説明

コーティング剤及びコーティング皮膜

【課題】 非ハロゲン系溶剤であって、かつ、ポリ乳酸系樹脂を充分に溶解可能な溶剤に溶解させた、ポリ乳酸系樹脂を含むコーティング剤を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸系樹脂(A)および炭酸ジエステルを含むコーティング剤。好ましくは、前記ポリ乳酸系樹脂(A)は、L−乳酸残基からなる構造単位を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有するか、または、D−乳酸残基からなる構造単位を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有するものである。また、好ましくは、前記ポリ乳酸系樹脂(A)は、その数平均分子量(Mn)が、5,000〜400,000である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒が非ハロゲン系溶媒でありながらポリ乳酸系樹脂が溶媒に充分な溶解度で溶解したコーティング剤及び耐久性に優れ、地球環境への負荷が少ないコーティング皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境に優しい資源循環型プラスチックが注目されている。それらの一つとして、ポリ乳酸を原料とする生分解性ポリ乳酸繊維が、環境に優しい繊維として注目されている。ポリ乳酸樹脂は、植物から得ることができるため、焼却しても大気中の炭酸ガス濃度を増加させない「カーボンニュートラル」な素材として幅広い分野での普及が期待される素材である。
ところで、生分解性ポリ乳酸繊維などのプラスチック成形体や布帛、紙、不織布等の硬み付けや安定化、防水性向上、目止め効果などを目的として、これらの基体上にコーティング剤を塗布し、コーティング皮膜を形成させる方法が知られている。従来のコーティング剤は塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ウレタン等の樹脂を有機溶剤に溶解したものか、或いはエマルジョンとして水分散させたものを塗布する場合が多かった。これらの樹脂は生分解性が低く、廃棄する場合燃焼により有毒ガスを発生する場合があり、また炭酸ガスを放出するといった問題があった。
【0003】
このような問題を解決するため、これまでにポリ乳酸系樹脂を主成分としたコーティング剤やコーティング皮膜が提案されている。例えば、ポリ乳酸をハロゲン系溶媒に溶解させたコーティング剤が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、ハロゲン系溶媒の使用は、生体への毒性や、燃焼時の酸性ガス発生、ダイオキシン発生等の問題を生じやすい。
【0004】
また、乳酸系生分解性ポリエステルを含む組成物を主成分とした結晶性の生分解性コーティングが知られており、該生分解性コーティングに含まれる溶剤としてトルエン/メチルエチルケトン混合溶媒(メチルエチルケトンを以下、MEKと称することがある)が使用可能であることが知られている(特許文献2参照)。しかしながら、このような溶媒は、ポリ乳酸系樹脂をある程度溶解することは可能であるものの、ポリ乳酸系樹脂の種類によっては、その溶解性が充分でない場合があった。特に、ポリ乳酸系樹脂を構成する乳酸単位の光学純度が比較的高い場合には、充分な溶解度が得られない場合が多かった。充分な溶解力を有しない溶剤を使用した場合には、特に冬場など、気温が低下する場合に、コーティング剤中にポリ乳酸系樹脂が析出してくるといった問題が起きる場合があった。
【0005】
また、ポリ乳酸系樹脂の水性エマルジョンをコーティング剤とすることが知られている。しかしながら、ポリ乳酸の水性エマルジョンから得られるコーティング皮膜は、水を乾燥させるため皮膜形成に高温が必要であり、生地やフィルムが硬化したり変形する場合があり良好な皮膜物が得られない。一見良好な皮膜が形成されても、剥離や白化が起こりやすく耐久性のあるコーティング皮膜が得られない。
【0006】
【特許文献1】特開平7−97545号公報
【特許文献2】特開平10−204378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明の課題は、溶媒が非ハロゲン系溶剤でありながら、ポリ乳酸系樹脂が溶媒に充分に高い溶解度で溶解した、ポリ乳酸系樹脂を含むコーティング剤を提供することである。
また、耐久性に優れた生分解性のコーティング皮膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を採る。
〔1〕ポリ乳酸系樹脂(A)および炭酸ジエステルを含むコーティング剤。
〔2〕ポリ乳酸系樹脂(A)が、L−乳酸残基からなる構造単位を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有するか、または、D−乳酸残基からなる構造単位を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有する上記〔1〕に記載のコーティング剤。
〔3〕ポリ乳酸系樹脂(A)の数平均分子量(Mn)が、5,000〜400,000である、上記〔1〕または〔2〕に記載のコーティング剤。
〔4〕炭酸ジエステルを、ポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して200〜700重量部の範囲で含む上記〔1〕〜〔3〕のいずれか1つに記載のコーティング剤。
