説明

コンバイン

【課題】運転席の前側に穀稈を引き起す引起装置と植立穀稈の絡み合いを分離する補助引起装置が配置されるコンバインにおいて、運転席側への穀粒の飛散を防ぎながら、収穫作業における刈取前部の視認性を向上させる。
【解決手段】運転席(5)の前側に穀稈を引き起す穀稈引起装置(8)を設け、該穀稈引起装置(8)の前側に穀稈を左右に分離する補助引起装置(60)を設けたコンバインにおいて、穀稈引起装置(8)の上方へ張り出して該穀稈引起装置(8)によって脱粒した穀粒が運転席(5)側へ飛散するのを防ぐ防護カバー体(15)を設けるとともに、補助引起装置(60)後側の穀稈引起装置(8)の上方の部位に、防護カバー体(15)よりも前方へ張り出し可能な補助防護カバー体(18aL)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席の前側に穀稈引起装置が配置されるコンバインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に示された従来技術は、運転席の前側に穀稈を引き起す引起し装置が配置されるコンバインにおいて、各引起し装置の上部を左右方向に長い板状の連結部材によって被覆したものである。このような連結部材を設けることにより、穀稈特に長稈の引起しの際、引起しラグによって脱粒された穀粒や穀稈に付着していた水滴や泥土、さらには引起しラグに付着していた泥土等が運転席側に飛散するのが防止される。そしてその結果、運転席前方がウインドウで囲まれていない非キャビン型においては運転席のオペレータに穀粒や水滴、泥土(以下、「穀粒等」ともいう)が直接当たることが防止され、また、ウインドウで囲まれた運転室を有するキャビン型においてはウインドウが水滴、泥土で汚れることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−176825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1記載の技術では、連結部材は、引起し装置に固定しているため、圃場状態や穀稈の長さ等により変化する穀粒等の飛散状況によって、あるいはオペレータの姿勢、体型等によって、穀粒等の飛散を効果的に遮断できなかったり、前方視界特に分草位置への視界が連結部材で不必要に遮られたりする、という問題点があった。
【0005】
また、引き起し装置の前側に植立穀稈の絡み合いを分離する補助引起し装置を設けた場合に、この補助引起し装置によって運転席側に飛散する穀粒等を防ぐことが考慮されていない、という問題点があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、運転席の前側に穀稈を引き起す引起し装置と植立穀稈の絡み合いを分離する補助引起し装置が配置されるコンバインにおいて、運転席側への穀粒等の飛散を防ぎながら、コンバインの前端部を見ながら収穫運転を行い易くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明は次のとおりである。
すなわち、請求項1記載の発明は、運転席(5)の前側に穀稈を引き起す穀稈引起装置(8)を設け、該穀稈引起装置(8)の前側に穀稈を左右に分離する補助引起装置(60)を設けたコンバインにおいて、前記穀稈引起装置(8)の上方へ張り出して該穀稈引起装置(8)によって脱粒した穀粒が運転席(5)側へ飛散するのを防ぐ防護カバー体(15)を設けるとともに、前記補助引起装置(60)後側の穀稈引起装置(8)の上方の部位に、前記防護カバー体(15)よりも前方へ張り出し可能な補助防護カバー体(18aL)を設けたことを特徴とするコンバインである。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、前記補助防護カバー体(18aL)を補助引起装置(60)の上方に張り出したときに、この補助防護カバー体(18aL)と補助引起装置(60)の上端部との間に穀稈の穂先側が通過可能な補助穀稈通過空間(18s)が形成される構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバインである。
【0009】
