説明

コーティング組成物、およびそれを用いて製造した低誘電多孔質シリカ質材料

【課題】 優れた機械的強度を備え、かつ非常に低い誘電率を安定的に示し、各種の薬剤に対する耐薬品性を兼ね備えた多孔質シリカ質膜を製造することができるコーティング組成物とそれを用いたシリカ質材料の製造法の提供。
【解決手段】 ポリアルキルシラザン化合物、シロキシ基含有重合体、および有機溶媒を含んでなるコーティング組成物、そのコーティング組成物を焼成することにより得られたシリカ質材料、ならびにその製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング組成物に関するものである。さらに、本発明はそれを用いた低誘電シリカ質材料の製造法、およびそれを用いて製造された低誘電シリカ質膜に関するものである。さらに、本発明は、そのようにして製造された低誘電シリカ質材料を具備してなる半導体装置にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体用層間絶縁膜(IMD)のような電子材料は、集積回路の高速化、高集積化に伴い一層の低誘電率化が要請されており、シリカ質膜の比誘電率を低下させるために膜を多孔質化させることは知られている。シリカ質膜は一般に吸湿性を有しているため、周囲の環境によっては時間とともに比誘電率が上昇してしまう傾向がある。
【0003】
このような比誘電率の経時上昇を防止する方法として、ポリ有機シラザンの焼成により得られる有機シリカ質膜を多孔質化させる方法が考えられる。このようにして得られた有機シリカ質膜は、シリカのケイ素原子に有機基が結合している構造を有しているため、膜自体の撥水性が高く、吸湿による比誘電率の経時上昇が抑えられているとともに、半導体用層間絶縁膜として要求される耐熱性、耐環境性を具備した多孔質膜を得ることができる。
【0004】
また、集積回路のさらなる高集積化は、半導体装置における内部配線の微細化および多層化をより効率的に実現するための多層配線工程技術の開発をも促している。このような技術は、例えばスパッタリフロー法またはCVD法により溝内部にCu等の配線材料を埋め込み、さらにCMP(Chmeical Mechanical Polishing)法等により溝外に堆積した配線材料を除去することにより溝配線を形成するものがあげられる。このような溝配線技術の進歩により、半導体装置は、内部配線の微細化が可能になると共に、CMP法による表面平坦化と相まってさらなる多層化が可能となる。
【0005】
このような集積回路の高集積化は、配線間に存在する層間絶縁膜に対して、一層の低誘電率化に加え、CMP法による配線材料の除去工程に耐えうる機械的強度を要求し、さらにCMP法に用いられる薬剤のほか、ウェットストリッピングによるフォトレジスト除去をする場合においてはその薬剤、アッシングによるフォトレジスト除去をする場合においてはアッシング後の残渣を除去するための薬剤等、各種薬品に対する耐薬品性をも要求する。
【特許文献1】特開2002−75982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したようなシリカ質材料に対する要求に応えるべく、いくつかの方法が検討されている。例えば、本発明者らは、ポリアルキルシラザンとポリアクリル酸エステルまたはポリメタクリル酸エステルとを含んでなる組成物の膜を焼成することにより、高強度の多孔質シリカ質膜が得られること見出した(特許文献1)。この特許文献1に記載された多孔質シリカ質膜は、吸湿による比誘電率の経時上昇が抑えられるという効果を奏するものである。しかしながら、本発明者らのさらなる検討の結果、その多孔質シリカ質膜は、比誘電率が2.2程度の場合には弾性率が3GPa以下に留まるのが一般的であり、膜強度の点で改良の余地があることがわかった。
【0007】
一方、多孔質膜を層間絶縁膜に用いて多層配線構造を形成させるとき、多孔質膜に形成される孔の孔径がより小さいこと、および孔径が揃っていることが重要である。多層配線構造を形成させる際に使用されるエッチングガスや剥離液等に多孔質絶縁膜が曝されると、大きな孔にガスや剥離液が入り込み、侵食することがある。また、多孔質膜上に金属配線やその他の薄膜形成を行う際にかかる応力や熱が引き金となって、孔が拡大され、さらにはその部位がリークパースとなり、多孔質膜が絶縁膜として機能しない場合がある。このような観点から、多孔質膜の孔の孔径は2nm以下であることが望ましいことがわかっている。しかし、従来の方法では、通常、孔径が5〜8nmの微細孔を有する多孔質膜しか得られず、5nm以下の、孔径が揃った孔を有する多孔質膜を形成させることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアルキルシラザン化合物、シロキシ基含有重合体、および有機溶媒を含んでなること、を特徴とするコーティング組成物に関するものである。
【0009】
また、本発明のシリカ質材料は、前記コーティング組成物を、基板上に塗布し、または溝に充填し、さらに焼成することにより形成されたこと、を特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による半導体装置は、前記のシリカ質材料を層間絶縁膜として含むことを特徴とするものである。
【0011】
さらに本発明によるシリカ質材料の製造法は、前記のコーティング組成物を水蒸気含有雰囲気中50〜300℃の温度で予備焼成し、さらに乾燥雰囲気中300〜500℃の温度で焼成することを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明によるシリカ質材料は、内部に0.5〜3μmの微細孔を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上記したような従来の多孔質材料の製造において問題であった点を解決し、ダマシン法をはじめとする最新の高集積化プロセスに耐えうる優れた機械的強度を備え、かつ非常に低い、特に2.5未満の、誘電率を安定的に示し、各種の薬剤に対する耐薬品性を兼ね備えた、孔径の小さい微細孔を有する多孔質シリカ質材料を簡便に製造することができるコーティング組成物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ポリアルキルシラザン化合物