〔5〕炭酸ジエステルが、炭酸ジメチルである上記〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載のコーティング剤。
〔6〕さらに可塑剤を含む、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか1つに記載のコーティング剤。
〔7〕可塑剤を、ポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して、5〜50重量部の範囲で含む上記〔6〕記載のコーティング剤。
〔8〕可塑剤がポリエチレングリコールジベンゾエートである、上記〔6〕または〔7〕に記載のコーティング剤。
〔9〕さらに安定剤を含む、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載のコーティング剤。
〔10〕安定剤を、ポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して0.2〜10重量部の範囲で含む、上記〔9〕記載のコーティング剤。
〔11〕基体に塗布し、乾燥、キュアリング処理することによってコーティング皮膜を形成するものである、上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1つに記載のコーティング剤。
〔12〕コーティング皮膜が非結晶性である、上記〔11〕記載のコーティング剤。
〔13〕基体が、ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体である、上記〔11〕または〔12〕記載のコーティング剤。
〔14〕上記〔1〕〜〔10〕のいずれか1つに記載のコーティング剤の塗膜を乾燥、キュアリング処理して得られるコーティング皮膜。
〔15〕非結晶性である、上記〔14〕記載のコーティング皮膜。
〔16〕ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体の表面に、上記〔14〕または〔15〕記載のコーティング皮膜を形成してなる、生分解性複合材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂および炭酸ジエステルを含む構成としたことにより、ポリ乳酸系樹脂が炭酸ジエステルに十分に溶解し、ポリ乳酸系樹脂が溶媒に充分に高い溶解度で溶解したコーテイング剤を実現でき、ポリ乳酸系樹脂を主体とする基体や、その他の基体に対して剥離や白化を生じ難い、耐久性の高いコーティング皮膜を与えることができる。また、該コーティング剤は、生体への毒性や、燃焼時の酸性ガス発生、ダイオキシン発生等の問題を生じにくく、また、ポリ乳酸系樹脂を構成する乳酸単位の光学純度が比較的高い場合でさえポリ乳酸系樹脂が充分に溶解されているため、特に冬場など、気温が低下する場合に、ポリ乳酸系樹脂が析出してくるといった問題が起きにくいコーティング剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の詳細な説明を行なう。
本発明のコーティング剤はポリ乳酸系樹脂(A)を含む。ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する乳酸単位の光学純度は特に限定されないが、L−乳酸残基からなる構造単位(いわゆるL−乳酸単位)を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有するか、または、D−乳酸残基からなる構造単位(いわゆるD−乳酸単位)を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有するものが好ましい。これらの構造単位が99モル%を超える場合には、そのようなポリ乳酸系樹脂(A)は溶媒に溶解しにくくなる場合があり、80モル%よりも低い場合には、得られるコーティング皮膜の融点が低下し、これにより、該皮膜の耐久性が低下する場合がある。よって、該ポリ乳酸系樹脂(A)におけるより好ましいL−乳酸残基からなる構造単位またはD−乳酸残基からなる構造単位の含有量は、85〜97モル%である。
【0011】
該ポリ乳酸系樹脂(A)は、例えば、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、L−ラクチド、D−ラクチド、meso−ラクチド単独又はこれらの混合物から誘導されるものを使用することができる。すなわち、該ポリ乳酸系樹脂(A)は、乳酸の直接脱水縮合で生成したものでも、ラクチドの開環法で生成したものでもよい。
【0012】
また、該ポリ乳酸系樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、乳酸残基以外の他の構造単位を有していてもよい。ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対する当該乳酸残基以外の他の構造単位の占める割合は、好ましくは50モル%以下、より好ましくは20モル%以下である。このような他の構造単位としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコールとから誘導されるヒドロキシカルボン酸単位;グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等のヒドロキシカルボン酸の単位等などが挙げられる。
