説明

コンクリート用タップねじ

【課題】ドリル孔内に締結するための所要トルクが小さく,かつ低コストで製造可能なタップねじ及びその製造方法を提案する。
【解決手段】本発明に係るタップねじ(1)は,ヘッド(3)を有するシャンク(5)にねじ山(6)が形成され,タップねじ(1)の先端(4)を起点とする先端領域(7)でシャンク(5)に少なくとも1本の長手方向溝(9)が形成されている。本発明では,長手方向溝(9)をタップねじ(1)の中心軸線(8)と平行な直線に対して1°〜20°の傾斜角αで形成し,及び/又は長手方向溝(9)をシャンク(5)に沿ってつる巻き状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,請求項1の前段に係るタップねじと,請求項9の前段に係るタップねじの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート用のタップねじは,コンクリート製建材におけるドリル孔内にアンカーを使用せずに締結されるものである。そのためにドリル孔の内径は,ねじ山の谷径よりも大きく,しかも山径よりは小さく設定されている。これにより,例えばインパクトドライバによる締結に際して,ドリル孔の内面にねじ山に対応する雌ねじが切り込まれる。すなわち,タップねじと建材との形状結合に不可欠な雌ねじが,タップねじ自体によって形成されるのである。
【0003】
特許文献1(欧州特許第1795768号明細書)は,シャンク上に形成したねじ山に,切削部として作用する切欠き部を設けたコンクリート用タップねじを開示している。この場合,先細りのテーパ形状としたシャンクの先端領域に長手方向溝が設けられており,これらの長手方向溝がねじ山を貫通することにより上記の切欠き部を形成している。長手方向溝は,シャンク内部まで達するように,ねじ山の高さよりも深く形成されており,その深さはシャンクの先端に向けて徐々に変化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第1795768号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は,ドリル孔内に締結するための所要トルクが小さく,しかも低コストで製造可能なタップねじと,その製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するため,本発明に係るタップねじ,特にコンクリート用タップねじは,ヘッドと,シャンクと,シャンクの少なくとも一部に形成されているねじ山を含んでおり,シャンクには,ねじの先端部を起点とする領域で少なくとも1本の長手方向溝が形成されている。この長手方向溝は,ねじの中心軸線に対して略半径方向に延在する2側面により限定されるものである。長手方向溝を限定する2側面は互いに略直交しており,その角度的偏差は30°以下,好適には20°以下,更に好適には10°以下である。その際,各長手方向溝における少なくとも一方の側面は,ねじの中心軸線と平行な直線に対して1°〜20°の傾斜角αで延在し,及び/又は,少なくとも1本の長手方向溝が,シャンクに沿ってつる巻き状に形成されている。ここに「半径方向」とは,中心軸線に対して垂直な方向を意味する。好適には,長手方向溝はねじ山と同一のねじれ方向にねじれている。長手方向溝のリード角は1°〜20°の範囲内,好適には2°〜10°の範囲内,特に好適には3°〜8°の範囲内である。
【0007】
タップねじをドリル孔内に締結するに際して,ねじ先端部では建材の切り屑が生じる。また,ドリル孔を形成した際の切り屑が完全に除去されずに残留している場合もある。ねじ先端部における長手方向溝は,そのような切り屑を,シャンクとドリル孔内壁との間の空隙を経てヘッド側に向けて排出するための排出溝として作用する。長手方向溝の少なくとも一方の側面がねじの中心軸線と平行な直線に対して傾斜角αで延在するため,切り屑はねじの先端部からヘッド側に向けて送り出される。これにより,ねじ先端部で新たに形成される切り屑を,長手方向溝を経て支障なく排出することができる。したがって,シャンクとドリル孔内壁との間に残留する切り屑を減量させ,又は残留を完全に防止することができる。その結果,ねじとドリル孔内壁との間に作用する摩擦力を低減することができ,タップねじを締結するための所要トルクを大幅に減少することが可能である。
【0008】
長手方向溝における側面の傾斜角αは,好適には2°〜10°の範囲内,特に好適には3〜8°の範囲内である。
【0009】
他の好適な実施形態においては,長手方向溝の両側面が,ねじの中心軸線と平行な直線に対して1°〜20°の範囲内の傾斜角αで延在している。
【0010】
