説明

コークス製造用原料の最高流動度の推定方法,コークス製造用原料の配合方法および該配合方法により作製されたコークス製造用原料

【課題】 低品位炭が配合されたコークス製造用原料を作製する場合に、簡便な手法によって、効率的に最適な配合条件を推定し、粘結性あるいは流動性に優れたコークス製造用原料を作製すること。
【解決手段】 予め原料炭の1または2以上の炭種を基準炭として選択し、基準炭の適正流動度の範囲と、基準炭の温度に対する流動度特性曲線と、流動度特性曲線に基づく基準炭の最高流動度を求め、さらに、配合される1または2以上の低品位炭について、低品位炭の配合比率に対する基準炭の最高流動度の変化に基づく低品位炭に係る流動度低下勾配を求めるとともに、実際に使用される原料炭の最高流動度と、実際に配合される低品位炭に係る流動度低下勾配に基づき、原料炭に配合される低品位炭の配合比率から、原料炭に低品位炭が配合された配合炭の最高流動度を推定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス製造用原料の最高流動度の推定方法,コークス製造用原料の配合方法および該配合方法により作製されたコークス製造用原料に関する。
【背景技術】
【0002】
冶金用コークスの原料として用いられる石炭(以下原料炭)は、加熱時に軟化溶融し、その後再固化して強固なコークスとなるもので、瀝青炭に分類され、一般に粘結炭と称している。しかし、コークス製造用原料として使用することのできる瀝青炭については、その資源量に限りがあり、かつコスト高という問題がある。そこで低品位な弱粘結炭または非微粘結炭やさらに低品位な石炭の増配が求められている。低品位炭をコークス製造用原料として用いる場合、性質の異なる多くの石炭が存在しているため、粘結性と石炭化度とが適当な範囲にある石炭を使用することが必要である。そこで、性質の異なる複数の種類の石炭を組み合わせて配合する配合炭の設計の試みが行なわれてきた。
【0003】
こうした石炭の粘結性は、流動性、膨張性および粘着性などの性質によって定まるが、特に流動性がコークス強度に大きく影響する。このために、配合炭の最高流動度(以下「MF(Maximum Fluidity)」ということがある)を把握することは、高強度のコークスを製造するための重要な因子である。従来、配合炭のMFは、配合される単味の石炭の各々のMFの加重平均値によって推定していた。しかしながら、配合される単味の石炭の各々の流動開始温度(ST)、最高流動温度(MFT)および固化温度(FT)は異なる。従って、各石炭単味のMFの加重平均値と配合炭のMFとは一致しない。従来行なわれていた配合炭の最高流動度の常用対数値(以下「logMF」ということがある)の推定値は、その実測値よりも低い。このような傾向は,MFの高い石炭を多く使用するほど顕著になり、コークス強度の推定精度を低下させる大きた原因になっていた(例えば特許文献1〔従来の技術〕および〔発明が解決しようとする課題〕参照)。
【0004】
そこで、配合炭のMFを、配合される各石炭の各々の流動曲線に基づいて推定する配合炭のMFの推定方法が検討された。具体的には、前記配合される石炭の各々の流動曲線に基づき、その流動開始温度、最高流動温度、固化温度および流動度から、前記流動曲線を数式化し、得られた数式に基づき、前記流動開始温度から前記固化温度までの間の一定温度毎の、前記石炭の各々の流動度の対数値を求めそして求められた流動度の対数値を加重平均することにより前記配合炭の流動度を算出し、このようにして算出された前記配合炭の流動度の最大値を前記配合炭のMFと推定する方法が提案されている(例えば特許文献1〔請求項1〕参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平02−20592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような場合、次のような問題が生じる。
(i)特許文献1の方法は、粘結炭を主体とした原料炭に、配合する低品位炭のlogMFは検出できないため、配合炭のMFあるいはlogMFは原料炭のMFあるいはlogMFと差異がないこととなり、推定方法として適用することができない。
