説明

コンバイン

【課題】コンバインに搭載したエンジンがオーバーヒートを起こした際、当該エンジンへの負荷を軽減させる的確な対処制御を安全且つ速やかに実行できるようにする。
【解決手段】エンジン16がオーバーヒートを起こした際に、作業機11,12,39の駆動を停止させる作業機停止手段としての作業機停止制御(S10〜S15)を設けると共に、前記作業機停止制御(S10〜S15)による作業機11,12,39の駆動停止に先んじて、トランスミッション52内の左右のサイドクラッチ81L,81Rを切って機体の走行を停止させる走行停止手段としての走行停止制御(S7〜S9)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンバインに搭載されたエンジンがオーバーヒートを起こした際の対処制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のコンバインにおいては、運転席下方のエンジンルームの一側に防塵網を付設すると共に、防塵網の内側にラジエータを配設し、且つラジエータとエンジンとの間にラジエータファンを設け、このラジエータファンによって強制的に吸い込まれようとする藁屑、その他の塵埃等を、当該防塵網で捕捉できるようになっている。
【0003】
そして、前記防塵網に目詰まりが著しく進行すると、エンジン冷却風の取り入れが十分
になされずエンジンのオーバーヒートが発生することから、防塵網の目詰まりをエンジン冷却風の速度変化、及びエンジン冷却水の水温変化によって検出すると共に、その検出結果に基づく警報手段と、当該防塵網の目詰まりを解除する清掃手段を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−132041号公報(第3−5頁、図2−図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1のものは、防塵網の目詰まりに起因するエンジンのオーバーヒートを予防するためには有効であるが、その他の要因、例えば、エンジン冷却液の不足、汚れ、ラジエータホースからの漏れ、ウォーターポンプを回すベルトの緩み、ウォーターポンプや冷却用ファンモータ、サーモスタットなどの作動不良、ラジエータ内部の冷却液の循環不良、または、エンジンオイルの不足や劣化、エンジンオイルフィルター内部の詰まり等により発生するエンジンのオーバーヒートには、日常点検を行うこと以外に特段の予防策が講じられていない。尚、防塵網の目詰まりを解除する清掃手段は、高価な装置構成となることから大型のコンバインにしか採用されていないのが実状である。
【0005】
また、これらの要因等によってエンジンがオーバーヒートを起こした場合は、直ちにオペレータは当該エンジンへの負荷を軽減させる的確な措置をとると共に、コンバインを安全な場所まで惰性で走行させることが好ましいが、このオーバーヒートのような不測の事態に遭遇した際は、オペレータが安全且つ速やかに前記措置をとることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、機体を支持する左右一対のクローラ走行装置と、該クローラ走行装置を駆動させるエンジンを備えたコンバインにおいて、当該エンジンがオーバーヒートを起こすと作業機の駆動をさせる作業機停止手段を設けたことを第1の特徴としている。
【0007】
また、前記オーバーヒート時の作業機の駆動停止に先んじて機体の走行を停止させる走行停止手段を設けたことを第2の特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、エンジンがオーバーヒートを起こすと作業機の駆動を停止させる作業機停止手段を設けたので、エンジンがオーバーヒートを起こした際の当該作業機によるエンジンへの負荷を直ちに解消することができる。また、オーバーヒートのような不測の事態に遭遇した時、オペレータが作業機の駆動を停止させることを忘れても、自動且つ速やかに作業機の駆動を停止できるので安全性に優れている。
【0009】
また、請求項2の発明によれば、上述したオーバーヒート時の作業機の駆動停止に先んじて機体の走行を停止させる走行停止手段を設けたので、オーバーヒートを起こした際に誤ってクローラ走行装置で植立穀稈を踏み倒すといった問題が起こらない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、コンバイン10の平面図、図2は、コンバイン10の伝動系統図であって、コンバイン10は、穀稈を刈取る前処理部11と、刈取穀稈から穀粒を脱穀し、この穀粒を選別する脱穀部12と、選別済みの穀粒を貯留する穀粒タンク13と、各種の操作具が設けられる操縦部14と、機体を支持する左右一対のクローラ走行装置15,15を備えている。
【0011】
また、操縦部14の後側下方には、前処理部11、脱穀部12、クローラ走行装置15,15等に動力を供給するエンジン16を搭載している。そして、エンジン16から脱穀部12への動力伝動は、先ずエンジン16の出力軸16aに設けたプーリ17、伝動ベルト18、プーリ19を介して送風ファン21に伝動される共に、カウンタープーリ22、伝動ベルト23、プーリ24を介して搬送用HST25に伝動された後、カウンター伝動装置26を介して脱穀フィードチェン27と前処理部11とに分岐して伝動されるようになっている。
【0012】
尚、コンバイン10の作業機である脱穀部12及び前処理部11への動力伝動を断接する作業機クラッチ31、及び前処理部11のみの動力伝動を断接する刈取クラッチ32は、後述するアクチュエータとしての作業機クラッチモータ33と刈取クラッチモータ34を介して断接するベルトテンション式のクラッチ機構を備えている。
【0013】
