断される。一方で、経路B(点線)を通った場合即ち固有振動数が減少した場合には、コンクリートに『損傷あり』と診断される。したがって、不均一な温度変化を与えている時の固有振動数の経時変化のパターンが減少する傾向にあるとき、あるいは温度変化を与えた後の固有振動数が温度変化を与える前の固有振動数よりも小さくなったときに、コンクリートに構造上の損傷有りと判定することができる。
【0050】
つまり、コンクリート構造部材の部材断面内での温度分布が不均一となるように温度上昇させると、温度応力が発生するので健全なコンクリート部分が硬くなり、固有振動数は増加する。この温度応力による固有振動数の増加量は、『加温による材料軟化』による僅かな減少量よりもはるかに大きいので、健全な鉄筋コンクリート部材を不均一に温度を上昇させた場合には、『加温による材料軟化』による僅かな減少量は相殺されて、固有振動数は上昇することになる。他方、ひび割れの入った鉄筋コンクリート部材を不均一に温度を上昇させた場合には、ひび割れが開くことによって固有振動数は減少する。この固有振動数の変化が固有振動数の増加ないし一定の推移あるいは減少となって顕在化する。
【0051】
即ち、固有振動数の変動要因としては、以下の3つがある。
(H1)不均一に加温して温度応力が生じることによる固有振動数の増加
(H2)『加温による材料軟化』による固有振動数の微減
(H3)加温でコンクリートのひび割れが開くことによる固有振動数の減少
このうち、(H1)と(H3)に比べて、(H2)は無視できるほど小さく、さらに、(H3)は(H1)よりも変化量として大きい。そこで、不均一な温度上昇の因子を入れて(H1)の効果を入れることで、固有振動数の変化が増加する傾向にあるとき、もしくは一定に推移する傾向にあるときにはコンクリート損傷無し、減少する傾向にあるときにはコンクリートに損傷有りとの関係が成立し、コンクリートの健全性を評価・判定することが可能となる。
【0052】
ここで、以上のような意味から、コンクリート構造部材を均一に加温しても、(H2)、(H3)による固有振動数の変動によってコンクリートのひび割れを検知できるが、(H1)の効果を考慮に入れて片面のみを加温するなどの不均一な加温による温度変化を与えた方が、加温後の固有振動数の変化の方向がひび割れの有無によって反転するため、コンクリートのひび割れの有無が明瞭に見分けられることからより確実にひび割れを検知する上で好ましい。
【0053】
なお、本発明のコンクリートのひび割れの診断においては、ひび割れをなるべく大きく成長させることが重要であることから、不均一な温度変化を与えるとしてもそれは加温によることが好ましく、冷却によって不均一な温度変化を与えることは固有振動数の変化を検出する上では好ましくない。しかし、診断精度向上のため、一面の温度を上げるのみでなく、その他の面の温度を冷却して温度上昇を防止することで部材断面内の温度分布を任意に制御することが望まれる場合もある。
【0054】
ちなみに、本発明が対象とするコンクリートの損傷とは主にひび割れと剥落である。このふたつで、他の形態の損傷状況をほとんどカバーできる。したがって、本発明のコンクリート構造部材の判定方法によれば、これらコンクリートの構造上の損傷は全てカバーできる。なお、ひび割れは、亀裂が入るがコンクリート塊として部材にくっついた状態、剥落は亀裂が大きく入りコンクリート塊として部材から外れた状態をいう。
【0055】
(鉄筋の構造性能の評価)
鉄筋の構造性能の診断は、上述のコンクリート損傷診断で健全と判定されることが前提である。そして、コンクリート部分にひび割れなどがない健全な場合には、鉄筋コンクリート部材に不均一な温度変化、例えばコンクリート構造部材の片面をヒータで一定時間加温した場合の固有振動数の変化は、鉄筋が適正量でかつ鉄筋とコンクリートの係着力が十分である健全なコンクリート構造部材に比べて、鉄筋の構造性能が劣る程、換言すれば鉄筋比が小さいあるいは鉄筋とコンクリートとの係着力が低下している程に、増加率・増加量が大きくなる傾向にある。
【0056】
即ち、コンクリート構造部材に不均一な温度変化が与えられることによって発生する温度応力は、鉄筋とコンクリートを含めた全ての鉄筋コンクリート部材のものであり、鉄筋とコンクリートを合算したものとして表れる。つまり、全部材断面に発生した温度応力は、鉄筋とコンクリート部分で分配することになる。そこで、鉄筋量が少ないほど、コンクリートが負担する応力が大きくなることになる。極端な例として、鉄筋が全く入っていない無筋コンクリートでは、発生した温度応力は全部をコンクリートで負担することになる。したがって、温度応力がコンクリート部分に大きく作用するほど、コンクリートの弾性係数が大きくなり、鉄筋コンクリート部材が堅くなって固有振動数が増加するというメカニズムが成立するものと推定される。このメカニズムによれば、コンクリート部分の温度応力が大きいほど、部材の固有振動数は増加する。つまり、鉄筋が少なく、コンクリートに作用する応力が大きくなると、部材の固有振動数の増加量は大きくなる。反対に、鉄筋が多く、コンクリートに作用する応力が小さいと、部材の固有振動数の増加量は小さくなる。したがって、適正な鉄筋比で損傷無く製造されたコンクリート構造部材(健全なコンクリート構造部材と呼ぶ)の不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の変化パターンあるいは増加量・増加率を基準にすれば、それよりも固有振動数の変化が大きくなるパターンでは鉄筋比が小さい(鉄筋量が少ない)か、鉄筋に対するコンクリートの付着力が弱い状態であり、総合的に鉄筋の構造性能が劣化している状態であると判断できる。なお、鉄筋比は鉄筋の量、付着性能はコンクリートに対する補強の質を表すもので、量と質が十分であるとき、鉄筋は所要の構造性能を有するものとする。
【0057】
ここで、コンクリート部分にひび割れなどがない健全な鉄筋コンクリート部材に不均一な温度変化を与えた場合の固有振動数の時間経過は、図8に示すように模式的に表せる。つまり、不均一な温度変化を与えているときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化は、加温を開始すると、固有振動数が急激に上昇して、最大値f1まで達する。加温の時間が長いと、加温中に固有振動数が下降していく場合もある。そして、加温を停止すると、固有振動数は低下して行き、最初の振動数f0を下回り、最小値f2に達した後、元のf0に戻って行く。なお、加温前の固有振動数がf0である。
【0058】
このときの固有振動数の増加率は、例えば次の二通りの計算式で与えられる。一定温度での加温条件(例えば、表面温度差10℃)での固有振動数の増加率Δfを次式で定義する。
Δf=(f1-f0)/f0×100 (単位%) …(1)
Δf=(f1-f2)/f0×100 (単位%) …(2)
【0059】
そこで、鉄筋比を色々変えた条件で、鉄筋コンクリート柱を加温したときの固有振動数の変動パターンを実験などにより求めて、式(1)あるいは式(2) による固有振動数の増加率と鉄筋比の相関関係を予め求めておけば、固有振動数の増加率を検出するだけで、対象となるコンクリート構造部材1の鉄筋比を評価できる。なお、コンクリート構造部材の断面寸法やコンクリート材料の物性によって(スケール効果によって)、固有振動数の増加量(もしくは低下量、即ち絶対量)は変化する。しかし、初期の固有振動数で基準化した増加率を用いることでこのスケール効果を排除できる。これによって、コンクリート構造部材の断面寸法やコンクリート材料の物性に考慮する必要が無くなる。そこで、本実施形態では固有振動数の増加率を評価指数として用いることとしているが、場合によっては固有振動数の変化量や変化パターンそのものを用いて固有振動数の変化を把握するようにしても良い。
【0060】
固有振動数の増加率と鉄筋比の関係は例えば図9に示すような基準曲線になる。当然、式(1)と式(2)では基準曲線は異なる。実用上は、鉄筋コンリート部材の加温試験をして、式(1)もしくは式(2)で定義される固有振動数の増加率Δfを計算し、図9の基準曲線に当てはめてΔfから鉄筋比を図から求める、という手順をとることとなる。
【0061】
ここで、コンクリート構造部材の鉄筋比の評価値が低いとき(即ち、固有振動数の増加率が大きいあるいは変化量が大きなパターンを示すとき)、その原因が鉄筋比の不足によるものか、付着性能の不足によるものなのかまでは判断できない。しかし、いずれに原因があるか特定できないとしても、構造力学的に鉄筋の構造性能がコンクリート構造部材としての健全性に影響を与える程度に低い状態にあることは判明するので、コンクリート構造部材の健全性判定には十分な評価指標となる。即ち、鉄筋が入っていても、コンクリートとの間の付着力が発生していないと無筋状態と等価であり、付着力が低いと鉄筋比が小さいのと等価である。しかも、X線検査や電磁波検査などの公知の検査技術を併用すれば、鉄筋の存在、本数、太さについての評価ができるので、X線検査や電磁波検査の検査結果を参考にすれば、鉄筋の構造性能が低い原因が鉄筋に対するコンクリートの付着力にあるのかどうかまで特定することはできる。例えば、コンクリート構造部材の中の鉄筋の存在は、X線写真や電磁波などで鉄筋の存在は明らかにできるので、鉄筋の存在が他の検査手法で明かであるのに、それに対する鉄筋比が得られないときには付着性能が劣化していると判断することができる。なお、固有振動数の増加率と鉄筋比は逆相関の関係にあるので、固有振動数の増加率が上昇する場合には、鉄筋比の評価値としては低くなる。
【0062】
鉄筋比はあくまでも評価指標、あるいは評価項目のひとつであり、新築に係わる鉄筋コンクリート部材の鉄筋の性能が、構造力学的な見地から診断できるのは、本発明の特有の効果である。つまり、この点、現状のX線検査や電磁波検査では、鉄筋の本数や太さは評価できても、肝心の構造力学的に鉄筋の効果があるのか無いのかについては判定できない。したがって、鉄筋の本数や太さが適正量であっても、鉄筋に対するコンクリートの付着力に問題があれば、所望の鉄筋の構造性能を得ることができず、そのことは全く評価できないものであった。
【0063】
なお、鉄筋比を評価指数とするコンクリート構造物の健全性判定方法においては、コンクリート構造部材に対して与える不均一な温度変化は、加温だけでなく、冷却によっても同様の効果が得られる。
【0064】
(経年評価)
さらに、本発明は、健全時のデータを確保しておく必要がないことに特徴を有しているものの、健全時のデータを蓄積することにより、現段階では危険性が無い健全時のコンクリート構造部材のデータの変遷から、現在の劣化の進展状況並びに将来のコンクリートの損傷あるいは鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損に至る時期の予測を致命的な損傷が発生する以前に早期に行うことができる。
【0065】
即ち、コンクリート構造部材のコンクリート並びに鉄筋の構造性能の状況は、固有振動数の増加率として定量的に把握できることから、健全性判定を定期的に実施して温度変化を与えたときの固有振動数の増加率の経年的変化を分析することで、将来におけるコンクリート並びに鉄筋の構造性能の劣化を致命的な損傷が発生する以前に早期に予測することができる。
【0066】
例えば、本発明の試験を定期点検として新築直後から何度か実施した結果、図10に示すように固有振動数の増加率が経年的に増加しているデータが得られたときには、鉄筋の付着性能(鉄筋とコンクリートがしっかりと噛合っていること)の低下もしくは腐食による断面欠損(錆びて鉄筋が細くなること)が進行していると診断できる。鉄筋の付着性能は鉄筋が錆びてくると劣化する。鉄筋が錆びてボロボロになって付着性能が劣化すると、本発明から求めた鉄筋比の推定値は小さくなって行く。つまり、錆びる前と後では鉄筋比の推定値が変動し、小さくなる。ここで、固有振動数の増加率と鉄筋比は逆相関の関係にあるので、固有振動数の増加率が経年的に上昇すると鉄筋比の評価値は低くなる(見かけの鉄筋比が減少している)。ここで、構造上許容される最低限度の鉄筋比から固有振動数の増加率の上限値を逆算しておけば、鉄筋比が不足に転ずる時期を早期に予測することができる。例えば、図10では、30年後の時点で、次の10年間の間に鉄筋比が不足する恐れがあることを予期できる。
