説明

コークスの製造方法及び廃プラスチック粒

【課題】 廃プラスチックをコークス炉装入原料としてコークス炉に装入するに際し、廃プラスチック添加によってコークス炉の膨張圧を抑制する方法を提供する。
【解決手段】 コークス炉装入原料として石炭とともに廃プラスチックを用い、廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とすることを特徴とするコークスの製造方法である。ただし真円度Cとは、個体の長軸に垂直な断面において、個体の外周長をU、個体の断面積をAとしたとき、C=4πA/U2で表される係数である。さらに、廃プラスチックの平均粒度の平均を下記粒度下限値以上とする。
粒度下限値=L×軟化溶融層厚み (1)
ただし、Lは廃プラスチックの種類及び添加率により定まる定数である。また、平均粒度とは、個体の長軸径と短軸径との平均値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉装入原料として石炭とともに廃プラスチックを用いるコークスの製造方法及び廃プラスチック粒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック産業廃棄物、プラスチック一般廃棄物として大量に排出される廃プラスチックの処理に関しては、従来は大部分が埋め立てで処理され、一部が燃焼処理されている。廃プラスチックは、一般に埋め立てにおいては土中の細菌やバクテリアで分解されず、焼却する場合は発熱量が大きく焼却炉に悪影響を及ぼすとともに、塩素を含む廃プラスチックの場合は排ガス中の塩素の処理が問題となっている。埋め立て処分場が将来不足することが予想されることや環境問題の高まりから、このような廃プラスチックのリサイクルの促進が望まれている。
【0003】
廃プラスチックのリサイクルの方法としては、プラスチックの再利用のほか、燃焼時の熱の利用や熱分解で得られるガスや油を燃料や化学原料として利用する方法が考えられる。廃プラスチックをコークス炉に添加して処理する方法として、例えば特許文献1、特許文献2ではコークス製造用装入炭に廃プラスチックを配合してコークスを製造する方法が開示されている。これらの方法は、コークス乾留時の高温によって廃プラスチックの大部分を熱分解し、水素、メタン、エタン、プロパン等の高カロリー還元分解ガスとして、コークス炉ガスとして回収する方式のものである。
【0004】
多量のプラスチックを石炭中に均一混合して使用する方法では、コークス強度の低下を引き起こすので、特許文献2においては廃プラスチックの添加量を1質量%以下とする必要があるとしている。また上記コークス強度の低下防止を図るためには粘結性の高い粘結炭の配合割合を増加させることが必要であった。しかし、粘結炭は非微粘結炭に比べて資源賦存量が少なく、かつ高価である。
【0005】
特許文献3においては、廃プラスチックの添加量が同じである場合、添加する廃プラスチックの平均粒径が大きいほど石炭とプラスチックの接する面積は減少するので、脆弱箇所を減らすことができるとし、コークス炉に装入する廃プラスチックの平均粒径を石炭の平均粒径の10倍以上とすることにより、廃プラスチックの添加量を増大してもコークス強度の低下を抑制できるとしている。石炭の平均粒径は0.6〜2.0mmが好ましいとしている。
【0006】
一方、特許文献4においては、プラスチックの粒度が十分小さい場合、プラスチック熱分解後空隙は、軟化溶融して膨れた石炭粒子によって埋められてしまうことを見出した。この文献によれば、プラスチック粒子の大きさが軟化溶融層内にほぼ完全に吸収されてしまうような大きさであれば、プラスチック熱分解後空隙は軟化溶融層中に埋没してしまうため、プラスチック粒度が小さいほどコークス強度に及ぼす悪影響は小さくなる。これは、プラスチックの大きさが軟化溶融層の厚みの30%よりも大きくなると、廃プラスチックの熱分解により発生するガスが軟化溶融層の外側に抜けてしまい、軟化溶融層の膨張を促進する効果が失われるのに対し、特許文献4に記載のものは軟化溶融層中に埋没する程度に小さい粒度のものを用いるためである。そして、廃プラスチックの種類および添加率により変わる定数Kを定め、粒度上限値を「K・軟化溶融層厚み」として定め、粒度上限値以下の大きさに調製した廃プラスチック粒状物を用いることによって強度の高い高炉用コークスを製造できるとしている。
