説明

コンバインの運転部グリップ

【課題】起立運転時に前グリップ部と左グリップ部を握り易くし安全な走行を行うことができると共に、オペレータが運転シートから脱穀部の入り口付近に手を伸ばす際の邪魔になることなく、右グリップ部の後方から手を伸ばして藁屑除去等のメンテナンス作業を簡単に行うことができるコンバインの運転部グリップを提供する。
【解決手段】前部運転パネル部11に左右方向の前グリップ部30と、側部運転パネル部12に前後方向の左グリップ部31とを備えるコンバインの運転部グリップにおいて、前記前グリップ部30と左グリップ部31とを一体的に形成すると共に、左グリップ部31の後端を運転シート8の前端近傍に位置させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンバインの運転部グリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来コンバインの運転部は、ステアリング等が設置される前部運転パネル部と、前後進変速を行う主変速レバー及び走行速度を副変速する副変速レバー並びに前処理部や脱穀部の動力入り切りを行う作業部レバー等が設置される側部運転パネル部とを、平面視で逆L字状となるように立設している。そして、前部運転パネル部にはオペレータが運転フロアに起立した姿勢で運転(以下単に起立運転と言う)をするとき把持する運転部グリップを立設している(例えば特許文献1。)。
また前部運転パネル部に運転部グリップ(前グリップ部)を設けると共に、側部運転パネル部の外側辺に沿って左グリップ部(左グリップ部)を立設したコンバインも既に公知である(例えば特許文献2。)。
【特許文献1】実開平6−75115号公報
【特許文献2】特開2003−333916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1のコンバインは、例えばオペレータが起立運転をしたり、運転シートに座った状態で前かがみになり前方を確認するとき、運転部グリップを把持することができるので、安全に走行をすることができる利点がある。然し、機体が激しくピッチングしたりローリングをする際には、単に前側の運転部グリップを把持しただけでは、身体の横揺れを防止し安定よく支持することが不十分であると共に、他方の手で前後左右に操作するステアリングレバ−を不用意に把持して誤操作を伴い易い欠点がある。
【0004】
また特許文献2で示されるコンバインの運転部は、前部運転パネル部に対し回転操作型のステアリングの前方下部に前グリップ部を設けると共に、側部運転パネル部に左グリップ部を設けているので、起立運転時に左グリップ部を把持して身体を支えることができる利点がある。然し、オペレータは他方の手(右手)で把持し易いステアリングを把持するので、機体が大きく横揺れするような場合に、両腕によって身体を安定よく踏ん張り支持することができないばかりか、ステアリングを誤操作し易い等の欠点がある。
また左グリップ部は後端位置を運転シートの前端位置より後方に延設しているので、オペレータが運転席から脱穀部の入り口部付近に手を伸ばす際の邪魔になり、入り口部に堆積する藁屑の除去や清掃等のメンテナンス作業を行い難くする等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明のコンバインの運転部グリップは、第1に、前部運転パネル部11に左右方向の前グリップ部30と、側部運転パネル部12に前後方向の左グリップ部31とを備えるコンバインの運転部グリップにおいて、前記前グリップ部30と左グリップ部31とを一体的に形成すると共に、左グリップ部31の後端を運転シート8の前端近傍に位置させたことを特徴としている。
【0006】
前グリップ部30の右端側を後方に屈曲させて右グリップ部32を形成し、該右グリップ部32の後端を運転部フロア10の外側端近傍に位置させ下方に屈曲させることにより脚部33を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
前グリップ部と左グリップ部とを一体的に形成した運転部グリップとしたことにより、起立運転時に前グリップ部と左グリップ部を握り易くすることができるので、安全な走行を行うことができる。
また左グリップ部の後端を運転シートの前端近傍に位置させるので、オペレータが運転シートから脱穀部の入り口付近に手を伸ばす際の邪魔になることなく、左グリップ部の後方から手を伸ばして藁屑除去等のメンテナンス作業を簡単に行うことができる。
【0008】
起立運転時に機体がピッチングやローリングをする際には、左右の手で左グリップ部と右グリップ部とを同時に把持し、両腕によって身体を安定よく支持することができるので、安全な走行をすることができる。
