説明

コークス炉における消火電車の走行制御方法

【課題】干渉可能性がある区間内に複数の消火電車が存在し得る場合であっても、消火電車の干渉を最小限に留めること。
【解決手段】コークス炉1における消火電車3A,3Bの走行制御方法は、消火電車3Aが消火電車3Bとの干渉が発生するコークス炉団2A2側に走行する場合、消火電車3Aが、コークス炉団2A2におけるコークスの受け取りが遅延しない範囲で最大限、消火電車3Bとの干渉が発生しない場所で待機してからコークス炉団2A2に向かうように、消火電車3Aの走行スケジュールを制御するステップを含む。これにより、干渉可能性がある区間内に複数の消火電車が存在し得る場合であっても、消火電車の干渉を最小限に留めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉における消火電車の走行制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークス炉において乾留された赤熱状態のコークス(以下、赤熱コークスと略記)は、押出機によってガイド機を介して消火電車へと払い出され、消火電車によって乾式消火設備(CDQ設備)又は湿式消火設備(WQ設備)へと搬送される。乾式消火設備では、赤熱コークスは不活性ガスによって冷却され、湿式消火設備では、赤熱コークスは散水によって冷却される。乾式消火設備には赤熱コークスの顕熱を蒸気として回収できるというメリットを有することから、乾式消火設備を利用したコークス炉の操業効率は湿式消火設備を利用したコークス炉の操業効率と比較して高い。このため、近年、コークス炉においては乾式消火設備の導入が積極的に進められているが、既設の湿式消火設備が乾式消火設備と併用されるケースも多い。
【0003】
乾式消火設備と湿式消火設備とが併用されているコークス炉において、一本の線路上を複数の消火電車が走行し、複数の消火電車が共通の乾式消火設備を利用する場合には、消火電車の干渉が発生しやすい。消火電車の干渉が発生した際は、乾式消火設備への赤熱コークスの搬送量に制約が生じ、干渉によって乾式消火設備へのアクセスが困難になった消火電車が赤熱コークスを湿式消火設備に搬送することになるために、コークス炉の操業効率が低下する。このような背景から、消火電車の干渉の発生頻度を低減するための消火電車の走行制御方法が提案されている(特許文献1参照)。詳しくは、この方法は、2台の消火電車が共通に用いる冷却設備の両側に排除区間を設定し、一方の消火電車が排除区間内において作業を行う際には他方の消火電車の動作を休止させるように、2台の消火電車の窯出しスケジュールを同期させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−294868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、2台の消火電車の窯出しスケジュールを同期させたコークス炉の操業は、スケジュールに狂いが生じると実現することが困難になる。すなわち、一般に、コークス炉からのコークスの押出が計画通りに行われることは稀であり、予定されていた作業ブロック間の休止期間は頻繁に変化するために、2台の消火電車の窯出しスケジュールを同期させてコークス炉の操業を行うことは困難である。このため、干渉可能性がある区間内に複数の消火電車が存在し得る場合であっても、消火電車の干渉を最小限に留めることが可能なコークス炉における消火電車の走行制御方法の提供が期待されていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、干渉可能性がある区間内に複数の消火電車が存在し得る場合であっても、消火電車の干渉を最小限に留めることが可能なコークス炉における消火電車の走行制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るコークス炉における消火電車の走行制御方法は、複数のコークス炉団と、該複数のコークス炉団のうちの一つのコークス炉団側に配置されたコークスの消火設備と、該複数のコークス炉団からコークスを受け取り、受け取ったコークスを該消火設備に搬送する、単一の軌条上に配置された2台の消火電車とを備えるコークス炉における消火電車の走行制御方法であって、一方の消火電車が2台の消火電車の干渉が発生するコークス炉団に走行する場合、一方の消火電車が、該コークス炉団におけるコークスの受け取りが遅延しない範囲で最大限、消火電車の干渉が発生しない場所で待機してから該コークス炉団に向かうように、一方の消火電車の走行スケジュールを制御するステップを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るコークス炉における消火電車の走行制御方法によれば、干渉可能性がある区間内に複数の消火電車が存在し得る場合であっても、消火電車の干渉を最小限に留めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御方法が適用されるコークス炉の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】図3は、本発明及び従来技術の消火電車の走行制御方法の違いを説明するためのダイヤグラム図である。