【0007】
以上により、廃プラスチック添加によるコークス強度低下を抑制するには、プラスチック粒度を特許文献4に記載のように小さくするか、あるいは特許文献3に記載のように大きくすればよいことがわかる。
【0008】
コークス炉の炭化室で石炭を乾留してコークスを製造する過程で、石炭は加熱されることにより膨張し、コークス炉の炉壁に圧力を及ぼすが、この圧力のことを一般に膨張圧と呼んでいる。この膨張圧が異常に高くなると、コークス炉の炉壁が直接損傷して操業不能になったり、コークスの炭化室から炉外への排出時(押し出し時)に抵抗(押し出し抵抗)が増大し、炉壁に過大な負荷を加えることにより、炉壁損傷の原因となる。このため、コークス炉の操業において膨張圧をコークス炉損傷の許容限界値以下に管理することは、重要な課題である。特に、近年コークス炉の老朽化が進み、炉体強度が低下することにより許容限界値が低下するとともに、近年の調湿炭法などの石炭事前処理技術の導入によりコークス炉炭化室内の石炭装入嵩密度が上昇し、膨張圧は増加傾向にあり、コークス炉の延命のために膨張圧管理はますます重要な課題となっている。
【0009】
特許文献5においては、従来の配合炭を構成する各銘柄石炭の膨張圧の相加平均値から配合炭の膨張圧を推定する際に、膨張圧の低い単味炭の配合割合を増やす代わりに、簡便な膨張圧の低減方法を用いることで膨張圧を低減し、膨張圧を安定的且つ確実に、コークス炉が損傷しない許容限界値以下に制御し、かつ一定強度以上のコークスを製造するためのコークス炉操業方法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開昭48−34901号公報
【特許文献2】特開平8―157834号公報
【特許文献3】特開2001−49263号公報
【特許文献4】特開2002−327182号公報
【特許文献5】特開2001−214171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献5には配合炭膨張圧を推定する方法、粘結剤添加により膨張圧を抑制する方法が開示されているが、コークス炉の炉体老朽化が進行している中、さらに膨張圧を抑制する手段が求められている。
【0012】
一方、前述のとおり、廃プラスチックをコークス炉装入原料としてコークス炉に装入する方法が種々の文献に開示されている。これら文献においてはコークス強度のみに着目しており、廃プラスチック添加によってコークス炉の膨張圧を抑制する方法については何ら開示されていない。
【0013】
本発明は、廃プラスチックをコークス炉装入原料としてコークス炉に装入するに際し、廃プラスチック添加によってコークス炉の膨張圧を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1)コークス炉装入原料として石炭とともに廃プラスチックを用い、廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とすることを特徴とするコークスの製造方法。
ただし真円度Cとは、個体の長軸に垂直でかつ短軸を含む断面において、個体の外周長をU、個体の断面積をAとしたとき、C=4πA/U2で表される係数である。以下同じ。
ここで長軸とは、粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最大となる平行線を選択し、その平行線と粒子との接点を通る軸であって、該平行線に直角な方向を有する軸を意味する。短軸とは長軸に平行な方向の2本の平行線で粒子をはさんだとき、その平行線と粒子との接点を通る軸であって、長軸に直角な方向を有する軸を意味する。
(2)廃プラスチックの平均粒度の平均が、下記粒度下限値以上であることを特徴とする上記(1)に記載のコークスの製造方法。
粒度下限値=L×軟化溶融層厚み (1)
ただし、Lは廃プラスチックの種類及び添加率により定まる定数である。