(ii)一方、従前のような各石炭単味のMFあるいはlogMFの加重平均での推定値では、実際の配合炭のMFあるいはlogMFの推定値と大きなズレが生じることがあり、推定方法として適用することができない。
(iii)特に、同じ原料炭を用いて、同じ比率で低品位炭との配合を行なった場合であっても、低品位炭の銘柄によって、その各石炭単味のMFあるいはlogMFの加重平均での推定値とのズレが大きくなることがあった。
(iv)現状、個別の配合条件によって予め配合比率に対応した配合炭のMFあるいはlogMFを求める方法は、実測する以外に適用されていない。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点に鑑みて、低品位炭が配合されたコークス製造用原料を作製する場合に、簡便な手法によって、効率的に最適な配合条件を推定し、粘結性あるいは流動性に優れたコークス製造用原料を作製することができるコークス製造用原料の最高流動度の推定方法,該推定方法により従来のコークス品質に比して維持あるいは向上させるコークス製造用原料の配合方法および該配合方法により作製されるコークス製造用原料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、以下に示すコークス製造用原料の最高流動度の推定方法,コークス製造用原料の配合方法および該配合方法により作製されたコークス製造用原料によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
本発明に係るコークス製造用原料の最高流動度の推定方法は、原料炭に低品位炭を配合して作製される配合炭を主成分とするコークス製造用原料を作製する場合に、
予め原料炭の1または2以上の炭種を基準炭として選択し、該基準炭の適正流動度の範囲と、該基準炭の温度に対する流動度特性曲線と、該流動度特性曲線に基づく前記基準炭の最高流動度を求め、さらに、配合される1または2以上の低品位炭について、該低品位炭の配合比率に対する前記基準炭の最高流動度の変化に基づく該低品位炭に係る流動度低下勾配を求めるとともに、
実際に使用される前記原料炭の最高流動度と、実際に配合される前記低品位炭に係る流動度低下勾配に基づき、該原料炭に配合される該低品位炭の配合比率から、該原料炭に該低品位炭が配合された配合炭の最高流動度を推定することを特徴とする。
【0010】
コークス製造用原料となる配合炭には、適正な流動性あるいは流動度を指標とする粘結性が求められることから、所定の原料炭と低品位炭の配合時の最高流動度の推定が非常に重要となる一方、従前のように配合炭ごとにその流動度を測定する方法では、効率的に所望の配合炭を確保することが難しい。本発明は、原料炭に低品位炭が配合された配合炭の最高流動度(MF)を推定する方法を検証した結果、以下のような特性があるとの知見から、配合炭のMFの推定を行うことができることを見出した。
(a)低品位炭の配合に伴う流動度低下勾配は、原料炭(基準炭)の炭種や特性に依存しない。
(b)低品位炭が配合された流動度低下勾配は、低品位炭の銘柄固有で、配合の都度求める必要はない。
具体的には、使用される1または2以上の低品位炭を、基準炭(予めMFを求めておく)と配合し、予め各低品位炭に係る流動度低下勾配を求めておく。実際に使用される原料炭のMFと配合される低品位炭の配合比率と流動度低下勾配から、簡便な手法によって、効率的に配合炭のMFを推定することが可能となった。ここで、「低品位炭」とは、無煙炭など石炭化度が進み軟化溶融しない石炭や炭化物および、石炭化の進んでいない亜瀝青炭や褐炭あるいは泥炭等をいい、特に石炭化度の進んでいない石炭は、水分,酸素分,揮発分が多く、炭素成分の少ない比較的粗な組織構造となったもので、流動性や粘結性がほとんどなく、それ自体ではコークス化しない。なお、実際の評価においては、一般に、MFではなく、その常用対数logMFとして対比される。
【0011】
本発明は、上記コークス製造用原料の最高流動度の推定方法であって、配合される前記低品位炭の酸素含有率に対する前記流動度低下勾配の変動を求め、使用する低品位炭に係る前記流動度低下勾配を、該低品位炭の酸素含有率によって補正することを特徴とする。