また、請求項3記載の発明は、前記防護カバー体(15)と補助防護カバー体(18aL)とを穀稈引起装置(8)に対して一体的に着脱可能な構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載のコンバインである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、収穫作業中に引起装置(8)のラグの作用によって生じる穀粒等の運転席(5)側への飛散を、防護カバー体(15)の前方へ張り出しによって防ぎ、穀稈引起装置(8)の前側にある補助引起装置(60)で生じる穀粒の運転席(5)側への飛散は、防護カバー体(15)よりも前方へ張り出す補助防護カバー体(18aL)で防ぐことができ、運転席(5)のオペレータの作業環境を良好に維持できる。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の効果を奏するうえに、補助引起装置(60)で引起された穀稈の稈長が長く、この穀稈の穂先側が絡まったまま補助引起装置(60)上を通過する場合にも、補助穀稈通過空間(18s)を通過させて後方へ支障なく送ることができ、刈取作業を円滑に行なうことができる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項1又は2記載の発明の効果を奏するうえに、穀稈引起装置(8)や補助引起装置(60)のメンテナンス時に防護カバー体(15)と補助防護カバー体(18aL)の取り外しが容易となり、メンテナンスの能率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】コンバインの側面図である。
【図2】コンバインの正面図である。
【図3】コンバイン要部の平面図である。
【図4】穀稈引起装置の要部の側面図である。
【図5】穀稈引起装置の要部の側面図である。
【図6】コンバインの側面図である。
【図7】コンバインの平面図である。
【図8】穀稈引起装置の要部の拡大側面図である。
【図9】補助引起装置及び穀稈引起装置の要部の拡大側面図である。
【図10】穀稈引起装置の要部の拡大側面図である。
【図11】穀稈引起装置の要部の拡大側面図である。
【図12】カバー体及び調節体の要部の拡大斜視図である。
【図13】カバー体及び調節体の要部の拡大平面図である。
【図14】穀稈引起装置の要部の概略縦断面図である。
【図15】カバー体及び調節体の要部の概略拡大側面図である。
【図16】穀稈引起装置の要部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について添付図面を参照しつつ詳説する。
このコンバインは走行車体1に左右一対の走行クローラ2,2を備え、後部に搭載した脱穀装置3の前方部に刈取部4を設置し、刈取部4の横側部には運転席5や操作ボックス6等の運転操作部を備え、更に、その運転操作部の後方には脱穀した穀粒を一時的に貯留するグレンタンクGを装備している。
【0015】
刈取部4は、圃場に植立する穀稈を左右に分草する分草体7,7…と、分草後の穀稈を引起し経路Kに沿って引き起す4条の穀稈引起装置8,8,8,8と、引起し後の穀稈の株元近くを切断して穀稈を刈り取る刈取装置9と、分草後の穀稈の株元側を掻き込んで刈取装置9を経て後方へ搬送する掻込搬送装置10と、掻込搬送後の穀稈を引き継いで揚上搬送しながら姿勢変更して脱穀装置3のフィードチェン3Fに受け渡し供給する揚上搬送供給装置11等を有するものである。
【0016】
刈取装置9は公知のバリカン型のものであり、刈取部4を支持する刈取メインフレーム21の下端部から前方に突出する先端部フレームに配設され、穀稈引起装置8で穂先側が引き起こし作用を受け、株元側が掻込搬送装置10による掻き込み作用を受けている状態の植立穀稈の株元近くを切断するように構成されている。
【0017】
刈取後の穀稈は、掻込搬送装置10により後方へ搬送されて揚上搬送供給装置11に引き渡され、揚上搬送供給装置11による揚上搬送過程で姿勢変更された後、フィードチェン3Fに引き渡され脱穀装置3に供給される。揚上搬送供給装置11としては株元側をチェンと挟持杆とで挟持し、穂先側を搬送ラグで掻き上げて搬送する公知の構成を採用することができる。
【0018】
刈取部4は、刈取メインフレーム21により走行車体1に対し上下に昇降可能に装備されているものである。より詳細には、刈取メインフレーム21は、刈取懸架台22に袈設された刈取入力軸23を支点として上下に回動する構成であり、刈取昇降シリンダ24の伸縮作動により刈取部4が昇降するようになっている。
【0019】
穀稈引起装置8は、前後に分割可能な前後の引起しケース12,13と、この引起しケース12,13に内装された、図示しない伝動スプロケット及び張設輪に巻回されて駆動される無端の引起チェンと、この引起チェンに所定の間隔で取り付けられた引起しラグ14とを有している。引起しラグ14は、引起しチェンの駆動に伴って後斜め上方に上昇移動する際、引起しケース12,13から引起し経路K側の側方に突出して穀稈を引き起すものである。前側引起しケース12は、後側引起しケース13に対し着脱自在に取り付けできる構成としてあり、上方に引き上げると係止ロック状態が解除され前側に取り外しできるようになっている。