また、平均粒度とは、個体の長軸径と短軸径との平均値であり、長軸径とは粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最大となる粒子の幅を意味し、短軸径とは上記長軸径決定時の平行線に直角な方向の2本の平行線で粒子をはさむときの距離を意味する。
(3)廃プラスチック粒の真円度が平均で0.5以下であることを特徴とするコークス炉装入用廃プラスチック粒。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、コークス炉装入原料として石炭とともに廃プラスチックを用いるに際し、廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とすることにより、コークス炉の炉壁にかかる膨張圧を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明においては、石炭とともにコークス炉に装入する廃プラスチックの真円度を定義する。真円度とは、粒状物である個体の断面形状が、真円にどれだけ近いかを示す指標である。そして本発明において、真円度Cとは、個体の長軸に垂直でかつ短軸を含む断面において、個体の外周長をU、個体の断面積をAとしたとき、C=4πA/U2で表される係数である。ここで長軸とは、粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最大となる平行線を選択し、その平行線と粒子との接点を通る軸であって、該平行線に直角な方向を有する軸を意味する。短軸とは長軸に平行な方向の2本の平行線で粒子をはさんだとき、その平行線と粒子との接点を通る軸であって、長軸に直角な方向を有する軸を意味する。
【0017】
真円度は、例えば廃プラスチックの短軸と長軸を決定した後、長軸に垂直でかつ短軸を含む断面で切断し、切断面の面積(A)と外周長(C)を測定して求めればよい。面積および外周長は、画像解析等の方法で求めることが可能である。廃プラスチックの形状にばらつきがある場合は、いくつかの試料の真円度を測定して、その平均値を求めればよい。
【0018】
コークス炉に装入する廃プラスチックを通常の方法で粒状物とする場合、その断面形状は図1(a)に示すような形状であり、その真円度はせいぜい0.9程度である。これに対し、本発明において使用する廃プラスチックは真円度が平均で0.5以下である。真円度が0.5となる廃プラスチック粒の断面形状は、例えば図1(b)に示すような形状を有している。
【0019】
廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とした結果、廃プラスチックの表面には細かい凹凸が形成されることとなる。このように表面に凹凸を有する廃プラスチック粒状物を石炭とともにコークス炉に装入して乾留を行った場合、石炭の軟化溶融時において軟化溶融している石炭とプラスチックの接触面積が大きくなる。このため、軟化溶融した石炭からガスが軟化溶融層の外部に抜けやすくなり、軟化溶融層内のガス圧が低下し、結果としてコークス炉の炉壁にかかる膨張圧も抑制することが可能となる。
【0020】
コークス炉装入物に廃プラスチックを添加した場合、軟化溶融した石炭層内のガスが抜けるのは、主に軟化溶融した石炭と廃プラスチックの界面である。本発明においては、廃プラスチックの真円度が平均で0.5以下と小さいため、石炭と廃プラスチックが接する界面が広くなる。接触面積が大きい方が、ガスが流れる道が多くなるので、結果として軟化溶融層内の圧力を低下させることが可能となり、膨張圧を抑制することができるのである。
【0021】
又、本発明の廃プラスチック粒の真円度が平均で0.5以下であることを特徴とするコークス炉装入用廃プラスチック粒は、これをコークス炉装入原料として石炭とともにコークス炉に装入することにより、膨張圧を抑制することが可能となる。
【0022】
真円度≦0.5の廃プラスチックは、例えば加温して半溶融させた廃プラスチックを押出成型する際に、押出成型機のダイス形状を適正な形状に変えることにより製造することが可能である。あるいは、押し出し成型直後でまだ可塑性がある段階において、廃プラスチックに外部から適度な形状に圧密することにより製造することが可能である。
【0023】
さらに、膨張圧をより一層抑制するために、装入する廃プラスチックの粒度に好適範囲が存在することを見出した。
