説明

コンクリート造梁及びその製造方法

【課題】貫通孔周囲に配置したせん断補強部材に対し、せん断ひび割れへの補強効果を最大限発揮させる。
【解決手段】梁10に設けた貫通孔14の周囲に、前記梁10にせん断応力が作用した際に生じるせん断ひび割れ18にその中程で交差するせん断補強部材15を配置したコンクリート造梁において、貫通孔14の上部及び下部のせん断補強部材15の周囲にコンクリートを密実にすることによりせん断補強部材15との付着性能を高める添加材6を塗布し、その周囲にコンクリートを打設する。添加材6としては、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、アルミナ等のセラミック粉末、又はガラス粉末を採用できる。添加材6の効果により、貫通孔14の上部及び下部のコンクリートとせん断補強部材15との付着力は増大し、せん断ひび割れ18はせん断補強部材15の中程で進展するので、せん断補強部材15は、ひび割れ初期から終局状態に至るまで常にその補強効果を最大限発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貫通孔周囲にせん断補強部材を配置した鉄筋コンクリート造梁あるいは鉄骨鉄筋コンクリート造梁、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
設備配管等をコンクリート造梁を有する建物内に、あるいはその建物内部から外部へ配する場合、その配管が階高設定に影響を与えないようにするため、梁の腹部に配管用貫通孔を設ける手法が一般的である。
梁に貫通孔を設ける場合、そのままでは断面減少、孔周囲への応力集中等により、梁のせん断耐力が低下するので、その貫通孔周囲を、鉄筋や溶接金網等のせん断補強部材で補強する手法が一般的に用いられている。
例えば、図7に示すように、梁1に設けた貫通孔4の周囲に四辺形状のせん断補強筋(せん断補強部材)5が配置される。これは、梁1にせん断応力が作用した場合に生じる初期のせん断ひび割れ7が、図中に示すように、貫通孔4の中心付近を通る45度方向のラインに沿って進展するため、そのひび割れ7に対して直交する方向に向くせん断補強部材5を配置して、その補強効果を高めるためである。せん断補強部材5は、コンクリートとの付着力により、せん断ひび割れ7の進展を抑制する。
【0003】
また、そのせん断補強部材を円形、矩形等に加工して配置する技術も開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−321404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、構造実験結果によると、初期のせん断ひび割れは上記のように45度方向に進展するが、その後、せん断補強部材の補強効果が発揮されて、ひび割れは、その部分を避けて通るように進展することが解っている。図7に示す例では、最終的に、せん断補強部材5の補強効果が小さい箇所、すなわち貫通孔4の上部A及び下部Bで別のせん断ひび割れ8が拡大し、一気にせん断破壊に至る。すなわち、別のせん断ひび割れ8は、せん断補強部材5の補強効果の低い部分より進行し、それに伴いせん断補強部材とコンクリートとの付着力が低下する。
このため、大地震等が発生した場合、せん断補強部材5の補強効果が100%発揮されない段階で、梁1が終局状態(破壊)に至ってしまうという問題がある。
せん断補強部材は、せん断ひび割れに対してその補強効果を最大限発揮することが、梁の経済設計上望ましく、また、梁の耐力を算定する上でも構造計算が容易になるので望ましい。
【0005】
そこで、このような貫通孔上部及び下部でのひび割れ進行、及び破壊を防止するため、その貫通孔上部及び下部に別のせん断補強部材を配置する手法も設計上は可能である。
しかし、ひび割れ発生が予測される複数の部位に合わせて幾つものせん断補強部材を配置することは、施工が煩わしく、また、配筋が複雑になるので好ましくない。また、梁せいが小さい場合には、そのような多くのせん断補強部材を配置できない場合も生じ得る。
【0006】