上記検証の結果において、配合炭のMFは、配合される低品位炭の銘柄に依存することの知見とともに、配合された低品位炭の酸素合有量が多いほど流動性が低くなる傾向を示すとの知見を得た。こうした傾向は、低品位炭の流動度低下勾配に影響を与えることから、配合される低品位炭の酸素含有率(一般に販売される石炭の特性表に明示される)を基に補正することによって、より正確に配合炭のMFを推定することが可能となった。
【0012】
本発明は、上記コークス製造用原料の最高流動度の推定方法であって、配合される前記低品位炭の揮発分に対する前記流動度低下勾配の変動を求め、使用する低品位炭に係る前記流動度低下勾配を、該低品位炭の揮発分によって補正することを特徴とする。
上記検証の結果においては、配合炭のMFは、配合された低品位炭の酸素合有量以外に、低品位炭の揮発分が多いほど流動性が低くなる傾向を示すとの知見を得た。こうした傾向は、酸素合有量同様、低品位炭の流動度低下勾配に影響を与えることから、配合される低品位炭の揮発分(同様に石炭の特性表に明示される)を基に補正することによって、より正確に配合炭のMFを推定することが可能となった。
【0013】
また、本発明は、上記いずれかのコークス製造用原料の最高流動度の推定方法を用いたコークス製造用原料の配合方法であって、実際に使用する原料炭の最高流動度と、使用する低品位炭に係る流動度低下勾配に基づき、前記適正流動度の範囲となるように、該原料炭に配合される該低品位炭の配合比率を設定することを特徴とする。
配合炭のMFを精度高く推定できることは、作製されるコークス製造用原料の最高流動度を適正に調整することができることを意味する。本発明は、上記のような配合炭のMFの推定方法において得た低品位炭の流動度低下勾配に基づき、原料炭に配合される低品位炭の配合比率を設定することによって、配合炭のMFが適正流動度の範囲となるようにすることが可能となった。
【0014】
また、本発明は、上記コークス製造用原料の配合方法によって、原料炭に低品位炭を配合して作製される配合炭を主成分とするコークス製造用原料であって、前記低品位炭の配合比率0.1〜10%,前記配合炭の最高流動度の常用対数値2〜3を有することを特徴とする。
上記配合方法によって作製された配合炭は、優れた粘結性あるいは流動性を有している。こうした特性は、コークス製造用原料としての適性を確保するに十分であり、こうして作製された配合炭をコークス製造用原料として用いることが有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】冶金用コークスの製造工程を示す説明図
【図2】基準炭の温度に対する流動度特性曲線を例示する概略図
【図3】低品位炭の配合比率に対応した配合炭の流動度の変動を例示する概略図
【図4】原料炭の炭種,流動度に対応した配合炭の流動度低下勾配の変動を例示する概略図
【図5】低品位炭の酸素含有率に対応した配合炭の流動度低下勾配の変動を例示する概略図
【図6】低品位炭の酸素含有率に対応した配合炭の流動度低下勾配の変動を例示する概略図
【図7】低品位炭の揮発分に対応した配合炭の流動度低下勾配の変動を例示する概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るコークス製造用原料の最高流動度(MF)の推定方法(以下「本推定方法」という)は、原料炭に低品位炭を配合して作製される配合炭を主成分とするコークス製造用原料を作製する場合に、予め原料炭の1または2以上の炭種を基準炭として選択し、該基準炭の適正流動度の範囲と、該基準炭の温度に対する流動度特性曲線と、該流動度特性曲線に基づく前記基準炭の最高流動度を求め、さらに、配合される1または2以上の低品位炭について、該低品位炭の配合比率に対する前記基準炭の最高流動度の変化に基づく該低品位炭に係る流動度低下勾配を求めるとともに、実際に使用される前記原料炭の最高流動度と、実際に配合される前記低品位炭に係る流動度低下勾配に基づき、該原料炭に配合される該低品位炭の配合比率から、該原料炭に該低品位炭が配合された配合炭の最高流動度を推定することを特徴とする。以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
<コークスの製造工程>
