説明

コンビナトリアルエンジニアリング

本発明は、細胞培養技術の分野に関する。それは、UBFをコードする核酸の導入又はNoRCタンパク質、特にTIP−5の発現の低下を通じて達成されるリボソームRNA(rRNA)の増加発現を伴う産生宿主細胞系に関する。それらの細胞系は、コントロール細胞系と比較して、改善した分泌及び成長特徴を有する。本発明は、さらに、記載する方法により生成された細胞を使用してタンパク質を産生する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
技術分野
本発明は、細胞培養技術の分野に関する。それは、UBFをコードする核酸の導入又はNoRCタンパク質、特にTIP−5の発現の低下を通じて達成されるリボソームRNA(rRNA)の増加発現を伴う産生宿主細胞系に関する。それらの細胞系は、コントロール細胞系と比較して、改善した分泌及び成長特徴を有する。
【0002】
背景
哺乳動物の高産生細胞系の選択は、生物医薬品製造工業にとって主要な課題のままである。DNAから産物への途中で、翻訳が、哺乳動物産生細胞系での特異的な産生性を限定しうる主要なボトルネックである。細胞は、存在するリボソームの翻訳効率を増加させることにより又は新たなリボソームの産生(リボソーム生合成)を通じて翻訳の能力を増加させることによりタンパク質合成の速度をアップレギュレーションすることができる。全核転写の約80%がリボソームRNA(rRNA)の合成に使われ、リボソーム生合成は、哺乳動物細胞での主要な代謝活性の1つである。リボソーム組み立てが核内で生じ、4つのrRNA(45SプレrRNA(その後に、18S、5.8S、28S、及び5S rRNAにプロセッシングされる))及び約80のリボソームタンパク質(rタンパク質)の協調発現を要求する。45SプレrRNAは、核小体中で、ポリメラーゼI(Pol I)により転写され、5S RNAは、Pol IIIにより、核小体周辺で転写され、次に、核小体中に輸送され、rタンパク質は、Pol IIにより転写される。このように、リボソーム生合成では、異なる区画中で動作する異なるポリメラーゼによる転写の組織化が要求される。哺乳動物細胞において、これらのプロセスは大部分が未知である(Santoro,R. and Grummt, I. (2001). Molecular mechanisms mediating methylation-dependent silencing of ribosomal gene transcription. Mol Cell 8, 719-725)。
【0003】
45SプレrRNAの転写は、リボソーム生合成の鍵となる段階である。哺乳動物の一倍体ゲノムは、約200のリボソームRNA遺伝子を含み、その内の一部だけが任意の所与の時間に転写され、残りはサイレントなままである(Santoro, R., Li, J., and Grummt,I. (2002). The nucleolar remodeling complex NoRC mediates heterochromatin formation and silencing of ribosomal gene transcription. Nat Genet. 32, 393-396)。活性な及びサイレントな遺伝子は、クロマチン配置に関して異なる:活性な遺伝子が真正染色質の構造を有するのに対し、サイレントな遺伝子は異質染色質である。活性なrRNA遺伝子のプロモーターにはCpGメチル化はなく、アセチル化ヒストンと会合する。反対のことがサイレントな遺伝子に当てはまる。
【0004】
転写的にサイレントなrRNA遺伝子の存在は、rRNAの合成及びリボソームの産生についての限定因子を表す。細胞が、各遺伝子の転写活性を変化させることにより及び/又は活性な遺伝子の数を変化させることによりrDNA転写レベルを調節することができると仮定されてきた。しかし、45SプレrRNA合成レベルとrRNA遺伝子の数の間での満足な相関は見出されていない。例えば、S. cerevisiaeにおいて、rRNA遺伝子の数を約3分の2だけ低下させることによっては、全rRNA産生は影響を受けなかった。同様に、トウモロコシ近交系及び異数体鶏細胞(異なるrRNAコピー数を含む)は、同じレベルのrRNA転写を呈した。
【0005】
rDNAは、リボソームの主要な成分を表すため、これらの遺伝子のサイレンシングは、リボソーム生合成及びそれによりタンパク質翻訳における限定をもたらし、このように、究極的には、低下したタンパク質合成に導く。
【0006】
生物医薬品産生細胞において、これは、細胞の完全産生能力において限定を作り、治療用タンパク質産物の低下した特異的産生性を意味する。それは、それにより、工業的産生プロセスにおいて低下した全タンパク質収量に導きうる。
【0007】
プロセス収量(Y)を決定する特異的な産生性(Pspec)の次の他の因子は、IVC(所望のタンパク質を産生する生細胞の経時的な積分)である。この相関は、以下の式により表現される:Y = Pspec * IVC。従って、細胞成長を改善することによりバイオリアクター中での宿主細胞の産生能力又は生細胞密度のいずれか、理想的には両方のパラメーターを同時に増加させる緊急の必要性がある。
【0008】
発明の概要
本願は、上に記載する問題を解決し、TIP−5(NoRC(核小体リモデリング複合体;McStay, B. and Grummt, I. (2008). The epigenetics of rRNA genes: from molecular to chromosome biology. Annu. Rev Cell Dev. Biol 24, 131-157)のサブユニット)のノックダウンによって、サイレントなrRNA遺伝子の数が減少し、rRNA転写がアップレギュレーションされ、リボソーム合成が増強され、組換えタンパク質の産生が増加することを示す。
【0009】
本願は、上に記載する問題を解決し、転写因子UBFの導入によってrRNA転写がアップレギュレーションされ、それによって増強したリボソーム合成及び組換えタンパク質の増加した産生に導かれうることを示す。
【0010】
本願のデータは、転写能力のあるrRNA遺伝子の数がリボソーム合成を限定することを実証する。リボソームRNA遺伝子のエピジェネティック操作は、生物医薬品製造を改善するための新たな可能性を与え、翻訳機構を支配する複雑な調節ネットワークに新たな洞察を提供する。
【0011】
本願は、TIP−5のノックダウンが、rDNAリピートでの抑制クロマチンマークの喪失を誘導し、rDNA転写を増強し、核小体構造を変化させ、細胞の成長及び増殖を促進することを示す。
【0012】
TIP−5活性は、アセチルトランスフェラーゼMOF(males absent on the first)及びデアセチラーゼSIRT1(サーチュイン1)により媒介される可逆的アセチル化により制御される。リシン残基でのTIP−5のアセチル化(マウス中のK633、ヒトTIP−5中のK649)は、rDNA遺伝子への増強した結合、増強したヘテロクロマチン形成、及びrDNAサイレンシングをもたらす。逆に、このリシン残基の突然変異(例、アルギニンへの)は、低下したrDNAメチル化及び増強したrRNA転写をもたらす(Zhou et al. (2009) Nat. Cell Biol., (8) 11; 1010-1017)。このリシン残基を突然変異させること又は前記突然変異を持つTIP−5バリアントの過剰発現によって、本発明の別の実施態様として、上に記載する問題が解決される。具体的には、TIP−5のこのリシン残基を突然変異させることの組み合わせ(転写因子UBFの導入と組み合わせて)によって、rRNA転写がアップレギュレーションされ、それは、増強したリボソーム合成及び組換えタンパク質の増加した産生に導く。
【0013】
増加数の活性なrRNA遺伝子が細胞の成長及び増殖に影響を与えるか否かを決定するために、本発明者らは、いくつかのshRNA−TIP5細胞を、フローサイトメトリー(FACS)により分析した。
【0014】
驚くべきことに、初めて、本発明者らは、本願において、サイレントなrRNA遺伝子の数における操作された減少が、rRNA及びリボソームの増強した産生と、及び、結果的に、哺乳動物細胞のより高い産生性と相関しうることを示す。
【0015】
予想外に、本願は、加えて、異なる哺乳動物細胞系におけるTIP−5のノックダウンが、より速い細胞周期進行及び増加した細胞増殖に導くことを示すデータを提供する。
【0016】
この知見は、先行技術(WO2009/017670)に記載されるものとは対照的である。TIP−5は、以前に、網羅的miRNAスクリーンにおいて、FasについてのRas媒介性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能するものと同定されている(WO2009/017670)。Rasは、細胞の形質転換及び腫瘍形成に関与する周知のオンコジーンであり、ヒトのがんにおいて頻繁に突然変異又は過剰発現する。従って、先行技術は、Rasエフェクター(例えばTIP−5など)に対する低下発現が、細胞増殖の阻害をもたらすことを主張する。
【0017】
これを検証するために、本発明者らは、両方のshRNA−TIP5細胞をフローサイトメトリー(FACS)により分析した。図4A、Bに示す通り、しかし、S期中のshRNA−TIP−5細胞の数は、コントロール細胞と比較して、shRNA−TIP5細胞において有意に高い。これらの結果と一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNA中への5ブロモデオキシウリシン(BrdU)の増加した取り込み及びより高いレベルのサイクリンAを示した(図4C)。
【0018】
加えて、本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNAコントロールおよび親NIH3T3細胞とCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較した(図4D、F)。驚くべきことに、先行技術の報告とは対照的に、miRNA−TIP5配列を発現するNIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の両方が、コントロール細胞よりも速い速度で増殖する。このように、サイレントなrRNA遺伝子の数における減少は、細胞代謝に対して影響を有する。本発明は、驚くべきことに、TIP−5の枯渇及びrDNAサイレンシングにおける結果的な減少が、細胞増殖を増強することを示す。
【0019】
本願は、コントロール細胞系と比較した、TIP−5枯渇細胞中でのタンパク質産生における有意な増加を実証する(実施例6及び以下の図6を参照のこと)。TIP−5枯渇細胞中でのタンパク質産生における増加は、コントロール細胞系と比較して、2倍を上回る、4倍を上回る、5倍を上回る、6倍を上回る、10倍を上回る、2〜10倍の間である。これらのデータは、TIP−5枯渇が異種タンパク質産生を増加させることを示す。本願は、サイレントなrRNA遺伝子の数における減少が、リボソーム合成を増強し、組換えタンパク質を産生する細胞の潜在力を増加することを示す。
【0020】
本発明において、本発明者らは、TIP−5を低下させる及び/又はUBFを過剰発現させることによりrRNA転写、リボソーム生合成、及び翻訳を増加させるための新たな方法を提供し、究極的に、組換えタンパク質の分泌を増強する利益を伴う。さらに、本発明者らは、TIP−5の枯渇は、より速い細胞周期進行及び改善された細胞成長に導くことを実証する。
【0021】
あるいは、同じ効果を、TIP−5アセチル化の阻害を通じて、例えば、SIRT1によりアセチル化することができないTIP−5突然変異体の過剰発現により、又は、内因性TIP−5遺伝子内のアセチル化アクセプター部位を欠失させることにより達成することができる。
【0022】
本発明の特定の実施態様は、SIRT1によりアセチル化することができないTIP−5突然変異体又は内因性TIP−5遺伝子内のアセチル化アクセプター部位の欠失であり、両方が、好ましくは、転写因子UBFの導入と組み合わされる。これは、アップレギュレーションされたrRNA転写をもたらし、それは、次に、増強したリボソーム合成及び組換えタンパク質の増加した産生に導く。特に適したTIP−5突然変異体は、マウスTIP−5中のリシン残基K633又はヒトTIP−5中のK649に突然変異を伴うTIP−5である。
【0023】
増強した細胞成長は、生物医薬品産生プロセスの複数の局面に対して著しい影響を有する:
− 細胞のより短い世代時間(細胞系開発における短縮した時系列をもたらす)。世代時間は、好ましくは、24時間より短く、好ましくは20〜24時間、より好ましくは15〜24時間又は15〜22時間、最も好ましくは10〜24時間である。
− 単一細胞クローニング後でのより高い効率及びその後のより速い成長。
− スケールアップの間でのより短い時間枠(特に大規模バイオリアクターのための接種の場合において)。
− IVCと産物収量の間での比例相関に起因する発酵時間当たりのより高い産物収量。
【0024】
逆に、低いIVCは、より低い収量及び/又はより長い発酵時間を起こす。好ましくは、収量は、10%だけ、より好ましくは20%だけ、最も好ましくは30%だけ増加される。
【0025】
これによって、真核細胞に基づく産生プロセスにおいてタンパク質収量を増加することができる。それは、それにより、そのようなプロセスでの物品のコストを低下させ、同時に、研究試験、診断、臨床試験、又は治療用タンパク質の市場供給のために必要とされる材料を生成するために産生する必要があるバッチ数を低下させる。本発明は、さらに、薬物開発をスピードアップさせる。なぜなら、しばしば、前臨床試験のための十分量の材料の生成が、時系列に関して、決定的なワークパッケージであるからである。
【0026】
本発明を使用して、診断目的、研究目的(標的同定、リード同定、リード最適化)、又は市場でのもしくは臨床開発のいずれかにおける治療用タンパク質の製造のいずれかのための1つ又は複数の特定のタンパク質の生成のために使用される全ての真核細胞の特性を増加させることができる。
【0027】
本発明により提供される細胞系/宿主細胞は、真核細胞に基づく産生プロセスにおいてタンパク質収量を増加させるために役立つ。これは、そのようなプロセスでの物品のコストを低下させ、同時に、それは、研究試験、診断、臨床試験、又は治療用タンパク質の市場供給のために必要とされる材料を生成するために産生する必要があるバッチ数を低下させる。
【0028】
本発明は、さらに、薬物開発をスピードアップさせる。なぜなら、しばしば、前臨床試験のための十分量の材料の生成が、時系列に関して、決定的なワークパッケージであるからである。
【0029】
TIP−5の低下発現及び/又はUBFの増強レベルを伴う最適化された宿主細胞系を、診断目的、研究目的(標的同定、リード同定、リード最適化)、又は市場でのもしくは臨床開発のいずれかにおける治療用タンパク質の製造のいずれかのための1つ又は複数の特定のタンパク質の生成のために使用することができる。
【0030】
それらは、同じ分泌経路を共有し、脂質小胞中で等しく輸送される分泌又は膜結合タンパク質(例えば表面受容体、GPCR、メタロプロテイナーゼ、又は受容体キナーゼなど)を発現又は産生するために等しく適用可能である。タンパク質を、次に、細胞表面受容体の機能を特徴付けることを目標とする研究目的のために、例えば、表面タンパク質の産生及びその後の精製、結晶化、及び/又は分析のために使用することができる。これは、新たなヒト薬物治療の開発のために決定的に重要である。なぜなら、細胞表面受容体は、薬物標的の支配的なクラスであるからである。さらに、これは、細胞表面受容体と会合した細胞内シグナル伝達複合体の試験のために又は同じもしくは別の細胞上での可溶性の成長因子とそれらの対応する受容体との相互作用により部分的に媒介される細胞間コミュニケーションの分析のために有利である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1(A)】齧歯類及びヒト細胞系中でのTIP−5のノックダウン。(A、B)shRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定的に発現するNIH/3T3細胞(A)ならびにmiRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定的に発現するHEK293T細胞(B)のTIP5 mRNAのqRT−PCR。データをGAPDH mRNAレベルについて正規化する。(C)安定なshRNA−TIP5−1/2 NIH/3T3細胞、miRNA−TIP5−1/2 HEK293T細胞、及びmiRNA−TIP5−1/2 CHO−K1細胞のTIP5 mRNAの半定量的RT−PCR。コントロールとして、GAPDH mRNAのqRT−PCRを示す。
【図1(B)】齧歯類及びヒト細胞系中でのTIP−5のノックダウン。(A、B)shRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定的に発現するNIH/3T3細胞(A)ならびにmiRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定的に発現するHEK293T細胞(B)のTIP5 mRNAのqRT−PCR。データをGAPDH mRNAレベルについて正規化する。(C)安定なshRNA−TIP5−1/2 NIH/3T3細胞、miRNA−TIP5−1/2 HEK293T細胞、及びmiRNA−TIP5−1/2 CHO−K1細胞のTIP5 mRNAの半定量的RT−PCR。コントロールとして、GAPDH mRNAのqRT−PCRを示す。
【図1(C)】齧歯類及びヒト細胞系中でのTIP−5のノックダウン。(A、B)shRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定的に発現するNIH/3T3細胞(A)ならびにmiRNA−TIP5−1及びTIP5−2配列を安定的に発現するHEK293T細胞(B)のTIP5 mRNAのqRT−PCR。データをGAPDH mRNAレベルについて正規化する。(C)安定なshRNA−TIP5−1/2 NIH/3T3細胞、miRNA−TIP5−1/2 HEK293T細胞、及びmiRNA−TIP5−1/2 CHO−K1細胞のTIP5 mRNAの半定量的RT−PCR。コントロールとして、GAPDH mRNAのqRT−PCRを示す。
【図2(A)】TIP−5ノックダウンは、低下したrDNAメチル化に導く。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上パネル:HpaII(H)部位を含む(A)マウス、(B)ヒト、及び(C)チャイニーズハムスターrDNAプロモーター領域の図表を分析する。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下パネル:rDNA CpGメチル化レベルを、shRNA及び/又はmiRNATIP5−1/2ならびにコントロール配列を安定的に発現する(A)NIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中で測定する。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマー及び未消化DNAを用いた増幅により算出された全rDNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。(D、E)TIP5の枯渇は、rDNA CpGメチル化レベルを減少させる。分析したのは、(A)転写開始部位(+1)を含むrDNA遺伝子間及びプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の2つの領域である。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマーを用いた増幅により算出された全rDNA及び未消化DNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。