そこで、この発明は、貫通孔周囲に配置したせん断補強部材に対し、せん断ひび割れへの補強効果を最大限発揮させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、梁に設けた貫通孔の周囲に、前記梁にせん断応力が作用した際に生じる初期せん断ひび割れに交差するせん断補強部材を配置したコンクリート造梁において、上記貫通孔の上部及び下部の上記せん断補強部材周囲に添加材を配置し、その添加材により前記せん断補強部材とコンクリートとの付着性能を高めたのである。
貫通孔の上部や下部において、せん断補強部材とコンクリートとの付着性能が他の部分よりも相対的に高くなれば、終局時においてもせん断ひび割れは、その貫通孔の上部や下部を避けて、初期同様45度方向に集中されやすくなる。このため、せん断補強部材は、ひび割れ初期から終局状態に至るまで、その補強効果を最大限発揮することができる。
供用中の梁にせん断ひび割れが発生することは、通常は好ましいこととはいえない。そのため、構造物の耐力に影響しない箇所へのひび割れを誘導する従来技術もある。しかし、本発明では、地震力などで発生する初期せん断ひび割れを進展させることによりせん断補強部材の効果を最大限発揮させて梁の耐力を向上させるものである。すなわち、ひび割れの発生を前提として、そのひび割れを敢えて所定の部位に集中しやすくすることにより、配置したせん断補強部材がその補強効果を最大限発揮し得る箇所以外の部分にひび割れが生じることを抑制するのである。
【0008】
上記添加材としては、無機又は有機材料の短繊維を採用することができる。補強筋表面又は周囲に配置された無機又は有機材料の短繊維は、コンクリートを補強し、その補強により付着性能を高めることができる。
【0009】
また、上記添加材として、コンクリートを密実にする性能を有するものを採用し、上記付着性能を、その添加材によるコンクリートの密実化により高めるようにした構成を採用し得る。密実にするとは、ポゾラン効果により添加材とコンクリート中の未反応カルシウムを結合させ、硬化させることを指す。この効果により、部材とコンクリートとの付着性能が向上する。
なお、コンクリートを密実にする添加材としては、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、アルミナ等のセラミック粉末、又はガラス粉末を採用することができる。
【0010】
さらに、このコンクリート造梁の製造方法として、以下の手段を採用することができる。
すなわち、梁に設ける貫通孔の周囲に、前記梁にせん断応力が作用した際に生じる初期せん断ひび割れに交差するせん断補強筋を配置するコンクリート造梁において、前記せん断補強部材とコンクリートとの付着性能を高める添加材を配置し、その状態でコンクリートを打設するコンクリート造梁の製造方法を採用し得る。
貫通孔の上部や下部において、せん断補強部材とコンクリートとの付着性能が他の部分よりも相対的に高くなれば、せん断ひび割れは、その貫通孔の上部や下部を避けて、せん断補強部材の中程部分に誘導される。このため、せん断補強部材は、ひび割れ初期から終局状態に至るまで、その補強効果を最大限発揮することができる。
【0011】
上記添加材としては、無機又は有機材料の短繊維を採用することができる。補強筋表面又は周囲に配置された無機又は有機材料の短繊維は、コンクリートを補強し、その補強により付着性能を高めることができる。
【0012】
また、上記添加材として、コンクリートを密実にする性能を有するものを採用し、上記付着性能を、その添加材によるコンクリートの密実化により高めるようにした構成を採用し得る。コンクリートを密実にする添加材としては、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、アルミナ等のセラミック粉末、又はガラス粉末を採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、以上のようにしたので、貫通孔周囲に配置したせん断補強部材に対し、ひび割れへの補強効果を最大限発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一実施形態を図1乃至図4に基づいて説明する。
図1は、柱11,11間を結ぶコンクリート造梁10に設けた貫通孔14に、それぞれ配管14aを挿通した状態を示している。
