説明

コーティング組成物および表面層

【課題】水接触角が約90°より大きく、ヘキサンデカン接触角が約45°より大きい表面層を作成することができるコーティング組成物の提供。
【解決手段】溶媒中、官能化ポリフルオロポリエーテルと官能化ポリブタジエンとを、官能化ポリフルオロポリエーテル/官能化ポリブタジエンの重量比が約20/80〜約80/20になるように含むコーティング混合物を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、デジタル、多重画像型などを含む電子写真式画像形成装置で有用な新規表面層に関する。それに加え、表面コーティングは、インクジェット印刷ヘッドおよび転写ドラムにおける用途を有する。
【背景技術】
【0002】
電子写真式印刷およびインクジェット印刷では、特定の構成要素は、均一で、表面エネルギーが低く、丈夫な表面を必要とする。このような性質を有する表面層は有用である。
【0003】
疎水性および撥油性の層は、トナーの転写および洗浄効率にとって望ましい。フッ素化ポリマー層は、典型的には、必要な疎水性の特性を有しているが、撥油性の特性は、特定の電子写真式印刷およびインクジェット印刷の構成要素には適していない。疎水性でもあり、撥油性でもある表面層は、依然として望まれている。
【発明の概要】
【0004】
1実施形態によれば、溶媒中、官能化ポリフルオロポリエーテルと官能化ポリブタジエンとを、官能化ポリフルオロポリエーテル/官能化ポリブタジエンの重量比が約20/80〜約80/20になるように含む組成物が記載される。
【0005】
別の実施形態によれば、官能化ポリフルオロポリエーテル/官能化ポリブタジエンの重量比が約20/80〜約80/20である、官能化ポリフルオロポリエーテルと官能化ポリブタジエンとの架橋したネットワークを含む表面層が記載されている。表面層は、水接触角が約90°より大きく、ヘキサンデカン接触角が約45°より大きい。
【0006】
別の実施形態によれば、表面層を製造する方法が提供される。この方法は、(a)官能化ポリフルオロポリエーテル、官能化ポリブタジエン、溶媒、触媒を加え、反応させ、溶媒中、重量比が約20/80〜約80/20である官能化ポリフルオロポリエーテルと官能化ポリブタジエンのコーティング組成物を提供することを含む。このコーティング組成物が、基板にコーティングされる。このコーティング組成物を硬化させ、表面層を作成する。
【0007】
本明細書では、表面層として有用な、疎水性であり、撥油性でもある新規コーティング組成物が記載されている。コーティング組成物は、溶媒中、約20/80〜約80/20、約25/75〜約60/40、または約30/70〜約45/55の重量比の官能化ポリフルオロポリエーテル(PFPE)/官能化ポリブタジエンコンポジットを含む。
【0008】
1実施形態では、官能化PFPEを官能化ポリブタジエンと反応させる。この反応は、触媒を用いることによって促進させることができる。溶媒中、官能化PFPEと官能化ポリブタジエンとの触媒による反応は、約100〜約250℃、約120〜約200℃、または約140〜約175℃で、約10〜約120分間、約20〜約90分間、または約30〜約60分間行われる。
【0009】
上述のコーティング組成物から得られる表面層は、官能化ポリフルオロポリエーテル/官能化ポリブタジエンの重量比が、約20/80〜約80/20、約25/75〜約60/40、または約30/70〜約45/55である、官能化ポリフルオロポリエーテルおよび官能化ポリブタジエンの架橋したネットワークである。表面層は、水接触角が約90°より大きく、100°より大きく、または110°より大きく、ヘキサンデカン接触角が約45°より大きく、約55°より大きく、または約65°より大きい。
【0010】
官能化ポリフルオロポリエーテル(PFPE)は、以下の式
【化1】


によってあらわされ、nおよびmが、それぞれ、繰り返し基の数をあらわし、nが、約3〜約120、または約10〜約60であり、mが、約5〜約120、または約10〜約60であり、n+mが、約40〜約180、または約80〜約125であり、n/mが、約0.5〜約2であり、RおよびRが、独立して、それぞれA−CFO−および−CF−Aであらわされ、A、Aは、独立して、
【化2】


