説明

コーティング皮膜付き手袋及びその製造方法

【課題】原手内への配合液の侵入を阻止しながら、原手と補強材が接合一体化させ、手袋を装着した作業に支障を与えることなく、耐久性向上をいかんなく発揮できるコーティング皮膜付き手袋及びその製造方法を提供する。
【解決手段】綿100%の生成りの生地で造られた原手2と、合成繊維の長繊維からなる生地で造られ、該原手の指先部241を覆って原手2に縫合される補強片3aと、該補強片3aが縫合された補強片付き原手2αに係る該補強片の表面3aS及び該補強片に覆われた原手部位以外の原手の表面2Sに被着一体化する表面皮膜51と、前記原手2と該補強片3aとの対向面29,39同士を接合一体化する連結皮膜52と、を有するコーティング皮膜5と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は破れやすい箇所を部分補強したコーティング皮膜付き手袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原手にコーティング皮膜を形成したコーティング皮膜付き手袋が汎用され、さらに作業等で破れやすい箇所を補強したものも登場している(例えば実用新案登録第3107683号)。破れやすい箇所を部分補強して、耐久性を向上させるコーティング皮膜付き手袋の製造方法は、例えば破れやすい指先や、親指と人差し指の付け根周りの指股部に補強片を接着する手法が採られてきた。しかし、ライン生産する場合、金型にセットされた原手が動いており、各指先に補強片を接着するのは難しく、労力負担だけでなく歩留まり低下を余儀なくされてきた。こうしたなか、補強片を接着に頼らない発明が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3161624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特許文献1は、その段落0015に記載のごとく「指先部の腹側は、例えばメリヤス原手20と人差し指腹側用の第1補強材7bとニトリルゴム被覆材11の3層で構成される。指先部の爪側は、メリヤス原手20と人差し指爪側用の第2補強材8bとニトリルゴム被覆材11の3層で構成される。」とあり、耐久寿命が不十分になる虞があった。すなわち、原手と補強材と被覆材11との3層構造であり、原手と補強材が接合一体化していないため、原手と補強材との間に空洞ができて、被覆した補強材が破れたり剥離したりする問題があった。
その一方で、被覆材形成用の配合液に対して原手や補強材の浸透性を高めれば、配合液に浸漬させた際、原手内にも該配合液が浸透してしまう。その手袋へ手を挿入すると配合液の固化物が当たり、手袋を装着した作業性が低下する問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決するもので、原手内への配合液の侵入を阻止しながら、原手と補強材が接合一体化し、手袋を装着した作業に支障を与えることなく、耐久性向上をいかんなく発揮できるコーティング皮膜付き手袋及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、綿100%の生成りの生地で造られた原手(2)と、合成繊維の長繊維からなる生地で造られ、該原手の指先部(241)を覆って原手(2)に縫合される補強片(3a)と、該補強片(3a)が縫合された補強片付き原手(2α)に係る該補強片の表面(3aS)及び該補強片に覆われた原手部位以外の原手の表面(2S)に被着一体化する表面皮膜(51)と、前記原手(2)と該補強片(3a)との対向面(29,39)同士を接合一体化する連結皮膜(52)と、を有するコーティング皮膜(5)と、を具備することを特徴とするコーティング皮膜付き手袋にある。
