説明

コーティング穀物の製造方法

【課題】被覆時に穀粒同士が結着せず、かつ、被覆後に乾燥した添加液が穀粒表面から剥離しないコーティング方法を提供することを課題とする。
【解決手段】原料が穀粒であって、前記穀粒の表面を急速に乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程後の穀粒表面に添加液を被覆する被覆工程とを含み、前記乾燥工程において、穀粒を過熱蒸気に接触させて該穀粒の表面を急激に乾燥させる、という技術的手段を講じた。また、前記過熱蒸気の温度が160℃〜250℃であって、穀粒が前記過熱蒸気に接触させる時間を30秒以内という短時間とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング穀物の製造方法に関し、特にコーティング米製造時の前処理工程に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、栄養富化等を目的として穀粒の表面に有効な機能性成分を含有する添加液を被覆することが行われている。例えば、特許文献1には、穀粒表面に該穀粒の重量比0.5〜3.0%の添加液を被覆することが記載されている。このように、穀粒の表面に被覆する添加液の量が少量であれば、一般的な被覆方法によりコーティング米を容易に製造することが可能であると思われる。
【0003】
しかし、多量の機能性成分を含有する添加液を添加する場合、穀粒表面に被覆する添加液の量が増加するため、被覆直後に前記添加液を乾燥させる際に、本来穀粒表面と添加液が結着すべきであるのに、穀粒の表面に被覆された添加液が、隣り合う穀粒の表面に被覆された添加液と結着してしまい、結局、穀粒同士が結着してしまうという問題が生じた。
【0004】
このため、乾燥工程後に撹拌工程を設けて、結着した穀粒同士を分離させることも行われているが、前記撹拌工程で強制的に撹拌作用により結着した穀粒を分離させると、穀粒表面から乾燥した添加液が剥離してしまうという問題が生じた。さらに、撹拌時の衝撃により穀粒が割れてしまったり、ひびが生じたりする恐れもあった。
【0005】
このため、穀粒表面に被覆する添加液の量が増加した場合であっても、被覆時に穀粒同士が添加液により結着せず、また、被覆後に乾燥した添加液が穀粒表面から剥離しないコーティング方法が強く望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−169611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題にかんがみて、被覆時に穀粒同士が結着せず、かつ、被覆後に乾燥した添加液が穀粒表面から剥離しないコーティング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、原料が穀粒であって、前記穀粒の表面を急速に乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程後の穀粒表面に添加液を被覆する被覆工程とを含み、前記乾燥工程において、穀粒を過熱蒸気に接触させて該穀粒の表面を急激に乾燥させる、という技術的手段を講じた。
【0009】
また、前記過熱蒸気の温度が160℃〜250℃であって、穀粒が前記過熱蒸気に接触させる時間を30秒以内という極短時間とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコーティング穀物の製造方法によれば、穀粒の表面に添加液を被覆する前に、該表面を過熱蒸気に接触させるので、前記表面が過熱蒸気による作用で急激に乾燥し、この乾燥作用により表面の水分が急激に蒸発することにより、該表面に微細な凹凸が形成される。この凹凸が形成されることで、添加液の穀粒表面への結着性が増し、結着後の剥離(液剥がれ)が起き難くなる。
【0011】
また、前記乾燥時に穀粒内部(特に表面付近)の水分が外部へ蒸発する際に、微細な痕跡(水道)が穀粒表面に形成されるため、この痕跡により穀粒が水分を吸水しやすい状態となる。このため、前記穀粒に添加液を添加すると、その添加液中の低分子物質(水が主体)が急速に前記痕跡から穀粒内部へ取り込まれる。これにより、穀粒表面部の添加液が素速く乾燥するので、穀粒同士の結着を防ぐことができる。