また、図2は、その柱11及び梁10の配筋状態を示したものである。図2で示す符号16は梁10の主筋を、符号17はあばら筋を示している。
【0015】
梁10の貫通孔14は、その梁10の梁軸方向に直交して設けられており、その貫通孔14周囲には、その貫通孔14の長さ方向(梁10の幅方向)に並列する二つのせん断補強筋(せん断補強部材)15,15が配置されている(図2(b)参照)。
この並列する二つのせん断補強筋15,15は、図2(a)に示すように、貫通孔14を囲む四辺形状に形成されており、いずれも梁軸方向及び上下方向に対称となっている。また、図2(b)に示すように、梁10の表裏面12,13から所定の被りを確保して配置されており、それぞれ対応する側のあばら筋17に固定されている。なお、両せん断補強筋15,15は、図2(a)に示すように、各部に複数本ずつ並列して設けてその補強の効果を高めてもよい。
【0016】
そのせん断補強筋15の周囲に、コンクリートを密実にする添加材6を配置する。添加材6を配置することにより、そのコンクリートとせん断補強部材15との付着性能は高まることとなる。添加材6の配置箇所は、貫通孔14の上部及び下部付近、すなわち、図4にA及びBで示すエリア内であり、少なくとも、その貫通孔14に隣接する両側のあばら筋17,17間には塗布されていることが望ましい。
【0017】
図3は、節部2を有するせん断補強筋15の表面に添加材6を塗布し、その周囲にコンクリート3を打設した状態を示したものである。
従来より、鉄筋の周囲に接着材を塗布し、その接着材により鉄筋表面とコンクリートとの付着性能を高める技術は周知であるが、本発明は、図3に示すように、コンクリートを密実にする添加材6をせん断補強筋15の周囲に配置してコンクリートを打設することにより、そのせん断補強筋15周囲のコンクリートは密実となって一体にせん断補強筋15に付着しやすくなる。このため、せん断ひび割れは、その付着強度の高まった部位以外の部分、すなわち、図4に示すように、せん断補強筋15の中程に集中されやすくなる。したがって、結果的に、せん断補強筋15は、ひび割れ初期から終局状態に至るまで、その補強効果を最大限発揮することができるようになる。
【0018】
この実施形態では、添加材6としてシリカ質混和材料を使用している。シリカ質混和材料は、高炉スラグ、フライアッシュ等のシリカ質の材料を混和し、強度、侵食性、水密性を向上させる効果がある。これは、セメントの水和反応で発生する水酸化カルシウムとの反応性(ポゾラン性)を利用したものである。
添加材6としては、このほかにも、例えば、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、アルミナ等のセラミック粉末、又はガラス粉末を用いることができる。いずれの添加材6を用いた場合においても、添加材6の効果によりせん断補強筋15とコンクリート3との付着力を増強させる効果を発揮し得る。これらの手法によれば、従来のように、添加材がコンクリート全体に行き渡るように混練する必要がないので、極めて少量でその付着力増強効果を発揮できる。
【0019】
また、添加材6を配置する他の手段としては、上記添加材を刷毛塗りや吹きつけ、あるいはドブ付けなどの手法により塗布又は直接配置する態様が考えられるが、そのほか、上記添加材6を含浸させたシートをせん断補強筋15の所定位置に巻き付けてもよい。そのシートは、コンクリート3中で溶解性のあるものが好ましい。
【0020】
この梁10にせん断応力が作用した場合について説明すると、図4に示すように、せん断ひび割れ18が梁軸方向に対して45度方向に発生する。
この両せん断ひび割れ18は、その後、梁10に作用するせん断力が増加しても、貫通孔14の上部A及び下部Bにおいてせん断補強筋15とコンクリート3との付着力が強いので、引き続きせん断補強筋15の中程を直角に横断する方向へ進展していく。
したがって、梁10が終局状態に至るまで、梁10の破断に影響する大きなせん断ひび割れを他の部分に生じさせない。
【0021】
なお、他の実施形態として、せん断補強筋15の表面に、無機又は有機材料の短繊維からなる繊維質補強材を配置し、その周囲にコンクリートを打設した構成も採用し得る。