本発明におけるポリアルキルシラザン化合物は、アルキル置換されたシラザン結合を有するものである。その構造は限定されるものではないが、好ましいポリアルキルシラザン化合物は、好ましくは下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)または(3)で表される単位の少なくとも一種とを含むものである。
【化1】

上記式(1)〜(3)において、R〜R11は、それぞれ水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、化合物中のR、RおよびR、ならびにR〜R11のすべてが水素ではない。より好ましい態様においては、各式中のR〜R11は以下の通りである。
【0015】
上記式(1)中、Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、化合物全体のすべてのRが同時に水素であることはなく、
〜Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、R〜Rのすべてが同時に水素であることはなく、
p、q、およびrは、それぞれ0または1であり、0≦p+q+r≦3である。
【0016】
ここで、一般式(1)においてRがメチル基であり、R〜Rが存在する場合には、それらがすべて水素であることが好ましい。
【0017】
上記式(2)中、R〜Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、化合物全体のすべてのRとRが同時に水素であることはない。
【0018】
ここで、一般式(2)において、RおよびRのいずれかが水素原子であり、残りがメチル基であり、Rが水素原子であることが好ましい。
【0019】
上記式(3)中、R〜R11は、各々独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、化合物全体のすべてのR〜R11が同時に水素であることはない。
【0020】
一般式(3)において、Rが水素原子であり、R〜R11のすべてがメチル基であることが好ましい。
【0021】
本発明においては、一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位の少なくとも一種とを含むポリアルキルシラザン化合物が、コーティング組成物の保存時のゲル化を防止することができる点で特に有用である。その場合、一般式(1)で表される繰返し単位の数が一般式(1)から(3)で表される単位の総数の50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。一般式(1)の繰り返し単位が、一般式(1)〜(3)の繰り返し単位の総数に対して50モル%以上であると、成膜時にハジキや塗布ムラなどの問題が生じにくくなるためである。
【0022】
本発明によるポリシラザン化合物は、コーティング組成物の塗布性、特にスピンコーティング法により塗布をする際の塗布性、をよくするために、数平均分子量が100以上であることが好ましい。また、本発明によるポリシラザン化合物は、架橋基の数を適当にして、組成物のゲル化を抑制するために数平均分子量が50,000以下で合うことが好ましい。本発明において、特に好ましいポリアルキルシラザン化合物は、上記一般式(1)の繰り返し単位、および上記一般式(2)または(3)のうちの少なくとも1種の単位を含んでなるである。また、本発明においてポリアルキルシラザン化合物の数平均分子量は100〜50,000であることが好ましく、1,000〜20,000であることがより好ましい。
【0023】
これらのポリアルキルシラザン化合物は、当業者に自明の通常のポリシラザンを合成する際のアンモノリシスにおいて、一般式(1)の繰返し単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはアルキルトリクロロシラン(RSiCl)を、一般式(2)の繰返し単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはジアルキルジクロロシラン(RSiCl)を、一般式(3)の単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはトリアルキルクロロシラン(R1011SiCl)を、そしてこれら両方の繰返し単位を含むポリアルキルシラザンの場合にはこれらの混合物を出発原料とすることにより得られる。それらのクロロシラン類の混合比が各単位の存在比を決める。
【0024】
シロキシ基含有重合体
本発明によるコーティング組成物は、シロキシ基含有重合体を含んでなる。この重合体は、重合単位としてシロキシ基(−Si−O−)含有モノマーを含むものであり、主鎖、側鎖、または末端単位にシロキシ基を含む。
【0025】
シロキシ基を含有する基としては、具体的にはトリメチルシロキシ基、ジメチルブチルシロキシ基、メチルヒドロシロキシ基、ジメチルシロキシ基、フェニルメチルシロキシ基、ジフェニルシロキシ基、メチルビニルシロキシ基、フェニルビニルシロキシ基、2−(トリメトキシシリル)エチル(メタ)アクリル基、γ−(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリル基、2−(トリメチルシロキシ)エチル(メタ)アクリル基、γ−(トリメチルシロキシ)プロピル(メタ)アクリル基、トリメチルシロキシメタクリル基、トリメチルシリルオキシシロキサニル基等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル基とは、アクリル基またはメタクリル基のいずれかを示すものである。