【0012】
さらに、本発明では、穀粒の表面を160℃以上の高温の過熱蒸気に接触させることになるので、該穀粒の殺菌、殺虫及び殺卵の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を図1〜図4を参照しながら説明する。図1は、本発明の製造方法における製造工程を示したフローチャートである。本発明のコーティング穀物の製造方法は、原料の表面を過熱蒸気により処理する乾燥工程(ステップS1)及び原料の表面を被覆する被覆工程(ステップS2)から構成される。図2は乾燥工程に用いる乾燥装置2の斜視図であり、図3は乾燥装置2の側面部分断面図である。また、図4は、乾燥装置2の過熱蒸気の配管を説明するための図であり、乾燥装置2の上面部分断面図である。なお、本実施例では原料である穀粒が米粒である場合について説明するが、本発明のコーティング穀物の原料が米粒に限定されるわけではなく、粒状の穀物であれば原料として用いることが可能である。
【0014】
まず、乾燥装置2について説明する。本発明の乾燥工程(ステップS1)では、原料に過熱蒸気を吹き付ける必要がある。そのために、本発明ではベルトコンベア8により原料を搬送させながら前記乾燥工程を行う。符号3はホッパであり、ホッパ3の下方にはシャッタ4と、該シャッタ4を開閉するための開閉装置5が設けられている。そして、ホッパ3の下部にはトラフ6が配設されており、原料をベルト7状に均一に原料を供給するためのフィーダー19のトラフである。なお、ベルト7には、原料に満遍なく過熱蒸気を吹き付けるためにメッシュ状のものが使用される。また、符号20は、ベルト7が蛇行するのを防止するためのガイドである。
【0015】
前記ベルトコンベア8の両端には駆動プーリ9aと受動プーリ9bとが配設されており、駆動プーリ9a及び受動プーリ9bに前記ベルト7が巻回されている。また、駆動プーリ9aはモータ21に連結されている。
【0016】
符号10は支持台11の上に設置された乾燥部であり、該乾燥部10にて原料に過熱蒸気を吹き付ける。乾燥部10の内部は、噴風口12から過熱蒸気が噴射されるために高温となるので、乾燥部10の外壁22には断熱性に優れた断熱板を使用している。また、乾燥部10はトンネル状になっており、その内部をベルトコンベア8により搬送される原料が通過するように構成されている。ベルトコンベア8上の原料は、乾燥部の搬入口13aから乾燥部10の内部に搬入され、そして、搬出口13bから搬出される。搬入口13aには留め具15aにより固定されるシャッタ14aが設けられており、該シャッタ14aにより搬入口の開口部の大きさを調節することが可能となっている。同様に、排出口13bには留め具15bにより固定されるシャッタ14bが設けられており、該シャッタ14bにより搬出口の開口部の大きさを調節することが可能となっている。
【0017】
乾燥部10の上部には過熱蒸気の供給口16が配設されており、別途設けられる過熱蒸気発生装置(図示せず)から過熱蒸気が供給される。該過熱蒸気の温度は200℃〜250℃の範囲とすればよい。供給口16から供給された過熱蒸気は、供給管17を経由して、ベルト7と交差する方向に配置された複数の噴風管18に送られ、噴風管18に設けられた複数の噴風口12から原料に向けて噴射される。
【0018】
前記過熱蒸気は、原料に向けて満遍なく噴射する必要がある。このため、ベルト7上に均一に供給されている原料に対して、均一に過熱蒸気が噴射されるように、噴風管18には、図示するように複数の噴風口12が設けられている。噴風口12は、噴風管18に孔を開口したものでよく、該孔の経は5.0mm以下でよい。本発明では、噴風口18の孔の経は2.0mmとしている。
【0019】
さらに、原料に対して上方及び下方の両方から過熱蒸気が噴射されるように、ベルト7の上方及び下方にそれぞれ複数の噴風管18を配置している。ベルト7にメッシュ状のものを使用するのは、ベルト7の下方に位置する噴風管から噴射される過熱蒸気を原料に吹き付けられるようにするためである。
【0020】