【図2(B)】TIP−5ノックダウンは、低下したrDNAメチル化に導く。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上パネル:HpaII(H)部位を含む(A)マウス、(B)ヒト、及び(C)チャイニーズハムスターrDNAプロモーター領域の図表を分析する。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下パネル:rDNA CpGメチル化レベルを、shRNA及び/又はmiRNATIP5−1/2ならびにコントロール配列を安定的に発現する(A)NIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中で測定する。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマー及び未消化DNAを用いた増幅により算出された全rDNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。(D、E)TIP5の枯渇は、rDNA CpGメチル化レベルを減少させる。分析したのは、(A)転写開始部位(+1)を含むrDNA遺伝子間及びプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の2つの領域である。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマーを用いた増幅により算出された全rDNA及び未消化DNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。
【図2(C)】TIP−5ノックダウンは、低下したrDNAメチル化に導く。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上パネル:HpaII(H)部位を含む(A)マウス、(B)ヒト、及び(C)チャイニーズハムスターrDNAプロモーター領域の図表を分析する。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下パネル:rDNA CpGメチル化レベルを、shRNA及び/又はmiRNATIP5−1/2ならびにコントロール配列を安定的に発現する(A)NIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中で測定する。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマー及び未消化DNAを用いた増幅により算出された全rDNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。(D、E)TIP5の枯渇は、rDNA CpGメチル化レベルを減少させる。分析したのは、(A)転写開始部位(+1)を含むrDNA遺伝子間及びプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の2つの領域である。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマーを用いた増幅により算出された全rDNA及び未消化DNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。
【図2(D)】TIP−5ノックダウンは、低下したrDNAメチル化に導く。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上パネル:HpaII(H)部位を含む(A)マウス、(B)ヒト、及び(C)チャイニーズハムスターrDNAプロモーター領域の図表を分析する。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下パネル:rDNA CpGメチル化レベルを、shRNA及び/又はmiRNATIP5−1/2ならびにコントロール配列を安定的に発現する(A)NIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中で測定する。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマー及び未消化DNAを用いた増幅により算出された全rDNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。(D、E)TIP5の枯渇は、rDNA CpGメチル化レベルを減少させる。分析したのは、(A)転写開始部位(+1)を含むrDNA遺伝子間及びプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の2つの領域である。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマーを用いた増幅により算出された全rDNA及び未消化DNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。
【図2(E)】TIP−5ノックダウンは、低下したrDNAメチル化に導く。(A〜C)TIP5の枯渇は、rDNAプロモーターのCpGメチル化を減少させる。上パネル:HpaII(H)部位を含む(A)マウス、(B)ヒト、及び(C)チャイニーズハムスターrDNAプロモーター領域の図表を分析する。黒丸はCpGジヌクレオチドを示す。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。下パネル:rDNA CpGメチル化レベルを、shRNA及び/又はmiRNATIP5−1/2ならびにコントロール配列を安定的に発現する(A)NIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中で測定する。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマー及び未消化DNAを用いた増幅により算出された全rDNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。(D、E)TIP5の枯渇は、rDNA CpGメチル化レベルを減少させる。分析したのは、(A)転写開始部位(+1)を含むrDNA遺伝子間及びプロモーター領域ならびに(B)コード領域内の2つの領域である。単一のマウスrDNAリピート及び分析されたHpaII(H)部位を表す模式図。矢印は、HpaII消化されたDNAを増幅するために使用されたプライマーを表す。データは、HpaII部位を欠くDNA配列を包含するプライマーを用いた増幅により算出された全rDNA及び未消化DNAに対して正規化されたHpaII耐性rDNAの量を表す。
【図3(A)】TIP−5ノックダウン細胞中での増加したrRNAレベル。(A)TIP5の枯渇は、rRNA合成を増強する。安定なNIH/3T3及びHEK293T細胞系のqRT−PCRベースの45SプレrRNAレベルを、GAPDH mRNAレベルに対して正規化する。(B)rDNA転写を、同じ曝露時間後でのin situ BrUTP取り込みにより検出する。BrUTPシグナル(左パネル)は、TIP−5枯渇細胞中でより高く、核小体(位相差画像(右パネル)中で見られる通りの核内の暗い領域)中で特異的に検出される。
【図3(B)】TIP−5ノックダウン細胞中での増加したrRNAレベル。(A)TIP5の枯渇は、rRNA合成を増強する。安定なNIH/3T3及びHEK293T細胞系のqRT−PCRベースの45SプレrRNAレベルを、GAPDH mRNAレベルに対して正規化する。(B)rDNA転写を、同じ曝露時間後でのin situ BrUTP取り込みにより検出する。BrUTPシグナル(左パネル)は、TIP−5枯渇細胞中でより高く、核小体(位相差画像(右パネル)中で見られる通りの核内の暗い領域)中で特異的に検出される。
【図4(A)】TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く。(A)shRNA TIP5細胞のFACS解析。(B)個々の細胞周期段階における細胞のパーセンテージ。S期中の細胞のパーセンテージ又は数が増加するのに対し、G1期中の細胞のパーセンテージ又は数はTIP5枯渇細胞において減少する。増殖が増強される。(C)BrdU取り込みアッセイ。細胞を10μMのBrdUと30分間にわたりインキュベーションし、BrdUに対する抗体を用いて染色し、S期中の細胞のパーセンテージを推定する。BrdUアッセイは、TIP5細胞中での増加したDNA合成を示す。(D〜F)miRNA−TIP5及びコントロール配列を安定的に発現する(D)NIH/3T3細胞、(E)HEK293T細胞、及び(F)CHO−K1細胞の増殖曲線。増殖曲線は、TIP−5枯渇細胞が、コントロール細胞と少なくとも同じくらい速く(HEK293)又はさらにより速く(NIH3T3及びCHO−K1)成長することを実証する。
【図4(B)】TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く。(A)shRNA TIP5細胞のFACS解析。(B)個々の細胞周期段階における細胞のパーセンテージ。S期中の細胞のパーセンテージ又は数が増加するのに対し、G1期中の細胞のパーセンテージ又は数はTIP5枯渇細胞において減少する。増殖が増強される。(C)BrdU取り込みアッセイ。細胞を10μMのBrdUと30分間にわたりインキュベーションし、BrdUに対する抗体を用いて染色し、S期中の細胞のパーセンテージを推定する。BrdUアッセイは、TIP5細胞中での増加したDNA合成を示す。(D〜F)miRNA−TIP5及びコントロール配列を安定的に発現する(D)NIH/3T3細胞、(E)HEK293T細胞、及び(F)CHO−K1細胞の増殖曲線。増殖曲線は、TIP−5枯渇細胞が、コントロール細胞と少なくとも同じくらい速く(HEK293)又はさらにより速く(NIH3T3及びCHO−K1)成長することを実証する。
【図4(C)】TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く。(A)shRNA TIP5細胞のFACS解析。(B)個々の細胞周期段階における細胞のパーセンテージ。S期中の細胞のパーセンテージ又は数が増加するのに対し、G1期中の細胞のパーセンテージ又は数はTIP5枯渇細胞において減少する。増殖が増強される。(C)BrdU取り込みアッセイ。細胞を10μMのBrdUと30分間にわたりインキュベーションし、BrdUに対する抗体を用いて染色し、S期中の細胞のパーセンテージを推定する。BrdUアッセイは、TIP5細胞中での増加したDNA合成を示す。(D〜F)miRNA−TIP5及びコントロール配列を安定的に発現する(D)NIH/3T3細胞、(E)HEK293T細胞、及び(F)CHO−K1細胞の増殖曲線。増殖曲線は、TIP−5枯渇細胞が、コントロール細胞と少なくとも同じくらい速く(HEK293)又はさらにより速く(NIH3T3及びCHO−K1)成長することを実証する。
【図4(D)】TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く。(A)shRNA TIP5細胞のFACS解析。(B)個々の細胞周期段階における細胞のパーセンテージ。S期中の細胞のパーセンテージ又は数が増加するのに対し、G1期中の細胞のパーセンテージ又は数はTIP5枯渇細胞において減少する。増殖が増強される。(C)BrdU取り込みアッセイ。細胞を10μMのBrdUと30分間にわたりインキュベーションし、BrdUに対する抗体を用いて染色し、S期中の細胞のパーセンテージを推定する。BrdUアッセイは、TIP5細胞中での増加したDNA合成を示す。(D〜F)miRNA−TIP5及びコントロール配列を安定的に発現する(D)NIH/3T3細胞、(E)HEK293T細胞、及び(F)CHO−K1細胞の増殖曲線。増殖曲線は、TIP−5枯渇細胞が、コントロール細胞と少なくとも同じくらい速く(HEK293)又はさらにより速く(NIH3T3及びCHO−K1)成長することを実証する。
【図4(E)】TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く。(A)shRNA TIP5細胞のFACS解析。(B)個々の細胞周期段階における細胞のパーセンテージ。S期中の細胞のパーセンテージ又は数が増加するのに対し、G1期中の細胞のパーセンテージ又は数はTIP5枯渇細胞において減少する。増殖が増強される。(C)BrdU取り込みアッセイ。細胞を10μMのBrdUと30分間にわたりインキュベーションし、BrdUに対する抗体を用いて染色し、S期中の細胞のパーセンテージを推定する。BrdUアッセイは、TIP5細胞中での増加したDNA合成を示す。(D〜F)miRNA−TIP5及びコントロール配列を安定的に発現する(D)NIH/3T3細胞、(E)HEK293T細胞、及び(F)CHO−K1細胞の増殖曲線。増殖曲線は、TIP−5枯渇細胞が、コントロール細胞と少なくとも同じくらい速く(HEK293)又はさらにより速く(NIH3T3及びCHO−K1)成長することを実証する。
【図4(F)】TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く。(A)shRNA TIP5細胞のFACS解析。(B)個々の細胞周期段階における細胞のパーセンテージ。S期中の細胞のパーセンテージ又は数が増加するのに対し、G1期中の細胞のパーセンテージ又は数はTIP5枯渇細胞において減少する。増殖が増強される。(C)BrdU取り込みアッセイ。細胞を10μMのBrdUと30分間にわたりインキュベーションし、BrdUに対する抗体を用いて染色し、S期中の細胞のパーセンテージを推定する。BrdUアッセイは、TIP5細胞中での増加したDNA合成を示す。(D〜F)miRNA−TIP5及びコントロール配列を安定的に発現する(D)NIH/3T3細胞、(E)HEK293T細胞、及び(F)CHO−K1細胞の増殖曲線。増殖曲線は、TIP−5枯渇細胞が、コントロール細胞と少なくとも同じくらい速く(HEK293)又はさらにより速く(NIH3T3及びCHO−K1)成長することを実証する。
【図5(A)】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム解析。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中での細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3通りに実施された2回の実験での平均を表す。(D)安定なHEK293Tのリボソームプロファイル及び(E)CHO−K1細胞系。より多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞中に存在する。
【図5(B)】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム解析。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中での細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3通りに実施された2回の実験での平均を表す。(D)安定なHEK293Tのリボソームプロファイル及び(E)CHO−K1細胞系。より多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞中に存在する。
【図5(C)】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム解析。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中での細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3通りに実施された2回の実験での平均を表す。(D)安定なHEK293Tのリボソームプロファイル及び(E)CHO−K1細胞系。より多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞中に存在する。
【図5(D)】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム解析。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中での細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3通りに実施された2回の実験での平均を表す。(D)安定なHEK293Tのリボソームプロファイル及び(E)CHO−K1細胞系。より多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞中に存在する。
【図5(E)】TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム解析。(A〜C)(A)安定なNIH/3T3細胞、(B)HEK293T細胞、及び(C)CHO−K1細胞中での細胞質RNA/細胞の相対量。データは、3通りに実施された2回の実験での平均を表す。(D)安定なHEK293Tのリボソームプロファイル及び(E)CHO−K1細胞系。より多くのリボソームがTIP5ノックダウン細胞中に存在する。
【図6(A)】TIP−5ノックダウンは、レポータータンパク質の増強産生に導く。(A〜C)恒常的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPを用いて操作された(A)安定なNIH/3T3細胞系、(B)HEK293T細胞系、及び(C)CHO−K1細胞系でのSEAP発現。(D、E)恒常的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−luciferaseを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3細胞系及び(E)HEK293T細胞系でのルシフェラーゼ発現。
【図6(B)】TIP−5ノックダウンは、レポータータンパク質の増強産生に導く。(A〜C)恒常的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPを用いて操作された(A)安定なNIH/3T3細胞系、(B)HEK293T細胞系、及び(C)CHO−K1細胞系でのSEAP発現。(D、E)恒常的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−luciferaseを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3細胞系及び(E)HEK293T細胞系でのルシフェラーゼ発現。
