説明

コンデンサマイクロホン

【課題】振動板、固定電極及び基板が有底円筒状の金属製ケース内に同軸的に組み込まれた状態で、ケースの開口側端部の全周が内側にかしめられたコンデンサマイクロホンに関し、上記かしめを用いた組み立て作業の支障にならず、且つ、メイン基板への取り付け時に手作業による回転方向の位置決めを強いることもない構造のコンデンサマイクロホンを実現する。
【解決手段】ケース1は段付き円筒状に形成する。すなわち、底部11寄りの外周面13の外径は開口側端部14寄りの外周面15の外径よりも小さく形成する。そして、底部11寄りの小径の外周面13には、凸部又は凹部の少なくとも一方からなる回転止め部16を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集音孔が底部に穿設された有底円筒状のケースと、集音孔を介してケースの内部に導入された音響信号が入力される振動板と、振動板に隙間をおいて対向配置された固定電極と、振動板・固定電極間の容量変化を電気信号として取り出すための回路部品が実装され、且つ、外部への信号取り出し用の出力端子が設けられた基板とを有し、振動板、固定電極及び基板がケース内に同軸的に組み込まれた状態で、ケースの開口側端部の全周が内側にかしめられたコンデンサマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のコンデンサマイクロホンは、振動板、固定電極及び基板を有底円筒状のケース内に同軸的に組み込み、ケースの開口側端部の全周を内側にかしめることにより、組み立てられる(特許文献1参照)。かしめを用いた上記組み立て方法は、量産に適しており、広く採用されている。
【0003】
このタイプのコンデンサマイクロホンは、小型であるため、小型マイクロホンが必要とされる携帯機器等の基板(以下、メイン基板と記す)に、直接取り付けられる場合が多い。この場合、コンデンサマイクロホンのメイン基板上での位置決めは、メイン基板に穿設した嵌合用丸穴にコンデンサマイクロホンの有底円筒状のケースを挿入することにより行われる。しかし、この嵌合状態において、ケースの外周形状が均一外径の円筒状であるために、コンデンサマイクロホンは回転位置が定まらず、正確な位置にない。そこで、回転方向の位置決め作業が別途必要になり、従来は、出力端子がメイン基板に対して所定の角度位置になるように、目視により手作業でコンデンサマイクロホンの取り付け角度を調整し、この調整後、出力端子とメイン基板との接続等を行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭61−33599号公報(第1図〜第4図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のコンデンサマイクロホンでは、かしめを用いた組み立て作業の障害(邪魔)にならないように、ケースとしては、外周面に位置決め用の突起がない、均一外径を有した有底円筒状部材が用いられている。しかし、このことは、上記の通り、コンデンサマイクロホンのメイン基板への取り付けに際して、作業者に手作業による回転方向の位置決めを強いることになっていた。
【0006】
本発明は、上記問題を解決し、かしめを用いた組み立て作業の障害にならず、且つ、メイン基板への取り付け時に手作業による回転方向の位置決めを強いることもない構造のコンデンサマイクロホンを実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する請求項1に係る発明は、集音孔が底部に穿設された有底円筒状の金属製ケースと、前記集音孔を介して前記ケースの内部に導入された音響信号が入力される振動板と、前記振動板に隙間をおいて対向配置された固定電極と、前記固定電極を前記ケースから絶縁された状態で支持する絶縁スリーブと、前記振動板・固定電極間の容量変化を電気信号として取り出すための回路部品が実装され、且つ、外部への信号取り出し用の出力端子が設けられた基板とを有し、前記振動板、前記固定電極、前記絶縁スリーブ及び前記基板が前記ケース内に同軸的に組み込まれた状態で、前記ケースの開口側端部の全周が内側にかしめられたコンデンサマイクロホンにおいて、前記ケースは、前記底部寄りの外周面外径が前記開口側端部寄りの外周面外径よりも小さい段付き円筒状に形成されていると共に、前記底部寄りの小径の外周面には、凹部又は凸部の少なくとも一方からなる回転止め部が形成されていることを特徴とするコンデンサマイクロホンである。
【0008】
この発明において、ケースの開口側端部寄りの大径の外周面は凹凸のない円周面であり、底部寄りの小径の外周面にだけ、凹部又は凸部の少なくとも一方からなる回転止め部が形成されている。そして、上記かしめは、凹凸のない開口側端部寄りの大径の外周面に対して行われることになる。
【0009】