冶金用コークスの製造工程を、図1により簡単に説明する。岸壁に接岸した石炭運搬船1から石炭が陸上げされ、貯炭場2において、石炭の性状(銘柄)ごとに貯蔵される。貯炭場2に貯蔵されている石炭(原料炭および低品位炭を含む)は、銘柄ごとに必要な分量がリクレーマーで払い出され、ベルトコンベアにより配合槽3へと送り出される。配合槽3は複数槽を有しており、1つの配合槽に1つの銘柄の石炭が貯蔵される。石炭は、その性状によりコストの高低があり、品質のよいコークスを安価なコストで製造するために、複数の配合槽から性状の異なる石炭を最適な配合比率で切り出し、コークス製造用原料(配合炭)としての配合が完了する。すなわち、コークス製造には、種々の種類(銘柄)の石炭を海外から輸入し、銘柄ごとに貯炭場2に貯蔵する。これは、各炭鉱で採掘される石炭は、炭鉱ごとに性状が異なり、性状が異なれば製造されるコークスの性状も異なるため、複数の石炭を配合することで、最も安価なコストでユーザーから要求されるコークス性状(品質)を満足することが必要となるためである。
【0018】
粉砕設備4には、公知の粉砕機が設けられており、配合された石炭の粉砕処理を行う。粉砕設備4において粉砕された石炭は、ベルトコンベア等によりコークス炉6へと移送される。移送された石炭は、コールビン(石炭塔)6aに一旦貯蔵された後、装入車6bによりコークス炉6に装入され、乾留(蒸し焼き)される。乾留された石炭はコークスとなり、押出機6cによりコークス炉外に押し出される。得られた製品コークスは、最終的に高炉へと送り込まれる。
【0019】
<本発明に係る配合炭のMFの推定方法>
本推定方法は、コークス製造プロセスにおいて供給されるコークス製造用原料である配合炭の特性を、原料炭の特性および低品位炭の特性を基に推定する。つまり、本推定方法は、次のような知見を基に、後述する(1)〜(5)の手順によって、簡便かつ効率的に配合炭のMFを推定することができる。
(a)低品位炭の配合に伴う流動度低下勾配(以下「△logMF」ということがある)は、原料炭(基準炭)の炭種や特性への依存性が低い。
(b)低品位炭の△logMFは、低品位炭の銘柄固有である。
ここで、「logMF」は、最高流動度(MF)の常用対数値を示し、実際の評価において使用される。「△logMF」は、その勾配(流動度低下勾配)を示す。
以下、その知見を得た検証過程を詳述するとともに、本推定方法における配合炭のMFの
【0020】
〔石炭の特性〕
通常石炭の品質は、物理的性質として粘結性あるいは流動性等によって、化学的性質として4つの工業分析値(水分,灰分,揮発分,固定炭素)等によって評価される。本推定方法においては、こうした特性のうち、特に流動性によってコークス製造用原料としての適正を評価するために、配合炭の流動度を推定した。
【0021】
(i)流動度の測定方法の検証
石炭の流動度は、JIS−M8801で規格化されたギーセラープラストメータ測定法によって測定される。具体的には、図2(A)に例示するように、温度を指標として、評価対象となる石炭の軟化溶融状態下での流動度の変動を追跡して、流動度特性曲線(ギースラー流動度曲線)が求められ、その最大値である最高流動度(MF)をもって当該石炭の流動性が評価される。なお、実際の評価においては、一般に、MF値ではなく、その常用対数logMFとして対比される。ギーセラープラストメータ測定法は、測定対象である石炭が、攪拌棒を備えたるつぼに装填され、金属浴(はんだ浴)中で、例えば昇温速度3.0±0.1℃/分で昇温される。概念的には温度上昇に伴い石炭の軟化が始まり、これに伴って攪拌棒が回転し始める(流動性の現出)。そして石炭固有の温度で最高回転数を示した後(MFに相当)、石炭の再固化が始まり、次第に回転数は低下して所定の温度で攪拌棒の回転が完全に停止する。こうした流動度特性曲線は、石炭の種類で異なる。
【0022】
(ii)配合炭の特性
図2(B)は、本推定方法において原料炭(基準炭)に低品位炭を配合したときの、原料炭(基準炭),低品位炭,配合炭のそれぞれの流動度曲線を示す。また、原料炭(基準炭)の最高流動度MFoが、低品位炭(MF=0とする)の配合により作製された配合炭の最高流動度MFmに変化(低下)した状態を示す。このとき、後述するように、このMFmを常用対数に換算して得られたlogMFm値と、単純に原料炭のlogMFoと低品位炭のlogMF(=0)を加重平均して推定するlogMFm値と対比した場合、両者に大きなズレが生じる場合があることが判った。と同時に、以下の知見を得ることができた。