【0024】
膨張圧の発生原因は、軟化溶融層内に溜まったガスの圧力に起因する。ところが、装入する廃プラスチックの粒度の平均を軟化溶融層厚に対して所定の比率よりも大きい値とすることにより、軟化溶融層内のガスが廃プラスチックを通して外部に抜けやすくなり、結果として軟化溶融層内のガス圧が低下して膨張圧を抑制することが可能となる。
【0025】
ここで、廃プラスチックの平均粒度の平均を下記粒度下限値よりも大きい値とすると好ましい結果を得ることができる。
粒度下限値=L×軟化溶融層厚み (1)
ただし、Lは廃プラスチックの種類及び添加率により定まる定数である。また、平均粒度とは、個体の長軸径と短軸径との平均値であり、長軸径とは粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最大となる粒子の幅を意味し、短軸径とは上記長軸径決定時の平行線に直角な方向の2本の平行線で粒子をはさむときの距離を意味する。すなわち、表面の細かい凹凸は反映されない。具体的には、外径をノギスなどの測定用具で測定すればよい。
【0026】
上記Lの値は、具体的には以下のような方法で求めることができる。種類、粒度が異なる廃プラスチックを、所定の割合で配合炭に混合した後、炉壁に加わる膨張圧をロードセルなどにより直接測定することが可能な可動壁型の試験乾留炉に廃プラスチックを含む配合炭を装入し、乾留中における膨張圧を測定する。ここで、膨張圧が激減する時のプラスチック粒径を求め、この時のプラスチック粒径(mm)/軟化溶融層厚み(mm)を定数のLとすればよい。
【0027】
プラスチックの種類と添加率によってLの値は異なる。これは、プラスチックの種類により、軟化溶融層からのガス抜け性が異なるためである。例えば本発明者の検討例によると、軟化溶融層厚み3〜7mm、廃プラスチック添加率0.3〜3質量%の範囲では、脂肪族系樹脂又は脂肪族系有機化合物の廃プラスチックの場合はL=2〜6、ポリスチレンなどの芳香族系樹脂又は芳香族系有機化合物の廃プラスチックやポリエチレンテレフタレートなど酸素を含む樹脂又は有機化合物の廃プラスチックの場合はL=1〜4であった。具体的には、石炭に対してプラスチックを2質量%添加し、軟化溶融層厚みが5.7mmの場合、脂肪族系の廃プラスチックの場合はL=2.5、ポリスチレンなどの芳香族系のプラスチックやポリエチレンテレフタレートなど酸素を含むプラスチックではL=1.5であった。
【0028】
実際に廃プラスチックを用いるに際しては、廃プラスチックは各種プラスチック(樹脂または有機化合物)の混合物であるため、Lの値については各種プラスチックの混合比率を考慮して定めればよい。
【0029】
コークス炉においては、軟化溶融状態にある層の厚みは、乾留条件、およびコークス炉炉幅方向の位置により異なり、温度勾配が大きい炉壁近傍では薄く温度勾配が緩やかな炭化室中央においては厚くなるが、炭化室内のほとんどの領域において厚みはほぼ一定である。さまざまな操業条件を仮定して軟化溶融層厚みを伝熱モデルにより計算すると、炉幅方向片側において壁面10%、中央側10%を除いた部分に形成される軟化溶融層の厚みはほぼ一定であることがわかる。したがって、軟化溶融層厚みとしては、炉幅方向片側において壁側10%、中央側10%を除いた部分に形成される軟化溶融層の厚みの平均値を用いればよい。
【0030】
一例的には、炉幅450mm(片側225mm)のコークス炉において、炉温1150℃、石炭の軟化溶融温度範囲100℃の条件で炉幅方向各位置における軟化溶融層厚みを伝熱モデルにより計算すると、温度勾配が大きい炉壁近傍では薄く2mm程度であり、温度勾配が緩やかな炭化室中央においては厚く20mm程度であるが、炭化室内のほとんどの領域において厚みはほぼ一定である。ここで、炉幅方向片側において壁側10%(壁から22.5mm)、中央側10%(中央から22.5mm)を除いた部分に形成される軟化溶融層の厚みの平均値は5mmである。さまざまな操業条件を仮定して軟化溶融層の厚みを求めると、およそ3〜7mmの範囲となる。
【0031】
ここで、石炭の軟化溶融温度範囲とは、JIS M8801に規定されたギーセラープラストメーター法による流動性試験において測定される軟化開始温度と固化温度の温度差のことであり、通常60℃〜100℃程度の値である。
