コンクリート添加剤として使用される材料
本願発明は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘電体を含む、セメント組成物のための混和剤に関する。本願発明は、また、前記混和剤の製造方法およびコンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘電体の使用にも関する。本願発明は、更に、前記混和剤を含むセメント組成物およびその製造方法およびその使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、セメント組成物のための混和剤に関し、該混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体(derivative)および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料を含む。 本願発明は、また、前記混和剤の製造方法にも関する。本願発明は、更に、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に関する。本願発明は、更に、コンクリート、自己充填コンクリート(self compacting concrete)、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における前記混和剤または不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料の使用に関する。本願発明は、前記混和剤を含む、セメント組成物またはセメント、およびその方法ならびに前記セメント組成物から作られた建設要素に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、セメント、砂、石および水の混合物から作られる建設材料である。コンクリートは、水と混合して配置された後、水和反応として知られる化学的なプロセスにより凝固および硬化する。水は、他の成分を一緒に結合させるセメントと反応して、最終的に石のような材料を生成する。コンクリートは、車道、建築物、地盤、高速道路/道路、橋/陸橋、駐車場、れんが/ブロック壁、および門、フェンスならびにポールのための足場を作るのに用いられる。
【0003】
コンクリート技術において興味のある重要な分野は、自己充填コンクリート(SCC)であり、自己充填コンクリートは、重力によってそれ自体が流れおよび充填する。従って、外部からの振動または他の圧縮は必要ではない。硬化したコンクリートは、構造物において通常のコンクリートとして機能するであろう。非常に高い性能のコンクリートを、自己充填コンクリートとして製造することは可能である。締固め作業が必要でないため、建設中の騒音レベルが顕著に低減され、1つの作業段階が除外される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SCCの問題は、材料分離(または分離、segregation)、および原料の変化に対するSCCの感受性である。通常および低強度のSCCの広範囲な問題により、低強度から普通強度までのコンクリートに対するSCCの利用は、本来あり得る程広くないであろう。材料分離は、通常、好ましくない特性をコンクリートにもたらす。材料分離は、水または骨材(または凝集体、aggregate)の分離であり得る。水の分離において、水の相は、セメント粒子が経時的に沈下(または沈降、settle)する場合に分離していく。骨材の分離は、骨材がペースト相の中で沈下する場合に、より速く起こる。ペーストは、水、セメント、他の微粉末および混和剤の混合物である。原料組成または水分含量のわずかな変化は、劇的にSCCの性質を変化させ得る。性能上、ロバスト性のこの欠如もまた、SCC使用の障害である。
【0005】
従って、改善された自己充填コンクリート材料への要求がある。さらに、標準的なコンクリート配合物(formulation)の乾燥していない(またはウェット、wet)状態における、チクソトロピーおよび粒子懸濁性を向上させる要求がある。
【0006】
注入グラウトは、圧力注入工法(pressure grouting technique)により使用されることが意図される。これらの材料に要求されることは、とりわけ、高い流動性、少ない材料分離および少ないブリーディングである。注入グラウトでは、非常に高い流動性が要求される。あらゆる用途における強度の要求はそれほど高くない。そのため、多くの用途では水セメント比が非常に高い。このことは、材料分離問題を引き起こし、グラウトの浸透が不十分である。
【0007】
増粘剤、例えば、ウェランガム(welan gum)またはセルロース誘導体のような水溶性多糖類、により上述した問題を解決するいくつかの試行が為されてきた。英国特許公開第2 378 946号と国際公開公報WO03/018505号は、セメント組成物のための混和剤の作製を開示しており、多糖類および/またはナノシリカが増粘剤として使用されている。米国特許公開公報第2003/159391号は、軽量コンクリート混合物に関し、可溶性セルロース誘導体が、増粘剤として使用されている。例えば、安定化混和剤(stabilizing admixture)としてのウェランガムの使用は、コンクリート産業において広く知られている。
【0008】
セルロースファイバーは、従来から、材料の機械的特性を改善するようにコンクリート材料に使用されてきた:例えば、セルロースファイバーが、乾燥した試料の強度特性を改善するのに使用されている米国特許公開公報第2005/112981号において。また、例えば、Kuthcarlapatiら(Metals Materials and Processes 20(3):307−314,2008)による刊行物において、セルロースナノウィスカーは、コンクリートの強化材料として調査されている。さらに、上述した刊行物の主要な目的は乾燥した試料の機械的特性を改善することであり、すなわち、乾燥していない配合物への影響ではない。また、上述した特許公開公報および刊行物では、セルロースファイバーの使用量は多かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コンクリート配合物の材料分離およびブリーディングに関する上述した問題を解決する新規な取組みを示す。本願発明は、安定化混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に基づいている。
【0010】
本発明は、セメント組成物のためのセメント混和剤または混和剤に関し、混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料、および必要に応じて水を含む。
【0011】
本発明の重要な利点は、コンクリートの水のブリーディングおよび骨材沈下が減少することである。ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の添加は、可塑剤を含む場合および含まない場合両方ともペーストのチクソトロピーを増加させる。ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の保水性は、コンクリート混和剤として使用される場合に有益な特性である。本発明では、ミクロフィブリル化セルロースを含む混和剤は、強化添加剤としては使用されない。
【0012】
ミクロフィブリル化セルロースを安定化混和剤として、とりわけ、高い水/セメント(w/c)比を有する、すなわち、低強度から普通強度の、コンクリートに使用することは実施可能である。とりわけ、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体は、自己充填コンクリートをさらに強固(robust)にするのを支援する。水のブリーディングおよび骨材沈下が減少し、従って、コンクリートの耐久性が増加する。水のブリーディングは、最も微細な(finest)フィブリル添加剤により効果的に防がれる。骨材の沈下もまた、ミクロフィブリル化セルロースにより劇的に減少する。ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を含む混和剤の使用は、微粒子が少な過ぎることまたは微粒子の品質の悪さをも補償する。
【0013】
水のある環境下において、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体は、低濃度でさえ、自己組織化したヒドロゲルのネットワーク(または網状物、network)を形成する。ミクロフィブリル化セルロースのこれらのゲルは、性質上、高いずり流動性(shear thinning)および高いチクソトロピーを有する。ミクロフィブリル化セルロースゲルの固有の特性に起因して、この材料は、また、強い骨材保持力をも示す。
【0014】
コンクリート用途においてミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体が増粘剤または安定化混和剤として使用されることは、従来示されていない。
【0015】
本発明は、また、本発明の特許請求の範囲のいずれか1項に記載のセメント混和剤の製造方法にも関し、該方法は、
・ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、
・前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程と、
を含む。
【0016】
本発明は、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に関する。本発明は、また、本発明のレオロジーまたは材料分離の制御に係る、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、またはセメント混和剤の使用にも関する。
【0017】
本発明は、また、コンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における本発明に係る混和剤の使用にも関する。本発明は、また、不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤での使用、またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトもしくは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における使用にも関する。
【0018】
本願発明は、更に、本発明で規定された混和剤を含むセメント組成物に関する。
【0019】
本発明は、また、
・セメントバインダー、骨材材料、水および特許請求の範囲で規定された、本発明に係る混和剤を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加する工程と、
を含む、前記セメント組成物の製造方法にも関する。
【0020】
本願発明は、更に、前記セメント組成物から作られた建設要素と、本発明に係る混和剤を含むセメントとに関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、セルロースパルプ(A)、微細化されたセルロースパルプ(B)ならびにミクロフィブリル化セルロース(C)の光学顕微鏡画像、およびミクロフィブリル化セルロース(D)の原子間力顕微鏡画像を示す。
【図2】図2は、ペースト混合物のレオロジーの調査結果を示す。可塑剤を含まない参照ペーストと、ミクロフィブリル化セルロース、微細化されたパルプまたはパルプを含む混合物と、のせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)が示されている。
【図3】図3は、ペースト混合物のレオロジーの調査結果を示す。可塑剤を含まない参照ペーストと、可塑剤を含む、および含まない、ミクロフィブリル化セルロースを含む混合物と、のせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)が示されている。
【図4】図4は、可塑化されていないペーストのせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)を示す。参照物、MFC−L2 0.25%およびMFC−L2 0.125%のセメントに対する水(w/c)の比率は、それぞれ、0.400、0.593および0.539である。
【図5】図5は、可塑化されたペーストのせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)を示す。参照物とMFC−L2 0.25%のセメントに対する水(w/c)の比率は、それぞれ、0.355および0.539である。
【図6】図6は、参照試料(A)と、セルロースパルプ(B)、微細化されたセルロースパルプ(C)またはミクロフィブリル化セルロース(D)を含むコンクリート混合物とに関する、15回の衝撃(shock)の後における流動測定(またはフロー測定、Flow-measurement)から得られた広がりの結果を示す。
【図7】図7は、参照試料(A)と、セルロースパルプ(B)、微細化されたセルロースパルプ(C)またはミクロフィブリル化セルロース(D)を含むコンクリート混合物と、の材料分離を示す断面光学調査結果を示す。それぞれの写真の高さは、2.75mmである。表面下0mm〜3mm、3mm〜6mmおよび約20mmの材料分離が示されている。
【図8】図8は、参照試料(A)と、セルロースパルプ(B)、微細化されたセルロースパルプ(C)またはミクロフィブリル化セルロース(D)を含むコンクリート混合物と、の微細構造をUV光で示すことによる断面光学調査結果を示す。それぞれの写真の高さは、2.75mmである。
【図9】図9は、w/cが0.65〜1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(工業用MFC)を有し、常時w/cが1.00である混合物と、の水のブリーディング(2時間後)を示す。
【図10】図10は、w/cが0.65〜1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(工業用MFC)を有し、常時w/cが1.00である混合物と、のマーシュ粘度値(Marsh viscosity value)を示す。
【図11】図11は、w/cが0.65〜1.00である参照混合物と、セルロース(工業用MFC)を有し、常時w/cが1.00である混合物とに関する、マーシュ粘度値および水のブリーディング値を示す。
【図12】図12は、w/cが1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(MFC−L1)を有し、同様にw/cが1.00である混合物と、の水のブリーディング(2時間後)を示す。
【図13】図13は、w/cが1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(MFC−L1)を有し、同様にw/cが1.00である混合物と、のマーシュ粘度値を示す。
【図14】図14は、参照混合物と、セルロース(MFC−L1)を有する混合物とに関する、マーシュ粘度値および水のブリーディング値を示す。全ての混合物は、w/c1.00を有する。
【図15】図15は、w/cが1.00である参照混合物と、不安定なセルロースパルプ(Mix1、MFC−L1の前駆体)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、Desoi AKM−70D1を用いてフィブリル化されたMFC−L1(Mix2)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、の水のブリーディング(2時間後)を示す。
【図16】図16は、w/cが1.00である参照混合物と、不安定なセルロースパルプ(Mix1、MFC−L1の前駆体)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、Desoi AKM−70Dでフィブリル化したMFC−L1(Mix2)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、のマーシュ粘度値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、コンクリート配合物の材料分離およびブリーディングに関する問題を解決する新規な取組みを示す。本発明は、可溶性多糖類を使用する代わりに、安定化混和剤(stabilizing admixture)としてミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を使用することに基づいている。水のある環境下において、ミクロフィブリル化セルロースは、散布しているミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の連続したヒドロゲルネットワークを形成する。このゲルは、非常に低い濃度でさえ、互いに絡み合った、高度に水和されたフィブリルにより形成される。このフィブリルは、また、水素結合を介しても相互に作用し得る。 そのマクロ構造は、機械的攪拌により容易に破壊される。すなわち、このゲルは、高いせん断応力を受けて流れ始める。コンクリート用途においてミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体が増粘剤または安定化混和剤として使用されることは、従来示されていない。