また右グリップ部の脚部は、運転部フロアの外側端近傍に位置し縦向きに形成されるので、右手で把持する縦向きの乗降用の把手として兼用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1において符号1は本発明に係わる運転部グリップ(以下単にグリップと言う)2を運転部3に備えたコンバインである。
このコンバイン1はクローラー式の走行装置1aを備えた走行機台1bに、従来のものと同様に前処理部4と脱穀部5等の作業部を前後方向に配置し、前処理部4の後方で脱穀部5の右側に運転部3とグレンタンク7を配置し、運転部3の運転シート8を支持するエンジンカバー9内に図示しないエンジンを搭載している。
この構成によりコンバイン1は、前処理部4で刈り取った穀稈を扱深搬送装置等を介して脱穀部5のフィードチェンに継送し、脱穀部5によって脱穀選別された穀粒をグレンタンク7に収容し穀粒排出オーガー7aを操作し機外に排出し一連のコンバイン作業を行うことができる。
【0010】
上記コンバイン1の運転部3は、運転部フロア10の前側横方向に立設される前部運転パネル部11と、該前部運転パネル部11に連なり運転部フロア10及び運転シート8の左側前後方向に立設される側部運転パネル部12を平面視でL字状に構成している。
図3で示すように前部運転パネル部11は、コラム上部のパネル面に右側からステアリング13と、モニター機器13a及び機体水平制御操作部13b等を設置している。尚、図示例のステアリング13は操向操作をレバー操作によって行う方式にしているが、回転ハンドルによって行う方式にすることもできる。
【0011】
側部運転パネル部12は平坦状のパネル14に、前側から主変速レバー15と副変速レバー16を並設し、主変速レバー15の後方に自動制御操作パネル部17を纏めて配置し、且つ副変速レバー16の後方にエンジンコントロールレバー18と、前処理部4及び脱穀部5のクラッチ操作を行う作業部レバー19等を配設している。そして、グレンタンク7及び穀粒排出オーガー7aを操作する籾処理操作部20、並びに排藁搬送切換レバー20a等は、運転シート8の後方側に設置している。
【0012】
上記パネル14は、各対応するレバー箇所に主変速レバーガイド溝22と、副変速レバーガイド溝23と、エンジンコントロールレバーガイド溝25と、作業部レバーガイド溝26等を穿設している。主変速レバーガイド溝22は図3で示すようにクランク溝形状の長孔で形成され、クランク溝の中央段部を中立位置としており、主変速レバー15を前側と後側に操作すると、その操作量に応じ車速を前進増速変速及び後進増速変速させることができる。副変速レバーガイド溝23は、トランスミッションと連繋する副変速レバー16を低速位置と中速位置と高速位置に位置決めすることができる。
【0013】
そして、図2,図3で示すように運転部3は、運転シート8の右側に後述するグリップ2の脚部33と把手間隔(乗降間隔)を有して対をなす乗降用の把手24を設置している
。この把手24はエンジンカバー9の前側上方に設けられ、オペレータが地上から左手で縦向きに把持することができる。また運転フロア10の外側フレームには乗降時に足を掛けることができる補助ステップ25を設置している。
【0014】
上記エンジンカバー9は図5で示すように、右側面と背面上部に冷却風を導入する吸気口26,26aと、左側面の上部と背面下部の左側に排気口27,27aを形成し、且つエンジンカバー9の背面に上記吸気口26aと排気口27aとを区画する仕切板29を突設している。
この仕切板29は左側に向けて下り傾斜状に突設しており、エンジンカバー9と後方のグレンタンク2で形成される隙間を上下方向に仕切り吸気流と排気流との混合を防止することができる。また空隙の上方から侵入した塵埃を仕切板29の傾斜によって機外に滑落排出することができる。
【0015】
次に図2〜図6を参照しグリップ2の構成について説明する。このグリップ2は前部運転パネル部11の上部に沿って横設される前グリップ部30と、側部運転パネル部12の上部外側寄りに沿設される左グリップ部31とからなる。またグリップ2は平面視において前グリップ部30の右側端を後方に向けて屈曲し、右グリップ部32を運転部フロア10の右端近傍位置まで延長させて形成している。
【0016】
この右グリップ部32は後端を下向きに屈曲させることにより、取付け部材と乗降用の把手を兼用する脚部33を形成している。脚部33は下端に取付片35を設け、前部運転パネル部11の右端において運転部フロア10に立設した支柱部材36に着脱自在に取付固定される。
37はバックミラーであり、支柱部材36に対し脚部33の取付片35と共にボルトによって共締め固定される。
【0017】
左グリップ部31は前グリップ部30の左端を後方に向けて屈曲し、後端を運転シート8の前端近傍に位置させるように延長形成している。そして、左グリップ部31は後端を下向きに屈曲させて形成した脚部39を、パネル14外側のパネル枠40にボルトによって着脱自在に取付固定するようにしている。
【0018】