のうち1つであり、Aが、結合であるか、または炭素原子が約1〜10個のアルキレン基であり、Rが、H、または炭素原子が約1〜10個のアルキル基であり、pが、1〜約20である。
【0011】
コーティング組成物で使用可能な官能化PFPEとしては、末端がヒドロキシルのPFPE、末端がカルボン酸またはエステルのPFPE、末端がシランのPFPE、または末端がリン酸のPFPEが挙げられ、これらの重量平均分子量は、約100〜約5,000、または約500〜約2,000であり、コーティング組成物の約20〜約80重量%、約25〜約60重量%、または約30〜約45重量%の量で存在する。
【0012】
コーティング組成物で使用可能な、末端がヒドロキシルのPFPEの例としては、FLUOROLINK(登録商標)D(M=1,000、官能基−CHOHおよびフッ素含有量約62%)、FLUOROLINK(登録商標)D10−H(M=700、官能基−CHOHおよびフッ素含有量約61%)、FLUOROLINK(登録商標)D10(M=500、官能基−CHOHおよびフッ素含有量約60%)、FLUOROLINK(登録商標)E(M=1,000、官能基−CH(OCHCHOHおよびフッ素含有量約58%)、FLUOROLINK(登録商標)E10(M=500、官能基−CH(OCHCHOHおよびフッ素含有量約56%)、FLUOROLINK(登録商標)T(M=550、官能基−CHOCHCH(OH)CHOHおよびフッ素含有量約58%)、FLUOROLINK(登録商標)T10(M=330、官能基−CHOCHCH(OH)CHOHおよびフッ素含有量約55%)など、およびこれらの混合物が挙げられ、すべてAusimont USAから市販されている。
【0013】
コーティング組成物で使用可能な、末端がカルボン酸またはエステルのPFPEとしては、FLUOROLINK(登録商標)C(M=1,000、官能基−COOHおよびフッ素含有量約61%)、FLUOROLINK(登録商標)L(M=1,000、官能基−COORおよびフッ素含有量約60%)、FLUOROLINK(登録商標)L10(M=500、官能基−COORおよびフッ素含有量約58%)など、およびこれらの混合物が挙げられ、すべてAusimont USAから市販されている。
【0014】
コーティング組成物で使用可能な、末端がシランのPFPEとしては、FLUOROLINK(登録商標)S10(M=1,750〜1,950、官能基−A−Si(OCHCH)など、およびこれらの混合物が挙げられ、すべてAusimont USAから市販されている。
【0015】
コーティング組成物で使用可能な、末端がリン酸のPFPEの例としては、FLUOROLINK(登録商標)F10(M=2,400〜3,100、官能基−A−OP(O)(OH))など、およびこれらの混合物が挙げられ、すべてAusimont USAから市販されている。
【0016】
コーティング組成物で使用可能な官能化ポリブタジエン(PBD)としては、イソシアネートPBD、ヒドロキシルPBD、カルボン酸またはエステルのPBD、またはエポキシPBDが挙げられ、これらの重量平均分子量は、約200〜約10,000、または約500〜約5,000であり、コーティング組成物の約80〜約20重量%、約75〜約40重量%、または約70〜約55重量%の量で存在する。
【0017】
官能化ポリブタジエン(PBD)のPBD骨格は、ポリ(1,3−ブタジエン)、ポリ(1,4−ブタジエン)、水素化ポリ(1,3−ブタジエン)、水素化ポリ(1,4−ブタジエン)、およびこれらの混合物であってもよい。
【0018】
コーティング組成物で使用可能なイソシアネートPBDの例としては、KRASOL(登録商標)NN−35、NN−25、NN−22、NN−32、NN−23、NN−3A、LBD2000が挙げられ、すべてSartomer Company(Warrington、PA)から市販されている。
【0019】
コーティング組成物で使用可能なヒドロキシルPBDの例としては、KRASOL(登録商標)HLBH−P2000(ヒドロキシル水素化PBD)、HLBH−P3000(ヒドロキシル水素化PBD)、LBH−P2000、LBH−P3000、LBH−P5000、LBH 2000、LBH 3000、LBH 5000、LBH 10000、LBH 2040(メルカプトエタノールPBD)、POLY BD(登録商標)R45HT、R45M、R45HTLO、LFM、R20LM、R30LMが挙げられ、すべてSartomer Company(Warrington、PA)から市販されている。
【0020】
コーティング組成物で使用可能なカルボキシルまたはエステルのPBDの例としては、POLY BD(登録商標)45CT、2000CT、3000CT、KRASOL(登録商標)LBM−32 (マレイン酸およびフマル酸のハーフエステルPBD)、LBM−22(マレイン酸およびフマル酸のハーフエステルPBD)が挙げられ、すべてSartomer Company(Warrington、PA)から市販されている。
【0021】
コーティング組成物で使用可能なエポキシPBDの例としては、POLY BD(登録商標)700、700Eが挙げられ、これら両者ともSartomer Company(Warrington、PA)から市販されている。
【0022】
