説明

コーティング組成物およびそれを用いた被膜の製造方法

【課題】一液型でありながら、優れた液安定性を有し、なおかつ常温で徐溶性被膜を形成することができるコーティング組成物の提供。
【解決手段】本発明のコーティング組成物は、ポリビニルアルコールと、Cu2+、Fe3+、Al3+、およびCr3+からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンの、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、および酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である金属塩と、溶媒としての水とを含んでなる。金属塩は、ポリビニルアルコールの単位構造の総モル量に対して、1/700〜1/15のモル比となる量で含有される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、常温で徐溶性被膜を形成することが可能な1液型のコーティング組成物およびそれを用いた被膜の製造方法に関する。
【0002】
背景技術
一般に、水洗トイレの便器内部や洗面器内部、浴室の洗い場における床や壁、台所のシンク内部のような、一時的に水が流れる環境には、各環境に特有の汚れが発生する。そのような汚れの例としては、水垢汚れ、便器における大便付着、黒ずみ、および黄ばみ、浴室における皮脂汚れおよび石鹸カス、ならびに台所のシンクにおける黒ずみおよび油汚れ等が挙げられる。これらの一時的に水が流れる環境特有の汚れの付着を防止ないし洗浄するために、ポリマーを塗布する技術が知られている。
【0003】
例えば、ポリビニルアルコールを含むA液とホウ砂を含むB液とを接触させることにより、水洗トイレ等の硬表面上で付着固化させ、水によって徐溶化しながら有効成分を徐放させる洗浄方法が知られている(例えば、特許文献1(特開2005−187511号公報)参照)。
【0004】
また、ポリビニルアルコール樹脂を耐水化させるために、ジアセトン基0.05〜50モル%を含有するポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対してヒドラジン類0.1〜20重量部を反応させる方法も知られている(例えば、特許文献2(特開平8−151412号公報)参照)。
【0005】
さらに、硬表面を洗浄液で洗浄した後、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーを表面に塗布する、硬表面の艶出し防汚処理方法も知られている(例えば、特許文献3(特開2002−292329号公報))。
【0006】
一方、導電性ポリマーの分野では、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物に10重量%以上という多量の金属塩を反応させた後、反応生成物に1重量%以上のヨウ素を反応させて高分子導電体を得る方法が知られている(例えば、特許文献4(特公昭58−25682号公報))。
【0007】
【特許文献1】特開2005−187511号公報
【特許文献2】特開平8−151412号公報
【特許文献3】特開2002−292329号公報
【特許文献4】特公昭58−25682号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、今般、溶媒としての水に、ポリビニルアルコールと、Cu2+、Fe3+、Al3+、およびCr3+からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンのある種の金属塩とを所定のモル比で添加してなるコーティング組成物が、一液型でありながら、優れた液安定性を有し、なおかつ常温で徐溶性被膜を形成できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明は、一液型でありながら、優れた液安定性を有し、なおかつ常温で徐溶性被膜を形成することができるコーティング組成物およびそれを用いた被膜の製造方法を提供することを目的としている。
【0010】
すなわち、本発明によるコーティング組成物は、
ポリビニルアルコールと、
Cu2+、Fe3+、Al3+、およびCr3+からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンの、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、および酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である金属塩と、
溶媒としての水と
を含んでなり、前記金属塩が、前記ポリビニルアルコールの単位構造の総モル量に対して、1/700〜1/15のモル比となる量で含有されてなるものである。
【0011】
また、本発明による被膜の製造方法は、
基材上に上記コーティング組成物を塗布し、