【0023】
本発明は、セメント混和剤に関し、該混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料を含む。本願発明は、また、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を含むセメント混和剤の製造方法にも関し、該方法は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、必要に応じて、ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程とを含む。本発明は、更に、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースの使用に関し、およびコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における本願発明の混和剤の使用に関する。本願発明は、更に、不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤での使用またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトもしくは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における使用に関する。
【0024】
本願発明は、更に、セメント組成物の製造方法に関し、該方法は、セメントバインダー(cementitious binder)、骨材材料、水および本発明の混和剤を一緒に混合する工程を含む。本願発明は、また、本発明で規定された混和剤を含むセメント組成物ならびに前記セメント組成物から作られた建設要素に関する。本願発明は、更に、本発明に係る混和剤を含むセメントに関する。
【0025】
特段の指定がない限り、本明細書および特許請求の範囲に用いられる用語は、建設業界ならびにパルプ工業および製紙業で一般的に用いられる意味を有する。詳細には、以下の用語は、以下に示す意味を有する。
【0026】
セルフコンソリデーティングコンクリート(self-consolidating concrete)またはSCCとしても知られる用語「自己充填コンクリート(self-compacting concrete)」は、どのような機械的な振動も全く無い状態で、所定の場所に広がり、型枠を満たし、および最も密集した鉄筋でさえ密閉する、高度に流動性を有する非材料分離コンクリートである。このコンクリートは、振動の無い状態で、それ自体の重量によってきれいに(purely)配置され得るコンクリート混合物として規定される。
【0027】
用語「セメントバインダー(cementitious binder)」は、水の存在下で凝固または硬化する十分な水硬活性(または水硬化性、hydraulic activity)を有する、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、酸素および/または硫黄の複合物を含む全て無機材料のことを言う。
【0028】
セメントは、一般的なポルトランド・セメント、急結するもしくは超(またはエキストラ、extra)急結する、耐硫酸塩性セメント、改質セメント、アルミナセメント、高アルミナセメント、カルシウムアルミナセメント、および2次成分(例えば、フライアッシュ(石灰石)、ポゾランおよび同等のもの)を含むセメントを含むがこれらに限定されない。
【0029】
用語「セメント組成物(cementitious composition)」は、セメントバインダーと少なくとも水から成る材料のことを言う。これらの材料は、例えば、コンクリート、モルタルおよびグラウトである。一般的に、コンクリートは、例えば、セメント、水、骨材および多くの場合に混和剤から成る。
【0030】
セメントの代わりに、フライアッシュおよびスラグセメントのような他のセメント材料が使用され得る。骨材、概して、細骨材ならびに粗骨材、および化学混和剤が添加される。コンクリート骨材は、砂利、石灰岩または花崗岩のような粗骨材と、砂を含む細骨材とを含む。粉砕されている石またはリサイクルされた粉砕されているコンクリートもまた、骨材として使用される。
【0031】
用語「骨材材料(aggregate material)」は、コンクリートに使用されるのに適した粒状材料のことを言う。骨材は、天然もしくは人工であってよく、または以前に建造物で用いられていた材料からリサイクルされてよい。用語「粗骨材(coarse aggregate)」は、上限サイズが4mm以上であり、下限サイズが2mm以上である骨材を意味する。用語「細骨材(fine aggregate)」は、上限サイズが4mm以下ある骨材を意味する。
【0032】
用語「セメント/コンクリート混和剤(cement/concrete admixture)」は、フレッシュコンクリートまたは硬化したコンクリートの特性を改質するように、コンクリートの混合工程に、セメントの質量に関係して少量添加される材料のことを言う。
【0033】
用語「セルロース原料(cellulose raw material)」は、セルロースパルプ、微細化されたパルプまたはミクロフィブリル化セルロースの製造に使用できる任意のセルロース原料のことを言う。原料は、セルロースを含む任意の植物原料に基づき得る。原料は、また、所定の細菌発酵プロセスからも生成され得る。植物原料は、木材であってよい。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー(ベイマツ)もしくはアメリカツガのような軟材木(針葉樹)、カバノキ、アスペン、ポプラ、ハンの木、ユーカリもしくはアカシアのような硬材木(広葉樹)または軟材および硬材から成る混合物であり得る。非木質材料は、農業廃棄物、草類、または綿、トウモロコシ、小麦、オートムギ、ライ麦、大麦、米、亜麻、大麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、カラムシ、ケナフ麻、バガス、竹またはアシ(ヨシ)のわら、葉、樹皮、種、穀、花、野菜または果実のような他の植物材料であり得る。セルロース原料は、また、セルロース製造用微生物からも生成され得るであろう。微生物は、酢酸菌属(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、根粒菌属、シュードモナス属またはアルカリゲネス属、好ましくは酢酸菌属、より好ましくはアセトバクター・キシリナムまたはアセトバクター・パスツリアナスの菌種、であり得る。
【0034】
用語「セルロースパルプ(cellulose pulp)」は、セルロースファイバーのことを言い、セルロースファイバーは、化学パルプ化プロセス、機械パルプ化プロセス、サーモメカニカルパルプ化プロセスまたはケミサーモメカニカルパルプ化プロセスにより、任意のセルロース原料から単離(または分離、isolate)される。一般的に、ファイバーの直径は、15μm〜25μmの間で変わり、長さは、500μmを越えるがしかし、本発明は、これらのパラメータに限定されることを意図しない。典型的な「セルロースパルプ(cellulose pulp)」の光学顕微鏡写真は図1Aに示される。
【0035】
用語「微細化されたパルプ(refined pulp)」は、微細化されたセルロースパルプのことを言う。例えば、リファインナー、粉砕機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、流動化装置(例えば、マイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーまたはフルイダイザータイプのホモジナイザー)または超音波処理機等の適切な装置により、セルロースパルプの微細化が実施される。一般的に、全てのセルロースファイバーが、完全にフィブリル化されるわけではない。つまり、変化しない寸法を有する多量のセルロースファイバーが、微細化されたセルロース材料とともに、まだ存在する。微細化されたパルプ中の該多量ファイバーは、フィブリル化された表面を有し得る。「微細化されたパルプ(refined pulp)」においてセルロースベースの材料の最も微細な部分は、直径が200nmより小さい、ミクロフィブリル化セルロース、すなわち、セルロースミクロフィブリルおよびミクロフィブリルの束、から成る。典型的な「微細化されたセルロース(refined cellulose)」の光学顕微鏡写真は図1Bに示される。
【0036】
用語「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」は、セルロース原料から生成された、単離したセルロースミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の集合体のことを言う。ミクロフィブリルは、一般的に高いアスペクト比を有する。長さは、1マイクロメートルを越えてよいが一方で、平均直径の数値(number-average diameter)は、一般的に200nmよりも小さい。ミクロフィブリルの束の直径は、より大きくてもよいがしかし、概して、1μmよりも小さい。最も微小なミクロフィブリルは、一般的に直径が2nm〜12nmであるいわゆる基本繊維(elementary fibril)と同様である。フィブリルまたはフィブリルの束の大きさは、原料と解繊(または分解、disintegration)方法に依存する。ミクロフィブリル化セルロースは、また、いくつかのヘミセルロースを含んでもよい。すなわち、その量は、植物原料に依存する。リファインナー、粉砕機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、超音波処理機または流動化装置(例えば、マイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーまたはフルイダイザータイプのホモジナイザー)のような適切な装置により、セルロース原料、セルロースパルプ、または微細化されたパルプからのミクロフィブリル化セルロースの機械的な解繊が実施される。「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」は、また、所定の発酵プロセスから直接単離(分離)し得る。本発明のセルロース製造用微生物は、酢酸菌属(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、根粒菌属、シュードモナス属またはアルカリゲネス属、好ましくは、酢酸菌属、より好ましくは、アセトバクター・キシリナムまたはアセトバクター・パスツリアナスの菌種、であってよい。「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」は、また、セルロースミクロフィブリルまたはミクロファイブリルの束の化学的または物理的に改質された任意の誘導体でもあり得る。 化学的な改質は、例えば、セルロース分子のカルボキシメチル化、酸化、エステル化またはエーテル化反応に基づき得る。改質は、また、アニオン性物質、カチオン性物質もしくは非イオン性物質またはこれらの任意の組合せの、セルロース表面への物理吸着によっても実現されるであろう。記載された改質は、ミクロフィブリル化セルロースの製造前、後または間において実施され得る。
【0037】
ミクロフィブリル化セルロースに広く用いられている数個の同義語がある。例:ナノセルロース、ナノフィブリル化したセルロース(NFC)、ナノフィブリルセルロース、セルロースナノファイバー、ナノスケールのフィブリル化したセルロース、ミクロフィブリル化したセルロース(MFC)またはセルロースミクロフィブリル。さらに、所定の微生物により製造されたミクロフィブリル化セルロースもまた、様々な同義語を有する。例えば、バクテリアセルロース、微生物セルロース(MC)、バイオセルロース、ナタデココ(NDC)またはココデナタ。本発明に記載されたミクロフィブリル化セルロースは、セルロースナノウィスカー、セルロースナノ結晶、セルロースナノロッド、ロッド状のセルロース微細結晶またはセルロースナノワイヤーとしても知られるいわゆるセルロースウィスカーと同一の材料ではない。場合によっては、同様の専門用語が、例えばKuthcarlapatiら(Metals Materials and Processes20(3):307−314、2008)により、両材料に用いられ、そこでは、調査された材料は、「セルロースナノファイバー(cellulose nanofiber)」と称されていたがしかし、彼らは、明らかにセルロースナノウィスカーのことを言っていた。一般的に、これらの材料は、ミクロフィブリル化セルロースのようにフィブリル構造に沿って、更に強固な構造をもたらすアモルファス部分を有さない。セルロースウィスカーは、また、ミクロフィブリル化セルロースよりも短く、一般的に、その長さは1マイクロメートルよりも短い。
【0038】
典型的な「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」の光学顕微鏡写真は、図1Cに示され、大きなセルロースファイバーは、もはや明確には視認できない。図1Dでは、より高い倍率により、100nmより小さい直径を有する、個々のミクロフィブリルおよびミクロフィブリルの束が見られ得る。
【0039】
用語「工業グレードのミクロフィブリル化セルロース(technical grade microfibrillar cellulose)」または「工業用MFC(technical MFC)」は、分別された微細化されたパルプのことを言う。この材料は、濾過布またはメンブランのような適切な分別技術により、微細化されたセルロースパルプからより大きなセルロースファイバーを除去することによって得られる。「微細化されたパルプ(refined pulp)」と比較して、「工業用MFC(technical MFC)」は、「セルロースパルプ(cellulose pulp)」または「微細化されたパルプ(refined pulp)」において視認できる一般的に15μm〜25μmの直径の大きな繊維を含まない。
【0040】
用語「不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料(labile cellulose pulp or cellulose raw material)」は、セルロース原料またはセルロースパルプの所定の改質について言う。例えば、N−オキシルの媒介酸化(例えば、2、2、6、6−テトラメチルー1ーピペリジンN−オキシド)は、ミクロフィブリル化セルロースに解繊するのが容易である非常に不安定なセルロース材料をもたらす。国際公開公報WO09/084566号および日本国特許公開公報第20070340371号は、このような改質例を開示している。
【0041】
用語「ミクロフィブリル化セルロース L1(microfibrillar cellulose L1)」または「MFC−L1(MFC-L1)」は、不安定なセルロースパルプから得られるミクロファイブリル化セルロース材料のことを言う。不安定化(labilization)は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプの酸化に基づいている。不安定化に起因して、このセルロースパルプは、ミクロフィブリル化セルロースに解繊するのが容易である。また、不安定化反応は、アルデヒド酸官能基およびカルボン酸官能基を、MFC−L1ファイバーの表面に与える。国際公開公報WO09/084566および日本国特許公開公報第20070340371号は、このような改質例を開示している。
【0042】
用語「ミクロフィブリル化セルロース L2(microfibrillar cellulose L2)」または「MFC−L2(MFC-L2)」は、不安定なセルロースパルプから得られるミクロフィブリル化セルロース材料のことを言う。不安定化は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプのカルボキシメチル化に基づいている。不安定化に起因して、このセルロースパルプは、ミクロフィブリル化セルロースに解繊するのが容易である。また、不安定化反応は、カルボン酸官能基を、MFC−L2ファイバーの表面に与える。
【0043】
用語「可塑剤(plasticizer)」は、セメントペーストの流動性を向上させ、従って、一定の水/セメント比におけるコンクリートのワーカビリティを向上させる材料、または同等のワーカビリティを維持しながら、より少ない量の水によりコンクリートが作製され得る材料のことを言う。
【0044】
用語「分散剤(dispersing agent)」は、粒子の分離性を改善し、および沈下または集塊化(clumping)を防ぐように、懸濁液、通常コロイド、に添加される非界面活性ポリマーまたは界面活性剤のことを言う。
【0045】
用語「コンクリートのブリーディング(concrete bleeding)」は、コンクリートの可塑化の段階(plastic phase)の間に、固形物の沈下に起因した、コンクリート表面における水の層の形成のことを言う。
【0046】
用語「内部ブリーディング(internal bleeding)」は、コンクリート構造自体の内部の水の分離のことを言う。
【0047】