【0067】
また、図11に示すように固有振動数は0%を下回ることがない(加温後に振動数が増加する)が、経年的に減少しているデータが得られたときには、現段階ではコンクリートに損傷はないが、構造上の軽微な劣化が進行しており、いずれはコンクリートに損傷が発生する恐れがあると判断できる。例えば、図11では、30年後の時点で、次の10年以内に固有振動数の増加率がマイナスに転じる可能性が高いこと、すなわち、コンクリートにひび割れ損傷が発生する可能性が高いことが予測できる。
【0068】
さらに図示していないが、定期点検を実施した結果、加温時の固有振動数の増加率が経年的に一定であるデータが得られた場合には、コンクリートと鉄筋に構造上の損傷ないし劣化が存在しておらず、かつ進展していないと診断できる。
【0069】
以上のようにして、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、この温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して固有振動数の増加率のデータを蓄積し、増加率の時系列的推移が減少傾向にあるか、増加傾向にあるか、あるいは一定に推移するかによって、現段階でコンクリートあるいは鉄筋の構造性能に損傷が見られないと評価されるコンクリート構造部材のコンクリートの構造上の劣化あるいは鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損の将来における進行を致命的な損傷が発生する前に予測することができる。
【実施例】
【0070】
そこで、本発明者等は無筋コンクリート柱、健全な鉄筋コンクリート柱、コンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱のそれぞれについての固有振動数の経時変化のパターンを調べた。その結果、コンクリート構造部材1が無筋コンクリート柱である場合には加温時における固有振動数が急激に上昇し、コンクリート構造部材1が健全な鉄筋コンクリート柱である場合には加温時における固有振動数が僅かに且つ緩やかに上昇し、コンクリート構造部材1がコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱である場合には加温時における固有振動数が急激且つ大きく低下するという現象を知見・確認した。
【0071】
試験用コンクリート構造部材20として、鉄筋の入っていない無筋コンクリートと、鉄筋コンクリートと、鉄筋は入っているが、故意に損傷が与えられている損傷コンクリートとの3種類のコンクリート柱(以下、試験柱と呼ぶ)を用意した。ちなみに、損傷試験柱は、鉄筋試験柱の側方から手押しの油圧ジャッキで最大耐力に達するまで載荷して損傷を与えた。また、試験柱20のサイズは、10×10×56cmの柱状物である(図12及び図13参照)。そして、この3種類の同じサイズの試験柱に対して図1に示す健全性判定装置4を用いて固有振動数の経時変化をモニタリングする実験を行った。なお、この実験で使用される鉄筋コンクリート柱は四隅に直径1cmの鉄筋がかぶり厚(柱の外表面から至近の鉄筋の表面までの距離)10mmで入れられたものであり、鉄筋比は3.2%である。
【0072】
上記の3本の試験柱はいずれも同じ条件下で同じような状態で床3(図12及び図13参照)に立てられており、且つ、各柱に対して健全性判定装置4が同じようにセットされる。
【0073】
試験柱20は下端を床3に固定し、上端を自由端とした。自由振動発生装置9は試験柱20の上部にハンマー8による打撃を与え、振動センサ10は各柱の最上部に設置した。振動センサ10は振動分析装置11に接続した。また、振動分析装置11には表示装置12を接続し、この表示装置12の画面を通して固有振動数の経時変化をモニタリングできるようにした。また、試験柱20の一側面(以下、本実施例ではこの面を「表面」、その反対側の面を「裏面」と称する)にラバーヒーター5を貼り付けた。さらに、試験柱20のラバーヒーター5の設置面に温度計21、試験柱の裏面に温度計22を設置し、加えて試験柱20のラバーヒーター5の設置面寄りの内部に温度計23、試験柱20の裏面寄りの内部に温度計24を埋め込んだ。
【0074】
実験は室内温度25℃で一定とし、ラバーヒーター5による2時間の加温を1回の場合と、6時間サイクルで4回繰り返す場合とを実施した。ここで、ラバーヒーター5の熱量は、加温開始から2時間後に内外温度差(試験柱の表面温度と裏面温度との差)つまり温度計21で測られる温度と温度計22で測られる温度との差が10℃になるように調整した。具体的には、加温開始から2時間後にヒータで加温された表面温度が45℃、加温されていない裏面温度が35℃に達するように調整した。
【0075】
実験結果を図14に示す。図14(a)は温度計21〜24で測られる温度の経時変化を示すグラフである。図14(a)において、最も上に位置するグラフが温度計21で測られた温度の経時変化を示すものであり、その1つ下に位置するグラフが温度計23で測られた温度の経時変化を示すものであり、さらにその1つ下に位置するグラフが温度計24で測られた温度の経時変化を示すものであり、最も下に位置するグラフが温度計22で測られた温度の経時変化を示すものである。図14(b)は無筋コンクリート柱20の固有振動数の経時変化を示すグラフである。図14(c)は健全な鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフである。図14(d)はコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフである。ここで図14(a)の縦軸は温度計が示すコンクリート構造部材温度(℃)、図14(b)〜図14(d)の縦軸はコンクリート構造部材の固有振動数、図14(a)〜図14(d)の横軸は材齢を示しており、これは各試験柱を打設してからの日数で示されている。
【0076】
図14(b)及び図14(c)に示すそれぞれのグラフから、無筋コンクリート柱20の場合には加温時における固有振動数が急激に上昇し、健全な鉄筋コンクリート柱の場合には加温時における固有振動数が僅かに且つ緩やかに上昇することが分かる。換言すると、健全な鉄筋コンクリート柱の加温時の固有振動数の経時変化は無筋コンクリート柱20の場合に比べて上がり方が小さいことが分かる。このことから鉄筋比が小さいほど(鉄筋量が少ないほど)加温時の固有振動数の増加率が大きくなることが予測できる。また、コンクリート柱に鉄筋は含まれているがコンクリートに鉄筋が付着していない場合も無筋コンクリート柱20の固有振動数の経時変化のパターンとほぼ同様の固有振動数の経時変化のパターンが得られることが考えられる。
【0077】
反面、図14(d)に示すグラフから、コンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱は加温時には固有振動数が急激且つ大きく低下することが分かる。これにより、固有振動数が増加しているか、減少しているかで、健全な鉄筋コンクリート柱とコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱とを識別することができる。
【0078】
因みに本実験では、ラバーヒーター5による加温を6時間サイクルで4回繰り返して実施したが、加温を実施する都度同様の固有振動数の経時変化のパターンを得ることができた。したがって、固有振動数の経時変化のパターンには再現性があることが確認できた。
【0079】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では、コンクリート構造部材1を四角柱のおける固有振動数の経時変化のパターンをモニタリングする例を挙げて説明したが、コンクリート構造部材1は柱に限定される必要はなく、コンクリート構造からなる梁や床あるいは壁などであっても良い。例えば床の健全性を判定する場合には床の表面をラバーヒーター5やハロゲンヒーターなどで加温し、床の表面と裏面とで温度差を生じさせた状態で床に断続的に打撃を与えてその打撃によって生じる振動の固有振動数を求め、その固有振動数の経時変化をモニタリングすれば良い。
【0080】
また、本発明は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与えることにより温度応力を発生させる例を挙げて主に説明したが、コンクリートの全断面で一様に温度が上昇するように温度変化を与えてコンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出して、コンクリートの損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化を推定してコンクリート構造部材の健全性を評価することも可能である。コンクリートの全断面で一様に温度が上昇するように、つまり温度応力が発生しないように温度を上昇させれば、『加温による材料軟化』と称される現象でコンクリート構造部材に損傷が発生していなくても、固有振動数は僅かに減少する。したがって、コンクリート構造部材の温度を一様に上昇させると、(a)コンクリートにひび割れが無い健全なとき固有振動数は僅かに減少し、(b)ひび割れがあるとき固有振動数は大きく減少することとなる。そこで、この(a)と(b)の違いを、多数のデータを集めて一般化することにより、パターン比較で見分けることも可能である。
【0081】
また、コンクリート構造部材の診断法における温度変化を与える手段あるいは固有振動数を測定する手段については、上述の打撃による加振や人工熱源を使った加温の方法によれば、意図した通りの大きさの固有振動数や温度差を与えることが容易にでき、はるかに容易に診断ができるので好ましいが、これに加振方法や温度差付与方法は限られず、気温や日照を利用することも、さらにはこれら自然の熱源と人工熱源とを組み合わせることも可能である。例えば一方の面を冷却したりあるいは太陽光などによる放射加温と日陰などでの放射冷却との組み合わせによって温度変化を与えるようにしても良い。さらには、建物の内部を空調で強制的に温めたり、冷やしたりして、建物の内外の温度差を人工的に作り出すようにしても良い。さらには、コンクリート構造部材例えばコンクリート柱の中にヒータを予め仕込んでおいて、それをON/OFFする方法によっても周囲と中心で温度差が発生するので有効である。ただし、この場合、断面内の温度差は大きくならない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法を実施する健全性判定装置とコンクリート構造部材を正面側から見た構成図である。
【図2】本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法を実施する健全性判定装置とコンクリート構造部材を右側面側から見た構成図である。
【図3】コンクリート構造部材の振動の形状を示すイメージ図である。
【図4】コンクリート構造部材の自由振動波形を示すグラフである。
【図5】コンクリート構造部材の加温後におけるラバーヒーターとコンクリート構造部材の温度分布を示す図である。
【図6】コンクリート構造部材の加温後における応力分布を示す図である。
【図7】コンクリートの損傷診断における損傷有り無し時の固有振動数の変動の模式図である。
【図8】鉄筋比を診断するときの固有振動数の時間経過の例を示す模式図である。
【図9】鉄筋比と固有振動数の関係を示す模式図である。
【図10】鉄筋比の経年劣化を示す固有振動数の経時変化の例を示すグラフである。
【図11】コンクリート損傷の経年劣化を示す固有振動数の経時変化の例を示すグラフである。
【図12】試験柱とこの柱に対してセットされている健全性判定装置を正面側から見た構成図である。
【図13】試験柱とこの柱に対してセットされている健全性判定装置を右側面側から見た構成図である。