該基材上に塗布された前記コーティング組成物を乾燥して被膜を形成させる
工程を含んでなる。
【発明の具体的説明】
【0012】
コーティング組成物
本発明によるコーティング組成物は、ポリビニルアルコールと、金属塩と、溶媒としての水とを含んでなる。金属塩は、Cu2+、Fe3+、Al3+、およびCr3+からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンの、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、および酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である。そして、金属塩が、ポリビニルアルコールの単位構造の総モル量に対して、1/700〜1/15のモル比となる量で含有されてなる。これにより、本発明のコーティング組成物は、一液型でありながら、優れた液安定性を有し、なおかつ常温で徐溶性被膜を形成することができる。
【0013】
本発明において、徐溶性とは、被膜表面に水が接触した際、被膜全体が一度に溶解せず、表面近傍の一部分が徐々に溶解する性質を意味する。徐溶性は、被膜全体が一度に溶解しない点である程度の耐水性を包含すると言える。被膜が徐溶性を有することで、水との接触が期待される部位に適用された場合に、芳香性、抗菌性、抗カビ性、防臭性、消臭性、防汚性、光沢付与性などの付随効果を持たせることができる。例えば、水と接触する毎に被膜表面が少しずつ溶解して付着した汚れと共に流れ去ることで、防汚性を持続的に発揮させることができる。
【0014】
本発明において、徐溶性は、被膜の膜厚保持率を代用特性として用いることにより、以下の通り評価することができる。まず、直立させたスライドガラスにコーティング組成物をフローコートして、25℃にて12時間乾燥させて試験片とする。図1に示されるように、形成した被膜の一部を剥離し、被膜表面とスライドガラス基材表面を探針で連続的に走査して断面形状を測定して膜厚Aを算出する。次いで、同試験片を図2に示される条件で20℃のイオン交換水に10分間浸漬した後に25℃にて30分間以上乾燥させて、膜厚Bを測定する。そして、膜厚保持率(%)を、膜厚Aに対する膜厚Bの割合として算出する。その結果、膜厚保持率が20%以上、好ましくは20〜85%を、本発明において徐溶性があるものと評価することができる。すなわち、膜厚保持率が20%未満の場合、被膜は過度に溶けてしまうため、徐溶性があるとは言えない。
【0015】
本発明のコーティング組成物が徐溶性を発現する機構は定かではないが、以下に説明するような被膜の特異な構造に起因するものではないかと考えられる。なお、以下の説明はあくまで仮説であり、本発明は何らこれに限定されるものではない。すなわち、金属塩を含まないポリビニルアルコール水溶液では、ポリビニルアルコール分子が積み重なった被膜が形成する。このような被膜では、表面に接した水が速やかに基材との界面まで浸透するため、水が流れ去ると被膜も全部流れて消失してしまう。一方、本発明のコーティング組成物を常温乾燥して得た被膜内には、液中の金属種由来のポリビニルアルコール包接金属水酸化物クラスターが形成されており、この金属水酸化物クラスターをバインディングするようにポリビニルアルコールが存在するものと考えられる。この場合に被膜表面に水が接触すると、ポリビニルアルコールが溶解あるいは膨潤して水分が浸透するが、膜中に金属水酸化物クラスターが存在するために、膜厚方向の水の浸透速度が抑制されるのではないかと推察される。したがって、水が流れ去っても被膜表面近傍の水分が浸透した部分の膜のみが流されるため一度に被膜全体が消失することはないのではないかと推察される。そして、水と接するたびにこのような現象が繰り返される結果、被膜が徐々に溶解されるものと考えられる。
【0016】
本発明の好ましい態様によれば、ポリビニルアルコールの好ましい重合度は、被膜に必要な強度を確保しながら施工性に適した低めの粘度を確保する観点から500〜5000であり、より好ましくは、500〜2000である。また、ポリビニルアルコールの好ましいケン化度は水を主成分とする溶媒への溶解性および溶液の安定性の観点から71.0モル%以上であり、好ましくは80.0モル%以上100モル%未満であり、より好ましくは85.0モル%以上100モル%未満である。上記ケン化度の値はメーカーカタログに記載されている範囲の中心値もしくはカタログに下限値のみ記載している場合は下限値である。本発明の好ましい態様によれば、ポリビニルアルコールは、耐水性を改善するための主鎖にメチレン基等の有機基が導入されたものを用いてもよく、この場合、水を主成分とする溶媒への溶解性を鑑みて変性度を10モル%以下とするのが好ましい。
【0017】