(a)異なる原料炭(基準炭)に対して、同一の低品位炭を配合させた場合の△logMFが、原料炭(基準炭)の炭種やMF等の特性に依存しない。従って、同一の低品位炭について、共通の推定値を設定することができる。
(b)同一原料炭(基準炭)に対して、異なる低品位炭を配合させた場合の△logMFは、配合される低品位炭の銘柄によって決定される。従って、異なる低品位炭を配合することによって、同一の原料炭(基準炭)について異なる推定値の設定することができる。
【0023】
〔本推定方法の手順〕
本推定方法は、基本的に、以下の5つのステップから構成される。
(1)予め準備された基準炭の流動度特性曲線を実測するステップ
(2)基準炭のMFを設定するステップ
(3)予め準備された低品位炭を基準炭に配合し、配合炭の流動度特性曲線からMFを実測するステップ
(4)実測された配合炭のMFから、各低品位炭についての△logMFを設定するステップ
(5)実際に使用される配合炭のMFを推定するステップ
具体的な配合炭のMFの推定手順について、詳述する。
【0024】
(1)予め準備された基準炭の流動度特性曲線を実測するステップ
実際に配合される予定の1以上の低品位炭の特性を、予め検証しておくために、基準炭を選定し、基準炭の流動度に係る情報を実測する。具体的には、図2(A)に示すような基準炭の流動度特性曲線を実測する。基準炭は、低品位炭の配合に伴う流動度の変化を十分に検証できるように、高流動性の粘結炭が好ましい。例えばlogMF=2〜4[logddpm]の高流動度を有する粘結炭が好ましい。
【0025】
(2)基準炭のMFを設定するステップ
上記(1)で得られた流動度特性曲線に基づき、図2(A)に示すような基準高品位炭の最高流動度(MF)を設定する。具体的には、図2(A)に示すゼロベースから流動度特性曲線の最大値までをMFとして設定する。
【0026】
(3)予め準備された低品位炭を基準炭に配合し、配合炭の流動度特性曲線からMFを実測するステップ
予め準備された1以上の低品位炭について、少なくともそれぞれ2種類の配合比率によって上記(2)の基準炭に配合し、各配合炭の流動度特性曲線を実測する。実測された流動度特性曲線から、それぞれのMFを設定する。
【0027】
(4)実測された配合炭のMFから、各低品位炭についての△logMFを設定するステップ
上記(3)で実測・設定された各配合炭のMFから、各低品位炭についての△logMFを設定する。このとき、基準炭が高流動性の粘結炭であれば、基準炭のlogMFを切片とする直線近似された特性線に類似した特性線となる。
【0028】
(5)実際に使用される配合炭のMFを推定するステップ
実際に使用される原料炭のMFと、実際に配合される(予定の)低品位炭についての上記(4)で設定された△logMFを用い、配合炭のMF(logMF)を推定する。低品位炭の配合に伴う配合炭の流動度は、一般式として、下式1によって表すことができる。
Y=S+α×X …式1
ここで、Yは配合炭のlogMF
Sは原料炭のlogMF
αは低品位炭の△logMF[1/%]
Xは低品位炭配合率[%]
なお、予め配合炭のMF(logMF)の範囲が設定されている場合には、実際に配合される(予定の)低品位炭の配合比率を設定することによって、所望の配合炭のMF(logMF)を推定することができる。また、配合する予定の低品位炭では所望の配合炭のMF(logMF)の設定が難しい場合には、上記(4)で△logMFが設定された他の低品位炭のうちから、適正な△logMFが設定された低品位炭を選定し、配合炭のMF(logMF)を推定する。さらに、低品位炭の選定が難しい場合には、原料炭に使用されている粘結炭の一部を流動性の異なる粘結炭に振り替えて低品位炭配合時のlogMFを適正範囲に設定することも可能である。
【0029】
<原料炭,低品位炭および配合炭の特性の検証>
(i)検証に使用した石炭
本推定方法の検証に用いた原料炭(基準炭),低品位炭および配合炭の特性を、下表1に示す。以下、実施例を含む本推定方法の検証に用いた。
【0030】
【表1】

【0031】
(ii)原料炭(基準炭),低品位炭および配合炭の流動度の検証