【図14】実施例1の実験において得られたデータの経時変化を示すグラフで、(a)は試験柱の温度の経時変化を示すグラフ、(b)は無筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフ、(c)は健全な鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフ、(d)はコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
1 コンクリート構造部材
4 健全性判定装置
5 ラバーヒーター
9 自由振動発生装置
10 振動センサ
11 振動分析装置
20 試験柱(コンクリート柱)
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造部材の健全性判定方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、コンクリート構造部材例えば鉄筋コンクリート建物を構成している柱、梁、壁、床などのコンクリート構造部材の健全性を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建物または鉄骨鉄筋コンクリート造の建物を構成している柱、梁、壁、床などのコンクリート構造部材の健全性を判定する方法がこれまで種々提案されている。コンクリート構造部材の健全性の判定方法としては、ひび割れの目視調査による方法が一般的であり、コンクリート構造部材の表面のひび割れの長さ、幅、発生パターンなどが判断情報とされる。
【0003】
そこで、鉄筋コンクリート構造物表面に生じているひび割れ状態を画像計測によって自動的に検出し、構造物の損傷度を診断する方法が提案されている(特許文献1)。また、ひずみを記憶できる線状のセンサもしくは歪みセンサを予めコンクリート構造部材に埋設しておき、センサのひずみを検出することによってコンクリート構造部材が経験したひずみを評価し、損傷度を診断する方法も提案されている(特許文献2、特許文献3)。また、光ファイバをセンサとして予めコンクリート構造部材に埋め込んでおき、その光ファイバからの出力を監視することでコンクリート構造部材の健全性を診断する方法が提案されている(特許文献4)。また、建物の常時微動を計測し、その計測記録に含まれる建物全体の振動成分のみを抽出することによって、建物の固有振動数や固有モードなどの振動特性を同定し、振動特性が建物の損傷前後で変化する現象を利用して、振動特性を長期的にモニタリングすることによって構造健全性を診断する方法も提案されている(特許文献5)。
【0004】
さらに、鉄筋コンクリート造の建物または構造部材の健全性を判定する方法としては、鉄筋量(鉄筋比)の適正量を確認することを目的として、電磁波やX線を用いてコンクリート内部を透視する方法も多用されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−35528号
【特許文献2】特開2005−337818号
【特許文献3】特開2005−337819号
【特許文献4】特開2005−257570号
【特許文献5】特開2003−322585号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ひび割れの目視調査による方法や特許文献1の診断方法では、コンクリート構造部材の表面が露出していなければ実施できない問題がある。即ち、コンクリート建物あるいは構造部材の場合、化粧材で覆う工法を採ることが多く、化粧材を剥がしてコンクリート構造部材の表面を露出させなければならずコストと時間を費やしてしまうことになる。
【0007】
また、特許文献2から4の技術はいずれも評価できるひずみはセンサが埋設された位置に限られてしまう。即ち、構造部材の損傷箇所とセンサを埋め込む位置が一致する必要があり、センサの埋め込み位置を事前に予想する必要がある上に、損傷発生箇所が事前の予想と外れるとセンサが機能しない問題がある。また、コンクリート構造部材に予めセンサを埋設させることにより成立する手法であるため、評価できるコンクリート構造部材はセンサが埋設された新設のものに限られ、既設のコンクリート構造部材には適用することができない。既設のコンクリート構造部材に適用する場合には、センサを埋設するために部分的に破壊するなど、損傷なく実施することはできない問題がある。
【0008】
また、特許文献5記載の診断方法は、損傷前後の振動特性の変化に基づいて建物の構造健全性を評価するため、損傷前の振動特性として建物の新築時の固有振動数のデータが必要であり、新築時(健全時)のデータが存在しない既設の建物には適用できない問題がある。また、コンクリート構造部材のコンクリートの損傷や鉄筋の構造性能を知ることもできない。しかも、新設時のコンクリート構造部材の固有振動数のデータが入手できたとしても、それが健全なコンクリート構造部材であるという保証もない。
【0009】
さらに、電磁波やX線を用いて非破壊で鉄筋を調査する方法においても、鉄筋の存在や配置を知ることはできても、鉄筋の付着などの構造力学的な性能を評価できていない問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、コンクリート構造部材が化粧材で覆われていても、コンクリート構造部材の健全性を正確に判定することができる健全性判定方法を提供することを目的とする。また、事前の予測が困難な損傷をも検知可能なコンクリート構造部材の健全性判定方法を提供することも目的とする。さらに、コンクリート構造部材が新設されたものか既設のものであるかに関係なく、健全時の固有振動数のデータが無くともその健全性を判定することができるコンクリート構造部材の健全性判定方法を提供することも目的とする。さらには、本発明は、現段階において健全であると評価されたコンクリート構造部材に対し、進行しているコンクリートの構造上の劣化あるいは鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損を診断し、将来のコンクリートの損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化を早期に予測可能とするコンクリート健全性評価方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するために、本発明者等がコンクリート構造部材に不均一な温度分布となるような温度変化を与えたときの固有振動数の変化とコンクリート構造部材の健全性との関連について種々実験・研究を実施した結果、コンクリート部分が健全であるときは加温すると固有振動数が上がるか一定に推移し、損傷があるときは加温すると固有振動数が下がることを知見するに至った。
【0012】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与えると、コンクリート構造部材では圧縮応力と引っ張り応力が同時に発生するような温度応力が発生する。この温度応力によりコンクリート構造部材の主要な材料であるコンクリートのヤング係数が変化する。他方、コンクリート構造部材のもう一つの主要な材料である鉄筋のヤング係数は、コンクリートが損傷しない程度の温度変化であればほとんど変化しない。そして、ヤング係数はコンクリート構造部材の固有振動数を決める定数のひとつであるため、ヤング係数が変化すればコンクリート構造部材の固有振動数も変化する。
【0013】
温度応力分布は、鉄筋とコンクリートを含めた全てのコンクリート構造部材のものであり、鉄筋とコンクリートを合算したものである。つまり、全部材断面に発生した温度応力は、鉄筋とコンクリート部分で分配することになる。鉄筋量が多いほどコンクリートが負担する応力が小さくて済むことになる反面で、鉄筋量が少ないほどコンクリートの負担する応力が大きくなる。極端な例として、鉄筋が全く入っていない無筋コンクリートでは、発生した温度応力はその全部がコンクリートによって負担されることとなる。
【0014】
したがって、温度応力がコンクリート部分に大きく作用するほど、コンクリートの弾性係数(ヤング率)が大きくなり、コンクリート構造部材が堅くなり、固有振動数が増加する、というメカニズムが成り立っているものと考えられる。このメカニズムによれば、コンクリート部分の温度応力が大きいほど、部材の固有振動数は増加することとなる。つまり、鉄筋が少なく、コンクリートに作用する応力が大きくなると、部材の固有振動数の増加量は大きくなる。反対に、鉄筋が多く、コンクリートに作用する応力が小さいと、部材の固有振動数の増加量は小さくなる。また、鉄筋が存在していても、鉄筋とコンクリートとの係着力が低下すれば、コンクリートに作用する応力の配分が増えるため、コンクリート構造部材全体としては固有振動数が増加することとなる。
【0015】
つまり、本発明者等の実験から得られた知見によれば、コンクリート構造部材の鉄筋比並びにコンクリートの構造上の損傷と、コンクリート構造部材の温度変化が与えられた後の固有振動数の変動パターンとの間には、以下の(a)〜(c)の特徴がある。
(a)コンクリート部分が健全である場合には、加温後の固有振動数が増加する。
(b)コンクリート部分が健全である場合に限れば、鉄筋比が小さいほど、加温後の固有振動数の増加率は大きくなる。
(c)コンクリート部分が健全でない場合には、加温後の固有振動数は減少する。
【0016】
そこで、部材断面内で不均一な温度分布となるように温度変化をコンクリート構造部材に与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定すれば、「固有振動数が少し上がる」若しくは「一定に推移する」、「たくさん(過度に)上がる」、「下がる」といった定性的な現象からコンクリートの損傷状態を推定することができ、また温度変化を与えたときの固有振動数の増加率を求めて鉄筋の構造性能の評価指標としたり、さらには予め固有振動数の増加率と鉄筋比との相対関係を求めておくことにより固有振動数の増加率から鉄筋比を定量的に推定することができる。鉄筋の存在、ひいては鉄筋量の推定並びに鉄筋とコンクリートとの付着力(コンクリートと鉄筋との間の隙間の増大やなじみの悪化)の診断にも使える。
【0017】
また、コンクリート構造部材のコンクリート並びに鉄筋の構造性能の状況は、固有振動数の増加率として定量的に把握できることから、健全性判定を定期的に実施して温度変化を与えたときの固有振動数の増加率の経年的変化を分析することで、将来におけるコンクリート並びに鉄筋の構造性能の劣化を構造上の致命的な損傷に至る前に早期に予測することができる。
【0018】
即ち、本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、上述の知見に基づくものであって、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出し、固有振動数の変化が増加する傾向もしくは一定に推移する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷無し、減少する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷有りと判定するものである。
【0019】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じたコンクリート構造部材の振動からその固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、経時変化のパターンから固有振動数の変化方向を判定するものである。
【0020】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材の固有振動数の変化を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により、温度変化を与えた後の固有振動数の変化を求めるものである。
【0021】