本発明に使用可能な金属塩は、Cu2+、Fe3+、Al3+、およびCr3+からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンの、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、および酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である金属塩である。これらの金属塩は、水溶液のpHを大きくすると溶解度積が1×10-16よりも小さい難溶性の水酸化物を析出する性質を有しており、このような金属塩の水溶液をポリビニルアルコールが溶解している水溶液に添加すると水酸化物クラスターを形成して徐溶性の発現に寄与すると考えられる。本発明のより好ましい態様によれば、金属塩は、Cu2+またはFe3+の金属イオンの金属塩であるのが好ましく、より好ましくはこれらの金属イオンの塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、蟻酸塩、および酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0018】
本発明のコーティング組成物において、金属塩は、ポリビニルアルコールの単位構造の総モル量に対して、1/700〜1/15のモル比となる量で含有される。この金属塩含有量の下限値は、好ましくは1/600、より好ましくは1/500、さらに好ましくは1/300であり、この金属塩含有量の上限値は、好ましくは1/25、より好ましくは1/45である。このモル比が1/15よりも大きいと過剰な塩が析出するため被膜形成性が劣り、被膜が水に溶けやすくなり、1/700よりも小さいと水流に対する耐久性が得られにくくなる。したがって、1/15から1/700の範囲で適切な徐溶性を実現できる。また、この範囲内であると、多量の金属塩に起因する着色も抑制できるので美観性を損なうことも無い。
【0019】
本発明に使用可能な溶媒は水を主成分として含んでなる。本発明の好ましい態様によれば、コーティング組成物は、安定性、施工性、および乾燥性を得るために、3〜30重量%の炭素数1〜3の1価のアルコールをさらに含んでなるのが好ましく、より好ましくは5〜25重量%である。炭素数1〜3の1価のアルコールの例としては、エタノール、プロパノールなどが挙げられる。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のコーティング組成物は、組成物の温度が20℃である場合におけるpHが、人体や周辺部材に対して安全性の観点から7以下であるのが好ましく、より好ましくは4〜7である。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のコーティング組成物は、0.1〜10重量%のポリビニルアルコールを含んでなるのが好ましく、より好ましくは0.1〜7重量%である。また、本発明の好ましい態様によれば、本発明のコーティング組成物は、0.0005〜3.00重量%の金属塩を含んでなるのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.00重量%であり、さらに好ましくは0.001〜0.70重量%である。
【0022】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のコーティング組成物は、B型粘度計にて評価した20℃の液剤の粘度が、2mPa・s〜2000mPa・sであるのが好ましい。このような粘度であると、水平ではない各種部分への液剤の付着性および残留性に優れ、所望の膜厚を得ることができるとともに、施工不良が発生しにくい。ポンプ式のハンドスプレーにて噴霧コートする場合は特に粘度の制約が大きく、2mPa・s〜50mPa・sが適している。50mPa・s以上の粘度では噴霧パターンを形成できず、液剤が棒状に吐出するため施工効率が大きく低下してしまう。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のコーティング組成物は、液剤の安定性を損なわず、形成した被膜の徐溶性が得られる範囲であれば、付加価値を高めるために本発明の目的を逸脱しない範囲内で任意成分をさらに含んでなることができる。そのような任意成分の例としては、徐溶性被膜から徐放されて芳香を付与する香料や芳香水剤;微生物の繁殖を抑制する抗菌剤や抗カビ剤;臭い成分と反応して消臭する消臭剤;洗浄性を発揮する界面活性剤;徐溶する被膜内に留まって臭い成分を吸着して無臭化する活性炭、ゼオライト、アパタイトなどの多孔吸着脱臭剤;被膜の機械的強度を改善できるシリカ微粒子、アルミナ微粒子、ジルコニア微粒子のような無機系充填剤;被膜表面の滑性を改善できるポリメチルメタクリレート微粒子、シリコン樹脂微粒子、フッ素樹脂微粒子のような有機樹脂系充填剤;被膜の表面抵抗を低減する酸化スズや金属超微粒子のような帯電防止剤;蛋白質、脂質、糖質等様々な汚れ成分に対して分解作用を有する酵素;被膜に柔軟性を付与するグリセリンやエチレングリコールのような可塑剤;液剤中に存在して、任意成分を分散安定化できる分散剤;塗装作業性を改善できる増粘剤;塗装時の起泡を抑制できる消泡剤;液剤のpHを調整する緩衝剤;液剤の腐敗変質を抑制する防腐剤ならびに;液剤を着色する色素などが挙げられる。