また、図4中の点線24は、噴風口12の配置(位置関係)の一つの例について説明するためのものである。噴風口12は、原料が搬送される方向に対して前後の噴風管18の噴風口12とは一直線上にならない位置に配置するのが望ましい。なお、図4は噴風口12の位置を説明するための図であり、各噴風口12は、噴風管18のベルト7上の原料と対面する向きに配置されている。すなわち、上方の噴風管18の噴風口12は、噴風管18の下方に設けられており、下方の噴風管18の噴風口12は、噴風管18の上方に設けられている。
【0021】
なお、乾燥部10内の下方の外壁22には、乾燥部10内で発生した結露水や洗浄排水を、排出口であるバルブ23に自然流下させるための斜面25が形成されており、前記結露水は、バルブ23を開口することで乾燥部10より容易に排出させることができる。
【0022】
次に、乾燥工程(ステップS1)について説明する。乾燥装置2のホッパ3に供給された原料は、ホッパ3の下部からフィーダー19のトラフ6からベルト7上に均一に供給される。この場合、ベルト7上の原料の穀層が薄いほど原料表面にムラなく過熱蒸気を噴射することができるので、原料を重ならないようにベルト7上に供給することが望ましい。
【0023】
フィーダー19によりベルト7上に均一に供給された原料は、モータ21により駆動するベルトコンベア8により搬送され、搬入口13aより乾燥部10に搬入される。乾燥部10に搬入された原料は、ベルト7上を搬送されながら、乾燥部10内に配置された噴風管18に設けられた複数の噴風口12から噴射される過熱蒸気により、その表面が急激に乾燥される。この急激な乾燥により、短時間で原粒表面の水分が蒸発する。
【0024】
前記蒸発により原粒表面には微少な凹凸が形成されるので、この凹凸により被覆時の添加液の原料表面への結着性が高められる。
【0025】
また、前記乾燥時に原料内部(特に表面付近)の水分が外部へ蒸発する際に、微細な痕跡(水道)が穀粒表面に形成されるので、この痕跡により穀粒が水分を吸水しやすい状態となる。このため、前記痕跡が形成された穀粒に添加液を添加すると、その添加液中の低分子物質(水が主体)が急速に前記痕跡から穀粒内部へ取り込まれる。これにより、穀粒表面部の添加液の水分が減少するので、穀粒表面部の添加液が素速く乾燥し、この効果により、穀粒同士の結着を防ぐことができる。
【0026】
なお、前記乾燥工程は、ベルト7上を搬送される穀粒が乾燥部10内を通過する間に行われる。このため、乾燥工程における穀粒の乾燥時間は、コンベアベルト8の搬送速度を制御することで調節することができる。
【0027】
前記乾燥時間は、使用する過熱蒸気の温度や穀粒の製造目的により適宜変更すればよい。例えば、使用する過熱蒸気の温度が160℃であって、一般的な白米のコーティング米を製造する場合には、乾燥時間を5秒程度の極短時間とすれば、白米の品質を変化させることなく穀粒表面のみを処理することができる。
【0028】
また、前記乾燥時間を30秒程度にすれば、穀粒の表面だけでなく内部にも過熱蒸気による作用がおよぶので、穀粒内部の水分も蒸発し、この蒸発により穀粒内部にも前記痕跡が形成される。このため、穀粒全体がいわゆるパフ化した状態となる。パフ化した穀粒は、前記痕跡が穀粒内部まで形成されているので、この痕跡により非常に水を吸収しやすくなり、吸水能力が飛躍的に向上している。このため、一般的な白米に比べ、炊飯時間を短縮することが可能となるので、前記穀粒をインスタントライス(又は即席米)として扱うことができる。なお、前記乾燥時間を30秒を越える時間とすると、穀粒が褐色に変色する恐れがある。
【0029】
穀粒の表面のみを処理したい場合には前記乾燥時間を5秒程度、穀粒全体を処理したい場合には前記乾燥時間を30秒程度とすればよいが、穀粒の製造目的により、例えば、穀粒表面は十分に過熱蒸気で処理したいが穀粒全体を処理する必要がない場合など、穀粒表面だけを処理する場合と穀粒全体を処理する場合との間の中間の処理を行いたい場合には、前記乾燥時間を5秒〜30秒の間で自由に設定すればよい。
【0030】
使用する過熱蒸気の温度が250℃である場合には、乾燥工程の過熱蒸気による乾燥時間を4秒程度の極短時間とすれば、白米の品質を変化させることなく穀粒表面のみを処理することができる。
【0031】
