説明

コークス炉の熱間積替炉壁の昇温方法

【課題】コークス炉の部分的な熱間補修により積替えた炉壁の昇温において、多数の工数と特別な加熱手段を用いることなく、簡便に均一に昇温を行うことができ、補修部の煉瓦の目地切れや亀裂の発生を防止する。
【解決手段】室炉式コークス炉におけるフリュー21a,21bの煉瓦積替を熱間で行った後に、積替した煉瓦の昇温が終了するまでの間、この煉瓦の昇温を、煉瓦積替を行ったフリュー21a,21bの炉壁煉瓦の下部の一部に開孔35を設け、且つフリュー21a,21bの燃料ガスあるいは空気供給用の開口部であるフリューポート22,23を閉止するともに、フリュー21a,21bに隣接する炭化室10a内に流入させた、奥側の非積替部からの熱気41を開孔35からフリュー21a,21bの内部に導入し、フリュー21a,21bの直上にあるフリュー点検孔30からフリュー21a,21bの内部を上昇してきた熱気41を排気することによって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室炉式コークス炉の炭化室炉壁を熱間で部分的に積替補修したときの積替炉壁の昇温方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、コークス炉の炉体構造を示す炉団方向の縦断面図であり、図8は、コークス炉の窯口近傍の構造を示す水平断面図である。
図7及び図8に示すように、室炉式コークス炉は、石炭を受け入れ加熱乾留するための炭化室10と、燃料ガスを燃焼させて炭化室10に装入された石炭に乾留するための熱量を与える燃焼室20が交互に配置され、その下部に蓄熱用煉瓦を充填した蓄熱室40が各燃焼室20と接続されている。
【0003】
各燃焼室20は、炉長方向に仕切壁煉瓦26で複数のフリュー21に区画されて構成されており、その両側の炉壁煉瓦25が炭化室10に面して石炭に直接接触している。
図8に示すように、燃料として貧ガスと富ガスのいずれかを任意に選択使用できる複式炉の単段バーナー構造においては、各フリュー21の底部に燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23、及び燃料富ガス用ノズル24を備えており、燃料として富ガスのみを使用する単式炉では燃焼空気用ポート23と燃料富ガス用ノズル24を備えている。多段バーナー構造のコークス炉においては、燃焼室底部の燃焼空気用ポートに加えて仕切壁中段部にも燃焼空気用ポートを備えている。
【0004】
コークス炉の炉壁は、装炭や窯出しによる急激な温度変化を受けるとともに、コークスの押出しによって摩耗や側圧を受けるなど、過酷な条件に曝されている。このため、長年の使用のなかで炉壁を構成する煉瓦は目地切れ、クラック、溶損等の損傷を受けるので、煉瓦積替による補修を行う必要が生じることがある。特に窯口に近い炉壁煉瓦25は窯出しのたびに直接大気に曝され、大きな温度変化を受けるため、中央部に比較して損傷の程度が大きくなる傾向にある。
【0005】
老朽化が進んだコークス炉において、このような損傷を受けた窯口に近い炉壁に対して隣接した炉室の操業を停止することなく煉瓦を部分的に積替えする補修法、いわゆる熱間積替補修が実施されるようになっている。
【0006】
熱間積替補修では、補修対象部以外の燃焼室20の燃焼を継続したままで、補修対象のフリュー21への燃料ガスと燃焼用空気の供給を停止して温度を下げながら、補修対象のフリュー21よりも奥側に断熱隔壁を取り付けて炭化室の奥側の高熱から隔離するとともに、補修対象のフリュー21に隣接する炉壁に断熱材を施工してそこからの放射熱を遮断することによって補修作業が可能な環境を確保して、補修対象フリュー21の煉瓦を解体した後、再び煉瓦積みを行って復旧している。
【0007】
図9は、新たに積替えられた炉壁煉瓦を、通常の操業に復帰させる前に高温に昇温する際の昇温予定曲線の一例を示すグラフである。
新たに積替えられた炉壁煉瓦は、通常の操業に復帰させる前に高温(おおよそ1000℃超)に昇温を行わなければならない。その昇温においては、図9にグラフで示すような所定の昇温予定曲線に従って急激な温度変化を避けつつ徐々に、且つ均一に昇温することによって、煉瓦の異常膨張による目地切れや煉瓦のクラック、あるいは炉壁の湾曲を防止することが重要となる。
【0008】