請求項2に記載の発明の要旨は、綿100%の生成りの生地を用いた原手用裁断片(2a)と、合成繊維の長繊維からなる生地を用いて、指先部(241)を被覆する大きさに裁断された補強片(3a)と、を一緒に縫合して、該原手用裁断片(2a)で原手(2)を縫製すると共に、該補強片(3a)で該原手の指先部(241)が覆われるキャップ状体(3)に縫製し、次いで、縫製されたこの補強片付き原手(2α)をコーティング皮膜形成用の配合液(71)に浸漬させ、該配合液が前記補強片(3a)の生地を通過するようにして、原手(2)と補強片(3a)との対向面(29,39)がつくる隙間(ε)に配合液(71)を介在させ、続いて、配合液(71)が入った液糟(7)からその配合液(71)で濡れた補強片付き原手(2α)を引き上げ、その後、これを加熱,乾燥させて、補強片付き原手(2α)の表面(2S)に付着した配合液(71)が該表面に被着一体化してなる表面皮膜(51)と、前記隙間(ε)に介在させた配合液(71)が補強片(3a)を原手(2)に接合一体化させてなる連結皮膜(52)と、を有するコーティング皮膜(5)を形成することを特徴とするコーティング皮膜付き手袋の製造方法にある。
請求項3の発明たるコーティング皮膜付き手袋の製造方法は、請求項2で、合成繊維の長繊維がナイロン又はポリエステルの長繊維であり、さらに、前記補強片付き原手(2α)をコーティング皮膜形成用の配合液(71)に浸漬させ、該配合液(71)が前記補強片(3a)の生地を通過するようにして、原手(2)と補強片(3a)との対向面(29,39)がつくる隙間(ε)に配合液(71)を介在させ、続いて、配合液(71)が入った液糟(7)からその配合液(71)で濡れた補強片付き原手(2α)を引き上げ、その後、これを加熱,乾燥させる一連の操作を、複数回繰り返し、そのうちの一操作の配合液に粒状体(72)を混ぜ合わせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のコーティング皮膜付き手袋及びその製造方法は、原手内へ配合液が侵入するのを阻止して手袋装着時の違和感を解消すると共に、手袋表面にコーティング皮膜を形成するのと一緒に、原手と補強片とを接合一体化させる連結皮膜たるコーティング皮膜が形成されるので、耐久性向上をいかんなく発揮でき優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るコーティング皮膜付き手袋の斜視図である。
【図2】図1のII-II線矢視図である。
【図3】コーティング皮膜付き手袋に係る原手用裁断片と指先部用に裁断した補強片の斜視図である。
【図4】図3の原手用裁断片と補強片とを裏返し状態で縫合した補強片付き原手の斜視図である。
【図5】図4の補強片付き原手を表返しにしたその斜視図である。
【図6】コーティング皮膜付き手袋の概略製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るコーティング皮膜付き手袋及びその製造方法について詳述する。
図1〜図6は本発明のコーティング皮膜付き手袋及びその製造方法の一形態で、図1はそのコーティング皮膜付き手袋の斜視図、図2は図1のII-II線矢視図、図3はその原手用裁断片と指先部用に裁断した補強片の斜視図、図4は図3の原手用裁断片と補強片とを裏返し状態で縫合した補強片付き原手の斜視図、図5は図4の補強片付き原手を表返しにしたその斜視図、図6は図5の補強片付き原手に指股補強材を貼着した後、これにコーティング皮膜を付与するコーティング皮膜付き手袋の概略製造工程図である。
【0010】
(1)コーティング皮膜付き手袋
コーティング皮膜付き手袋(以下、単に「手袋」ともいう。)は、原手2と補強片3aとコーティング皮膜5とを具備する(図1)。
原手2は、指一本ずつを覆うグラブ形状で、親指部24a,人差し指部24b,中指部24c,薬指部24d,小指部24eに、五本の指をそれぞれ挿入するようになっている。本原手2は綿100%の生成りの生地で造られる。生成り綿の生地表面に油分を有しており、配合液71に浸漬させた際、該配合液71が原手2内へ侵入するのを阻止できるからである。洗剤や漂白剤,蛍光剤等を一切使用せず、生成り綿の生地から造られた原手2になっている。綿100%の生成りの生地を裁断してできた原手用裁断片2aが縫製されて原手2となる。尚、該原手の表面2S側は、加熱してその毛羽立ちが抑えられるとより好ましくなる。原手2へのコーティング皮膜5の接合強化が図られるからである。