【図6(C)】TIP−5ノックダウンは、レポータータンパク質の増強産生に導く。(A〜C)恒常的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPを用いて操作された(A)安定なNIH/3T3細胞系、(B)HEK293T細胞系、及び(C)CHO−K1細胞系でのSEAP発現。(D、E)恒常的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−luciferaseを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3細胞系及び(E)HEK293T細胞系でのルシフェラーゼ発現。
【図6(D)】TIP−5ノックダウンは、レポータータンパク質の増強産生に導く。(A〜C)恒常的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPを用いて操作された(A)安定なNIH/3T3細胞系、(B)HEK293T細胞系、及び(C)CHO−K1細胞系でのSEAP発現。(D、E)恒常的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−luciferaseを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3細胞系及び(E)HEK293T細胞系でのルシフェラーゼ発現。
【図6(E)】TIP−5ノックダウンは、レポータータンパク質の増強産生に導く。(A〜C)恒常的SEAP発現ベクターpCAG−SEAPを用いて操作された(A)安定なNIH/3T3細胞系、(B)HEK293T細胞系、及び(C)CHO−K1細胞系でのSEAP発現。(D、E)恒常的ルシフェラーゼ発現ベクターpCMV−luciferaseを用いて操作された(D)安定なNIH/3T3細胞系及び(E)HEK293T細胞系でのルシフェラーゼ発現。
【図7(A)】UBFの過剰発現は、rRNA合成を増強する。(A、B)増加量のUBF(pCMV−UBF)の発現に続く(A)HEK293T及び(B)HeLa中での45S rRNAレベルのqRT−PCR。rRNAレベルを、GAPDH mRNA量に対して正規化する。
【図7(B)】UBFの過剰発現は、rRNA合成を増強する。(A、B)増加量のUBF(pCMV−UBF)の発現に続く(A)HEK293T及び(B)HeLa中での45S rRNAレベルのqRT−PCR。rRNAレベルを、GAPDH mRNA量に対して正規化する。
【0032】
発明の詳細な説明
TIP−5のノックダウン:
組換えタンパク質の増加合成のために細胞を操作することを目標に、本発明者らは、サイレントなrRNAの数における減少が、45SプレrRNA合成を増強し、結果として、また、リボソーム生合成を刺激し、翻訳能力のあるリボソームの数を増加させるか否かを決定する。従って、本発明者らはRNA干渉を使用して、TIP5発現をノックダウンし、安定的なトランスジェニックshRNA発現NIH/3T3又はmiRNA発現HEK293T及びCHO−K1を、TIP5の2つの異なる領域(TIP5−1及びTIP5−2)に特異的なshRNA/miRNA配列を使用して構築する。スクランブルshRNA及びmiRNA配列を発現する安定的な細胞系を、コントロールとして使用する。shRNA−TIP5又はmiRNA−TIP5配列を発現するプラスミドを用いた一過性トランスフェクションを実施するよりもむしろ、安定な細胞系を産生することについて2つの理由がある。第1に、抑制性エピジェネティックマーク(CpGメチル化など)の喪失は、受動機構であり、複数の細胞分裂を要求する。第2に、HEK293T細胞を比較的簡単にトランスフェクションすることができるにもかかわらず、NIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の不良なトランスフェクション効率によって、内因性rRNA、リボソームレベル、及び細胞成長特性のその後の分析が損なわれうる。選択されたクローンにおいてTIP5ノックダウンの効率を決定するために、本発明者らは、定量的及び半定量的な逆転写酵素媒介性PCRによりTIP5 mRNAレベルを測定する(図1)。TIP5発現は、コントロール細胞と比較した場合、NIH/3T3/shRNA−TIP5−1及び−2細胞中で約70〜80%減少する(図1A)。TIP5 mRNAレベルにおける同様の低下が、安定的なHEK293T中で観察される(図1B)。CHO−K1由来細胞中でのTIP5 mRNAレベルを、半定量的PCRによって測定することができるが(図1C)、しかし、TIP5 mRNAの低下は、安定的なNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞のそれと同様である。これらの結果は、樹立された細胞系が低レベルのTIP5を含むことを実証する。
【0033】
TIP−5ノックダウンは、低下したrDNAメチル化に導く:
マウスrDNAプロモーターのCpGメチル化は、基礎転写因子UBFの結合を損ない、前開始複合体の形成が妨げられる(Sanij, E., Poortinga, G., Sharkey, K., Hung, S., Holloway, T.P., Quin, J., Robb, E., Wong, L.H., Thomas, W.G., Stefanovsky, V., Moss, T., Rothblum, L., Hannan, K.M., McArthur, G.A., Pearson, R.B., and Hannan, R.D. (2008). UBF levels determine the number of active ribosomal RNA genes in mammals. J. Cell Biol 183, 1259-1274)。NIH/3T3細胞において、rRNA遺伝子の約40%〜50%がCpGメチル化配列を含み、転写的にサイレントである。ヒト、マウス、及びチャイニーズハムスターにおけるrDNAプロモーターの配列及びCpG密度は、有意に異なる。ヒトにおいて、rDNAプロモーターは23のCpGを含み、マウス及びチャイニーズハムスターにおいて、それぞれ3及び8のCpGがある(図2A〜C)。TIP5ノックダウンがrDNAサイレンシングに影響を与えることを検証するために、本発明者らは、CCGG配列中のmeCpGの量を測定することによりrDNAメチル化レベルを決定する。ゲノムDNAをHpaII消化し、消化に対する耐性(即ち、CpGメチル化)を、HpaII配列(CCGG)を包含するプライマーを使用した定量的リアルタイムPCRにより測定する。全てのTIP5ノックダウン細胞系においてrRNA遺伝子の大半のプロモーター領域内でのCpGメチル化において減少があり、rDNAサイレンシングを促進する際でのTIP5の鍵となる役割を強調する(図2)。
【0034】
顕著には、TIP5結合及びデノボメチル化はrDNAプロモーター配列に制限されるが、TIP−5が低下したNIH3T3細胞中のCpGメチル化量は、rDNA遺伝子全体にわたり減弱し(遺伝子間、プロモーター、及びコード領域;図2D、E)、TIP5が、一旦、rDNAプロモーターに結合すると、rDNA遺伝子座の全体にわたり、サイレントなエピジェネティックマークの確立のための拡大機構を開始することを示す。
【0035】
Tip−5ノックダウン細胞中での増加したrRNAレベル:
サイレントな遺伝子の数における減少が、rRNA転写物の量に影響を与えるか否かを決定するために、本発明者らは、第1のrRNAプロセシング部位を包含するプライマーを使用したqRT−PCRにより(図3A)及びin vivo BrUTP取り込みにより(図3B)45SプレrRNA合成を測定する。TIP5枯渇NIH/3T3細胞及びHEK293T細胞の両方において、コントロール細胞系と比較したrRNA産生の増強を、両方の解析により検出する。
【0036】
TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く:
Rasは、細胞の形質転換及び腫瘍形成に関与する周知のオンコジーンであり、ヒトのがんにおいて頻繁に突然変異又は過剰発現する。Green et al.は、WO2009/017670において、TIP−5が、網羅的miRNAスクリーンにおいて、FasのRas媒介性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能するとして同定したことを記載する。この刊行物では、Rasエフェクター(例えばTIP−5など)の低下発現が、細胞増殖の阻害をもたらすことが記載されている。
【0037】
本発明者らは、両方のshRNA−TIP5細胞をフローサイトメトリー(FACS)により分析する。図4A、Bに示す通り、S期中の細胞の数は、コントロール細胞と比較して、両方のshRNA−TIP5細胞において有意に高い。同様のプロファイルが、NIH3T3細胞を用いて、TIP5配列に対して向けられたmiRNAを発現するレトロウイルスを用いた感染後10日目に得られる。これらの結果と一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNA中への5ブロモデオキシウリシン(BrdU)の増加した取り込み及びより高いレベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0038】
最後に、本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNAコントロール及び親NIH3T3細胞、HEK293細胞とCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D−F)。驚くべきことに、先行技術の報告とは対照的に、NIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の両方が、miRNA−TIP5配列を発現し、コントロール細胞よりも速い速度で増殖し、サイレントなrRNA遺伝子の数における減少が細胞代謝に対して影響を有することを示す。HEK293T中でのTIP5枯渇は、細胞増殖に有意な影響を与えない。なぜなら、これらの細胞は、それらの最高増殖速度に既に達しているからである。これらのデータは、驚くべきことに、TIP−5の枯渇及びrDNAサイレンシングにおける結果的な減少が、細胞増殖を増強することを示す。
【0039】
TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム解析:
哺乳動物細胞培養において、タンパク質合成の速度が重要なパラメーターであり、それは、産物収量に直接的に関連する。TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングにおける結果的な減少が、細胞中の翻訳能力のあるリボソームの数を増加させるか否かを決定するために、本発明者らは、最初に、細胞質rRNAのレベルを測定する。細胞質中では、RNAの大半が、リボソーム中にアセンブルされたプロセシングされたrRNAからなる。図5A〜Cに示す通り、全てのTIP5枯渇細胞系が、より多くの細胞質RNAを細胞当たりに含み、これらの細胞がより多くのリボソームを産生することを示す。また、ポリソームプロファイルの分析は、TIP5枯渇HEK293細胞及びCHO−K1細胞が、コントロール細胞と比較して、より多くのリボソームサブユニット(40S、60S、及び80S)を含むことを示す(図5D)。
【0040】
Tip−5ノックダウンは、レポータータンパク質の増強産生に導く:
TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングにおける減少が、異種タンパク質産生を増強するか否かを決定するために、本発明者らは、安定なTIP5枯渇NIH/3T3、HEK293T、及びCHO−K1派生物に、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼSEAP(pCAG−SEAP;FIGURE 6A−C)又はルシフェラーゼ(pCMV−luciferase)の恒常的発現を促進する発現ベクターを用いてトランスフェクションする(図6D、E)。48時間後でのタンパク質産生の定量化は、コントロール細胞系と比較して、TIP5枯渇細胞中でのSEAP及びルシフェラーゼの両方の産生における2〜4倍の増加を明らかにし、TIP5枯渇が異種タンパク質産生を増加することを示す。全てのこれらの結果は、サイレントなrRNA遺伝子の数における減少が、リボソーム合成を増強し、組換えタンパク質を産生する細胞の潜在力を増加することを示す。
【0041】
TIP−5ノックアウトは、単球走化性タンパク質1(MCP−1)の生物医薬品産生を増加させ、治療的抗体産生を増強する:
(a)単球走化性タンパク質1(MCP−1)又は治療用抗体を分泌するCHO細胞系(CHO DG44)を、空ベクター(MOCKコントロール)又はTIP−5発現をノックダウンするように設計された小型RNA(shRNA又はRNAi)を用いてトランスフェクションする。最も高いMCP−1力価が、最も効率的なTIP−5枯渇を伴う細胞プールにおいて見られるのに対し、タンパク質濃度は、偽トランスフェクションされた細胞又は親細胞系において顕著により低い。
【0042】
b)CHO宿主細胞(CHO DG44)を、短いRNA配列(shRNA又はRNAi)を用いて最初にトランスフェクションし、TIP−5発現を低下させ、安定なTIP−5枯渇宿主細胞系を生成する。その後、これらの細胞系及び並行してCHO DG 44野生型細胞を、単球走化性タンパク質1(MCP−1)又は治療用抗体を目的の遺伝子としてコードするベクターを用いてトランスフェクションする。最も高いMCP−1力価及び産生性が、最も効率的なTIP−5枯渇を伴う細胞プールにおいて見られるのに対し、タンパク質濃度は、偽トランスフェクションされた細胞又は親細胞系において顕著により低い。
【0043】
c)a)又はb)に記載される同じ細胞を、バッチ発酵又は流加発酵に供する場合、全MCP−1力価又は抗体力価における差はさらにより明白になる:TIP−5の低下発現を伴うトランスフェクションされた細胞は、より速く成長し、また、細胞当たり及び時間当たりより多くのタンパク質を産生するため、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い産生性を示す。両方の特性は、全プロセス収量に対してポジティブな影響を有する。従って、TIP−5欠失細胞は、有意により高いMCP−1又は抗体収集力価を有し、より効率的な産生プロセスに導く。
【0044】
また、SNF2H欠失細胞は、有意により高いIgG収集力価を有し、より効率的な産生プロセスに導く。
【0045】
TIP−5遺伝子のノックアウトは、rRNA転写を増加させ、増殖を最も効率的に増強する:
TIP−5発現の一定に低下したレベルを伴う改善された産生宿主細胞系を生成するための最も効率的な方法は、TIP−5遺伝子の完全ノックアウトを生成することである。この目的のために、相同組換えを使用する又はZink−Finger Nuclease(ZFN)技術を利用し、Tip−5遺伝子を破壊する又はその発現を防止することができる。相同組換えはCHO細胞において効率的ではないため、本発明者らはTIP−5遺伝子内に二本鎖切断を導入するZFNを設計し、それにより機能的に破壊する。TIP−5の効率的なノックアウトを制御するために、ウエスタンブロットを、抗TIP−5抗体を使用して実施する。メンブレン上で、TIP−5発現がTIP−5ノックアウト細胞中で検出されないのに対し、親CHO細胞系はTIP−5タンパク質に対応する明かなシグナルを示す。
【0046】
次に、rRNA転写を、TIP−5ノックアウトCHO細胞及び親CHO細胞系中で分析する。このアッセイによって、親細胞と比較して、及び、また、低下したTIP−5発現レベルだけを伴う細胞と比較して、TIP−5ノックアウト細胞中でのより高いレベルのrRNA合成及び増加したリボソーム数が確認される。
【0047】
さらに、TIP−5について欠損した細胞は、より速く増殖し、TIP−5野生型細胞及びTIP−5発現が干渉RNA(例えばshRNA又はRNAiなど)の導入により低下しただけの細胞系と比較して、流加プロセスにおいてより高い細胞数を示す。
【0048】
UBFの過剰発現はrRNA合成を増強する:
リボソーム産生は、rRNA及びrタンパク質の協調発現及びアセンブリを要求する。UBFは活性なrRNA遺伝子に結合し、転写開始を促進し、伸長速度を調節する。図7に示す通り、UBFは、45SプレrRNA合成を、用量依存的な様式で、HEK293細胞系及びHeLa細胞系の両方において刺激する。
【0049】
このように、UBF過剰発現及びTIP−5のノックダウンは、増加するrRNA合成の効果を共有する。UBF過剰発現は、また、リボソーム生合成及びタンパク質産生を増強する。
【0050】
UBFの過剰発現は、抗体の生物医薬品タンパク質産生を増加する:
(a)ヒト化抗CD44v6 IgG抗体BIWA 4を分泌する抗体産生CHO細胞系(CHO DG44)中での最も高い特異的な産生性が、UBF過剰発現細胞プールにおいて見られ、そこでは、IgG発現が、MOCK細胞又は非トランスフェクション細胞と比較して、顕著に増強される。非常に類似の結果を、安定トランスフェクタントをバッチ発酵又は流加発酵に供する場合に得ることができる。これらの設定の各々において、UBFの過剰発現は、増加した抗体分泌に導き、UBFが、連続培養中で又はバイオリアクターバッチ培養もしくは流加培養中で成長された細胞の特異的な産生能力を増強することができることを示す。
【0051】
b)CHO宿主細胞(CHO DG44)を、UBFをコードするベクターを用いて最初にトランスフェクションし、選択圧力に供し、UBFの異種発現が実証される細胞系を選ぶ。その後に、これらの細胞系及び並行してCHO DG 44野生型細胞を、ヒト化抗CD44v6 IgG抗体BIWA 4を目的の遺伝子としてコードするベクターを用いてトランスフェクションする。再び、IgG力価が、コントロールと比較して、UBF過剰発現培養物中で顕著に増強される。また、流加培養において、UBFの異種発現は、増加したIgG産生をもたらす。合わせると、これらのデータは、UBFの過剰発現が、連続培養中で又はバイオリアクターバッチ培養もしくは流加培養中で成長された細胞の特異的な産生能力を増強することができることを示す。
【0052】
TIP−5のノックアウト及びUBFの過剰発現は、相乗的に作用し、rRNA合成及び治療用タンパク質産生を増強する:
本発明において、本発明者らは、TIP−5の低下発現及びUBFの過剰発現が、増強したrRNA合成をもたらすとの証拠を提供する。本発明者らは、また、TIP−5枯渇がrDNA遺伝子の低下したメチル化をもたらすことを示す。脱メチル化が、クロマチン修飾因子(例えばヒストンアセチラーゼなど)及び結合転写因子(例えばUBFなど)の動員のために必須であるため、本発明者らは、両方のアプローチがrRNA合成に相乗的に作用し、それにより、メチル化のTIP−5枯渇媒介性低下が、その後のUBF動員及び結合のためにrRNA遺伝子の接触性を提供するか否かを仮定した。
【0053】