他の補完的な実施形態において,タップねじは円周方向に等間隔で形成された複数本の長手方向溝を含んでいる。この場合,4本の長手方向溝からなる配置が特に有利であることが実証されている。
【0011】
好適には,長手方向溝は軸線方向に見て異なる長さを有している。
【0012】
他の好適な実施形態では,少なくとも1本の長手方向溝が,少なくとも1個のねじ山を切り欠いている。
【0013】
好適には,少なくとも1本の長手方向溝がL字状又はV字状の断面形状に形成され,及び/又は少なくとも1本の長手方向溝の深さがねじの先端部からヘッドに向けて漸減する。
【0014】
好適には,少なくとも1本の長手方向溝における少なくとも一方の側面が,シャンクに対して略直角をなしている。すなわち,当該側面は,半径方向及び軸線方向においてシャンクの中心軸線を含んでいる。このような配置によれば,長手方向溝による切り屑の排出特性を更に向上させることができる。
【0015】
他の好適な実施形態において,タップねじは少なくとも部分的に鋼等の金属材料で構成され,又は,好適にはガラス繊維等による繊維強化プラスチック材料(GFK)で構成されている。
【0016】
本発明に係るタップねじの製造方法は,ヘッドと,シャンクと,少なくとも部分的にこのねじシャンクに形成されたねじ山とを含むタップねじを用意するステップと,該タップねじの先端領域に,少なくとも1本の長手方向溝を形成するステップとを含んでいる。この場合,本発明では,少なくとも1本の長手方向溝をタップねじの中心軸線と平行な直線に対して1°〜20°の範囲内の傾斜角αで形成し,及び/又は,少なくとも1本の長手方向溝をねじシャンクに沿ってつる巻き状に形成する。
【0017】
角度αは好適には2°〜10°の範囲内,特に好適には3°〜8°の範囲内で設定されている。
【0018】
少なくとも1本の長手方向溝は,好適には,所定の回転軸線周りで回転するディスク状の工具を使用する切削加工によって形成する。その際,工具の回転軸線は,タップねじの中心軸線と平行な直線に直交する直線に対して傾斜角αで延在するものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るコンクリート用タップねじの斜視図である。
【図2】図1のタップねじの要部を示す側面図である。
【図3】a及びbは,図1のタップねじにおける先端領域の代替的実施例を示す断面図である。
【図4】2枚のディスク状工具による長手方向溝の形成工程を示す斜視図である。
【図5】図1のタップねじと,ディスク状工具の回転中心との空間的関係を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,添付図面に示す実施形態に基づいて本発明を更に詳述する。
【0021】
本発明に係るタップねじ1(図1参照)は,コンクリート用タップねじ2として,コンクリート製建材におけるドリル孔(図示せず)内に締結するものである。タップねじ1は,後端部がヘッド3として構成されており,ヘッド3に連なるシャンク5は一部にねじ山6が形成されている。すなわち,シャンク5は,ねじ山6の非形成領域をねじヘッド3側に備えると共に,ねじ山6の形成領域を先端4側に備えている。図2に示すとおり,ねじ山6は,谷径D及び山径Dと,ピッチPとを有している。
【0022】
タップねじ1は,その中心軸線8に沿い,先端4からヘッド3側に向けて延在する先端領域7を備える。先端領域7の長さはねじ山6のピッチPに対応する。先端領域7には,4本の長手方向溝9が設けられている(図1〜図3及び図5参照)。長手方向溝9は,中心軸線8方向に見て互いに異なる長さL及びLを有する。この場合,中心軸線8と交差する直径線上で互いに対向する2本の長手方向溝9は比較的短い長さLを有し,同様に中心軸線8と交差する直径線上で互いに対向する残り2本の長手方向溝9は比較的長い長さLを有する(図2参照)。比較的短い長さLの長手方向溝9は,ねじの先端4から数えて1番目のねじ山6のみを切り欠いているが,2番目のねじ山6までは達していない。これに対して,比較的長い長さLの長手方向溝9は,1番目のねじ山6のみならず,2番目のねじ山6まで達している。すなわち,長さLの長手方向溝9は,2番目のねじ山6も切り欠くように,2番目のねじ山6又はその近傍領域で終止させる(図1及び図2参照)。
【0023】