なお、ポリ乳酸系樹脂(A)がこのような乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含むものである場合、本発明における「ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位」とは、乳酸由来の構造単位(乳酸残基)と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位の両方のことである。
【0013】
本発明において使用されるポリ乳酸系樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は特に限定はされないが、5,000〜400,000の範囲であることが好ましく、10,000〜200,000であることがより好ましい。数平均分子量(Mn)が5,000より小さい場合には、得られるコーティング皮膜の強度が低下したり、酸価の上昇や加水分解性の増大などに起因してその安定性が低くなる傾向がある。また、400,000より大きい場合には、コーティング剤において溶剤を使用した場合に、ポリ乳酸系樹脂(A)が溶解しにくくなる傾向がある。なお、本発明において、数平均分子量(Mn)とは、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)で測定したポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の値である。GPC測定条件としては、GPC装置としてウォーターズ社製150C ALC/GPC、カラムに昭和電工(株)製Shodex(登録商標)HFIP806M、検出器にRI検出器、展開溶媒に20mMトリフルオロ酢酸ナトリウムのヘキサフルオロイソプロパノール溶液を使用し、カラム温度は40℃であり、流量は1.0mL/分である。PMMA換算に用いられる標準PMMAは、Polymer Laboratories社製PM1である。
【0014】
本発明において使用されるポリ乳酸系樹脂(A)は、入手が容易であることから、植物から誘導されるものを使用することが好ましい。また、L−またはD−乳酸メチル、L−またはD−乳酸エチル等の乳酸誘導体を原料(単量体)にして製造されたものや、微生物により生成されるものを使用することも可能である。
【0015】
本発明のコーティング剤は炭酸ジエステルを含む。炭酸ジエステルとしては、例えば、炭酸ジメチル(以下、DMCと称する場合がある)、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート等を例示することができ、これらを単独で、または、2種以上の混合物として使用することができるが、DMCを用いることが好ましい。本発明のコーティング剤は炭酸ジエステルを含むことにより、使用するポリ乳酸系樹脂(A)を充分に溶解することが可能となり、こうして得られるコーティング剤を基体素材に塗布し、乾燥処理すると、該コーティング剤が基体素材に浸透し、基体とコーティング剤の界面を著しく増大させ、強固な接着性を有するコーティング皮膜を形成し得る。特にDMCを用いた場合には、DMCの沸点が90℃と比較的低いため、コーティング剤塗布後の乾燥工程において、比較的低温で乾燥を行なうことが可能であり、耐熱性の低い基体に対しても、基体の変形等を伴うことなく、コーティング皮膜を形成することが可能となる。
炭酸ジエステルの使用量としては、本発明のコーティング剤の用途や使用条件により適宜設定可能であるが、上記ポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して200〜700重量部の範囲であることが好ましく、300〜600重量部の範囲であることがより好ましい。
【0016】
本発明のコーティング剤は、炭酸ジエステル以外のほかの溶媒を含んでいてもよい。該溶剤としては、特に限定はされないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、n−オクタン、3−メチルヘプタン、ノナン、デカン、ドデカン、流動パラフィンなどの飽和脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−メトキシエタノール、グリセリンなどのアルコール類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタンなどのエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチルなどのエステル類;アセトン、MEK、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルホキシド等が挙げられる。これらの炭酸ジエステル以外のほかの溶媒は、いずれか1種を単独で使用してもよいし、複数種を併用して使用してもよい。
【0017】
なお、本発明のコーティング剤においては、ポリ乳酸系樹脂(A)は充分に溶解していることが好ましいが、ポリ乳酸系樹脂(A)が充分に溶解していなくても、例えば、コーティング皮膜に不溶部分を作り出し、ドット接着状とすることで風合いを変化させる場合等に好ましく使用することが可能である。また、本発明のコーティング剤は、本発明の効果を損なわない範囲でジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒を少量含んでいてもよい。
【0018】