(A)この仮定をテストするために、本発明者らは、組み合わせたTIP−5枯渇及びUBFの過剰発現を伴う細胞系を生成する。rRNA合成をそれらの細胞系、UBFを過剰発現する又はTIP−5中に欠失を有する細胞、及び非改変親細胞系において比較した場合、rRNA合成は、再び、TIP−5枯渇細胞中で、また、UBF過剰発現細胞系中で、コントロールと比較してより高い。重要なことに、組み合わせたTIP−5の欠失及びUBF過剰発現は、さらにより高いrDNA遺伝子転写ならびにより高いリボソーム合成をもたらす。これは、両方のアプローチ(TIP−5の枯渇及びUBF過剰発現)の組み合わせが、驚くべきことに、rRNA合成に対して相乗効果を有することを示す。
【0054】
(B)(A)において生成された細胞を、目的のタンパク質をコードする発現コンストラクトを用いてトランスフェクションし、前記タンパク質の濃度をそれらの細胞の培養液中で比較する場合、最も高い力価が、同時のUBFの過剰発現及びTIP−5のノックアウトを伴う細胞の培養中で測定される。次に、ランキング中にTIP−5枯渇又はUBF過剰発現のいずれかを有する細胞があるのに対し、目的のタンパク質の力価は非改変親細胞系中で最も低い。
【0055】
エピジェネティック操作及び分泌操作の組み合わせによるタンパク質産生の相乗的な改善:
本発明において記載するアプローチ、即ち、TIP−5又はSNFH2の枯渇及びUBFの過剰発現は、全てが、rRNA合成、リボソーム生合成、及びそれによりタンパク質翻訳を増強することにより組換えタンパク質産生を増強する。しかし、タンパク質産生は、最適化された翻訳機構だけでなく、しかし、また、タンパク質の輸送及び分泌の翻訳後段階における効率も要求する。従って、本発明者らは、両方の機構(翻訳及び輸送)を、細胞中でのTIP−5遺伝子の欠失及び分泌増強遺伝子CERTの過剰発現により同時に操作することを試みる。
【0056】
この目的のために、破壊されたTIP−5発現を伴うCHO−DG44細胞を、ヒトCERTタンパク質の突然変異体バリアント(CERT Ser132→Ala)をコードするトランスジーンを用いてトランスフェクションする。第2のトランスフェクション段階において、モノクローナルIgGサブタイプ抗体をコードする発現コンストラクトをこれらの細胞中に導入し、安定な細胞集団を生成する。次に、結果として得られる安定な細胞集団を、接種培養及び流加培養に供し、特異的なIgG産生性ならびに得られた全抗体力価を分析する。
【0057】
興味深いことに、最も高い抗体力価及び特異的な産生性が、二重操作細胞において達成される。TIP−5欠失及びCERT過剰発現の両方を持つ細胞により産生される抗体濃度は、単一操作細胞においてよりも顕著により高い。これは、分泌経路中での両方の段階の組み合わせ操作、即ち、TIP−5欠失による翻訳操作及びCERTを介した分泌操作が、分泌タンパク質産生をさらに増強し、最適な産生能力を伴う哺乳動物宿主細胞を生成するための手段であることを示す。同様に、相乗効果を、UBF及びCERT、好ましくはCERT Ser132→Alaの組み合わせ発現により達成することができる。
【0058】
一般的な実施態様「含む」又は「含まれる」は、より具体的な実施態様「からなる」を包含する。さらに、単数形及び複数形は、限定的な方法で使用されない。
【0059】
本発明の過程において使用される用語は、以下の意味を有する。
【0060】
用語「エピジェネティック操作」は、核酸配列に影響を与えることなくクロマチンのエピジェネティック修飾に影響を及ぼすことを意味する。エピジェネティック修飾は、ヒストン又はDNAヌクレオチドのメチル化又はアセチル化ならびにアルキル化における変化を含む。本発明において、「エピジェネティック操作」は、主に、DNAメチル化における操作を指す。
【0061】
「NoRC」(核小体リモデリング複合体)は、rDNAサイレンシングの鍵となる決定因子であり、それは、TIP−5(TTF−1相互作用タンパク質5)及びATPase SNF2hからなる。NoRCは、サイレントな遺伝子のrDNAプロモーターに結合し、rDNA転写を、ヒストン修飾活性及びDNAメチル化活性を通じて抑制する。
【0062】
「TIP−5」又は「TIP5」(転写終結因子1(TTF1)相互作用タンパク質5)は、200kDを上回る核小体タンパク質であり、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)ならびに他のクロマチン修飾因子と相互作用することにより、ヒストンデアセチラーゼ活性をrDNAに動員するために役立つ。さらなる同義語は以下である:BAZ2A、WALp3;FLJ13768;FLJ13780;FLJ45876;KIAA0314、及びDKFZp781B109。
【0063】
「SNF2h」は、タンパク質のSWI/SNFファミリーのメンバーであり、ヘリカーゼ活性及びATPase活性を有する。SNF2hは、閉じた異質染色質クロマチン状態を確立するためのヌクレオソーム滑走に関与するNoRCの成分である。SNF2hの正式名称はSMARCA5(クロマチン、サブファミリーa、メンバー5のSWI/SNF関連、マトリクス会合、アクチン依存性調節因子)である。さらなる別名は、ISWI;hISWI;hSNF2H及びWCRF135である。
【0064】
上流結合因子(「UBF」)は、DNA結合ドメイン及びトランスアクチベーションドメインの両方を伴う核小体リン酸化タンパク質であり、それは、18S、5.8S、及び28SリボソームRNAの発現のために要求される転写因子として機能する。UBFは、また、UBTF又はNOR−90として公知である。
【0065】
表現「リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを低下させる」は、リボソームRNAをコードするDNA又はこの特定領域中のクロマチンのメチル化及び/又はアセチル化に影響を及ぼし、rRNA遺伝子転写の脱抑制をもたらすことを意味する。より具体的には、本発明において、この用語は、rRNA遺伝子のメチル化を低下させるアプローチを指し、転写因子についての遺伝子のより良好な接近性ひいてはそれぞれの遺伝子からのより多くのrRNAの合成に導く。
【0066】
「rDNAサイレンシング」は、本明細書において、具体的には、rRNA遺伝子のサイレンシングを指す。それは、非特異的なゲノム規模のサイレンシング機構(NoRCにより媒介されない)を含まない。
【0067】
rDNAサイレンシングは、以下のアッセイにより測定/モニターすることができる:
rDNAのサイレンシングは、rRNAの低下した転写をもたらし、それは、定量的又は半定量的PCR(例、45SプレRNAに対するオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、材料及び方法に記載する通り)により分析することができる。
【0068】
rDNA遺伝子プロモーターのメチル化を、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化及びその後のサザンブロッティングにより分析することができ、メチル化及び非メチル化状態について異なるバンドパターンをもたらす。
【0069】
あるいは、メチル化誘導性rDNAサイレンシングは、また、メチル化感受性制限酵素を用いたゲノムDNAの消化及び切断の部位にわたるプライマーを使用したその後のqPCR(材料及び方法に記載する通り、及び、図2に示す通り)により定量化することができる。
【0070】
用語「ノックダウン」又は「枯渇」は、遺伝子発現に関連して、本明細書において使用される通り、コントロール細胞中での発現と比較した、所与の遺伝子の低下発現に導く実験的アプローチを指す。遺伝子のノックダウンは、種々の実験的手段、例えば、遺伝子のmRNAの部分とハイブリダイズし、その分解に導く核酸分子(例、shRNA、RNAi、miRNA)を細胞中に導入すること、又は、遺伝子の配列を、低下した転写、低下したmRNA安定性、又は消失したmRNA翻訳に導く方法で変化させることなどにより達成することができる。
【0071】
所与の遺伝子の発現の完全阻害は、「ノックアウト」と呼ばれる。遺伝子のノックアウトは、機能的な転写物が、前記遺伝子から合成されず、この遺伝子により通常提供される機能の喪失に導くことを意味する。遺伝子ノックアウトは、DNA配列を変化させ、遺伝子又はその調節配列の破壊又は欠失に導くことにより達成する。ノックアウト技術は、決定的な部分又は全遺伝子配列を置換、中断、又は欠失させるための相同組換え技術の使用又は標的遺伝子のDNA中に二本鎖切断を導入するためのDNA修飾酵素(例えばジンクフィンガーヌクレアーゼなど)の使用を含む。
【0072】
遺伝子のノックダウン又はノックアウトをモニター/証明するためのアッセイは多様である:
例えば、選択された遺伝子から転写されたmRNAの低下/は喪失を、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞RNAへのin situハイブリダイゼーション、又はPCRにより定量化することができる。選択された遺伝子によりコードされる対応するタンパク質の低下した存在量/喪失を、種々の方法、例えば、ELISAにより、ウエスタンブロッティングにより、ラジオイムノアッセイにより、免疫沈降により、タンパク質の生物学的活性についてのアッセイにより、タンパク質の免疫染色それに続くFACS解析により、又は均一時間分解蛍光(HTRF)アッセイにより定量化することができる。
【0073】
用語「派生物」は、本発明で使用される通り、元の配列又はその相補配列と配列において少なくとも70%同一であるポリペプチド分子又は核酸分子を意味する。好ましくは、ポリペプチド分子又は核酸分子は、元の配列又はその相補配列と配列において少なくとも80%同一である。より好ましくは、ポリペプチド分子又は核酸分子は、元の配列又はその相補配列と配列において少なくとも90%同一である。最も好ましいのは、元の配列又はその相補配列と配列において少なくとも95%同一であり、分泌に対して元の配列と同じ又は同様の効果を呈するポリペプチド分子又は核酸分子である。
【0074】
配列の違いは、異なる生物からの相同配列中の違いに基づきうる。それらは、また、1つ又は複数のヌクレオチド又はアミノ酸、好ましくは1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10の置換、挿入、又は欠失による配列の標的修飾に基づきうる。欠失、挿入、又は置換突然変異体を、部位特異的突然変異生成及び/又はPCRベースの突然変異生成技術を使用して生成してもよい。対応する方法が、(Lottspeich and Zorbas, 1998)により、36.1章において、追加の参考文献を伴って記載されている。
【0075】
「宿主細胞」は、本発明の意味において、真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞、最も好ましくは齧歯類細胞(例えばハムスター細胞など)である。好ましい細胞は、BHK21、BHK TK、CHO、CHO−K1、CHO−DUKX、CHO−DUKX B1、及びCHO−DG44細胞又はそのような細胞系のいずれかの派生体/子孫である。特に好ましいのはCHO−DG44、CHO−DUKX、CHO−K1、及びBHK21であり、さらにより好ましいのはCHO−DG44及びCHO−DUKX細胞である。最も好ましいのはCHO−DG44細胞である。本発明の特定の実施態様において、宿主細胞は、マウスミエローマ細胞、好ましくはNS0細胞及びSp2/0細胞又はそのような細胞系のいずれかの派生物/子孫を意味する。本発明の意味において使用することができるマウス細胞及びハムスター細胞の例を、また、表1にまとめる。しかし、そのような細胞の派生物/子孫、他の哺乳動物細胞(しかし、限定はされないが、ヒト、マウス、ラット、サル、及び齧歯類の細胞系を含む)、又は真核細胞(しかし、限定はされないが、酵母、昆虫、及び植物の細胞を含む)を、また、本発明の意味において、特に生物医薬品タンパク質の産生のために使用することができる。
【0076】
【表1】

【0077】
宿主細胞が、無血清条件下で、場合により、動物由来の任意のタンパク質/ペプチドを含まない培地中で樹立され、適応され、完全に培養される場合に最も好ましい。商業的に利用可能な培地、例えばハムF12(Sigma, Deisenhofen, Germany)、RPMI−1640(Sigma)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma)、最小必須培地(MEM;Sigma)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)、CD−CHO(Invitrogen, Carlsbad, CA)、CHO-S-Invtirogen)、無血清CHO培地(Sigma)、及び無タンパク質CHO培地(Sigma)などが、例示的で適切な栄養溶液である。培地のいずれかに、必要に応じて、種々の化合物を用いて添加してもよい。それらの例は、ホルモン及び/又は他の成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、上皮成長因子、インスリン様成長因子など)、塩(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸など)、バッファー(例えばHEPESなど)、ヌクレオシド(例えばアデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコース又は他の等価のエネルギー供給源、抗生物質、微量元素である。任意の他の必要な添加剤が、また、当業者に公知でありうる適切な濃度で含まれてもよい。本発明において、無血清培地の使用が好ましいが、しかし、適量の血清が添加された培地も、宿主細胞の培養のために使用することができる。選択可能な遺伝子を発現する遺伝子改変細胞の成長及び選択のために、適した選択薬剤を培養液に加える。
【0078】
用語「タンパク質」を、アミノ酸残基配列又はポリペプチドと互換的に使用し、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。これらの用語は、また、しかし、限定はされないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、又はタンパク質プロセシングを含む反応を通じて翻訳後に修飾されるタンパク質を含む。改変及び変化、例えば、他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失、又は挿入をポリペプチドの構造中に作製することができ、分子はその生物学的な機能活性を維持する。例えば、特定のアミノ酸配列の置換を、ポリペプチド又はその基礎となる核酸コード配列中に作製することができ、タンパク質を、同様の特性を伴い得ることができる。
【0079】
用語「ポリペプチド」は、10を上回るアミノ酸を伴う配列を意味する。用語「ペプチド」は、10までのアミノ酸長の配列を意味する。
【0080】
本発明は、生物医薬品ポリペプチド/タンパク質の産生のための宿主細胞を生成するために適する。本発明は、特に、増強した細胞産生性を示す細胞による、目的の多数の異なる遺伝子の高収量発現のために適する。
【0081】
「目的の遺伝子」(GOI)、「選択された配列」、又は「産物遺伝子」は、本明細書において同じ意味を有し、目的の産物又は「目的のタンパク質」(また、用語「所望の産物」により言及される)をコードする任意の長さのポリヌクレオチド配列を指す。選択された配列は、完全長遺伝子又は切断遺伝子、融合遺伝子又はタグ付き遺伝子でありうる、及び、cDNA、ゲノムDNA、又はDNAフラグメント、好ましくは、cDNAでありうる。それは、天然配列、即ち、自然発生形態でありうる、又は、突然変異されうるもしくは別の方法で所望の通りに改変されうる。これらの改変は、選択された宿主細胞中でのコドン使用を最適化するためのコドン最適化、ヒト化、又はタギングを含む。選択された配列は、分泌ポリペプチド、細胞質ポリペプチド、核ポリペプチド、膜結合ポリペプチド、又は細胞表面ポリペプチドをコードしうる。
【0082】
「目的のタンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド、そのフラグメント、ペプチドを含み、その全てを、選択された宿主細胞において発現させることができる。所望のタンパク質は、例えば、抗体、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、受容体、及びその派生物又はフラグメント、ならびに、アゴニストもしくはアンタゴニストとしての役割を果たしうる及び/又は治療的もしくは診断的使用を有しうる任意の他のポリペプチドでありうる。所望のタンパク質/ポリペプチドについての例も以下に与える。
【0083】
より複雑な分子(例えばモノクローナル抗体など)の場合において、GOIは、2つの抗体鎖の1つ又は両方をコードする。
【0084】
「目的の産物」は、また、アンチセンスRNAでありうる。
【0085】
「目的のタンパク質」又は「所望のタンパク質」は、上に言及するものである。特に、所望のタンパク質/ポリペプチド又は目的のタンパク質は、例えば、しかし、限定はされないが、インスリン、インスリン様成長因子、hGH、tPA、サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)など、例、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18、インターフェロン(IFN)アルファ、IFNベータ、IFNガンマ、IFNオメガ又はIFNタウ、腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNFアルファ及びTNFベータ、TNFガンマ、TRAIL;G−CSF、GM−CSF、M−CSF、MCP−1、及びVEGFである。また、含まれるのは、エリスロポエチン又は任意の他のホルモン成長因子の産生である。本発明の方法は、また、抗体又はそのフラグメントの産生のために有利に使用することができる。そのようなフラグメントは、例えば、Fabフラグメント(フラグメント抗原結合=Fab)を含む。Fabフラグメントは、隣接する定常領域により一緒に保持される両鎖の可変領域からなる。これらは、プロテアーゼ消化により(例、パパインを用いて)、従来の抗体から形成されうるが、しかし、類似のFabフラグメントもこの間に遺伝子操作により産生されうる。さらなる抗体フラグメントはF(ab‘)2フラグメントを含み、それは、ペプシンを用いたタンパク質分解的切断により調製されうる。
【0086】
目的のタンパク質は、好ましくは、培養液から分泌ポリペプチドとして回収される、又は、それは、分泌シグナルを伴わずに発現された場合、宿主細胞ライセートから回収することができる。目的のタンパク質を、他の組換えタンパク質及び宿主細胞タンパク質から、目的のタンパク質の実質的に均質な調製物が得られる方法で精製することが必要である。最初の工程として、細胞及び/又は粒状細胞片を培養液又はライセートから除去する。目的の産物を、その後、混入する可溶性タンパク質、ポリペプチド、及び核酸から、例えば、免疫親和性カラム又はイオン交換カラム上での分画、エタノール沈澱、逆相HPLC、セファデックスクロマトグラフィー、シリカ上又は陽イオン交換樹脂(例えばDEAEなど)上でのクロマトグラフィーにより精製する。一般的に、宿主細胞により異種性に発現されたタンパク質をどのように精製するのかを当業者に教示する方法は、当技術分野において周知である。
【0087】