また、請求項4記載の発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定して固有振動数の増加率を求め、前記増加率と健全なコンクリート構造部材の前記温度変化時の固有振動数の増加率と比較することにより鉄筋の構造性能を評価指標としてコンクリート構造部材の健全性を判定するものである。
【0022】
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、鉄筋比が既知のコンクリート構造部材に不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の増加率と鉄筋比との相関関係を予め求めておき、この相関関係を用いて温度差を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の増加率から鉄筋比を推定するものである。
【0023】
また、請求項6記載の発明は、請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与えた状態でコンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた振動から固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、該パターンから固有振動数の増加率を判定するものである。
【0024】
請求項7記載の発明は、請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材の固有振動数の増加率を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により求めるものである。
【0025】
請求項8記載の発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が減少傾向にあるときには、コンクリートの損傷もしくは将来的にコンクリートの損傷に至る可能性のある軽度な劣化のいずれかが進行しつつあることを診断するものである。
【0026】
請求項9記載の発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が増加傾向にあるときには鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損が進行し鉄筋の構造性能の劣化が進行しつつあることを診断するものである。
【0027】
ここで、本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法において、コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、気温または日照などの自然現象により実現されるものであっても良いし、人工熱源により強制的に加温されることにより実現されるようにしても良い。また、請求項5から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法、即ち鉄筋の構造評価を行う場合にコンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に冷却されることによる相対的温度差を与えることによって実現されるものであっても良い。また、人工熱源により強制的に加温あるいは冷却を行って不均一な温度変化をコンクリート構造部材に与える場合には、コンクリート構造部材の全ての面を加温あるいは冷却しても良いが、好ましくは一部の面、より好ましくは一つの面に対して加温あるいは冷却することであり、場合によっては一方の面を人工熱源により強制的に加温し、同時に他方の面を冷却することにより制御された温度分布を与えることで不均一な温度変化を実現するようにしても良い。さらに、人工熱源としては、コンクリート構造部材に直接貼り付けられたヒータや、冷暖房装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出するだけであるので、仮にコンクリート構造部材が化粧材で覆われていてもその化粧材の上からでもコンクリート構造部材に対して打撃を与えることによって固有振動数を得ることができ、化粧材を剥がさずにコンクリート構造部材の健全性を判定することができる。つまり、目視で確認できる箇所は勿論のこと、目視では確認できない箇所であってもコンクリート構造部材の健全性を判定することができる。さらには、コンクリート構造部材の表面に現れない内部の欠陥の有無も検出できる。
【0029】
また、本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、不均一な温度分布となる温度変化を与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化に基づいて損傷の有無を判定することができるので、コンクリート構造部材で損傷しそうな箇所を予測してその部分にひずみを検出するためのセンサなどを埋設しておかなくてもコンクリート構造部材の損傷を検出することができる。つまり、評価対象となるコンクリート構造部材(例えば、柱)のどこに損傷が発生するのか未知であったとしても、損傷の発生の有無を検出できる。また、コンクリート構造部材に予めセンサーを埋め込む必要がないので、コンクリート構造部材に傷を付けることもなければ、既存のコンクリート構造部材に対しても診断可能である。
【0030】
さらに、本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、不均一な温度分布となる温度変化を与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化に基づいて、コンクリートの損傷の有無あるいは鉄筋の付着などの構造力学的な妥当性や鉄筋量の適正量の評価ないし鉄筋の有無を判定できるので、比較用のサンプルやコンクリート構造部材の新設時(健全時)の固有振動数のデータが無くとも、コンクリート構造部材の健全性を判定することができる。即ち、既設のコンクリート構造部材であっても、コンクリートの損傷の有無あるいは鉄筋の付着などの構造力学的な妥当性や鉄筋量の適正量の評価ないし鉄筋の有無などのデータが全く保証されていない新設のコンクリート構造部材であっても、それらの健全性について判定することができる。
【0031】
また、本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法によれば、コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与えたときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定して固有振動数の増加率を求め、この固有振動数の増加率を健全なコンクリート構造部材の固有振動数の増加率と比較することにより、鉄筋の構造性能を評価指標としてコンクリート構造部材の健全性を判定することができる。この判定方法は、微小なひずみ範囲の試験ではあるが、実際の構造力学的な性能を直接評価でき、鉄筋の付着などの構造力学的な妥当性についても評価でき、さらには鉄筋の存在ひいては鉄筋量の推定並びに鉄筋とコンクリートとの付着力(コンクリートと鉄筋との間の隙間の増大やなじみの悪化)の診断にも適用できるものである。
【0032】
さらに、本発明によると、鉄筋比が既知のコンクリート構造部材に不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の増加率と鉄筋比との相関関係を予め求めておき、この相関関係を用いて固有振動数の増加率から鉄筋比を推定するようにしているので、力学的な見地にたって鉄筋量(鉄筋比)と付着力を含めた鉄筋の構造性能を直接評価でき、さらに補助的データとの併用により鉄筋の存在ひいては鉄筋量の推定あるいは鉄筋とコンクリートとの付着力の診断が可能となる。
【0033】
さらに、本発明によると、コンクリート構造部材に対して温度を与える仕掛けや、自由振動を与える仕掛けが簡略なもので足りる。
【0034】
さらに、本発明は、健全性評価を定期的に実施して、温度変化を与えたときの固有振動数の増加率のデータを蓄積すると共にその時系列的推移の傾向からコンクリート損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化の進行状況を診断するようにしているので、現段階で健全であると評価されるコンクリート構造部材の劣化の進行状況と将来のコンクリート損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化を致命的な損傷に至る前に早期に予測することができる。したがって、例えば、鉄筋比の最低限度を予め求めておけば、定期に健全性判定を実施している時に、次の定期点検時には、鉄筋比が最低限度を超える可能性が高く、何らかの措置を講じるべきである、といった判断が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0036】
図1〜図6に本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法の実施形態の一例を示す。本実施形態のコンクリート構造部材の健全性判定方法は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化(本明細書では単に不均一な温度変化とも略称する)を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出し、固有振動数の変化からコンクリート構造部材の健全性を判定するものである。なお、本実施形態におけるコンクリート構造部材1とは、例えば鉄筋コンクリート建物を構成している柱、梁、壁、床などが例に挙げられるが、これに特に限られるものではなく、プレキャストコンクリート板やコンクリート建物、鉄骨鉄筋コンクリート建物および鉄骨コンクリート建物の一部分なども含むものである。
【0037】
コンクリート構造部材への温度変化の与え方は、少なくともコンクリート構造部材の断面内の温度分布が不均一になるように与えられるものであれば良く、加温されたり冷却される面が限られたり、熱源の種類や加温手法ないし冷却手法に特に限定されるものではない。例えば、コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、気温または日照などの自然現象により実現されるものであっても良いし、人工熱源により強制的に加温されることにより実現されるようにしても良い。また、鉄筋の構造性能の評価を行う場合には、コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に冷却されることによる相対的温度差を与えることによって実現されるものであっても良い。
【0038】
また、人工熱源により強制的に加温あるいは冷却を行って不均一な温度変化をコンクリート構造部材に与える場合には、コンクリート構造部材の全ての面を加温あるいは冷却しても良いが、好ましくは一部の面、より好ましくは一つの面に対して加温あるいは冷却することであり、場合によっては一方の面を人工熱源により強制的に加温し、同時に他方の面を冷却することにより制御された温度分布を与えることで不均一な温度変化を実現するようにしても良い。さらに、人工熱源としては、コンクリート構造部材に直接貼り付けられたヒータや、冷暖房装置であることが好ましい。さらに、本実施形態ではコンクリート構造部材1の表面にラバーヒーター5を貼り付けてコンクリート構造部材1を表面側から加温する例を挙げて説明しているが、ラバーヒーター5の代わりに例えばパネルヒーターまたはハロゲンヒーター、ストーブ等の放射熱を熱源とする暖房装置あるいはボイラーや煙突からの熱をコンクリート構造部材1の表面に近接させて加温するようにしても良い。コンクリート構造部材の一面のみをヒータなどの人工的熱源あるいは自然熱源で加温する場合が最も温度差が大きく不均一になるので好ましい。
【0039】