本発明のコーティング剤は可塑剤を含んでもよい。該可塑剤としては、熱可塑性樹脂の可塑剤として用いられる公知のものが使用でき、例えば、グリセリントリアセテート、グリセリントリ2−エチルヘキサン酸エステル、グリセリントリイソステアリン酸エステル等の多価アルコール誘導体;アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリプロピル、アセチルクエン酸トリ(2−エチルヘキシル)、アセチルクエン酸トリイソステアリル、クエン酸トリエチル、クエン酸トリプロピル、クエン酸トリ(2−エチルヘキシル)、クエン酸トリイソステアリル等のヒドロキシカルボン酸誘導体;オレイン酸ブチル、オレイン酸イソステアリル、アジピン酸イソブチル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)等の脂肪族カルボン酸エステル;フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル等の芳香族カルボン酸エステル;ポリエチレングリコールジ酢酸エステル、ポリエチレングリコールジプロピオン酸エステル、ポリエチレングリコールジ2−エチルヘキサン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ酢酸エステル、ポリプロピレングリコールジプロピオン酸エステル、ポリプロピレングリコールジ2−エチルヘキサン酸エステル、ポリエチレングリコールジベンゾエート、ポリプロピレングリコールジベンゾエート等のポリエーテルポリオール誘導体;りん酸トリブチル、りん酸トリ(2−エチルヘキシル)、りん酸トリフェニル、りん酸トリイソステアリル等のりん酸誘導体;ロジン酸エステルなどのロジン誘導体等を挙げることができる。これらのうちでも、日常的な使用条件下で、経時安定性、柔軟性に優れ、且つ、可塑剤のブリードアウトがないコーティング皮膜を製造でき、また、揮発性が少ないという特性を有していることから、ポリエチレングリコールジベンゾエート等のポリエーテルポリオール誘導体やロジン誘導体を使用することが好ましい。本発明においては、可塑剤の1種または複数種を用いることができる。
上記可塑剤の使用量としては、各用途に応じて適宜変更可能であるが、使用されるポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して5〜50重量部であることが好ましく、20〜40重量部であることがより好ましい。
【0019】
本発明のコーティング剤はさらに安定剤を含んでもよい。安定剤を使用することで、安定剤がポリ乳酸と反応して網目状に架橋構造を形成することができ、これにより、得られるコーティング皮膜の強度を上げることができる。さらに、ポリ乳酸系樹脂(A)のカルボキシル基末端部分や水酸基末端部分と反応し、ポリ乳酸系樹脂(A)の加水分解性を抑制する効果も持つ。また、特に可塑剤と併用した場合に、コーティング剤やこれから得られるコーティング皮膜が安定して可塑剤を保持することが可能となる。安定剤としては、特に制限されないが、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物等を例示することができる。
【0020】
上記エポキシ化合物としては、例えば、2−フェニルフェニルグリシジルエーテル等が例示できる。また、カルボジイミド化合物としては、分子内に1個以上のカルボジイミド基を有する限り、特に制限はなく、従来公知の方法に従って、例えば、イソシアナート化合物より脱炭酸反応で合成されたものを使用することができる。又、市販されているものを使用してもよい。分子内にカルボジイミド基を1個有するモノカルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド等の脂肪族又は脂環族モノカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド等の芳香族モノカルボジイミド等を例示することができる。分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドの合成におけるイソシアナート化合物としては、1,3−フェニレンジイソシアナート、1,4−フェニレンジイソシアナート、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、テトラメチルキシリレンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアナート等芳香族ジイソシアナート;1,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアナート、1−メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアナート、イソホロンジイソシアナート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート等の脂肪族又は脂環族ジイソシアナート等が例示される。ポリカルボジイミドは、末端に残存するイソシアナート基の全て、又は一部を封止しているものでよく、かかる封止剤としては、シクロヘキシルイソシアナート、フェニルイソシアナート、トリルイソシアナート等のモノイソシアナート化合物;水酸基、アミノ基等の活性水素を有する化合物等が例示される。上記カルボジイミド化合物の中でも、得られるコーティング剤から形成されるコーティング皮膜の耐加水分解性改善の観点から、分子内に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミドが好ましく、また、ポリ乳酸系樹脂(A)との相溶性、得られるコーティング剤から形成されるコーティング皮膜の耐加水分解安定性の点から、脂肪族又は脂環族カルボジイミド、脂肪族又は脂環族ジイソシアナートから得られるポリカルボジイミドが好ましい。本発明において、安定剤は1種または複数種の化合物を用いることができる。
【0021】