官能化PFPEは、官能化PBDと化学反応して、架橋したPFPE/PBDコンポジットを生成することができる。例えば、末端がヒドロキシルのPFPEは、イソシアネートPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にウレタン結合を生成するか、または、末端がヒドロキシルのPFPEは、カルボキシルまたはエステルのPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にエステル結合を生成するか、または、末端がヒドロキシルのPFPEは、エポキシPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にエーテル結合を生成するか、または、末端がカルボキシルまたはエステルのPFPEは、イソシアネートPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にカルバメート結合を生成するか、または、末端がカルボキシルまたはエステルのPFPEは、ヒドロキシルPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にエステル結合を生成するかまたは、末端がカルボキシルまたはエステルのPFPEは、エポキシPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にエステル結合を生成するか、または、末端がシランのPFPEは、ヒドロキシルPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にシラン結合を生成するか、または、末端がリン酸のPFPEは、イソシアネートPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にホスフェート結合を生成するか、または、末端がリン酸のPFPEは、ヒドロキシルPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にホスフェート結合を生成するか、または、末端がリン酸のPFPEは、エポキシPBDと反応して、PFPEとPBDとの間にホスフェート結合を生成する。中でも、末端がヒドロキシルのPFPE/イソシアネートPBD、末端がカルボン酸またはエステルのPFPE/ヒドロキシルPBD、または末端がカルボン酸またはリン酸のPFPE/イソシアネートPBDといった組み合わせが好ましい。
【0023】
組成物に適した触媒としては、有機スズ触媒(例えば、ジブチルスズラウレート)、酸触媒(例えば、p−トルエンスルホン酸)または塩基触媒(例えば、トリエチルアミン)が挙げられ、コーティング組成物の約0.01〜約5重量%、または約0.1〜約1重量%の量で存在する。
【0024】
上述の官能化PFPEおよびPBDのほとんどは液体形態であるが、混合しやすいように、特定の溶媒をコーティング混合物に加えてもよい。コーティング混合物に適した溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、N,N’−ジメチルアセトアミド、塩化メチレン、およびこれらの混合物が挙げられ、コーティング組成物の約10〜約90重量%、または約30〜約60重量%の量で存在する。基板にコーティングした後、乾燥させる場合、溶媒を蒸発させ、官能化PFPE/官能化PBDが架橋し、架橋したPFPE/PBDコーティング組成物が生成する。
【0025】
理論的には、フルオロセグメント(PFPE)および炭化水素セグメント(ポリブタジエン)を、末端で化学的に結合させるため、マクロな相分離は防がれる。しかし、コーティングコンポジット内でミクロな相分離は起こっており、疎水性であり、撥油性でもあるコーティングが得られる。本明細書で使用される場合、用語「疎水性の(hydrophobic)/疎水性(hydrophobicity)」は、例えば、水接触角が約90°以上である表面の濡れ挙動を指し、用語「撥油性の(oleophobic)/撥油性(oleophobicity)」は、例えば、ヘキサデカン接触角が約45°以上である表面の濡れ挙動を指す。
【0026】
コーティング混合物またはコーティング溶液を、金属(例えば、ステンレス鋼、銅、ニッケルまたはアルミニウム)、プラスチック(例えば、ポリエステルまたはポリイミド)、ゴム(例えば、シリコーン)またはガラスのような種々の基板にコーティングしてもよい。
【0027】
コーティング混合物またはコーティング溶液を、任意の適切な既知の様式でコーティングする。このような材料を基板層にコーティングする典型的な技術としては、フローコーティング、液体噴霧コーティング、浸漬コーティング、ワイヤ巻き付けロッドによるコーティング、流動床コーティング、粉末コーティング、静電噴霧、音波噴霧、ブレードコーティング、成形、積層などが挙げられる。
【0028】
例えば、コーティング混合物またはコーティング溶液は、約34.5重量%のイソシアネートポリブタジエン、約15重量%の末端がヒドロキシルのポリフルオロポリエーテル、約0.5重量%のジブチルスズラウレート、約50重量%のテトラヒドロフランを約5分〜約30分間混合することによって調製することができる。得られたコーティング混合物またはコーティング溶液を75ミクロンポリイミド膜でドローバーコーティングし、次いで、約120〜約200°の温度で約10〜約60分間乾燥させた。ポリブタジエン/ポリフルオロポリエーテル/ジブチルスズラウレート=60/30/1のコーティング組成物を、約1〜約400μmの厚みで、ポリイミド基板の上部に作成する。
【実施例】
【0029】
実験的に、テトラヒドロフラン(THF)中、末端がヒドロキシルのPFPE(FLUOROLINK(登録商標)D、Ausimont USA)をイソシアネートポリブタジエン(KRASOL(登録商標)NN−35、Sartomer)と重量比30/70になるように混合する。ヒドロキシルPFPEとイソシアネートポリブタジエン(PBD)との架橋反応を促進するために、少量のスズ触媒ジブチルスズラウレートを加えた。
【0030】
コーティング溶液をドローバーコーターによってポリイミド基板にコーティングし、次いで、150℃で30分間硬化させ、厚みが10μmのコンポジットコーティングを得た。このコーティングは、1Hの鉛筆硬度を有しており、かつ柔軟性であり、その架橋性に起因した良好な機械特性を示す。
【0031】
このコンポジットコーティングについて、さらに接触角を試験し、結果を表1に示す。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のデータも比較のために含まれていた。
【表1】