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、本発明のコーティング組成物は、常温において、単独で、コーティング膜を形成するために用いられるのが好ましい。すなわち、本発明のコーティング組成物は、常温で被膜を形成可能な一液型のコーティング組成物であるため、加熱操作が不要となるばかりか、A液とB液とを混合させて使用する二液型のコーティング組成物のような施工時の煩わしさが無い。そして、本発明のコーティング組成物は、水に対する徐溶性を発揮できる環境である、水と一時的に接する部位に適用されるのが好ましい。
【0025】
被膜の製造方法
本発明のコーティング組成物を用いた被膜の製造は、基材上にコーティング組成物を塗布し、この基材上に塗布されたコーティング組成物を乾燥して被膜を形成させることにより行うことができる。そして、乾燥は常温で、加熱することなく行うことができる。
【0026】
本発明の好ましい態様によれば、使用する基材および塗布される部位としては、硬質表面を有する基材の、水と一時的に接する部位とするのが好ましい。好ましい例としては、自動車、自転車、および自動二輪車の塗装面;タイヤホイールのような金属表面;窓ガラスの表面;屋外のタイル建材表面や塗装表面;屋内の水まわり物品の表面などが挙げられ、より好ましくは屋内の水まわり物品;自動車車体の塗装面;窓ガラスの水と一時的に接する部位である。水まわり物品の水と一時的に接する部位の例としては、トイレ、浴室、台所、洗面所どの空間を構成する物品の、未使用状態では乾燥しているが、使用するときに水が流れる、あるいは水を流すことができる部分が挙げられ、具体的には、便器や手洗いボウルの水が流れる表面、浴室の温水が流れる洗い場の壁や床や扉、調理や食器洗い時に水が流れる台所のシンクの表面、洗顔や歯磨きをするときに水が流れる洗面所のボウル部表面などが挙げられる。自動車車体の塗装面の水と一時的に接する部位とは、普段は乾いているが、雨や雪が降ったときに水分と接する車体の塗装面のことを指す。窓ガラスの水と一時的に接する部位の例としては、屋内側においては冬場の室内外の温度差が原因で結露水が発生する窓ガラス表面や、屋外側においては普段は乾いているが、雨や雪が降ったときに水分と接する窓ガラス表面が挙げられる。
【0027】
コーティング組成物の塗布は、あらゆる公知の方法によって行うことができ、例えば、スプレーコート、フローコート、ウールローラー、およびスポンジのような公知の補助具を用いて塗り広げる手法、あるいはコーティング組成物を含浸させた不織布で基材を擦る手法などが好ましく利用可能である。被膜形成のためにコーティング組成物を塗布する前に、水まわり物品の対象表面等の基材表面を洗浄しておくのが好ましい。対象表面は乾燥していても、水で濡れていても問題なく施工可能である。
【0028】
塗布されたコーティング組成物を乾燥することにより、徐溶性被膜が形成される。その際、被膜形成のための加熱工程は必要とされない。したがって、例えば塗布されたコーティング組成部を常温で30分程度乾燥する養生条件に付するだけという極めて簡便な手法で、徐溶性被膜を形成可能である。
【0029】
こうして本発明の方法により得られる被膜の膜厚は、限定されるものではない。これは、本発明のコーティング組成物は重ね塗りが可能で、形成した被膜は水流に接して表面から徐々に溶解するため、所望の効果持続期間に応じて、適宜膜厚を設定するのが望ましいからである。例えば、徐溶性による防汚効果持続期間を1週間に設定したい場合は、100nm〜20μm以下の膜厚が好ましい。なお、形成した被膜の膜厚は、東京精密株式会社製「表面粗さ計surfcom130A」を用い、断面観察モードにて評価することができる。
【0030】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法により得られる被膜表面は高い光沢性を有する。初期の光沢値が90以上の高光沢表面が、経年劣化して50程度まで光沢を失っていても、本発明のコーティング組成物を塗布して形成した被膜表面は初期同等の光沢値まで回復することが可能である。さらに徐溶性の被膜であるため持続的に回復した高光沢表面を維持することができる。
【0031】
本発明のコーティング組成物により形成された徐溶性被膜によれば、徐溶性機能に伴わせて、芳香性、抗菌性、抗カビ性、防臭性、消臭性、防汚性、光沢付与性などの付随機能を発現させることができる。したがって、本発明の徐溶性被膜は、トイレ、浴室、台所、洗面所、冬場の窓部などの水と一時的に接する部位において付着汚れの防止する用途において好ましく用いることができる。各付随機能に応じた好ましい用途の具体例としては、以下のものが挙げられる。