上表1の原料炭(基準炭),低品位炭および配合炭を用いて、その流動度特性曲線を求め、原料炭(基準炭)および低品位炭のMFおよびlogMFを設定した。下表2に、原料炭Jまたは原料炭Kに、低品位炭Aまたは低品位炭Bを配合したときの流動度測定結果を例示するとともに、図3,4に図示する。下表2( )内は低品位炭のlogMF=0として加重平均した値を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
上表2の測定結果を基に、低品位炭が配合された配合炭の△logMFを求める。図3および図4中、◆は、原料炭(基準炭)J,L,Kに低品位炭Aを1%または3%配合した時の配合炭のlogMFを示し、■は、原料炭(基準炭)L,Kに低品位炭Bを1%または3%配合した時の配合炭のlogMFを示す。図3および図4に例示するように、低品位炭の配合比率に対応した配合炭の流動度logMFを、炭種ごとおよび低品位炭に比較すると、上記の知見(a),(b)を定量的に検証することができる。
(a)図3および図4に示すように、MFが1388[ddpm](logMF3.14),949[ddpm](logMF2.98),206[ddpm](logMF2.31)を有する異なる原料炭(基準炭)J,L,Kに対して、低品位炭Aを配合させた場合の△logMFが、それぞれ−0.096,−0.096,−0.099であり、原料炭(基準炭)の炭種やMF等の特性に依存しないといえる。また、MFが949[ddpm](logMF2.98),226[ddpm](logMF2.35)を有する異なる原料炭(基準炭)L,Kに対して、低品位炭Bを配合させた場合の△logMFが、それぞれ−0.130,−0.128であり、同様の結果が得られた。同一の低品位炭について、共通の推定値を設定することができる。
(b)図3に示すように、同一原料炭(基準炭)に対して、低品位炭Aを配合させた場合の△logMFが−0.099に対して、低品位炭Bを配合させた場合の△logMFが−0.128とあり、△logMFは、配合される低品位炭の銘柄によって決定される。異なる低品位炭を配合することによって、同一の原料炭(基準炭)について異なる推定値の設定することができる。
【0034】
<本発明に係る配合炭のMFの推定における補正要素の検証>
上記のような方法によって、従前にない簡便な手法によって、効率的に配合炭のMFを推定することが可能となった。一方、配合炭のMFは、配合される低品位炭の銘柄に依存することの知見とともに、配合された低品位炭のその特性によって推定値と実測値とのズレが生じることがわかった。具体的には、下表3に示すような5種類の低品位炭A〜Eを原料炭(基準炭)に配合し、配合炭の△logMFを実証したところ、同表に示す推定値および実測値が得られた。
【0035】
【表3】

【0036】
〔低品位炭の酸素含有率による特性の補正〕
上表3に示す実証結果から、配合炭の流動性は、配合される低品位炭の銘柄に依存するとともに、低品位炭の酸素合有率が高いほど流動性が低くなる傾向を示すことが判る。具体的には、図5に例示するように、低品位炭の酸素合有量が多いほど、配合炭の流動性の推定プロセスの最終段階に近い低品位炭に係る△logMFの設定に影響を与えている。このとき、実際の補正曲線としては、図6に例示するように、特性線が所定の幅(図中0.046)を有する曲線が用いられる。下表3に、低品位炭の配合率10〜30%時の中央値,上限値および下限値を例示する。炭種によって、異なる所定の幅が設定される。酸素合有率が異なる場合、各低品位炭は同一銘柄といえない場合があるためである。つまり、特定の低品位炭によっては、酸素合有率が異なることから、銘柄の相違に伴う△logMFの変動の要因の1つとなる可能性がある。
【0037】
【表4】

【0038】
本推定方法は、図6に示す酸素含有率に対する△logMFの変動を求め、予め銘柄によって設定された低品位炭に係る△logMFを補正することによって、後述する実施例のように、より正確に配合炭のMFを推定することが可能となった。
具体的には、酸素含有率aの場合、下式2に基づき、△logMFを算出し、上式1に挿入し、補正される。
△logMF=−0.0061×a+0.0135 …式2
ここで、酸素合有率は、通常石炭の特性表に明示されることから、特に実測が要求されることはなく、補正に伴う煩雑さを招くことはない。また、上記のような工業分析値として石炭の品質表記がある場合には、下式3によって酸素含有率を算出することができる。
酸素含有率[%]=100−元素C,H,N,S[%] …式3