これまでにも、熱間積替補修を行った後の煉瓦の昇温方法として、隣接する燃焼室20の炉壁面に断熱材を装着したまま炭化室10にバーナーを挿入し、あるいはバーナーを使用せず隣接する燃焼室20からの放射熱により加熱する方法(特許文献1)、断熱された空間内に両隣の炭化室10で加熱した空気を導入して加熱する方法(特許文献2)、さらには、炭化室10の奥側に取付けた断熱隔壁に開閉自在の通気孔を設け、炭化室10の奥側から熱気を適宜流入させて加熱する方法(特許文献3)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭49−23564号公報
【特許文献2】特開昭52−62303号公報
【特許文献3】特公昭61−31749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1により開示された方法では、積替炉壁の上下方向の温度差が生じ易いので、均一な昇温にはバーナー等のこまめな調整を要し、状態監視や調整操作が煩雑となる。また、特許文献2により開示された方法を実施するには、加熱に要する高熱空気を吸出するために補修炉室のほかに空状態の炉室を準備する必要があり、生産量の低下が避けられない。
【0011】
特許文献3により開示された方法は、最も多く採用されてきた方法の一つであり、図10にこの昇温方法の実施形態の一例を示す。
図10に示すように、この昇温方法では、積替したフリュー21a及び21bの燃料貧ガス用ポート22及び燃焼空気用ポート23を全て、アルミニウムなどの箔状物27で閉止して蓄熱室で予熱された空気が流入して急激に温度が上昇するのを防ぎながら、窯口を仮設の断熱蓋13で密閉した状態で、炭化室10の奥側に取り付けた断熱隔壁11aに設けた通気孔を適当な開度に開けて、炭化室10の奥側から熱気41を流入させて徐々に加熱する。
【0012】
しかし、特許文献3により開示された昇温方法でも、積替炉壁を均一に昇温するためには、積替炉壁の温度分布を確認しながら複数の通気孔の開度をこまめに調整する必要があり、状態監視や調整操作が煩雑になることは避けられない。
【0013】
また、特許文献1〜3により開示された方法は、いずれも、積替炉壁に炭化室10側から熱を与えて昇温するものであるので、炉壁煉瓦の昇温が先行し、仕切壁煉瓦は炉壁煉瓦からの熱の伝導によって加熱されるので、炉壁煉瓦に比べて仕切壁煉瓦の昇温が遅れ、温度の不均等が生ずるという原理的な欠点がある。
【0014】
さらに、複数の隣接した燃焼室20の熱間補修を連続して実施する場合、積替炉壁の昇温に支障をきたすことが避けられない。すなわち、煉瓦積替を終了し昇温を行っている段階で、昇温が終るのを待たずして、引き続き隣接した燃焼室20の熱間補修を開始するとき、熱間補修を開始する側の炉壁はすでに煉瓦解体あるいは新煉瓦積の状態にあり、炭化室10は奥側の断熱隔壁が取付けられて遮閉されているので、炭化室10の奥側からの熱気41も、対面した燃焼室炉壁からの放射熱も得ることができず、補修を開始する燃焼室20に面した積替炉壁は昇温することが不能になる。
【0015】
そのため、この状態では加熱ができるのは積替炉壁の片側だけで、積替炉壁のもう一方の側は全く加熱できないという状況となる。この事態を回避するためには、積替炉壁の昇温が完了するまで待って隣接の燃焼室の補修に着手することが必要となるが、これは複数の燃焼室を連続して補修する場合、工事工程全体の大幅な増加を招いてしまう。
【0016】
このような事態は、補修を1列ずつ連続して行う場合のみならず、複数列をまとめて連続して補修を行う場合にも、単列施工の場合と同様に、複数列の端の列では片方の炉壁の加熱ができないという問題を生じる。
【0017】
本発明は、このような従来の技術の課題を解消し、コークス炉の熱間積替炉壁の正確、且つ均一な煉瓦の昇温を実現するとともに、隣り合った燃焼室の連続的な熱間積替補修における昇温を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々試験研究を重ねた結果、熱間積替後のフリュー21の炉壁煉瓦の下部の一部を開孔し、且つフリュー21のポートを600℃以上の温度で溶融消失する箔状物あるいは1000℃以上の耐熱性を有する断熱材料によって閉止すると同時に、炭化室10の奥側の熱を遮断するために設けられた断熱隔壁11aの一部を開放することによって,炭化室10内に流入させた炭化室10の奥側の熱気を炉壁煉瓦に設けた開孔からフリュー21内に吸引通気させ、フリュー21の直上にあるフリュー点検孔からフリュー21内を上昇してきた熱気を排出するとともに、フリュー点検孔上部に排気ダクトを接続し、排気ダクトにフリュー21内を通気する空気の流量を自在に調整するためのオリフィスなどの流量調整機能を付与することによって、正確且つ均一に積替炉壁煉瓦を昇温できることを知見し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0019】