防汚性:例えばトイレの洗浄水が流れることで被膜表層部が溶解して付着していた汚れが剥離して表面が更新されるため、トイレ洗浄のたびに清浄な表面が得られる。同様の作用を利用して、屋内の水まわり物品としては、小便器、大便器のボウル面、洗面化粧台の洗面器のボウル面、キッチンのシンク、浴室内各部に適用できる。また、自動車車体の塗装面、屋内外に面した窓ガラス表面にも使用できる。大便、水垢、ウォーターマーク、皮脂汚れ、石鹸かす、油汚れなどの汚れ防止に効果を発揮する。
抗菌・抗カビ性/防臭性:上記の徐溶効果によって、水がかかるたびに清浄な表面が形成されるため、微生物の付着を抑制できる。また金属塩として抗微生物性を有する銅塩を用いたり、任意成分として抗菌・抗カビ剤を添加することにより、被膜表層部が溶解するたびに抗菌・抗カビ剤が徐放されるため、水と接する部位に発生しやすい菌・カビの微生物の繁殖を抑制することができる。また微生物繁殖が原因で発生する腐敗臭を防臭することもできる。このような用途としては、小便器、大便器のボウル面、洗面化粧台の洗面器のボウル面、キッチンのシンク、浴室内各部などに適用できる。
芳香性:任意成分として香料を添加すると、上記の徐溶効果によって、香料が徐放されるため、空間に芳香を付与することができる。適用できる用途としては、悪臭が気になる大便器や小便器、浴室やキッチンの排水口周辺部などが挙げられる。
消臭性:任意成分として消臭剤を添加すると、上記の徐溶効果によって、水がかかるたびに消臭剤が徐放されるため、水がかかるたびに悪臭を消臭することができる。適用できる用途としては、悪臭が気になる大便器や小便器、浴室やキッチンの排水口周辺部などが挙げられる。
光沢付与性:コーティング組成物は塗り重ねても良好な外観を維持するため、表面が劣化して新品時の光沢を失った表面にコートして平滑化し、光沢を回復することができる。水流と接しても被膜が瞬時に流れ去ることはなく、徐々に表層部から溶解するため、形成した膜厚と水流の程度に応じた期間、光沢を保持することができる。このような用途としては、長期使用で光沢低下が生じる衛生陶器の釉薬面が挙げられる。具体的には、大便器、小便器のボウル面や洗面化粧台の洗面ボウル面などである。また、長期使用で筋状の洗浄痕が発生する自動車車体の塗装面などにも利用できる。
【実施例】
【0032】
本発明を以下の例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0033】
例1〜38
(1)コーティング組成物の調製
コーティング組成物の原料として、以下のものを用意した。
被膜形成剤
・ポリビニルアルコール(PVA)(JC-33,VC-10,JF-10,JM-17,およびJP-10、いずれも日本酢ビポバール株式会社製;ならびにHR3010,RS3110,およびRS4104、いずれも株式会社クラレ製)
・ポリビニルピロリドン(K-90、第一工業製薬株式会社製、比較例に使用)
・キサンタンガム(ケルザンT、三晶株式会社製、比較例に使用)
金属塩
・酢酸銅(II)(和光純薬工業株式会社製)
・ギ酸銅(II)(和光純薬工業株式会社製)
・硫酸銅(II)(和光純薬工業株式会社製)
・塩化銅(II)・2水和物(和光純薬工業株式会社製)
・塩化鉄(III)・9水和物(和光純薬工業株式会社製)
・硝酸アルミニウム(III)・9水和物(和光純薬工業株式会社製)
・グルコン酸銅(II)(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム銅(II)(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・銅(II)クロロフィリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・ホウ砂(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・硝酸マグネシウム(II)・6水和物(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・硝酸ニッケル(II)・4水和物(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・酢酸亜鉛(II)・2水和物(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・硝酸コバルト(II)・6水和物(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・酢酸銀(I)(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
・オキシ硝酸ジルコニウム・2水和物(和光純薬工業株式会社製、比較例に使用)
溶剤
・エタノール(和光純薬工業株式会社製)
・2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製)
界面活性剤