【0039】
〔低品位炭の揮発分による特性の補正〕
揮発分は、既述のように石炭の品質を化学的に評価する上において重要な要素である。上表3に示す実証結果から、低品位炭の揮発分が多いほど配合炭の流動性が低くなる傾向を示すことが判る。本推定方法においても、こうした傾向は、低品位炭は配合された配合炭の△logMFに影響を与えることが判った。具体的には、図7に例示するように、低品位炭の揮発分が多いほど、配合炭の△logMFに影響を与えている。本推定方法は、図7に示す揮発分に対する△logMFの変動を求め、予め銘柄によって設定された低品位炭に係る△logMFを補正することによって、後述する実施例のように、より正確に配合炭のMFを推定することが可能となった。なお、配合される低品位炭の揮発分は、通常石炭の特性表に明示されることから、特に実測が要求されることはなく、補正に伴う煩雑さを招くことはない。
具体的には、図7において、揮発分b[%]の場合、下式4に基づき、△logMFを算出し、上式1に挿入し、補正される。
△logMF=−0.000313×b+0.0216×b−0.413 …式4
【0040】
<実施例>
以上の本推定方法の有効性について、以下の内容について実証試験を行なった。
〔実施例1〕原料炭のlogMFを高めに設定した場合の配合炭の流動度の推定
〔実施例2〕原料炭のlogMFを低めに設定した場合の配合炭の流動度の推定
〔実施例3〕流動性のない炭材を配合した場合の配合炭の流動度の推定
〔実施例4〕△logMFを用いた低品位炭配合焼成試験
【0041】
〔実施例1〕
原料炭のlogMFを高めに設定した場合の配合炭の流動度の推定を行なった。
(i)実験条件
logMF:2.98である原料炭Lに対して、低品位炭A,BおよびCを配合率5〜10%の条件で、原料炭のlogMFおよび△logMFを実測、設定し、推定値と比較した。
(ii)実験結果
下表5に示すように、配合炭のlogMFについて、推定値と実測値が非常に一致し、相関性が高いことが判った。本推定方法の優れた機能が証明された。
【0042】
【表5】

【0043】
〔実施例2〕
原料炭のlogMFを低めに設定した場合の配合炭の流動度の推定を、上記実施例1と同様の方法にて行った
(i)実験条件
logMFの低い(2.00前後)原料炭Mおよび原料炭Nを用い、低品位炭の炭種を低品位炭D,低品位炭Eおよび低品位炭Fとして,配合率1〜10%の条件で、原料炭のlogMFおよび△logMFを実測、設定し、推定値と比較した。
(ii)実験結果
下表6に示すように、原料炭のlogMFを低く設定した場合においても、配合炭のlogMFについて、推定値は実測値と合致している。
【0044】
【表6】

【0045】
〔実施例3〕
上記実施例1,2における低品位炭に代え、原料炭に流動性のない炭材を配合した場合の配合炭の流動度の推定を行なった
(i)実験条件
logMFの低い(2.00前後)原料炭Mおよび原料炭Nを用い、流動性のない炭材の炭種として低品位炭Gおよび低品位炭Hを用い,配合率10%の条件で、原料炭のlogMFおよび△logMFを実測、設定し、推定値と比較した。
(ii)実験結果
下表7に示すように、無煙炭など石炭化度が進み軟化溶融しない低品位炭Gおよび低品位炭H等の炭材を用いても、配合炭のlogMFについて、推定値と実測値が非常に一致し、配合炭の流動度の推定は可能であることが判った。
【0046】
【表7】

【0047】
〔実施例4〕
△logMFを用い、低品位炭が配合された配合炭の焼成試験を行い、コークス強度を検証した。
(i)実験条件
原料炭として配合粘結炭(イ)およびその一部を粘結補填材に置き換えた配合粘結炭(ロ)を用い、低品位炭の炭種を低品位炭Fとして,配合率0〜10%の条件で、配合粘結炭(イ)および配合粘結炭(ロ)のlogMFおよび△logMFを実測、設定し、推定値と比較した。また、このときのコークス落下後粉率,コークス強度を比較した。
ここで、低品位炭Fの流動度低下勾配は、△logMF=−0.12[logddpm/%]であった。また、配合粘結炭(ロ)は、予め低品位炭Fの配合によるlogMFの低下分を、既述のlogMF推定式(式1)を用いて算出し、低品位炭Fの配合時のlogMFが2.0(コークス強度の安定領域とされる)となるように、高流動性石炭の配合率を増加させた高流動性配合炭で、実測のlogMF=2.66であった。