用語「注入グラウト(injection grout)」は、圧力注入工法(pressure grouting technique)により使用されることが意図される特別のグラウトのことを言う。これらの材料に要求されることは、とりわけ、高い流動性、少ない材料分離および少ないブリーディングである。
【0048】
本発明は、以下の実施形態またはそれらの任意の組み合わせを提供する。
【0049】
本発明は、セメント混和剤を提供し、該混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプもしくはセルロース原料、および必要に応じて水を含む。
【0050】
混和剤は、例えば、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の、固体混合物または分散体であり得る混合物から成ってよい。
【0051】
本発明の混和剤は、少なくとも1つの可塑剤を更に含んでよい。可塑剤の例は、ポリカルボン酸エーテルまたはその誘導体を含む。
【0052】
本発明の混和剤は、少なくとも1つの分散剤を更に含んでよい。混和剤は、更に、消泡剤、緩衝材、抑制剤、pH調整剤、殺生物剤、防腐剤、硬化促進剤および/または空気連行剤のような1以上の他の成分を含んでよい。
【0053】
本発明の混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースを含んでよく、セルロースミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の直径は、1μmより小さく、好ましくは、200nmより小さく、より好ましくは100nmより小さい。
【0054】
ミクロフィブリル化セルロースは、セルロースミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の化学的または物理的に改質された誘導体であり得る。ミクロフィブリル化セルロースは、植物材料を含む原料から得ることができ、または細菌発酵プロセスから生成され得る。植物材料は、上述したような木材であり得る。
【0055】
本発明の混和剤は、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料を含み得る。N−オキシル媒介酸化のようなセルロース原料またはセルロースパルプの改質は、ミクロフィブリル化セルロースに容易に解繊する非常に不安定なセルロース材料をもたらす。
【0056】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の混合物を含むセメント混和剤の製造方法を提供し、該方法は、
・ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、
・前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程と、
を含む。
【0057】
本発明は、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用を規定する。本発明は、レオロジーを改質する、または材料分離を制御するための、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、または本発明に係る混和剤の使用を提供する。
【0058】
本発明は、コンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における本願発明に係る混和剤の使用を提供する。本願発明の好ましい実施形態では、コンクリートは、自己充填コンクリートである。
【0059】
本発明は、また、不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤での使用、またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における使用をも提供する。
【0060】
本願発明の1つの実施形態では、混和剤は、更に、可塑剤および/または分散剤を含む。ミクロフィブリル化セルロースまたはその誘導体は、可塑剤と組み合わせて使用されてよい。可塑剤は、ミクロフィブリル化セルロースの製造の前、後または間にミクロフィブリル化セルロースまたはその原料セルロースに添加されてよい。
【0061】
本発明は、本発明に係る混和剤を含むセメント組成物を提供する。セメント組成物は、更に、セメントバインダー、骨材材料および水を含み得る。セメントバインダーは、水の存在下において凝固または硬化するように、十分な水硬活性を有する、カルシウム、アルミニウム、シリコン、酸素または硫黄化合物を含む無機材料であってよい。
【0062】
本発明の1つの実施形態では、セメント組成物は、混和剤を含み、ミクロフィブリル化セルロースの量は、セメントバインダーの2重量%以下、より好ましくは、セメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値はセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率は、1.0以下である。
【0063】
本発明の別の実施形態では、セメント組成物は、混和剤を含み、ミクロフィブリル化セルロースの量は、水の2重量%以下、好ましくは、水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率は1.0以上である。
【0064】
本願発明の1つの実施形態では、組成物は、更に、少なくとも1つの可塑剤および/または少なくとも1つの分散剤を含む。
【0065】
本願発明の1つの実施形態では、セメント組成物は、コンクリート、好ましくは、自己充填コンクリート、である。本願発明の別の実施形態では、セメント組成物は、注入グラウトである。
【0066】
本発明は、
・セメントバインダー、骨材材料、水および本発明で規定された混和剤を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加する工程と、
を含む、本発明に係るセメント組成物の製造方法を提供する。
【0067】
本発明の1つの実施形態では、セメント組成物の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースの量が、セメントバインダーの2重量%以下、好ましくは、セメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値がセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率が1.0以下であることを含む。
【0068】
本発明の別の実施形態では、セメント組成物の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースの量が、水の2重量%以下、好ましくは、水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率が1.0以上であることを含む。
【0069】
本発明は、前記セメント組成物から作られた建設要素を提供する。本発明は、本発明に係る混和剤を含むセメントを提供する。
【0070】
本願発明は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を含むセメント組成物のための新規な混和剤を教示する。本願発明の好ましい実施形態は、コンクリート混和剤としてのミクロフィブリル化セルロースの使用に関する。
【0071】
本願発明は、コンクリートの安定化混和剤としてのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に基づいている。水のある環境下において、ミクロフィブリル化セルロースは、分散した、ミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の連続したヒドロゲルネットワークを形成する。このゲルは、非常に低い濃度でさえ、互いに絡み合った高度に水和したフィブリルにより形成される。このフィブリルは、また、水素結合を介しても相互に作用し得る。その巨視的構造は、機械的攪拌により容易に破壊される。すなわち、このゲルは、高いせん断応力下で流れ始める。
【0072】
本願発明の特定の実施形態では、材料の化学組成は同一であり、フィブリル化の度合いのみが変えられた。平均的な繊維の大きさは、フィブリル化に伴って減少した。
【0073】
水のある環境下において、セルロースパルプおよび微細化されたパルプは、いかなる明確なチクソトロピーも示さなかった、相分離した繊維懸濁液を形成したがしかし一方で、ミクロフィブリル化セルロースは、低い濃度でさえ、自己組織化したヒドロゲルネットワークを形成する。ミクロフィブリル化セルロースのこれらのゲルは、性質上、高いずり流動性および高いチクソトロピーを有する。ミクロフィブリル化セルロースゲルの固有の特性に起因して、この材料は、また、強い骨材保持力をも示す。
【0074】
実験室での試験は、高い水−セメント(w/c)のグラウトにより実施された。注入グラウトの材料分離は、本願の混和剤の使用により減少するということを示すことができる。これらの試験では、高い水−セメント比のグラウトは、この性質を確認するように試験された。また、より幅広い添加量と、異なるセルロース誘導体とによるレオロジー試験は、異なる用途において最良の材料および添加量を特定するように実施された。
【0075】
以下の実施例は、本願発明を更に説明するように提供され、その特許請求の範囲の技術的範囲を制限することは意図されない。この記載に基づいて、当業者は、多くの方法で本願発明を改良することができるだろう。
【実施例】
【0076】
材料
セルロース材料
以下のセルロース材料は、実施例1および3に用いられた:セルロースパルプ(試料1)、微細化されたパルプ(試料2)およびミクロフィブリル化セルロース(試料3)。セルロースパルプ(試料1)は、従来の化学パルプ化プロセスにより作られた、漂白されたカバノキのパルプ(またはバーチパルプ)であった。微細化されたパルプ(試料2)は、従来のVoith Sulzer リファインナー(300kWh/t)を用いて、試料1と同一のセルロースパルプから作製された。ミクロフィブリル化セルロース(試料3)は、工業用流動化装置を用いて、微細化されたパルプ(試料2)から作製された。
【0077】
用いられたセルロース材料の大きさは、図1の顕微鏡画像から推定できる。セルロースパルプ(図1A)および微細化されたパルプ(図1B)において、セルロースファイバーは、通常の光学顕微鏡により明確に視認できる。通常、大きい繊維の直径は、15μm〜25μmの間で変わり、長さは、500μmを越える(図1Aおよび1B)。微細化されたパルプにおいても、より微細なセルロースフィブリルまたはフィブリルの束が存在する(図1B)。ミクロフィブリル化セルロースでは、大きいセルロースファイバーは、もはや視認できない(図1C)。より高い倍率により、図1DのAMF像を参照すると、10nm〜100nmの直径を有する、高度に絡み合った個々のセルロースミクロフィブリルおよびフィブリルの束を見つけることができる。
【0078】
以下のセルロース材料は、実施例2および4に用いられた:工業グレードのミクロフィブリル化セルロース(工業用MFC)、ミクロフィブリル化セルロースL1(MFC−L1)であり、不安定化は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプおよびミクロフィブリル化セルロースL2(MFC−L2)の酸化に基づいており、不安定化は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプのカルボキシメチル化に基づいている。
【0079】
セメント
注入グラウトに用いられたセメントは、CEM II/A−M(S−LL)42.5N(株式会社Finnsementti、フィンランド)であった。
【実施例1】
【0080】
ペースト混合物のレオロジーの調査
方法
混合
ペーストの混合は、ホバート型モルタルミキサー(Hobart mortar mixer)により実施された。混合時間は3分(2分低速+1分高速)であった。パルプおよびセルロース材料は、まず、泡立て器(whisk)により、手作業で水(および必要に応じて可塑剤)と混合された。
【0081】
レオロジー
ペースト混合物のレオロジーは、粘度測定機(Rheotest RN4)により調査された。混合後、ペーストは、測定のために同軸シリンダー内に導入された。せん断速度が変えられ、せん断応力が測定された。
【0082】
試験の設定
ペースト混合物の組成は、表1に示される。
【表1】
【0083】
混合後、即座にペースト混合物のレオロジーが調査された。試験の終了には、約15分かかった。
【0084】
試験結果
試験結果は、図2および3に示される。
【0085】
レオロジー試験(図2)に基づくと、ミクロフィブリル化セルロースファイバーはペーストの降伏値およびチクソトロピーを増加させるということを結論付けることができる。
【0086】
ミクロフィブリル化セルロースの量が微細化されたパルプ内において少ないため、微細化されたパルプは、少しだけミクロフィブリル化セルロースと同じように機能するがしかし、降伏値およびチクソトロピーをわずかに向上させるだけであったこともまた判った。
【0087】
ミクロフィブリル化セルロースファイバーが、どのようにポリカルボン酸塩ベースの可塑剤と相互作用するかが判った(図3)。可塑剤は、ペーストの降伏値を予想通り減少させたがしかし、チクソトロピーは損なわれなかった。これは、いくつかの無機ナノ粒子による典型的な反応と逆であった。すなわち、少量の可塑剤により、チクソトロピーを損なうことは既に見出されている。
【実施例2】
【0088】
ペースト混合物のレオロジーの調査(試料:工業用MFC、MFC−L1およびMFC−L2)
方法
混合
ペーストの混合は、ホバート型モルタルミキサーにより実施された。混合時間は、3分(2分低速+1分高速)であった。パルプとセルロース材料は、まず、泡立て器により、手作業で水(および必要に応じて可塑剤)と混合された。
【0089】
レオロジー
ペースト混合物のレオロジーは、粘度測定機(Rheotest RN4)により調査された。混合後、ペーストは、測定のために同軸シリンダー内に導入された。せん断速度が変えられ、せん断応力が測定された。
【0090】
試験の設定
ペースト混合物の組成は、表2に示される。作製されたペーストの水/セメント比は、全てのペーストが同一のワーカビリティを得るように調整された。このことは、ほぼ一定である降伏値に対応する。
【表2】
【0091】
混合後、即座にペースト混合物のレオロジーが調査された。試験の終了には15分かかった。
【0092】
試験結果
試験結果は、表2、図4および図5に示される。
【0093】
これらのMFC添加剤により、同じワーカビリティおよび安定性を有する非常に高い水/セメント比のペーストを作ることは可能であった。本実施例において、参照ペーストに適したワーカビリティは、より高いセメント含有量を使用することにより達成された。実施例1と比較して、降伏値を増加させる影響もまた見出された。
【実施例3】
【0094】
混和剤としてセルロース材料を含むコンクリート混合物の調査
方法
混合
コンクリートの混合は、欧州標準規格EN 196−1(セメントの試験方法−第1部:強度の測定)に従って実施された。パルプとセルロース材料は、まず、泡立て器により手作業で水(および必要に応じて可塑剤)と混合された。
【0095】
レオロジー
コンクリート(骨材<8mm)のワーカビリティは、Haegermann Flow テーブルにより測定された。流動値(またはフロー、フロー値、flow)[mm]は、DIN 18550規格に従って15回の衝撃前後で測定された。
【0096】
水のブリーディング
コンクリートの水のブリーディング[vol.%]は、混合後1時間と3時間で測定された。フレッシュ混合物は、混合が終了した後、0.5リットルの奥部(bowel)に流し込まれた。試験の設定は、標準規格SFS5290から適合したものであった。
【0097】
強度の調査
コンクリート試料(40mm×40mm×160mm)は、強度の調査のために流し込まれた。圧縮強度および曲げ強度[MPa]は、1日、7日および28日後に測定された[EN−196−1]。圧縮強度は、6回の平均値として計算され、曲げ強度は、3回の平均値として計算された。
【0098】
断面の調査
岩石状の(petrographic)断面は、光学顕微鏡調査のために作製された。断面は、蛍光エポキシによって含浸(または浸透、impregnate)された。断面の最終サイズは、35mm×55mm×25μmであった。断面の顕微鏡写真は、Leica Qwin画像分析器(image analyzer)により撮影された。
【0099】
試験の設定
1.5%のミクロフィブリル化セルロース分散体は、欧州標準規格EN196−1のコンクリート配合物において試験された。最大の骨材サイズは、8mmよりも小さかった(「CEN 参照砂(Reference sand)」)。従来のセルロースパルプおよび微細化されたセルロースパルプもまた用いられた。添加剤を含まない参照混合物もまた作製された。乾燥していない配合物の、流動性、レオロジーおよび保水性が調査され、硬化された試料の、曲げ強度、圧縮強度および微細構造が測定された。
【0100】
コンクリート混合物における、材料の固形成分含有量と組成の情報が表3に示される。
【表3】
【0101】
結果
フレッシュコンクリート