【0020】
各前側引起しケース12,12,…の前面は、上端部12uがその下側よりも傾斜の緩い垂直面に対する上端部12u前面の傾斜角が下端側より大きく後方傾斜姿勢となるよう屈曲形成されていて、図6に二点鎖線でオペレータの視線を示すように、着座姿勢での作業における分草位置近傍の視界が良好となり、起立姿勢での作業においては分草位置が良く見えるように構成している。符号12cはこの屈曲位置を示している。
【0021】
各穀稈引起装置8の上部は、左右横方向に長く構成された防護カバー体15によって被覆される構造になっている。防護カバー体15は金属板により形成する他、ポリカーボネート等のプラスチック板により形成することも可能であり、その場合透明又は半透明にして防護カバー体15越しの視認性を確保するのも好ましい。
【0022】
防護カバー体15は、穀稈引起装置8の引き起し経路Kに沿って上昇する引起しラグ14の上昇軌跡の上方延長線上に配置し、前側引起しケース12の上端側12u前面をカバーする状態と、上昇移行する引起しラグ14における引起し経路Kの上方をカバーする張り出し状態とに、前後方向の傾斜姿勢を変更自在に構成されている。そして、この防護カバー体15の姿勢変更手段として、前後上下のスライド構成とすることもできるが、本実施例では図3〜5に示されるように、左端及び右端の穀稈引起装置8の背部側に支持ステー8s,8sがそれぞれ立設されるとともに、これら支持ステー8s,8s間に左右横方向に延在するカバー体支軸16が袈設され、防護カバー体15はこのカバー体支軸16を回動支点として上下に揺動開閉するよう揺動開閉自在に構成されている。防護カバー体15の上方への開側が引起し経路Kの上方をカバーする姿勢変更状態開姿勢であり、下方への閉側が前側引起しケース12の上端側12u前面をカバーする姿勢変更状態閉姿勢となる。防護カバー体15の開閉は、回動支点付近に設けた引張スプリング17により、カバー体支軸16の支点に対してスプリング張力方向を閉側と開側とに切り替え可能な構成になっていて、ワンタッチで揺動開閉することができる。
【0023】
防護カバー体15と右側上部サイドカバー18aと左側の後述する補助防護カバー体18aLは一体に形成し、図10に示す如く、支持ステー8sのカバー体支軸16に枢支し、支持ステー8sの左右を穀稈引起装置8の支持ブラケット27にボルト25とナット26で取り付けているので、メンテナンス時に簡単に取り外せる。
【0024】
分草後の穀稈は、図14に示すように、穀稈引起装置8の引起しケース12,13から引起し経路K内に突出して上昇する引起しラグ14が株元側から穂先側にかけて作用することで引き起こされる際、引起し作用によって穀粒等が運転席5のオペレータに向かって飛散することがあるが、防護カバー体15を例えば穀粒等の飛散方向と交差する開姿勢に姿勢変更することにより、引起しラグ14により飛び散る穀粒等を防護カバー体15によって効果的に遮ることができる。
【0025】
防護カバー体15は、平板状のもの等、適宜の形状とすることができるが、本実施形態のように、上面カバー部15aと後面カバー部15bとからなるように側面視で略への宇型に形成されていると、上面カバー部15aの下面部で穀粒等の上方への飛散を阻止し、後面カバー部15bの下面部で穀粒等の後方上方への飛散を阻止することができ、従って、運転席5への穀粒等の飛散を確実に防止することができるようになるため好ましい。
【0026】
防護カバー体15は、開状態において上面カバー部15aが引起しラグ14の上昇軌跡の上方延長線と交差する配置が好ましいが、後面カバー部15bが引起しラグ14の上昇軌跡の上方延長線と交差する配置とすることも可能である。また、防護カバー体15を引起しラグ14の上昇軌跡の上方延長線から後方側にずらし、後述する調節体50をそのカバー範囲の前方拡大により引起しラグ14の上昇軌跡の上方延長線上に位置させる構造とすることも可能である。
【0027】