【0032】
軟化溶融層の厚みは、先に述べたように大凡5mm程度であるが、コークス炉装入用配合炭の軟化溶融温度範囲、石炭装入嵩密度、およびコークス炉の炉温により異なる。軟化溶融層厚みは、軟化溶融温度範囲が広いほど、石炭装入嵩密度が高いほど、コークス炉の炉温が低いほど厚くなり、装入嵩密度BD、コークス炉の炉温T、軟化溶融温度範囲ΔTのそれぞれの一次関数として表される。さらに、これらの3つのパラメーターを用いて、軟化溶融層の厚みを下記(2)式により求めることができる。
軟化溶融層の厚み(mm)=[a・BD+b・T+c]×(ΔT+25)/100 …(2)
ΔT(℃):コークス炉装入用配合炭の軟化溶融温度範囲である。JIS M8801に規定されたギーセラープラストメーター法による流動性試験において測定される軟化解し温度と固化温度の温度差として定めることができる。
BD(t/m3):石炭の装入嵩密度(乾燥石炭ベース)である。
T(℃):コークス炉の炉温である。
a,b,c:定数である。
ここで定数のa,b,cはコークス炉型式や操業形態により異なるが、本発明者らの検討では、a=4.5〜5.3、b=−0.0076〜−0.0088、c=8.9〜10.4であった。
【0033】
特許文献3においては、添加する廃プラスチックの平均粒径が大きいほど石炭とプラスチックの接する面積は減少するので、脆弱箇所を減らすことができるとしている。特許文献3で述べている「接する面積」には、表面の凹凸よりもプラスチック自体の大きさの方が影響が大きいことを見出した。このため、廃プラスチックの粒度が特許文献3に記載のものと同一でも、表面形状(凹凸)の異なる廃プラスチックを用いることで、特許文献3に記載のものと同一の強度を保持しつつ、それよりも膨張圧を低下させることを可能とした。
【0034】
本発明においては、廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とした上、上述のように粒径の大きな廃プラスチックとするのではなく、(3)式により求まる粒度上限値以下の大きさに調製した粒状物を用いることとしても良い。
粒度上限値(mm)=K・軟化溶融層厚み …(3)
K:廃プラスチックの種類および添加率により定まる定数である。
【0035】
本発明においては、廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とした結果として、軟化溶融した石炭からガスが軟化溶融層の外部に抜けやすくなり、軟化溶融層内のガス圧が低下し、結果としてコークス炉の炉壁にかかる膨張圧も抑制することが可能となる。これに加え、廃プラスチックの粒度を細かくするので、廃プラスチックの熱分解により発生するガスが軟化溶融層内に内包され、結果として軟化溶融層の膨張が促進され(石炭の膨張率が高くなり)、その結果、軟化溶融層内部のガス圧力により、軟化溶融した石炭同士の融着結合が強固になるためである。廃プラスチックの真円度を小さくすることによって膨張圧を抑制し、一方で廃プラスチックの粒度を小さくすることによって膨張率を高くしコークス強度を確保するものである。膨張率が高くなる一方で膨張圧が抑制されるということは一見矛盾するように思えるが、そもそも膨張率は拘束がない条件でどの程度石炭が膨張するかを示す指標、膨張圧は膨張が拘束された条件で炉壁に作用する機械的な力であり、全く異なる概念である。石炭粒子同士が接着融合すればコークス強度は向上するので、コークス強度に影響を及ぼすのは膨張率であり、膨張圧ではない。廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とした上、(3)式により求まる粒度上限値以下の大きさに調製した粒状物を用いると、石炭粒子同士が膨れて接触し、結合するまでは、廃プラスチックから発生したガスは石炭の膨張に作用するが、ひとたび石炭粒子同士がくっついてしまうと、今度は逆に添加した廃プラスチックは過剰なガスを逃がすためのガス抜きとして作用するため、膨張圧は低下するのである。
【0036】
ここで(3)式の定数Kは、軟化溶融層厚み、プラスチック添加率により異なるが、具体的には下記のように石炭の膨張率を測定する方法で求めればよい。