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(三洋化成工業株式会社製)
消泡剤
・鉱油、ポリエーテルを含む水系分散剤(サンノプコ株式会社製)
【0034】
上記構成原料を表1〜4に記載される組成で配合して、コーティング液を調製した。こうして得られたコーティング液のpHを測定したところ、例1〜11、13〜16、および19〜22にあってはpH4.5〜7.0の範囲内であった。また、例12、17、および18にあってはpH2.0〜4.5の範囲内であった。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
(2)被膜の作製
上記のようにして得られた例1〜38の各種コーティング液を直立させたスライドガラスにフローコートして、25℃で12時間乾燥させて、被膜が形成された試験片を得た。
【0040】
(3)評価
上記のようにして得られた各種コーティング液および試験片についての評価を以下の通り行った。得られた評価結果は表5〜8に示される。
【0041】
評価1:徐溶性の評価
1重量%を超える高濃度のポリビニルアルコールを含有する例1〜19および23〜38のコーティング液を用いて作製した試験片の徐溶性を、被膜の膜厚保持率を代用特性として測定することにより評価した。具体的には、図1に示されるように、形成した被膜の一部を剥離し、被膜表面とスライドガラス基材表面とを探針で連続的に走査して断面形状を測定して膜厚Aを算出した。次いで、同試験片を図2に示される条件で20℃のイオン交換水に10分間浸漬した後に、膜厚Bを測定した。そして、膜厚保持率(%)を、膜厚Aに対する膜厚Bの割合として算出した。膜厚保持率20%以上を「G」(良好)と、膜厚保持率20%未満を「NG」(良好ではない)と評価した。
【0042】
表5および6に示される通り、例1〜19のコーティング液を用いて作製した被膜の膜厚保持率はすべて20%以上であり、良好な徐溶性を発揮した。一方、比較例態様である、例23〜38のコーティング液で作製した被膜は、溶解試験後にその大部分が溶解した。
【0043】
評価2:徐溶性の評価
0.1重量%以上、1.0重量%以下の低濃度のポリビニルアルコールを含有する例20〜22のコーティング液を用いて作製した試験片の徐溶性を次のようにして評価した。具体的には、試験片を図2に示される条件で20℃のイオン交換水に10分間浸漬した後で、かつ水分が乾燥する前に、指先で浸漬した被膜面を摺動することにより行った。そして、ブランク(未コートガラス面)と比較して指先の抵抗が小さい場合を「G」(良好)と、ブランクと同等の場合を「NG」(良好ではない)と評価した。
【0044】
その結果、表6に示される通り、例20〜22の全てのサンプルについて、良好な徐溶性が確認された。
【0045】
評価3:防曇性の評価
0.1〜1.0重量%以下の低濃度のポリビニルアルコールを含有する例20〜22のコーティング液で作製した試験片の防曇性を次のようにして評価した。すなわち、試験片を図2に示される条件で20℃のイオン交換水に10分間浸漬し水分が乾燥した後に、浸漬した被膜面に吐息を吹きかけることにより行った。そして、浸漬面の吐息による曇りが30%未満の場合を「G」(良好)と、曇りが70%以上である場合を「NG」(良好ではない)と評価した。
【0046】
その結果、表6に示される通り、例20〜22の全ての試験片について、良好な防曇性が確認された。
【0047】
評価4:液安定性評価
例1、5〜7、9〜12、17、18、21、22、25、32、33、35、36、および38のコーティング液を用意した。これらのコーティング液を、(1)常温で3ヶ月間放置した後、(2)70℃で1ヶ月間放置した。続いて、(3)5℃で1ヶ月間放置した後、(4)−15℃と50℃との各温度条件下に1日につき2サイクルの頻度で2週間交互に放置した。こうして保管した後の各コーティング液の経時変化を評価した。
コーティング液の外観および粘度に顕著な変化が認められない場合を「G」(良好)と、外観あるいは粘度に顕著な変化が認められた場合を「NG」(良好ではない)と評価した。
【0048】
その結果、表5〜8に示される通り、例1、5〜7、9〜12、17、18、21、および22のコーティング液は外観および粘度の顕著な変化は認められず優れた保管安定性を有していた。一方、比較例態様に関しては、例25のコーティング液は調合後速やかにゲル化し、例32および33のコーティング液は(4)の条件で保管後にゲル化、例35のコーティング液は(1)および(2)の条件で保管した後に赤褐色に変色し、例36のコーティング液は(1)および(2)の条件で保管した後に明らかな粘度上昇を示し、例38のコーティング液は青色の凝集物を生成した。
【0049】
評価5:大便付着防止効果