本実施形態の多条刈りコンバインのように、左右方向中間の引起装置8の左右両側に引起し経路をそれぞれ有する場合、当該引起し装置の下部前方の分草体7により隣接条の穀稈は分離されて左右の各引起し経路に導入される。しかし、穀稈が長稈の場合等においては、隣接条の穀稈の穂先が絡んで分離されずに当該引起し装置を跨いでクロスしたまま刈取装置9により刈り取られ、後方に搬送されることがある。この際、当該引起し装置の上端と防護カバー体15とが接触していると、当該引起し装置を跨ぐクロス部分がこの接触部分に引っ掛かり後方に通過できずに詰まってしまう。また、穀稈の搬送力により穂先の絡みが無理に解けたとしても、穂先相互のしごき作用又は防護カバー体15と引起しケース12,13の隅部によるしごき作用により穂先の穀粒が脱粒することは避け難い。よって、左右方向中間の穀稈引起装置8の左右両側に引起し経路をそれぞれ有する場合、図1〜図2及び図9に示すように、少なくとも当該穀稈引起装置8の上端と防護カバー体15との間に穀稈通過空間15sが確保される構造とし、この穀稈通過空間15sにより左右両側の引起し経路を繋ぐことにより、穀稈の穂先部分がクロスしていてもそのまま後方に通過する構造とするのが好ましく、図7に示すような左右両側にそれぞれ引起し経路を有する穀稈引起装置が複数存在する場合、脱粒防止効果は更に顕著である。このような穀稈通過空間15sは、防護カバー体15の姿勢如何によらず形成される構造とすることも可能であるが、その場合、防護カバー体15の位置が高くなり前方視界の妨げとなるため、防護カバー体15を開姿勢としたときにのみ形成される構造とする方が好ましい。
【0028】
穀稈が倒伏状態で絡みあうような圃場状態で効果的に引起しを行うために、図1〜図2及び図9に示すように、穀稈引起装置8の前方位置に、補助引起しラグ62を前方に突出させながら倒伏状態で絡みあう穀稈を左右に分割しながら引起し回動する補助引起装置60を取り付けることがある。補助引起装置60は、補助引起しケース61と、この補助引起しケース61に内装された、図示しない伝動スプロケット及び張設輪に巻回されて駆動される無端の補助引起チェンと、この補助引起チェンに所定の間隔で取り付けられた補助引起しラグ62とを有している。補助引起しラグ62は、補助引起しチェンに伴って後斜め上方に上昇移動する際、補助引起しケース61から前方に突出して穀稈を補助引起装置60の左右に分割しながら引き起すものである。このような状況における作業では、穀粒や泥土が運転席5側へ跳ね易いため前述の防護カバー体15よりも前に張り出し可能にした補助防護カバー体18aLを設けるが、隣接条の穀稈の穂先が絡んで分離されずに補助引起装置60及び穀稈引起装置8を跨いでクロスしたまま搬送される現象が発生し易い。よって、特にこのような補助引起装置60を設ける場合は、図9に示すように、前述の穀稈通過空間15sの他に、補助防護カバー体18aLを張り出した状態で補助引起しラグ62の作用域よりも前に張り出しかつ補助引起装置60との間に補助穀稈通過空間18sを形成するようにして、補助引起装置60及び穀稈引起装置8で引起した穀稈の穂先部分がクロスしていてもそのまま後方に通過搬送するように構成する。搬送ラグによる補助引起装置の他に、分草体7から穀稈引起装置8の上方に亘る縦姿勢で穀稈引起し装置の前側に設けたガイド杆を設ける構成においても、ガイド杆とカバー体15の間に穀稈の通過空間を形成するように構成することが好ましい。なお、図2に示す実施例では、左右中間部に設ける補助引起装置60の後部に補助防護カバー体18aLに相当するカバーを省略しているが、同様に設けた方が良い。
【0029】
本実施例では、各穀稈引起装置8の左右両サイドに配置された刈取サイドカバー18,18は、上部サイドカバー18aと下部サイドカバー18bとに分割され、上部サイドカバー18aは、下部サイドカバー18bに対して上側面及び外側面上に重合し、前記防護カバー体15と連結により一体化され、該防護カバー体15と共に上下に揺動開閉可能に構成されている。右側の上部サイドカバー18aは、右側の分草体7と左右同一位置に位置して、この右側の上部サイドカバー18aが分草体7を見難い場合の位置目安となる。
【0030】
なお、左側の上部サイドカバー18aは、前記補助防護カバー体18aLを兼ねて、補助防護カバー体18aLの開閉時に補助引起しケース61と干渉しないように補助防護カバー体18aLの先端に短縮部18dを形成している。
【0031】
また、右側の上部サイドカバー18aが防護カバー体15と一体になっていることにより、右側の上部サイドカバー18aをハンドル代わりにして、上部サイドカバー18aとともに防護カバー体15を揺動させることができため、専用のハンドルを設けなくても防護カバー体15の姿勢変更操作を容易に行うことができるようになる。
【0032】
また、本実施例では、防護カバー体15及び上部サイドカバー18aを上方に回動させないと、前側引起しケース12及び下部サイドカバー18bの取り外しができなくなっているため、防護カバー体15及び上部サイドカバー18aは、その下方への閉動によって前側引起しケース12及び下部サイドカバー18bをロックするロック機構の役目を果たす構造になっている。よって、上部サイドカバー18aの下部に重合した下部サイドカバー18bの着脱が簡単に行え、刈取部のメンテナンスも容易である。