本発明においては、温度応力を発生させるために温度を不均一にすることが特に重要であり、温度応力が発生しさえすれば良い。さらに言えば、応力が大きいほど良い。例えば、二面をヒータ加温する場合にも、対向する二面にヒータを貼るよりも隣り合う二面にヒータを貼る方が、断面内で不均一な温度分布になるので、より大きな温度応力を発生させる上で好ましい。さらに、一面だけにヒータを貼った場合の方が、温度差即ち部材断面内での温度分布の不均一さが大きくなるので、はるかに有効である。また、4面のうち、隣接する2面にヒータを貼ることも効果的である。この場合には、断面内の対角線上に温度の勾配がきつくなり、温度差が大きくなるので有効である。さらには、柱の4面全てにヒータを貼り付けて同時に加温する場合においても、加温し始めた当初は周囲と中心とで温度差が発生しているので、有効である。しかし、この場合、時間の経過とともに周囲と中心の温度差が小さくなるので、固有振動数の変化を検出する作業を早期に行う必要がある。十分に時間が経過した後は断面内の温度分布が均一になってしまうと、もはや温度応力が発生していないので、有効なデータが取得できない。
【0040】
ここで、鉄筋が入っていないコンクリートは、表面温度差が20℃を超えると、ひび割れが入る可能性があるといわれていることから、コンクリート構造部材に与えられる温度変化によって生じる最大温度差例えば表裏面間の温度差は少なくとも20℃以下であることが望ましい。他方、温度差が5℃程度では固有振動数の変化が小さく不適当であると思われる。そこで、コンクリート構造部材1の部材断面内に不均一な温度分布が生じるような温度変化によって生ずる表面温度差は、10℃〜15℃、好ましくは10℃程度である。
【0041】
さらに、加温時間としては、コンクリート構造部材1の断面内に与えられる不均一な温度変化換言すれば表面温度差が上述の適切な範囲内に達すると共に加温前後の固有振動数が十分に比較できる固有振動数の経時変化の波形パターンが得られる程度の不均一な温度変化が保たれる時間(温度応力が発生する時間内)であり、実験データから推定すれば1〜2時間程度が妥当であると思われる。
【0042】
また、不均一な温度変化が与えられたコンクリート構造部材の固有振動数を測定するには、打撃力の付加などで自由振動を生じさせ、その自由振動を振動センサなどで検出することによって行われる。なお、加温開始後に断続的に打撃を加えるなどの方法によって、コンクリート構造部材の固有振動数の経時変化を波形として検出する場合には、コンクリートを加温した後の固有振動数の変動カーブを読み取ることで診断することになる。即ち、加温開始後の固有振動数の経時変化の傾向だけで健全性を評価できるので、コンクリートを加温する前の固有振動数は不要である。しかしながら、固有振動数の変動カーブを正確に読み取るには、コンクリート構造部材を加温する前の固有振動数を求めておくことは有用である。この加温前の固有振動数のデータがあれば、必ずしも打撃を繰り返して固有振動数の変動カーブを求めなくとも、加温開始から一定時間経過したときの固有振動数と温度変化を与える前の固有振動数とを比較することにより、温度変化を与えた後の固有振動数の変化が増加しているのか、減少しているのか、換言すればコンクリートが損傷しているのか否かを判断できる。そこで、加温前の固有振動数の測定についても求めておくことが望ましい。
【0043】
ところで、コンクリート構造部材を加温する前にも、日照や気温、室温の変動によって、コンクリート構造部材には不均一な温度が作用していて、しかもそれが変動しているので、それらの自然な温度変動によって固有振動数がふらつくことは考えられる。しかしながら、その温度変動は、人工的に与えられる表裏面の温度差あるいは意図的に与えられる温度差に比べると、無視できる程度の温度変化である。そこで、加温前特に加温直前の固有振動数としては、1点の試験値によっても良いし、複数の試験値の統計量を用いるようにしても良いが、変動の影響をより排除できる統計量の採用が好ましい。統計量としては、平均値、中央値(メジアン)、最頻値のいずれの使用も可能であるが、中央値を採用する方が突発的な原因による固有振動数の変動の影響を受けずに安定した数値が得られる場合が多い。なお、中央値とは、測定値に大きいほうから番号を付けて、真ん中の番号に相当する測定値の値を指す。
【0044】
図1に本発明のコンクリート構造部材の健全性判定方法を実施するコンクリート構造部材の健全性判定装置(以下、「健全性判定装置」と称する)の一例を示す。この健全性判定装置4は、コンクリート構造部材1の一つの面(以下、本実施形態ではこの面を「表面」、その反対側の面を「裏面」、それ以外の面を「側面」と称する)に貼り付けてコンクリート構造部材を表側から加温するラバーヒーター5と、コンクリート構造部材1を打撃してコンクリート構造部材1に自由振動を生じさせる自由振動発生装置9と、コンクリート構造部材1の自由振動を検出する振動センサ10と、この振動センサ10で得られた振動波形から固有振動数を算出するとともにその算出結果を時系列に沿って記録する振動分析装置11とを備えている。自由振動発生装置9は、実験台の床3に立てられている一対の支柱6と、その間に回動軸7を介して逆さに吊り下げられているハンマー8と、該ハンマー8をタイマー作動により一定の時間間隔で回動軸7周りに持ち上げるように回転させて駆動装置(図示省略)とを有し、駆動装置によって持ち上げられたハンマー8を自由落下により回転させてラバーヒーター5の上からコンクリート構造部材1の表面の中央部分を水平方向に打撃させるようにしている。勿論、人手によってハンマーなどでコンクリート構造部材を打撃するようにしても良い。振動センサ10はコンクリート構造部材1の一つの側面の中央の高さに設置され、コンクリート構造部材1の自由振動を検出する。
【0045】
自由振動発生装置9のハンマー8は予め定められた時間間隔(例えば2分間隔)でモーター(図示省略)の駆動力によって作動し、コンクリート構造部材1に一定の力で打撃を与える。ハンマー8によるコンクリート構造部材1の打撃は、例えばコンクリート構造部材1の中央(柱状物であれば中央高さ位置)を、コンクリート構造部材1に損傷を与えることのない軽い力で行なわれる。ハンマー8でコンクリート構造部材1を打撃すると、コンクリート構造部材1の振動の形状は図3に示すようにコンクリート構造部材1の中央部分で振動振幅が最も大きくなるような振動の形状となる。振動センサ10はハンマー8による打撃が行われる毎にコンクリート構造部材1で生じる自由振動を検出し、その検出結果を示す信号を振動分析装置11に出力する。一定の時間間隔(2分間隔)で打撃することで、固有振動数の経時変化のパターン(プロフィール)を得るようにしている。振動分析装置11は、予め定められた制御プログラムに基づいて作動する例えばCPUからなる制御部11aと、データを記憶するためのメモリ11bとを備えている。制御部11aは振動センサ10から入力された検出結果即ち自由振動波形を図4に示すように加速度の時系列データとしてメモリ11bに記録する。制御部11aは図4に示す自由振動波形から繰り返し周期を読み取り、その周期の逆数を算出し、その算出結果を固有振動数としてメモリ11bに時系列に沿って記録するとともに、振動分析装置11に接続されている表示装置12に固有振動数の経時変化の態様を表示する。
【0046】
以上のように構成された健全性判定装置4を利用してコンクリート構造部材1の健全性を判定する場合、先ず、自由振動発生装置9と振動分析装置11を稼動させて、予め定められた時間間隔ごとにハンマー8でコンクリート構造部材1を打撃して、その打撃によって得られた自由振動からコンクリート構造部材1の固有振動数を求め、それをメモリ11bに時系列に沿って記録するとともに表示装置12にその経時変化の態様を表示する。そして、コンクリート構造部材1の表面をラバーヒーター5で加温し、引き続き固有振動数をメモリ11bに時系列に沿って記録して行くとともに表示装置12にその経時変化の態様を表示して行く。
【0047】
コンクリート構造部材1の表面部分の温度が上昇すると、その部分が熱膨張して伸びようとする。その一方で、コンクリート構造部材1の裏面はラバーヒーター5からの熱が伝達されにくいため、あるいは仮に熱が伝達されても図5に示すようにコンクリート構造部材1の表面よりも温度の上昇幅が小さいため、コンクリート構造部材1の裏面部分は熱膨張しないか、あるいはほとんど熱膨張しない。このようなコンクリート構造部材1の表面部分と裏面部分の熱膨張の違いにより、コンクリート構造部材1には図6に示すように圧縮応力と引っ張り応力が発生する。これらの応力の発生によってコンクリート構造部材1のコンクリート部分のヤング係数が変化する。ヤング係数はコンクリート構造部材1の固有振動数を決める定数の一つであるため、ヤング係数が変化すればコンクリート構造部材1の固有振動数も変化する。
【0048】
したがって、コンクリート構造部材1不均一な温度変化を与えた状態でコンクリート構造部材1に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた振動から固有振動数を算出し、その固有振動数の経時変化をモニタリングすることにより、固有振動数の経時変化のパターンからコンクリート構造部材1のコンクリート部分の健全性の判定を、さらには固有振動数の増加率あるいは増加量から鉄筋量の把握を行うことが可能になる。しかも、ひび割れの診断と鉄筋比の診断は、ともに温度変化を与えたときの固有振動数の変化の挙動に基づいて判断されることから、固有振動数の増加率あるいは増加量より好ましくは変化量の経時変化のパターンを求めておけば、一度の試験もしくはデータで、コンクリートの損傷と鉄筋の構造性能の双方について評価指標としたコンクリート構造部材の健全性を以下のようにして評価できる。
【0049】
(コンクリート損傷の評価)
コンクリートの損傷に関しては、不均一な温度分布となる温度変化を与えたときの固有振動数の変化を模式的に説明した図7に示すように、加温直後に固有振動数が少しでも上昇すれば健全と判定される。例えば、図7で経路Aを通った場合には、加温直後に固有振動数が増加しているので『健全』と診断される。一方で、経路B(点線)を通った場合即ち固有振動数が減少した場合には、コンクリートに『損傷あり』と診断される。したがって、不均一な温度変化を与えている時の固有振動数の経時変化のパターンが減少する傾向にあるとき、あるいは温度変化を与えた後の固有振動数が温度変化を与える前の固有振動数よりも小さくなったときに、コンクリートに構造上の損傷有りと判定することができる。
【0050】
つまり、コンクリート構造部材の部材断面内での温度分布が不均一となるように温度上昇させると、温度応力が発生するので健全なコンクリート部分が硬くなり、固有振動数は増加する。この温度応力による固有振動数の増加量は、『加温による材料軟化』による僅かな減少量よりもはるかに大きいので、健全な鉄筋コンクリート部材を不均一に温度を上昇させた場合には、『加温による材料軟化』による僅かな減少量は相殺されて、固有振動数は上昇することになる。他方、ひび割れの入った鉄筋コンクリート部材を不均一に温度を上昇させた場合には、ひび割れが開くことによって固有振動数は減少する。この固有振動数の変化が固有振動数の増加ないし一定の推移あるいは減少となって顕在化する。
【0051】
即ち、固有振動数の変動要因としては、以下の3つがある。
(H1)不均一に加温して温度応力が生じることによる固有振動数の増加
(H2)『加温による材料軟化』による固有振動数の微減
(H3)加温でコンクリートのひび割れが開くことによる固有振動数の減少
このうち、(H1)と(H3)に比べて、(H2)は無視できるほど小さく、さらに、(H3)は(H1)よりも変化量として大きい。そこで、不均一な温度上昇の因子を入れて(H1)の効果を入れることで、固有振動数の変化が増加する傾向にあるとき、もしくは一定に推移する傾向にあるときにはコンクリート損傷無し、減少する傾向にあるときにはコンクリートに損傷有りとの関係が成立し、コンクリートの健全性を評価・判定することが可能となる。
【0052】
ここで、以上のような意味から、コンクリート構造部材を均一に加温しても、(H2)、(H3)による固有振動数の変動によってコンクリートのひび割れを検知できるが、(H1)の効果を考慮に入れて片面のみを加温するなどの不均一な加温による温度変化を与えた方が、加温後の固有振動数の変化の方向がひび割れの有無によって反転するため、コンクリートのひび割れの有無が明瞭に見分けられることからより確実にひび割れを検知する上で好ましい。