【0026】
本発明によるシロキシ基含有重合体は、前記のシロキシ基を含んでいれば、シロキシ基非含有の重合単位を含んでいてもよい。そのようなシロキシ基非含有重合単位としては、例えば、メチル(メタ)アクリル酸、イソブチル(メタ)アクリル酸、n−ブチル(メタ)アクリル酸、tert−ブチル(メタ)アクリル酸、ポリエチレンキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリル酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明におけるシロキシ基含有重合体は、これらのうち、アクリル酸、メタクリル酸、およびポリエチレンオキサイド化合物からなる群から選ばれる重合単位を含む重合体であることが好ましい。
【0027】
このポリエチレンオキサイド化合物の一例を一般式として示すと以下の通りである。
【0028】
HO−(CHCHO)−L−(SiR’−O)−SiR’ (A)
ここで、R’は水素、アルキル基、アルコキシ基等の任意の置換基であり、一分子中のR’は複数種が混合していてもよい。また、R’が重合可能な基であり、ほかのモノマー単位と重合することもできる。
【0029】
Lは連結基であり、例えば単結合、アルキレン基等である。
【0030】
mおよびnは重合度を表す数である。
【0031】
シロキシ基含有重合体の分子量は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意に選択することができる、しかしながら、その重合体が適当な温度で昇華、分解、または蒸発して多孔質膜を形成するように、重合体の分子量は一定値以上であることが好ましく、一方、ボイドの発生、およびそれによる膜強度の低下を防ぐという観点から、一定値以下であることが好ましい。これらの下限値および上限値は、用いるシロキシ基含有重合体の種類によって適切に選択される。本発明に用いられるシロキシ基含有重合体が、ポリエチレンオキサイド化合物を重合単位として含むものである場合、その分子量は100〜5,000であることが好ましく、500〜2,000であることがより好ましい。さらに、シロキシ基含有重合体が、アクリル酸またはメタクリル酸を重合単位として含むものである場合、その分子量は、1,000〜80,000であることが好ましく、10,000〜20,000であることがより好ましい。
【0032】
より好ましいシロキシ基含有重合体は、2−(トリメチルシロキシ)エチルメタクリル酸を重合単位に含む重合体およびヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル/ポリジメチルシリコーンを重合単位に含む重合体である。このうちシロキシ基含有ポリエチレンオキサイド化合物として、好ましい具体例は、α−[3−[1,1,3,3−テトラメチル−1−[(トリメチルシリル)オキシ]ジシロキサニル]プロピル]−ω−ヒドロキシ−ポリ(オキシ−2,3−エタネジル)、ヒドロキシ(ポリエチレンオキシ)プロピルポリジメチルシリコーン、Gelest社製MCR−13等が挙げられる。
【0033】
このようなシロキシ基含有ポリエチレンオキサイド化合物において、ポリエチレンオキサイドの構造は特に限定されないが、粘度を適切に保つというの観点から、分子の重量に対するエチレンオキシ部分の重量が30〜90%であることが好ましく、またポリシロキシ構造におけるシロキシ基部分の重量が10〜40%であることが好ましい。
【0034】
このシロキシ基含有ポリエチレンオキサイド化合物、またはそれをモノマー単位として含む共重合体は、水酸基を末端とするポリエチレンオキサイド構造が、前記のポリアルキルシラザン化合物と架橋するため、シリカ質材料の強度を増大させ、さらに多孔質化させるものと考えられる。さらには、シロキシ基含有ポリエチレンオキサイドは、加熱によって昇華する際に、その一部であるシロキシ基がマトリックスであるポリアルキルシラザンの焼成膜中に残存し、より強度の高いシリカ質材料を生成させる効果を奏する。
【0035】
本発明におけるシロキシ基含有重合体は、シロキシ基を含むことを必須とする。シロキシ基を含有する重合単位の割合は、シロキシ基含有重合体を構成する重合単位の総数に対して、1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、30%以上であることが特に好ましい。
【0036】
有機溶媒
本発明によるコーティング組成物は、前記のポリアルキルシラザン化合物およびアセトキシシラン化合物、さらに必要に応じて後述するその他の添加物、を有機溶媒中に溶解または分散させたものである。このとき、有機溶媒としては、活性水素を有しない不活性有機溶媒を用いることが好ましい。このような有機溶媒として、ベンセン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘキセン、デカヒドロナフタレン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、p−メンチン、ジペンテン(リモネン)等の脂環族炭化水素系溶媒;ジプロピルエーテル、ジブチエルエーテル等のエーテル系系溶媒;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0037】
その他の添加物
本発明によるコーティング組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えば、シロキシ基非含有重合体が挙げられる。
【0038】