【0033】
図8に示すように、防護カバー体15を揺動開閉するためのハンドル15Hを防護カバー体15に取り付けることも可能である。このハンドル15Hは、運転席5から防護カバー体15を揺動操作できるように、防護カバー体15の運転席5に近い部位、例えば運転席5前方の部位から上方に突出しているのが好ましい。
【0034】
本実施例における防護カバー体15には、その前後方向カバー範囲を拡大自在である調節体50が設けられている。この調節体50により、防護カバー体15の前後方向の傾斜姿勢だけでなく、防護カバー体15の前後方向カバー範囲を調節できるため、オペレータは、圃場状態や穀稈の長さ等による穀粒等の飛散状況に応じて、あるいはオペレータの姿勢、体型等に応じて、前方視界及び穀粒等の飛散防止を比較考量しつつ、防護カバー体15を適切な位置及び姿勢に調節できるようになる。
【0035】
例えば、穀粒等が運転席5側に飛散するときには、図15(b)に示すように防護カバー体15の姿勢を穀粒等の飛散方向に対する交差角が直角又はそれに近くなる開姿勢に変更し、更に飛散範囲が広いとき等、必要に応じて図15(c)に示すように調節体50によりカバー範囲を前方に拡大することにより、穀粒等の飛散を防護カバー体15で効果的に遮りつつ、前方視界を可能な限り確保することができる。一方、穀粒等の飛散が無いか、又は運転席5側への飛散が少ないときには、図15(a)に示すように防護カバー体15の姿勢を穀粒等の飛散方向に対して平行又はそれに近くなる閉姿勢に変更し、更に必要に応じて調節体50を非拡大状態に調節することにより、前方視界を重視した状態とすることができる。さらにこれらの中間程度のカバー範囲とするために、図15(d)に示すように防護カバー体15の姿勢を穀粒等の飛散方向に対して平行又はそれに近くなるように姿勢変更するとともに、調節体50を前方に拡大した状態とすることも可能である。このように、防護カバー体15の姿勢及びカバー範囲の調節は、オペレータが任意に変更できるものであり、このような調節形態に限られるものではない。
【0036】
調節体50は、透明又は半透明のポリカーボネート等のプラスチック板により形成して調節体50越しの視認性を確保するのが好ましいが、金属板により形成することも可能である。調節体50の形状は適宜定めることができ、図示例のような矩形状の他、前端縁が弧状に張り出した形状等とすることも可能である。
【0037】
本実施形態の調節体50は、防護カバー体15の前側カバー範囲を拡大するものであるが、後側又は前後両側のカバー範囲を拡大する構造としても良い。調節体50におけるカバー範囲の拡大量は適宜定めることができる。
【0038】
本実施形態の多条刈りコンバインでは、走行車体1の右側部分又は左側部分に運転席5を有し、運転席5の前方にも穀稈引起装置8を有している。このような多条刈りコンバインでは、防護カバー体15は両端の穀稈引起装置8にわたるように延在させるとともに、調節体50は少なくとも運転席5と対応する左右方向範囲をカバーするように左右方向に延在させるのが好ましい。この場合、防護カバー体15の左右方向の略全体にわたり調節体50を設けると穀粒等の飛散防止効果に優れるが、運転席5の前方位置のみに調節体50を設けて安価で前方視界に優れる構成とすることも可能である。また、いずれにせよ、オペレータは運転席5から調節体50に手をかけて調節することができ、より的確な調節が可能となるとともに、穀稈の引起しにより後上方へ飛散する穀粒等のうち少なくとも運転席5に向かうものについては効果的に遮断することができるようになる。
【0039】
特に、調節体50を直接手で操作する場合は、防護カバー体15及び調節体50は左端の穀稈引起装置8の左端部又は右端の穀稈引起装置8の右端部特に運転席5側まで延在しているのが好ましい。また、図7に示すように、運転席5が走行車体の右側部分に位置し穀稈引起装置8が運転席5よりも右側まで張り出している場合は、この張り出し部分からの籾殻等の飛散をも防止するため、防護カバー体15及び調節体50を運転席5の右側まで延在させるのが好ましい。運転席5が左側で穀稈引起装置8の張り出しが左側の場合も同様に防護カバー体15及び調節体50を運転席5の左側まで延在させるのが好ましい。
【0040】