【0053】
なお、本発明のコンクリートのひび割れの診断においては、ひび割れをなるべく大きく成長させることが重要であることから、不均一な温度変化を与えるとしてもそれは加温によることが好ましく、冷却によって不均一な温度変化を与えることは固有振動数の変化を検出する上では好ましくない。しかし、診断精度向上のため、一面の温度を上げるのみでなく、その他の面の温度を冷却して温度上昇を防止することで部材断面内の温度分布を任意に制御することが望まれる場合もある。
【0054】
ちなみに、本発明が対象とするコンクリートの損傷とは主にひび割れと剥落である。このふたつで、他の形態の損傷状況をほとんどカバーできる。したがって、本発明のコンクリート構造部材の判定方法によれば、これらコンクリートの構造上の損傷は全てカバーできる。なお、ひび割れは、亀裂が入るがコンクリート塊として部材にくっついた状態、剥落は亀裂が大きく入りコンクリート塊として部材から外れた状態をいう。
【0055】
(鉄筋の構造性能の評価)
鉄筋の構造性能の診断は、上述のコンクリート損傷診断で健全と判定されることが前提である。そして、コンクリート部分にひび割れなどがない健全な場合には、鉄筋コンクリート部材に不均一な温度変化、例えばコンクリート構造部材の片面をヒータで一定時間加温した場合の固有振動数の変化は、鉄筋が適正量でかつ鉄筋とコンクリートの係着力が十分である健全なコンクリート構造部材に比べて、鉄筋の構造性能が劣る程、換言すれば鉄筋比が小さいあるいは鉄筋とコンクリートとの係着力が低下している程に、増加率・増加量が大きくなる傾向にある。
【0056】
即ち、コンクリート構造部材に不均一な温度変化が与えられることによって発生する温度応力は、鉄筋とコンクリートを含めた全ての鉄筋コンクリート部材のものであり、鉄筋とコンクリートを合算したものとして表れる。つまり、全部材断面に発生した温度応力は、鉄筋とコンクリート部分で分配することになる。そこで、鉄筋量が少ないほど、コンクリートが負担する応力が大きくなることになる。極端な例として、鉄筋が全く入っていない無筋コンクリートでは、発生した温度応力は全部をコンクリートで負担することになる。したがって、温度応力がコンクリート部分に大きく作用するほど、コンクリートの弾性係数が大きくなり、鉄筋コンクリート部材が堅くなって固有振動数が増加するというメカニズムが成立するものと推定される。このメカニズムによれば、コンクリート部分の温度応力が大きいほど、部材の固有振動数は増加する。つまり、鉄筋が少なく、コンクリートに作用する応力が大きくなると、部材の固有振動数の増加量は大きくなる。反対に、鉄筋が多く、コンクリートに作用する応力が小さいと、部材の固有振動数の増加量は小さくなる。したがって、適正な鉄筋比で損傷無く製造されたコンクリート構造部材(健全なコンクリート構造部材と呼ぶ)の不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の変化パターンあるいは増加量・増加率を基準にすれば、それよりも固有振動数の変化が大きくなるパターンでは鉄筋比が小さい(鉄筋量が少ない)か、鉄筋に対するコンクリートの付着力が弱い状態であり、総合的に鉄筋の構造性能が劣化している状態であると判断できる。なお、鉄筋比は鉄筋の量、付着性能はコンクリートに対する補強の質を表すもので、量と質が十分であるとき、鉄筋は所要の構造性能を有するものとする。
【0057】
ここで、コンクリート部分にひび割れなどがない健全な鉄筋コンクリート部材に不均一な温度変化を与えた場合の固有振動数の時間経過は、図8に示すように模式的に表せる。つまり、不均一な温度変化を与えているときのコンクリート構造部材の固有振動数の変化は、加温を開始すると、固有振動数が急激に上昇して、最大値f1まで達する。加温の時間が長いと、加温中に固有振動数が下降していく場合もある。そして、加温を停止すると、固有振動数は低下して行き、最初の振動数f0を下回り、最小値f2に達した後、元のf0に戻って行く。なお、加温前の固有振動数がf0である。
【0058】
このときの固有振動数の増加率は、例えば次の二通りの計算式で与えられる。一定温度での加温条件(例えば、表面温度差10℃)での固有振動数の増加率Δfを次式で定義する。
Δf=(f1-f0)/f0×100 (単位%) …(1)
Δf=(f1-f2)/f0×100 (単位%) …(2)
【0059】
そこで、鉄筋比を色々変えた条件で、鉄筋コンクリート柱を加温したときの固有振動数の変動パターンを実験などにより求めて、式(1)あるいは式(2) による固有振動数の増加率と鉄筋比の相関関係を予め求めておけば、固有振動数の増加率を検出するだけで、対象となるコンクリート構造部材1の鉄筋比を評価できる。なお、コンクリート構造部材の断面寸法やコンクリート材料の物性によって(スケール効果によって)、固有振動数の増加量(もしくは低下量、即ち絶対量)は変化する。しかし、初期の固有振動数で基準化した増加率を用いることでこのスケール効果を排除できる。これによって、コンクリート構造部材の断面寸法やコンクリート材料の物性に考慮する必要が無くなる。そこで、本実施形態では固有振動数の増加率を評価指数として用いることとしているが、場合によっては固有振動数の変化量や変化パターンそのものを用いて固有振動数の変化を把握するようにしても良い。
【0060】
固有振動数の増加率と鉄筋比の関係は例えば図9に示すような基準曲線になる。当然、式(1)と式(2)では基準曲線は異なる。実用上は、鉄筋コンリート部材の加温試験をして、式(1)もしくは式(2)で定義される固有振動数の増加率Δfを計算し、図9の基準曲線に当てはめてΔfから鉄筋比を図から求める、という手順をとることとなる。
【0061】
ここで、コンクリート構造部材の鉄筋比の評価値が低いとき(即ち、固有振動数の増加率が大きいあるいは変化量が大きなパターンを示すとき)、その原因が鉄筋比の不足によるものか、付着性能の不足によるものなのかまでは判断できない。しかし、いずれに原因があるか特定できないとしても、構造力学的に鉄筋の構造性能がコンクリート構造部材としての健全性に影響を与える程度に低い状態にあることは判明するので、コンクリート構造部材の健全性判定には十分な評価指標となる。即ち、鉄筋が入っていても、コンクリートとの間の付着力が発生していないと無筋状態と等価であり、付着力が低いと鉄筋比が小さいのと等価である。しかも、X線検査や電磁波検査などの公知の検査技術を併用すれば、鉄筋の存在、本数、太さについての評価ができるので、X線検査や電磁波検査の検査結果を参考にすれば、鉄筋の構造性能が低い原因が鉄筋に対するコンクリートの付着力にあるのかどうかまで特定することはできる。例えば、コンクリート構造部材の中の鉄筋の存在は、X線写真や電磁波などで鉄筋の存在は明らかにできるので、鉄筋の存在が他の検査手法で明かであるのに、それに対する鉄筋比が得られないときには付着性能が劣化していると判断することができる。なお、固有振動数の増加率と鉄筋比は逆相関の関係にあるので、固有振動数の増加率が上昇する場合には、鉄筋比の評価値としては低くなる。
【0062】
鉄筋比はあくまでも評価指標、あるいは評価項目のひとつであり、新築に係わる鉄筋コンクリート部材の鉄筋の性能が、構造力学的な見地から診断できるのは、本発明の特有の効果である。つまり、この点、現状のX線検査や電磁波検査では、鉄筋の本数や太さは評価できても、肝心の構造力学的に鉄筋の効果があるのか無いのかについては判定できない。したがって、鉄筋の本数や太さが適正量であっても、鉄筋に対するコンクリートの付着力に問題があれば、所望の鉄筋の構造性能を得ることができず、そのことは全く評価できないものであった。
【0063】
なお、鉄筋比を評価指数とするコンクリート構造物の健全性判定方法においては、コンクリート構造部材に対して与える不均一な温度変化は、加温だけでなく、冷却によっても同様の効果が得られる。
【0064】
(経年評価)
さらに、本発明は、健全時のデータを確保しておく必要がないことに特徴を有しているものの、健全時のデータを蓄積することにより、現段階では危険性が無い健全時のコンクリート構造部材のデータの変遷から、現在の劣化の進展状況並びに将来のコンクリートの損傷あるいは鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損に至る時期の予測を致命的な損傷が発生する以前に早期に行うことができる。
【0065】
即ち、コンクリート構造部材のコンクリート並びに鉄筋の構造性能の状況は、固有振動数の増加率として定量的に把握できることから、健全性判定を定期的に実施して温度変化を与えたときの固有振動数の増加率の経年的変化を分析することで、将来におけるコンクリート並びに鉄筋の構造性能の劣化を致命的な損傷が発生する以前に早期に予測することができる。
【0066】
例えば、本発明の試験を定期点検として新築直後から何度か実施した結果、図10に示すように固有振動数の増加率が経年的に増加しているデータが得られたときには、鉄筋の付着性能(鉄筋とコンクリートがしっかりと噛合っていること)の低下もしくは腐食による断面欠損(錆びて鉄筋が細くなること)が進行していると診断できる。鉄筋の付着性能は鉄筋が錆びてくると劣化する。鉄筋が錆びてボロボロになって付着性能が劣化すると、本発明から求めた鉄筋比の推定値は小さくなって行く。つまり、錆びる前と後では鉄筋比の推定値が変動し、小さくなる。ここで、固有振動数の増加率と鉄筋比は逆相関の関係にあるので、固有振動数の増加率が経年的に上昇すると鉄筋比の評価値は低くなる(見かけの鉄筋比が減少している)。ここで、構造上許容される最低限度の鉄筋比から固有振動数の増加率の上限値を逆算しておけば、鉄筋比が不足に転ずる時期を早期に予測することができる。例えば、図10では、30年後の時点で、次の10年間の間に鉄筋比が不足する恐れがあることを予期できる。
【0067】
また、図11に示すように固有振動数は0%を下回ることがない(加温後に振動数が増加する)が、経年的に減少しているデータが得られたときには、現段階ではコンクリートに損傷はないが、構造上の軽微な劣化が進行しており、いずれはコンクリートに損傷が発生する恐れがあると判断できる。例えば、図11では、30年後の時点で、次の10年以内に固有振動数の増加率がマイナスに転じる可能性が高いこと、すなわち、コンクリートにひび割れ損傷が発生する可能性が高いことが予測できる。
【0068】
さらに図示していないが、定期点検を実施した結果、加温時の固有振動数の増加率が経年的に一定であるデータが得られた場合には、コンクリートと鉄筋に構造上の損傷ないし劣化が存在しておらず、かつ進展していないと診断できる。
【0069】
以上のようにして、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、この温度変化を与えた後のコンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して固有振動数の増加率のデータを蓄積し、増加率の時系列的推移が減少傾向にあるか、増加傾向にあるか、あるいは一定に推移するかによって、現段階でコンクリートあるいは鉄筋の構造性能に損傷が見られないと評価されるコンクリート構造部材のコンクリートの構造上の劣化あるいは鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損の将来における進行を致命的な損傷が発生する前に予測することができる。
【実施例】
【0070】
そこで、本発明者等は無筋コンクリート柱、健全な鉄筋コンクリート柱、コンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱のそれぞれについての固有振動数の経時変化のパターンを調べた。その結果、コンクリート構造部材1が無筋コンクリート柱である場合には加温時における固有振動数が急激に上昇し、コンクリート構造部材1が健全な鉄筋コンクリート柱である場合には加温時における固有振動数が僅かに且つ緩やかに上昇し、コンクリート構造部材1がコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱である場合には加温時における固有振動数が急激且つ大きく低下するという現象を知見・確認した。