上記安定剤の使用量としては、各用途に応じて適宜変更可能であるが、使用されるポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して0.2〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることがより好ましい。なお、これらの安定剤は、コーティング剤中でポリ乳酸系樹脂(A)中の水酸基やカルボキシル基等と反応した形態で存在していても、未反応のまま存在していてもよい。
【0022】
さらに、本発明のコーティング剤は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸鉛等の金属石けん;二塩基性硫酸塩、二塩基性ステアリン酸鉛、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム等の無機安定剤;滑剤、顔料、耐衝撃改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防かび剤、抗菌剤、光安定剤、耐電防止剤、シリコンオイル、香料などの各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;タルク、シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤などの任意成分を必要に応じて含んでいてもよい。
【0023】
さらに、本発明のコーティング剤は、本発明の効果を損なわない範囲内で必要に応じて、ポリウレタン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリエステル樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリ塩化ビニリデン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物;ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂;芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物の共重合体;芳香族ビニル化合物−シアン化ビニル化合物−オレフィン化合物共重合体;メタクリル酸メチル−スチレン−ブチレン共重合体;スチレン系重合体、オレフィン系重合体等の他の樹脂を含有していてもよい。
【0024】
本発明のコーティング剤の粘度としては、特に規定はされないが600〜4000cpsであることが好ましく、1000〜2000cpsであることがより好ましい。また、このような範囲の粘度を有したコーティング剤は、例えば、予め上記安定剤を所定量加え樹脂と反応させる事で架橋によって増粘させたり、また、逆に溶剤を追加して、減粘させたりすることで得ることができる。
【0025】
本発明のコーティング剤の製造方法は特に規定はされないが、例えば、ポリ乳酸系樹脂(A)と所望により安定剤を予め反応させ、酸価の確認を行った後、炭酸ジエステルや、所望によりその他の溶媒を加え攪拌しながら、所望により可塑剤等を加える方法が挙げられる。なお、ポリ乳酸系樹脂(A)を炭酸ジエステルやその他の溶媒に溶解した後で安定剤を加えた場合は樹脂と安定剤の反応や架橋が十分ではない場合がある。
【0026】
本発明のコーティング剤は種々の材質、形態の材料(基体)の表面に対してコーティング皮膜を形成し得る。コーティング皮膜の形成方法としては、例えば、基体に本発明のコーティング剤を塗布した後に、乾燥、キュアリングする方法が好適である。
【0027】
本発明のコーティング剤によってその表面にコーティング皮膜を形成する基体としては、特に制限されず、例えば、ポリ乳酸系樹脂(B)、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリエチレンスクシネート、ポリブチレンスクシネート(PBS)、ポリブチレンスクシネート/アジペート共重合体(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエチレンスクシネート/テレフタレート共重合体、ポリブチレンスクシネート/テレフタレート共重合体、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/3−ヒドロキシヘキサノエート)共重合体、1,4−ブタジエン/コハク酸/アジピン酸/乳酸共重合体、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の各種グリーンポリマー;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリウレタン;ポリアミド;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリスチレン;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;エチレン/ビニルアルコール共重合体ケン化物;ポリビニルアルコール;綿布、紙などのセルロース;髪;金属等を主体とする基体が挙げられる。これらのうちで、環境負荷を低減することが可能であることから、各種グリーンポリマーを主体とする基体を使用することが好ましく、ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体を使用することがさらに好ましい。ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体に本発明のコーティング剤を使用してその表面にコーティング皮膜を形成することにより、生分解性複合材料を得ることができる。