又、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記回転止め部は、前記ケースの一部を凸部に形成したものであり、前記ケースの半径方向には、前記開口側端部寄りの大径の外周面を超えない高さを超えない高さにその凸部先端が突き出ており、軸方向には、前記段付き円筒状部分の段部から前記底部に向けて延設されていることを特徴とするものである。
【0010】
この発明においては、円筒状のケースに、一つのプレス型(雄)を用いて、底部と段部と回転止め部を同時に形成可能である。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、前記ケースにおける、前記開口側端部寄りで外周面外径が大きい大径円筒部の内側には、前記段付き円筒状部分の段部と前記開口側端部の内側へのかしめ部分とでもって、前記基板が両面から挟み込まれるように支持されていることを特徴とするものである。この発明においては、ケースの段部を有効利用できる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明においては、コンデンサマイクロホンの組み立て時のかしめは、凹凸のない開口側端部寄りの大径の外周面に対して行われることになるため、回転止め部の存在は、かしめを用いた組み立て作業の障害にはならない。又、回転止め部の存在は、コンデンサマイクロホンのメイン基板への取り付け時に手作業による回転方向の位置決め作業を不要にできる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、ケースの加工が容易になり、その結果、コンデンサマイクロホンのコストダウンを図れる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、ケースの段部を有効利用して、基板がその両面から挟み込まれることになり、基板が外部から受けた負荷は、ケースの段部にて支えられ、基板より奥に存在する構成部品へ伝達する負荷を軽減できる。又、出力端子の支持が強固になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態例を示す斜視図である。
【図2】図1に示した形態例の断面構造を示す一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2を用いて本発明の実施の形態例を説明する。有底円筒状の金属製ケース1の底部11には、集音孔12が穿設されている。本形態例のケース1は、例えば、アルミ合金等でなり、段付き円筒状に形成されている。すなわち、底部11寄りの外周面13の外径は開口側端部14寄りの外周面15の外径よりも小さくなっている。そして、底部11寄りの小径の外周面13には、ケース1の一部を凸部に形成してなる回転止め部16が設けられたいる。
【0017】
回転止め部16部分を図1における水平面で切断した時の断面は、図1の右側に凸の横U字状をしており、ケース1の半径方向には、開口側端部14寄りの大径の外周面15のを超えない高さにその凸部先端が突き出ており、軸方向には、段付き円筒状部分の段部17から底部11に向けて延設されている。
【0018】
ダイヤフラム状の振動板2は、銅製の薄板の表面にニッケル或いは金等のメッキを施したものでなり、集音孔12を介してケース1の内部に導入された音響信号が入力されるものである。この振動板2の周縁部には、振動板2をその張力を維持した状態で保持すると共に振動板2とケース1との電気的導通をとるリング状の振動板保持体3が、固着されている。
【0019】
この振動板2には、絶縁物でなるリング状のスペーサ4を介して、固定電極5が対向配置されている。これにより、振動板2は隙間をおいて固定電極5と対向することになる。固定電極5は、例えば錫等の金属製の円板を基材とするもので、図示しないが、本形態例がエレクトレットコンデンサマイクロホン(ECM)であるため、固定電極5の振動板2との対向面上には、エレクトレット板が貼り付けられている。
【0020】
絶縁スリーブ6は、固定電極5をケース1から絶縁された状態で支持するものである。又、基板7には、振動板2・固定電極5間の容量変化を電気信号として取り出すための回路部品(インピーダンス変換用のFET71)が実装され、且つ、外部への信号取り出し用の出力端子72が設けられている。絶縁スリーブ6の内側には、固定電極5から上記回路部品(FET71)への信号経路を構成する導電スリーブ8が配置されている。
【0021】
上記振動板2、振動板保持体3、スペーサ4、固定電極5、絶縁スリーブ6、基板7及び導電スリーブ8が、ケース1内に同軸的に組み込まれ状態で、ケース1の開口側端部14の全周が内側にかしめることにより(図1,2はかしめ後の状態を示している)、ユニットとしてコンデンサマイクロホンが構成される。
【0022】
この組み立て後において、基板7は、ケース1における、開口側端部14寄りで外径の大きい外周面15を持った大径円筒部の内側に位置し、段付き円筒状部分の段部17と、開口側端部14の内側へのかしめ部分とでもって、両面から挟み込むように支持されている。