【0011】
図3は右側原手用裁断片2aを示し、右手の中空袋形状をつくる。原手用裁断片2aは、主裁断片2aと親指裁断片2aとからなり、主裁断片2aには親指用開口220が設けられる。図3で、主裁断片2aの人差し指部24bから親指部24aとの指股部に至る側縁ラインを折り目にして、図示のごとく二つ折りし、さらに手の平22側に設けられた親指用開口220に親指裁断片2aを縫合すると、原手2の前段階形となる。符号fはその縫目を示す。各指先部241の開き口24a〜24eに、次に述べる各指先部用補強片3a(3a〜3a)を挿入し、さらに親指部24aから小指部24eに係る各補強片3aと一緒に縫合して、原手2が縫製される(図4)。符号fは主裁断片2aの側縁同士、及び主裁断片2aと人差し指先用補強片3a〜小指先用補強片3aとの縫目を示す。符号2mは該縫目の縫い代を示す。符号fは二つ折りした親指裁断片2aの側縁同士、及び該親指裁断片2aと親指先用補強片3aとの縫目を示す。該原手2が縫製されるのに合わせて、補強片3aで指先部241を覆う略中空半球形のキャップ状体3が縫製される。
【0012】
補強片3aは、合成繊維の長繊維からなる生地で造られ、該原手2の指先部241を覆って原手2に縫合されるチップ片である。原手2を縫製するのに合わせて、各指先用補強片3aで各指先部241を覆うキャップ状体3が縫製されるよう、合成繊維の長繊維からなる生地で、それぞれのチップ片形状の補強片3aが裁断される。
具体的には、図3のごとく各指先部241を被覆するキャップ状体3になる親指先用補強片3a,人差し指先用補強片3a,中指先用補強片3a,薬指先用補強片3a,小指先用補強片3aが裁断される。ここでは、親指先用補強片3a,人差し指先用補強片3aが一枚もので、同図の裏返し二つ折り状態の前記原手2の前段階形に係る親指部24a,人差し指部24bの各開き口24a,24bへ、二つ折り状態で親指先用補強片3a,人差し指先用補強片3aを挿入後、原手用裁断片2aと一緒に縫合して表返せば、図5のようなキャップ状体3になる。中指先用補強片3a,薬指先用補強片3a,小指先用補強片3aは、それぞれ指先部241の腹側用と指先部241の爪側用の大きさにしたチップ片が一対形成され、図3の中指部24c,薬指部24d,小指部24eの各開き口24c〜24eへ、中指先用補強片3a,薬指先用補強片3a,小指先用補強片3aを二枚重ね状態にして挿入後、前記原手2の前段階形と一緒に縫合して表返せば、図5のようなキャップ状体3になる。これら補強片3aがつくる中指部24c,薬指部24d,小指部24eの正面視ほぼ半円形したキャップ状体3は、図4のごとく原手2の外周縁を縫合する縫目fが、その半円形した円弧全域に形成される。一方、親指先用補強片3a,人差し指先用補強片3aがつくる親指部24a,人差し指部24bの正面視ほぼ半円形したキャップ状体3は、二つ折りの折り目部分が存在することから、図4のごとく原手2の外周を縫合する縫目f,fが、その半円形した円弧の一部で存在しない格好になっている。
【0013】
補強片3aは、既述のごとく合成繊維の長繊維からなる生地で造られる。したがって、コーティング皮膜5を形成する配合液71に浸漬した時に、該配合液71が補強片3aの布地の目を円滑に通過し、原手2と補強片3aとの対向面29,39がつくる隙間εに配合液71を介在させ易くなっている。綿,羊毛などの毛羽立つ天然繊維と違って合成繊維であり、配合液71に浸漬させると、その布地を通過する際の通水抵抗が少なく、配合液71は補強片3aの布地の目を円滑に通過する。さらに短繊維と違って長繊維(フィラメント)からなる生地であるので、より一層通水抵抗が小さくなり、配合液71が補強片3aを難なく浸透,通過する。補強片3aがナイロン又はポリエステルの長繊維で造られると、より好ましくなる。ポリエステルは耐薬品性や強度に優れ、本発明の手袋用補強片3aとしてより好ましい繊維になる。また、ナイロンは耐薬品性,耐油性に優れ、且つ弾力性に富み、シワになり難い特徴等を有し、さらに殆ど水を吸わず、吸湿もしないので乾きが速いなど、水作業等を含め作業用手袋として用いられる本手袋に打ってつけとなっている。加えて、ナイロン長繊維の中空糸(例えば東レの「エアリーサムロン」(登録商標))からなる生地を用いた補強片3aであると、保温性に優れるため、指先が冷たくなる水作業等に用いる手袋では一段と優れものになる。