本発明は、石炭を受け入れ加熱乾留するための炭化室と、炉長方向へ複数配置される仕切壁煉瓦および、炭化室に臨む炉壁煉瓦によって区画される複数のフリューを備え、燃料ガスを燃焼させて石炭に乾留するための熱量を与える燃焼室とが交互に配置されるとともに、燃焼室の下部にこの燃焼室に接続する蓄熱用煉瓦を充填されて配置される蓄熱室を備える室炉式コークス炉における一部のフリューの煉瓦積替を熱間で行った後に、積替した煉瓦の昇温が終了するまでの間、当該煉瓦の昇温を、
(a)煉瓦積替を行ったフリューの炉壁煉瓦の下部の一部に開孔を設け、且つ(b)このフリューの燃料ガスあるいは空気供給用の開口部であるフリューポートを閉止するともに、(c)このフリューに隣接する炭化室内に流入させた、奥側の非積替部からの熱気を前記の開孔からこのフリューの内部に導入し、このフリューの直上にあるフリュー点検孔からフリューの内部を上昇してきた熱気を排気すること
によって、行うことを特徴とするコークス炉の熱間積替炉壁の昇温方法である。
【0020】
本発明では、煉瓦積替を行ったフリューの直上にある点検孔上部に排気ダクトを接続し、このフリューの内部を上昇する熱気の流量を調整することが好ましい。
これらの本発明では、燃料ガスあるいはエアー供給用の開口部を、600℃以上の温度で溶融消失する箔状物で、又は、1000℃以上の耐熱性を有する断熱材料で、閉止することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、従来技術の問題点を解決し、コークス炉の部分的な熱間補修により積替えた炉壁を、多数の工数と特別な加熱手段を用いることなく、簡便かつ均一に昇温することができ、補修部の煉瓦の目地切れや亀裂の発生を防止することができる。
【0022】
また、本発明により、連続した複数の燃焼室を補修する場合には、積替を終えた煉瓦の昇温と、次の隣り合った炉壁の解体あるいは煉瓦積を時間的に重複して行うことができ、補修工事工程の短縮を図ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、コークス炉の1つの燃焼室の窯口近くの2つのフリューについて炭化室炉底レベルから炉頂まで熱間補修を行う場合の補修部分の断面図である。
【図2】図2は、図1中のA−A断面図であり、1列の燃焼室の端の2つのフリューの熱間積替え終了後の昇温の方法を示す。
【図3】図3は、フリューポートの閉止を断熱材料で行った場合の例のフリューポート付近を部分的に示す垂直断面図である。
【図4】図4は、珪石煉瓦の熱膨張特性曲線の一例のグラフである。
【図5】図5は、燃焼室の端の2つのフリューを1列ずつ連続して熱間補修する場合の昇温の方法を示す水平断面図である。
【図6】図6は、燃焼室の端の2つのフリューを2列ずつ連続して熱間補修する場合の昇温の方法を示す水平断面図である。
【図7】図7は、コークス炉の炉体構造を示す炉団方向の縦断面図である。
【図8】図8は、コークス炉の窯口近傍の構造を示す水平断面図である。
【図9】図9は、新たに積替えられた炉壁煉瓦を、通常の操業に復帰させる前に高温に昇温する際の昇温予定曲線の一例を示すグラフである。
【図10】図10は、特許文献3により開示された昇温方法の実施形態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、従来から行われているように、積替炉壁煉瓦の昇温を、炭化室の奥側、または空状態にした両隣の炭化室からの熱気の導入、あるいは隣接する燃焼室からの放射熱の受容によって積替炉壁の炭化室側からの伝熱によって行うのではなくて、炭化室の奥側の断熱隔壁の一部を開放することによって炭化室内に流入させた熱気を、昇温の対象であるフリューの内部に吸引導入するとともにフリューの下部から上部に通気させて煉瓦の昇温を行う。
【0025】