タップねじ1の先端領域7において,シャンク5は,中心軸線8と直交する面内で相互に略垂直に延びている脚部14(図3のa,b参照)として構成されている。すなわち,厚さSを有するこれら脚部14の間に長手方向溝9が延在している。各長手方向溝9は,シャンク5と,脚部14の側面10とによって限定されている。長手方向溝9はL字状又はV字状断面に形成されている。これは,長手方向溝9を限定する2個の側面10が相互に略垂直(偏差が好適には20°以下,更に好適には10°以下)に形成されているためである。本実施形態における側面10は,タップねじ1の中心軸線8と平行な直線に対して6°の傾斜角αで延在している(図2参照)。傾斜角αは,1°〜20°の範囲で設定することができる。図示しない建材のドリル孔内にタップねじ1を締結する際に生じる切り屑は,タップねじ1の先端領域7から長手方向溝9を経てヘッド3側まで容易に排出することが可能である。これにより,タップねじ1のシャンク5とドリル孔の内壁との間に残留する切り屑を大幅に減量させ,又は残留が完全に防止される。
【0024】
タップねじ1は,周方向に等間隔で配置された4本の長手方向溝9を含んでいる。これらの長手方向溝9は,図4及び図5に図示した方法で形成することができる。この場合,外周部に環状の切削部12を有する2枚のディスク状加工工具11を,それぞれ回転軸線13周りで回転させるものである。参照数字15は,回転軸線13上における加工工具11の回転中心を示すものである。タップねじ1を製造するに当たり,先ず,長手方向溝9が未加工のねじ1を用意する。上記2枚の加工工具11を,それぞれの切削部12が所定の間隔で互いに対向し,それぞれの回転軸線13が互いに平行となるように,未加工ねじ1の両側に配置する。未加工ねじ1と,両加工工具11の切削部12との間の相対運動により,ねじ1のシャンク5に,互いに対向する長手方向溝9を対として形成することができる。ねじ1の中心軸線8と加工工具11の切削部12との間の角度は,形成される長手方向溝9の傾斜角αに対応している。互いに対向する2つの切削部12間の領域にねじ1をより深く差し込むと比較的長い長さLの長手方向溝9が形成され,より浅く差し込むと比較的短い長さLの長手方向溝9が形成される。長手方向溝9の深さは,ねじの先端部4側からヘッド3側に向けて漸減する。これは,半径Rのディスク状加工工具11により長手方向溝9の底部が形成されるからである(図5参照)。この溝部9の形成に際し,タップねじ1の長手方向軸線8上において,加工工具11の回転中心15を中心とする切削面が,その始端から終端にわたってタップねじ1の切削加工を行う。その際,切削面の終端はタップねじ1の端部4上に位置し,かつ長手方向軸線8に対して垂直に位置している(図5参照)。
【0025】
図示の実施形態では,長手方向溝9を互いに同一径の加工工具11で形成しているが,異なる直径の加工工具11を組み合わせることも可能である。その場合には,例えば同一径の加工工具11の対を,交差部材を介して配置することができる。
【0026】
図3bは,タップねじ1の中心軸線8に対して垂直な面内における先端領域7の断面図である。この場合,タップねじ1は異なる直径の加工工具11によって形成されている。
【0027】
図3a及び図3bに示した何れの実施形態においても,外周面が側面に対して垂直に延在する加工工具11を使用している。代案として,外周面が側面に対して90°以外の角度で延在する加工工具11を使用することもできる。これにより,長手方向溝9の側面10を,図3a及び図3bに示されている実施形態とは異なり,直角以外の角度で対向させることができる。
【0028】
本発明に係るタップねじ1は,多くの利点を有している。先ず,タップねじ1の長手方向溝9は,少なくとも1枚のディスク状工具11によって簡単に形成することができるため,タップねじ1を容易かつ安価に製造することが可能である。また,タップねじ1の中心軸線8に対して長手方向溝9の側面10が延在することによって,タップねじ1をドリル孔内に挿入して締結する際,タップねじ1の先端領域に残留する切り屑を,長手方向溝9を経てヘッド3側まで確実に排出することができる。
【符号の説明】
【0029】
1,2 タップねじ
3 ヘッド
4 先端
5 シャンク
6 ねじ山
7 先端領域
8 中心軸線
9 長手方向溝
10 溝側面
11 加工工具
12 切削部
13 回転軸線
14 脚部
15 回転中心
山径
谷径
1, 長手方向溝の長さ
P ピッチ
α 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド(3)と,該ヘッドに連なるシャンク(5)とを含み,該シャンク(5)の少なくとも一部にねじ山(6)が形成されているタップねじ(1)であって,ねじの先端(4)を起点とする先端領域(7)で,シャンク(5)が少なくとも1本の長手方向溝(9)を有し,該長手方向溝(9)が,タップねじ(1)の中心軸線(8)に対して略半径方向に延在する側面(10)によって限定されているタップねじ(1)において,
前記長手方向溝(9)は,少なくとも1つの側面(10)がタップねじ(1)の中心軸線(8)と平行な直線に対して1°〜20°の傾斜角(α)で延在し,及び/又は