セルロース材料を、まず、泡立て器によりコンクリートおよび水と混合させた場合、セルロースパルプ(1)および微細化されたパルプ(2)を用いて均一な分散体を得ることは不可能であることが判った。視覚による評価に基づくと、ミクロフィブリル化セルロース(3)は、セルロースパルプ(1)および微細化されたセルロースパルプ(2)よりも均一に分散していた。
【0102】
コンクリートの水のブリーディングは、混合後1時間と3時間で測定された。ブリーディングの結果は、表4に示される。レオロジーの結果もまた、表4に示され、および図6の測定写真に示される。
【表4】
【0103】
セルロースを含まない参照混合物では、大量のブリーディングがあった。流動値(フロー値)は高く、245mmであり、この混合物は、また、流動(フロー)試験(図6A)において材料分離した。
【0104】
ミクロフィブリル化セルロースを含むコンクリート混合物では、わずかなブリーディング(1%より少ない)があった。流動値は中位であり、140mmであった(図6Dも参照されたい)。
【0105】
微細化されたセルロースパルプを含むコンクリート混合物では、わずかなブリーディング(1%よりも少ない)があった。流動値は中位であり、150mm(図6C)であった。微細化されたパルプの添加量は、ミクロフィブリル化セルロースの添加量よりも3倍多かったことが判る(表4)。
【0106】
セルロースパルプを含むコンクリート混合物では、大量のブリーディングがあった。流動値は高く、235mmであり、この混合物は、また、流動試験(図6B)において材料分離した。
【0107】
硬化されたコンクリート
断面の調査結果(図7)は、参照コンクリート混合物(A)では大量のブリーディングと大量の骨材沈下があったことを示す。水とペーストは、コンクリートの表面で分離し、骨材は底部に存在した。
【0108】
ミクロフィブリル化セルロースを含むコンクリート混合物では、図7Dから判るように骨材の沈下はなかった。
【0109】
微細化されたセルロースパルプを含むコンクリート混合物では、図7Cから判るように骨材の沈下はなかった。また、微細化されたパルプの添加量はミクロフィブリル化セルロースの添加量よりも3倍多かったことが判る(表4)。
【0110】
セルロースパルプを含むコンクリート混合物では、大量の骨材沈下があった。水とペーストは、図7Cから判るようにコンクリートの表面で分離した。
【0111】
ミクロフィブリル化セルロースの量は、微細化されたパルプにおいて、より少ないため、ミクロフィブリル化セルロースがコンクリート混合物に使用される場合、微細化されたセルロースパルプの使用と比較して、セルロース材料のより少ない添加量が必要とされることが判る。
【0112】
微細構造は、また、UV光によっても調査された。断面光学調査結果は、図8に示される。参照試料では、明らかに基準から外れた大量の内部ブリーディングがあったことが判る(図8A)。内部ブリーディングは、コンクリートの内部において水路ネットワーク(channel network)を形成していた。セルロースパルプを含むコンクリート混合物においてもいくつかの内部ブリーディングがあった(図8B)が一方で、微細化されたセルロースパルプ(図8C)またはミクロフィブリル化セルロース(図8D)を含む混合物において内部ブリーディングがなく、その微細構造は、良好かつ均一であった。内部のブリーディングおよび内部の水路ネットワークは、参照試料と、セルロースパルプを含むコンクリート混合物とに関するコンクリートの気密性および耐久性を減少させた。
【0113】
圧縮強度および曲げ強度の測定は、これらの試験のいかなる組み合わせにおいてもセルロースの強度にほとんど影響はないことを示した。
【実施例4】
【0114】
工業グレードのミクロフィブリル化セルロースおよびMFC−L1を用いた、注入グラウトの水のブリーディングおよび粘度の調査
方法
混合
注入グラウトの混合は、高速混合機(Desoi AKM−70 D)により実施された。セメント、水およびセルロースの混合は、常時5000rpmで実施された。まず、水が添加され、それに続いて、短い予混合時間(5秒より少ない)に亘ってセルロースが添加され、それからセメントが添加された。セメントとの混合時間は2分であった。場合によっては、2分間5000rpmまたは10000rpmでセルロースの予混合(または分散)があった。
【0115】
フレッシュ注入グラウトの試験方法
目盛付き測定用グラス(体積1000mlおよび直径60mm)内に、1(1)リットルのグラウトを注入することにより、および2時間までブリーディング水量(bleed water amount)を測定することにより、水のブリーディングが測定された。
【0116】
マーシュ粘度(Marsh viscosity)は、マーシュファンネル(Marsh funnel)を用いて、[EN 14117]に従って測定された。
【0117】
試験の設定および結果
参照用注入グラウト混合物と、工業グレードのミクロフィブリル化セルロース(工業用MFC)を含む混合物と、の組成および試験結果が、表5と図9〜11に示される。
【表5】
【0118】
不安定なセルロースパルプから得られたミクロフィブリル化セルロースファイバー(MFC−L1)を含む注入グラウト混合物の組成は、表6と図12〜14に示される。3つの混合物(混合物2、3および4)のため、2分間5000rpmまたは10000rpmでセルロースの予混合(または分散)があった。
【0119】
表6に示される混合物は、以下のように、水のみと、混合および予混合された:
参照試料:第1の水+セメント+混合(5000rpm、2分)
混合物1:参照物(w/c=1.00)−水とセメントが、1分間5000rpmで混合された。セルロースは混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
混合物2:セメントの0.100%の乾燥したセルロース−セルロースと水が、2分間5000rpmで混合された。セメントは混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
混合物3:セメントの0.05%の乾燥したセルロース−セルロースと水が、2分間10000rpmで混合された。セメントが混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
混合物4:セメントの0.05%の乾燥したセルロース−セルロースと水が、2分間5000rpmで混合された。セメントは混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
【表6】
【0120】
実験結果は、ミクロフィブリル化セルロースファイバーが、注入グラウトの水のブリーディングを減少させ、粘度を増加させることを示した。マーシュ粘度の相対的な増加は、ブリーディングの相対的な減少よりも小さかった。例えば、w/cが1.00である場合に、セメントの0.263%の(工業用MFC)において17%対50%で、例えば、w/cが1.00である場合に、セメントの0.05%の(MFC−L1)において20%対63%。
【0121】
水のブリーディング試験は、ミクロフィブリル化セルロースファイバーが、w/c1.00のグラウトの水のブリーディングを、より低いw/cの参照混合物のレベルにまで減少させることを示した。例えば、w/cが1.00の混合物において、乾燥したセメントの0.34重量%のセルロースファイバー(工業用MFC)は、w/cが0.75の参照混合物と同様の少ない水のブリーディングを得た。
【0122】
マーシュ粘度試験に基づくと、ミクロフィブリル化セルロースファイバーは、w/c1.00のグラウトの粘度を、より低いw/cの参照混合物のレベルにまで増加させたということを結論付けることができる。マーシュ粘度の増加は、セルロースファイバーの添加量に依存する。添加量がそれほど多くない場合、粘度の増加は小さい。
【実施例5】
【0123】
グラウトの作製中における不安定なパルプからのミクロフィブリル化セルロースの作製
ミクロフィブリル化セルロース添加剤は、一般的に産業で用いられる機械を用いて、乾燥していない(またはウェットな状態の、wet)セメント配合物の作製中に不安定なセルロースパルプから作製できる。例えば、Desoi AKM−70Dのような高速混合機は、一般的に注入グラウトを均一にするように用いられる。本実施例は、この種の混合機が、不安定なパルプを高度に効果的な添加剤にフィブリル化するのにどのように用いられ得るかを示す。
【0124】
試験の設定と結果
化学的に改質された不安定なセルロースパルプ、すなわち、MFC−L1を製造するために用いられた同一のパルプ、を有する、予分散無しの場合および予分散有りの場合における注入グラウト混合物の組成および試験結果が、表7、図15および図16に示される。セルロースパルプを全く含まない参照物もまた含まれる。
【0125】
予分散する際、乾燥した材料(乾燥した不安定なセルロースパルプ)の含有量は、水の1%であった。予分散は、高速混合機(Desoi AKM−70D)により10000rpmで実施された。乾燥した材料の含有量が1%である、得られた予分散されたセルロースパルプは、注入グラウトの作製に用いられた。
【0126】
セメント、水およびセルロースの混合(予混合された、または予混合されない)は、5000rpmで実施された。まず、水が添加され、それに続いて、短い予混合時間(5秒より少ない)に亘ってセルロースが添加され、それからセメントが添加された。セメントとの混合時間は2分であった。
【0127】
実験結果は、予分散された化学的に改質された不安定なセルロースパルプが、注入グラウトの水のブリーディングを減少させ、マーシュ粘度を向上させることを示した。予分散無しでは、水のブリーディングは減少せず、マーシュ粘度は増加しなかった。
【0128】
水のブリーディング試験は、予分散された化学的に改質された不安定なセルロースパルプが、w/c1.00のグラウトの水のブリーディングを65%減少させることを示した。
【0129】
マーシュ粘度試験に基づくと、予分散された化学的に改質された不安定なセルロースパルプは、w/c1.00のグラウトの粘度を19%増加させるということを結論付けることができる。
【表7】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、セメント組成物のための混和剤に関し、該混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体(derivative)および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料を含む。 本願発明は、また、前記混和剤の製造方法にも関する。本願発明は、更に、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に関する。本願発明は、更に、コンクリート、自己充填コンクリート(self compacting concrete)、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における前記混和剤または不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料の使用に関する。本願発明は、前記混和剤を含む、セメント組成物またはセメント、およびその方法ならびに前記セメント組成物から作られた建設要素に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、セメント、砂、石および水の混合物から作られる建設材料である。コンクリートは、水と混合して配置された後、水和反応として知られる化学的なプロセスにより凝固および硬化する。水は、他の成分を一緒に結合させるセメントと反応して、最終的に石のような材料を生成する。コンクリートは、車道、建築物、地盤、高速道路/道路、橋/陸橋、駐車場、れんが/ブロック壁、および門、フェンスならびにポールのための足場を作るのに用いられる。
【0003】
コンクリート技術において興味のある重要な分野は、自己充填コンクリート(SCC)であり、自己充填コンクリートは、重力によってそれ自体が流れおよび充填する。従って、外部からの振動または他の圧縮は必要ではない。硬化したコンクリートは、構造物において通常のコンクリートとして機能するであろう。非常に高い性能のコンクリートを、自己充填コンクリートとして製造することは可能である。締固め作業が必要でないため、建設中の騒音レベルが顕著に低減され、1つの作業段階が除外される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SCCの問題は、材料分離(または分離、segregation)、および原料の変化に対するSCCの感受性である。通常および低強度のSCCの広範囲な問題により、低強度から普通強度までのコンクリートに対するSCCの利用は、本来あり得る程広くないであろう。材料分離は、通常、好ましくない特性をコンクリートにもたらす。材料分離は、水または骨材(または凝集体、aggregate)の分離であり得る。水の分離において、水の相は、セメント粒子が経時的に沈下(または沈降、settle)する場合に分離していく。骨材の分離は、骨材がペースト相の中で沈下する場合に、より速く起こる。ペーストは、水、セメント、他の微粉末および混和剤の混合物である。原料組成または水分含量のわずかな変化は、劇的にSCCの性質を変化させ得る。性能上、ロバスト性のこの欠如もまた、SCC使用の障害である。
【0005】
従って、改善された自己充填コンクリート材料への要求がある。さらに、標準的なコンクリート配合物(formulation)の乾燥していない(またはウェット、wet)状態における、チクソトロピーおよび粒子懸濁性を向上させる要求がある。
【0006】
注入グラウトは、圧力注入工法(pressure grouting technique)により使用されることが意図される。これらの材料に要求されることは、とりわけ、高い流動性、少ない材料分離および少ないブリーディングである。注入グラウトでは、非常に高い流動性が要求される。あらゆる用途における強度の要求はそれほど高くない。そのため、多くの用途では水セメント比が非常に高い。このことは、材料分離問題を引き起こし、グラウトの浸透が不十分である。
【0007】
増粘剤、例えば、ウェランガム(welan gum)またはセルロース誘導体のような水溶性多糖類、により上述した問題を解決するいくつかの試行が為されてきた。英国特許公開第2 378 946号と国際公開公報WO03/018505号は、セメント組成物のための混和剤の作製を開示しており、多糖類および/またはナノシリカが増粘剤として使用されている。米国特許公開公報第2003/159391号は、軽量コンクリート混合物に関し、可溶性セルロース誘導体が、増粘剤として使用されている。例えば、安定化混和剤(stabilizing admixture)としてのウェランガムの使用は、コンクリート産業において広く知られている。
【0008】
セルロースファイバーは、従来から、材料の機械的特性を改善するようにコンクリート材料に使用されてきた:例えば、セルロースファイバーが、乾燥した試料の強度特性を改善するのに使用されている米国特許公開公報第2005/112981号において。また、例えば、Kuthcarlapatiら(Metals Materials and Processes 20(3):307−314,2008)による刊行物において、セルロースナノウィスカーは、コンクリートの強化材料として調査されている。さらに、上述した刊行物の主要な目的は乾燥した試料の機械的特性を改善することであり、すなわち、乾燥していない配合物への影響ではない。また、上述した特許公開公報および刊行物では、セルロースファイバーの使用量は多かった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コンクリート配合物の材料分離およびブリーディングに関する上述した問題を解決する新規な取組みを示す。本願発明は、安定化混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に基づいている。
【0010】
本発明は、セメント組成物のためのセメント混和剤または混和剤に関し、混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料、および必要に応じて水を含む。
【0011】
本発明の重要な利点は、コンクリートの水のブリーディングおよび骨材沈下が減少することである。ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の添加は、可塑剤を含む場合および含まない場合両方ともペーストのチクソトロピーを増加させる。ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の保水性は、コンクリート混和剤として使用される場合に有益な特性である。本発明では、ミクロフィブリル化セルロースを含む混和剤は、強化添加剤としては使用されない。
【0012】
ミクロフィブリル化セルロースを安定化混和剤として、とりわけ、高い水/セメント(w/c)比を有する、すなわち、低強度から普通強度の、コンクリートに使用することは実施可能である。とりわけ、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体は、自己充填コンクリートをさらに強固(robust)にするのを支援する。水のブリーディングおよび骨材沈下が減少し、従って、コンクリートの耐久性が増加する。水のブリーディングは、最も微細な(finest)フィブリル添加剤により効果的に防がれる。骨材の沈下もまた、ミクロフィブリル化セルロースにより劇的に減少する。ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を含む混和剤の使用は、微粒子が少な過ぎることまたは微粒子の品質の悪さをも補償する。