本発明では、煉瓦積替後のフリューの炉壁煉瓦の下部の一部を開孔し、且つ燃料ガスあるいは空気供給用の開口部であるフリューポートを600℃以上の温度で溶融消失する箔状物、あるいは1000℃以上の耐熱性を有する断熱材料で閉止するとともに、奥側の断熱隔壁の開放部から炭化室内に流入させた炭化室の奥側の熱気を炉壁煉瓦に設けた開孔からフリューの内部に吸引通気させ、このフリューの上部の点検孔を開放して排気ダクトを接続してフリューの内部に流入する熱気の量を適宜調整する。
【0026】
なお、炉壁煉瓦の下部の一部に設けた開孔は、昇温が終了した段階で炉壁煉瓦をもって閉塞復旧すればよい。その際、フリューポート断熱材料で閉止した場合は、それを取り除いたあと開孔の閉塞復旧を行わなければならないが、溶融消失する箔状物で閉止すれば、昇温に伴って箔状物が自然に溶融消失するので、この箔状物を開孔の閉塞復旧の前にことさら取り除く必要がなくなるために好ましい。
【0027】
断熱炉壁の開孔は、1つのフリューに対して少なくとも1か所設けるが、煉瓦積が終了した後に新たに設けてもよいが、煉瓦積を施工するときに設けることが望ましく、炉壁を構成する煉瓦のうち下部の開孔となすべき部位に相当する1段乃至3段分の煉瓦を抜いた状態で煉瓦積することにより開孔することが一般的であり、好ましい。
【0028】
炉壁の開孔は、熱気のフリュー内への導入という目的に適うと同時に、昇温終了後の開孔閉塞を容易に行うことができ、操業に復帰したときの炉壁のガス気密性を確保することができものであればよく、特定の形状には限定されない。例えば、矩形のみならず円形などでもよく、開孔の奥行き方向に水平でもよいし、さらに斜めであってもあるいは突起があってもよい。
【0029】
また、本発明は、窯口近くのツインをなす2つのフリューの熱間補修への適用に限らず、さらに奥側のツインをなす2フリューあるいは4フリュー以上のフリューを含めた熱間補修を行う場合においても、積替補修を行ったフリューのすべてについて、フリューポートを閉止するとともにフリューの片側の炉壁煉瓦の下部の一部に開孔を設けことによって、窯口近くのツインフリューの場合と同様に、適用することができる。
【0030】
本発明は、ツインフリュー式の燃焼様式を有するコークス炉においては、底部のみに燃料貧ガス用ポートと燃焼空気用ポートを有する単段バーナー構造の場合だけでなく、燃焼室中段に燃焼空気用ポートを有する多段バーナー構造においても、底部の貧ガスと燃焼空気用ポートのみならず、同時に中段の燃焼空気用ポートも、底部のポートと同様に箔状物で閉止することによって、単段バーナー構造の場合と全く同様に適用することが可能である。
【0031】
さらに、本発明は、フリューの上部に連通したホリゾンタルカナルを有する燃焼方式のコークス炉においても、積替するフリューと積替しないフリューとを遮断するようにホリゾンタルカナルの中に耐火材料などで遮閉物を施し、積替しないフリューからの燃焼ガスの流入を阻止することによって、ツインフリュー式の燃焼様式の場合と同様に適用することが可能である。
【0032】
次に、本発明を、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
【実施例1】
【0033】
本発明の一実施例として、複式コークス炉において1列の燃焼室の窯口近くのツインをなす単段バーナー構造の2つのフリューのみを単独で熱間積替補修する場合について、図1、図2及び図3を参照しながら説明する。
【0034】
図1は、コークス炉の1つの燃焼室20aの窯口近くの2つのフリュー21a及び21bについて炭化室炉底レベルから炉頂まで熱間補修を行う場合の補修部分(図中、太線で網掛けを施した部分が積替補修対象部分を示す。以下の図においても同様)の断面図であり、図2は、図1中のA−A断面図であり、フリューポート22、23の閉止を箔状物27で行った場合の例を示し、図3は、フリューポート22、23の閉止を断熱材料29で行った場合の例のフリューポート22、23付近を部分的に示す説明図である。
【0035】
フリューポート22、23の閉止を箔状物で行う場合は、図1及び図2に示すように、煉瓦積替したフリュー21a及び21bの左右いずれか片側の炉壁煉瓦の下部の一部を開孔し、且つフリューポート22、23を600℃以上の溶融温度を有する箔状物27で閉止する。
【0036】
図4は、珪石煉瓦の熱膨張特性曲線の一例のグラフである。