【0037】
すなわち、直径12mmのレトルト(底部密閉、上部開放型)内に、所定の粒度のポリエチレン粒子を石炭に対し所定質量%添加した後、混合物を想定される軟化溶融層厚みに相当する高さまで装入し、外部より均一に加熱し、加熱中における石炭層の膨張挙動を測定し、膨張率が激減するときのプラスチック粒径を求め、プラスチック粒径(mm)/装入高さ(mm)を定数のKとすればよい。
【0038】
例えば軟化溶融層厚み3〜7mm、プラスチック添加率0.3〜3質量%の範囲では、脂肪族系の廃プラスチックの場合はK=0.3〜0.7,ポリスチレンなどの芳香族系のプラスチックやポリエチレンテレフタレートなど酸素を含むプラスチックではK=0.075〜0.175である。具体的には、石炭に対してプラスチックを2質量%添加し、軟化溶融層厚みが5.7mmの場合、脂肪族系の廃プラスチックの場合はK=0.5、ポリスチレンなどの芳香族系のプラスチックやポリエチレンテレフタレートなど酸素を含むプラスチックではK=0.125である。(3)式で定義されるような粒度上限値以下に廃プラスチック粒度を調整して石炭に添加すれば、廃プラスチック未添加時のコークスドラム強度と同程度の強度を持つコークスを製造することが可能である。
【0039】
プラスチックの種類によってKの値が異なるのは、プラスチックの熱分解ガスと石炭との化学的相互作用により、石炭自身の粘結性が阻害される場合があるためである。廃プラスチックを構成する主要なプラスチックのうち、例えばポリエチレンや塩化ビニルのような脂肪族系のプラスチックは石炭粘結性の阻害作用がなく、ポリスチレンのような芳香族系のプラスチックやポリエチレンテレフタレートのような酸素を含むプラスチックは粘結性阻害作用がある。廃プラスチックが脂肪族系プラスチックと芳香族系および酸素を含む廃プラスチックの混合物の場合は、両者の比率に従い、上限値を決める係数Kを変化させればよい。
【0040】
また、廃プラスチック粒度の下限値については理論的にはなく、粉砕および輸送などの実プロセスを考慮して決定すればよい。
【0041】
本発明において、廃プラスチック添加率の上限値については特に定めるものではなく、目的とする強度のコークスが製造できる範囲であれば好いが、添加率が5質量%を越えると、高炉で使用可能な強度をもつコークスを製造することが困難になるので、添加率は5質量%以下であることが望ましい。さらに、廃プラスチックを処理することによりコークスの生産量は低下するので、コークスの生産量と処理したい廃プラスチックの量のバランスを考慮する必要がある。
【0042】
石炭をコークス炉で乾留する場合、その温度は最高で約1,350℃になる。一方、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンは250℃程度から熱分解を起こし始め、約400℃でガス化し、1,350℃ではほぼ完全に分解する。従って、コークス炉で石炭とともに塩素含有廃プラスチックを熱分解する限り、熱分解または乾留温度、乾留パターンは従来の石炭乾留と同じでよい。
【0043】
廃プラスチックが加熱された際に発生する廃プラスチック由来の塩素系ガスは、石炭の乾留中に発生する過剰のアンモニアと反応する。したがってコークス炉から系外に取り出される安水には、塩化アンモニウムが多量に蓄積されるが、これに強塩基、例えば、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を添加することにより、塩化アンモニウムを無害の塩化ナトリウムに転換することが可能である。水酸化ナトリウムの添加量は塩化アンモニウムと同等量、またはそれより多く添加することが望ましい。安水は、系外の脱安設備において、蒸気ストリッピングによってフリーアンモニアを気化除去した後に活性汚泥処理を行い、放流する。脱安設備に入る前に水酸化ナトリウムによって安水中の塩化アンモニウムを塩化ナトリウムとアンモニアにしておけば、安水中に含まれていた窒素成分はすべてアンモニアとして除去でき、脱安設備を出た安水中には無害な塩化ナトリウムしか残存せず、このまま放流しても海水中の窒素分を増大する心配はない。
【実施例】
【0044】