洋式便器の溜水面上部の陶器面に大便が頻繁に付着して、洗浄水を流しても大便の洗浄残りが発生するため、3日間に1回以上の頻度でブラシを用いて便器を擦り洗いしている家庭を対象として、大便の洗浄残りに対するコーティング液の効果を把握するモニター試験を実施した。対象の家庭の家族構成は4人家族とし、設置されている便器は溜水面が狭い洗い落とし式便器とした。このモニター試験では、例2、7、25、および28のコーティング液を用いた。モニター人数は各液剤に対して3家庭ずつとし、予めブラシ清掃した便器内の陶器面に満遍なくコーティング液をスプレー噴霧し、60分間乾燥した後にトイレの使用を開始し、便の付着が原因で掃除するまでの日数を評価した。経過日数4日以上で掃除をした場合を「G」(良好)と、経過日数3日以内で掃除をした場合を「NG」(良好ではない)と評価した。
【0050】
その結果、表5に示される通り、例2および7のコーティング液を使用した家庭では、モニターを開始してブラシ掃除するまでに4日間以上が経過しており、コーティング液を塗布することで持続的な防汚性が発現した。一方、表7に示される通り、比較例態様である、溶解が顕著な例25および28のコーティング液を使用した家庭では、液剤を使用しても掃除の頻度は軽減されず防汚効果は得られなかった。
【0051】
評価6:黒かび防止効果
例5および28のコーティング液を、表面にガラス質の釉薬層を有する施釉タイル面にスポンジで塗り広げ、25℃で12時間乾燥させて試験片を作製した。試験片を図2に示される条件で20℃のイオン交換水に10分間浸漬することにより溶解試験を行い、溶解試験前後の防カビ性能を評価した。試験には実際の浴室から単離したCladosporium sp.を供試した。試験片上に、グルコース0.8%、ペプトン0.2%含有する栄養液500μlとCladosporium sp.の胞子5×10を接種して、気温27℃湿度90%以上で1週間培養した。目視で菌糸の発育が確認できないものを「防カビレベル3」と、目視で菌糸の発育を確認できるが液剤をコートしていないタイル面に比べて発育量が少ないものを「防カビレベル2」と、液剤をコートしていないタイル面と同程度の菌糸の発育が認められたものを「防カビレベル1」として評価した。溶解試験後の防カビレベルがレベル3もしくはレベル2であるものを「G」(良好)と、レベル1のものを「NG」(良好ではない)と評価した。
【0052】
その結果、表5に示される通り、例5の試験片では、溶解試験を実施する前後で被膜表面の防カビレベルは共にレベル2以上で良好な黒かび防止効果が得られた。一方、表7に示される通り、比較例態様である例28の試験片は、被膜中の銅量が多いため初期の防カビレベルは高いが、溶解が顕著であるため溶解試験後には被膜は残留しておらず、ブランク同等に菌糸が発育し、良好な黒かび防止効果が得られなかった。
【0053】
評価7:抗菌効果
例2、7、28、33、および35の試験片を図2に示される条件で20℃のイオン交換水に10分間浸漬することにより溶解試験を行った後に、JIS Z 2801に準拠して大腸菌(ISO3972)を用いて抗菌性能を評価した。
抗菌活性値R=Log10(Cs/Cb)
(式中、Csは24時間培養後の液剤コート面の大腸菌数であり、Cbは24時間培養後の未コートガラス面の大腸菌数である。)
【0054】
そして、下式で算出される溶解試験後の試験片被膜面の抗菌活性値Rが2以上であるものを「G」(良好)と、2未満であるものを「NG」(良好ではない)と評価した。
【0055】
その結果、表5および6に示される通り、例2および7の試験片では、溶解試験の前後で被膜表面の抗菌性に大きな変化はなく、良好な抗菌性が認められた。一方、表7および8に示される通り、比較例態様である例28、33、および35の試験片は、被膜中の銅量、亜鉛量あるいは銀量が多いため初期に高い抗菌性を示すが、溶解が顕著であるため溶解試験後には被膜は残留しておらず、抗菌性が顕著に低下した。
【0056】
評価8:水垢付着抑制効果
JIS Z 8741に準拠して測定した60°光沢値が92のタイルを基材として、未コートのタイル表面と、例2および7のコーティング液をフローコートして25℃で60分間乾燥して得た被膜表面とに、水垢付着を促進させるために、硬度297.5のミネラルウォーター(エビアン(登録商標)を噴霧した。5回噴霧して25℃で60分間乾燥を1サイクルとする工程を10サイクル繰り返して、噴霧前と10サイクル後の表面の60°光沢をJIS Z 8741に従い測定した。光沢値85以上を維持しているものを「G」(良好)、光沢値が85未満に低下したものを「NG」(良好ではない)と評価した。
【0057】
その結果、表5に示される通り、例2および7のコーティング液を塗布した表面は共に60°光沢値が85以上を維持しており、表面は清浄であり、良好な水垢付着抑制効果が認められた。未コートの表面には白色のスポット状の汚れが付着し、60°光沢値は85未満となった。
【0058】
評価9:防汚性評価(結露環境下でのウォーターマーク防止)