炉壁と仕切壁を構成する珪石煉瓦は、図4の熱膨張特性曲線に示すように、おおよそ600℃以下の温度領域で急峻な熱膨張挙動を示すが、それより高い温度領域では熱膨張が緩慢かつ僅少であるという特徴を有する。このため、600℃以下の境域での昇温は急激な煉瓦膨張の発現を抑止すべく、熱気の流入量を精確に制御しながら緩慢かつ均一であることが有効であり、一方で600℃超の高い温度領域に到達して以降は、昇温速度が大きくなっても差しつかえない。
【0037】
したがって、フリューポート22、23を閉止するのに用いる箔状物27は、少なくとも600℃程度までは溶融せず、燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23からの通気を確実に遮閉できるとともに、それ以上の温度になれば溶融し、最終的にコークス炉の通常の操業温度である1000℃以上では溶融消失する特性を有する箔状物が適する。そのような箔状物を用いることによって、前述のように、昇温終了時の炉壁煉瓦の開孔の閉塞復旧に先だってそれを取り除く手間が不要であるという利点がある。
【0038】
そのような意味から、燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23を閉止するのに用いる箔状物27は、600℃以上の溶融温度を有するという温度条件を満たし、気体遮断性を有するとともに、その溶融物が煉瓦を侵食する性質がないという条件を満たす材料であれば、金属、非金属のいずれでも差しつかえないが、溶融温度が660℃である箔状アルミニウムはその性状が要求条件を満たしており、加えて加工の容易さや入手し易さの面からも本用途に適した材料の一つである。
【0039】
なお、箔状アルミニウムは、アルミニウム以外の成分を多量に含むと溶融した後の残渣によって煉瓦が侵食される懸念があるので、それを回避するため、アルミニウム以外の成分の含有率は5質量%未満であることが好ましい。
【0040】
また、燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23を閉止する箔状物27は、煉瓦積みを行う時にポート用煉瓦28とその下の煉瓦の間にはさみ込んで固定するのが、昇温の途中での通気圧力による剥離や飛散を防止する観点から、有効である。
【0041】
一方、燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23の閉止に断熱材料を用いる場合は、図3に示すように、煉瓦積替したフリュー21a及び21bの左右いずれか片側の炉壁煉瓦の下部の一部を開孔し、且つ燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23を1000℃以上の耐熱性を有する断熱材料で閉止する。
【0042】
燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23を閉止するのに用いる断熱材料は、おおよそ1000℃まで溶損することのない耐熱性を有するもので、気体の自由な透過を遮断できる程度の緻密性をもつ材料であれば材質を特定しない。断熱材料の形態としては、燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23の閉止の気密性を確保するために断熱材料を燃料貧ガス用ポート22、燃焼空気用ポート23に形状を合せる必要があることを考慮すると、ケイ酸カルシウムなどを板状に成形した断熱ボード、あるいはブランケット状に加工されたセラミック繊維などが本用途に適した材料である。
【0043】
フリュー点検孔30の上部には、ドラフト効果によって炉壁煉瓦の下部の一部開孔からの熱気の吸引導入を促進し、フリュー21a、21b内の熱気の通気を容易にするために、排気ダクト31を接続することが好ましい。さらに、排気ダクト31には熱気の流量を自在に調整するためのオリフィス32などの流量調整機構を適宜取り付けることが好ましい。
【0044】
このとき、排気ダクト31は、図2に示すように、フリュー21a及び21bの点検孔に接続したダクトを大気排出する前に合流させる構成でもよいし、あるいは図示しないが、それぞれのフリュー21a、21bにそれぞれ単独のダクトを接続し、排気することでも構わない。
【0045】
このような状態で炭化室10aの奥側に設置した断熱隔壁11の一部を開放して炭化室11の奥側の熱気41を炭化室10a内に流入させると、その熱気が炉壁煉瓦25に設けられた開孔35からフリュー21a、21b内に吸引導入され、ドラフトで底部から上部に向かって上昇し、フリュー21a、21bを構成する積替煉瓦を内部から加熱した後、上部の点検孔30に導かれる。