調節体50の拡大調節機構は適宜定めることができ、拡大方向に沿ってスライドする機構(図示略)を採用することもできるが、本実施例の調節体50は、図10〜図13に示すように、基端部が防護カバー体15の前端部に設けられた左右方向に沿う調節体支軸51により防護カバー体15に軸支され、先端側の部分がこの調節体支軸51を回動支点として回動することで防護カバー体15の前後方向カバー範囲を拡大するものである。この場合、調節体50によるカバー範囲の調節は、調節体50を防護カバー体15に対して調節体支軸51回りに回動することで変更できるため、変更操作がワンタッチで簡単になるだけでなく、調節体50の角度も調節できるため、前方視界の妨げとならないようにカバー範囲を拡大することも可能である。さらに、防護カバー体15を上方に揺動させた場合には、オペレータ側への穀粒等の飛散が阻止されるものでありながら、前側引起しケース12の着脱が簡単に行える等、引起装置8のメンテナンスが容易に行えるという利点もある。
【0041】
この調節体50の回動機構も適宜定めることができるが、本実施例では、調節体50に調節体支軸51を弾力的に挟持する一対の挟持部52,53を設け、一方の挟持部52をある程度の弾性を有する平板状体バネ材により構成し、他方の挟持部53を調節体支軸51が嵌合する円弧状の受け溝53dを有する板状体により構成している。これにより、簡素・安価な構成で調節体50を確実に支持できるようになるとともに、無段階の回動が可能となる。また、調節体50の回動時には、挟持部52,53と調節体支軸51との摩擦により、接触面間の錆や埃等を素早く取り除くことができ、常時スムーズにカバーを回動させることができるようになる。
【0042】
また、本実施例の一対の挟持部52,53は挟持方向に貫通するネジ挿通孔を有し、これらの螺子挿通孔に対して一方側から他方側へ調節ボルト54bを挿し通してナット体54nに螺合させ、締め付けることにより一方の挟持部52を他方の挟持部53に対して弾力的に押し付ける構造となっているため、調節ボルト54bの締め付けトルクのみで調節体50の回動荷重を容易に調整することができる。よって、このような回動荷重調整手段を設けるのは好ましい。
【0043】
さらに、調節体支軸51を防護カバー体15の左右方向に間隔を空けて複数か所に設けると防護カバー体15の支持が安定するため好ましく、その場合に各調節体50に前述の回動荷重調整手段を設け、運転席5から遠い方の調節体支軸51における調節体50の回動荷重を、運転席5側の調節体支軸51における調節体50の回動荷重より弱くすると、運転席5側から調節体50を容易に回動させることができるため好ましい。
【0044】
本実施例では、調節体支軸51を防護カバー体15に設け、挟持部52,53を調節体50に設けているが、反対に挟持部52,53を防護カバー体15に設け、調節体支軸51を調節体50に設けても良い。
【0045】
他方、図示の実施例は、運転席5がウインドウで囲まれていない非キャビン型への適用例であるが、本発明は、ウインドウで囲まれた運転室を有するキャビン型にも適用することができ、その場合にもウインドウの水滴、泥土による汚れを防止できるといった利点がもたらされる。
【符号の説明】
【0046】
5 運転席
8 穀稈引起装置
15 防護カバー体
18aL 補助防護カバー体
18s 補助穀稈通過空間
60 補助引起装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席(5)の前側に穀稈を引き起す穀稈引起装置(8)を設け、該穀稈引起装置(8)の前側に穀稈を左右に分離する補助引起装置(60)を設けたコンバインにおいて、前記穀稈引起装置(8)の上方へ張り出して該穀稈引起装置(8)によって脱粒した穀粒が運転席(5)側へ飛散するのを防ぐ防護カバー体(15)を設けるとともに、前記補助引起装置(60)後側の穀稈引起装置(8)の上方の部位に、前記防護カバー体(15)よりも前方へ張り出し可能な補助防護カバー体(18aL)を設けたことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記補助防護カバー体(18aL)を補助引起装置(60)の上方に張り出したときに、この補助防護カバー体(18aL)と補助引起装置(60)の上端部との間に穀稈の穂先側が通過可能な補助穀稈通過空間(18s)が形成される構成としたことを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記防護カバー体(15)と補助防護カバー体(18aL)とを穀稈引起装置(8)に対して一体的に着脱可能な構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−10(P2012−10A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135224(P2010−135224)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】