【0013】
水のある環境下において、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体は、低濃度でさえ、自己組織化したヒドロゲルのネットワーク(または網状物、network)を形成する。ミクロフィブリル化セルロースのこれらのゲルは、性質上、高いずり流動性(shear thinning)および高いチクソトロピーを有する。ミクロフィブリル化セルロースゲルの固有の特性に起因して、この材料は、また、強い骨材保持力をも示す。
【0014】
コンクリート用途においてミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体が増粘剤または安定化混和剤として使用されることは、従来示されていない。
【0015】
本発明は、また、本発明の特許請求の範囲のいずれか1項に記載のセメント混和剤の製造方法にも関し、該方法は、
・ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、
・前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程と、
を含む。
【0016】
本発明は、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に関する。本発明は、また、本発明のレオロジーまたは材料分離の制御に係る、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、またはセメント混和剤の使用にも関する。
【0017】
本発明は、また、コンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における本発明に係る混和剤の使用にも関する。本発明は、また、不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤での使用、またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトもしくは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における使用にも関する。
【0018】
本願発明は、更に、本発明で規定された混和剤を含むセメント組成物に関する。
【0019】
本発明は、また、
・セメントバインダー、骨材材料、水および特許請求の範囲で規定された、本発明に係る混和剤を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加する工程と、
を含む、前記セメント組成物の製造方法にも関する。
【0020】
本願発明は、更に、前記セメント組成物から作られた建設要素と、本発明に係る混和剤を含むセメントとに関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、セルロースパルプ(A)、微細化されたセルロースパルプ(B)ならびにミクロフィブリル化セルロース(C)の光学顕微鏡画像、およびミクロフィブリル化セルロース(D)の原子間力顕微鏡画像を示す。
【図2】図2は、ペースト混合物のレオロジーの調査結果を示す。可塑剤を含まない参照ペーストと、ミクロフィブリル化セルロース、微細化されたパルプまたはパルプを含む混合物と、のせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)が示されている。
【図3】図3は、ペースト混合物のレオロジーの調査結果を示す。可塑剤を含まない参照ペーストと、可塑剤を含む、および含まない、ミクロフィブリル化セルロースを含む混合物と、のせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)が示されている。
【図4】図4は、可塑化されていないペーストのせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)を示す。参照物、MFC−L2 0.25%およびMFC−L2 0.125%のセメントに対する水(w/c)の比率は、それぞれ、0.400、0.593および0.539である。
【図5】図5は、可塑化されたペーストのせん断応力(Pa)対せん断速度(1/秒)を示す。参照物とMFC−L2 0.25%のセメントに対する水(w/c)の比率は、それぞれ、0.355および0.539である。
【図6】図6は、参照試料(A)と、セルロースパルプ(B)、微細化されたセルロースパルプ(C)またはミクロフィブリル化セルロース(D)を含むコンクリート混合物とに関する、15回の衝撃(shock)の後における流動測定(またはフロー測定、Flow-measurement)から得られた広がりの結果を示す。
【図7】図7は、参照試料(A)と、セルロースパルプ(B)、微細化されたセルロースパルプ(C)またはミクロフィブリル化セルロース(D)を含むコンクリート混合物と、の材料分離を示す断面光学調査結果を示す。それぞれの写真の高さは、2.75mmである。表面下0mm〜3mm、3mm〜6mmおよび約20mmの材料分離が示されている。
【図8】図8は、参照試料(A)と、セルロースパルプ(B)、微細化されたセルロースパルプ(C)またはミクロフィブリル化セルロース(D)を含むコンクリート混合物と、の微細構造をUV光で示すことによる断面光学調査結果を示す。それぞれの写真の高さは、2.75mmである。
【図9】図9は、w/cが0.65〜1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(工業用MFC)を有し、常時w/cが1.00である混合物と、の水のブリーディング(2時間後)を示す。
【図10】図10は、w/cが0.65〜1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(工業用MFC)を有し、常時w/cが1.00である混合物と、のマーシュ粘度値(Marsh viscosity value)を示す。
【図11】図11は、w/cが0.65〜1.00である参照混合物と、セルロース(工業用MFC)を有し、常時w/cが1.00である混合物とに関する、マーシュ粘度値および水のブリーディング値を示す。
【図12】図12は、w/cが1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(MFC−L1)を有し、同様にw/cが1.00である混合物と、の水のブリーディング(2時間後)を示す。
【図13】図13は、w/cが1.00である参照混合物と、セルロースファイバー(MFC−L1)を有し、同様にw/cが1.00である混合物と、のマーシュ粘度値を示す。
【図14】図14は、参照混合物と、セルロース(MFC−L1)を有する混合物とに関する、マーシュ粘度値および水のブリーディング値を示す。全ての混合物は、w/c1.00を有する。
【図15】図15は、w/cが1.00である参照混合物と、不安定なセルロースパルプ(Mix1、MFC−L1の前駆体)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、Desoi AKM−70D1を用いてフィブリル化されたMFC−L1(Mix2)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、の水のブリーディング(2時間後)を示す。
【図16】図16は、w/cが1.00である参照混合物と、不安定なセルロースパルプ(Mix1、MFC−L1の前駆体)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、Desoi AKM−70Dでフィブリル化したMFC−L1(Mix2)を含み、同様にw/cが1.00である混合物と、のマーシュ粘度値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、コンクリート配合物の材料分離およびブリーディングに関する問題を解決する新規な取組みを示す。本発明は、可溶性多糖類を使用する代わりに、安定化混和剤(stabilizing admixture)としてミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を使用することに基づいている。水のある環境下において、ミクロフィブリル化セルロースは、散布しているミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の連続したヒドロゲルネットワークを形成する。このゲルは、非常に低い濃度でさえ、互いに絡み合った、高度に水和されたフィブリルにより形成される。このフィブリルは、また、水素結合を介しても相互に作用し得る。 そのマクロ構造は、機械的攪拌により容易に破壊される。すなわち、このゲルは、高いせん断応力を受けて流れ始める。コンクリート用途においてミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体が増粘剤または安定化混和剤として使用されることは、従来示されていない。
【0023】
本発明は、セメント混和剤に関し、該混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料を含む。本願発明は、また、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を含むセメント混和剤の製造方法にも関し、該方法は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、必要に応じて、ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程とを含む。本発明は、更に、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースの使用に関し、およびコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における本願発明の混和剤の使用に関する。本願発明は、更に、不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤での使用またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトもしくは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における使用に関する。
【0024】
本願発明は、更に、セメント組成物の製造方法に関し、該方法は、セメントバインダー(cementitious binder)、骨材材料、水および本発明の混和剤を一緒に混合する工程を含む。本願発明は、また、本発明で規定された混和剤を含むセメント組成物ならびに前記セメント組成物から作られた建設要素に関する。本願発明は、更に、本発明に係る混和剤を含むセメントに関する。
【0025】
特段の指定がない限り、本明細書および特許請求の範囲に用いられる用語は、建設業界ならびにパルプ工業および製紙業で一般的に用いられる意味を有する。詳細には、以下の用語は、以下に示す意味を有する。
【0026】
セルフコンソリデーティングコンクリート(self-consolidating concrete)またはSCCとしても知られる用語「自己充填コンクリート(self-compacting concrete)」は、どのような機械的な振動も全く無い状態で、所定の場所に広がり、型枠を満たし、および最も密集した鉄筋でさえ密閉する、高度に流動性を有する非材料分離コンクリートである。このコンクリートは、振動の無い状態で、それ自体の重量によってきれいに(purely)配置され得るコンクリート混合物として規定される。
【0027】
用語「セメントバインダー(cementitious binder)」は、水の存在下で凝固または硬化する十分な水硬活性(または水硬化性、hydraulic activity)を有する、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、酸素および/または硫黄の複合物を含む全て無機材料のことを言う。
【0028】
セメントは、一般的なポルトランド・セメント、急結するもしくは超(またはエキストラ、extra)急結する、耐硫酸塩性セメント、改質セメント、アルミナセメント、高アルミナセメント、カルシウムアルミナセメント、および2次成分(例えば、フライアッシュ(石灰石)、ポゾランおよび同等のもの)を含むセメントを含むがこれらに限定されない。
【0029】
用語「セメント組成物(cementitious composition)」は、セメントバインダーと少なくとも水から成る材料のことを言う。これらの材料は、例えば、コンクリート、モルタルおよびグラウトである。一般的に、コンクリートは、例えば、セメント、水、骨材および多くの場合に混和剤から成る。
【0030】
セメントの代わりに、フライアッシュおよびスラグセメントのような他のセメント材料が使用され得る。骨材、概して、細骨材ならびに粗骨材、および化学混和剤が添加される。コンクリート骨材は、砂利、石灰岩または花崗岩のような粗骨材と、砂を含む細骨材とを含む。粉砕されている石またはリサイクルされた粉砕されているコンクリートもまた、骨材として使用される。
【0031】
用語「骨材材料(aggregate material)」は、コンクリートに使用されるのに適した粒状材料のことを言う。骨材は、天然もしくは人工であってよく、または以前に建造物で用いられていた材料からリサイクルされてよい。用語「粗骨材(coarse aggregate)」は、上限サイズが4mm以上であり、下限サイズが2mm以上である骨材を意味する。用語「細骨材(fine aggregate)」は、上限サイズが4mm以下ある骨材を意味する。
【0032】
用語「セメント/コンクリート混和剤(cement/concrete admixture)」は、フレッシュコンクリートまたは硬化したコンクリートの特性を改質するように、コンクリートの混合工程に、セメントの質量に関係して少量添加される材料のことを言う。
【0033】
用語「セルロース原料(cellulose raw material)」は、セルロースパルプ、微細化されたパルプまたはミクロフィブリル化セルロースの製造に使用できる任意のセルロース原料のことを言う。原料は、セルロースを含む任意の植物原料に基づき得る。原料は、また、所定の細菌発酵プロセスからも生成され得る。植物原料は、木材であってよい。木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー(ベイマツ)もしくはアメリカツガのような軟材木(針葉樹)、カバノキ、アスペン、ポプラ、ハンの木、ユーカリもしくはアカシアのような硬材木(広葉樹)または軟材および硬材から成る混合物であり得る。非木質材料は、農業廃棄物、草類、または綿、トウモロコシ、小麦、オートムギ、ライ麦、大麦、米、亜麻、大麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、カラムシ、ケナフ麻、バガス、竹またはアシ(ヨシ)のわら、葉、樹皮、種、穀、花、野菜または果実のような他の植物材料であり得る。セルロース原料は、また、セルロース製造用微生物からも生成され得るであろう。微生物は、酢酸菌属(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、根粒菌属、シュードモナス属またはアルカリゲネス属、好ましくは酢酸菌属、より好ましくはアセトバクター・キシリナムまたはアセトバクター・パスツリアナスの菌種、であり得る。
【0034】
用語「セルロースパルプ(cellulose pulp)」は、セルロースファイバーのことを言い、セルロースファイバーは、化学パルプ化プロセス、機械パルプ化プロセス、サーモメカニカルパルプ化プロセスまたはケミサーモメカニカルパルプ化プロセスにより、任意のセルロース原料から単離(または分離、isolate)される。一般的に、ファイバーの直径は、15μm〜25μmの間で変わり、長さは、500μmを越えるがしかし、本発明は、これらのパラメータに限定されることを意図しない。典型的な「セルロースパルプ(cellulose pulp)」の光学顕微鏡写真は図1Aに示される。
【0035】
用語「微細化されたパルプ(refined pulp)」は、微細化されたセルロースパルプのことを言う。例えば、リファインナー、粉砕機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、流動化装置(例えば、マイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーまたはフルイダイザータイプのホモジナイザー)または超音波処理機等の適切な装置により、セルロースパルプの微細化が実施される。一般的に、全てのセルロースファイバーが、完全にフィブリル化されるわけではない。つまり、変化しない寸法を有する多量のセルロースファイバーが、微細化されたセルロース材料とともに、まだ存在する。微細化されたパルプ中の該多量ファイバーは、フィブリル化された表面を有し得る。「微細化されたパルプ(refined pulp)」においてセルロースベースの材料の最も微細な部分は、直径が200nmより小さい、ミクロフィブリル化セルロース、すなわち、セルロースミクロフィブリルおよびミクロフィブリルの束、から成る。典型的な「微細化されたセルロース(refined cellulose)」の光学顕微鏡写真は図1Bに示される。