遺伝子操作方法を使用し、重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域だけからなる短縮した抗体フラグメントを産生することが可能である。これらは、Fvフラグメント(Fragment variable=可変部分のフラグメント)と呼ばれる。これらのFvフラグメントは定常鎖のシステインによる2つの鎖の共有結合を欠くため、Fvフラグメントはしばしば安定化される。重鎖の及び軽鎖の可変領域を、短いペプチドフラグメント(例、10〜30アミノ酸、好ましくは15アミノ酸の)により連結することが有利である。この方法において、単一のペプチド鎖を得る(VH及びVLからなり、ペプチドリンカーにより連結されている)。この種類の抗体タンパク質は、単鎖Fc(scFv)として公知である。この種類のscFv抗体タンパク質の例は、先行技術から周知である。
【0088】
近年、種々の戦略が、scFvを多量体派生物として調製するために開発されてきた。これは、特に、改善された薬物動態及び体内分布特性を伴うならびに増加した結合アビディティーを伴う組換え抗体に導くことが意図される。scFvの多量体化を達成するために、scFvを、多量体化ドメインを伴う融合タンパク質として調製する。多量体化ドメインは、例えば、IgGのCH3領域又はコイルドコイル構造(ヘリックス構造)、例えばロイシンジッパードメインなどでありうる。しかし、scFvのVH/VL領域の間での相互作用を多量体化(例、ダイア、トリ、及びペンタボディ)のために使用する戦略もある。ダイアボディにより、当業者は二価ホモ二量体scFv派生物を意味する。scFv分子中のリンカーの5〜10アミノ酸への短縮は、ホモ二量体化の形成に導き、それにおいて鎖内VH/VLの重ね合わせが起こる。ダイアボディは、加えて、ジスルフィド架橋の取り込みにより安定化されうる。ダイアボディ−抗体タンパク質の例は、当技術分野から周知である。
【0089】
ミニボディにより、当業者は、二価のホモ二量体scFv派生物を意味する。それは、免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域を、二量体化領域として含む融合タンパク質からなり、それは、ヒンジ領域(例、また、IgG1から)及びリンカー領域を介してscFvに結合される。ミニボディ−抗体タンパク質の例は、当技術分野から周知である。
【0090】
トリアボディにより、当業者は、三価のホモ三量体scFv派生物を意味する。VH−VLがリンカー配列を伴わずに直接的に融合されるScFv派生物は、三量体の形成に導く。
【0091】
「スキャフォールドタンパク質」により、当業者は、遺伝子クローニングにより又は同時翻訳プロセスにより、別のタンパク質又は別の機能を有するタンパク質の部分と共役されるタンパク質の任意の機能的ドメインを意味する。
【0092】
当業者は、また、二、三、又は四価構造を有し、scFvに由来する、いわゆるミニ抗体に精通しうる。多量体化は、二、三、又は四量体コイルドコイル構造により行われる。
【0093】
定義により、宿主細胞中に導入された任意の配列又は遺伝子は、宿主細胞に関して、「異種配列」又は「異種遺伝子」又は「トランスジーン」と呼ばれる(導入された配列又は遺伝子が、宿主細胞中の内因性配列又は遺伝子と同一の場合でさえ)。
【0094】
「異種」タンパク質は、このように、異種配列から発現されるタンパク質である。
【0095】
用語「組換え」は、本発明の明細書を通して、特にタンパク質発現に関連して、用語「異種」と互換的に使用される。このように、「組換え」タンパク質は、異種配列から発現されるタンパク質である。
【0096】
異種遺伝子配列を、標的細胞中に、「発現ベクター」、好ましくは真核生物の、及びさらにより好ましくは哺乳動物の発現ベクターを使用することにより導入することができる。ベクターを構築するために使用される方法は、当業者に周知であり、種々の刊行物中に記載されている。特に、適したベクターを構築するための技術(機能的成分、例えばプロモーター、エンハンサー、終結シグナル及びポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製起点、及びスプライシングシグナルなどの記載を含む)が、(Sambrook et al., 1989)及びその中で引用される参考文献においてかなり詳細に概説されている。ベクターは、しかし、限定はされないが、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体(例、ACE)、又はウイルスベクター(例えばバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペス単純ウイルス、レトロウイルス、バクテリオファージなど)を含みうる。真核生物発現ベクターは、典型的には、細菌中でのベクターの増殖を促進する原核生物配列(例えば複製起点及び細菌中での選択のための抗生物質耐性遺伝子など)も含みうる。種々の真核生物発現ベクター(ポリヌクレオチドを操作的に連結することができるクローニング部位を含む)が、当技術分野において周知であり、一部が、企業、例えばStratagene(La Jolla, CA)、Invitrogen(Carlsbad, CA)、Promega(Madison, WI)、又はBD Biosciences Clontech(Palo Alto, CA)などから商業的に利用可能である。
【0097】
好ましい実施態様において、発現ベクターは、目的のペプチド/ポリペプチド/タンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写及び翻訳のために必要な調節配列である少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0098】
用語「発現」は、本明細書で使用される通り、宿主細胞内での異種核酸配列の転写及び/又は翻訳を指す。宿主細胞中での目的の所望の産物/タンパク質の発現のレベルを、細胞中に存在する対応するmRNAの量、又は、本発明の実施例の通り、選択された配列によりコードされる目的の所望のポリペプチド/タンパク質の量のいすれかに基づいて決定してもよい。例えば、選択された配列から転写されたmRNAを、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞RNAに対するin situハイブリダイゼーションにより、又はPCRにより定量化することができる。選択された配列によりコードされるタンパク質を、種々の方法により、例えば、ELISAにより、ウエスタンブロッティングにより、ラジオイムノアッセイにより、免疫沈降により、タンパク質の生物学的活性についてのアッセイにより、タンパク質の免疫染色それに続くFACS解析により、又は均一時間分解蛍光(HTRF)アッセイにより定量化することができる。
【0099】
ポリヌクレオチド又は発現ベクターを用いた真核生物宿主細胞の「トランスフェクション」は、遺伝子改変細胞又はトランスジェニック細胞をもたらし、当技術分野において周知の任意の方法により実施することができる。トランスフェクション方法は、しかし、限定はされないが、リポソーム媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈殿、エレクトロポレーション、ポリカチオン(例えばDEAEデキストランなど)媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、ウイルス感染、及びマイクロインジェクションを含む。好ましくは、トランスフェクションは安定トランスフェクションである。特定の宿主細胞系及び型において最適なトランスフェクション頻度及び異種遺伝子の発現を提供するトランスフェクション方法が好ましい。適した方法を、ルーチン手順により決定することができる。安定トランスフェクタントのために、コンストラクトは、宿主細胞のゲノムもしくは人工染色体/ミニ染色体中に組み込まれる、又は、エピソームとして位置づけられ、宿主細胞内に安定的に維持される。
【0100】
本発明は、タンパク質、好ましくは組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で増加させること、及び
c.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0101】
特定の実施態様において、工程b)は、リボソームRNA転写を前記宿主細胞中で、好ましくは、転写因子を導入する(その発現を増加させる)ことにより、及び、リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること(少なくとも1つのリボソームRNA遺伝子(rDNA)のエピジェネティック操作)によりアップレギュレーションすることを含む。
【0102】
本発明は、具体的には、タンパク質、好ましくは組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で、リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させることにより増加させること、及び
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させること(過剰発現)により増加させること、
d.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0103】
特定の実施態様において、工程b)は、少なくとも1つのRNA遺伝子(rDNA)のエピジェネティック操作を含む。
【0104】
本発明は、好ましくは、タンパク質、好ましくは組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること、及び
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の増加発現(過剰発現)により増加させること、
d.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0105】
本発明の特定の実施態様において、組換えタンパク質発現は、低下したrDNAサイレンシングを伴わない細胞と比較して、前記細胞中で増加する。好ましくは、前記増加は、20%〜100%、より好ましくは20%〜300%、最も好ましくは20%を上回る。好ましい実施態様において、工程c)は、リボソームRNA転写を前記細胞において、転写因子を導入することにより増加させることを含む。
【0106】
本発明の目的のために、工程b)及びc)の順番を逆転させることができる。
【0107】
本発明の特定の実施態様において、方法の工程b)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分のノックダウン又はノックアウトを含み、工程c)は、転写因子の過剰発現を含む。具体的には、工程b)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分の発現を低下させることを含む。本発明の好ましい実施態様において、転写因子は上流結合因子(UBF)である。本発明の別の好ましい実施態様において、NoRC成分は、TIP−5又はSNF 2H、好ましくはTIP−5である。本発明の非常に好ましい実施態様において、TIP−5をノックアウトする。本発明の方法の特定の実施態様において、TIP−5をノックダウン又はノックアウトし、それによりTIP−5サイレンシングベクターは以下:
a.配列番号1、配列番号2、配列番号8、もしくは配列番号9のshRNA、又は
b.配列番号3、配列番号4、配列番号10、もしくは配列番号11のmiRNA
を含む。
【0108】
本発明のさらなる実施態様において、TIP−5のアセチル化を、TIP−5の欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により防止する。本発明の特定の実施態様において、TIP−5突然変異体は、SIRT1によりアセチル化することができない。本発明のさらなる実施態様は、(内因性)TIP−5遺伝子内のアセチル化アクセプター部位の欠失である。好ましくは、前記の突然変異体又は欠失を、転写因子、好ましくはUBFの導入と組み合わせる。これは、アップレギュレーションされたrRNA転写をもたらし、それは、次に、増強したリボソーム合成及び組換えタンパク質の増加した産生に導く。特に適したTIP−5突然変異体は、マウスTIP−5中のリシン残基K633又はヒトTIP−5中のK649に突然変異を伴うTIP−5である。同様に、適したTIP−5欠失は、マウスTIP−5中のリシン残基K633又はヒトTIP−5中のK649に位置づけられる。
【0109】
このように、本発明の好ましい実施態様において、TIP−5のアセチル化を、TIP−5のK633突然変異体又はTIP−5のK649突然変異体を発現させることにより防止する。好ましい実施態様は、前記TIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の発現/過剰発現及び転写因子、好ましくはUBFの過剰発現の組み合わせである。本発明の別の実施態様において、SNF2Hをノックアウトする。本発明の最も好ましい実施態様において、TIP−5を工程b)においてノックダウンし、UBFを工程c)において過剰発現させる。本発明のさらなる実施態様において、TIP−5のアセチル化を、欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により、好ましくは工程b)においてTIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の過剰発現により防止し、UBFを工程c)において過剰発現させる。
【0110】
本発明は、さらに、目的のタンパク質を産生するための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で増加させること、
c.前記細胞を、目的の前記タンパク質の発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0111】
本発明の特定の実施態様において、方法は、加えて、以下:
d.目的の前記タンパク質を精製すること
を含む。
【0112】
特定の実施態様において、工程a)の細胞は、空の宿主細胞である。別の実施態様において、工程a)の前記細胞は、目的のタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え細胞である。さらなる特定の実施態様において、工程b)は、リボソームRNAの量を前記細胞中で、以下により増加させることを含む(リボソームRNA転写のアップレギュレーション):i)リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)、及び、ii)リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させること(導入/過剰発現)により増加させること。
【0113】
本発明は、具体的には、目的のタンパク質を産生するための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)、及び
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させること(過剰発現させること)により増加させること、
d.前記細胞を、目的の前記タンパク質の発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0114】
本発明の特定の実施態様において、方法は、加えて、以下
e.目的の前記タンパク質を精製すること
を含む。
【0115】
工程b)及びc)の順番を逆転させてもよい。特定の実施態様において、工程b)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分のノックダウン又はノックアウトを含み、工程c)は、転写因子の過剰発現を含む。別の実施態様において、工程b)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分の発現を低下させることを含む。好ましい実施態様において、工程c)における転写因子は、上流結合因子(UBF)である。本発明の非常に好ましい実施態様において、NoRC成分は、TIP−5又はSNF 2H、最も好ましくはTIP−5である。本発明の最も好ましい実施態様において、TIP−5をノックダウンし、UBFを過剰発現させる。
【0116】
タンパク質を産生するための上の方法の特定の実施態様において、TIP−5をノックダウン又はノックアウトし、それによりTIP−5サイレンシングベクターは以下:
a.配列番号1、配列番号2、配列番号8、もしくは配列番号9のshRNA、又は
b.配列番号3、配列番号4、配列番号10、もしくは配列番号11のmiRNA
を含む。
【0117】
目的のタンパク質を産生するための本発明の方法のさらなる実施態様において、TIP−5のアセチル化を、欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により、好ましくは工程b)においてTIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の過剰発現により防止し、UBFを工程c)において過剰発現させる。
【0118】
本発明は、さらに、好ましくは組換え/異種タンパク質の産生のための、宿主細胞を生成する方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で増加させること
を含む。
【0119】
本発明は、具体的には、好ましくは組換え/異種タンパク質の産生のための、宿主細胞を生成する方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で増加させること、
c.宿主細胞を得ること
を含む。
【0120】
本発明は、さらに、好ましくは組換え/異種タンパク質の産生のための、単一細胞クローンを生成する方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で増加させること、
c.単一細胞クローンを選択すること
を含む。
【0121】
本発明は、さらに、好ましくは組換え/異種タンパク質の産生のための、宿主細胞系を生成する方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で増加させること、
c.単一細胞クローンを選択すること
を含む。
【0122】
本発明の特定の実施態様において、方法は、加えて、以下:
d.宿主細胞系を前記単一細胞クローンから得ること
を含む。
【0123】
本発明は、さらに、好ましくは組換え/異種タンパク質の産生のための、モノクローナル宿主細胞系を生成する方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNAの量を前記細胞中で増加させること、
c.モノクローナル宿主細胞系を選択すること
を含む。
【0124】
上の方法の特定の実施態様において、工程b)は、リボソームRNAの量を前記細胞中で、以下により増加させることを含む(リボソームRNA転写のアップレギュレーション):i)リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)、及び、ii)リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させること(導入/過剰発現)により増加させること。
【0125】