本発明によるコーティング組成物に用いることができるシロキシ基非含有重合体としては、任意の重合体を用いることができるが、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体および共重合体からなる群より選ばれ、その側基の一部にカルボキシル基または水酸基を含むものが好ましい。このような重合体は、形成されるシリカ質材料の微細孔を小さく、均一にする作用がある。このような重合体としては、アクリル酸エステルの単独重合体、例えば、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル;メタクリル酸エステルの単独重合体、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル;アクリル酸エステルの共重合体、例えば、ポリ(アクリル酸メチル−コ−アクリル酸エチル);メタクリル酸エステルの共重合体、例えば、ポリ(メタクリル酸メチル−コ−メタクリル酸エチル);アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの共重合体、例えば、ポリ(アクリル酸メチル−コ−メタクリル酸エチル)、等が挙げられる。この重合体が共重合体である場合、そのモノマー配列に制限はなく、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーその他の任意の配列を使用することができる。
【0039】
(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体および共重合体を構成するモノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル等が挙げられるが、これらに限定はされない。特に、メタクリル酸メチルとメタクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸n−ブチルとアクリル酸i−ブチルは、ポリアルキルシラザンとの相溶性の観点からより好ましい。
【0040】
このような(メタ)アクリル酸エステル重合体に含まれるカルボキシル基および水酸基は、前記のポリアルキルシラザン化合物と架橋結合を形成する。この架橋反応は、最終的なシリカ質材料の強度や構造に影響するので、カルボキシル基および水酸基の量は重要である。カルボキシル基および水酸基の量は、十分な架橋構造を得るために、重合体成分を構成する全モノマー数に対して0.01モル%以上であることが好ましく0.1モル%以上であることがより好ましい。また、過度の架橋によるゲル化を防止するために50モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましい。
【0041】
また、シロキシ基非含有重合体を用いる場合、その重合体が適当な温度で昇華、分解、または蒸発して多孔質膜を形成するように、重合体の分子量が1,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましい。一方、ボイドの発生、およびそれによる膜強度の低下を防ぐという観点から、重合体の分子量は800,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましい。
【0042】
本発明によるコーティング組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えば粘度調整剤、架橋促進剤等が挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。さらには、コーティング組成物中の重合体成分の反応を促進させるために、反応促進剤、例えばアセトキシシラン化合物、を配合することもできる。アセトキシシラン化合物は、焼成後のシリカ質材料に形成される微細孔を小さく、均一にする作用を発揮することもある。
【0043】
コーティング組成物
本発明による重合性組成物は、前記のポリアルキルシラザン化合物、シロキシ基含有重合体、および必要に応じて前記したその他の添加物を前記の有機溶媒に溶解または分散させ、配合成分を反応させてコーティング組成物とする。ここで、有機溶媒に対して各成分を溶解させる順番は特に限定されず、2種以上の溶液、例えばポリアルキルシラザン化合物の溶液とシロキシ基含有重合体の溶液と、を混合してもよい。
【0044】
各成分を混合した後、必要に応じて加熱しながら、物理的に撹拌することによって架橋結合が形成された均質なコーティング組成物を得ることができる。加熱する場合には、一般に30〜80℃で加熱するが、この温度は用いる成分の種類によって変化する。特に過度に高温にすると組成物がゲル化することがあるので注意が必要である。撹拌時間は反応する成分の種類や温度にもよるが、一般に1〜24時間程度である。さらに30〜80℃の湯浴上で5〜90分間程度の超音波分散処理を行うことは、反応を促進させるのでより好ましい。
【0045】
また、配合成分を反応をさせた上で、溶媒を置換することもできる。
【0046】
本発明によるシロキシ基含有重合体の添加量は、使用する場合には、シリカ質材料の多孔質化を効果的に実現するために、ポリアルキルシラザン化合物の重量に対して好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、特に好ましくは20重量%以上の添加量で用いる。一方、ボイドまたはクラックの発生による膜強度の低下を防ぐために、ポリアルキルシラザン化合物の重量に対して好ましくは50重量%以下で用いることが好ましい。
【0047】