表面に電着アクリル被覆を施したアルミニウム板(株式会社パルテック製)の表面に、例7のコーティング液を、スポンジで塗り広げ、25℃にて12時間乾燥させた。こうして得られた試験片と、未コートのアルミニウム板を用いて、結露形成試験を実施した。具体的には、まず、気温20℃相対湿度70%に設定した室内に水温5℃の水を充填した水槽を設置した。水槽の外側側面に試験片を密着させて120分間放置した後に60分間乾燥させる工程を1サイクルとして、3サイクル繰り返した。擬似汚物として実際の窓枠表面に付着した汚れをふき取ったガーゼを試験片上部の水槽側面に設置した。経時的な試験片表面の変化を観察し、3サイクル完了後に試験片上に目視で汚れが認められないものを「G」(良好)と、目視でスポット状に汚物が残留したものを「NG」(良好でない)と評価した。
【0059】
その結果、表5に示される通り、例7のコーティング液をコートした表面は、結露発生に伴い水膜を形成するため、試験終了後に目立った汚れの付着は認められず清浄な表面を維持した。未コートの表面には汚物がスポット状に付着した。
【0060】
【表5】

【0061】
【表6】

【0062】
【表7】

【0063】
【表8】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】形成した被膜の膜厚評価方法を模式的に説明する図である。
【図2】表面に被膜を形成した試験片の溶解処理方法を模式的に説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコールと、
Cu2+、Fe3+、Al3+、およびCr3+からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンの、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、および酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である金属塩と、
溶媒としての水と
を含んでなり、前記金属塩が、前記ポリビニルアルコールの単位構造の総モル量に対して、1/700〜1/15のモル比となる量で含有されてなる、コーティング組成物。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールが、500〜5000の重合度を有する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記ポリビニルアルコールが、80.0モル%以上100モル%未満のケン化度を有する、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記金属塩が、Cu2+またはFe3+の金属イオンの金属塩である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記金属塩が、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、蟻酸塩、および酢酸塩からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
3〜30重量%の炭素数1〜3の1価のアルコールをさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
0.1〜10重量%の前記ポリビニルアルコールと、0.0005〜3.00重量%の前記金属塩とを含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
組成物の温度が20℃である場合におけるpHが4〜7である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
常温において、単独で、コーティング膜を形成するために用いられる、請求項1〜8のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
水と一時的に接する部位にコーティング膜を形成するために用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のコーティング組成物を用いた被膜の製造方法であって、
基材上に前記コーティング組成物を塗布し、
該基材上に塗布された前記コーティング組成物を乾燥して被膜を形成させる
工程を含んでなる、方法。
【請求項12】
前記乾燥は常温で、加熱することなく行われる、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−327006(P2007−327006A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−161361(P2006−161361)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【特許番号】特許第3859170号(P3859170)
【特許公報発行日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】