【0036】
用語「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」は、セルロース原料から生成された、単離したセルロースミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の集合体のことを言う。ミクロフィブリルは、一般的に高いアスペクト比を有する。長さは、1マイクロメートルを越えてよいが一方で、平均直径の数値(number-average diameter)は、一般的に200nmよりも小さい。ミクロフィブリルの束の直径は、より大きくてもよいがしかし、概して、1μmよりも小さい。最も微小なミクロフィブリルは、一般的に直径が2nm〜12nmであるいわゆる基本繊維(elementary fibril)と同様である。フィブリルまたはフィブリルの束の大きさは、原料と解繊(または分解、disintegration)方法に依存する。ミクロフィブリル化セルロースは、また、いくつかのヘミセルロースを含んでもよい。すなわち、その量は、植物原料に依存する。リファインナー、粉砕機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、超音波処理機または流動化装置(例えば、マイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーまたはフルイダイザータイプのホモジナイザー)のような適切な装置により、セルロース原料、セルロースパルプ、または微細化されたパルプからのミクロフィブリル化セルロースの機械的な解繊が実施される。「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」は、また、所定の発酵プロセスから直接単離(分離)し得る。本発明のセルロース製造用微生物は、酢酸菌属(アセトバクター属)、アグロバクテリウム属、根粒菌属、シュードモナス属またはアルカリゲネス属、好ましくは、酢酸菌属、より好ましくは、アセトバクター・キシリナムまたはアセトバクター・パスツリアナスの菌種、であってよい。「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」は、また、セルロースミクロフィブリルまたはミクロファイブリルの束の化学的または物理的に改質された任意の誘導体でもあり得る。 化学的な改質は、例えば、セルロース分子のカルボキシメチル化、酸化、エステル化またはエーテル化反応に基づき得る。改質は、また、アニオン性物質、カチオン性物質もしくは非イオン性物質またはこれらの任意の組合せの、セルロース表面への物理吸着によっても実現されるであろう。記載された改質は、ミクロフィブリル化セルロースの製造前、後または間において実施され得る。
【0037】
ミクロフィブリル化セルロースに広く用いられている数個の同義語がある。例:ナノセルロース、ナノフィブリル化したセルロース(NFC)、ナノフィブリルセルロース、セルロースナノファイバー、ナノスケールのフィブリル化したセルロース、ミクロフィブリル化したセルロース(MFC)またはセルロースミクロフィブリル。さらに、所定の微生物により製造されたミクロフィブリル化セルロースもまた、様々な同義語を有する。例えば、バクテリアセルロース、微生物セルロース(MC)、バイオセルロース、ナタデココ(NDC)またはココデナタ。本発明に記載されたミクロフィブリル化セルロースは、セルロースナノウィスカー、セルロースナノ結晶、セルロースナノロッド、ロッド状のセルロース微細結晶またはセルロースナノワイヤーとしても知られるいわゆるセルロースウィスカーと同一の材料ではない。場合によっては、同様の専門用語が、例えばKuthcarlapatiら(Metals Materials and Processes20(3):307−314、2008)により、両材料に用いられ、そこでは、調査された材料は、「セルロースナノファイバー(cellulose nanofiber)」と称されていたがしかし、彼らは、明らかにセルロースナノウィスカーのことを言っていた。一般的に、これらの材料は、ミクロフィブリル化セルロースのようにフィブリル構造に沿って、更に強固な構造をもたらすアモルファス部分を有さない。セルロースウィスカーは、また、ミクロフィブリル化セルロースよりも短く、一般的に、その長さは1マイクロメートルよりも短い。
【0038】
典型的な「ミクロフィブリル化セルロース(microfibrillar cellulose)」の光学顕微鏡写真は、図1Cに示され、大きなセルロースファイバーは、もはや明確には視認できない。図1Dでは、より高い倍率により、100nmより小さい直径を有する、個々のミクロフィブリルおよびミクロフィブリルの束が見られ得る。
【0039】
用語「工業グレードのミクロフィブリル化セルロース(technical grade microfibrillar cellulose)」または「工業用MFC(technical MFC)」は、分別された微細化されたパルプのことを言う。この材料は、濾過布またはメンブランのような適切な分別技術により、微細化されたセルロースパルプからより大きなセルロースファイバーを除去することによって得られる。「微細化されたパルプ(refined pulp)」と比較して、「工業用MFC(technical MFC)」は、「セルロースパルプ(cellulose pulp)」または「微細化されたパルプ(refined pulp)」において視認できる一般的に15μm〜25μmの直径の大きな繊維を含まない。
【0040】
用語「不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料(labile cellulose pulp or cellulose raw material)」は、セルロース原料またはセルロースパルプの所定の改質について言う。例えば、N−オキシルの媒介酸化(例えば、2、2、6、6−テトラメチルー1ーピペリジンN−オキシド)は、ミクロフィブリル化セルロースに解繊するのが容易である非常に不安定なセルロース材料をもたらす。国際公開公報WO09/084566号および日本国特許公開公報第20070340371号は、このような改質例を開示している。
【0041】
用語「ミクロフィブリル化セルロース L1(microfibrillar cellulose L1)」または「MFC−L1(MFC-L1)」は、不安定なセルロースパルプから得られるミクロファイブリル化セルロース材料のことを言う。不安定化(labilization)は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプの酸化に基づいている。不安定化に起因して、このセルロースパルプは、ミクロフィブリル化セルロースに解繊するのが容易である。また、不安定化反応は、アルデヒド酸官能基およびカルボン酸官能基を、MFC−L1ファイバーの表面に与える。国際公開公報WO09/084566および日本国特許公開公報第20070340371号は、このような改質例を開示している。
【0042】
用語「ミクロフィブリル化セルロース L2(microfibrillar cellulose L2)」または「MFC−L2(MFC-L2)」は、不安定なセルロースパルプから得られるミクロフィブリル化セルロース材料のことを言う。不安定化は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプのカルボキシメチル化に基づいている。不安定化に起因して、このセルロースパルプは、ミクロフィブリル化セルロースに解繊するのが容易である。また、不安定化反応は、カルボン酸官能基を、MFC−L2ファイバーの表面に与える。
【0043】
用語「可塑剤(plasticizer)」は、セメントペーストの流動性を向上させ、従って、一定の水/セメント比におけるコンクリートのワーカビリティを向上させる材料、または同等のワーカビリティを維持しながら、より少ない量の水によりコンクリートが作製され得る材料のことを言う。
【0044】
用語「分散剤(dispersing agent)」は、粒子の分離性を改善し、および沈下または集塊化(clumping)を防ぐように、懸濁液、通常コロイド、に添加される非界面活性ポリマーまたは界面活性剤のことを言う。
【0045】
用語「コンクリートのブリーディング(concrete bleeding)」は、コンクリートの可塑化の段階(plastic phase)の間に、固形物の沈下に起因した、コンクリート表面における水の層の形成のことを言う。
【0046】
用語「内部ブリーディング(internal bleeding)」は、コンクリート構造自体の内部の水の分離のことを言う。
【0047】
用語「注入グラウト(injection grout)」は、圧力注入工法(pressure grouting technique)により使用されることが意図される特別のグラウトのことを言う。これらの材料に要求されることは、とりわけ、高い流動性、少ない材料分離および少ないブリーディングである。
【0048】
本発明は、以下の実施形態またはそれらの任意の組み合わせを提供する。
【0049】
本発明は、セメント混和剤を提供し、該混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体および/または混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプもしくはセルロース原料、および必要に応じて水を含む。
【0050】
混和剤は、例えば、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の、固体混合物または分散体であり得る混合物から成ってよい。
【0051】
本発明の混和剤は、少なくとも1つの可塑剤を更に含んでよい。可塑剤の例は、ポリカルボン酸エーテルまたはその誘導体を含む。
【0052】
本発明の混和剤は、少なくとも1つの分散剤を更に含んでよい。混和剤は、更に、消泡剤、緩衝材、抑制剤、pH調整剤、殺生物剤、防腐剤、硬化促進剤および/または空気連行剤のような1以上の他の成分を含んでよい。
【0053】
本発明の混和剤は、ミクロフィブリル化セルロースを含んでよく、セルロースミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の直径は、1μmより小さく、好ましくは、200nmより小さく、より好ましくは100nmより小さい。
【0054】
ミクロフィブリル化セルロースは、セルロースミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の化学的または物理的に改質された誘導体であり得る。ミクロフィブリル化セルロースは、植物材料を含む原料から得ることができ、または細菌発酵プロセスから生成され得る。植物材料は、上述したような木材であり得る。
【0055】
本発明の混和剤は、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料を含み得る。N−オキシル媒介酸化のようなセルロース原料またはセルロースパルプの改質は、ミクロフィブリル化セルロースに容易に解繊する非常に不安定なセルロース材料をもたらす。
【0056】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の混合物を含むセメント混和剤の製造方法を提供し、該方法は、
・ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、
・前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程と、
を含む。
【0057】
本発明は、コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用を規定する。本発明は、レオロジーを改質する、または材料分離を制御するための、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、または本発明に係る混和剤の使用を提供する。
【0058】
本発明は、コンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における本願発明に係る混和剤の使用を提供する。本願発明の好ましい実施形態では、コンクリートは、自己充填コンクリートである。
【0059】
本発明は、また、不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤での使用、またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における使用をも提供する。
【0060】
本願発明の1つの実施形態では、混和剤は、更に、可塑剤および/または分散剤を含む。ミクロフィブリル化セルロースまたはその誘導体は、可塑剤と組み合わせて使用されてよい。可塑剤は、ミクロフィブリル化セルロースの製造の前、後または間にミクロフィブリル化セルロースまたはその原料セルロースに添加されてよい。
【0061】
本発明は、本発明に係る混和剤を含むセメント組成物を提供する。セメント組成物は、更に、セメントバインダー、骨材材料および水を含み得る。セメントバインダーは、水の存在下において凝固または硬化するように、十分な水硬活性を有する、カルシウム、アルミニウム、シリコン、酸素または硫黄化合物を含む無機材料であってよい。
【0062】
本発明の1つの実施形態では、セメント組成物は、混和剤を含み、ミクロフィブリル化セルロースの量は、セメントバインダーの2重量%以下、より好ましくは、セメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値はセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率は、1.0以下である。
【0063】
本発明の別の実施形態では、セメント組成物は、混和剤を含み、ミクロフィブリル化セルロースの量は、水の2重量%以下、好ましくは、水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率は1.0以上である。
【0064】
本願発明の1つの実施形態では、組成物は、更に、少なくとも1つの可塑剤および/または少なくとも1つの分散剤を含む。
【0065】
本願発明の1つの実施形態では、セメント組成物は、コンクリート、好ましくは、自己充填コンクリート、である。本願発明の別の実施形態では、セメント組成物は、注入グラウトである。
【0066】
本発明は、
・セメントバインダー、骨材材料、水および本発明で規定された混和剤を一緒に混合する工程と、
・必要に応じて、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加する工程と、
を含む、本発明に係るセメント組成物の製造方法を提供する。
【0067】
本発明の1つの実施形態では、セメント組成物の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースの量が、セメントバインダーの2重量%以下、好ましくは、セメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値がセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率が1.0以下であることを含む。
【0068】
本発明の別の実施形態では、セメント組成物の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースの量が、水の2重量%以下、好ましくは、水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率が1.0以上であることを含む。
【0069】
本発明は、前記セメント組成物から作られた建設要素を提供する。本発明は、本発明に係る混和剤を含むセメントを提供する。
【0070】
本願発明は、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を含むセメント組成物のための新規な混和剤を教示する。本願発明の好ましい実施形態は、コンクリート混和剤としてのミクロフィブリル化セルロースの使用に関する。
【0071】
本願発明は、コンクリートの安定化混和剤としてのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用に基づいている。水のある環境下において、ミクロフィブリル化セルロースは、分散した、ミクロフィブリルまたはミクロフィブリルの束の連続したヒドロゲルネットワークを形成する。このゲルは、非常に低い濃度でさえ、互いに絡み合った高度に水和したフィブリルにより形成される。このフィブリルは、また、水素結合を介しても相互に作用し得る。その巨視的構造は、機械的攪拌により容易に破壊される。すなわち、このゲルは、高いせん断応力下で流れ始める。
【0072】