【0014】
コーティング皮膜5は表面皮膜51と連結皮膜52とを備える。表面皮膜51は、補強片3aが縫合された補強片付き原手2αに係る該補強片の表面3aS及び該補強片3aに覆われた原手部位以外の原手の表面2Sに被着一体化する。連結皮膜52は原手2と補強片3aとの対向面29,39同士を接合一体化する。表面皮膜51や連結皮膜52のコーティング皮膜5は、コーティング皮膜形成用の配合液71を、原手表面2S,補強片表面3aSや原手2と補強片3aとの対向面29,39に付着させて、この付着した配合液71を加熱乾燥させて得られる。補強片3aで原手2の指先部241にキャップ状体3を縫製した補強片付き原手2αを造り、次に、ニトリルゴムを含む配合液71にディッピングし、その後、引上げて加熱,乾燥させることで本発明の手袋1が得られる。
配合液71に粒状体72を混ぜ合わせれば、手袋表面に滑り止め防止用の粒状体72が原手表面2S,補強片表面3aSに付着一体化した図1のような所望の手袋が作製される。詳しくは、次のような製造方法によって作製される。
【0015】
(2)コーティング皮膜付き手袋の製造方法
コーティング皮膜付き手袋1の一製造方法について詳述する。本製法に先立ち、製品資材たる原手2と補強片3aと指股補強材4を準備する。製造ラインには、各工程地点を循環するサークル状のワイヤ62が水平配設される。該ワイヤ62が間欠移動し、ワイヤ62に吊設される原手装着用の成形型61と、配合液71を溜めた液糟7(7a,7b)と、バーナー8と加熱乾燥炉91,92とが備えられる(図6)。
【0016】
まず、補強片付き原手2αを縫製する。図3のような、綿100%の生成りの生地を用いた原手用裁断片2aと、合成繊維の長繊維からなる生地を用いて、指先部241を被覆する大きさに裁断された補強片3aが用意される。各補強片3a〜3aは、図5のように親指部24aから小指部24eに係る各指部24の指先部241を覆うことのできる大きさに裁断されたチップ片である。既述のごとく、親指先用補強片3a,人差し指先用補強片3aが一枚もので構成され、中指先用補強片3a,薬指先用補強片3a,小指先用補強片3aは、各一対もので構成される。また、原手用裁断片2aは主裁断片2aと親指裁断片2aとからなる。
【0017】
原手用裁断片2aと各補強片3a〜3aとを一緒に縫合して、該原手用裁断片2aで原手2を縫製すると同時に、該補強片3a〜3aで指先部241が覆われるキャップ状体3を造る。裏返し状態にした原手2に係る主裁断片2aの親指用開口220に親指裁断片2aで蓋をし、該親指裁断片2aと主裁断片2aとを縫合し、原手用裁断片2aの一枚ものになる。そして、親指裁断片2aが親指を覆うよう縫い合わせ、さらに、該原手用裁断片2aの外周縁を縫合すれば原手2が縫製される。このとき、補強片3aと一緒に縫合して、原手用裁断片2aで原手2を縫製すると共に、補強片3aで指先部241が覆われるキャップ状体3に縫製する。具体的には裏返し状態の原手用裁断片2aの各指先部241の開き口24a〜24eに、親指先用補強片3a,人差し指先用補強片3a,中指先用補強片3a,薬指先用補強片3a,小指先用補強片3aを挿入,配置し、各指先部241の外周縁に各補強片3a〜3aの外周縁を一致させて配設を終える。その後、原手用裁断片2aの外周縁に沿って縫合して原手2を縫製する際、各補強片3aも一緒に縫合して、各補強片3aで指先部241が覆われるキャップ状体3,3,…に縫製する。こうして、図4のような表皮片付き原手2αを縫製した後、表返しにすると図5の表皮片付原手2αになる。
【0018】