【0028】
該ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂(B)単独からなるものや、ポリ乳酸系樹脂(B)と前記の可塑剤、安定剤等の添加物や、結晶核剤等の充填剤等より構成される樹脂組成物からなる基体が挙げられる。
【0029】
該ポリ乳酸系樹脂(B)は、L−乳酸残基またはD−乳酸残基からなる構造単位の割合が、該ポリ乳酸系樹脂(B)を構成する全構造単位における80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。ポリ乳酸系樹脂(B)がかかる光学純度の乳酸単位を有することで、ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体は、結晶性がよく、融点が高くなり、耐熱性等の物性に優れるようになる。また、該ポリ乳酸系樹脂(B)は乳酸残基以外の他の構造単位を有していてもよい。このような他の構造単位としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸と、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール等の脂肪族グリコールとから誘導されるヒドロキシカルボン酸単位;グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピバリン酸、ヒドロキシ吉草酸等のヒドロキシカルボン酸の単位等などが挙げられる。なお、ポリ乳酸系樹脂(B)がこのような乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含むものである場合、上記「ポリ乳酸系樹脂(B)を構成する全構造単位」とは、乳酸由来の構造単位(乳酸残基)と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸由来の構造単位の両方のことである。
【0030】
上記基体の形態としては、特に制限されず、直方体型、球形等各用途に応じて成形された形態や、塊状、フィルム状、繊維状、シート状等、どのような形態であってもよい。すなわち上記基体は、プラスチック成形体や布帛、紙、不織布等であってもよい。
【0031】
本発明のコーティング剤を基体に塗布する方法としては、特に規定はされないが、例えば、ナイフコーティング、コンマコーティング、吹き付け散布、転写などが例示できる。
また、コーティング剤を基体に塗布した後の乾燥方法としては、特に限定はされないが、例えば、0〜200℃で、1秒〜1週間処理することによって行なうことができる。乾燥時の圧力としては、常圧で行なってもよいし、減圧下で行なってもよい。
上記キュアリング操作としては、特に限定はされないが、例えば、50〜300℃の温度範囲で、1秒〜1日、好ましくは、10秒〜1時間処理することにより行なうことができる。具体的なキュアリング処理条件としては、例えば、130℃で2分間等の条件を例示することができる。なお、乾燥工程とキュアリング工程とを厳密に区別することは難しい。本明細書においては、塗布されたコーティング剤から溶媒を除去する工程を乾燥工程と称し、乾燥後、コーティング皮膜が形成された基体を加熱処理する工程をキュアリング工程と称する。
【0032】
本発明のコーティング剤から得られるコーティング皮膜は非結晶性であることが好ましい。コーティング皮膜が非結晶性である場合には、該コーティング皮膜が柔らかな風合いとなり、傷がつきにくく柔軟性に優れる。また、コーティング剤中に顔料等を配合した場合に、顔料等がブリードアウトしにくくなる。また、コーティング皮膜が透明性に優れ、白化等の問題が起きにくくなる。このような非結晶性の皮膜を得るためには、例えば、コーティング剤中に上記したような可塑剤を配合することにより達成することができる。なお、本明細書において非結晶性であるとは、DSCにより結晶化熱量および結晶融解熱量を測定した際に、(結晶融解熱量)−(結晶化熱量)が5J/g未満の場合のことをいう。
【0033】
本発明のコーティング剤から得られるコーティング皮膜の融点としては、用いられる基体素材や用途等により適宜設定することが可能であるが、例えば、基体素材としてポリ乳酸繊維を用いた場合には、160〜170℃の範囲であることが好ましく、また、基体素材としてポリ乳酸フィルムを用いた場合には、140〜160℃の範囲であることが好ましい。
【0034】
本発明のコーティング剤から得られるコーティング皮膜のカルボキシル基末端濃度は、9.0当量/トン以下であることが好ましい。カルボキシル基末端濃度がこの範囲であると、ガラス転移点以上の温度での加水分解が緩やかで、通常の使用による劣化や経時変化が極めて小さくなる。このような範囲のカルボキシル基末端濃度のコーティング皮膜を得るためには、例えば、コーティング剤中における上記安定剤をポリ乳酸系樹脂に対して0.2〜2重量%添加して十分反応させておく事で達成することができる。
なお、本発明において、カルボキシル基末端濃度とは、コーティング皮膜1トン中に含まれるカルボキシル基を中和するのに必要な水酸化カリウムのモル数をいい、油脂等の酸価測定と同様にして水酸化カリウム溶液による中和滴定により求められる値である。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。なお、以下の実施例における測定方法や使用薬品類は次に示すとおりである。
【0036】
<測定方法>
加熱溶解性の評価