以上のように構成されるグリップ2は、右グリップ部32側の脚部33を前部運転パネル部11の支柱部材36に取付固定し、左グリップ部31側の脚部39をパネル枠40に取付固定することにより、前グリップ部30と右グリップ部32及び左グリップ部31を、それぞれ前部運転パネル部11の前側辺と側部運転パネル部12の外側辺に沿って所定の把持高さを有し支持することができる。
またグリップ2は角断面或いは丸断面の鉄パイプ材を曲げ加工をすことにより簡単に形成することができるので、小径部材で十分な強度を有して構成することができる。従って、合成樹脂製のグリップのように強度を確保するため太くする必要がないので、前方及び側方の視界を妨げることがない。
【0019】
また左右の脚部33,39は、前部運転パネル部11側と側部運転パネル部12側で前後方向の取付距離Lを有して取付けられるので、運転パネル部の形状に沿ってグリップ2の取付固定を安定よくすることができる。
そして、オペレータが運転部フロア10に立って行う立姿運転作業において、前グリップ部30及び左グリップ部31,右グリップ部32等を把持した際に、機体のピッチングやローリング並びに機体の急発進や停止に伴う把持負荷に抗し、グリップ2は揺れを防止し身体を安定よく支持させることができる。
【0020】
また右グリップ部32と左グリップ部31は前グリップ部30の左右を屈曲させ後方に
向けて一体的に延長形成しているので、屈曲部を把持することができると共に、該屈曲部を手摺りとして手の把持移動を滑らかに行うことができる。また立姿勢において左右の腕を開いた状態で右グリップ部32と左グリップ部31を同時に把持し易く、機体がピッチングやローリングをする際に、把持した両腕によって踏ん張り支持して身体の横揺れを防ぐことができる。
【0021】
さらに、左グリップ部31は後端位置を運転シート8の前端近傍に位置させているので、脱穀部5の入り口部等に穀稈詰まりを生じたり藁屑が堆積した際に、左グリップ部31が設置されない後方の広い空間部から脱穀部5の入り口部付近に速やかに手を伸ばし、藁屑の除去や清掃等のメンテナンス作業を行うことができる。従って、左グリップ部31は把持しやすい高さに設置しても、メンテナンス作業の邪魔になることなく、またメンテナンス作業時に、右手で左グリップ部31を把持して身体を支持した安定姿勢で、身を乗り出し左手を大きく伸ばすことができるので、メンテナンス作業をより広範囲にわたり確実に行うことができる等の利点がある。
【0022】
また前グリップ部30の右側の脚部33は、前部運転パネル部11側から運転部フロア10の右端近傍位置まで延長した右グリップ部32端に縦向きに形成されるので、右手で縦向きに把持することができ乗降用の把手を兼用することができる。
また脚部33と把手24は共に、地上からオペレータが両腕を伸ばして握り易い位置に設置されるので、大型コンバインのように高い位置にある運転部フロア10に対しても、脚部33と把手24を共に把持して楽に乗降することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係わるグリップを備えたコンバインの全体側面図である。
【図2】図1の運転部の構成を示す拡大側面図である。
【図3】図2の平面図である。
【図4】図2の正面図である。
【図5】図2の後方斜視図である。
【図6】図2の前方斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
1 コンバイン
2 グリップ
3 運転部
10 運転部フロア
11 前部運転パネル部
12 側部操縦パネル部
30 前グリップ部
31 左グリップ部
32 右グリップ部
33,39 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前部運転パネル部(11)に左右方向の前グリップ部(30)と、側部運転パネル部(12)に前後方向の左グリップ部(31)とを備えるコンバインの運転部グリップにおいて、前記前グリップ部(30)と左グリップ部(31)とを一体的に形成すると共に、左グリップ部(31)の後端を運転シート(8)の前端近傍に位置させたコンバインの運転部グリップ。
【請求項2】
前グリップ部(30)の右端側を後方に屈曲させて右グリップ部(32)を形成し、該右グリップ部(32)の後端を運転部フロア(10)の外側端近傍に位置させ下方に屈曲させることにより脚部(33)を形成する請求項1記載のコンバインの運転部グリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−300864(P2007−300864A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−133108(P2006−133108)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】