【0046】
熱気41をフリュー21a、21b内の下から上に通気させることによる加熱は、炭化室10a側に熱風を導入する方法や対面する炉壁からの放射熱によって加熱する方法よりも、上下方向の加熱の均一性を保つのに有利である。
【0047】
さらに、フリュー21a、21b内部に熱気41を通気させることによる加熱は、炉壁煉瓦25と仕切壁煉瓦26を同時に加熱することができるので、フリュー21a、21bの内外部の昇温の不均一を抑制できるという点で従来の方法にない優位性を有する。
【0048】
また、フリュー点検孔30に接続された排気ダクト31に備えた流量調整用のオリフィス32の口径を変更することによって、フリュー21a、21bの中に入れた熱電対で測定したフリュー21a、21bの内部温度に応じて熱気41の流量を自在に調整し温度を制御できるようになり、フリュー21a、21bの内部温度を予め設定した温度パターンに沿って上昇させていくことを容易にする。これは、従来の方法において行われるような炭化室の奥側に取り付けられた断熱隔壁11a及び11bの一部開放部の開口面積を変更調整するという煩瑣な作業を繰り返すことなく、オリフィス32の交換のみで簡便に熱気41の流量の制御ができるということを意味しており、作業の手間を軽減するだけでなく温度制御の精度を向上させるうえでも有効である。
【0049】
熱気41の流量調整方法としては、オリフィス32に限ることはなく、例えばバタフライ弁等の流量可変弁を取り付けることによっても必要な機能を満たすことができる。
また、昇温に際して、炭化室10bの奥側に取り付けられた断熱隔壁11は、一切開放はせず、断熱状態を保持したままとして炭化室10bの奥側からの熱気41の流入を遮蔽すると同時に、積替した炉壁煉瓦25は、ブランケット状のセラミック繊維またはボード状の断熱材12で全面を覆って炉壁煉瓦面からの放熱を防止し、かつ対面する炉壁からの放射熱を受けるのを妨げることが好ましい。
【0050】
昇温が終了した段階で、フリューポート21a、21bを閉止していた箔状物27は、自動的に溶融して消失しているので、意図してそれを取り除く必要もなく、炉壁煉瓦25の一部に設けられていた開孔35を炉壁煉瓦で閉塞復旧するとともに、フリュー点検孔30に接続していた排気ダクト31を撤去してフリュー点検孔30の蓋を閉止し、通常の燃焼切替による交互のガス流れに復帰させればよい。
【0051】
また、フリューポートの閉止を断熱材料29で行った場合は、昇温が終了した段階で炉壁煉瓦25の一部に設けられて開孔35から断熱材料29を外部に取り出し、その後で、開孔35を炉壁煉瓦で閉塞復旧するとともに、フリュー点検孔30に接続していた排気ダクト31を撤去してフリュー点検孔30の蓋を閉止し、通常のガス流れに復帰させればよい。
【実施例2】
【0052】
次に、燃焼室の窯口近くの2つのフリューの熱間補修を順次1列ずつ隣りの燃焼室へ連続的に施工する場合について、図5を参照しながら説明する。
図5は、燃焼室の端の2つのフリュー21a、21bを1列ずつ連続して熱間補修する場合の昇温の方法を示す水平断面図である。
【0053】
連続的に施工する場合、燃焼室20aのフリュー21a及び21bの積替が終り、昇温を開始する時点では、次の補修対象である燃焼室20bは、既に旧煉瓦の解体あるいは新煉瓦積作業が始められているので、図10に示したような炭化室の奥側から熱気を導入するなどの従来の方法では、炭化室10bからの熱気の導入だけでなく対面する燃焼室の炉壁からの放射熱の受容も不能となり、積替えた燃焼室の右側から炉壁煉瓦25を昇温することができなくなる。
【0054】
そのため、燃焼室20aの右側と左側の昇温の大きなアンバランスが避けられず、もしもその状態で片側からのみ昇温した場合、不均等昇温に伴なって発生する炉壁の変形、煉瓦亀裂、目地切れなどの事態を招くことが強く懸念されるので、事実上昇温が不可能となる。
【0055】
しかし、実施例1と同様に、本発明を適用することによって、図5に示すように、隣りの燃焼室20bがすでに煉瓦解体あるいは新煉瓦積の状態にあっても、積替えを終了した燃焼室20aのフリュー21a及び21bの積替炉壁を独自に均一に加熱することが可能となる。
【実施例3】
【0056】
本発明の実施の例を、2列の燃焼室の窯口近くの2つの熱間補修を順次隣りあう燃焼室へ2列ずつ連続的に施工する場合について、図6を参照しながら説明する。