下記の実施例、比較例におけるコーティング剤を用いて65℃で40分間攪拌した際に、ポリ乳酸系樹脂が完全に溶解した場合を「○」、わずかに白濁が見られるがほぼ溶解している場合を「△」、ほとんど溶解していない場合を「×」と評価した。
【0037】
低温安定性試験
上記の加熱評価試験により得られた、ポリ乳酸系樹脂が溶解しているコーティング剤を用いて、5℃の条件下で放置して、白濁又は沈澱が生じるまでの日数を評価した。4日経過しても白濁又は沈澱しないものを「○」、2〜4日で白濁又は沈澱したものを「△」、2日を待たずに白濁又は沈澱したものを「×」と評価した。
【0038】
コーティング皮膜の非結晶性の評価
下記の実施例、比較例で得られるコーティング剤をガラス板に塗布し、130℃で4分間乾燥後、130℃で2分間、加熱処理した。得られたコーティング皮膜を用いて、示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、DSC7)により、結晶化熱量および結晶化融解熱量を測定した。コーティング皮膜を20〜200℃まで、10℃/分の割合いで昇温させた際に観測される結晶融解熱量と結晶化熱量を測定した。得られた結晶融解熱量と結晶化熱量の差が、(結晶化融解熱量)−(結晶化熱量)<5J/gであるものを非結晶性(○)、5J/g以上であるものを結晶性(×)と評価した。
【0039】
揉み試験
耐揉み性試験(スコット揉み試験機):JIS K6404−6に準じて行なった。なお、コーティング皮膜の剥離が見られなかったものを「○」、剥離が見られたものを「×」として評価した。
【0040】
<使用薬品類>
ポリ乳酸系樹脂−1:カーギル・ダウ社製(#4060D)(L−乳酸残基からなる構造単位の含量:88モル%、数平均分子量(Mn:100,000))
ポリ乳酸系樹脂−2:カーギル・ダウ社製(#6300D)(L−乳酸残基からなる構造単位の含量:91モル%、数平均分子量(Mn:170,000))
ポリ乳酸系樹脂−3:カーギル・ダウ社製(#4042D)(L−乳酸残基からなる構造単位の含量:96モル%、数平均分子量(Mn:90,000))
ポリ乳酸系樹脂−4:カーギル・ダウ社製(#6400D)(L−乳酸残基からなる構造単位の含量:98モル%、数平均分子量(Mn:200,000))
ポリ乳酸系樹脂繊維:(株)クラレ製(プラスターチ500d−180f)(平織り:L−乳酸残基からなる構造単位の含量:98モル%、数平均分子量(Mn:150,000))
安定剤:日清紡製(カルボジライトLA−1;ポリカルボジイミドを主成分とする。)
可塑剤:新日本理化製(LA−100;ポリエチレングリコール(平均分子量200)ジベンゾエートを主成分とする。)
【0041】
<実施例1>
ポリ乳酸系樹脂−1(99重量部)に安定剤(1重量部)を添加し、220〜250℃で混練し、ストランド状に水中に押し出して、ペレタイザーで切断しペレットを得た。これに、DMC(500重量部)を加えて、50℃にて溶解させながら、可塑剤(35重量部)を加えてコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性、低温安定性およびコーティング皮膜の非結晶性の評価を行なった。さらに、ポリ乳酸系樹脂繊維へ該コーティング剤を塗布し、130℃で4分間、常圧にて加熱乾燥後、130℃で2分間、キュアリングを実施しコーティング皮膜を形成させた。該工程において乾燥は充分に行なうことができた。得られた、コーティング皮膜が形成されたポリ乳酸系樹脂繊維を用いて揉み試験を行なった。結果を表1に示した。
【0042】
<実施例2>
実施例1において、可塑剤(35重量部)を使用しないこと以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性、低温安定性およびコーティング皮膜の非結晶性の評価を行なった。さらに、該コーティング剤を用いて、実施例1と同様の方法に従って、コーティング皮膜が形成されたポリ乳酸系樹脂繊維を作製し、揉み試験を行なった。乾燥工程において乾燥は充分に行なうことができた。結果を表1に示した。
【0043】
<実施例3>
実施例1において、ポリ乳酸系樹脂−1(99重量部)の代わりにポリ乳酸系樹脂−2(99重量部)を用いる以外は、実施例1と同様の方法に従ってコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性および低温安定性の評価を行なった。結果を表1に示した。
【0044】
<実施例4>
実施例1において、ポリ乳酸系樹脂−1(99重量部)の代わりにポリ乳酸系樹脂−4(99重量部)を用いる以外は、実施例1と同様の方法に従ってコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性および低温安定性の評価を行なった。結果を表1に示した。
【0045】
<実施例5>
実施例1において、DMC(500重量部)の代わりに,DMC(375重量部)と酢酸エチル(125重量部)の混合溶液(500重量部)を用いた以外は実施例1と同様の方法に従ってコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性及び低温安定性の評価を行った。結果を表1に示した。
<比較例1>
実施例1において、DMC(500重量部)の代わりにDMF(500重量部)を用いた以外は実施例1と同様の方法に従ってコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性および低温安定性の評価を行なった。結果を表2に示した。
【0046】
<比較例2>