【0023】
この形態例においては、ケース1の開口側端部14寄りの大径の外周面15は凹凸のない円周面であり、底部11寄りの小径の外周面13にだけ、回転止め部16が形成されている。そして、上記かしめは、凹凸のない開口側端部14寄りの大径の外周面15に対して行われる。このため、回転止め部16の存在は、かしめを用いた組み立て作業の障害にはならない。
【0024】
又、回転止め部16の存在は、コンデンサマイクロホンのメイン基板への取り付け時に手作業による回転方向の位置決め作業を不要にできる。具体的には、メイン基板に、ケース1の底部11寄り外周面13よりも若干大径の円形穴であって、この内周面の一部に、回転止め部16が嵌合する切欠溝が形成された穴を、ケース1との嵌合穴として穿設しておけば、この嵌合穴にコンデンサマイクロホンのケース1(底部11寄りの小径の外周面13部分だけ)を差し込むことにより、コンデンサマイクロホンの回転方向の位置決めも同時になされることになる。因みに、この場合は、コンデンサマイクロホンの軸方向の位置決めは、段部17によりなされる。
【0025】
さらに、この形態例においては、円筒状のケース1に対して、単一のプレス型(雄)を用いて、底部11と段部17と回転止め部16を同時に形成可能である。よって、ケース1の加工が容易になり、その結果、コンデンサマイクロホンのコストダウンを図れる。
【0026】
又、この形態例においては、ケース1の段部17を有効利用して、基板7がその両面から挟み込まれることになり、基板7が外部から受けた負荷は、ケース1の段部17にて支えられ、基板7より奥に存在する構成部品へ伝達する負荷を軽減できる。又、出力端子72の支持も強固になる。
【0027】
なお、本発明は上記形態例に限られるものではない。例えば、上記形態例では、回転止め部16を凸部で形成したが、凹部で形成し、メイン基板側の嵌合穴の形状をこれに合わせるようにしてもよい。又、本発明において、回転止め部16の数は1個に限らないし、段付き円筒状のケース1の段数も一つに限らない。コンデンサマイクロホンの内部構造も、上記形式のバックエレクトレット型に限らないし、そもそもエレクトレット型に限らない。
【符号の説明】
【0028】
1 : ケース
2 : 振動板
3 : 振動板保持体
4 : スペーサ
5 : 固定電極
6 : 絶縁スリーブ
7 : 基板
8 : 導電スリーブ
11 : 底部
12 : 集音孔
13 : 底部寄りの外周面
14 : 開口側端部
15 : 開口側端部寄りの外周面
16 : 回転止め部
17 : 段部
71 : FET
72 : 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集音孔が底部に穿設された有底円筒状の金属製ケースと、
前記集音孔を介して前記ケースの内部に導入された音響信号が入力される振動板と、
前記振動板に隙間をおいて対向配置された固定電極と、
前記固定電極を前記ケースから絶縁された状態で支持する絶縁スリーブと、
前記振動板・固定電極間の容量変化を電気信号として取り出すための回路部品が実装され、且つ、外部への信号取り出し用の出力端子が設けられた基板とを有し、
前記振動板、前記固定電極、前記絶縁スリーブ及び前記基板が前記ケース内に同軸的に組み込まれた状態で、前記ケースの開口側端部の全周が内側にかしめられたコンデンサマイクロホンにおいて、
前記ケースは、前記底部寄りの外周面外径が前記開口側端部寄りの外周面外径よりも小さい段付き円筒状に形成されていると共に、前記底部寄りの小径の外周面には、凹部又は凸部の少なくとも一方からなる回転止め部が形成されていることを特徴とするコンデンサマイクロホン。
【請求項2】
前記回転止め部は、前記ケースの一部を凸部に形成したものであり、前記ケースの半径方向には、前記開口側端部寄りの大径の外周面を超えない高さにその凸部先端が突き出ており、軸方向には、前記段付き円筒状部分の段部から前記底部に向けて延設されていることを特徴とする請求項1記載のコンデンサマイクロホン。
【請求項3】
前記ケースにおける、前記開口側端部寄りで外周面外径が大きい大径円筒部の内側には、前記段付き円筒状部分の段部と前記開口側端部の内側へのかしめ部分とでもって、前記基板が両面から挟み込まれるように支持されていることを特徴とする請求項1又は2記載のコンデンサマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−93686(P2013−93686A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233633(P2011−233633)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000112565)フォスター電機株式会社 (113)
【Fターム(参考)】