図6は、燃焼室の端の2つのフリュー21a、21bを2列ずつ連続して熱間補修する場合の昇温の方法を示す水平断面図である。
【0057】
連続的に2列ずつ施工する場合、燃焼室20a及び20bのそれぞれのフリュー21a及び21bの積替えが終り、昇温を開始する時点では、次の補修対象である燃焼室20c及び20dは、すでに旧煉瓦の解体あるいは新煉瓦積作業が始められているので、燃焼室20aについては、炭化室の奥側から熱気を導入する従来の方法で昇温が可能であるものの、燃焼室20bについては実施例2と同様に、従来の方法で炭化室の奥側から熱気を導入することも対面する燃焼室炉壁からの放射熱の受容することもできず、積替えた燃焼室20bの右側からの昇温ができない。
【0058】
図6に示すように、燃焼室20bのフリュー21a及び21bに、本発明の昇温方法を適用することによって、隣りの燃焼室20cが煉瓦解体あるいは新煉瓦積の状態にあっても、積替えを終了した燃焼室20bのフリュー21a及び21bの積替炉壁を独自に昇温することが可能となる。
【0059】
図6では、積替を行った2列の燃焼室のうち燃焼室20bのみに本発明の方法を適用した例を示したが、燃焼室20a及び20bの双方に本発明の方法を適用することも可能である。
【0060】
なお、単列あるいは2列単位の補修に限らず、3列あるいはそれより多数列の燃焼室の熱間補修を順次隣りあう燃焼室へ連続的に施工する場合についても、2列単位の補修の場合と同様に、本発明の方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
10、10a〜10d 炭化室
11 断熱隔壁
11a 断熱隔壁(一部開放状態)
12 断熱材
13 窯口断熱蓋
20、20a〜20d 燃焼室
21、21a、21b フリュー
22 燃料貧ガス用ポート
23 燃焼空気用ポート
25 炉壁煉瓦
26 仕切壁煉瓦
27 箔状物
28 ポート用煉瓦
29 断熱材料
30 フリュー点検孔
31 排気ダクト
32 調整用オリフィス
35 炉壁煉瓦に設けた開孔
40 蓄熱室
41 熱気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を受け入れ加熱乾留するための炭化室と、炉長方向へ複数配置される仕切壁煉瓦および、前記炭化室に臨む炉壁煉瓦によって区画される複数のフリューを備え、燃料ガスを燃焼させて前記石炭に乾留するための熱量を与える燃焼室とが交互に配置されるとともに、前記燃焼室の下部に該燃焼室に接続する蓄熱用煉瓦を充填されて配置される蓄熱室を備える室炉式コークス炉における一部の前記フリューの煉瓦積替を熱間で行った後に、積替した煉瓦の昇温が終了するまでの間、当該煉瓦の昇温を、
煉瓦積替を行った前記フリューの炉壁煉瓦の下部の一部に開孔を設け、且つ当該フリューの燃料ガスあるいは空気供給用の開口部であるフリューポートを閉止するともに、前記フリューに隣接する炭化室内に流入させた、奥側の非積替部からの熱気を前記開孔から当該フリューの内部に導入し、当該フリューの直上にあるフリュー点検孔から前記フリューの内部を上昇してきた熱気を排気すること
によって行うことを特徴とするコークス炉の熱間積替炉壁の昇温方法。
【請求項2】
前記煉瓦積替を行ったフリューの直上にある点検孔上部に排気ダクトを接続し、前記フリューの内部を上昇する熱気の流量を調整することを特徴とする請求項1に記載されたコークス炉の熱間積替炉壁の昇温方法。
【請求項3】
燃料ガスあるいはエアー供給用の開口部を600℃以上の温度で溶融消失する箔状物で閉止することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたコークス炉の熱間積替炉壁の昇温方法。
【請求項4】
燃料ガスあるいはエアー供給用の開口部を1000℃以上の耐熱性を有する断熱材料で閉止することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載されたコークス炉の熱間積替炉壁の昇温方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−184309(P2012−184309A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47733(P2011−47733)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)