また、前記乾燥時間を20秒程度にすれば、穀粒全体をパフ化した状態とすることができ、使用する過熱蒸気の温度が160℃の場合よりもさらに短時間で穀粒をインスタントライス(又は即席米)に加工することが可能となる。なお、前記乾燥時間を20秒を越える時間とすると、穀粒が褐色に変色する恐れがある。
【0032】
なお、乾燥工程で使用する過熱蒸気の温度は、160℃及び250℃に限定されているわけではなく、160℃〜250℃の範囲(望ましくは180℃〜250℃)で適宜設定すればよい。前記温度が160℃より低いと、穀粒表面に前記凹凸及び前記痕跡を形成することができない恐れがあり、250℃よりも高いと穀粒が褐色に変色する恐れがある。また、乾燥工程で穀粒に噴射する過熱蒸気の流量は、本発明では穀粒1.0kgに対して0.5kgとした。
【0033】
ベルト7上の穀粒は、過熱蒸気が所定の時間吹き付けられた後、搬出口13bより乾燥部10から搬出される。乾燥部10から搬出された穀粒は、ベルトコンベア8の一端(駆動プーリ9aの位置する側)まで搬送され、次工程の被覆工程に送られる。
【0034】
被覆工程は、一般に知られているコーティング装置を用いて行うことができる。例えば、特許文献1に記載されているような回転ドラム式のコーティング装置等を利用すればよく、前記乾燥工程で処理した穀粒は、通常の原料と同様に被覆(コーティング)処理することができる。
【0035】
本発明では、添加液を被覆する穀粒自体に加工を行うので、特殊な添加液や特殊な被覆装置を用いることなく、一般的な添加液を一般的な被覆装置で、穀粒同士の結着及び添加液の剥離を発生させずにコーティング穀物を製造することが可能となる。特に前記乾燥工程後の穀粒は吸水能力が優れるため、被覆された添加液が素速く結着しない程度まで乾燥するので、穀粒表面に被覆する添加液の量が多量な場合に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】コーティング米の製造方法を示したフローチャートである。
【図2】乾燥工程に用いる乾燥装置2の斜視図である。
【図3】乾燥装置2の側面部分断面図である。
【図4】乾燥装置2の上面部分断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 フローチャート
2 乾燥装置
3 ホッパ
4 シャッタ
5 開閉装置
6 トラフ
7 ベルト
8 ベルトコンベア
9a プーリ
9b プーリ
10 乾燥部
11 支持台
12 噴風口
13a 搬入口
13b 搬出口
14a シャッタ
14b シャッタ
15a 留め部
15b 留め部
16 供給口
17 供給管
18 噴風管
19 フィーダー
20 ガイド
21 モータ
22 外壁
23 バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料が穀粒であって、
前記穀粒の表面を急速に乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後の穀粒表面に添加液を被覆する被覆工程と、
を含み、
前記乾燥工程において、過熱蒸気を穀粒に接触させて、該穀粒の表面を急激に乾燥させることを特徴とするコーティング穀物の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において、前記過熱蒸気の温度が160℃〜250℃であって、穀粒を前記過熱蒸気に接触させる時間が30秒以内であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング穀物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコーティング穀物の製造方法で製造したコーティング穀物。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−136180(P2009−136180A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314025(P2007−314025)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】