更に、エンジン16の出力軸16aに設けたプーリ36、伝動ベルト37、プーリ38等を介して穀粒タンク13内の横螺旋13a、次いで穀粒排出オーガ39を構成する縦螺旋39aに動力が伝動されると共に、アクチュエータである排出クラッチモータ41を介して作動する穀粒排出クラッチ42によって、当該動力を断接することができるようになっている。
【0014】
一方、エンジン16からクローラ走行装置15,15への動力伝動は、エンジン16の出力軸16aに設けたWプーリ46、伝動ベルト47,47、Wプーリ48を介して走行用HST51に伝動された後、トランスミッション52の副変速機構を介して伝動されるようになっている。尚、エンジン16から走行用HST51への動力伝動は、走行クラッチ53によって断接される。
【0015】
また、図3に示すように、コンバイン10には、マイクロコンピュータ(CPU、ROM、RAM等を含む)を用いて構成した制御ユニット61を備えている。
【0016】
そして、制御ユニット61の入力側には、エンジン16冷却水の水温を検出する水温センサ62、刈取・脱穀クラッチレバー20(図1参照)による作業機クラッチ31への傾倒操作を検出する作業機クラッチスイッチ63、作業機クラッチモータ33の作動状態を検出する切側作業機リミットスイッチ64と入側作業機リミットスイッチ65、刈取・脱穀クラッチレバー20による刈取クラッチ32への傾倒操作を検出する刈取クラッチスイッチ66、刈取クラッチモータ34の作動状態を検出する切側刈取リミットスイッチ67と入側刈取リミットスイッチ68、操向レバーであるマルチステアリングレバー71の操作位置を検出する操向レバーポテンショメータ72、主変速レバー73の操作位置を検出する主変速レバーポテンショメータ74、及び排出クラッチモータ41を作動させるモーメンタリスイッチである排出クラッチスイッチ75等を接続してある。
【0017】
一方、出力側には、エンジン16冷却水の水温が所定温度以上になると点灯する水温ランプ77と音による報知手段である警報ブザー78、作業機クラッチ31を作動させるアクチュエータとしての作業機クラッチモータ33、刈取クラッチ32を作動させるアクチュエータとしての刈取クラッチモータ34、トランスミッション52内で左右のクローラ走行装置15,15への動力伝動を択一的に、または同時に断接する左右のサイドクラッチ81L,81Rを作動させる左右のサイドクラッチソレノイドバルブ82L,82R、及び穀粒排出クラッチ42を作動させるアクチュエータとしての排出クラッチモータ41を接続してある。
【0018】
次に、コンバイン10に搭載したエンジン16がオーバーヒートを起こした際のオーバーヒート制御について、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0019】
先ず、ステップS1では、エンジン16冷却水の水温を検出する水温センサ62によって、当該水温が設定以上、即ちオーバーヒートを起こしたことを検出するとステップS2に進み、オーバーヒートを起こしていない場合は、ステップS31に進む。
【0020】
ステップS2では、オーバーヒートフラグが1であるか否かを判断し、NOであればステップS3に進み、YESであればステップS4に進む。
【0021】
ステップS3では、オーバーヒートタイマーをセットすると共に、オーバーヒートフラグを1としてS4に進む。
【0022】
ステップS4では、刈取・脱穀クラッチレバー20が切断状態か否かを、作業機クラッチスイッチ63と刈取クラッチスイッチ66のON・OFFによって判断し、NOであればステップS5に進み、YESであればステップS21に進む。
【0023】
ステップS5では、エンジン16冷却水の水温が設定温度以上になったことを知らせる水温ランプ77を点灯させると共に、音による報知手段である警報ブザー78の連続音を出力させてS6に進む。
【0024】
ステップS6では、オーバーヒートタイマーが0になったか否かを判断し、NOであればステップS1に戻り、YESであればステップS7に進む。
【0025】
ステップS7では、主変速レバー73の操作位置を検出する主変速レバーポテンショメータ74によって、当該主変速レバー73が中立位置にあるか否かを判断し、NO即ちコンバイン10が走行中であればステップS8に進み、YESであればステップS9に進む。
【0026】
ステップS8では、左右のサイドクラッチ81L,81Rを同時に切断する出力が左右のサイドクラッチソレノイドバルブ82L,82Rになされ、コンバイン10の走行を停止させると共に、サイドクラッチタイマーをセットし、更にサイドクラッチフラグを1としてS9に進む。
【0027】
ステップS9では、サイドクラッチタイマーが0になったか否かを判断し、NOであればステップS1に戻り、YESであればステップS10に進む。
【0028】
ステップS10では、刈取クラッチ32が切断された状態か否かを、刈取クラッチモータ34の作動状態を検出する切側刈取リミットスイッチ67と入側刈取リミットスイッチ68のON・OFF状態によって判断し、NOであればステップS11に進み、YESであればステップS12に進む。
【0029】
ステップS11では、刈取クラッチ32を切断する出力が刈取クラッチモータ34になされてステップS12に進む。
【0030】
ステップS12では、作業機クラッチ31が切断された状態か否かを、作業機クラッチモータ33の作動状態を検出する切側作業機リミットスイッチ64と入側作業機リミットスイッチ65のON・OFF状態によって判断し、NOであればステップS13に進み、YESであればステップS14に進む。
【0031】
ステップS13では、作業機クラッチ31を切断する出力が作業機クラッチモータ33になされてステップS14に進む。
【0032】