実施例3において、DMC(500重量部)の代わりにDMF(500重量部)を用いた以外は実施例3と同様の方法に従ってコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性および低温安定性の評価を行なった。結果を表2に示した。
【0047】
<比較例3>
実施例1において、ポリ乳酸系樹脂−1(99重量部)の代わりに、ポリ乳酸系樹脂−3(99重量部)を用いて、さらにDMC(500重量部)の代わりにDMF(500重量部)を用いる以外は実施例1と同様の方法に従ってコーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性、低温安定性およびコーティング皮膜の非結晶性の評価を行なった。結果を表2に示した。コーティング皮膜の非結晶性の評価においては、乾燥工程において充分な乾燥ができず評価可能な試料が得られなかった。さらに、ポリ乳酸系樹脂繊維へ該コーティング剤を塗布し、130℃で4分間、常圧にて加熱乾燥を行なった。該工程において、乾燥は充分に行なうことができず、揉み試験を行なうことができるコーティング皮膜が形成されたポリ乳酸系樹脂繊維を得ることはできなかった。
【0048】
<比較例4>
比較例3と同様の方法によって、コーティング剤を作製した。これを、ポリ乳酸系樹脂繊維へ塗布し、155℃で4分間、常圧にて加熱乾燥後、130℃で2分間、キュアリングを実施しコーティング皮膜を形成させた。該乾燥工程において、ポリ乳酸系樹脂繊維が硬化した。各評価結果を表2に示した。
【0049】
<比較例5〜8>
表2に記載されたポリ乳酸系樹脂および溶媒を用いて、実施例1と同様の方法に従って、コーティング剤を得た。該コーティング剤を上記の方法に従って、加熱溶解性および低温安定性の評価を行なった。結果を表2に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、生体への毒性や、燃焼時の酸性ガス発生、ダイオキシン発生等の問題を生じにくく、また、ポリ乳酸系樹脂が充分に溶解されているため、特に冬場など、気温が低下する場合に、コーティング剤中にポリ乳酸系樹脂が析出してくるといった問題が起きにくいコーティング剤を提供することができる。本発明のコーティング剤は、各種材料に塗布が可能で、それから得られる生分解性のコーティング皮膜は、耐久性に優れ、また、地球環境への負荷が少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂(A)および炭酸ジエステルを含むコーティング剤。
【請求項2】
ポリ乳酸系樹脂(A)が、L−乳酸残基からなる構造単位を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有するか、または、D−乳酸残基からなる構造単位を、該ポリ乳酸系樹脂(A)を構成する全構造単位に対して80〜99モル%含有する請求項1に記載のコーティング剤。
【請求項3】
ポリ乳酸系樹脂(A)の数平均分子量(Mn)が、5,000〜400,000である、請求項1または2に記載のコーティング剤。
【請求項4】
炭酸ジエステルを、ポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して200〜700重量部の範囲で含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項5】
炭酸ジエステルが、炭酸ジメチルである請求項1〜4のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項6】
さらに可塑剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコーティング剤。
【請求項7】
可塑剤を、ポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して、5〜50重量部の範囲で含む請求項6記載のコーティング剤。
【請求項8】
可塑剤がポリエチレングリコールジベンゾエートである、請求項6又は7に記載のコーティング剤。
【請求項9】
さらに安定剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項10】
安定剤を、ポリ乳酸系樹脂(A)100重量部に対して0.2〜10重量部の範囲で含む、請求項9記載のコーティング剤。
【請求項11】
基体に塗布し、乾燥、キュアリング処理することによってコーティング皮膜を形成するものである、請求項1〜10のいずれか1項記載のコーティング剤。
【請求項12】
コーティング皮膜が非結晶性である、請求項11記載のコーティング剤。
【請求項13】
基体が、ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体である、請求項11又は12記載のコーティング剤。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれか1項記載のコーティング剤の塗膜を乾燥、キュアリング処理して得られるコーティング皮膜。
【請求項15】
非結晶性である、請求項14記載のコーティング皮膜。
【請求項16】
ポリ乳酸系樹脂(B)を主体とする基体の表面に、請求項14又は15記載のコーティング皮膜を形成してなる、生分解性複合材料。

【公開番号】特開2007−2197(P2007−2197A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187352(P2005−187352)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】