前記長手方向溝(9)が,シャンク(5)に沿ってつる巻き状に形成されていることを特徴とするタップねじ。
【請求項2】
請求項1に記載のタップねじにおいて,前記傾斜角(α)が2〜10°であることを特徴とするタップねじ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタップねじにおいて,各長手方向溝(9)における2つの側面(10)が,タップねじ(1)の中心軸線(8)と平行な直線に対して1°〜20°の傾斜角(α)で延在していることを特徴とするタップねじ。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のタップねじにおいて,該タップねじ(1)が,その周方向に等間隔で配置された複数本の前記長手方向溝(9)を含むことを特徴とするタップねじ。
【請求項5】
請求項4に記載のタップねじにおいて,前記複数本の長手方向溝(9)が中心軸線(8)方向で互いに異なる長さを有することを特徴とするタップねじ。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のタップねじにおいて,前記長手方向溝(9)が,少なくとも1つのねじ山(6)を切り欠いていることを特徴とするタップねじ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載のタップねじにおいて,前記長手方向溝(9)がL字状又はV字状の断面形状を有し,及び/又は,前記長手方向溝(9)の深さがねじ先端部(4)からヘッド部(3)に向けて漸減することを特徴とするタップねじ。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のタップねじにおいて,前記長手方向溝(9)における少なくとも1つの側面(10)と,前記シャンク(5)とのなす角度が略直角であることを特徴とするタップねじ。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載のタップねじにおいて,該タップねじ(1)が,鋼等の金属材料又は繊維強化プラスチック材料で構成されていることを特徴とするタップねじ。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載のタップねじを製造する方法であって,
ヘッド(3)と,該ヘッドに連なるシャンク(5)とを含み,該シャンク(5)の少なくとも一部にねじ山(6)が形成されているタップねじ(1)を用意し,
該タップねじ(1)の先端領域(7)に少なくとも1本の長手方向溝(9)を形成するに当たり,
前記少なくとも1本の長手方向溝(9)を,タップねじ(1)の中心軸線(8)に平行な直線に対して1°〜20°の傾斜角(α)で形成し,及び/又は
前記少なくとも1本の長手方向溝(9)をシャンク(5)に沿ってつる巻き状に形成することを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法において,前記傾斜角(α)を2°〜10°とすることを特徴とする製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の製造方法において,前記長手方向溝(9)を所定の回転軸線(13)周りで回転するディスク状の加工工具(11)によって加工し,該回転軸線(13)が,タップねじ(1)の中心軸線(8)に平行な直線と直交する直線に対して前記傾斜角(α)で傾斜していることを特徴とする製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法において,前記加工工具(11)が互いに異なる直径を有することを特徴とする製造方法。
【請求項14】
請求項10〜13の何れか一項に記載の製造方法において,前記長手方向溝(9)の全てを同一作業工程で同時に形成することを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−237034(P2011−237034A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104734(P2011−104734)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(591010170)ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト (339)
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100, 9494 Schaan, LIECHTENSTEIN