本願発明の特定の実施形態では、材料の化学組成は同一であり、フィブリル化の度合いのみが変えられた。平均的な繊維の大きさは、フィブリル化に伴って減少した。
【0073】
水のある環境下において、セルロースパルプおよび微細化されたパルプは、いかなる明確なチクソトロピーも示さなかった、相分離した繊維懸濁液を形成したがしかし一方で、ミクロフィブリル化セルロースは、低い濃度でさえ、自己組織化したヒドロゲルネットワークを形成する。ミクロフィブリル化セルロースのこれらのゲルは、性質上、高いずり流動性および高いチクソトロピーを有する。ミクロフィブリル化セルロースゲルの固有の特性に起因して、この材料は、また、強い骨材保持力をも示す。
【0074】
実験室での試験は、高い水−セメント(w/c)のグラウトにより実施された。注入グラウトの材料分離は、本願の混和剤の使用により減少するということを示すことができる。これらの試験では、高い水−セメント比のグラウトは、この性質を確認するように試験された。また、より幅広い添加量と、異なるセルロース誘導体とによるレオロジー試験は、異なる用途において最良の材料および添加量を特定するように実施された。
【0075】
以下の実施例は、本願発明を更に説明するように提供され、その特許請求の範囲の技術的範囲を制限することは意図されない。この記載に基づいて、当業者は、多くの方法で本願発明を改良することができるだろう。
【実施例】
【0076】
材料
セルロース材料
以下のセルロース材料は、実施例1および3に用いられた:セルロースパルプ(試料1)、微細化されたパルプ(試料2)およびミクロフィブリル化セルロース(試料3)。セルロースパルプ(試料1)は、従来の化学パルプ化プロセスにより作られた、漂白されたカバノキのパルプ(またはバーチパルプ)であった。微細化されたパルプ(試料2)は、従来のVoith Sulzer リファインナー(300kWh/t)を用いて、試料1と同一のセルロースパルプから作製された。ミクロフィブリル化セルロース(試料3)は、工業用流動化装置を用いて、微細化されたパルプ(試料2)から作製された。
【0077】
用いられたセルロース材料の大きさは、図1の顕微鏡画像から推定できる。セルロースパルプ(図1A)および微細化されたパルプ(図1B)において、セルロースファイバーは、通常の光学顕微鏡により明確に視認できる。通常、大きい繊維の直径は、15μm〜25μmの間で変わり、長さは、500μmを越える(図1Aおよび1B)。微細化されたパルプにおいても、より微細なセルロースフィブリルまたはフィブリルの束が存在する(図1B)。ミクロフィブリル化セルロースでは、大きいセルロースファイバーは、もはや視認できない(図1C)。より高い倍率により、図1DのAMF像を参照すると、10nm〜100nmの直径を有する、高度に絡み合った個々のセルロースミクロフィブリルおよびフィブリルの束を見つけることができる。
【0078】
以下のセルロース材料は、実施例2および4に用いられた:工業グレードのミクロフィブリル化セルロース(工業用MFC)、ミクロフィブリル化セルロースL1(MFC−L1)であり、不安定化は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプおよびミクロフィブリル化セルロースL2(MFC−L2)の酸化に基づいており、不安定化は、セルロースパルプ、セルロース原料または微細化されたパルプのカルボキシメチル化に基づいている。
【0079】
セメント
注入グラウトに用いられたセメントは、CEM II/A−M(S−LL)42.5N(株式会社Finnsementti、フィンランド)であった。
【実施例1】
【0080】
ペースト混合物のレオロジーの調査
方法
混合
ペーストの混合は、ホバート型モルタルミキサー(Hobart mortar mixer)により実施された。混合時間は3分(2分低速+1分高速)であった。パルプおよびセルロース材料は、まず、泡立て器(whisk)により、手作業で水(および必要に応じて可塑剤)と混合された。
【0081】
レオロジー
ペースト混合物のレオロジーは、粘度測定機(Rheotest RN4)により調査された。混合後、ペーストは、測定のために同軸シリンダー内に導入された。せん断速度が変えられ、せん断応力が測定された。
【0082】
試験の設定
ペースト混合物の組成は、表1に示される。
【表1】
【0083】
混合後、即座にペースト混合物のレオロジーが調査された。試験の終了には、約15分かかった。
【0084】
試験結果
試験結果は、図2および3に示される。
【0085】
レオロジー試験(図2)に基づくと、ミクロフィブリル化セルロースファイバーはペーストの降伏値およびチクソトロピーを増加させるということを結論付けることができる。
【0086】
ミクロフィブリル化セルロースの量が微細化されたパルプ内において少ないため、微細化されたパルプは、少しだけミクロフィブリル化セルロースと同じように機能するがしかし、降伏値およびチクソトロピーをわずかに向上させるだけであったこともまた判った。
【0087】
ミクロフィブリル化セルロースファイバーが、どのようにポリカルボン酸塩ベースの可塑剤と相互作用するかが判った(図3)。可塑剤は、ペーストの降伏値を予想通り減少させたがしかし、チクソトロピーは損なわれなかった。これは、いくつかの無機ナノ粒子による典型的な反応と逆であった。すなわち、少量の可塑剤により、チクソトロピーを損なうことは既に見出されている。
【実施例2】
【0088】
ペースト混合物のレオロジーの調査(試料:工業用MFC、MFC−L1およびMFC−L2)
方法
混合
ペーストの混合は、ホバート型モルタルミキサーにより実施された。混合時間は、3分(2分低速+1分高速)であった。パルプとセルロース材料は、まず、泡立て器により、手作業で水(および必要に応じて可塑剤)と混合された。
【0089】
レオロジー
ペースト混合物のレオロジーは、粘度測定機(Rheotest RN4)により調査された。混合後、ペーストは、測定のために同軸シリンダー内に導入された。せん断速度が変えられ、せん断応力が測定された。
【0090】
試験の設定
ペースト混合物の組成は、表2に示される。作製されたペーストの水/セメント比は、全てのペーストが同一のワーカビリティを得るように調整された。このことは、ほぼ一定である降伏値に対応する。
【表2】
【0091】
混合後、即座にペースト混合物のレオロジーが調査された。試験の終了には15分かかった。
【0092】
試験結果
試験結果は、表2、図4および図5に示される。
【0093】
これらのMFC添加剤により、同じワーカビリティおよび安定性を有する非常に高い水/セメント比のペーストを作ることは可能であった。本実施例において、参照ペーストに適したワーカビリティは、より高いセメント含有量を使用することにより達成された。実施例1と比較して、降伏値を増加させる影響もまた見出された。
【実施例3】
【0094】
混和剤としてセルロース材料を含むコンクリート混合物の調査
方法
混合
コンクリートの混合は、欧州標準規格EN 196−1(セメントの試験方法−第1部:強度の測定)に従って実施された。パルプとセルロース材料は、まず、泡立て器により手作業で水(および必要に応じて可塑剤)と混合された。
【0095】
レオロジー
コンクリート(骨材<8mm)のワーカビリティは、Haegermann Flow テーブルにより測定された。流動値(またはフロー、フロー値、flow)[mm]は、DIN 18550規格に従って15回の衝撃前後で測定された。
【0096】
水のブリーディング
コンクリートの水のブリーディング[vol.%]は、混合後1時間と3時間で測定された。フレッシュ混合物は、混合が終了した後、0.5リットルの奥部(bowel)に流し込まれた。試験の設定は、標準規格SFS5290から適合したものであった。
【0097】
強度の調査
コンクリート試料(40mm×40mm×160mm)は、強度の調査のために流し込まれた。圧縮強度および曲げ強度[MPa]は、1日、7日および28日後に測定された[EN−196−1]。圧縮強度は、6回の平均値として計算され、曲げ強度は、3回の平均値として計算された。
【0098】
断面の調査
岩石状の(petrographic)断面は、光学顕微鏡調査のために作製された。断面は、蛍光エポキシによって含浸(または浸透、impregnate)された。断面の最終サイズは、35mm×55mm×25μmであった。断面の顕微鏡写真は、Leica Qwin画像分析器(image analyzer)により撮影された。
【0099】
試験の設定
1.5%のミクロフィブリル化セルロース分散体は、欧州標準規格EN196−1のコンクリート配合物において試験された。最大の骨材サイズは、8mmよりも小さかった(「CEN 参照砂(Reference sand)」)。従来のセルロースパルプおよび微細化されたセルロースパルプもまた用いられた。添加剤を含まない参照混合物もまた作製された。乾燥していない配合物の、流動性、レオロジーおよび保水性が調査され、硬化された試料の、曲げ強度、圧縮強度および微細構造が測定された。
【0100】
コンクリート混合物における、材料の固形成分含有量と組成の情報が表3に示される。
【表3】
【0101】
結果
フレッシュコンクリート
セルロース材料を、まず、泡立て器によりコンクリートおよび水と混合させた場合、セルロースパルプ(1)および微細化されたパルプ(2)を用いて均一な分散体を得ることは不可能であることが判った。視覚による評価に基づくと、ミクロフィブリル化セルロース(3)は、セルロースパルプ(1)および微細化されたセルロースパルプ(2)よりも均一に分散していた。
【0102】
コンクリートの水のブリーディングは、混合後1時間と3時間で測定された。ブリーディングの結果は、表4に示される。レオロジーの結果もまた、表4に示され、および図6の測定写真に示される。
【表4】
【0103】
セルロースを含まない参照混合物では、大量のブリーディングがあった。流動値(フロー値)は高く、245mmであり、この混合物は、また、流動(フロー)試験(図6A)において材料分離した。
【0104】
ミクロフィブリル化セルロースを含むコンクリート混合物では、わずかなブリーディング(1%より少ない)があった。流動値は中位であり、140mmであった(図6Dも参照されたい)。
【0105】
微細化されたセルロースパルプを含むコンクリート混合物では、わずかなブリーディング(1%よりも少ない)があった。流動値は中位であり、150mm(図6C)であった。微細化されたパルプの添加量は、ミクロフィブリル化セルロースの添加量よりも3倍多かったことが判る(表4)。
【0106】
セルロースパルプを含むコンクリート混合物では、大量のブリーディングがあった。流動値は高く、235mmであり、この混合物は、また、流動試験(図6B)において材料分離した。
【0107】
硬化されたコンクリート
断面の調査結果(図7)は、参照コンクリート混合物(A)では大量のブリーディングと大量の骨材沈下があったことを示す。水とペーストは、コンクリートの表面で分離し、骨材は底部に存在した。
【0108】
ミクロフィブリル化セルロースを含むコンクリート混合物では、図7Dから判るように骨材の沈下はなかった。
【0109】
微細化されたセルロースパルプを含むコンクリート混合物では、図7Cから判るように骨材の沈下はなかった。また、微細化されたパルプの添加量はミクロフィブリル化セルロースの添加量よりも3倍多かったことが判る(表4)。
【0110】
セルロースパルプを含むコンクリート混合物では、大量の骨材沈下があった。水とペーストは、図7Cから判るようにコンクリートの表面で分離した。
【0111】
ミクロフィブリル化セルロースの量は、微細化されたパルプにおいて、より少ないため、ミクロフィブリル化セルロースがコンクリート混合物に使用される場合、微細化されたセルロースパルプの使用と比較して、セルロース材料のより少ない添加量が必要とされることが判る。
【0112】
微細構造は、また、UV光によっても調査された。断面光学調査結果は、図8に示される。参照試料では、明らかに基準から外れた大量の内部ブリーディングがあったことが判る(図8A)。内部ブリーディングは、コンクリートの内部において水路ネットワーク(channel network)を形成していた。セルロースパルプを含むコンクリート混合物においてもいくつかの内部ブリーディングがあった(図8B)が一方で、微細化されたセルロースパルプ(図8C)またはミクロフィブリル化セルロース(図8D)を含む混合物において内部ブリーディングがなく、その微細構造は、良好かつ均一であった。内部のブリーディングおよび内部の水路ネットワークは、参照試料と、セルロースパルプを含むコンクリート混合物とに関するコンクリートの気密性および耐久性を減少させた。
【0113】
圧縮強度および曲げ強度の測定は、これらの試験のいかなる組み合わせにおいてもセルロースの強度にほとんど影響はないことを示した。
【実施例4】
【0114】
工業グレードのミクロフィブリル化セルロースおよびMFC−L1を用いた、注入グラウトの水のブリーディングおよび粘度の調査
方法
混合
注入グラウトの混合は、高速混合機(Desoi AKM−70 D)により実施された。セメント、水およびセルロースの混合は、常時5000rpmで実施された。まず、水が添加され、それに続いて、短い予混合時間(5秒より少ない)に亘ってセルロースが添加され、それからセメントが添加された。セメントとの混合時間は2分であった。場合によっては、2分間5000rpmまたは10000rpmでセルロースの予混合(または分散)があった。
【0115】
フレッシュ注入グラウトの試験方法
目盛付き測定用グラス(体積1000mlおよび直径60mm)内に、1(1)リットルのグラウトを注入することにより、および2時間までブリーディング水量(bleed water amount)を測定することにより、水のブリーディングが測定された。
【0116】
マーシュ粘度(Marsh viscosity)は、マーシュファンネル(Marsh funnel)を用いて、[EN 14117]に従って測定された。
【0117】
試験の設定および結果
参照用注入グラウト混合物と、工業グレードのミクロフィブリル化セルロース(工業用MFC)を含む混合物と、の組成および試験結果が、表5と図9〜11に示される。
【表5】
【0118】
不安定なセルロースパルプから得られたミクロフィブリル化セルロースファイバー(MFC−L1)を含む注入グラウト混合物の組成は、表6と図12〜14に示される。3つの混合物(混合物2、3および4)のため、2分間5000rpmまたは10000rpmでセルロースの予混合(または分散)があった。
【0119】
表6に示される混合物は、以下のように、水のみと、混合および予混合された:
参照試料:第1の水+セメント+混合(5000rpm、2分)
混合物1:参照物(w/c=1.00)−水とセメントが、1分間5000rpmで混合された。セルロースは混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
混合物2:セメントの0.100%の乾燥したセルロース−セルロースと水が、2分間5000rpmで混合された。セメントは混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
混合物3:セメントの0.05%の乾燥したセルロース−セルロースと水が、2分間10000rpmで混合された。セメントが混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
混合物4:セメントの0.05%の乾燥したセルロース−セルロースと水が、2分間5000rpmで混合された。セメントは混合物に添加され、混合は2分間5000rpmで実施された。
【表6】
【0120】
実験結果は、ミクロフィブリル化セルロースファイバーが、注入グラウトの水のブリーディングを減少させ、粘度を増加させることを示した。マーシュ粘度の相対的な増加は、ブリーディングの相対的な減少よりも小さかった。例えば、w/cが1.00である場合に、セメントの0.263%の(工業用MFC)において17%対50%で、例えば、w/cが1.00である場合に、セメントの0.05%の(MFC−L1)において20%対63%。
【0121】
水のブリーディング試験は、ミクロフィブリル化セルロースファイバーが、w/c1.00のグラウトの水のブリーディングを、より低いw/cの参照混合物のレベルにまで減少させることを示した。例えば、w/cが1.00の混合物において、乾燥したセメントの0.34重量%のセルロースファイバー(工業用MFC)は、w/cが0.75の参照混合物と同様の少ない水のブリーディングを得た。
【0122】
マーシュ粘度試験に基づくと、ミクロフィブリル化セルロースファイバーは、w/c1.00のグラウトの粘度を、より低いw/cの参照混合物のレベルにまで増加させたということを結論付けることができる。マーシュ粘度の増加は、セルロースファイバーの添加量に依存する。添加量がそれほど多くない場合、粘度の増加は小さい。
【実施例5】
【0123】
グラウトの作製中における不安定なパルプからのミクロフィブリル化セルロースの作製
ミクロフィブリル化セルロース添加剤は、一般的に産業で用いられる機械を用いて、乾燥していない(またはウェットな状態の、wet)セメント配合物の作製中に不安定なセルロースパルプから作製できる。例えば、Desoi AKM−70Dのような高速混合機は、一般的に注入グラウトを均一にするように用いられる。本実施例は、この種の混合機が、不安定なパルプを高度に効果的な添加剤にフィブリル化するのにどのように用いられ得るかを示す。