また、前記の各成分の含有量は、目的とするコーティング組成物の用途によって変化するが、十分な膜厚のシリカ質材料を形成させるために固形分重量が5重量%以上であることが好ましく、コーティング組成物の保存安定性を確保し、粘度を適切に保つために50重量%以下であることが好ましい。すなわち、一般にコーティング組成物全体に対して、固形分重量が5〜50重量%にすることが好ましく、10〜30重量%にすることがより好ましい。通常、固形分重量を10〜30重量%とすることで、一般的に好ましい膜厚、例えば2000〜8000Å、を得ることができる。
【0048】
シリカ質材料の製造法
本発明によるコーティング組成物を、基板上に塗布し、または型枠や溝に充填した上で、必要に応じて乾燥させて過剰の有機溶媒を除去し、焼成することでシリカ質材料を得ることができる。本発明によるシリカ質材料を半導体装置などの電子部品に適用する場合には、通常、基板上に塗布したコーティング組成物を焼成してシリカ質材料とすることで、半導体装置上に直接シリカ質材料を形成させることが一般的である。
【0049】
基板表面に対するコーティング組成物の塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、転写法等が挙げられる。
【0050】
基板表面に形成された塗布膜は、必要に応じて過剰の有機溶媒を除去(乾燥)したあと、水蒸気雰囲気中で予備焼成をする。ここで、水蒸気雰囲気とは23℃における相対湿度が40%以上である雰囲気をいう。このとき雰囲気を形成する水蒸気以外のガスは、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等である。予備焼成は、50〜350℃、好ましくは100〜300℃、の温度で行う。この予備焼成は、段階的に、あるいは連続的に温度を上昇させながら行うこともできる。
【0051】
この予備焼成のあと、必要に応じて加湿雰囲気下で短時問(例えば3〜30分)、または大気雰囲気中で長時間(例えば、24時間)放置した後、乾燥雰囲気中で加熱焼成する。この焼成工程は、乾燥雰囲気中で実施される。ここで乾燥雰囲気とは、乾燥空気、乾燥窒素、乾燥ヘリウム等の水蒸気を殆ど含まない雰囲気であり、25℃における相対湿度が10%以下である雰囲気をいう。
【0052】
焼成温度は300〜500℃、好ましくは350〜450℃で行われ、焼成焼成時間は焼成温度や配合成分によって変化するが、一般に1分〜1時間である。焼成温度は、生産性の観点から、できるだけ短時間で焼成工程を終了するために300℃以上であることが好ましいが、形成されるシリカ質材料の品質を維持するために500℃以下であることが好ましい。
【0053】
上記焼成工程により、ポリアルキルシラザン中のSiH、SiR(R:炭化水素基)およびSiNの各結合のうちSiN結合のみが酸化されてSiO結合に転換され、未酸化のSiHおよびSiR結合を有するシリカ質材料が形成される。このように、形成されるシリカ質材料中には、SiN結合が選択的に酸化されてできたSiO結合と、未酸化のSiHおよびSiR結合を存在させることができ、これにより、低密度のシリカ質材料を得ることができる。一般的に、シリカ質材料の誘電率は、そのシリカ質材料の密度の低下に応じて低下するが、一方、シリカ質材料の密度が低下すると、高誘電質物質である水の吸着が起るため、シリカ質材料を大気中に放置すると膜の誘電率が上昇するという問題を生じることがある。一方、SiHやSiR結合を含む本発明によるシリカ質材料の場合には、それらの結合が撥水性を有することから、低密度でありながら水の吸着を防止することができる。従って、本発明によるシリカ質材料は水蒸気を含む大気中に放置しても、そのシリカ質材料の誘電率は殆んど上昇しないという大きな利点を有する。さらに、本発明によるシリカ質材料は、低密度であることから、膜の内部応力が小さく、クラックを生じにくいという利点もある。
【0054】
本発明によるコーティング組成物の焼成においては、シリカ質材料の内部に主に孔径0.5〜3nmの微細孔が形成される。そして、このシリカ質材料は孔径が5nmを越える微細孔を実質的に有さない。この微細孔の孔径はX線散漫散乱法により測定をすることができる。この測定に用いることのできる装置として、ATX−G型表面構造評価用多機能X線回折装置(理学電気株式会社製)が挙げられる。この微細孔は、アセトキシシラン化合物が分解し、その分解物が蒸発または昇華することにより形成されるものと考えられる。この微細孔の存在によりシリカ質材料の密度が一段と低下し、その結果シリカ質材料の比誘電率がさらに低下することとなる。
【0055】
本発明による多孔質シリカ質材料は、極めて微細な孔が形成できるため、優れた機械強度を有するものである。具体的には、本発明による多孔質シリカ質材料は、後述するナノインデンテーション法による弾性率として3GPa以上、場合によっては5GPa以上という多孔質材料としては顕著に高い機械的強度を示すものである。
【0056】
従って、CMP法による配線材料の除去工程に耐えうる機械的強度と各種耐薬品性を兼ね備えるため、ダマシン法をはじめとする最新の高集積化プロセスに適合する層間絶縁膜として使用することが可能である。
【0057】
さらに、本発明によるシリカ質材料は、そのマトリックス成分であるポリアルキルシラザン化合物に由来する撥水基が焼成後に十分残存するため、水蒸気を含む大気中に放置しても、比誘電率は殆ど上昇しない。このように、本発明によると、シリカ質材料の結合成分(SiH、SiR)による低密度化・撥水性化と、微細孔による膜全体の低密度化とが相まって2.5未満、好ましくは2.0以下、場合によっては1.6程度という極めて低い比誘電率を安定的に保持できる多孔質シリカ質材料が得られる。
【0058】