さらに、本実施形態は、図5の表返しにされた表皮片付原手2αに指股補強材4を取着する。表皮片付原手2αに係る親指部24aと人差し指部24bとの付け根周りの指股部に、合成繊維の長繊維からなる生地で造られた指股補強材4を縫合又は接着する。この指股部箇所も手袋使用中に破れ易いからである。該指股補強材4が付加された表皮片付原手2αに、コーティング皮膜5を形成する。
【0019】
そのコーティング皮膜形成用製造ラインは、水平にしてサークル状に張り巡らされたワイヤ62が間欠周回移動できるようになっている。該ワイヤ62の移動方向に、所定間隔をおいて線材63が垂れ下がり、各線材63,63,…の下端にそれぞれ原手装着用成形型61が指先部分を下にして吊設される。図6はその一部を示す。各成形型61は表皮片付原手2αを嵌めた時にフィットする大きさで、図示のごとく五本の各指部24を開かせる姿態にある。
【0020】
コーティング皮膜5の形成は、まず前記表皮片付原手2αを一枚ずつそれぞれの成形型61に嵌める(図6のイ)。ワイヤ62が図示しない伝動機構,アクチュエータによって間欠移動しており、成形型61に嵌めた表皮片付き原手2αは、毛羽立ち処理工程地点へと進む。毛羽立ち処理工程ではバーナー8の火炎81で表皮片付原手2αに係る綿100%の生成りの生地表面を適度に焼き、毛羽立ちを抑える(図6のロ)。次いで、毛羽立ちを抑えた表皮片付原手2αは浸漬工程地点へと移動する。
【0021】
浸漬工程では、補強片付き原手2αをコーティング皮膜形成用の配合液71に浸漬させる(図6のハ)。縫製された補強片付き原手2αをコーティング皮膜形成用の配合液71に浸漬させ、該配合液71が補強片3aの生地に浸透,通過するようにして、原手2と補強片3aとの対向面29,39がつくる隙間ε(図2参照)に配合液71を介在させる。配合液71はニトリルゴムを主成分とし、補強片付き原手2αを図6(ハ)のごとく原手2の手首部23を含め腕の部分まですっぽりと浸漬させることによって、補強片の表面3aS及び該補強片3aに覆われた原手部位以外の原手の表面2Sが配合液71に濡れる。また、補強片3aは合成繊維の長繊維からなる生地で造られているため、配合液71が補強片3aの布地の目を速やかに通過して原手2と補強片3aとの対向面29,39がつくる隙間εに入り込む。但し、原手2が綿100%の生成りの生地で造られているので、配合液71が原手2内へ侵入することはない。該浸漬工程を終えたら、次の加熱乾燥工程地点に向かう。
【0022】
浸漬工程を終えたら、配合液71が入った液糟7からその配合液71で濡れた補強片付き原手2αを引き上げる。その後、加熱乾燥工程で、これを加熱,乾燥させて、補強片付き原手2αの表面2Sに付着した配合液71が該表面2Sに被着一体化してなる表面皮膜51と、前記隙間εに介在させた配合液71が補強片3aを原手2に接合一体化させてなる連結皮膜52と、を有するコーティング皮膜5を形成する(図6のニ)。加熱乾燥工程の加熱乾燥炉91内で、配合液71に濡れた原手2,補強片3aは配合液71が接着力を伴って固化する。補強片付き原手2αの表面2Sに付着した配合液71は、加熱,乾燥されて、補強片の表面3aS及び原手表面2sに接着固化し表面皮膜51となる(図2)。隙間εに介在する配合液71は、加熱乾燥炉91内で加熱,乾燥されて、補強片3aと原手2とを接合一体化する連結皮膜52となる。
【0023】
しかるに、ニトリルゴムを主成分とする配合液71においては、一回の浸漬工程,加熱乾燥工程だけでは、コーティング皮膜5の十分な膜厚を得るのが難しい。そこで、補強片付き原手2αをコーティング皮膜形成用の配合液71に浸漬させて、配合液71が補強片3aの生地に浸透,通過することにより、原手2と補強片3aとの対向面29,39がつくる隙間εに配合液71を介在させ、続いて、配合液71が入った液糟7からその配合液71で濡れた補強片付き原手2αを引き上げ、その後、これを加熱,乾燥させる一連の操作を、複数回繰り返す。ここで、そのうちの一操作の配合液71に粒状体72を混ぜ合わせるとより好ましい。粒状体72によって手袋表面に小さな凹凸が点在し、手袋1の滑り止め防止機能を付与できるからである(図1)。