【0071】
試験用コンクリート構造部材20として、鉄筋の入っていない無筋コンクリートと、鉄筋コンクリートと、鉄筋は入っているが、故意に損傷が与えられている損傷コンクリートとの3種類のコンクリート柱(以下、試験柱と呼ぶ)を用意した。ちなみに、損傷試験柱は、鉄筋試験柱の側方から手押しの油圧ジャッキで最大耐力に達するまで載荷して損傷を与えた。また、試験柱20のサイズは、10×10×56cmの柱状物である(図12及び図13参照)。そして、この3種類の同じサイズの試験柱に対して図1に示す健全性判定装置4を用いて固有振動数の経時変化をモニタリングする実験を行った。なお、この実験で使用される鉄筋コンクリート柱は四隅に直径1cmの鉄筋がかぶり厚(柱の外表面から至近の鉄筋の表面までの距離)10mmで入れられたものであり、鉄筋比は3.2%である。
【0072】
上記の3本の試験柱はいずれも同じ条件下で同じような状態で床3(図12及び図13参照)に立てられており、且つ、各柱に対して健全性判定装置4が同じようにセットされる。
【0073】
試験柱20は下端を床3に固定し、上端を自由端とした。自由振動発生装置9は試験柱20の上部にハンマー8による打撃を与え、振動センサ10は各柱の最上部に設置した。振動センサ10は振動分析装置11に接続した。また、振動分析装置11には表示装置12を接続し、この表示装置12の画面を通して固有振動数の経時変化をモニタリングできるようにした。また、試験柱20の一側面(以下、本実施例ではこの面を「表面」、その反対側の面を「裏面」と称する)にラバーヒーター5を貼り付けた。さらに、試験柱20のラバーヒーター5の設置面に温度計21、試験柱の裏面に温度計22を設置し、加えて試験柱20のラバーヒーター5の設置面寄りの内部に温度計23、試験柱20の裏面寄りの内部に温度計24を埋め込んだ。
【0074】
実験は室内温度25℃で一定とし、ラバーヒーター5による2時間の加温を1回の場合と、6時間サイクルで4回繰り返す場合とを実施した。ここで、ラバーヒーター5の熱量は、加温開始から2時間後に内外温度差(試験柱の表面温度と裏面温度との差)つまり温度計21で測られる温度と温度計22で測られる温度との差が10℃になるように調整した。具体的には、加温開始から2時間後にヒータで加温された表面温度が45℃、加温されていない裏面温度が35℃に達するように調整した。
【0075】
実験結果を図14に示す。図14(a)は温度計21〜24で測られる温度の経時変化を示すグラフである。図14(a)において、最も上に位置するグラフが温度計21で測られた温度の経時変化を示すものであり、その1つ下に位置するグラフが温度計23で測られた温度の経時変化を示すものであり、さらにその1つ下に位置するグラフが温度計24で測られた温度の経時変化を示すものであり、最も下に位置するグラフが温度計22で測られた温度の経時変化を示すものである。図14(b)は無筋コンクリート柱20の固有振動数の経時変化を示すグラフである。図14(c)は健全な鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフである。図14(d)はコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフである。ここで図14(a)の縦軸は温度計が示すコンクリート構造部材温度(℃)、図14(b)〜図14(d)の縦軸はコンクリート構造部材の固有振動数、図14(a)〜図14(d)の横軸は材齢を示しており、これは各試験柱を打設してからの日数で示されている。
【0076】
図14(b)及び図14(c)に示すそれぞれのグラフから、無筋コンクリート柱20の場合には加温時における固有振動数が急激に上昇し、健全な鉄筋コンクリート柱の場合には加温時における固有振動数が僅かに且つ緩やかに上昇することが分かる。換言すると、健全な鉄筋コンクリート柱の加温時の固有振動数の経時変化は無筋コンクリート柱20の場合に比べて上がり方が小さいことが分かる。このことから鉄筋比が小さいほど(鉄筋量が少ないほど)加温時の固有振動数の増加率が大きくなることが予測できる。また、コンクリート柱に鉄筋は含まれているがコンクリートに鉄筋が付着していない場合も無筋コンクリート柱20の固有振動数の経時変化のパターンとほぼ同様の固有振動数の経時変化のパターンが得られることが考えられる。
【0077】
反面、図14(d)に示すグラフから、コンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱は加温時には固有振動数が急激且つ大きく低下することが分かる。これにより、固有振動数が増加しているか、減少しているかで、健全な鉄筋コンクリート柱とコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱とを識別することができる。
【0078】
因みに本実験では、ラバーヒーター5による加温を6時間サイクルで4回繰り返して実施したが、加温を実施する都度同様の固有振動数の経時変化のパターンを得ることができた。したがって、固有振動数の経時変化のパターンには再現性があることが確認できた。
【0079】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述した実施形態では、コンクリート構造部材1を四角柱のおける固有振動数の経時変化のパターンをモニタリングする例を挙げて説明したが、コンクリート構造部材1は柱に限定される必要はなく、コンクリート構造からなる梁や床あるいは壁などであっても良い。例えば床の健全性を判定する場合には床の表面をラバーヒーター5やハロゲンヒーターなどで加温し、床の表面と裏面とで温度差を生じさせた状態で床に断続的に打撃を与えてその打撃によって生じる振動の固有振動数を求め、その固有振動数の経時変化をモニタリングすれば良い。
【0080】
また、本発明は、コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与えることにより温度応力を発生させる例を挙げて主に説明したが、コンクリートの全断面で一様に温度が上昇するように温度変化を与えてコンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出して、コンクリートの損傷あるいは鉄筋の構造性能の劣化を推定してコンクリート構造部材の健全性を評価することも可能である。コンクリートの全断面で一様に温度が上昇するように、つまり温度応力が発生しないように温度を上昇させれば、『加温による材料軟化』と称される現象でコンクリート構造部材に損傷が発生していなくても、固有振動数は僅かに減少する。したがって、コンクリート構造部材の温度を一様に上昇させると、(a)コンクリートにひび割れが無い健全なとき固有振動数は僅かに減少し、(b)ひび割れがあるとき固有振動数は大きく減少することとなる。そこで、この(a)と(b)の違いを、多数のデータを集めて一般化することにより、パターン比較で見分けることも可能である。
【0081】
また、コンクリート構造部材の診断法における温度変化を与える手段あるいは固有振動数を測定する手段については、上述の打撃による加振や人工熱源を使った加温の方法によれば、意図した通りの大きさの固有振動数や温度差を与えることが容易にでき、はるかに容易に診断ができるので好ましいが、これに加振方法や温度差付与方法は限られず、気温や日照を利用することも、さらにはこれら自然の熱源と人工熱源とを組み合わせることも可能である。例えば一方の面を冷却したりあるいは太陽光などによる放射加温と日陰などでの放射冷却との組み合わせによって温度変化を与えるようにしても良い。さらには、建物の内部を空調で強制的に温めたり、冷やしたりして、建物の内外の温度差を人工的に作り出すようにしても良い。さらには、コンクリート構造部材例えばコンクリート柱の中にヒータを予め仕込んでおいて、それをON/OFFする方法によっても周囲と中心で温度差が発生するので有効である。ただし、この場合、断面内の温度差は大きくならない。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法を実施する健全性判定装置とコンクリート構造部材を正面側から見た構成図である。
【図2】本発明にかかるコンクリート構造部材の健全性判定方法を実施する健全性判定装置とコンクリート構造部材を右側面側から見た構成図である。
【図3】コンクリート構造部材の振動の形状を示すイメージ図である。
【図4】コンクリート構造部材の自由振動波形を示すグラフである。
【図5】コンクリート構造部材の加温後におけるラバーヒーターとコンクリート構造部材の温度分布を示す図である。
【図6】コンクリート構造部材の加温後における応力分布を示す図である。
【図7】コンクリートの損傷診断における損傷有り無し時の固有振動数の変動の模式図である。
【図8】鉄筋比を診断するときの固有振動数の時間経過の例を示す模式図である。
【図9】鉄筋比と固有振動数の関係を示す模式図である。
【図10】鉄筋比の経年劣化を示す固有振動数の経時変化の例を示すグラフである。
【図11】コンクリート損傷の経年劣化を示す固有振動数の経時変化の例を示すグラフである。
【図12】試験柱とこの柱に対してセットされている健全性判定装置を正面側から見た構成図である。
【図13】試験柱とこの柱に対してセットされている健全性判定装置を右側面側から見た構成図である。
【図14】実施例1の実験において得られたデータの経時変化を示すグラフで、(a)は試験柱の温度の経時変化を示すグラフ、(b)は無筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフ、(c)は健全な鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフ、(d)はコンクリート部分が損傷している鉄筋コンクリート柱の固有振動数の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
1 コンクリート構造部材
4 健全性判定装置
5 ラバーヒーター
9 自由振動発生装置
10 振動センサ
11 振動分析装置
20 試験柱(コンクリート柱)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出し、前記固有振動数の変化が増加する傾向もしくは一定に推移する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷無し、減少する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷有りと判定するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた前記コンクリート構造部材の振動からその固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、前記経時変化のパターンから前記固有振動数の変化方向を判定するものである請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項3】
前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により、温度変化を与えた後の固有振動数の変化を求めるものである請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項4】
コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定して前記固有振動数の増加率を求め、前記増加率と健全なコンクリート構造部材の前記温度変化時の固有振動数の増加率と比較することにより鉄筋の構造性能を評価指標としてコンクリート構造部材の健全性を判定するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項5】