本発明による多孔質シリカ質材料の他の性状を示すと、その密度は0.5〜1.6g/cm、好ましくは0.8〜1.4g/cm、そのクラック限界膜厚は1.0μm以上、好ましくは5μm以上、及びその内部応力は80MPa以下、好ましくは50MPa以下、である。また、このシリカ質材料中に含まれるSiHまたはSiR(R:炭化水素基)結合として存在するSi含有基は、材料中に含まれるSi原子数に対して10〜100原子%、好ましくは25〜75原子%、である。また、SiN結合として存在するSi含有量は5原子%以下である。焼成後得られる多孔質シリカ質材料の厚さは、その基体表面の用途によっても異なるが、通常、0.01〜5μm、好ましくは0.1〜2μm、である。特に、半導体装置の層間絶縁膜として用いる場合には0.1〜2μmとすることが好ましい。
【0059】
本発明による多孔質シリカ質材料は、前記したように低密度のものであり、そのクラック限界膜厚、即ち、膜割れを起さないで製膜可能な最大膜厚が5μm以上という高い数値を示すという利点をも有する。従来のシリカ質材料の場合、そのクラック限界膜厚は0.5〜1.5μm程度である。
【0060】
このように、本発明によるシリカ質材料は従来のシリカ質材料に比べて、誘電率が低く、密度が低く、撥水性が高く、耐薬品性に優れ、機械的強度が高いものであり、さらに低誘電率を安定に保つことができるものであり、特に半導体装置における層間絶縁膜に適用するのに好ましいである。
【0061】
本発明を例を用いて説明すると以下の通りである。なお、シリカ質材料に関する諸物性の評価は最後にまとめて記載する。
【参考例1】
【0062】
(ポリメチルシラザンの合成(1))
内容積5リットルのステンレス製タンク反応器に原料供給用のステンレスタンクを装着した。反応器内部を乾燥窒素で置換した後、原料供給用ステンレスにメチルトリクロロシラン780gを入れ、これを窒素によって反応タンクに圧送して導入した。次に、ピリジン入りの原料供給タンクを反応器に接続し、ピリジン4kgを窒素で同様に圧送し導入した。反応器の圧力を1.0kg/cmに調整し、反応機内の混合液温が−4℃になるように温度調節を行った。そこに、撹拌しながらアンモニアを吹き込み、反応器の圧力が2.0kg/cmになった時点でアンモニア供給を停止した。排気ラインをあけて反応器圧力を下げ、引き続き乾燥窒素を液相に1時間吹き込み、余剰のアンモニアを除去した。得られた生成物を加圧濾過器を用いて乾燥窒素雰囲気下で加圧濾過し、濾液3200mlを得た。エバポレーターを用いてピリジンを留去したところ、約340gのポリメチルシラザンを得た。
【0063】
得られたポリメチルシラザンの数平均分子量をクロロホルムを展開液としたガスクロマトグラフィーにより測定したところ、ポリスチレン換算で1800であった。赤外吸収スペクトル(以下、IRスペクトルという)を測定したところ、3350cm−1および1200cm−1付近のN−H結合に基づく吸収、2900cm−1および1250cm−1のSi−C結合に基づく吸収、および1020〜820cm−1のSi−N−Si結合に基づく吸収が認められた。
【参考例2】
【0064】
(ポリメチルシラザンの合成(2))
原料としてメチルトリクロロシラン780gの代わりに、メチルトリクロロシラン720gとジメチルジクロロシラン656の混合物を用いたほかは、参考例1と同様に合成を行い、370gのポリメチルシラザンを得た。
【0065】
得られたポリメチルシラザンの数平均分子量をクロロホルムを展開液としたガスクロマトグラフィーにより測定したところ、ポリスチレン換算で1400であった。赤外吸収スペクトルを測定したところ、3350cm−1および1200cm−1付近のN−H結合に基づく吸収、2900cm−1および1250cm−1のSi−C結合に基づく吸収、および1020〜820cm−1のSi−N−Si結合に基づく吸収が認められた。
【実施例1】
【0066】
参考例1で合成したポリメチルシラザンの15%プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAという)溶液80gに、メタクリル酸イソブチル70モル%と2−(トリメチルシロキシ)エチルメタクリル酸30モル%との共重合体(分子量:約100,000)3gをPGMEA17gに溶解させた溶液を混合し、十分に撹拌した。続いてその溶液を濾過精度0.2ミクロンのPTFEシリンジフィルター(アドバンテック社製)で濾過した。その濾液を直径10.2cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて、3000rpm/20秒の条件で塗布し、さらに室温で5分間乾燥させた。そのシリコンウェハーを大気雰囲気中(23℃における相対湿度40%)150℃で3分間、ついで250℃のホットプレート上で3分間加熱した。この膜を大気雰囲気中(23℃相対湿度40%)で24時間放置した後、乾燥窒素雰囲気中400℃/30分間焼成し、シリカ質膜を得た。
【0067】
得られたシリカ質膜のIRスペクトルは、1020cm−1、および450cm−1のSi−O結合に基づく吸収、1270cm−1および780cm−1のSi−C結合に基づく吸収、2970cm−1のC−H結合に基づく吸収が認められ、3350cm−1および1200cm−1のN−H結合に基づく吸収、およびメタクリル酸イソブチルと2−(トリメチルシロキシ)エチルメタクリル酸30との共重合体に基づく吸収は焼失していた。
【0068】
得られたシリカ質膜の評価を行ったところ、比誘電率は2.20、密度1.1g/cm、内部応力は36MPa、クラック限界膜厚は5μm以上であった。また、得られた膜を温度23℃相対湿度50%の大気中に1週間放置した後、再度比誘電率を測定したところ全く変化がなかった。
【0069】
この膜のナノインデンテーション法による弾性率は4.5GPaであった。
【0070】
エッチング残渣剥離液として広く用いられているACT−970(Ashland Chemical社製)、ST−210およびST250(ATMI社製)、EKC265およびEKC640(EKC社製)を用いてシリカ質膜の耐性(コンパティビリティー)試験を行ったところ、エッチングレートはそれぞれ0.5Å/分以下であり、当該試験による誘電率の上昇も1.0%以下であった。
【0071】