【0124】
試験の設定と結果
化学的に改質された不安定なセルロースパルプ、すなわち、MFC−L1を製造するために用いられた同一のパルプ、を有する、予分散無しの場合および予分散有りの場合における注入グラウト混合物の組成および試験結果が、表7、図15および図16に示される。セルロースパルプを全く含まない参照物もまた含まれる。
【0125】
予分散する際、乾燥した材料(乾燥した不安定なセルロースパルプ)の含有量は、水の1%であった。予分散は、高速混合機(Desoi AKM−70D)により10000rpmで実施された。乾燥した材料の含有量が1%である、得られた予分散されたセルロースパルプは、注入グラウトの作製に用いられた。
【0126】
セメント、水およびセルロースの混合(予混合された、または予混合されない)は、5000rpmで実施された。まず、水が添加され、それに続いて、短い予混合時間(5秒より少ない)に亘ってセルロースが添加され、それからセメントが添加された。セメントとの混合時間は2分であった。
【0127】
実験結果は、予分散された化学的に改質された不安定なセルロースパルプが、注入グラウトの水のブリーディングを減少させ、マーシュ粘度を向上させることを示した。予分散無しでは、水のブリーディングは減少せず、マーシュ粘度は増加しなかった。
【0128】
水のブリーディング試験は、予分散された化学的に改質された不安定なセルロースパルプが、w/c1.00のグラウトの水のブリーディングを65%減少させることを示した。
【0129】
マーシュ粘度試験に基づくと、予分散された化学的に改質された不安定なセルロースパルプは、w/c1.00のグラウトの粘度を19%増加させるということを結論付けることができる。
【表7】
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント混和剤であって、
ミクロフィブリル化セルロース;および/または、
その誘導体;および/または、
前記混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料;および、
必要に応じて水、
を含むことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】
前記混和剤が、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の、固体混合物または分散体のような混合物であることを特徴とする請求項1に記載の混和剤。
【請求項3】
前記混和剤が、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を更に含むことを特徴とする請求項1または2に記載の混和剤。
【請求項4】
前記混和剤が、ミクロフィブリル化セルロースを含み、セルロースミクロフィブリルの直径またはセルロースミクロフィブリルの束の直径が、1μmよりも小さい、好ましくは200nmよりも小さい、より好ましくは100nmよりも小さい、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項5】
前記ミクロフィブリル化セルロースが、セルロースミクロフィブリルまたはセルロースミクロフィブリルの束の化学的または物理的に改質された誘導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項6】
前記ミクロフィブリル化セルロースが、植物原料を含む原料から得られ、または細菌発酵プロセスから生成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項7】
前記不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料が、N−オキシル媒介酸化によって得られることを特徴とする請求項1に記載の混和剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載されたセメント混和剤の製造方法であって、
・ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、
・前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、
・ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程と、
を含むことを特徴とする、セメント混和剤の製造方法。
【請求項9】
コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用。
【請求項10】
コンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における、請求項1〜7のいずれか1項に記載された混和剤の使用。
【請求項11】
レオロジーを改質する、または材料分離を制御するための、前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体または請求項1〜7のいずれか1項に記載された混和剤の使用。
【請求項12】
前記混和剤が、セメント組成物を作製する前または間に添加される少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を更に含むことを特徴とする請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤中での、またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトもしくは注入グラウトのようなセメント組成物の製造での使用。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項で規定された混和剤を含むセメント組成物。
【請求項15】
ミクロフィブリル化セルロースの量が、セメントバインダーの2重量%以下、より好ましくはセメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値がセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率が1.0以下であることを特徴とする請求項14に記載のセメント組成物。
【請求項16】
ミクロフィブリル化セルロースの量が、水の2重量%以下、好ましくは水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率が1.0以上であることを特徴とする請求項14に記載のセメント組成物。
【請求項17】
前記組成物が、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を更に含むことを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項18】
前記セメント組成物が、コンクリート、好ましくは、自己充填コンクリート、であることを特徴とする請求項14、15または17のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項19】
・セメントバインダー、骨材材料、水、および請求項1〜7のいずれか1項で規定された混和剤を一体に混合する工程と、
・必要に応じて、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項14〜18のいずれか1項に記載されたセメント組成物の製造方法。
【請求項20】
セメント組成物の製造中に、前記ミクロフィブリル化セルロースが、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料から得られることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ミクロフィブリル化セルロースの量が、セメントバインダーの2重量%以下、好ましくはセメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値がセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率が1.0以下であることを特徴とする請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記混和剤中のミクロフィブリル化セルロースの量が、水の2重量%以下、好ましくは、水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率が1.0以上であることを特徴とする請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
請求項14〜18のいずれか1項に記載されたセメント組成物から作られた建設要素。
【請求項1】
セメント混和剤であって、
ミクロフィブリル化セルロース;および/または、
その誘導体;および/または、
前記混和剤の使用中にミクロフィブリル化セルロースを形成する、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料;および、
必要に応じて水、
を含むことを特徴とするセメント混和剤。
【請求項2】
前記混和剤が、ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の、固体混合物または分散体のような混合物であることを特徴とする請求項1に記載の混和剤。
【請求項3】
前記混和剤が、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を更に含むことを特徴とする請求項1または2に記載の混和剤。
【請求項4】
前記混和剤が、ミクロフィブリル化セルロースを含み、セルロースミクロフィブリルの直径またはセルロースミクロフィブリルの束の直径が、1μmよりも小さい、好ましくは200nmよりも小さい、より好ましくは100nmよりも小さい、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項5】
前記ミクロフィブリル化セルロースが、セルロースミクロフィブリルまたはセルロースミクロフィブリルの束の化学的または物理的に改質された誘導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項6】
前記ミクロフィブリル化セルロースが、植物原料を含む原料から得られ、または細菌発酵プロセスから生成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の混和剤。
【請求項7】
前記不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料が、N−オキシル媒介酸化によって得られることを特徴とする請求項1に記載の混和剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載されたセメント混和剤の製造方法であって、
・ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体を準備する工程と、
・前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体、および必要に応じて水を一緒に混合する工程と、
・ミクロフィブリル化セルロースを準備する工程の前、間または後に少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加して前記混和剤を得る工程と、
を含むことを特徴とする、セメント混和剤の製造方法。
【請求項9】
コンクリート混和剤でのミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体の使用。
【請求項10】
コンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトまたは注入グラウトのようなセメント組成物の製造における、請求項1〜7のいずれか1項に記載された混和剤の使用。
【請求項11】
レオロジーを改質する、または材料分離を制御するための、前記ミクロフィブリル化セルロースおよび/またはその誘導体または請求項1〜7のいずれか1項に記載された混和剤の使用。
【請求項12】
前記混和剤が、セメント組成物を作製する前または間に添加される少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を更に含むことを特徴とする請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
不安定なセルロースパルプおよび/またはセルロース原料の、コンクリート混和剤中での、またはコンクリート、自己充填コンクリート、モルタル、グラウトもしくは注入グラウトのようなセメント組成物の製造での使用。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか1項で規定された混和剤を含むセメント組成物。
【請求項15】
ミクロフィブリル化セルロースの量が、セメントバインダーの2重量%以下、より好ましくはセメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値がセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率が1.0以下であることを特徴とする請求項14に記載のセメント組成物。
【請求項16】
ミクロフィブリル化セルロースの量が、水の2重量%以下、好ましくは水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率が1.0以上であることを特徴とする請求項14に記載のセメント組成物。
【請求項17】
前記組成物が、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を更に含むことを特徴とする請求項14〜16のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項18】
前記セメント組成物が、コンクリート、好ましくは、自己充填コンクリート、であることを特徴とする請求項14、15または17のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項19】
・セメントバインダー、骨材材料、水、および請求項1〜7のいずれか1項で規定された混和剤を一体に混合する工程と、
・必要に応じて、少なくとも1つの可塑剤および/または分散剤を添加する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項14〜18のいずれか1項に記載されたセメント組成物の製造方法。
【請求項20】
セメント組成物の製造中に、前記ミクロフィブリル化セルロースが、化学的に改質された不安定なセルロースパルプまたはセルロース原料から得られることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ミクロフィブリル化セルロースの量が、セメントバインダーの2重量%以下、好ましくはセメントバインダーの0.2重量%以下、であり、その下限値がセメントバインダーの0.002重量%であり、セメントに対する水の比率が1.0以下であることを特徴とする請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
前記混和剤中のミクロフィブリル化セルロースの量が、水の2重量%以下、好ましくは、水の0.2重量%以下、であり、セメントに対する水の比率が1.0以上であることを特徴とする請求項19または20に記載の方法。
【請求項23】
請求項14〜18のいずれか1項に記載されたセメント組成物から作られた建設要素。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図7】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図7】
【公表番号】特表2013−506615(P2013−506615A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531464(P2012−531464)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050764
【国際公開番号】WO2011/039423
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(509112604)ウーペーエム キュンメネ コーポレイション (6)
【氏名又は名称原語表記】UPM−KYMMENE CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/FI2010/050764
【国際公開番号】WO2011/039423
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(509112604)ウーペーエム キュンメネ コーポレイション (6)
【氏名又は名称原語表記】UPM−KYMMENE CORPORATION
【Fターム(参考)】
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