本発明は、具体的には、好ましくは組換え/異種タンパク質の産生のための、宿主細胞(系)を生成する方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)、及び
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させること(過剰発現させること)により増加させること
を含む。
【0126】
場合により、前記方法は、加えて、以下:
d.単一細胞クローンを選択すること
を含む。
【0127】
好ましくは、前記方法は、加えて、以下:
e.宿主細胞(系)を得ること
を含む。
【0128】
工程b)及びc)の順番を逆転させてもよい。
【0129】
特定の実施態様において、工程b)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分のノックダウン又はノックアウトを含み、工程c)は、転写因子の過剰発現を含む。別の実施態様において、工程b)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分の発現を低下させることを含む。好ましい実施態様において、工程c)における転写因子は、上流結合因子(UBF)である。本発明の非常に好ましい実施態様において、NoRC成分は、TIP−5又はSNF 2H、最も好ましくはTIP−5である。本発明の最も好ましい実施態様において、TIP−5をノックダウンし、UBFを過剰発現させる。
【0130】
宿主細胞を生成する上の方法の特定の実施態様において、TIP−5をノックダウン又はノックアウトし、それによりTIP−5サイレンシングベクターは以下:
a.配列番号1、配列番号2、配列番号8、もしくは配列番号9のshRNA、又は
b.配列番号3、配列番号4、配列番号10、もしくは配列番号11のmiRNA
を含む。
【0131】
宿主細胞(系)を生成する上の方法のさらなる実施態様において、TIP−5のアセチル化を、欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により、好ましくは工程b)においてTIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の過剰発現により防止し、UBFを工程c)において過剰発現させる。
【0132】
本発明は、さらに、上の方法のいずれかに従って生成された細胞に関する。好ましくは、組換えタンパク質の発現は、低下したrDNAサイレンシングを伴わない細胞と比較して、前記細胞において増加する。好ましくは、前記増加は、20%〜100%、より好ましくは20%〜300%、最も好ましくは20%を上回る。
【0133】
好ましくは、前記細胞又は上に記載する方法のいずれかにおける細胞は、真核細胞、好ましくは哺乳動物、齧歯類、又はハムスター細胞である。好ましくは、前記ハムスター細胞は、CHO細胞、例えばCHO−K1、CHO−S、CHO−DG44、又はCHO−DUKX B11など、好ましくはCHO−DG44細胞である。本発明は、さらに、前記細胞の、好ましくは目的のタンパク質の産生のための使用に関する。
【0134】
本発明の特定の実施態様において、上に記載する方法のいずれかにおける工程b)及びc)の順番を逆転させる。
【0135】
セラミドトランスファータンパク質(CERT)過剰発現と組み合わせたエピジェネティック操作:
本発明は、さらに、組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、及び
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること、及び
c.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、及び
d.場合により、リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させることにより増加させること、及び
e.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0136】
本発明の特定の実施態様において、組換えタンパク質発現は、低下したrDNAサイレンシングを伴わない細胞と比較して、前記細胞中で増加する。好ましくは、前記増加は、20%〜100%、より好ましくは20%〜300%、最も好ましくは20%を上回る。本発明の目的のために、工程b)及びc)の順番を逆転させることができる。
【0137】
本発明の特定の実施態様において、方法の工程b)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分のノックダウン又はノックアウトを含み、工程d)は、転写因子、好ましくはUBFの過剰発現を含む。本発明の別の好ましい実施態様において、NoRC成分は、TIP−5又はSNF 2H、好ましくはTIP−5である。本発明の非常に好ましい実施態様において、TIP−5をノックアウトする。本発明の方法の特定の実施態様において、TIP−5をノックダウン又はノックアウトし、それによりTIP−5サイレンシングベクターは以下:
a.配列番号1、配列番号2、配列番号8、もしくは配列番号9のshRNA、又は
b.配列番号3、配列番号4、配列番号10、もしくは配列番号11のmiRNA
を含む。
【0138】
本発明のさらなる実施態様において、TIP−5のアセチル化を、TIP−5の欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により防止する。本発明の特定の実施態様において、TIP−5のアセチル化を、TIP−5のK633突然変異体又はTIP−5のK649突然変異体を発現させることにより防止する。好ましい実施態様は、前記TIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の発現/過剰発現及びCERT(好ましくは、CERT野生型又はCERT Ser132→Ala突然変異体)の過剰発現及び、場合により、転写因子、好ましくはUBFの過剰発現の組み合わせである。本発明の別の実施態様において、SNF2Hをノックアウトする。本発明の最も好ましい実施態様において、TIP−5を工程b)においてノックダウンし、CERT Ser132→Ala突然変異体を工程c)において過剰発現させる。
【0139】
本発明は、具体的には、組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、及び
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で、好ましくはTIP−5のノックダウンにより又はTIP−5のアセチル化の防止により低下させること、及び
c.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、及び
d.場合により、リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子、好ましくはUBFの発現を増加させることにより増加させること、及び
e.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0140】
本発明は、さらに、組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、及び
b.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子、好ましくはUBFの発現を増加させることにより増加させること、及び
c.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、及び
d.場合により、リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で、好ましくはTIP−5のノックダウンにより又はTIP−5のアセチル化の防止により低下させること、及び
e.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0141】
本発明の特定の実施態様において、組換えタンパク質発現は、低下したrDNAサイレンシングを伴わない細胞と比較して、前記細胞中で増加する。好ましくは、前記増加は、20%〜100%、より好ましくは20%〜300%、最も好ましくは20%を上回る。本発明の目的のために、工程b)及びc)の順番を逆転させることができる。本発明の好ましい実施態様において、UBFを工程b)において過剰発現させ、野生型CERT又はCERT Ser132→Ala 突然変異体を工程c)において過剰発現させる。
【0142】
本発明は、さらに、目的のタンパク質を細胞中で産生するための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、及び
b.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、及び
c.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)、及び
d.場合により、リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子、好ましくはUBFの発現を増加させること(過剰発現させること)により増加させること、及び
e.前記細胞を、目的の前記タンパク質の発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0143】
本発明の特定の実施態様において、方法は、加えて、以下:
f.目的の前記タンパク質を精製すること
を含む。
【0144】
工程b)、c)、及びd)の順番を再配置/逆転させてもよい。
【0145】
本発明は、さらに、目的のタンパク質を細胞中で産生するための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、及び
b.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、及び
c.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)、及び
d.前記細胞を、目的の前記タンパク質の発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0146】
本発明の特定の実施態様において、方法は、加えて、以下:
e.目的の前記タンパク質を精製すること
を含む。
【0147】
本発明は、さらに、目的のタンパク質を細胞中で産生するための方法に関し、以下:
a.細胞を提供すること、
b.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、及び
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させること(過剰発現させること)により増加させること、
d.前記細胞を、目的の前記タンパク質の発現を可能にする条件下で培養すること
を含む。
【0148】
本発明の特定の実施態様において、方法は、加えて、以下:
e.目的の前記タンパク質を精製すること
を含む。
【0149】
タンパク質を産生する上の方法の特定の実施態様において、工程a)の細胞は、空の宿主細胞である。別の実施態様において、工程a)の前記細胞は、目的のタンパク質をコードする遺伝子を含む組換え細胞である。
【0150】
用語「CERT」は、セラミドトランスファータンパク質CERTを指し、それはグッドパスチャー抗原結合タンパク質としても公知である。CERTは、セラミドの、小胞体(ER)でのその産生部位からゴルジ膜への非小胞送達のために必須の細胞質タンパク質であり、そこで、スフィンゴミエリン(SM)の変換が起こる。
【0151】
工程b)及びc)の順番を逆転させてもよい。
【0152】
好ましくは、工程b)におけるCERTタンパク質は、野生型CERTであり、より好ましくは、それは、CERT突然変異体CERT Ser132→Alaである。さらに好ましい実施態様において、工程c)における転写因子は、上流結合因子(UBF)である。この方法の別の好ましい実施態様において、CERT Ser132→Ala突然変異体及びUBFの両方が過剰発現される。上の方法のいずれかの特定の実施態様において、リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させる工程(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)は、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分の発現を低下させること、例えばNoRC成分のノックダウン又はノックアウトなどを含む。本発明の好ましい実施態様において、NoRC成分は、TIP−5又はSNF 2H、最も好ましくはTIP−5である。本発明の別の好ましい実施態様において、TIP−5をノックダウンし、UBFを過剰発現させる。本発明の別の好ましい実施態様において、TIP−5をノックダウン又はノックアウトし、CERTを過剰発現させる(好ましくは、CERT野生型又はCERT Ser132→Ala突然変異体)。本発明の別の好ましい実施態様において、TIP−5をノックダウン又はノックアウトし、CERTを過剰発現させ(好ましくは、CERT野生型又はCERT Ser132→Ala突然変異体)、転写因子UBFを過剰発現させる。
【0153】
目的のタンパク質を産生する方法の上の方法の特定の実施態様において、TIP−5をノックダウン又はノックアウトし、それによりTIP−5サイレンシングベクターは以下:
a.配列番号1、配列番号2、配列番号8、もしくは配列番号9のshRNA、又は
b.配列番号3、配列番号4、配列番号10、もしくは配列番号11のmiRNA
を含む。
【0154】
目的のタンパク質を産生する上の方法のさらなる実施態様において、TIP−5のアセチル化を、欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により、好ましくはリボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させる工程(少なくとも1つのrDNAのエピジェネティック操作)においてTIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の過剰発現により防止し、CERT(好ましくは、CERT野生型又はCERT Ser132→Ala突然変異体)を過剰発現させ、場合によりUBFを過剰発現させる。
【0155】
さらなる好ましい実施態様において、リボソームRNA転写を、前記細胞中で、転写因子の発現を増加させること(過剰発現させること)により増加させる工程における転写因子は、上流結合因子(UBF)の過剰発現を含む。
【0156】
好ましくは、上の方法のいずれかにおける前記細胞は、真核細胞、好ましくは哺乳動物、齧歯類、又はハムスター細胞である。好ましくは、前記ハムスター細胞は、CHO細胞、例えばCHO−K1、CHO−S、CHO−DG44、又はCHO−DUKX B11など、好ましくはCHO−DG44細胞である。
【0157】
本発明の実行では、別に示さない場合、細胞生物学、分子生物学、細胞培養、免疫学などの従来技術を用い、それらは当業者の技術内にある。これらの技術は、本発明の文献中に完全に開示されている。
【0158】
材料及び方法
プラスミド
pCMV−UBFは、Ingrid Grummtにより、ご厚意で提供される。pCMV−TAP−tagは、サイトメガロウイルス最初期プロモーターの制御下で転写されるTAP−tag配列を含む。
【0159】
安定細胞系
NIH/3T3細胞を、
【化1】


配列をH1プロモーターの制御下で発現するプラスミドを用いて安定的にトランスフェクションする。
【0160】
転写されたshRNA配列は:
【化2】


である。
【0161】
HEK293T細胞及びCHO−K1細胞を、コントロールmiRNA又はTIP5
【化3】


を標的化するmiRNA配列を発現するプラスミドを用いて、Block−iT Pol II miR RNAiシステム(Invitrogen)に従い安定的にトランスフェクションする。感染は、製造者の指示に従って実施される。細胞を、感染後10日目に分析する。
【0162】
転写されたmiRNA配列は、
【化4】


である。
【0163】
転写解析
45SプレrRNA転写を、qRT−PCRにより、標準的な手順に従い、Universal Masterミックス(Diagenode)を使用して測定する。マウス及びヒトの45SプレrRNA及びGAPDHを検出するために使用されるプライマー配列が、以前に記載されている。
【0164】
CpGメチル化分析
マウス及びヒトrDNAのメチル化を、以前に記載された通りに測定する。CHO−K1細胞中でのrDNAメチル化の分析のために使用されるプライマーは、
【化5】


である。
【0165】
BrUTP取り込み
BrUTP取り込みのために、shRNAコントロールならびにTIP5−1及び2細胞を用いて播種したカバーガラスを、10mM BrUTPを含むKHバッファーを用いて10分間にわたりインキュベーションする。次に、BrUTP KHバッファーを除去し、細胞を、30分間、20% FCSを含む増殖培地中でインキュベーションし、転写物を固定前に追跡する。細胞を100%メタノール中で20分間にわたり−20℃で固定し、5分間にわたり風乾し、PBSを用いて5分間にわたり再水和する。BrUTP取り込みを、次に、モノクローナル抗BrdU抗体(Sigma-Aldrich)を使用して検出する。
【0166】
増殖曲線
10個の細胞を、6ウェルプレートの1ウェル当たりに播種し、各日、細胞をトリプシン処理し、回収し、Casy(登録商標)Cell Counter(Schaerfe System)を用いてカウントする。実験を2通りに実施し、2回繰り返す。
【0167】
ポリソームプロファイル
細胞を、シクロヘキシミド(100μg/ml、10分)を用いて処理し、20mM Tris−HCl、pH7.5、5mM MgCl、100mM KCl、2.5mM DTT、100μg/mlシクロヘキシミド、0.5% NP40、0.1mg/mlヘパリン、及び200U/ml RNAse阻害剤中で、4℃で溶解する。8,000gで5分間にわたる遠心分離後、上清を、15%〜45%ショ糖勾配上に添加し、4時間にわたり28,000rpmで、4℃で遠心する。200μlの分画を回収し、個々の分画での最適密度を260nmで測定する。
【0168】
タンパク質産生
タンパク質産生を、恒常的SEAP(pCAG−SEAP)発現ベクター又はルシフェラーゼ発現ベクター(pCMV−Luciferase)のトランスフェクション後48時間目に評価する。SEAP産生を、pニトロフェニルリン酸ベース光吸収の時間的経過により測定する。ルシフェラーゼプロファイリングを、製造者の指示(Applied biosystems, Tropix(登録商標)ルシフェラーゼアッセイキット)に従って実施する。値を、細胞数及びトランスフェクション効率に対して正規化する。トランスフェクション効率を、GFP発現ベクター(GFP-C1, Clontech)を用いてトランスフェクションされた細胞のフローサイトメトリー分析により測定する。全ての実験を3通りに実施し、3回繰り返す。
【0169】
浮遊細胞の細胞培養