【図4】図4は、本発明及び従来技術の消火電車の走行制御方法の違いを説明するためのダイヤグラム図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御方法について説明する。
【0011】
〔コークス炉の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御方法が適用されるコークス炉の構成について説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御方法が適用されるコークス炉の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御方法が適用されるコークス炉1は、2つのコークス炉団2A,2Bと、2台の消火電車3A,3Bと、乾式消火設備(CDQ設備)4と、湿式消火設備(WQ設備)5とを主な構成要素として備えている。コークス炉団2A,2Bは、消火電車3A,3Bの走行方向に沿って配列されている。各コークス炉団は複数のコークス窯6によって構成されており、各コークス窯6から赤熱コークスが押し出される。
【0013】
消火電車3A,3Bは、共通の一本の軌条7上を走行する。消火電車3Aは、コークス炉団2Aから押し出された赤熱コークスをCDQ設備4に搬送する。消火電車3Bは、コークス炉団2Bから押し出された赤熱コークスをCDQ設備4又はWQ設備5に搬送する。CDQ設備4は、コークス炉団2Aの中央部(コークス炉団2A1とコークス炉団2A2との境界線)付近に配設されている。CDQ設備4は、巻上機4a,4bを備え、巻上機4a及び巻上機4bによってそれぞれ消火電車3A及び消火電車3Bによって搬送されてきた赤熱コークスを受け取り、受け取った赤熱コークスを不活性ガスによって冷却する。WQ設備5は、軌条7のコークス炉団2B側の端部に配設されている。WQ設備5は、消火電車3Bによって搬送されてきた赤熱コークスを受け取り、受け取った赤熱コークスを散水によって冷却する。
【0014】
このコークス炉1では、消火電車3A,3Bが停止するまでの走行距離が十分に保たれるように、消火電車3A,3B間には余裕距離が設定されている。また、消火電車3A,3Bの異常接近が想定される場合には、消火電車3A,3Bを非常停止させるインターロック機構が設けられている。
【0015】
〔コークス炉における消火電車の走行制御方法〕
図1に示すコークス炉1では、消火電車3Aが、コークス炉団2Bよりのコークス炉団2A2を構成するコークス窯6から押し出された赤熱コークスを受け取る場合において、コークス炉団2Bから赤熱コークスを受け取った消火電車3BがCDQ設備4の巻上機4bにアクセスした場合、消火電車3Aと消火電車3Bとの干渉が発生する。そこで、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御方法では、図示しない制御装置が以下に示す走行制御処理を実行することによって、消火電車3Aが消火電車3Bとの干渉の可能性がある領域内において窯出しを行う状況においても、消火電車3BがCDQ設備4にアクセスできるように、消火電車3Aの走行スケジュールを制御する。以下、図2に示すフローチャートを参照して、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御方法について説明する。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態であるコークス炉における消火電車の走行制御処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、コークス炉団2Aからの赤熱コークスの押出作業が開始されるタイミングで開始となり、走行制御処理はステップS1の処理に進む。
【0017】
ステップS1の処理では、制御装置が、赤熱コークスが押し出されるコークス窯6の位置が干渉領域であるコークス炉団2A2内又は干渉領域でないコークス炉団2A1内のどちらであるかを判別する。判別の結果、赤熱コークスが押し出されるコークス窯6の位置が干渉領域であるコークス炉団2A2内である場合、制御装置は走行制御処理をステップS2の処理に進める。一方、赤熱コークスが押し出されるコークス窯6の位置が干渉領域でないコークス炉団2A1内である場合には、制御装置は走行制御処理をステップS4の処理に進める。
【0018】