鉄筋比が既知のコンクリート構造部材に前記不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の増加率と前記鉄筋比との相関関係を予め求めておき、この相関関係を用いて前記温度差を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の増加率から鉄筋比を推定するものである請求項4記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項6】
前記コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与えた状態で前記コンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた振動から固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、前記パターンから前記固有振動数の増加率を判定するものである請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項7】
前記コンクリート構造部材の固有振動数の増加率を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により求めるものである請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項8】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して前記固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が減少傾向にあるときには、コンクリートの損傷もしくは将来的にコンクリートの損傷に至る可能性のある軽度な劣化のいずれかが進行しつつあることを診断するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項9】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して前記固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が増加傾向にあるときには鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損が進行し鉄筋の構造性能の劣化が進行しつつあることを診断するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項10】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、気温または日照などの自然現象により実現されるものである請求項1から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項11】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に加温されることにより実現されるものである請求項1または9記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項12】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に冷却されるものである請求項5から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項13】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、一つの面を人工熱源により強制的に加温することにより実現されるものである請求項1から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項14】
前記コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、一つの面を人工熱源により強制的に冷却することにより実現されるものである請求項5から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項15】
前記コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、一方の面を人工熱源により強制的に加温し、同時に他方の面を冷却することにより実現されるものである請求項1から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項16】
前記人工熱源は前記コンクリート構造部材に直接貼り付けられたヒータである請求項11、13、または15記載のいずれか1つにコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項17】
前記人工熱源は室内の冷暖房装置である請求項12、14または15のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項1】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を検出し、前記固有振動数の変化が増加する傾向もしくは一定に推移する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷無し、減少する傾向にあるときにはコンクリートに構造上の損傷有りと判定するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた前記コンクリート構造部材の振動からその固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、前記経時変化のパターンから前記固有振動数の変化方向を判定するものである請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項3】
前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により、温度変化を与えた後の固有振動数の変化を求めるものである請求項1記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項4】
コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化を測定して前記固有振動数の増加率を求め、前記増加率と健全なコンクリート構造部材の前記温度変化時の固有振動数の増加率と比較することにより鉄筋の構造性能を評価指標としてコンクリート構造部材の健全性を判定するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項5】
鉄筋比が既知のコンクリート構造部材に前記不均一な温度変化を与えたときの固有振動数の増加率と前記鉄筋比との相関関係を予め求めておき、この相関関係を用いて前記温度差を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の増加率から鉄筋比を推定するものである請求項4記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項6】
前記コンクリート構造部材に断面内で不均一な温度変化を与えた状態で前記コンクリート構造部材に断続的に打撃を与え、この打撃によって生じた振動から固有振動数を算出すると共にこの固有振動数の経時変化のパターンを求め、前記パターンから前記固有振動数の増加率を判定するものである請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項7】
前記コンクリート構造部材の固有振動数の増加率を、温度変化を与える前の固有振動数との比較により求めるものである請求項4または5記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項8】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して前記固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が減少傾向にあるときには、コンクリートの損傷もしくは将来的にコンクリートの損傷に至る可能性のある軽度な劣化のいずれかが進行しつつあることを診断するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項9】
コンクリート構造部材に部材断面内で不均一な温度分布となるような温度変化を与え、前記温度変化を与えた後の前記コンクリート構造部材の固有振動数の変化の検出を定期的に実施して前記固有振動数の増加率もしくは変化量のデータを蓄積し、前記増加率もしくは変化量の時系列的推移が増加傾向にあるときには鉄筋の付着性能の低下もしくは腐食による断面欠損が進行し鉄筋の構造性能の劣化が進行しつつあることを診断するものであるコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項10】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、気温または日照などの自然現象により実現されるものである請求項1から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項11】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に加温されることにより実現されるものである請求項1または9記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項12】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、人工熱源により強制的に冷却されるものである請求項5から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項13】
前記コンクリート構造部材に与えられる前記不均一な温度変化は、一つの面を人工熱源により強制的に加温することにより実現されるものである請求項1から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項14】
前記コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、一つの面を人工熱源により強制的に冷却することにより実現されるものである請求項5から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項15】
前記コンクリート構造部材に与えられる不均一な温度変化は、一方の面を人工熱源により強制的に加温し、同時に他方の面を冷却することにより実現されるものである請求項1から9のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項16】
前記人工熱源は前記コンクリート構造部材に直接貼り付けられたヒータである請求項11、13、または15記載のいずれか1つにコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【請求項17】
前記人工熱源は室内の冷暖房装置である請求項12、14または15のいずれか1つに記載のコンクリート構造部材の健全性判定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−333445(P2007−333445A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163050(P2006−163050)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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