【0032】
PTFEと比較し、開示されているPFPE/PBDコンポジットは、匹敵する水接触角を示し、このことは、開示されているPFPE/PBDコンポジットが、PTFEと同程度に疎水性であることを示している。最も重要なことに、開示されているPFPWE/PBDコンポジットは、約25°よりも大きなヘキサデカン接触角を示し、このことは、開示されているPFPE/PBDコンポジットが、PTFEよりも撥油性が高いことを示している。したがって、本開示は、疎水性であり、撥油性でもある新規コンポジット層を提供し、この層は、デジタル、多重画像型などを含む電子写真式画像形成装置、およびインクジェット印刷ヘッドおよび転写ドラムでの用途に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中、官能化ポリフルオロポリエーテルと官能化ポリブタジエンとを、官能化ポリフルオロポリエーテル/官能化ポリブタジエンの重量比が約20/80〜約80/20になるように含むコーティング混合物を含む、組成物。
【請求項2】
官能化ポリフルオロポリエーテル/官能化ポリブタジエンの重量比が約20/80〜約80/20である、官能化ポリフルオロポリエーテルと官能化ポリブタジエンとの架橋したネットワークを含む表面層を含み、前記表面層が、約90°より大きい水接触角と、約45°より大きいヘキサンデカン接触角とを含む、組成物。
【請求項3】
前記官能化ポリフルオロポリエーテルが
【化1】


によってあらわされ、nおよびmが、それぞれ、繰り返し基の数をあらわし、nが、約3〜約120であり、mが、約5〜約120であり、n+mが、約40〜約180であり、n/mが、約0.5〜約2であり、RおよびRが、独立して、それぞれA−CFO−および−CF−Aであらわされ、A、Aは、独立して、
【化2】


のうち1つであり、Aが、結合であるか、または炭素原子が約1〜10個のアルキレン基であり、Rが、H、または炭素原子が約1〜10個のアルキル基であり、pが、1〜約20である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記官能化ポリブタジエンが、イソシアネートポリブタジエン、ヒドロキシルポリブタジエン、カルボン酸ポリブタジエン、エステルポリブタジエン、またはエポキシポリブタジエンを含み、前記ポリブタジエンが、ポリ(1,3−ブタジエン)、ポリ(1,4−ブタジエン)、水素化ポリ(1,3−ブタジエン)、水素化ポリ(1,4−ブタジエン)、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−41532(P2012−41532A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167692(P2011−167692)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】