さらにシリカ質膜の孔径をX線散漫散乱法により測定したところ、平均孔径は2nmであった。
【実施例2】
【0072】
参考例2で合成したポリメチルシラザンの20%PGMEA溶液160gに、エチレンキサイド50モル%とジメチルシロキサン50モル%との共重合体(分子量:約1,000)8gをPGMEA32gに溶解させた溶液を混合し、十分に撹拌した。続いてその溶液を濾過精度0.2ミクロンのPTFEシリンジフィルター(アドバンテック社製)で濾過した。その濾液を直径20.3cm(8インチ)、厚さ1mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて、3500rpm/20秒の条件で塗布し、さらに室温で5分間乾燥させた。そのシリコンウェハーを大気雰囲気中(23℃における相対湿度40%)150℃で3分間、ついで250℃のホットプレート上で3分間加熱した。この膜を70℃相対湿度85%の加湿器中に3分間放置し、乾燥窒素雰囲気中400℃/10分間焼成し、シリカ質膜を得た。
【0073】
得られたシリカ質膜のIRスペクトルは、1020cm−1、および440cm−1のSi−O結合に基づく吸収、1290cm−1および770cm−1のSi−C結合に基づく吸収、2980cm−1のC−H結合に基づく吸収が認められ、3350cm−1および1200cm−1のN−H結合に基づく吸収、およびエチレンキサイドとジメチルシロキサンとの共重合体に基づく吸収は焼失していた。
【0074】
得られたシリカ質膜の評価を行ったところ、比誘電率は2.24、密度1.2g/cm、内部応力は35MPa、クラック限界膜厚は5μm以上であった。また、得られた膜を温度23℃相対湿度50%の大気中に1週間放置した後、再度比誘電率を測定したところ全く変化がなかった。
【0075】
この膜のナノインデンテーション法による弾性率は5.0GPaであった。
【0076】
エッチング残渣剥離液ACT−970(Ashland Chemical社製)、ST−210およびST250(ATMI社製)、EKC265およびEKC640(EKC社製)を用いてシリカ質膜の耐性試験を行ったところ、エッチングレートはそれぞれ0.8Å/分以下であり、当該試験による誘電率の上昇も1.1%以下であった。
【0077】
さらにシリカ質膜の孔径をX線散漫散乱法により測定したところ、平均孔径は1.7nmあった。
【比較例1】
【0078】
参考例1で合成したポリメチルシラザンの15%ジブチルエーテル溶液80gに、ポリn−ブチルメタクリレート(分子量:約160,000)3gをジブチルエーテル17gに溶解させた溶液を混合し、十分に撹拌した。続いてその溶液を濾過精度0.2ミクロンのPTFEシリンジフィルター(アドバンテック社製)で濾過した。その濾液を直径10.2cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハー上にスピンコーターを用いて、2000rpm/20秒の条件で塗布し、さらに室温で5分間乾燥させた。そのシリコンウェハーを大気雰囲気中(23℃における相対湿度40%)150℃で3分間、ついで250℃のホットプレート上で3分間加熱した。この膜を大気雰囲気中(23℃相対湿度40%)で24時間放置した後、乾燥窒素雰囲気中400℃/30分間焼成し、シリカ質膜を得た。
【0079】
得られたシリカ質膜のIRスペクトルは、1030cm−1、および450cm−1のSi−O結合に基づく吸収、1270cm−1および780cm−1のSi−C結合に基づく吸収、2970cm−1のC−H結合に基づく吸収が認められ、3350cm−1および1200cm−1のN−H結合に基づく吸収、およびポリn−ブチルメタクリレートに基づく吸収は焼失していた。
【0080】
得られたシリカ質膜の評価を行ったところ、比誘電率は2.31、密度1.1g/cm、内部応力は35MPaであった。
【0081】
この膜のナノインデンテーション法による弾性率は2.6GPaと本発明によるシリカ質膜に比べて低かった。
【0082】
さらにシリカ質膜の孔径をX線散漫散乱法により測定したところ、平均孔径は7nmであり、本発明によるシリカ質膜に比べて大きかった。
【0083】
[シリカ質膜物性の評価方法]
比誘電率
パイレックス(登録商標:ダウ・コーニング社製)ガラス板(厚さ1mm、大きさ50mm×50mm)を中性洗剤、希NaOH水溶液、希HHO水溶液の順番でよく洗浄し、乾燥させる。このガラス板の全面に真空蒸着法でアルミニウム膜を形成させる(厚さ:0.2μm)。このガラス板に試料組成物溶液をスピンコート法で塗布して成膜した後、電極を信号取り出すためにガラス板の四隅を綿棒でこすって膜を除去する(3mm×3mm)。続いて、各例の方法に従ってシリカ質膜に転化させる。得られるシリカ質膜にステンレス製のマスクを被せて真空蒸着法でアルミニウム膜を形成させる。パターンは、2mm×2mmの正方形で厚さを2μmとしたものを18個とする。キャパシタンス測定は、4192ALFインピーダンスアナライザー(横河・キューレット・パッカード社製)を用いて、100kHzで測定する。また、膜厚の測定にはM−44型分光エリプソメーター(J.A.Woolam社製)を用いる。比誘電率は18個のパターンすべてについて、下式により計算した値を平均したものを採用する。
【0084】
(比誘電率)=(キャパシタンス[pF])×(膜厚[μm])/35.4
膜密度
直径10.16cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハーの重量を電子天秤で測定する。これに試料組成物溶液をスピンコート法で塗布して成膜し、各例の方法に従ってシリカ質膜に転化させ、再び膜付きのシリコンウェハーの重量を電子天秤で測定する。膜重量は、成膜前後のウェハーの重量差とする。膜厚は、M−44型分光エリプソメーター(J.A.Woolam社製)で測定する。膜密度は下式に従って計算する。