【0024】
本実施形態は、前記加熱乾燥工程を終えたコーティング皮膜形成後の手袋1cを、前述の浸漬工程,加熱乾燥工程と同じように二次浸漬工程(図6のホ),二次加熱乾燥工程(図6のヘ)へ送る。二次浸漬工程では、液糟7b内の配合液71に滑り止め防止用の粒状体72を混ぜ合わせる。滑り止め防止用を兼ねて、コーティング皮膜形成後の手袋1cをディッピングさせるため、二次浸漬工程は該手袋1cの配合液浸漬を手首部23のレベルまでにとどめる(図6のホ)。他の二次浸漬工程(図6のホ),二次加熱乾燥工程(図6のヘ)の説明内容は、前述した浸漬工程(図6のハ),加熱乾燥工程(図6のニ)と同様で、その説明を省く。
図6は図示を省略するが、ここでは二次加熱乾燥工程(図6のヘ)を終えた粒状体72付きコーティング皮膜形成後の手袋1cを、また浸漬工程(図6のハ)と加熱乾燥工程(図6のニ)へ送り込み、粒状体72を被覆するコーティング皮膜5を重層形成する。粒状体72をコーティング皮膜5でコートし、粒状体72の脱落を防ぐためである。かくして、図1のごとくの所望のコーティング皮膜付き手袋1が造られる。
【0025】
(3)効果
このように構成したコーティング皮膜付き手袋1及びその製造方法によれば、綿100%の生成りの生地で原手2を造るので、コーティング皮膜形成用の配合液71に浸漬させた際、生成りの綿生地の油分によって原手2内への配合液71の侵入を阻止できる。本手袋1を装着した時、原手2内に入り込んだ配合液71の固化物によって不快感を味わうことがない。従来、手袋へ手を挿入すると配合液71の固化物が当たり、手袋を装着した作業性が低下する問題を、新たな構成材料の追加や新たな処理工程等を特に追加することなく簡便に解決できる。
【0026】
その一方で、補強片3aが合成繊維の長繊維からなる生地で造られるので、配合液71に浸漬させた際、補強片3aの布地を通過し易くなる。したがって、補強片3aで指先部241が覆われるキャップ状体3に縫製した補強片付き原手2αを配合液71に浸漬させると、配合液71が補強片3aに係る生地の目を通過し、原手2と補強片3aとの対向面29,39がつくる隙間εに配合液71を容易に介在させることができる。該配合液71で連結皮膜52を形成し、補強片3aを原手2に接合一体化させることができる。コーティング皮膜付き手袋1の耐久性が向上する。特許文献1のごとく、原手2と補強材との間に空洞ができて、被覆した補強材が破れたり剥離したりする問題を解決する。
【0027】
そして、補強片3aの生地を造る合成繊維の長繊維がナイロン又はポリエステルの長繊維であると、配合液71による補強片3aの生地通過がよりスムーズになり、浸漬工程で、原手2と補強片3aとの対向面29,39がつくる隙間εに配合液71を介在させるのが一層容易になる。コーティング皮膜形成用の配合液71に浸漬させる時間を短縮でき、生産性を一段と向上させることができる。また、耐薬品性や強度に優れるポリエステルの特長や、耐薬品性,耐油性に優れ、且つ弾力性に富み、さらに速乾性を有するナイロンの特長が、水作業をはじめ様々な作業に使用される本手袋1にあって、極めて有益となる。
【0028】
加えて、浸漬工程,加熱乾燥工程の一連操作を、複数回繰り返し、そのうちの一操作の配合液71に粒状体72を混ぜ合わせると、コーティング皮膜5中に粒状体72を点在して配することができるので、手袋表面に滑り止め効果を簡単に付与できる。
さらに、補強片付き原手2αをコーティング皮膜形成用の配合液71に浸漬させるのに先立ち、該原手の表面2Sを加熱してその毛羽立ちを抑えると、原手2表面に被着一体化してなる表面皮膜51をより強力に一体化できる。
さらにいえば、本手袋は、綿100%の生成りの生地を用いた原手用裁断片2aと、合成繊維の長繊維からなる生地を用いて、指先部241を被覆する大きさに裁断された補強片3aと、を一緒に縫合して、該原手用裁断片2aで原手2を縫製すると共に、補強片3aでキャップ状体3を縫製するので、破れやすい指先等の箇所に補強材を接着していた従来法に比べ、作業性向上,歩留まり向上を果たす。