産生及び開発スケールで使用される全ての細胞系を、インキュベーター(Thermo, Germany)中の表面エアレーションTフラスコ(Nunc, Denmark)又は振盪フラスコ(Nunc, Denmark)中の連続シードストック培養において、温度37℃で及び5% COを含む雰囲気中で維持する。シードストック培養物を、2〜3日ごとに播種密度1−3E5個細胞/mLで継代培養する。細胞濃度を、全ての培養物中で、血球計を使用することにより決定する。生存率をトリパンブルー色素排除方法により評価する。
【0170】
流加培養
細胞を、3E05個細胞/mlで、125ml振盪フラスコ中に、30mlのBI専売産生培地(抗生物質又はMTX(Sigma-Aldrich, Germany)を伴わない)中に播種する。培養物を120rpmで37℃及び5% CO(続く3日目に2%に低下させる)において撹拌する。BI専売フィード溶液を毎日加え、pHを、必要に応じてNaCOを使用してpH 7.0に調整する。細胞密度及び生存率を、トリパンブルー色素排除方法により、自動CEDEX細胞定量化システム(Innovatis)を使用して決定する。
【0171】
抗体産生細胞の生成
CHO−K1細胞又はCHO−DG44細胞(Urlaub et al., Cell 1983)を、IgG1型抗体の重鎖及び軽鎖をコードする発現プラスミドを用いて安定的にトランスフェクションする。選択は、発現プラスミドによりコードされるそれぞれの抗生物質の存在におけるトランスフェクションされた細胞の培養により行う。約3週間の選択後、安定細胞集団を得て、さらに、2〜3日ごとの継代培養を伴う標準的なストック培養計画に従って培養する。次の(任意の)工程において、安定的にトランスフェクションされた細胞集団のFACSベースの単一細胞クローニングを行い、モノクローナル細胞系を生成する。
【0172】
組換え抗体濃度の決定
トランスフェクションされた細胞における組換え抗体産生を評価するために、細胞上清からのサンプルを、標準的な接種培養から、3回連続の継代について各継代の終わりに回収する。産物濃度を、次に、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により分析する。分泌されたモノクローナル抗体産物の濃度を、ヒトFcフラグメント(Jackson Immuno Research Laboratories)及びヒトカッパ軽鎖(Sigma)に対するHRPコンジュゲーションされた抗体を使用して測定する。
【0173】
実施例
実施例1:TIP−5のノックダウン
組換えタンパク質の増加合成のために細胞を操作することを目標に、本発明者らは、サイレントなrRNAの数における減少が、45SプレrRNA合成を増強し、結果として、また、リボソーム生合成を刺激し、翻訳能力のあるリボソームの数を増加させるか否かを決定する。従って、本発明者らはRNA干渉を使用して、TIP5発現をノックダウンし、安定的なトランスジェニックshRNA発現NIH/3T3又はmiRNA発現HEK293T及びCHO−K1を、TIP5の2つの異なる領域(TIP5−1及びTIP5−2)に特異的なshRNA/miRNA配列を使用して構築する。スクランブルshRNA及びmiRNA配列を発現する安定的な細胞系を、コントロールとして使用する。shRNA−TIP5又はmiRNA−TIP5配列を発現するプラスミドを用いた一過性トランスフェクションを実施するよりもむしろ、安定な細胞系を産生することについて2つの理由がある。第1に、抑制性エピジェネティックマーク(CpGメチル化など)の喪失は、受動機構であり、複数の細胞分裂を要求する。第2に、HEK293T細胞を比較的簡単にトランスフェクションすることができるにもかかわらず、NIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の不良なトランスフェクション効率によって、内因性rRNA、リボソームレベル、及び細胞増殖特性のその後の分析が損なわれうる。選択されたクローンにおいてTIP5ノックダウンの効率を決定するために、本発明者らは、定量的及び半定量的な逆転写酵素媒介性PCRによりTIP5 mRNAレベルを測定する(図1)。TIP5発現は、コントロール細胞と比較した場合、NIH/3T3/shRNA−TIP5−1及び−2細胞中で約70〜80%減少する(図1A)。TIP5 mRNAレベルにおける同様の低下が、安定的なHEK293T中で観察される(図1B)。CHO−K1由来細胞中でのTIP5 mRNAレベルを、半定量的PCRによって測定することができるが(図1C)、しかし、TIP5 mRNAの低下は、安定的なNIH/3T3細胞及びHEK293T細胞のそれと同様である。これらの結果は、樹立された細胞系が低レベルのTIP5を含むことを実証する。
【0174】
実施例2:TIP−5ノックダウンは、低下したrDNAメチル化に導く。
マウスrDNAプロモーターのCpGメチル化は、基礎転写因子UBFの結合を損ない、前開始複合体の形成が妨げられる。NIH/3T3細胞において、rRNA遺伝子の約40%〜50%がCpGメチル化配列を含み、転写的にサイレントである。ヒト、マウス、及びチャイニーズハムスターにおけるrDNAプロモーターの配列及びCpG密度は、有意に異なる。ヒトにおいて、rDNAプロモーターは23のCpGを含み、マウス及びチャイニーズハムスターにおいて、それぞれ3及び8のCpGがある(図2A〜C)。TIP5ノックダウンがrDNAサイレンシングに影響を与えることを検証するために、本発明者らは、CCGG配列中のmeCpGの量を測定することによりrDNAメチル化レベルを決定する。ゲノムDNAをHpaII消化し、消化に対する耐性(即ち、CpGメチル化)を、HpaII配列(CCGG)を包含するプライマーを使用した定量的リアルタイムPCRにより測定する。全てのTIP5ノックダウン細胞系においてrRNA遺伝子の大半のプロモーター領域内でのCpGメチル化において減少があり、rDNAサイレンシングを促進する際でのTIP5の鍵となる役割を強調する(図2)。
【0175】
顕著には、TIP5結合及びデノボメチル化はrDNAプロモーター配列に制限されるが、TIP−5が低下したNIH3T3細胞中のCpGメチル化量は、rDNA遺伝子全体にわたり減弱し(遺伝子間、プロモーター、及びコード領域;図2D、E)、TIP5が、一旦、rDNAプロモーターに結合すると、rDNA遺伝子座の全体にわたり、サイレントなエピジェネティックマークの確立のための拡大機構を開始することを示す。
【0176】
実施例3:TIP−5ノックダウン細胞中での増加したrRNAレベル
サイレントな遺伝子の数における減少が、rRNA転写物の量に影響を与えるか否かを決定するために、本発明者らは、第1のrRNAプロセシング部位を包含したプライマーを使用したqRT−PCRにより(図3A)及びin vivo BrUTP取り込みにより(図3B)45SプレrRNA合成を測定する。予測通り、TIP5枯渇NIH/3T3細胞及びHEK293T細胞の両方において、コントロール細胞系と比較したrRNA産生の増強を、両方の解析により検出する。
【0177】
実施例4:TIP5枯渇は、増加した増殖及び細胞成長に導く。
Rasは、細胞の形質転換及び腫瘍形成に関与する周知のオンコジーンであり、ヒトのがんにおいて頻繁に突然変異又は過剰発現する。Green et al., 2009: WO2009/017670は、TIP−5が、網羅的miRNAスクリーンにおいて、FasのRas媒介性エピジェネティックサイレンシングエフェクター(RESE)として機能するとして同定したことを記載する。この刊行物では、Rasエフェクター(例えばTIP−5など)の低下発現が、細胞増殖の阻害をもたらすことが記載されている。
【0178】
本発明者らは、両方のshRNA−TIP5細胞をフローサイトメトリー(FACS)により分析する。図4A、Bに示す通り、S期中の細胞の数は、コントロール細胞と比較して、両方のshRNA−TIP5細胞において有意に高い。同様のプロファイルが、NIH3T3細胞を用いて、TIP5配列に対して向けられたmiRNAを発現するレトロウイルスを用いた感染後10日目に得られる。これらの結果と一致して、shRNA TIP5細胞は、新生DNA中への5ブロモデオキシウリシン(BrdU)の増加した取り込み及びより高いレベルのサイクリンAを示す(図4C)。
【0179】
最後に、本発明者らは、shRNA−TIP5、shRNAコントロール及び親NIH3T3細胞、HEK293細胞とCHO−K1細胞の間で細胞増殖速度を比較する(図4D−F)。驚くべきことに、先行技術の報告とは対照的に、NIH/3T3細胞及びCHO−K1細胞の両方が、miRNA−TIP5配列を発現し、コントロール細胞よりも速い速度で増殖し、サイレントなrRNA遺伝子の数における減少が細胞代謝に対して影響を有することを示唆する。HEK293T中でのTIP5枯渇は、細胞増殖に有意な影響を与えない。なぜなら、これらの細胞は、それらの最高増殖速度に既に達しているからである。これらのデータは、驚くべきことに、TIP−5の枯渇及びrDNAサイレンシングにおける結果的な減少が、細胞増殖を増強することを示す。
【0180】
実施例5:TIP−5ノックダウン細胞におけるリボソーム解析
哺乳動物細胞培養において、タンパク質合成の速度が重要なパラメーターであり、それは、産物収量に直接的に関連する。TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングにおける結果的な減少が、細胞中の翻訳能力のあるリボソームの数を増加させるか否かを決定するために、本発明者らは、最初に、細胞質rRNAのレベルを測定する。細胞質中では、RNAの大半が、リボソーム中にアセンブルされたプロセシングされたrRNAからなる。図5A〜Cに示す通り、全てのTIP5枯渇細胞系が、より多くの細胞質RNAを細胞当たりに含み、これらの細胞がより多くのリボソームを産生することを示す。また、ポリソームプロファイルの分析は、TIP5枯渇HEK293細胞及びCHO−K1細胞が、コントロール細胞と比較して、より多くのリボソームサブユニット(40S、60S、及び80S)を含むことを示す(図5D)。
【0181】
実施例6:TIP−5ノックダウンは、レポータータンパク質の増強産生に導く。
TIP5の枯渇及びrDNAサイレンシングにおける減少が、異種タンパク質産生を増強するか否かを決定するために、本発明者らは、安定なTIP5枯渇NIH/3T3、HEK293T、及びCHO−K1派生物に、ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼSEAP(pCAG−SEAP;FIGURE 6A−C)又はルシフェラーゼ(pCMV−luciferase)の恒常的発現を促進する発現ベクターを用いてトランスフェクションする(図6D、E)。48時間後でのタンパク質産生の定量化は、コントロール細胞系と比較して、TIP5枯渇細胞中でのSEAP及びルシフェラーゼの両方の産生における2〜4倍の増加を明らかにし、TIP5枯渇が異種タンパク質産生を増加することを示す。全てのこれらの結果は、サイレントなrRNA遺伝子の数における減少が、リボソーム合成を増強し、組換えタンパク質を産生する細胞の潜在力を増加することを示す。
【0182】
実施例7:TIP−5ノックアウトは、単球走化性タンパク質1(MCP−1)の生物医薬品産生を増加する。
(a)単球走化性タンパク質1(MCP−1)を分泌するCHO細胞系(CHO DG44)は、空ベクター(MOCKコントロール)又はTIP−5発現をノックダウンするように設計された小型RNA(shRNA又はRNAi)を用いてトランスフェクションする。細胞をその後に選択に供し、安定細胞プールを得る。6回のその後の継代の間に、上清を、両方(偽及びTIP−5枯渇安定細胞プール)のシードストック培養から採取し、MCP−1力価をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。最も高いMCP−1力価が、最も効率的なTIP−5枯渇を伴う細胞プールにおいて見られるのに対し、タンパク質濃度は、偽トランスフェクションされた細胞又は親細胞系において顕著により低い。
【0183】
b)CHO宿主細胞(CHO DG44)を、短いRNA配列(shRNA又はRNAi)を用いて最初にトランスフェクションし、TIP−5発現を低下させ、安定なTIP−5枯渇宿主細胞系を生成する。その後、これらの細胞系及び並行してCHO DG 44野生型細胞を、単球走化性タンパク質1(MCP−1)を目的の遺伝子としてコードするベクターを用いてトランスフェクションする。2回の選択後、上清を、全ての安定細胞プールのシードストック培養から4回のその後の継代の期間にわたり採取し、MCP−1力価をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。最も高いMCP−1力価及び産生性が、最も効率的なTIP−5枯渇を伴う細胞プールにおいて見られるのに対し、タンパク質濃度は、偽トランスフェクションされた細胞又は親細胞系において顕著により低い。
【0184】
c)a)又はb)に記載される同じ細胞を、バッチ発酵又は流加発酵に供する場合、全MCP−1力価における差はさらにより明白になる:TIP−5の低下発現を伴うトランスフェクションされた細胞は、より速く成長し、また、細胞当たり及び時間当たりより多くのタンパク質を産生するため、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い産生性を示す。両方の特性は、全プロセス収量に対してポジティブな影響を有する。従って、Tip5欠失細胞は、有意により高いMCP−1収集力価を有し、より効率的な産生プロセスに導く。
【0185】
実施例8:TIP−5遺伝子のノックアウトは、rRNA転写を増加させ、増殖を最も効率的に増強する。
TIP−5発現の一定に低下したレベルを伴う改善された産生宿主細胞系を生成するための最も効率的な方法は、TIP−5遺伝子の完全ノックアウトを生成することである。この目的のために、相同組換えを使用する又はZink−Finger Nuclease(ZFN)技術を利用し、Tip−5遺伝子を破壊する又はその発現を防止することができる。相同組換えはCHO細胞において効率的ではないため、本発明者らはTIP−5遺伝子内に二本鎖切断を導入するZFNを設計し、それにより機能的に破壊する。TIP−5の効率的なノックアウトを制御するために、ウエスタンブロットを、抗TIP−5抗体を使用して実施する。メンブレン上で、TIP−5発現がTIP−5ノックアウト細胞中で検出されないのに対し、親CHO細胞系はTIP−5タンパク質に対応する明かなシグナルを示す。
【0186】
次に、rRNA転写を、TIP−5ノックアウトCHO細胞及び親CHO細胞系中で分析する。このアッセイによって、親細胞と比較して、及び、また、低下したTIP−5発現レベルだけを伴う細胞と比較して、TIP−5ノックアウト細胞中でのより高いレベルのrRNA合成及び増加したリボソーム数が確認される。
【0187】
さらに、TIP−5について欠損した細胞は、より速く増殖し、TIP−5野生型細胞及びTIP−5発現が干渉RNA(例えばshRNA又はRNAiなど)の導入により低下しただけの細胞系と比較して、流加プロセスにおいてより高い細胞数を示す。
【0188】
実施例9:TIP−5欠失細胞における増強した治療用抗体産生
(a)ヒトモノクローナルIgGサブタイプ抗体を分泌するCHO細胞系(CHO DG44)を、空ベクター(MOCKコントロール)又はTIP−5発現をノックダウンするように設計された小型RNA(shRNA又はRNAi)を用いてトランスフェクションする。細胞をその後に選択に供し、安定細胞プールを得る。あるいは、TIP−5を、TIP−5遺伝子の欠失(ノックアウト)により枯渇させる。6回のその後の継代の間に、上清を、両方(偽及びTIP−5枯渇安定細胞プール)のシードストック培養から採取し、抗体力価をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。最も高いIgG力価が、TIP−5枯渇細胞の培養において測定されるのに対し、タンパク質濃度は、偽トランスフェクションされた細胞又は親細胞系において顕著により低い。
【0189】
b)TIP−5を、CHO宿主細胞(CHO DG44)において、TIP−5配列にハイブリダイズする短いRNA配列(shRNA又はRNAi)を用いたトランスフェクションにより又はTIP−5遺伝子の安定的なノックアウトにより枯渇させる。その後、これらの細胞系及び並行してCHO DG 44野生型細胞を、抗体の重鎖及び軽鎖を目的の遺伝子としてコードする発現コンストラクトを用いてする。安定的にトランスフェクションされた細胞集団を生成し、上清を、全ての安定細胞プールのシードストック培養から4回のその後の継代の期間にわたり採取する。培養上清中の抗体濃度をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。TIP−5枯渇細胞に由来する細胞プールは、MOCKコントロール及び親未改変DG44細胞系(顕著により低いIgG量を産生する)と比較して、最も高い抗体力価及び産生性を示す。c)a)又はb)に記載される同じ細胞を、バッチ発酵又は流加発酵に供する場合、全抗体力価における差はさらにより明白になる:TIP−5枯渇細胞は、より速く成長し、また、細胞当たり及び時間当たりより多くのタンパク質を産生するため、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い産生性を示す。両方の特性は、全プロセス収量に対してポジティブな影響を有する。従って、TIP−5欠失細胞は、有意により高いIgG収集力価を有し、より効率的な産生プロセスに導く。
【0190】
実施例10:SNF2Hのノックダウンは、増加したタンパク質産生及び改善した細胞成長に導く。
(a)ヒトモノクローナルIgGサブタイプ抗体を分泌するCHO細胞系(CHO DG44)は、空ベクター(MOCKコントロール)又はSNF2H発現をノックダウンするように設計された小型RNA(shRNA又はRNAi)を用いてトランスフェクションする。細胞をその後に選択に供し、安定細胞プールを得る。あるいは、SNF2Hを、SNF2H遺伝子の欠失/破壊(ノックアウト)により枯渇させる。6回のその後の継代の間に、上清を、両方(偽及びSNF2H枯渇安定細胞プール)のシードストック培養から採取し、抗体力価をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。最も高いIgG力価が、SNF2H枯渇細胞の培養において測定されるのに対し、タンパク質濃度は、偽トランスフェクションされた細胞又は親細胞系において顕著により低い。
【0191】
b)SNF2Hを、CHO宿主細胞(CHO DG44)において、SNF2H配列にハイブリダイズする短いRNA配列(shRNA又はRNAi)を用いたトランスフェクションにより又はSNF2H遺伝子のノックアウトにより枯渇させる。その後、これらの細胞系及び並行してCHO DG 44野生型細胞を、抗体の重鎖及び軽鎖を目的のタンパク質としてコードする発現コンストラクトを用いてトランスフェクションする。安定的にトランスフェクションされた細胞集団を生成し、上清を、全ての安定細胞プールのシードストック培養から4回のその後の継代の期間にわたり採取する。培養上清中の抗体濃度をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。SNF2H枯渇細胞に由来する細胞プールは、MOCKコントロール及び親未改変DG44細胞系(顕著により低いIgG量を産生する)と比較して、最も高い抗体力価及び産生性を示す。
【0192】