この手法によれば、無機又は有機材料の短繊維による補強効果により、鉄筋周辺のコンクリート強度を向上させて、そのせん断補強筋15とコンクリートとの付着力増強効果を発揮し得る。
また、せん断補強部材としては、上記実施形態に示すせん断補強筋15以外にも、せん断ひび割れに対抗し得る他の形態のせん断補強筋や、あるいは板状の補強部材等も採用し得る。
【実験例】
【0022】
上記せん断補強筋15を想定した異形鉄筋の周囲に添加材を配置し、その添加材により異形鉄筋とコンクリートとの付着性能がどの程度高まるか、下記の実験を行った。
実験は、図6に示す異形鉄筋を図中の矢印の方向に引き抜く際の荷重と、その異形鉄筋の軸方向変位を測定した。その実験結果を図5に示す。
なお、添加剤1はフライアッシュを、添加剤2は、アルミナを使用している。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】貫通孔を有するコンクリート造梁の設置例を示す説明図
【図2】一実施形態の配筋状態を示し、(a)は梁の全体正面図、(b)は梁の切断側面図
【図3】同実施形態の要部拡大断面図
【図4】同実施形態のひび割れ発生後を示す正面図
【図5】実験例の荷重と変位との関係を示すグラフ
【図6】実験例において、コンクリートから異形鉄筋を引き抜く状況を示す図
【図7】従来例のひび割れ発生後を示す正面図
【符号の説明】
【0024】
1,10 梁(コンクリート造梁)
2 節部
3 コンクリート
4,14 貫通孔
5,15 せん断補強筋(せん断補強部材)
6 添加材
7,8,18 せん断ひび割れ
11 柱
12 表面
13 裏面
16 主筋
17 あばら筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁10に設けた貫通孔14の周囲に、前記梁10にせん断応力が作用した際に生じる初期せん断ひび割れ18に交差するせん断補強部材15を配置したコンクリート造梁において、
上記貫通孔14の上部及び下部の上記せん断補強部材15の周囲に添加材6を配置し、その添加材6により前記せん断補強部材15とコンクリートとの付着性能を高めたことを特徴とするコンクリート造梁。
【請求項2】
上記添加材6は、無機又は有機材料の短繊維であることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート造梁。
【請求項3】
上記添加材6は、コンクリートを密実にする性能を有し、上記付着性能は、その添加材6によるコンクリートの密実化により高められることを特徴とする請求項1に記載のコンクリート造梁。
【請求項4】
上記添加材6は、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、アルミナ等のセラミック粉末、又はガラス粉末であることを特徴とする請求項3に記載のコンクリート造梁。
【請求項5】
梁10に設ける貫通孔14の周囲に、前記梁10にせん断応力が作用した際に生じる初期せん断ひび割れ18に交差するせん断補強部材15を配置するコンクリート造梁の製造方法において、
上記貫通孔14の上部及び下部の上記せん断補強部材15の周囲に前記せん断補強部材15とコンクリートとの付着性能を高める添加材6を配置し、その状態でコンクリートを打設することを特徴とするコンクリート造梁の製造方法。
【請求項6】
上記添加材6は、無機又は有機材料の短繊維であることを特徴とする請求項5に記載のコンクリート造梁の製造方法。
【請求項7】
上記添加材6は、コンクリートを密実にする性能を有し、上記付着性能は、その添加材6によるコンクリートの密実化により高められることを特徴とする請求項5に記載のコンクリート造梁の製造方法。
【請求項8】
上記添加材6は、シリカヒューム、高炉スラグ、フライアッシュ、アルミナ等のセラミック粉末、又はガラス粉末であることを特徴とする請求項7に記載のコンクリート造梁の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−46236(P2007−46236A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228512(P2005−228512)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)