かくのごとく、本コーティング皮膜付き手袋は上述した数々の優れた効果を発揮し、これまでにない画期的な手袋になっている。
【0029】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。原手2,補強片3a,コーティング皮膜5,配合液71等の形状,大きさ,個数,材料,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。
【符号の説明】
【0030】
1 手袋(コーティング皮膜付き手袋)
2 原手
2S 原手の表面
2α 表皮片付き原手
241 指先部
29 対向面
3 キャップ状体
3a 補強片
3aS 補強片の表面
39 対向面
5 コーティング皮膜
51 表面皮膜
52 連結皮膜
71 配合液
72 粒状体
ε 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿100%の生成りの生地で造られた原手(2)と、
合成繊維の長繊維からなる生地で造られ、該原手の指先部(241)を覆って原手(2)に縫合される補強片(3a)と、
該補強片(3a)が縫合された補強片付き原手(2α)に係る該補強片の表面(3aS)及び該補強片に覆われた原手部位以外の原手の表面(2S)に被着一体化する表面皮膜(51)と、前記原手(2)と該補強片(3a)との対向面(29,39)同士を接合一体化する連結皮膜(52)と、を有するコーティング皮膜(5)と、を具備することを特徴とするコーティング皮膜付き手袋。
【請求項2】
綿100%の生成りの生地を用いた原手用裁断片(2a)と、合成繊維の長繊維からなる生地を用いて、指先部(241)を被覆する大きさに裁断された補強片(3a)と、を一緒に縫合して、該原手用裁断片(2a)で原手(2)を縫製すると共に、該補強片(3a)で該原手の指先部(241)が覆われるキャップ状体(3)に縫製し、次いで、縫製されたこの補強片付き原手(2α)をコーティング皮膜形成用の配合液(71)に浸漬させ、該配合液が前記補強片(3a)の生地を通過するようにして、原手(2)と補強片(3a)との対向面(29,39)がつくる隙間(ε)に配合液(71)を介在させ、続いて、配合液(71)が入った液糟(7)からその配合液(71)で濡れた補強片付き原手(2α)を引き上げ、その後、これを加熱,乾燥させて、補強片付き原手(2α)の表面(2S)に付着した配合液(71)が該表面に被着一体化してなる表面皮膜(51)と、前記隙間(ε)に介在させた配合液(71)が補強片(3a)を原手(2)に接合一体化させてなる連結皮膜(52)と、を有するコーティング皮膜(5)を形成することを特徴とするコーティング皮膜付き手袋の製造方法。
【請求項3】
前記合成繊維の長繊維がナイロン又はポリエステルの長繊維であり、さらに、前記補強片付き原手(2α)をコーティング皮膜形成用の配合液(71)に浸漬させ、該配合液(71)が前記補強片(3a)の生地を通過するようにして、原手(2)と補強片(3a)との対向面(29,39)がつくる隙間(ε)に配合液(71)を介在させ、続いて、配合液(71)が入った液糟(7)からその配合液(71)で濡れた補強片付き原手(2α)を引き上げ、その後、これを加熱,乾燥させる一連の操作を、複数回繰り返し、そのうちの一操作の配合液に粒状体(72)を混ぜ合わせた請求項2記載のコーティング皮膜付き手袋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−144817(P2012−144817A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3627(P2011−3627)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(390035792)三重化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】