c)a)又はb)に記載される同じ細胞を、バッチ発酵又は流加発酵に供する場合、全抗体力価における差はさらにより明白になる:SNF2H枯渇細胞は、より速く成長し、また、細胞当たり及び時間当たりより多くのタンパク質を産生するため、それらは、より高いIVCを示し、同時により高い産生性を示す。両方の特性は、全プロセス収量に対してポジティブな影響を有する。従って、SNF2H欠失細胞は、有意により高いIgG収集力価を有し、より効率的な産生プロセスに導く。
【0193】
実施例11:UBFの過剰発現は、rRNA合成を増強する。
リボソーム産生は、rRNA及びrタンパク質の協調発現及びアセンブリを要求する。基礎rRNA転写因子である上流結合因子(UBF)の過剰発現が、また、45SプレrRNA転写の速度における増加ならびに結果的に増強したリボソーム産生及び異種タンパク質合成に導くか否かを決定するために、本発明者らは、SEAP発現HEK293T細胞及びHeLa細胞を、UBFをコードする恒常的発現ベクター又は親コントロールベクターを用いてトランスフェクションする。UBFは活性なrRNA遺伝子に結合し、転写開始を促進し、伸長速度を調節する。図7に示す通り、UBFは、45SプレrRNA合成を、用量依存的な様式で、HEK293細胞系及びHeLa細胞系の両方において刺激する。
【0194】
このように、UBF過剰発現及びTIP−5のノックダウンは、増加するrRNA合成の効果を共有する。UBF過剰発現は、また、リボソーム生合成及びタンパク質産生を増強する。
【0195】
実施例12:UBFの過剰発現は、抗体の生物医薬品タンパク質産生を増加する。
(a)ヒト化抗CD44v6 IgG抗体BIWA 4を分泌する抗体産生CHO細胞系(CHO DG44)を、空ベクター(MOCKコントロール)又は上流結合因子(UBF)をコードする発現コンストラクトを用いてトランスフェクションし、全てのサンプルをその後に選択に供し、安定細胞プールを得る。6回のその後の継代の間に、上清を、全ての安定細胞プールのシードストック培養から採取し、IgG力価をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。最も高い値が、UBF過剰発現細胞プールにおいて見られ、そこでは、IgG発現が、MOCK細胞又は非トランスフェクション細胞と比較して、顕著に増強される。非常に類似の結果を、安定トランスフェクタントをバッチ発酵又は流加発酵に供する場合に得ることができる。これらの設定の各々において、UBFの過剰発現は、増加した抗体分泌に導き、UBFが、連続培養中で又はバイオリアクターバッチ培養もしくは流加培養中で成長された細胞の特異的な産生能力を増強することができることを示す。
【0196】
b)CHO宿主細胞(CHO DG44)を、UBFをコードするベクターを用いて最初にトランスフェクションし、選択圧力に供し、UBFの異種発現が実証される細胞系を選ぶ。その後に、これらの細胞系及び並行してCHO DG 44野生型細胞を、ヒト化抗CD44v6 IgG抗体BIWA 4を目的の遺伝子としてコードするベクターを用いてトランスフェクションする。2回の選択後、上清を、全ての安定細胞プールのシードストック培養から6回のその後の継代の期間にわたり採取し、IgG力価をELISAにより決定し、細胞の平均数により割り、特異的な産生性を算出する。再び、IgG力価が、コントロールと比較して、UBF過剰発現培養物中で顕著に増強される。また、流加培養において、UBFの異種発現は、増加したIgG産生をもたらす。合わせると、これらのデータは、UBFの過剰発現が、連続培養中で又はバイオリアクターバッチ培養もしくは流加培養中で成長された細胞の特異的な産生能力を増強することができることを示す。
【0197】
実施例13:TIP−5のノックアウト及びUBFの過剰発現は、相乗的に作用し、rRNA合成及び治療用タンパク質産生を増強する。
本発明において、本発明者らは、TIP−5の低下発現及びUBFの過剰発現が、増強したrRNA合成をもたらすとの証拠を提供する。本発明者らは、また、TIP−5枯渇がrDNA遺伝子の低下したメチル化をもたらすことを示す。脱メチル化が、クロマチン修飾因子(例えばヒストンアセチラーゼなど)及び結合転写因子(例えばUBFなど)の動員のために必須であるため、本発明者らは、両方のアプローチがrRNA合成に相乗的に作用し、それにより、メチル化のTIP−5枯渇媒介性低下が、その後のUBF動員及び結合のためにrRNA遺伝子の接触性を提供するか否かを仮定する。
【0198】
(A)この仮定をテストするために、本発明者らは、組み合わせたTIP−5枯渇及びUBFの過剰発現を伴う細胞系を生成する。rRNA合成をそれらの細胞系、UBFを過剰発現した又はTIP−5中に欠失を有する細胞、及び非改変親細胞系において比較した場合、rRNA合成は、再び、TIP−5枯渇細胞中で、また、UBF過剰発現細胞系中で、コントロールと比較してより高い。重要なことに、組み合わせたTIP−5の欠失及びUBF過剰発現は、さらにより高いrDNA遺伝子転写ならびにより高いリボソーム合成をもたらす。これは、両方のアプローチ(TIP−5の枯渇及びUBF過剰発現)の組み合わせが、rRNA合成に対して相乗効果を有することを示す。
【0199】
(B)(A)において生成された細胞を、目的のタンパク質をコードする発現コンストラクトを用いてトランスフェクションし、前記タンパク質の濃度をそれらの細胞の培養液中で比較する場合、最も高い力価が、同時のUBFの過剰発現及びTIP−5のノックアウトを伴う細胞の培養中で測定される。次に、ランキング中にTIP−5枯渇又はUBF過剰発現のいずれかを有する細胞があるのに対し、目的のタンパク質の力価は非改変親細胞系中で最も低い。
【0200】
実施例14:エピジェネティック操作及び分泌操作の組み合わせによるタンパク質産生の相乗的な改善。
本発明において記載するアプローチ、即ち、TIP−5又はSNFH2の枯渇及びUBFの過剰発現は、全てが、rRNA合成、リボソーム生合成、及びそれによりタンパク質翻訳を増強することにより組換えタンパク質産生を増強する。しかし、タンパク質産生は、最適化された翻訳機構だけでなく、しかし、また、タンパク質の輸送及び分泌の翻訳後段階における効率も要求する。従って、本発明者らは、両方の機構(翻訳及び輸送)を、細胞中でのTIP−5遺伝子の欠失及び分泌増強遺伝子CERTの過剰発現により同時に操作することを試みる。
【0201】
この目的のために、破壊されたTIP−5発現を伴うCHO−DG44細胞を、ヒトCERTタンパク質の突然変異体バリアント(CERT Ser132→Ala)をコードするトランスジーンを用いてトランスフェクションする。第2のトランスフェクション段階において、モノクローナルIgGサブタイプ抗体をコードする発現コンストラクトをこれらの細胞中に導入し、安定な細胞集団を生成する。次に、結果として得られる安定な細胞集団を、接種培養及び流加培養に供し、特異的なIgG産生性ならびに得られた全抗体力価を分析する。
【0202】
興味深いことに、最も高い抗体力価及び特異的な産生性が、二重操作細胞において達成される。TIP−5欠失及びCERT過剰発現の両方を持つ細胞により産生される抗体濃度は、単一操作細胞においてよりも顕著により高い。これは、分泌経路中での両方の段階の組み合わせ操作、即ち、TIP−5欠失による翻訳操作及びCERTを介した分泌操作が、分泌タンパク質産生をさらに増強し、最適な産生能力を伴う哺乳動物宿主細胞を生成するための手段であることを示す。
【0203】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法であって、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること、
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させることにより増加させること、及び
d.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む、方法。
【請求項2】
組換えタンパク質発現が、低下したrDNAサイレンシングを伴わない細胞と比較して、前記細胞中で増加し、好ましくは、前記増加は、20%〜100%、より好ましくは20%〜300%、最も好ましくは20%を上回る、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程b)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分のノックダウン又はノックアウトを含み、工程c)が、転写因子の過剰発現を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
転写因子が上流結合因子(UBF)である、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
NoRC成分が、TIP−5又はSNF 2H、好ましくはTIP−5である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
TIP−5をノックアウトする、請求項1〜5記載の方法。
【請求項7】
TIP−5サイレンシングベクターが以下:
a.配列番号1、配列番号2、配列番号8、もしくは配列番号9のshRNA、又は
b.配列番号3、配列番号4、配列番号10、もしくは配列番号11のmiRNA
を含む、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
工程bが、TIP−5のアセチル化を、欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により、好ましくはTIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の過剰発現により防止することを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項9】
SNF2Hをノックアウトする、請求項1〜5記載の方法。
【請求項10】
TIP−5を工程b)においてノックダウンし、UBFを工程c)において過剰発現させる、請求項1〜3記載の方法。
【請求項11】
TIP−5のアセチル化を、欠失もしくは突然変異のいずれかにより、又は、アセチル化することができないTIP−5バリアントの過剰発現により、好ましくは工程b)においてTIP−5のK633又はK649リシン突然変異体の過剰発現により防止し、UBFを工程c)において過剰発現させる、請求項1、2、又は8記載の方法。
【請求項12】
加えて、セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現が前記細胞中で増加され、CERTが、好ましくは、CERT野生型又はCERT Ser132→Ala突然変異体である、請求項1〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
目的のタンパク質を細胞中で産生するための方法であって、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること、
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させることにより増加させること、及び
d.前記細胞を、目的の前記タンパク質の発現を可能にする条件下で培養すること
を含む、方法。
【請求項14】
方法が、加えて、以下:
e.目的の前記タンパク質を精製すること
を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
組換えタンパク質発現が、低下したrDNAサイレンシングを伴わない細胞と比較して、前記細胞中で増加し、好ましくは、前記増加は、20%〜100%、より好ましくは20%〜300%、最も好ましくは20%を上回る、請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
工程b)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分のノックダウン又はノックアウトを含み、工程c)が、転写因子の過剰発現を含む、請求項13〜15記載の方法。
【請求項17】
転写因子が上流結合因子(UBF)である、請求項13又は16記載の方法。
【請求項18】
NoRC成分が、TIP−5又はSNF 2H、好ましくはTIP−5である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
TIP−5をノックダウンし、UBFを過剰発現させる、請求項13〜16記載の方法。
【請求項20】
組換えタンパク質の産生のための宿主細胞を生成する方法であって、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で低下させること、
c.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子の発現を増加させることにより増加させること、
d.場合により、単一細胞クローンを選択すること、及び
e.宿主細胞を得ること
を含む、方法。
【請求項21】
工程b)が、核小体リモデリング複合体(NoRC)の成分のノックダウン又はノックアウトを含み、工程c)が、転写因子の過剰発現を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
NoRC成分が、TIP−5又はSNF 2H、好ましくはTIP−5であり、転写因子が、上流結合因子(UBF)である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項20〜22記載の方法のいずれかに従って生成された細胞。
【請求項24】
細胞が、真核細胞、好ましくは哺乳動物、齧歯類、又はハムスター細胞である、請求項1〜22記載の方法のいずれか又は請求項23記載の細胞。
【請求項25】
ハムスター細胞が、CHO細胞、例えばCHO−K1、CHO−S、CHO−DG44、又はCHO−DUKX B11など、好ましくはCHO−DG44細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
工程b)及びc)の順番を逆転させることができる、請求項1〜22、24又は25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法であって、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で、好ましくはTIP−5のノックダウンにより又はTIP−5のアセチル化の防止により低下させること、
c.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、
d.場合により、リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子、好ましくはUBFの発現を増加させることにより増加させること、及び
e.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む、方法。
【請求項28】
組換えタンパク質発現を細胞中で増加させるための方法であって、以下:
a.細胞を提供すること、
b.リボソームRNA転写を前記細胞中で、転写因子、好ましくはUBFの発現を増加させることにより増加させること、
c.セラミドトランスファータンパク質(CERT)の発現を前記細胞中で増加させること、
d.場合により、リボソームRNA遺伝子(rDNA)サイレンシングを前記細胞中で、好ましくはTIP−5のノックダウンにより又はTIP−5のアセチル化の防止により低下させること、及び
e.前記細胞を、タンパク質発現を可能にする条件下で培養すること
を含む、方法。

【図1(C)】
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【図1(A)】
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【図1(B)】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図2(C)】
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【図2(D)】
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【図2(E)】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4(A)】
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【図4(B)】
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【図4(C)】
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【図4(D)】
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【図4(E)】
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【図4(F)】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図5(C)】
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【図5(D)】
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【図5(E)】
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【図6(A)】
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【図6(B)】
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【図6(C)】
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【図6(D)】
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【図6(E)】
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【図7(A)】
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【図7(B)】
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【公表番号】特表2012−526536(P2012−526536A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510304(P2012−510304)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056588
【国際公開番号】WO2010/130804
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(503385923)ベーリンガー インゲルハイム インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (976)
【Fターム(参考)】