ステップS14では、穀粒排出クラッチ42が切断されているか否かを排出クラッチスイッチ75のON・OFF状態によって判断し、NOであればステップS15に進み、YESであればステップS1に戻る。
【0033】
そして、ステップS15では、穀粒排出クラッチ42を切断する出力が排出クラッチモータ41になされてステップS1に戻る。
【0034】
即ち、上述したステップS1からステップS15のオーバーヒート制御は、コンバイン10に搭載したエンジン16がオーバーヒートを起こした際、作業機である脱穀部12、前処理部11、及び穀粒排出オーガ39等の駆動を停止させる作業機停止手段としての作業機停止制御(S10〜S15)を備えており、この作業機停止制御(S10〜S15)によって、エンジン16がオーバーヒートを起こした際の当該作業機によるエンジンへの負荷を直ちに解消することができる。また、オーバーヒートのような不測の事態に遭遇した時、オペレータが作業機の駆動を停止させることを忘れても、自動且つ速やかに作業機の駆動を停止できるので安全性に優れている。
【0035】
更に、前記オーバーヒート制御には、オーバーヒート時の作業機の駆動停止に先んじて、トランスミッション52内の左右のサイドクラッチ81L,81Rを切って機体の走行を停止させる走行停止手段としての走行停止制御(S7〜S9)も備えており、この走行停止制御(S7〜S9)によって、オーバーヒートを起こした際に誤ってクローラ走行装置15,15で植立穀稈を踏み倒すといった問題が起こらない。そして、前記走行停止制御(S7〜S9)は、既存のトランスミッション52内のサイドクラッチ81L,81Rを利用して、オーバーヒート時に機体の走行を停止させるものであることから低コストで実現できる。
【0036】
一方、ステップS21では、サイドクラッチフラグが1であるか否かを判断し、NOであればステップS24に進み、YESであればステップS22に進む。
【0037】
ステップS22では、主変速レバー73の操作位置を検出する主変速レバーポテンショメータ74によって、当該主変速レバー73が中立位置にあるか否かを判断し、NO即ちコンバイン10が走行中であればステップS5に進み、YESであればステップS23に進む。
【0038】
ステップS23では、サイドクラッチフラグを0としてS24に進む。
【0039】
そして、ステップS24では、エンジン16冷却水の水温が設定温度以上になったことを知らせる水温ランプ77を点滅させると共に、音による報知手段である警報ブザー78から断続音を出力させてS1に戻る。
【0040】
即ち、上述したステップS21からステップS24の制御は、エンジン16がオーバーヒートを起こして機体の走行を一端停止させる走行停止制御(S7〜S9)と、作業機である脱穀部12、前処理部11、及び穀粒排出オーガ39等の駆動を停止させる作業機停止手段としての作業機停止制御(S10〜S15)が実行された後、主変速レバー73を中立位置に操作することによって、エンジン16がオーバーヒート中であっても、当該エンジン16の負荷を軽減させた状態で機体を走行(移動)させることができるようにしたものである。
【0041】
また、ステップS31では、サイドクラッチフラグが1であるか否かを判断し、NOであればステップS34に進み、YESであればステップS32に進む。
【0042】
ステップS32では、主変速レバー73の操作位置を検出する主変速レバーポテンショメータ74によって、当該主変速レバー73が中立位置にあるか否かを判断し、NO即ちコンバイン10が走行中であればステップS5に進み、YESであればステップS33に進む。
【0043】
ステップS33では、サイドクラッチフラグを0としてS34に進む。
【0044】
そして、S34では、オーバーヒートフラグを0としてS1に戻る。
【0045】
即ち、上述したステップS31からステップS34の制御は、エンジン16がオーバーヒートを起こした後、再びエンジン16冷却水の水温が設定温度未満に低下して、当該オーバーヒートが解消されても、主変速レバー73を中立位置に操作しないと機体を走行(移動)させることができないように牽制したものであり、それによって意図しない左右のサイドクラッチ81L,81Rの接続による機体の暴走を回避できるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】コンバインの平面図。
【図2】コンバインの伝動系統図。
【図3】制御ユニットを示すブロック図。
【図4】オーバーヒート制御を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0047】
11 作業機(前処理部)
12 作業機(脱穀部)
15 クローラ走行装置
16 エンジン
39 作業機(穀粒排出オーガ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体を支持する左右一対のクローラ走行装置(15,15)と、該クローラ走行装置(15,15)を駆動させるエンジン(16)を備えたコンバインにおいて、当該エンジン(16)がオーバーヒートを起こすと作業機(11,12,39)の駆動を停止させる作業機停止手段を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記オーバーヒート時の作業機(11,12,39)の駆動停止に先んじて機体の走行を停止させる走行停止手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−25604(P2006−25604A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204185(P2004−204185)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】