ステップS2の処理では、制御装置が、コークス炉団2A1とコークス炉団2A2との境界線Aの位置、すなわち消火電車3Bとの干渉が発生しない位置において、消火電車3Aを停止させる。これにより、ステップS2の処理は完了し、走行制御処理はステップS3の処理に進む。
【0019】
ステップS3の処理では、制御装置が、赤熱コークスをコークス窯から押し出すために必要な全ての移動機(押出機,ガイド車,装炭車,及び消火電車)が揃う予定時刻から赤熱コークスが押し出されるコークス窯6の位置に消火電車3Aが移動するまでに要する時間を除算した時間を所定時間として、消火電車3Aを停止させてから所定時間が経過したか否かを判別する。そして、制御装置は、所定時間が経過したタイミングで走行制御処理をステップS4の処理に進める。すなわち、制御装置は、赤熱コークスの受け取りが遅延しない範囲で最大限、干渉が発生しない場所で待機してからコークス窯6に向かうように消火電車3Aの走行スケジュールを制御する。
【0020】
ステップS4の処理では、制御装置が、消火電車3Aを赤熱コークスが押し出されるコークス窯6の位置へと走行させる。これにより、ステップS4の処理は完了し、走行制御処理はステップS5の処理に進む。
【0021】
ステップS5の処理では、消火電車3Aが、コークス窯6から押し出された赤熱コークスを受け取る。これにより、ステップS5の処理は完了し、走行制御処理はステップS6の処理に進む。
【0022】
ステップS6の処理では、消火電車3Aが、CDQ設備4の巻上機4aの位置まで移動し、赤熱コークスをCDQ設備4に払い出す。これにより、ステップS6の処理は完了し、走行制御処理はステップS1の処理に戻る。
【0023】
従来の消火電車の走行制御処理では、図3上段に示すように、消火電車はサイクルタイムTの大半を消火電車同士が干渉するエリア内で待機していたために、消火電車同士の干渉が頻繁に発生し、結果としてコークス炉の操業効率が低下していた。これに対して、本発明の一実施形態である走行制御処理では、図3下段に示すように、消火電車は赤熱コークスの受け取りが遅延しない範囲で最大限、干渉が発生しない場所で待機してから消火電車同士が干渉するエリア内に移動する、換言すれば、消火電車は赤熱コークスの受け取りに必要な最小限の時間のみコークス窯6の前にいるようにし、それ以外の時間帯は干渉エリアに立ち入らないようにするので、消火電車同士の干渉が発生し得る時間が短くなり(時間T1,T2→時間T3,T4)、コークス炉の操業効率を向上させることができる。
【0024】
すなわち、従来の消火電車の走行制御処理では、図4に直線L1で示す消火電車3Bのダイヤグラムと図4に破線L2’で示す消火電車3Aのダイヤグラム(破線L3)に余裕距離を加算したダイヤグラムとが交差するために消火電車3Aと消火電車3Bとが干渉する。これに対して、本発明の一実施形態である走行制御処理では、図4に直線L1で示す消火電車3Bのダイヤグラムと図4に破線L2で示す消火電車3Aのダイヤグラム(破線L3)に余裕距離を加算したダイヤグラムとが交差しないために、消火電車3Aと消火電車3Bとが干渉することを抑制できる。
【0025】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者などによりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
1 コークス炉
2A,2A1,2A2,2B コークス炉団
3A,3B 消火電車
4 乾式消火設備(CDQ設備)
4a,4b 巻上機
5 湿式消火設備(WQ設備)
6 コークス窯
7 軌条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコークス炉団と、該複数のコークス炉団のうちの一つのコークス炉団側に配置されたコークスの消火設備と、該複数のコークス炉団からコークスを受け取り、受け取ったコークスを該消火設備に搬送する、単一の軌条上に配置された2台の消火電車とを備えるコークス炉における消火電車の走行制御方法であって、
一方の消火電車が2台の消火電車の干渉が発生するコークス炉団に走行する場合、一方の消火電車が、該コークス炉団におけるコークスの受け取りが遅延しない範囲で最大限、消火電車の干渉が発生しない場所で待機してから該コークス炉団に向かうように、一方の消火電車の走行スケジュールを制御するステップを含むことを特徴とするコークス炉における消火電車の走行制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−224656(P2012−224656A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90571(P2011−90571)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】