【0085】
(膜密度[g/cm])=(膜重量[g])/(膜厚[μm])/0.008
内部応力
直径20.32cm(8インチ)、厚さ1mmのシリコンウェハーのそりをFLX−2320型レーザー内部応力測定器(Tencor社製)に入力する。さらに、このシリコンウェハーに試料組成物溶液をスピンコート法で塗布して成膜し、各例の方法に従ってシリカ質膜に転化させ、室温(23℃)に戻した後、再び前記レーザー内部応力測定器で内部応力を測定する。なお、膜厚は、M−44型分光エリプソメーター(J.A.Woolam社製)で測定する。
【0086】
クラック限界膜厚
直径10.16cm(4インチ)、厚さ0.5mmのシリコンウェハーに試料組成物溶液をスピンコート法で塗布して成膜し、各例の方法に従ってシリカ質膜に転化させる。塗布の際に試料組成物溶液の固形分濃度またはスピンコーターの回転数を調整して、膜厚を約0.5μmから約5μmの範囲で変化させた試料を作製する。焼成後の膜表面を顕微鏡観察(120倍)し、各試料のクラックの有無を調べ、クラック発生のない最大膜厚をクラック限界膜厚とする。
【0087】
弾性率(ナノインデンテーション法)
直径20.32cm(8インチ)、厚さ1mmのシリコンウェハーに試料組成物溶液をスピンコート法で塗布して成膜し、各例の方法に従ってシリカ質膜に転化させる。得られるシリカ質膜について、薄膜用機械的特性評価システム(米国MTSシステムズ社製Nano Indenter DCM)により弾性率を測定する。
【0088】
エッチングレート
各例に記載されたエッチング残渣剥離液を用いてシリカ質膜を処理し、その処理の前後での膜厚変化量を処理時間で除することにより算出する。膜厚の測定はM−44型分光エリプソメーター(J.A.Woolam社製)で測定する。
【0089】
孔径測定
直径20.32cm(8インチ)、厚さ1mmのシリコンウェハーに試料組成物溶液をスピンコート法で塗布して成膜し、各例の方法に従ってシリカ質膜に転化させる。得られるシリカ質膜について、ATX−G型表面構造評価用多機能X線回折装置(理学電気株式会社製)を用いて、X線散漫散乱法によって孔径を測定する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、安定した低誘電率と、最新の微細配線プロセスに耐えうる機械的強度及び各種の耐薬品性とをバランスよく兼ね備えた多孔質シリカ質膜を提供するものである。本発明による多孔質シリカ質膜を半導体装置の層間絶縁膜として使用することにより、集積回路のさらなる高集積化、多層化が可能となる。
【0091】
このように本発明は、半導体等の電子材料における層間絶縁膜を形成させるために適用することが最も好ましいものであるが、そのほかの電子材料素子、例えば金属膜下絶縁膜、にも応用ができるものである。
【0092】
また、電子材料の他、本発明のコーティング組成物を用いることにより、金属やセラミックス、木材等の各種の材料の固体表面に対してシリカ質膜を形成することもできる。本発明によれば、シリカ質膜を表面に形成した金属基板(シリコン、SUS、タングステン、鉄、銅、亜鉛、真ちゅう、アルミニウム等)や、シリカ質膜を表面に形成したセラミックス基板(シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化タンタル等の金属酸化物の他、窒化珪素、窒化ホウ素、窒化チタン等の金属窒化物、炭化珪素等)が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルキルシラザン化合物、シロキシ基含有重合体、および有機溶媒を含んでなることを特徴とする、コーティング組成物。
【請求項2】
前記シロキシ基含有重合体が、アクリル酸、メタクリル酸、およびポリエチレンオキサイド化合物からなる群から選ばれる重合単位を含むものである、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキルシラザン化合物が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、一般式(2)または(3)で表される単位の少なくとも一種とを含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【化1】

(上記式中、Rは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、化合物全体のすべてのRが同時に水素であることはなく、
〜Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、R〜Rのすべてが同時に水素であることはなく、
p、q、およびrは、それぞれ0または1であり、0≦p+q+r≦3であり、
〜Rは、各々独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、化合物全体のすべてのRとRが同時に水素であることはなく、
〜R11は、各々独立に水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表すが、化合物全体のすべてのR〜R11が同時に水素であることはない。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物を、基板上に塗布し、あるいは型枠または溝に充填し、さらに焼成することにより形成されたことを特徴とする、シリカ質材料。
【請求項5】
請求項4に記載のシリカ質材料を層間絶縁膜として含むことを特徴とする、半導体装置。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング組成物を水蒸気含有雰囲気中50〜300℃の温度で予備焼成し、さらに乾燥雰囲気中300〜500℃の温度で焼成することを特徴とする、シリカ質材料の製造法。