炉幅400mm、炉高600mm、炉長600mmの可動壁型の試験コークス炉を用い、石炭と廃プラスチックを均一に混合し、乾留時間18.5時間の条件で乾留した。焼成後のコークスについては、窒素で冷却した後、JIS K2151に準じたコークスのドラム強度指数(150回転後+15mm指数)を測定した。また、膨張圧を可動壁の外側に設置したロードセルにより測定した。装入炭として、粘結炭70質量%、非微粘結炭30質量%の配合炭を用いた。石炭とともに装入する廃プラスチックとして、ポリエチレン50質量%、ポリスチレン50質量%からなる配合のものを用いた。廃プラスチックの添加率はいずれも2%とした。
【0045】
廃プラスチックは、加温して半溶融させた廃プラスチックを押出成型することにより固形物としたものを用いた。また、押出成型機のダイス形状を変えることにより、真円度の異なる廃プラスチックを製造した。ここで、廃プラスチックの平均粒度の平均を、10、20、30、40mmとした。真円度の平均は、本発明例No.1〜4が0.5、比較例No.1〜4が0.9であった。
【0046】
このとき、コークス炉装入用配合炭の軟化溶融温度範囲、石炭装入嵩密度、およびコークス炉の炉温から(2)式により求めた軟化溶融層の厚みは4.7mmであり、(1)式から求めた廃プラスチック粒度下限値はL=2として9.4mmであり、廃プラスチック粒度は本発明の範囲内である。ここで、(2)式の定数としては、a=5.04、b=−0.08、c=9.9を用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
比較例No.1〜4はいずれも膨張圧が10〜12kPaと高かったのに対し、本発明例No.1〜4は膨張圧が7〜8kPaと良好な値であった。一方、コークス強度については、本発明例と比較例とではほぼ同様の値となり、即ち従来と同様のコークス強度を確保することができた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】真円度について説明する図であり、(a)は真円度が0.9の場合、(b)は真円度が0.5の場合を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉装入原料として石炭とともに廃プラスチックを用い、廃プラスチックの真円度を平均で0.5以下とすることを特徴とするコークスの製造方法。
ただし真円度Cとは、個体の長軸に垂直でかつ短軸を含む断面において、個体の外周長をU、個体の断面積をAとしたとき、C=4πA/U2で表される係数である。以下同じ。
ここで長軸とは、粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最大となる平行線を選択し、その平行線と粒子との接点を通る軸であって、該平行線に直角な方向を有する軸を意味する。短軸とは長軸に平行な方向の2本の平行線で粒子をはさんだとき、その平行線と粒子との接点を通る軸であって、長軸に直角な方向を有する軸を意味する。
【請求項2】
廃プラスチックの平均粒度の平均が、下記粒度下限値以上であることを特徴とする請求項1に記載のコークスの製造方法。
粒度下限値=L×軟化溶融層厚み (1)
ただし、Lは廃プラスチックの種類及び添加率により定まる定数である。
また、平均粒度とは、個体の長軸径と短軸径との平均値であり、長軸径とは粒子を平面上に安定させ、その粒子の平面上への投影像を2本の平行線ではさんだとき、その平行線の間隔が最大となる粒子の幅を意味し、短軸径とは上記長軸径決定時の平行線に直角な方向の2本の平行線で粒子をはさむときの距離を意味する。
【請求項3】
廃プラスチック粒の真円度が平均で0.5以下であることを特徴とするコークス炉装入用廃プラスチック粒。

【図1】
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【公開番号】特開2006−28277(P2006−28277A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206780(P2004−206780)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】