(ii)実験結果
下表8に示すように、△logMFを用いた配合炭のlogMFについて、推定値は、実測値を良くあっている。この推定値を、ベース並みに流動度調整すると、コークス強度が回復する。
【0048】
【表8】

【0049】
<本推定方法を用いたコークス製造用原料の配合方法>
上記のように、本推定方法は、種々の原料炭や低品位炭を用いた場合にあっても、配合炭のMFを精度高く推定できる。従って、本推定方法を利用すれば、作製されるコークス製造用原料の最高流動度を適正に調整することが可能である。つまり、実際に使用される原料炭の最高流動度と、これに配合される低品位炭に係る△logMFに基づき、適正な流動度の範囲となるように、原料炭に配合される品位炭の配合比率を設定することによって、効率的で優れたコークス製造用原料の配合方法(以下「本配合方法」という)とすることができる。
【0050】
<本推定方法を用いたコークス製造用原料の配合方法>
また、本配合方法によって作製された配合炭は、優れた粘結性あるいは流動性を有している。こうした特性は、コークス製造用原料としての適性を確保するに十分であり、こうして作製された配合炭をコークス製造用原料として用いることが有用である。つまり、上記本推定方法の説明において詳述したように、原料炭に配合する低品位炭の配合率が0.1〜10%,配合炭のMFについてlogMF=2〜3を有することによって、コークス強度に優れ、かつ粘結性に優れたコークス製造用原料を確保することが可能となった。
【符号の説明】
【0051】
1 石炭運搬船
2 貯炭場
3 配合槽
4 粉砕設備
6 コークス炉
6a コールビン
6b 装入車
6c 押出機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料炭に低品位炭を配合して作製される配合炭を主成分とするコークス製造用原料を作製する場合に、
予め原料炭の1または2以上の炭種を基準炭として選択し、該基準炭の適正流動度の範囲と、該基準炭の温度に対する流動度特性曲線と、該流動度特性曲線に基づく前記基準炭の最高流動度を求め、さらに、配合される1または2以上の低品位炭について、該低品位炭の配合比率に対する前記基準炭の最高流動度の変化に基づく該低品位炭に係る流動度低下勾配を求めるとともに、
実際に使用される前記原料炭の最高流動度と、実際に配合される前記低品位炭に係る流動度低下勾配に基づき、該原料炭に配合される該低品位炭の配合比率から、該原料炭に該低品位炭が配合された配合炭の最高流動度を推定することを特徴とするコークス製造用原料の最高流動度の推定方法。
【請求項2】
配合される前記低品位炭の酸素含有率に対する前記流動度低下勾配の変動を求め、使用する低品位炭に係る前記流動度低下勾配を、該低品位炭の酸素含有率によって補正することを特徴とする請求項1記載のコークス製造用原料の最高流動度の推定方法。
【請求項3】
配合される前記低品位炭の揮発分に対する前記流動度低下勾配の変動を求め、使用する低品位炭に係る前記流動度低下勾配を、該低品位炭の揮発分によって補正することを特徴とする請求項1または2記載のコークス製造用原料の最高流動度の推定方法。
【請求項4】
請求項1〜3にいずれかに記載のコークス製造用原料の最高流動度の推定方法を用い、実際に使用する原料炭の最高流動度と、使用する低品位炭に係る流動度低下勾配に基づき、前記適正流動度の範囲となるように、該原料炭に配合される該低品位炭の配合比率を設定することを特徴とするコークス製造用原料の配合方法。
【請求項5】
原料炭に低品位炭を配合して作製される配合炭を主成分とするコークス製造用原料であって、前記低品位炭の配合比率0.1〜10%,前記配合炭の最高流動度の常用対数値2〜3を有することを特徴とする請求項4に記載のコークス製造用原料の配合方法により作製されたコークス製造用原料。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−53189(P2013−53189A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190864(P2011−190864)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】